ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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ドーモです。
比較的短いシナリオなら、負担も軽く余裕をもって投稿できそうです。
ではドゾ。( ゚ ω ゚ )


第156話―ロスリック・深みの聖堂、不死街再び―

 

 

 

 

 

 

回復の施し(奇跡)

 

信仰の低い者に与えられる施しの奇跡。

白教の寛容さの証。

 

HPを僅かに回復する。

 

奇跡を使用するには、タリスマンか聖鈴の何れかを装備し篝火で奇跡を記憶しておく必要がある。

即時回復型の奇跡としては隙が小さく、必要信仰も低い。

近年では、回復手段の一環として会得する者も現れ始めていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM DMC ―― ネロアンジェロ)

 

 ロスリックの城壁から一気に跳び下り、自由落下に任せた特大剣が襲い来る。

真下に居た灰の剣士は、難なく身を翻し瞬時に飛び退いた。

彼の居た地点は、深い亀裂で抉れ石材の破片が四散する。

 

「――うあぁ…何て威力だ…」

 

 予め退がっていた吟遊連弩使いは、特大剣の威力に慄きの声を上げている。

もし回避に失敗しようものなら、盾受けごと肉塊へと変じていただろう威力だ。

 

「――貴方は手を出すな!アレは私がヤる…!」

 

 跳び下り攻撃を回避した灰の剣士は、後方の吟遊連弩使いに待機を命じ一歩前へと踏み出す。

 

「ああ分かってるさ、言われるまでもない」

 

 一目見ただけでも恐怖を禁じ得ない相手に、下手な手出しなど自殺行為にも等しい。

もっと近くに拠点街があれば、自分一人でも逃げ出したいのが彼の本音だった。

 

「エレメールは静観に徹するようだな」

 

 特大剣を構え殺意を漲らせる鉄紺の獣騎士に加え、城壁の上ではエレメールが控えていた。

あの距離なら『エオヒドの剣舞』も此方にまで届くのだが、彼の様子からして静観に決め込む気配を感じる。

幸いな事に、眼前の騎士だけに集中できそうだ。

 

――このソウル…波形に覚えが…。

 

鉄紺の獣騎士は、殺意に満ちた青黒いソウルを全身から噴出させている。

眼前の敵に見覚えなど無いが、纏うソウルの波形には何処となく覚えがあった灰の剣士。

心に腫瘤(しゅりゅう)を感じながらも、彼は中盾による防御重視で待ち構えた。

 

「――グルぉッ!」

 

 先に仕掛けたのは、鉄紺の獣騎士。

手にした特大剣で上段から切りかかる。

動作そのものは単調だが、剣の重量に加え馬鹿げた膂力による振り下ろし速度は常識外れだ。

加えて刀身そのものも、濃紺の魔力が宿っている。

 

相手の出方と特徴を探る意味も兼ね、灰の剣士は敢えて盾受けで対応した。

 

「――ぐッ…!?」

 

 予想した通り、盾受けごと腕が捥がれんばかりの剣圧だ。

特大剣に対し垂直で真面に受け止めたため、肘関節から肩関節にかけ鋭くも重い激痛が奔る。

その衝撃を真正面から受け、彼は後方へと数メートル押し出された。

 

――回復の施し!

 

次の展開など容易に読める。

追撃に備え、彼は引き下がりながらも回復の奇跡で腕の負傷を治療。

最小の回復術だが、あの少女から進呈されたタリスマンの恩恵で、各関節部の負担は完治する。今のタリスマンは、回復系の奇跡を引き上げる効果を有していた。

 

「――グルぁぁッ…!」

 

 案の定、勢いに任せ次なる剣撃に移る鉄紺の獣騎士。

濃紺の魔力を揺らした特大剣が、彼の頭上に迫った。

だが彼は軽めのサイドステップで、側面へと回避。

またもや特大剣は地面を抉り、破片を周囲に待ち散らす。

しかし灰の剣士は敢えて反撃せず、防御と回避に専念した。

 

「――ガァぁッ…!!」

 

 殺意に溢れる鉄紺の獣騎士に疲労など無縁だと言わんばかりに、灰の剣士へと何度も攻めかかる。

袈裟斬りを避け、振り下ろしを横に飛び退き、薙ぎ払いを軽業で跳び越え、刺突を中盾で受け流し、並み居る連撃を悉く回避ないし防御で凌ぐ。

一見怒涛の攻めだが、逆に言えば動作の癖を相手に教えている様なものだ。

彼が敢えて防戦に徹したのは、敵の癖と緩急を見極めるため。

鉄紺の獣騎士は殺意に身を任せ我武者羅に切りかかるが、対する灰の剣士の回避は次第に確実性を帯びていた。

 

「――ごるぅアッ…!」

 

 最初こそ盾受け越しに痛痒を与えていたが、掠りもしなくなった現状に更なる苛立つを募らせた鉄紺の獣騎士。

幅広の横薙ぎは空ぶり、下段からの切り上げは空を切り、回転上段切りも受け流された。

肉厚で重厚な刀身から大質量の破壊力を生み出す、特大剣という武器種。

扱うには的確な重心移動と規格外の膂力が必須とされ、有効に扱う只人は極めて限られる。

しかし縦横無尽に運用できれば、その圧倒的な破壊力で格上の魔物さえ粉砕できる。

だが武器種の特性上、細やかな動きは不得手となり相手には読まれ易い。

そういった要因も重なり、灰の剣士は並み居る猛攻を全て躱し続けていた。

加えて言うなら鉄紺の獣騎士の精神状態も、彼の回避に貢献してしまっている。

殺意と憎悪による生の感情を丸出しにするという事は、彼にソウルの波形を提供してしまっている様なものなのだ。

それ故、気配と予備動作を事前通告してしまうという失態に気付かず、全ての攻撃は虚しく空ぶっていた。

 

癖さえ判れば見切ったも同然。

何者かは分からないが、癖を把握した以上遊ぶ気など無い。

敵の攻撃を避け切った灰の剣士は、腕に巻き付けて(マウント)いた中盾のベルトを外し手持ちへと切り替える。

 

「――ふッ!」

 

 中盾を前面に押し出しつつ、彼は地を蹴り全力で突進した。

そんな彼の動きを読んでいたのか、鉄紺の獣騎士も渾身の刺突を見舞う。

濃紺の魔力は更に激しく滾らせ、中盾ごと彼を粉砕する魂胆だ。

彼の突進と敵の刺突による相対速度で激突すれば、体格に劣る彼の方が押し敗けるのは確実。

 

特大剣の切っ先と中盾が激突した瞬間、何と彼は手にしていた中盾を放棄――。

その勢いのまま敵の懐へと踏み込み『疾走回転居合切り』で一気に払い抜けつつ、再び踵を返し同じ戦技で払い抜けた。

 

   ―― 疾走回転居合切り・6連 ――

 

6連続の疾走回転居合切りを真面に受け、鉄紺の獣騎士は至る箇所から鮮血を噴き上げた。

 

「――グルぉォおっ…!?」

 

 悲鳴とも取れる呻き声を漏らし、鉄紺の獣騎士は膝を突き動きを止めた。

 

――好機ッ!

 

殺意を向ける相手に容赦など不要。

灰の剣士は、躊躇なく敵の頭部をかち割るべく大上段からの振り下ろしを見舞おうと踏み込んだ。

 

「――チッ!やはりなッ…!」

 

 しかし上方から『エオヒドの剣舞』による横槍が入り、彼は動きを中断する。

両者の間に割って入ったのは、鉄茨のエレメール。

 

「……」

「……」

 

 今度は2対1という不利な状況。

灰の剣士に対するのは、鉄紺の獣騎士に加え鉄茨のエレメール。

両陣営は暫し無言の睨み合いが続くも、ふとエレメールが口を開いた。

 

「此度は、ほんの挨拶代わりだ。見事『深みの聖堂』まで辿り着いてみせよ、灰の剣士…否、あの時の()()()よ…!」

「貴公…やはり知っていたか…!」

 

 赤黒いソウルを宿らせた彼は、片膝を突く鉄紺の獣騎士を再び拘束し、その場から消え去った。

 

「……」

 

 現場から消え去ったエレメールと、得体の知れない鉄紺の獣騎士。

灰の剣士は少しばかり周囲を警戒しつつも、やがて武器を納め戦闘体制を解く。

 

「エレメールはともかく、あの青黒い騎士…何者だろうか…?」

 

 思いもよらない所でエレメール本体と遭遇した事で、彼も四方世界に流れ着いていた事が確定した。

しかしそれ以上に気になるのは、やはり青黒い殺意を撒き散らしていた鉄紺の獣騎士の方だ。

見た事もない風貌だったが、流れ来るソウルには仄かに覚えがあったのだ。

 

「…いやよそう。先へ進まないとな」

 

 だが今は、本来の役割を果たす事を優先したい。

二人に関する意識を振り払い、彼は再び周囲に目を向けた。

 

視界の先には、あの吟遊連弩使いが木箱から顔だけを覗かせている。

 

「…私は先へ進まねばならないのだが、貴方はどうする?」

 

 できれば、自力で拠点街へと帰還して貰いたいのだ。

灰の剣士としても極力、単身での活動を望んでいた。

 

「連れて行ってくれ、アンタの足は引っ張らないように尽力する。頼む…もう一人なんて御免だ…!」

 

「…承知した。自分の身を自分で守れるなら、もう何も言わぬ」

 

 拠点街へと帰還する気は無いらしい。――かと言って、此処に留まり身を隠す積りもないようだ。

自分の立場を理解しつつ自衛も心掛けているのなら、これ以上難色を晒すのも野暮と言えよう。

それに例の作戦に参加していたのなら、自分にはない情報を所持している可能性もある。

彼は、吟遊連弩使いを同行させる事にした。

 

「短い間かもしれないが、宜しく頼むぜ灰の剣士…でよかったかな?」

「こちらこそ宜しく頼む。ではこれからの記録と詩に期待させて頂こう」

 

「ハハハ、任せてくれ。アンタの格好いい詩、もう構想は練ってあるんだ…♪」

 

 あの戦闘中、この男は木箱に身を隠しながら灰の剣士の詩に想いを張り巡らせていた。

短時間の小競り合いだが、彼の目には凄まじい激闘に映っていたらしい。

道連れができた事で余裕を取り戻した吟遊連弩使い。

ちょっとした雑談を交わしながら、二人はベースキャンプを後にし『ロスリック不死街』へと向かうべく歩を進めた。

 

「…アレが灰の剣士…か。…まだ情報が足りん」

 

 破壊されたベースキャンプ跡を見降ろす者が、もう一人居た。

上流階級らしき美麗で白い衣服を着こなた一人の女性なのだが、ロスリックという陰鬱な領域には似つかわしくない高貴な佇まいで見降ろしていた。

白い衣服の女魔神であり、彼女はオスロエスの組織に身を置く者の一人である。

組織内でも度々、灰の剣士の事は言及されており、彼女も個人的に関心を抱き此処に降り立っていた。

先程の激戦も一部始終を見届けていたが、今少し判断基準が足りないのか二人の後を追う事に決める。

 

「なかなか見つからんものだな。志を同じくする者は…」

 

 彼女にも秘めたる願いがあるのだろうか?

収納していた魔力の翼をはためかせ、白い衣服の女魔神も飛び去った。

 

……

 

デエェェ ―― 不死街 ―― ェェェエン

 

(推奨BGM ヴィンランド・サガ ―― TROLL)

 

幾度も訪れた、亡者の蔓延る死の街並み。

記憶と違わぬ光景ながらも、住民の姿は変わり果てていた。

 

「これが噂に聞く――」

「ああ、そうとも…!恐るべき竜たちだッ…!」

 

 不死街の表層にて、二人は敵勢力に手を焼いていた。

彼等が相手取っていた敵とは、()()()()()とも呼ばれる獰猛な生物――。

我々が言う所の『恐竜』である。

竜信仰に身を捧げる司祭や蜥蜴人が崇拝する、父祖たる竜の総称。

しかし巷に知られる火竜とは、生態系そのものに差異が見られた。

 

とにかく小柄ながら異常に俊敏で、群れを成して襲い掛かって来る。

竜種というよりは大型の蜥蜴に近い種で、脚部の発達した筋肉で桁外れの瞬発力を発揮する。

また四肢の爪も刃物の如く鋭く、鋭利な牙は此方の喉笛を確実に狙っていた。

あの亡者犬をも凌駕する敏捷性は驚異の一言で、加えて知能も発達しているのか集団戦法を心得ている様だ。

本能か知能の成せる行動なのか定かではないが、爪、牙、瞬発力に加え、集団戦法を行使するという凶悪極まりない厄介な存在である。

 

「随分小柄ではないか…!竜の名を冠するにしては――」

 

 半端な革鎧など一瞬で切り裂かんばかりの鋭利な爪引っ掻きを躱し、小柄な恐竜の首を横薙ぎで刎ねた灰の剣士。

 

「こういう種類でね。下手な火竜よりも巨大な奴だって居る…!」

 

 真正面からでは敵わないと、吟遊連弩使いは重ね合わせた木箱に潜り込み身を守っていた。

それでも小型恐竜の爪は鋭いの一言で、何度も引っ掻かれた木箱は既にボロボロだ。

 

いま戦っていたのは灰の剣士だけだが、全方位からの飛び掛かりに手を焼く。

この小型の竜種は、怜刀龍(リンタオロン)と呼ばれる種で、別名()()()()()()()()とも呼ばれていた。

恐竜の中では小型だが、それでも只人よりは遥かに力も強く俊敏で集団戦法を意識し群れで襲い来る。

 

――小鬼や魔神とは違った意味で危険だな。

 

僅かでも集中力を乱せば、喉を嚙み千切られる。

武器は爪だけでなく顎に備えた牙も、致命傷となり得る危険な部位だ。

また集団戦法だが、一斉に飛び掛かるのではなく時間差までを意識しているように思える。

彼が回避した隙を縫うかのように、次から次へと休む間も与えず飛び掛かって来るのだ。

そして獰猛な攻撃性は、間違いなく肉食獣のソレ。

どれだけ生息しているのかは分からないが、この周辺を闊歩していた亡者は軒並み喰われたのだろう。辺りには、見慣れた亡者の姿は一つも無かった。

 

――素早いが、対処できない程ではないな。

 

恐るべき竜には違いないが、ギルドの資料では『怜刀龍(リンタオロン)』は最下級の位置で記されていた。

並外れた脚力と持久力で彼の全方位を走り回りながら、()()()()()()()()()()という癖を備えていたのである。

つまりそれを逆手に取れば、次の攻撃の誘導にも繋がる。

 

「……」

 

 彼は敢えて警戒を解き、一点のみに意識を向け『月隠』を鞘に納め居合切りの構えを取る。

 

「――GYOAA!」

 

 予想通り『怜刀龍(リンタオロン)』の1体が、側面から彼の首目掛け噛み付かんと飛び掛かる。

 

「――そこぉッ!」

 

 だが牙と刀のリーチなど比べるべくもない。

彼の首目掛け牙が届く前に、刀の白刃が『怜刀龍(リンタオロン)』の首を見事に跳ね飛ばす。

確かに牙も爪も鋭利で危険極まりないが、刀ほど刃も長くはない。

牙が届く前に首は刎ねられ、爪が届く前に前脚が宙に飛ぶ。

計6体の『怜刀龍(リンタオロン)』に襲われていた訳だが、ある程度特性を学んだ灰の剣士は瞬時に対応。

並み居る敵を全て切り伏せ、地面には両断された『怜刀龍(リンタオロン)』が無残に転がるだけである。

 

「フゥ…手強かったな…!」

「お、おお…、やってくれたか…」

 

 冒険者活動を始めて、それなりの時が経過していたが『恐るべき竜』なる生物と交戦したのは今日が初である。

灰の剣士も資料で得た知識しかなかったため、知識と現実の食い違いに手こずらされてしまった。

大型の猛獣だと思い込んでいたが、小型で早く群れを成すという『怜刀龍(リンタオロン)』は想像以上に危険な敵だ。

亡者犬や小鬼とは違った異質の脅威を感じ取りながらも、残敵の有無を確かめた彼は警戒を解き武器を収めた。

周辺の殲滅が成った事で、木箱に隠れていた吟遊連弩使いも身を乗り出す。

 

「恐竜って奴なんだが、『磔の森』周辺に徘徊してるんだ。主にな」

「今のような個体も、更に多く生息する訳か」

 

怜刀龍(リンタオロン)だけじゃない。バカでかい奴や、それに獰猛さを加えた奴なんかも居る。…まぁ、食料として利用できるのは有り難い事だけどな」

「では、周辺の亡者なんかは殆ど存在していないと?」

 

「俺達が辿り着いた時には、亡者なんて数える程だった。多分、大半が綺麗に食われたんだろうぜ」

「恐竜は恐竜で危険だな。熟練の冒険者でも相当に危険だ」

 

「ああ俺もそう思うぜ。本当にロスリックの制圧なんて可能なのかねぇ…?」

「これで住もうという人も居る位だ、頭が下がる」

 

 不死街にまで徘徊していた恐るべき竜の担い手たち。

既にロスリックの住民は、亡者ではなく別の生物に支配されようとしていた。

吟遊連弩使いが言うには『磔の森』周辺では、既に恐竜の巣窟と化しているのだという。

恐竜である彼等の生命力は桁外れで、亡者でさえ格好の食糧に過ぎなかった。

嘗て夥しい程に徘徊していた亡者の群れは、ほぼ全てが恐竜に食い尽くされ姿を消しているのだという。

そして磔の森には、『継ぎ接ぎの町』と呼ばれる生者の拠点が存在しているとの事だ。

中継拠点が在るのは有り難いが、住民は恐竜などに襲われていないのだろうか?

先ほど戦った怜刀龍(リンタオロン)でさえ、かなり手を焼いたというのに更なる強固体が蔓延っているのは間違いない。

その様な危険地帯で住まう生者に、言いようのない逞しさを覚えた灰の剣士。

また恐竜は、食料としても利用できるため、獣人や亜人種の冒険者たちが居座っているという。

 

「いくら食料に困らぬとはいえ、正気の沙汰とは思えんな」

「真っ当な只人は、素直に拠点街に住まうさ。居座るのは主に蜥蜴人や蟲人…あとは獰猛な獣人ぐらいだな」

 

 並の神経で『磔の森』周辺に住もうなどとは思わない。

だがそれは只人基準の価値観であり、決してソレが正常だとは誰にも決める権利はない。

只人とは全く異質の価値観を持ち、生を営む種族も確かに存在する。

恐るべき竜として崇められる恐竜が住まう磔の森では、少数だが蜥蜴人も徘徊しており密かに部族を形成しているという。

また蜥蜴人に限らず、他種族の亜人種も独特の価値観を以て磔の森に居座っている。

 

「味方…あまり期待しない方が良いな」

「そうだとも。敵ではないにしても、下手に接触しない方が無難さ」

 

 いくら生者とはいえ、此方に友好的とは言い切れないのが何とも恐ろしい。

他種族の価値観が存在するなら、それこそ混沌勢の思想に近い場合さえありうる。

下手に接触し協力を仰ぐのは、それこそ彼等の領域を汚す愚行に繋がるかも知れないのだ。

仮に遭遇したとしても、精々その場凌ぎの共闘ぐらいが関の山だ。

可能な限り敵対せぬよう心掛けた二人は、更に不死街の奥へと歩を進めた。

 

不死街の下層へと近付くにつれ、明らかに見覚えのない道が増加していた。

 

「ご丁寧に看板があるだろう?全部調査済みなのさ」

 

 増加した道の端には、真新しい立て看板がある。

看板には村の名が記されており、全て冒険者が調査済みの証として設置したものだ。

灰の剣士が居ない間にも、この不死街には次々と人里が流れ着いていたのである。

そして流れ着いた村々の大半は、挑んだ冒険者の手によって踏破されていた。

 

「流れ着いたといっても、滅んだ村ばかりだからな。お宝なんて期待する方が馬鹿げている。居たのは移り住んだ亡者ばかり…収穫なんて有りもしない」

「そうか。やはり亡者が移り住んでいたのだな」

 

「住み易いって判断したんじゃいかな、あの腐敗した頭で…。まぁ確かに、不死街よりは荒廃も少ないけどよ、俺は留まる気にはなれなかったね」

「…他にも、流れ着いた村々はありそうだな」

 

「ああ当然だ、ここはほんの一部。『不死街』を抜け『生贄の道』から『磔の森』にも流れ着いた村々は幾つも在る」

 

 ここだけでなく、流れ着いた人里は増加傾向にあるようだ。

つまりそれだけ、死の気配が四方世界に拡散しているという事を意味している。

また永劫に似た時流により荒廃に荒廃を重ねた不死街よりも、幾分損壊の軽微な流れ着いた人里へと残り少ない亡者は移ってしまったとの事だ。

亡者の総数が減った事は有り難いが、代わりに別の異形が闊歩するという状況。

不死街のみならず、ロスリック全体を制圧するのは当分先となりそうだ。

 

二人は下層へと更なる歩みを進める。

 

夜という闇は、不死なる者を祝福し強化してしまう。

残り少ないとはいえ僅かな亡者が行く手を阻むが、二人は悉く薙ぎ倒しながらも確実に下層へと降り立っていた。

もう直ぐ『亡者の穴倉』へ差し掛かろうとした時、ふと足を止めた灰の剣士。

 

「もう別の勢力が――」

 

 亡者の穴倉を隔てていた鉄扉が、再び閉められていた事に彼は怪しんだ。

 

「ああ其処な。確か『呪腹の大樹』だっけ?それを扱う邪教徒たちの苗床だったんだろ?」

「そうだ。だが別の集団が占拠している」

 

 一旦開いた鉄扉を理由もなく閉める必要などない。

一度は制圧した『亡者の穴倉』だが、再び別の混沌勢が拠点として集っていた。

閉じられた鉄扉越しに、群集規模のソウルを感知した灰の剣士。

 

「一回全滅させた程度じゃ、直ぐ取り戻しに来るさ。やっぱり大元を叩いて、完全に制圧しないとな」

「…そうだな。今は先へ進もう」

 

 一度は呪腹の大樹と邪教徒集団を討ち、敵勢力の排除は達成できた。

しかし時が経てば、別の勢力が拠点として再利用してしまうという悪循環。

不死街全体を制圧し安全を確保するには、兎にも角にも人手が足りないのだ。

制圧した地域を再奪還されぬよう、常に交代制なりで冒険者一党を駐屯させておかねば、こうして混沌勢の勢力化へと逆戻りしてしまう。

再び乗り込み『亡者の穴倉』を制圧したい処だが、今は優先すべき要項がある。

後方から奇襲を受けるという懸念はあれど、後回しと決め込む灰の剣士。

二人は再び歩き出し、荒れた石造りの階段を下る。

 

「ここの塔…、以前は財宝の山が眠っていたんだよな~」

 

 階段を降りる傍ら、尖塔へと意識を向けた吟遊連弩使い。

その細い塔は、灰の剣士たちの活躍で財宝が発見された場所だった。

荷馬車数台分の金銀財宝の山が積み上げられ、当時の彼等は敢えて根こそぎ持ち帰る事を控えた。

財宝の在り処を餌に冒険者の奮起を煽り、不死街にまで呼び込む作戦を画策していたのである。

そして彼等の作戦は成功を収め、こうして大勢の冒険者が財宝目当てに不死街へと流入。

結果、探索は順調に進んでいたが例の作戦で大半が駆り出され、手薄となった不死街は混沌勢の支配下へと帰してしまう。

また尖塔の財宝ほぼ全てが冒険者の手により持ち去られ、もう何も残ってはいなかった。

 

「早い者勝ちとばかりに、仲間割れも結構あってな。…全く情けない。財宝を目にした途端、本性現して豹変するんだからよ。俺の所属していた一党でも、所有権争いを始めた位だぜ」

 

 大勢の冒険者が辿り着いたまでは良かったのだが、財宝の所有権を巡り不毛な身内争いが絶えなかった。

第1発見者でもある灰の剣士たちは、余計な諍いを危惧し各自小袋一つ分という制限を設けていたが、他の冒険者たちは衝動を抑えられなかったようだ。

(本編前夜編 第64話参照)

余ほど金銭に困窮していたのか、億万長者を目指していたのか、それは当事者には分からないが味方同士で殺し合いまで発生したと語る吟遊連弩使い。

彼が所属していた一党でさえ、不毛で醜い殴り合いが起きてしまう始末。

今は、その一党とは縁を切っていたが彼だが、当時を振り返り深く嘆息する。

 

「持ち帰る道中、敵味方関係なく襲われた一党もあったのだろう?…道すがら、幾多もの貨幣が散乱していたのを見た」

「ああ、やっぱり気づきなすったかい。そうさ、持ち帰りを襲われた連中も居た。少し前までは、遺体も散乱してたんだ」

 

 ギルドから認められた冒険者とて、欲に溺れる機会など路頭に転がっているものだ。

それにロスリック周辺など、目ぼしい人里など拠点街ぐらいしかない。

その街以外の地など、秩序の及ばぬ無法地帯に等しく賊徒も身を潜めていても不思議ではない。

亡者や異形以外にも魔が差した冒険者や賊徒に襲われ、折角の財宝を奪取された者も存在していた。

 

夜間という事もあり然して気に留めてもいなかった灰の剣士だが、道中でも金貨や銀貨などの貨幣が散乱していたのを思い出す。

持ち帰る途中で落としたか、吟遊連弩使いの話した通り襲われた名残なのだろう。

 

少々やるせない気持ちを募らせ、二人は廃教会の方へと目指す。廃教会の昇降機で『深みの聖堂』へと通ずる『生贄の道』に出られる筈だ。

 

「あの連中…まさか…!?」

「おお知ってるのかい?アイツ等、ここ近辺を定期的に徘徊してる連中さ」

 

 もう直ぐ廃教会へと辿り着こうとした寸前、見覚えのある集団が不死街を徘徊していた。

 

「レアルカリア学院の学徒たち――」

「レアルカリア…?初めて聞く名だが、学院…てことは『賢者の学院』みたいなものか?」

 

「彼等は『狭間の地』の住民だ。…そうか、此処はもう不死街下層の領域。例の『霧の壁』があるんだったな」

「狭間の地だって?…道理で見慣れない服装に変な石頭を被ってるわけだ」

 

 徘徊していた集団だが、何と『レアルカリア学院』の学徒たちである。

吟遊連弩使いにとっては馴染みのない出で立ちだが、灰の剣士が有する記憶には鮮明に刻まれていた。

簡素にだが狭間の地について説明する灰の剣士。

既に二人は不死街下層に辿り着いており、この近くに『朽ちた狭間の地』に繋がっているという霧の壁の事を思い出す。

 

「この不死街を占拠しようとでも、あの連中は?」

「俺が知りたいよ。それもあるとは思うが、別の脇道を頻繁に行き来しているから何らかの目的が在るのかも知れないぜ?」

 

 若しかしたら、後方の『亡者の穴倉』を占拠している集団との関係性も匂わせていた、レアルカリアの学徒たち。

 

「あいつら人型の癖に、問答無用で襲い掛かって来るんだ。消耗避けるために、別の迂回路で『磔の森』に向かったんだ。以前の俺達は」

「交戦はすれど、途中で戦闘回避したと?」

 

「あの妙な石頭連中、呪文攻撃は勿論、人形兵や召喚魔法まで駆使してくるんだ。うっとおしいたらありゃしない…!」

「…ここで迎え討つ。別の迂回路とやらも気になるが、友好的でないのなら漸減に踏み切るさ」

 

「…今度は援護させてくれ。遠間からチマチマ撃つだけだけどな」

「アテにするぞ」

 

 荒れた街道自体狭く、身を隠す場所もない。

やはり此処でも『レアルカリアの学徒たち』は、敵対的行動を執るようだ。

戦闘を避けられないのであれば、このまま短期決戦で敵殲滅を決めた灰の剣士たち。

敵の目的は量れないものの、放置したところで碌な結果には繋がらない。

交戦を決めた二人は、悠然と歩み寄る敵集団を待ち構えた。

 

(推奨BGM エルデンリング ―― レアルカリア)

 

敵側も此方を認識し、召喚の儀式を行使。足元に浮かべた魔法陣から、複数の異形を召喚させる。

それだけでなく、得体の知れない球体を地面に放り投げ、煙と共に複数の人形兵が現れた。

学徒だけでも10を超えていたが、召喚した小悪魔(四方世界のインプ)や人形兵を合わせた総数は、30に上る。

彼等の様子から対話の余地は見られず、敵対しているのは間違いない。

 

「四方世界側の小悪魔(インプ)か…、複数で空中は目障りだな」

 

 単体では大した脅威ではない小悪魔(インプ)という、魔神でも最底辺の異形たち。

だが、低速ながらも常に宙を自由に飛び回り、拙いながらも真言魔法の行使は実に厄介の一言に尽きる。

何せ小悪魔(インプ)は群れを形成するからだ。単体で出現する事は、基本的に稀なのである。

加えて強固体と共に出現すれば、意識外から横やりを入れられ思わぬ痛痒を負う危険も生じる。

それに個体差はあれど小柄で、的を絞り難いのも厄介さを助長させていた。

 

「15体の小悪魔(インプ)か…、俺でもなんとかなりそうだ」

「頼めるか?」

 

「俺の武器と相性がいい。敵の接近…何とか防いでくれれば――」

「地上は任せよ」

 

 群れを形成する小悪魔(インプ)は邪魔な事この上ないが、それでも耐久値自体は低い傾向にある。

たとえ非力な只人でも武器さえ命中させれば、ほぼ一撃で仕留める事が出来る存在なのだ。

ここで吟遊連弩使いも参戦の意思を伝え、宙を浮遊する小悪魔(インプ)の迎撃を買って出た。

確かに彼の装備する連弩は、群れを成す小悪魔(インプ)と相性がいい。

威力はともかく連射性に富む武器なら、当たりさえすれば仕留める事は容易だ。

彼が対空射撃を担ってくれれば、此方は地上に専念でき負担も減る。

これは有り難い申し出だ。

其々の役割を決めた二人は、敵集団へと戦闘を仕掛ける。

 

偏に小悪魔(インプ)といえども、装備や固有能力が統一されている訳ではない。

只人一人一人に個性がある様に、彼等もまた然りである。

飛び道具を装備している個体も居れば、近接武器や魔法媒体を装備している個体まで存在した。

それ等が完璧な連携で攻め掛かれば、駆け出し冒険者の一党など一溜りもないといえよう。

だが一人とは言え、対峙する吟遊連弩使いも青玉等級に身を置く中堅冒険者。

駆け出しよりは遥かに経験も戦闘力にも優れ、多少の魔法も心得ていた。

 

「サジタ(矢)…サイヌス(歪曲)…オッフェーロ(付与)――矢避け(ディフレクトミサイル)!」

 

 真言魔法『矢避け(ディフレクトミサイル)』を発現させた、吟遊連弩使い。

自分を基点とし、敵応射への対応策と成す。

 

「すまん、アンタにまで手が回らなかった!」

「気にしなくていい。自力で対応できる故な!」

 

 彼は一日2回までなら呪文を行使出来る。

だが温存も視野に灰の剣士まで手を回す余裕はなく、その事に謝意を投げ掛ける。

しかし灰の剣士は何一つ顔色を変える事なく、自衛を最優先するよう気遣いの言葉で返した。

そもそも灰の剣士は、様々な対抗手段を有り余るほどに体得している。

つまり大抵の事など自力で乗り越えてしまい、だからこそ特定の一党を今日まで形成してこなかった。

 

出現した小悪魔(インプ)や人形兵の放った飛び道具は、灰の剣士だけでなく吟遊連弩使いにも飛来した。

だが灰の剣士は装備した中盾で――。吟遊連弩使いは発現させた『矢避け(ディフレクトミサイル)』の効果により完全に防ぎ切る。

 

「――この野郎!」

 

 連弩から連続発射された太矢(ボルト)が次々と小悪魔(インプ)を射抜き、瞬く間に絶対数を減らす。

時折り反撃の呪文攻撃が彼にも飛来するが、その度に灰の剣士が瞬時に立ち塞がり戦技『カーリアの返法』を行使。

中盾に魔力を宿らせ受け止めた呪文攻撃を魔力の剣へと変換し、相手側へと撃ち返した。

敵側は特性上、魔法攻撃に長けており接近戦を行える個体は人形兵が精々だ。

また敵側の半端な近接戦闘力で、灰の剣士を御する事は不可能。

彼の間合いに入ったが最後、例外なく人形兵はバラバラのガラクタに変じる。

 

「薄気味悪い石頭だぜ、お家に帰んな!」

 

 敵が軒並み減少した事で余裕も生まれ、吟遊連弩使いはレアルカリア学徒たちへも射撃を試みる。

ワザと輝石頭を被った頭部へと太矢(ボルト)を当て、恐怖心を誘発させる。

 

灰の剣士により全ての人形兵と過半数の学徒たちは仕留められ、吟遊連弩使いにより小悪魔(インプ)も全滅。

ほぼ壊滅となったレアルカリア学徒たちは、一目散に引き返し撤退してしまった。

 

「よし、一応は撃退できたか」

 

 殲滅とはいかなかったが、撃退は成した。

一時的にとはいえ、周囲は不気味な静寂が舞い戻る。

 

「例の作戦の時、アイツ等の呪文攻撃で散々妨害されてな。別の一党が引き付けてくれてたんだ。…もう居ないって事は…クソッたれ…!」

 

 偶発的な遭遇戦を終え、例の作戦時の事を語る吟遊連弩使い。

当時でもレアルカリア学徒たちの妨害に遭い、呪文攻撃や召喚術で余計な消耗を強いられていた。

そこで、とある一党が殿を引き受け対応――。お陰で冒険者部隊は消耗を押さえ、磔の森へと向かう事が出来た。

だが見る限り、殿を引き受けた一党の姿は影も形も見られない。

恐らくは犠牲か行方不明のどちらかだと推察できる。

このロスリックの地だ、安全を確保できる事の方が難しい。

 

「認識票ぐらいは持ち帰らねばな」

「…ああ、その位しか出来ないのが悔しいぜ…」

 

 歯噛みする吟遊連弩使いに、何とか言葉を返した灰の剣士。

彼とて使者を蘇らせる手法など持ち合わせてはない。

犠牲者にしてやれる事と言えば、認識票をギルドへと持ち帰り報告するのが精々だ。

それは隣の彼も重々理解しており、不安定な情緒を無理やり抑え付け進軍を再開する。

 

……

 

廃教会へと辿り着いた二人。

見知らぬ脇道が異様に増え、彼の記憶する面影を残しながらもロスリックの地は確実な変化を遂げていた。

 

   ―― 狭間の地とはな(ジェスチャー・前を指差す) ――

 

脇道の傍には、白いサインろう石で記したと思わしきメッセージが発見できる。

 

「ここから先に行けば、狭間の地に繋がっているのか?」

「そうさ。俺はまだ行った事はないけど、もう何人も冒険者が狭間の地とやらに挑んでは直ぐに帰還している。……それにしても、誰が書いたんだ変な文字列…何か妙な幻影まで浮かんで来るし」

 

 地面のメッセージには『狭間の地』に通ずる旨が綴られている。

脇道の先に思いを馳せる灰の剣士に対し、吟遊連弩使いは地面の文字列を怪しんでいた。

 

「ああ後な、こっちの脇道は頻繁に行き来しているのが、さっきの石頭連中だ。…何を企んでいるのやら…」

「…何れ、乗り込む必要があるかもな」

 

 狭間の地へと通ずる道とは別に、目立つ脇道も発見できる。

ご丁寧に、輝石の結晶が湧き道の両脇に設置されており、あのリエーニエの面影を彷彿とさせた。

 

「一応は乗り込んだ冒険者も居たんだが、まぁさっきの妨害が激しくてな…コッチも奥の正体が掴めず仕舞いなのさ」

 

 形だけでも冒険者による調査は行われていた様だ。

とはいえ学徒たちの妨害と抵抗が激しく、調査が捗っていないのが現状だ。

あの闇の深いレアルカリア学院を体験していた灰の剣士、このロスリックの地に留まっている以上、碌な計画など練っている筈がない。

今は後回しにするが体勢を整え次第、乗り込む事も視野に入れる。

 

――血痕か…、たいぶ苦渋を飲まされている様だな。

 

脇道付近の所々に、見慣れた血痕が視界に映る。

傍に近寄れば、犠牲となった他次元の不死人(冒険者)の幻影が浮かんでくる。

これだけで詳細は量れないものの、かなり苦戦してい様子が見て取れた。

 

「さぁ、行こうか。昇降機を抜ければ、いよいよ『生贄の道』だ」

「ああ。それにしてもアンタ、本当に()()()()なのか?」

 

「…まさか。訳アリで今に至る…そういう事だ」

「…だよな。これ以上、詮索しないでおくさ」

 

 二人は廃教会へと足を踏み入れる。

奥には見覚えのある昇降機が静かに佇んでいた。

此処を抜ければ『不死街』を抜け『生贄の道』へと差し掛かる。

 

ロスリック高壁のベースキャンプ跡から不死街の廃教会まで、1時間と経過していないのだ。

余りの短時間で辿り着けた事実に、平静を取り戻していた吟遊連弩使いは改めて灰の剣士の素性に疑念を持つ。

あの救出作戦の際にも、100人規模の冒険者部たちで乗り込んだ訳だが、ここまで到達するのに5時間以上は掛けていた。

しかも、当時のベースキャンプで休養を挟み極力戦闘を避けての行軍だというのにだ。

しかし灰の剣士との行軍では、真正面から敵集団と対峙し悉くを殲滅ないし撃退へと追い込んでいる。

その上で短時間且つ、此方は無傷に加え消耗も軽微。

そして何よりも眼前の剣士の認識票は、駆け出し冒険者の象徴ともいえる『白磁等級』を現している。

これは何かの冗談だろうか?

だが冷静に考察すれば、唯の新人であろう筈もない。

何らかの理由で『白磁等級』に身を置かざるを得なくなったのだろうと、直ぐに推察できるのだ。

灰の剣士の勇名は拠点街中に広まっている。

その勇名を信じるにせよ信じざるにせよ、彼の認知度と功績は高かった。

 

吟遊連弩使いの予想通り、最初から白磁等級のままで今日に至った訳ではない灰の剣士。

何らかの理由を匂わせつつも多くを語らない彼の様子に、ナニカを察した吟遊連弩使いもそれ以上踏み込む事を控える。

 

昇降機を作動させた二人は、そのまま廃教会の塔を降り生贄の道へと通ずる鉄扉を開けた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

矢避け(ディフレクトミサイル)(真言魔法)

 

サジタ(矢)…サイヌス(歪曲)…オッフェーロ(付与)。

対象物を基点に、飛び道具を逸らせる力場を発生させる。

主に、矢、太矢、矢弾、石弾、弾丸、砲弾、といった飛び道具全般が術の影響を受ける。

但し、直の手投げによる飛び道具には術が反映されず、そのまま力場を通過してしまう。

 

たとえ対飛び道具といえども、何事も例外は存在するものだ。

つまり、過信するなかれ。

 

 

 

 

 

 




鉄紺の獣騎士のモチーフですが、推奨BGMの示す通りデビルメイクライのネロアンジェロ(バージル)を基としています。
次元斬でも使わせてみようかな?

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

「ダァ~イッ…!」byバージル(`・ω・´)
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