ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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誰にも悟られる事なく投稿します、ドゾ。( ゚ ω ゚ )


第158話―ロスリック・深みの聖堂、闘技へ向け―

 

 

 

 

 

折れた直剣

 

刃の半ばから先が、折れて失われた直剣。

武器として見るべきところはなにもなく。

正気をなくした亡者でもなければ、使う者など居ないだろう。

 

刃折れようとも心は折れず。

幾多もの戦士が試練に挑み朽ち果てた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 空が徐々に赤く染まりゆく。

当たり前と思っていた青く澄み切っていた空――。

もう()ではなく()()に置き換わり、青い空は過去の情景と成り果てていた。

間もなく黒い太陽が昇り、空を完全に赤黒く描き切るだろう。そうなれば赤爛れた陽光が降り注ぎ、歪み切った悍ましい生命の営みが始まる。

周囲の植物も、何処か得体の知れないナニカに変質し、中には独りでに動き出す種まで見受けられた。

 

「今まで無かったよね、あんな植物…?」

 

 遠間に見える植物は、独りでに移動しツタの様な触手を何本も生やしている。

獲物を捕食しているのだろうか。時折り小動物を絡めとっては、口と思わしき部位へと放り込んでいた。

黒髪の見習い勇者は、遠間に見える植物やら生物やら判別の付かないナニカに目を細める。

 

「ロスリック外でも見たぜ、あの気味悪い植物。多分この空の所為だろうな」

 

 隣を歩く吟遊連弩使いも、赤黒い空と植物型の異形を交互に見ながら頭を振る。

赤黒い空と赤爛れた陽光が降り注ぎ、地上の生態系は今も変容の一途を辿っていた。

大抵の植物は劣化や枯死に至り、中には人々に牙を剥く異形へと変質するという結末。

そして動物たちは、可能な限り陽の届かぬ森林や結界内へと逃げ込み、四方世界は生から死へと変わりつつあった。

 

「陽光が降り注ぐまで、まだ時間はある。日が昇らない内に聖堂へと侵入するぞ」

 

 幸いにも日は昇り切ってはいない。徐々に空が赤く黒く不気味に染まろうとしていたが、赤爛れた陽光は地上には降り注いでいないのだ。

陽光を浴びれば体に異常をきたしてしまう。

灰の剣士たちは歩を速め、ファラン城塞の一角である石造りの建物へと侵入した。

その建物もファラン城塞の一部で、ファラン不死隊でも魔術に長けた亡者たちが眠る場所でもあった。

しかしそれも過去の話。

今は別の陣営が占拠し、彼等の行く手を阻む。

 

「この人形兵、あの石頭連中が使ってたヤツじゃないか!?」

「わわっ、気持ち悪い人形…!」

 

「二人とも後退せよ、私がヤる!」

 

 屋内至る箇所で、レアルカリアの人形兵が襲い掛かってきた。

また人形兵だけでなく腐れた亡者までもが、一斉に殺到する。この亡者もレアルカリアで蔓延していた敵対種だ。

なるべく灰の剣士が率先で敵排除へと務め、消耗を最小限に抑えた。

一応、見習い勇者にも戦闘経験を積ませる為に、1体2体の腐れた亡者を彼女に向かわせる。

 

「おりゃアッ…!やったぁッ…!」

 

 彼女が扱う『アンリの直剣』は非常に相性がいいのか、抜群の威力を発揮し一刀の元に腐れた亡者を両断。

元々動きの鈍い事もあり、攻撃が効きさえすれば駆け出しでも対応可能な水準だ。

まだまだ動きに粗雑な部分が見られる彼女だが、適切な経験を積み続ければ更なる上達も見込めるだろう。

 

「よし、このまま先へと進む。殲滅の必要はないのでな」

 

 だが数だけは無駄に多く、一々真正面から対峙していたのでは息切れを引き起こしてしまう。

無視できる部分は出来るだけ無視し、3人は一気に建物を脱出した。

 

嘗てファラン不死隊の魔術師を務めていた『古老の結晶』が居た場所には、巨大な穴が口を空けていた。

この地は、ロンドール黒教会が『カーサスの砂ワーム』を使い巨大穴を形成。その穴から王都まで掘削し、地中からの奇襲を敢行した場所。

そしてもう一つ――。王統府要人たちの救出作戦が実施された区域でもある。

重要拠点なのか、亡者の騎士や兵士達が守りに就き幾多もの魔物たちをも従えている。

 

「二人には少々厳しいか。そこで待っていてくれ」

 

 見習い勇者は言うに及ばず、吟遊連弩使いにも厳しい相手だ。

二人を物陰に潜ませ、灰の剣士が出張り瞬く間に敵を殲滅。

彼が刀を収めた後、周囲に敵と呼べる者は消え去っていた。

 

「あの作戦、アンタが居てくれたら…って今更ながらに思うよ」

「お兄ちゃん見てるとさ、敵が弱く見えるんだよね」

 

 敵は一掃され、二人が現場に駆け寄って来た。

 

「此処から王都へ奇襲をかけたのだな」

「――らしいぜ。要人たちを乗せた馬車も、この大穴から出てきたんだ」

「すっごく大きな穴だね。中も広そう…」

 

 異様に目立つ大穴。

人は疎か馬車でさえすんなり入る幅を持ち、王都まで続いているというのだ。

この大穴は是が非でも押さえておきたい場所でもあり、戦略上でも重要な位置付けとなるのは間違いない。

だが制圧状態を維持するにも、多くの人手を要する。その為にも、王妹のみならず囚われている多くの人質たちの救出も成功させねばならない。

 

「そろそろ作戦の詳細を説明する…と言っても、二人には少々不快な思いをさせるやも知れぬ」

 

 今は敵も居ないため、この辺りで作戦概要の説明に移る灰の剣士。

彼の言葉が気になるも、二人は聞く態勢へと入った。

 

作戦の趣旨――。

故意に敵の虜囚となり、中枢へ近付く事である。

 

「ワザと捕まるってか…!?」

「そうだ。労せず聖堂へと侵入できる」

 

「そんな…!?悪い人たちやっつけながら、お姫様たち助けるんじゃないの!?」

「…出来なくはない、だが無傷では済まんだろうな。それに却って敵を警戒させ守備を高めさせてしまう」

 

 現在『深みの聖堂』は敵の苗床と化し、一大拠点として機能している。

確かに灰の剣士の実力なら、真正面から戦いを挑んだとしても勝利を収める事は可能だ。

しかし相手の大半は『女系の魔神軍』で構成されている。

彼女たちは武力よりも、精神干渉による搦め手を得意としている集団だ。

先ず、灰の剣士の得意とする土俵には上がっては来ないだろう。

下手に真正面から襲撃すれば、要らぬ警戒を抱かせ搦め手による迎撃態勢を敷いてしまう恐れが高い。

そうなれば、彼とて余計な障害に手を焼く事は避けられない。

何も好き好んで作戦難度を引き上げる必要など無いのだ。

 

それに継ぎ接ぎの町で得た情報によれば、捕らえた人質に闘技を強制しているとの事だ。

ならば下手に抵抗などせず故意に捕まり、敵の催す闘技へと参加する。

少なくとも余計な戦いを避け聖堂のへの侵入も叶うだろう。

聞けば闘技は、聖堂の大広間で執り行われているらしい。

大広間の奥には祭壇が設けられている。

つまり生贄の目の前で闘技を行うため、そのぶん救出対象に近付き易くもなる訳だ。

 

「だが我々を分断させる可能性も考慮せねばならぬ。その際、貴公らを一旦置き去りにするやも知れん。…それだけが少々心残りではあるがな」

「…ん、どういう事だ?」

「ボクたちで力を合わせれば良いんじゃないの?」

 

 虜囚となり敵中枢に近付くまでは良い。

しかし、敵が彼等を分断させ闘技に参加させる状況も視野に入れた方が良いだろう。灰の剣士は二人の身を案じていた。

例えば、捕らえた灰の剣士を一人で闘技に参加させる可能性さえ十分に考えられる。

また捕らえられた以上、装備をも奪われる事も考慮すべきだ。

いくら敵拠点とはいえ、その位の対策は講じる事は容易に予想できる。

 

「私は『家路』という奇跡を体得している故な。…これは一瞬で拠点へと帰還できる」

 

 灰の剣士は『家路』と呼ばれる奇跡で、拠点へと瞬時に転移できる術を確保していた。

上手く救出対象へ接触できれば、後は『家路』で脱出すればいいだけだ。その際、退路の確保に労力を割く必要もない。

 

「我々3人で闘技に参加できればいいが、もし私一人で参加するとなれば、人質だけを先に転移させる事になる。…つまり二人を一旦見放す事になってしまう。…その点に抵抗を感じている」

「「……」」

 

 3人で闘技に参加できれば、全員での脱出も叶う。

だが灰の剣士一人で闘技に参加する事になれば、王妹たちを優先的に『家路』で脱出させる事になり、結果的に吟遊連弩使いと見習い勇者を見放してしまう形となるのだ。

彼は、その事を憂いていた。

 

「…今ならまだ間に合う。継ぎ接ぎの町で、私が再度到着するまで待機するという手もある。私の作戦は、ある意味で貴公らを見放す所業でもあるのだからな。…どうする?」

「「……」」

 

 本心で言えば、彼とて全ての人質を救出したい。

しかし、それこそ正に荒唐無稽で現実味のない理想論そのものと言えるだろう。

今なら此処で引き返す事も出来る。

 

王妹たちを救出し、残りの人質たちを順次救出し、それから戦力を整え『深みの聖堂』を制圧する。

 

置き去りという結果を受け入られないのなら、継ぎ接ぎの町で大人しく機が来るまで待機する。

少なくとも継ぎ接ぎの町なら、多少の安全は確保されている。

それも作戦の一つだ。

道中アンリと合流できれば良かったのだが、ロスリック内での希望的観測は先ず期待しない方が良い。

 

このまま彼と同行するか、町まで引き返し待機するか。

二人を引き連れておきながら拠点待機を打診するという、己の無計画さに少しばかり自己嫌悪さえ抱いていた。

それでも二人の判断を待つ灰の剣士。

 

「気にするなよ。ちょっとばかり恐いが、もう参加するって決めたんだ。このまま行くさ、俺はな」

「ボクも!…何が出来るか分かんないけど、黙ってるなんて出来ないよ!」

 

「…分かった。だが二人とも、生き残る事に全力を注いでくれ」

 

 多少の不安も募ったが、二人の意識が変わる事はなく引き続き灰の剣士へと同行する旨を告げる。

自分の身ぐらい自分で守ってみせる。最初からそう決め彼に同行しているのだ。

対する彼も、それ以上何かを言う事はなかった。

 

……

 

次第に人型の敵が増え続けている気がする。

いや確実に増えつつあった。

意思の無い亡者ではあるものの、人型へと敵構成が変わりつつあった。

だが意思のない亡者では話にならない。

彼等は問答無用に襲い掛かって来るだけで、3人を捕らえる意思など感じられなかった。

少なくとも自我を持つ敵に接触せねば、確保される事さえ叶わない。

3人は更に歩を進め、聖堂前の大階段手前まで辿り着いた。

 

「門衛、といった処か」

「一応、意志疎通は可能かな?」

 

 何段にも連なる大階段上部には、数人の男女が此方を見降ろしている。

女はともかく二人の男には見覚えのあった灰の剣士。

男二人だが火継ぎの時代でも、追い剥ぎとして立ち塞がった相手だ。

一人は身軽な山賊風で、もう一人は重厚な騎士風の出で立ちをしており、二人とも相変わらず不死人のままである。

だが女の方は見覚えが無く、露出の高い服装ながらも頭部には角が見られ背には翼が確認できる。

只人ではない事は確かで、亜人種の類か魔神の眷属とみていいだろう。加えて浅黒い肌の女性も確認できる事から、闇人と判断していいだろうか。

前の時代の様に問答無用で襲い掛かって来ないあたり、一応言葉は通じる事が期待できた。

3人は警戒しつつ敵側の動きを待つ。

 

「どうやら話は通じそうだ。私はこれから()()()()()()()()()()()()から、二人とも合わせてくれ」

「…ン?…ああ…」

「お兄ちゃん、普通にした方が良くない?」

 

「弱く見せた方が、人質として都合よく捕らえそうな気がしてな。…頼むから拭き出さないでくれよ」

「余計怪しまれると思うんだがなぁ…」

「お兄ちゃんがそう言うなら、何とかやってみるよ…」

 

 どうにも彼の作戦は穴だらけに見えて仕方がない。

そう不安がる二人を余所に、何故か彼は自信ありげな様子を見せた。

 

「アラアラ、また身の程知らずなお客さんがいらしたわね。新たな参拝客かしら?」

 

 集団のリーダー格だろうか?

女魔神らしき一人が、此方にゆっくりと近付き大階段を下る。

 

「お、おい、来たぜ…!」

「ぼ、ボクだって…!」

 

 吟遊連弩使いと見習い勇者は、反射的に武器を抜き身構える。

そして彼…灰の剣士はというと――。

 

「――お、お、お…オイラ達はっ…悪い…お、お前達をやっつけて…、ひ、姫様たちを助け出すんだッ…!ま、負けないぞ、お、お前達なんかに、お、オイラッ…絶対に負けないぞッ…!」

 

「――ぐッ…!」

「――ぶっ…!」

 

 思わず吹き出しそうになるのを必死に堪え、敢えて灰の剣士から視線を逸らす二人。

吟遊連弩使いも見習い勇者も、歯を食い縛りながらプルプルと全身を震わせていた。

 

「あらまぁ強がっちゃって…、身の程知らずな勇者だこと…。そんな(なり)でよく此処まで辿り着けたわね♪」

 

「こ、こ、此処を通せッ…!オイラ達は、必ず姫様たちを助け出すんだ…!」

 

「……!(やっべ、堪えられそうにね~よ)」

「……!(ごめん、お兄ちゃん…。これちょっとキツイ…!)」

 

 予め打ち合わせはしたものの灰の剣士の演技に、二人は尚も呼吸を乱し表情を強張らせる。

そんな3人の様子を、虚勢と思い違いしたのだろうか。

リーダー格の女魔神は、余裕の表情を浮かべ3人を見下していた。

 

「ボウヤの階級…、あら驚いた。まさかの白磁等級なのね。それじゃあ、この一党の頭目は…そこのダンディーなイケメンさんかしら?…もう一人は、幼過ぎる女の子みたいだし」

「お…おぅ、そうとも。…俺がリーダーだ(ちくしょう…、何で俺がこんな役割りをっ…!)」

 

 相手に視認され易いよう、ワザと衣服の外に晒しておいた灰の剣士の認識票。

幸いにも変に勘繰られる事なく、一瞥しただけで彼を白磁等級の新人と認識してくれた様だ。

白磁等級の新人が頭目である筈がないと決め込んだ彼女は、青玉等級の吟遊連弩使いを3人の頭目と判断する。

 

「どうします姐さん?コイツ等、生贄の価値すらないと思いますがね?」

「とっとと、身包みだけ剥いで始末しちまいましょうや?」

 

「駄目よ。一応は決まりなんだから、ちゃんと役割は果たさないと。アンタたち、抵抗しなければ痛い思いをしなくて済むわよ。大人しくお縄を頂戴なさいな♪」

 

 二人の追い剥ぎ風の男は、3人の殺害を提案するも即座に却下される。

リーダー格の女魔神の指示通り、3人は拘束される事となった。

 

「面倒くさいから、主力となる武器だけ取り上げて。コイツら弱いみたいだし、問題ないでしょ」

 

 本来なら一切の武器防具を押収するのだが、青玉等級一人、白等級一人、そして冒険者にも満たない少女が一人という殆ど終わった構成に、彼女は高を括っていた。

杜撰な処置ではあったが、前に大勢捕らえた冒険者たちの方が遥かに高い等級を有していたのだ。

多少見逃したとしても問題にもならないと判断し、3人の主力となる思わしき武器を取り上げる。

 

「うぅ~、アンリさんの剣なのにぃ…」

「あら以外ね。あの娘(アンリ)とお知り合いなの?無駄な抵抗と知りながら、恐れ入るわよ、彼女も」

 

 浅黒い肌の闇人らしき女性に、アンリの直剣を取り上げられてしまう見習い勇者。

アンリの名を口にした途端、少し驚いた表情を浮かべ彼女の事に少し触れた。

 

「おぉう、連射型のクロスボウかよ。贅沢品だねぇ~、後で俺がきっちり使い込んでやるよ、へへへ…!」

「もっと丁寧に扱いな。複雑な構造ほど、繊細に出来てるんでね…!」

 

 奪った連弩を珍し気に検分する山賊風の追い剥ぎ。

彼等にとっても、お目に掛かれない希少品であるらしく、かなりの執着を見せている。

対する吟遊連弩使いは、飄々とした態度ながらも乱雑な扱いにご立腹だ。

 

「お前…何処かで会った気がするんだが、気の所為か…?ホラ、刀と弓と杖を寄越しな!」

「し、し、知らないぞ…!お、お前達なんか、オイラ知らない…!お、覚えてろよ!絶対取り返してやるんだかなッ…!」

 

 騎士風の追い剥ぎに詰め寄られた灰の剣士。

抵抗する風を装いながらも、彼に3種の武器を手渡した。

一度、対峙した事がある?

多少勘繰られはしたが、灰の剣士は拙い演技で取り繕う。

 

「……(ホントに白磁の新人か、コイツ?)」

 

 だが手にした『月隠』は月光の魔力が感じ取られ、合成弓(コンプジットボウ)や孤電の杖も新人が扱うには過ぎた代物に見えて仕方がなかった。

 

白磁等級の新人が扱うには、あり得ない程に強化が施され、まるで百戦錬磨の勇士が扱うに相応しい武器にも思える。

追い剥ぎとはいえ彼も不死人の端くれで、あの時代より流れ着いた者の一人。

押収した武器から流れ出るソウルに、どうしても違和感を覚えてしまう。

 

「さぁコッチよ、好い所に案内してあげるウフフ♪」

「か、返せ…!お、オイラたちの装備を返せ…!」

 

「次の闘技参加者だけど、このボウヤに決めたわ。万が一勝てたら、返してあげるように伝えてあげるわよ。精々がんばりなさいな♪」

「こ、恐くないぞッ…!お前達なんか、お、オイラ全然恐くないんだからなッ…!」

 

 こうして灰の剣士たちは臨検という形で、小教会まで連行される事となる。

 

――ふむ、武器だけは軒並み取られたがコイツは見逃してくれたか。

 

主な武器を押収された灰の剣士だが、フックショットだけは今も腰に吊り下げられている。

厳密には武器ではないが、多用途性に富む道具だ。

聖堂内の様子は未だ分からないが、構造だけは過去の記憶通りで間違いないと信じたい。

立体的な内部なら、フックショットの役立つ場面も多いからだ。

 

――ロスリックの聖剣は、置いて来ておいて正解だったな。

 

あの拠点街の小屋に、ロスリックの聖剣を保管しておいた灰の剣士。

今回は()()()()を主眼に置いていた事もあり、過積載とならぬよう不要な物は小屋に置いてきた。

それが功を奏し、敵側に奪われる事態を避ける結果となる。

 

――カムイとも合流を果たさねばならぬが、先ずは王妹殿下の救出が先決。ローリアン王子の件は、その後だな。

 

アンリのみならずカムイとも合流し、ローリアンの情報も取得しなければならない。

詳細を知らねばロスリック王子との依頼も果たしようがない。

多岐に渡る達成目標を前に、彼は今後に向けて思案を張り巡らせた。

 

『あれェ、まだ居たんだ生き残りぃ?…ていうか新しいお客さん方ぁ?』

 

 小教会に向かう道中、幾人もの女が其処彼処で散見された。

闇人か女魔神かは分からないが、一人の女が此方に声を投げ掛ける。

 

「そうよ、ギルドから新しく派遣されたらしいわよ」

「キャッハハ、そんな弱そうな奴等を派遣するようじゃ、いよいよ人材も枯渇したって事よね~♪」

 

『『『『『キャハハハ、ウッけるぅ~!!』』』』』

 

「――う、うるさいッ…!最後にはオイラ達が勝つんだ。こ、この世に、悪が栄えた試しはないんだぞぉッ…!」

 

「なぁに、ソイツぅ?身の程弁えろってのッ!」

「…つ~か、新人じゃね?良く来れたわね~?」

「あたしは、ソッチのイケメンが好みだねぇ♪」

「んじゃ私は、その幼いお嬢ちゃんね♪」

 

 周囲から罵声を口々に浴びせる女たち。大半が、女系の魔神軍の構成員だと思われるが、別の混沌組織も含まれているだろう。中には、どう見ても只人と思わしき女達も複数混在していた。

嘗ての時代は、これほど姦しい場ではなかった深みの聖堂。

今も重苦しい陰鬱な空気感は変わらないのだが、以前とは別の意味で不快感を禁じ得ない。

好き勝手な言葉を浴びせられながら、3人は小教会内へと放り込まれる。

 

「んじゃ大人しくしてなさいなぁ~♪」

 

 そう言い捨てた女魔神は、小教会の門を再び閉じた。

 

「「「……」」」

 

 無言で辺りを見回す灰の剣士たち。

あまり広いとは言えない教会内部では、大勢の人々が捕らえられていた。

 

「なんだよ、また新しい冒険者か?」

「たった3人で…」

「コイツ等も捕まったのか…」

「逃げた奴等…無事だと良いんだがな」

「嘘でしょ、子供まで居るじゃない?」

「まさかギルドは、子供まで出撃させたんじゃないわよね?」

 

 灰の剣士たちを見るや否や、皆が口々に騒ぎ立てる。

 

――冒険者…それに近衛兵たちも…。

 

得た情報通り、小教会には大勢の冒険者や近衛兵たちが虜囚と化していた。

未だ活力を残している者も居たが、半数以上は疲労や消耗が見受けられる。

 

「や、やったぞ…、オイラたち…何とか無事に此処まで辿り着けたんだ…!」

 

「もういいって、その演技。勘弁してくれ…」

「ハァ、ハァ、お兄ちゃん…。ボクお腹が攀じきれそうだよ…」

 

「ふむ…我が演技も中々の水準と見ゆる。詩の方も宜しく頼もうか?」

 

「…無理言うな。今の演技を詩にしろってか?」

「何時ものお兄ちゃんに戻っててば…!お陰で、全然恐くなかったけどさ」

 

 主力となる武器は奪われてしまったが、ほぼ無傷で小教会に潜り込む事に成功した3人。

正直に言えば灰の剣士の演技など、大根役者の極みとも言えるお些末なレベルである。

この演技を題材とした詩を期待した彼だが、吟遊連弩使いは即座に断った。

また見習い勇者は、彼の稚拙な演技のお陰で恐怖を覚える事無く平常心を保っている。

もし一人で放り出されれば、太陽の如き瞳とソウルを備える彼女とて恐怖に駆られ狂っていたかも知れない。

灰の剣士の()()()()()()も完全な無意味ではなかったようだ。

 

「よぉ、お前ら。よく無傷で此処まで辿り着けたな」

 

 そんなやり取りをする3人に、一人の獣人らしき男が話しかけて来る。もちろん小声でだ。

ほんの数人だが女魔神が看守の任に就いており、反乱を起こさぬよう目を光らせている。

 

「俺は王統府の近衛を務めてたんだが、御覧のザマだ。姫様たちは大広間に連行されたままだ。他の連中もどうなったのか、全然わからねぇ。知ってる範囲でいいからよ、何かないか?」

 

 声をかけてきた獣人男だが、自分は近衛を務める戦士だと素性を明かす。

また冒険者にも身を置いているらしく、今も彼の首には金等級の認識票が吊り下げられていた。

長い間この小教会に監禁されているのか、彼は外の現状を知りたがる。

 

「実は――」

 

 灰の剣士は、現在の状況と共に自分の置かれた立場を小声で明かした。

 

「――ま、マジか!?爺さんたちは救助されたんだな…!そんで、お前はアイツ…って言ったら失礼だな、陛下から厳命を受けた訳か」

「その通り。貴方がたを置き去りにするかも知れぬが、どうかご容赦願いたい」

 

「気にすんな。姫さん等さえ助かれば、士気は自動的に盛り上がるってもんよ。そうすりゃ皆は自力で、もっかい脱出すると思うぜ…!」

「金等級が此処に居てよかった。可能な限りでいい。この二人…特に彼女を優先的に保護して頂けないだろうか?」

 

「何でこんなとこに、お嬢ちゃんが居んだよ?まぁ武器は取られちまったが任せな」

「かたじけない」

 

 全員ではないが王統府要人の一部が助かった事に、獣人戦士は密かに歓喜し安堵した。

同時に獣人戦士の彼は、国王とも旧知の中で金等級冒険者に身を置く実力者でもあった。

彼の実力を見込み、吟遊連弩使いと見習い勇者の警護を頼み込む灰の剣士。

成人を迎えていない幼子が居る事に困惑した獣人戦士だが、彼の頼みを難なく受け入れる。

 

「みんな、凄くシンドそうだね」

「そらそうだろうさ。こんなカビ臭い所に閉じ込められてんだからよ」

 

 辺りに見回す見習い勇者と吟遊連弩使い。

彼女の視界には、項垂れる人々が映っていた。

今も状況打破を諦めていない猛者も居たが、ほんの一部だ。

既に半数以上が、諦め半分で事の成り行きを見守っている。

 

「それだけで心折れる連中じゃねぇって。コイツ等だって名うての手練れだったんだぜ。まぁ事情を聞いてみな?」

「そうだな。出来る限り情報は欲しい」

 

 現在虜囚と化している彼等だが、決して低能揃いではない。

寧ろ高い等級と実績を備えた実力者ばかりで、過去には数多くの依頼達成を成し遂げていた。

赤黒い空と陽光に加え死臭の蔓延するロスリック内という悍ましい地域だが、それだけで滅入る彼等ではないのだ。

環境だけではない別の要因が、今の彼等を作り上げている。

そう告げる獣人戦士に促され、他の虜囚からも情報を得る事にした灰の剣士。

 

見渡す限り彼等も武具を取り上げられている事が分かる。

獲物とする武具は力の根源でもあるが、同時に精神的支柱を担っていた。

それ等が手元に無いという現状に、大半は心が萎えてしまっている。もし手元に武具さえ戻っていれば、今も抵抗を続けていただろう。

 

戦士を名乗る一人の男に話を聞く事ができた。

 

「勝敗に関係なく、何処かに連れて行かれるんだ」

 

 闘技を強制された者たちだが、勝とうが負けようが戻って来た者は一人も居ないという。

 

聖職者の男による情報。

 

「我々の意思なんて殆ど無視される。見知った仲間は全員犠牲となり、残ったのは私一人…くッ――」

 

 強制参加に加え、一党は疎か武器防具さえ自由には融通させてはもらえないとの事。

酷い場合には、斧戦士に弓を装備させる事もあるという。

先んじて犠牲となった彼の仲間は、二度と戻らない。聖職者の男は、憤怒と悲哀の涙を流し続けた。

 

魔術士の女に話し掛ける灰の剣士。

 

「王妹殿下を含めた要人の前で戦わされるの。きっと見せしめや反骨心を削ぐのが目的だわ、悪趣味な奴等よ…!」

 

 闘技の舞台となるのは、聖堂の大広間で間違いない。

その大広間には大勢の混沌勢が集い、天井に吊り下げられた籠牢の中に王妹を含めた要人たちが囚われている。

闘技に勝利すれば望みを叶えてやると告げた混沌側だが、結果的に誰一人として戻ってはいないという現実。

此処は敵陣なのだ。此方の思惑など、無いに等しい。今や完全に混沌勢に翻弄され、今直ぐの状況打破は厳しそうだ。

 

――やはり救出を最優先にするしかないか。アンリやカムイと合流できれば、別のやりようもあったのだが何処に居るのか。

 

敵勢力は多勢に過ぎ精神干渉や搦め手を得意とする、女系の魔神軍が跋扈している環境だ。更に大広間では、女系の魔神王までもが鎮座しているという情報も入っている。

人質が居ないのであれば一人だけでも自由に立ち回れるが、今回は段階を踏まねば解決は難しいだろう。

当初の思惑通り、先ずは王妹を始めとした要人たちの救出を最優先した方が良さそうだ。

もしアンリやカムイと合流出来れば効率よく役割分担も成せたが、未だ姿を見せていない。

念のためソウルを探ってみたが、周囲から流れ込むのは異形や魔物の波形ばかり。

長丁場になる事は避けられず、脳内で解決策を構築してゆく。

 

『お、おい、始まるぞ…』

『クソ…!矢継ぎ早に…!』

 

 そうこうしている内に、誰かの声が他方から耳に届く。

何が始まるというのか、改めて語るまでもない。

 

『さぁ、よく見ておきなさい!お前達の不様な生き様と末路をッ…!』

『憐れな秩序勢よ、お前達の命運は最早尽きたのだ!』

『我らの俯瞰の下、精々藻掻き踊り狂うが良い!』

 

 この小教会を監視していると思わしき、3人の女魔神が声高らかに叫ぶ。どよめく人質たちを余所に、彼女ら声音は何処となく愉し気だ。

 

これから闘技が再開される。

人質に囚われた時より既に何度も繰り返され、『またかよ…』といった具合に彼等は辟易を覚えていた。

 

女魔神の一人が指先から魔力の礫を放出し、中央最奥に設けた板状らしきナニカに撃ち込んだ。

板状の調度品だが、どうやら映像板(スクリーン)のような役割を果たしている事が分かる。

 

魔力礫に連動し、板状の調度品から映像が投影された。

その映像から察するに、聖堂の大広間である事が判別できる。

 

「うわぁ…すっごい…!何アレ…?」

「俺も初めて見たぜ…水晶の映像とは雲泥の差だ…」

 

「そりゃ驚くよな。もう俺は見慣れてしまったが、マジで混沌勢の技術力は侮れんぜ…」

 

 この国でも水晶に映像を映し出すという技術は存在し、比較的広く流通していた。

しかし水晶という限定的な大きさではなく遥かに広い範囲で投影された映像に、見習い勇者と吟遊連弩使いは釘付けとなり見入っている。

二人の反応に獣人戦士は相槌を打ちながらも、混沌勢の技術力に危機感を募らせる。

一体どのような手法で映像を投影しているというのか。

恐らく既存の技術を改良発展させ実現させたと考えられるが、出所までは想像が付かない。

異界の技術なのか他国から伝達されたのか――。

 

「参加者…一人だけか…」

 

 灰の剣士の視界に映るのは、映像板に投影された一人の剣士風の男。

今の彼と似たような風貌をしており、軽鎧に二刀の剣を携えていた。

幸いな事に要望が通ったのだろう。

得意とする剣を装備させてくれた様だ。

 

「不味いな…アイツの得意は大剣なんだ…。アレじゃあ、満足な戦闘は出来ねえよ…」

 

 傍に居た男が、か細い声で呟く。

確かに映像の男は剣士で間違いないのだが、実は大剣を得意としていた。

しかし映像を見る限り、剣士風の男は小剣(ショートソード)を二振りという出で立ち。

あれでは実力の半分も発揮出来ないという。

 

「だけどアイツ、銀等級の筈だ。若しかしたら――」

「いや駄目だ…!アイツの仲間は…もう――」

 

 映像より流れる佇まいを見る限り、剣士風の男は闘志を漲らせている様に見え絶望とは程遠く感じられる。

あの男なら若しかすると――。

微かだが希望を抱く者と、現状に絶望を覚える者達。

どうやら彼の仲間も先んじて犠牲となり、単身では真の実力は出せないとの事だ。

 

「始まるみたいだ」

 

 獣人戦士の声と同時に闘技が再開された。

剣士風の男の相手だが、武装した騎士風の女性だ。

だが体の所々に肌の露出が見られ、背には大翼と太い尾が生えている。

顔立ちは美形だが何処となく蛮人染みた荒々しさが滲み出ており、只人ではないのは確実だ。

 

「銀等級の剣士と女系魔神騎士の組み合わせ…!」

「さぁて…、少しは愉しませくれないとね…!」

「さっきの奴は、直ぐ虜になっちゃったもんね。見ているコッチは、つまらないのよ…」

 

 看守役の女魔神も口々に何かを喋り出し、精神干渉についても仄めかした。

彼女らの口振りでは、たとえ闘技中と言えども横槍が入る可能性が考えられる。

 

「あの巨大な女は何者だ?」

「わぁ…おっきいお姉さん…。黒い羽だけど白鳥さんみたいだよ」

 

「アレが女系の魔神王さ。見た目に惑わされんなよ、あっという間に魅了されちまうからな」

 

「成程、圧倒的に敵側が有利な条件下という訳か」

 

 映像の巨大な女に吟遊連弩使いと見習い勇者は関心を寄せ、獣人戦士が二人に忠告する。

 

あの巨大な女が噂の『女系の魔神王』との事。

十数メートルに達する背丈を誇り、黒色ながらも白鳥を模した大翼を生やし、頭部からも2本の角が露わとなっている。

巨体だけでも他とは一線を画すが非常に柔和な顔立ちに凹凸の激しい肢体を有し、宛ら女神の如き慈悲と娼婦の淫靡を混在させていた。

否でも意識せざるを得ない存在感に灰の剣士も目を向け、敵側の土俵で戦うという現実を再認識する。

 

闘技の内容だが、流石銀等級なだけあり剣士風の男が終始圧倒していた。

剣や武力では敵わない判断した女系魔神騎士は、精霊魔法に切り替えるも結果は変わらず追い詰められる一方。

その闘技内容に一部の者たちは希望を見出したが、途中から剣士風の男の動きが目に見えて鈍くなる。

 

「やっぱりな、()()()()か…」

 

 予想通りだと言わんばかりに獣人戦士は僅かに頭を振る。

彼が言うには、精神操作を受けたとの事だ。

カメラが闘技に集約した事で映ってはいなかったが、何者かの精神干渉が介入したと獣人戦士は分析する。

彼の話によれば、やはり女系魔神王の精神干渉が飛び抜けて強力だというのだ。

広域に影響を及ぼし長期間の傀儡化をも可能とする非常に強力な能力で、彼女の介入が無ければ王妹救出作戦は成功していた程だ。

 

――私の『魅了』よりも上かも知れんな…厄介だ。

 

灰の剣士も呪術の火である『魅了』を習得している。

これは対象物に強力な魅了効果を与え、思いのままに操る事を可能とする術だ。

効果時間は精々1分前後だが暗示や催眠を施す事もでき、使い方如何によっては効果時間が切れても暗示で思うように操作する事さえ出来る。

だが剣士風の男を見た限り、既に傀儡も同然な状態に陥っている様だ。

もはや結果は明らか。

映像板には音声機能も備え、女系魔神騎士の声も聞こえて来る。

 

『さぁコッチにおいで…、たっぷり可愛がってあげるわ…クフフフ…』

『はい…お望みのままに…』

 

 激しい戦いは嘘のように消え失せ、剣士風の男は無抵抗のまま何処かへと連れて行かれてしまった。

 

『――なんだよ、もおおおお、()()かよおおおおっ!!』

 

 映像を介した闘技の結果に、一人の男が感情のまま叫んだ。

何度も似たような結果を見てきたに違いない。

たとえ有利に事を運ぼうとも、敵側の介入で結果を覆されてしまう。

此処に囚われている以上、実質緩やかな死刑にも等しいのだ。

この結果も大方予想していたのだろう。小教会の至る所から落胆の声が零れていた。

 

……

 

あれから幾許かの時間が経過した。

 

『――え、なになに…ハァ…!?…白磁等級?』

『何で素人みたいな奴なんか…?』

『まぁいいわ。結果なんか見えてるけど、新兵の訓練にはなるでしょ?』

 

「――おいッ!そこのフード被った新人ボウヤッ!…悪いけど出番よ、さっさと立ちなさい!」

 

 小声で話し込んでいた監視役から怒鳴り付けられる灰の剣士。

どうやら彼の出番が回って来たらしい。

 

「お、おい…、いよいよアンタの番だ」

「お兄ちゃん…呼ばれてる…」

「なんか作戦があるみたいだが、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 ゆっくりと立ち上がる灰の剣士に、吟遊連弩使い、見習い勇者、獣人戦士が不安げに声をかける。

 

「後は頼んだ、絶対に生き延びてくれ」

 

 対する彼も後事を託し、看守役の彼女たちへと歩み寄る。

 

「一応だけど勝利した時の望みを聞いてあげるわ。あと装備は何が良いの?」

「お、お、オイラは…け、けけ、剣士だ。オイラの剣を返せ…!そんで…姫様に会わせろ!」

 

「アラアラ粋がっちゃってからに。悪いけど、ボウヤの装備は私らの気分次第よ。ご希望に沿える保証はないの、残念でしたぁ…アッハフフフ♪」

「くッ…ひ、卑怯だぞ!オイラが皆を救ってやるんだぁ…!」

 

「アイツ、また下手な演技を」

「見てて不安になってきたぜ…」

「ボクも…」

 

 再び新人を演じる灰の剣士に、見習い勇者たちは頭を抱えた。

素人目に見ても顕著な大根役者ぶりだが、どういう訳か看守役の彼女たちは真に受けているようにも思える。

また彼女たちに向け、周囲の人質からも非難の声が飛び交った。

 

「おい、何で新人を戦わせんだよ!」

「代わりに俺が戦ってやる、俺を出せぇ!」

「まだ私よりも若いじゃないのよ、せめて私も連れて行きなさい!」

 

「アンタらは黙って見てな!焦んじゃないっての!」

 

 新人に戦わせる位なら熟練者である自分が――。

そう意気込み次々立ち上がる者が続出するが、看守役の一人が何やら呪文を行使し怪し気な霧を放出した。

その気体に包まれた途端、一瞬にして彼等は黙り込み大人しくなる。

 

「…催眠の類か?」

「そうだろうな。だが効果は限定的なモノだ。コイツ等は中級程度の魔神だが、こういう術が得意だから俺達も下手に暴れられんのさ」

 

 その様子を遠間から見ていた吟遊連弩使いと獣人戦士。

今行使した呪文が、催眠や暗示に付随した精神干渉の一手段である事を見抜く。

非難の声を上げていた彼等も元は手練れの実力者揃いで、獣人戦士に至っては金等級の英雄並だ。

もし彼等が万全なら、この程度の包囲など容易に打ち破れる。

厳密に言えば獣人戦士一人だけでも成し遂げられるのだが、手を拱いていたのは彼女達の精神干渉が原因であったからだ。

実力者の彼等でさえ成す術も無く抵抗力を喪失させてしまう、彼女達の得意とする能力――。

加えて有効な武器や魔道具も軒並み没収されているという悪条件も重なり、彼等は大人しく要求に従わざるを得なかった。

 

「ホラ、アンタにはこれで十分よ」

「ぐッ…オイラをバカにして――(完全に油断しているな)」

 

 看守役の一人から武器を手渡される。

結局は希望を聞き入れてもらえず、渡されたのは『折れた直剣』という損壊した武器だった。

それを悔し気な表情と言葉で演じながら、渋々を装い受け取る灰の剣士。

だが彼の視界には、心底見下したかのような嘲りが看守役から見て取れた。

その様子からでも自分を弱者と判断している事を確信し、彼はワザと全身を戦慄かせる。

 

「後は其処の奴隷に案内して貰いな、新人ボウヤ…!」

「お…覚えてろよ!(彼は近衛兵…完全に傀儡化している)」

 

 粗悪な装備を渡された灰の剣士は、案内役の奴隷に引き連れられ聖堂大広間へと先導された。

だが彼の服装は国軍の近衛兵のもので、どうやら支配下に置かれているようだ。

まるで自我を喪失した振る舞いを察するに、何らかの精神干渉を受けた可能性が高い。

案内役の奴隷と共に大広間へと向かう灰の剣士。

道中で幾人かの混沌勢を見かけるも、深みの聖堂自体の内部構造は然して変化が見られなかった。

道順も彼の記憶する通りで、これなら幾度にも及ぶ襲撃にも十分活かせそうだ。

 

「私の言葉が分かるか?…貴方は近衛兵なのだろう?」

「…うるさい…、余計な…口を開くな…」

 

 人気の無い辺りで試しに声をかけてみた灰の剣士。

しかし相手の反応は酷く無機質で、取り付く島もない感じだ。

一応言葉は返してくれるが、自我は希薄で自分が何をしているのか現状認識には乏しい様子だ。

 

「貴方も必ず助ける、もう暫く耐えてくれ…!」

「…だマレ…我が命は…魔神王様の物…だ…?」

 

 無駄とは知りつつも生き延びるよう声をかけ続ける灰の剣士。

彼の反応も相変わらずだが、微かな自我も残留していると思わしき様子を見せた。

 

――今に目にモノを見せてくれよう。

 

そこからは特に言葉を発する事無く、彼は大広間に案内された。

今は救出に注力するため全力を振るう事もできないが、それが終われば後は存分に暴れる事もできる筈だ。

その時は全ての力を行使し、縦横無尽に暴れ回ってやろう。

好き勝手に振舞う混沌勢に向け、敵意と闘志を静かに抱く灰の剣士は『折れた直剣』を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

女系の魔神騎士(一般)

 

女系の魔神軍に仕える騎士階級の女魔神。

軍の名の通り構成員は全て女性で、中級の女魔神であれば騎士として認められる。

精神干渉や搦め手を得意とする女系魔神軍の中でも、比較的武闘派の傾向が強い。

基本的に彼女らは人型だが、時には異形染みた姿の女魔神も確認されている。

原則的には魔神の眷属が所属しているが、中には女闇人も部隊に組み込まれている。

彼女ら騎士階級は総じて、下級の女魔神兵を統括する事もあり軍の中核を担っている。

だが彼女達も下級騎士であり、熟練冒険者や只人の騎士相手に後れを取る事も多々あるようだ。

 

 

 

 

 

 




ブラッドステインドなる作品にハマり、執筆そっちのけでプレイしていました。
ハイ、唯の言い訳です、すみません…m(_ _;)m

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/
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