ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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秘密裏に更新致します。
(フフフ、気付くまい)
今回も、敵側視点でのお話です。ちょっと短いです。

では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第160話Ⅽ―ロスリック・深みの聖堂、騒乱の教会(後)―

 

 

 

 

 

 

アギールの炎

 

竜餐の祈祷、その高位のもの。

飛竜アギールの力を振るう技。

己が姿を竜となし、上空から炎のブレスを吐く。

タメ使用で、ブレスを吐く時間が延びジャンプ中に使うこともできる。

 

リムグレイブの湖では、亡者たちが空を見上げ、その竜炎に焼かれ死ぬことを祈っていた。

 

過酷な狭間の地において、更なる狂人が降臨を果たす。

しかし彼が望み得たのは、大仰なる強靭な翼であった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

   デエェェ ―― 深みの聖堂 ―― ェェェエン

 

混沌勢にとっては、活性の一因とも言われている赤爛れた陽光。

しかし一人の女魔神には、不快以外の何物でもなかった。

夜が明け地平線から昇り行く黒い太陽は、深き夢から見ても異様そのもでしかなかった。

 

「あの王、何時までこの状態を続ける気かしら?まだ見付けられないの、全く…」

 

 青く澄み切った空など、もう過去の話。今は赤黒い空が、この国を支配していた。

直視に堪えぬ赤黒い空と黒い太陽を恨みがましく睨み付けながら、深き夢の二つ名を持つ女魔神は目的地へと飛ぶ。

仮にも魔神ゆえ、赤爛れた陽光を幾ら浴びようとも自身には何の影響もない。しかし、腕に抱えた幼い少女は只人であり、早くも陽光の影響が滲み出ていたのである。

既に肌の至る箇所から、鮮血が染み出ていた。

 

「いけない、いけない、折角の生贄。大事に扱わなくっちゃね」

 

 灰の剣士により、生贄として捕らえた王妹は助け出され居場所すら不明という有様。

これでロンドールの計画する儀式は頓挫したかと思われたが、思いもよらぬ形で更なる生贄が手に入ってしまったのだ。

しかも王妹に比べ、更なる優れた資質を秘めているという嬉しい誤算付き。

 

正に、棚から牡丹餅。

 

生贄として儀式に捧げれば、この少女は言うまでもなく消失するのは確実。

だが、少女の肉体そのものにも利用価値があるのではないか?漠然とだが、そう感じ取った深き夢は別組織に属する然る人物を頼り、聖堂内の一区画を目指していたのである。

 

「儀式再開まで残り二日ほどだけど、少し先延ばしにしてもいいかもね」

 

 王の黒い手カムイにより、儀式は妨害され先延ばしという憂き目に遭ってしまった。

だが考えようによっては、これは利点となりうるかもしれない。

とにかく新たに入手した見習い勇者という少女は、ソウル以外にも計り知れない可能性を感じるのだ。

どうせ犠牲にするのなら、徹底的に所余すことなく利用する。

それ程の価値を見出した深き夢は、儀式を先延ばしにする事さえ厭わなかった。

その事で、他の同志から抗議されようとも知った事ではない。

あの『闇の王』以外の同志など、恐るるに足らず。殆ど監視の目も緩い今なら、多少気ままに振舞ったとしても何ら問題にもならないだろう。

 

「旧黄金律を手にするのは…この私よ…!」

 

 心の奥底に燻ぶる野心に、彼女は歪んだ心地良さを感じていた。

 

数多の混沌勢が徘徊する通路を器用に擦り抜け、地に足を付ける事無く目的の部屋前まで辿り着いた。

 

「…?…貴女様は――」

「不躾で申し訳ないのだけれど、通して頂けるかしら?」

 

 目的の部屋の入口は、言うまでもなく鉄扉で閉ざされている。

その扉前には、重装鎧に身を包んだ聖堂騎士たちが門衛を務めていた。

使者も送らず唐突の訪問は、たとえ深き夢と言えど無条件に通す訳にはいかない。況してや、彼女はロンドール側に属する別組織の構成員だ。

 

「…分かっているわ、でも大事に関わる案件なの。世界の構造に関わる程の…ね」

「……。もう直ぐ、我が主が帰還されます。くれぐれも粗相のなきよう」

 

「ありがと♪感謝するわ」

 

 一門衛ごときに処理できる問題ではないと、暗に諭した深き夢。彼女の意図を察したのか、二人の聖堂騎士は鉄扉を開き彼女を部屋へと通す。

その際、組織の長が帰還するという旨を付け加えておいた。

深き夢も、最小限の礼だけ述べ早々に部屋へと足を踏み入れる。

 

「おやおや、これはまた大物の御来訪だねぇ♪」

「ウフフ、誉め言葉として受け取っておくわ、仮面の錬金術師さん♪」

 

 深き夢が辿り着いた場所というのは、あの仮面の錬金術師が所属する『妖王オスロエス』の組織が根城としていた区画であった。

以前にも面識があったのだろう、二人は世間話でもするかのような軽いやり取りで挨拶を交わした。

 

「誰かと思えば、ロンドールの4騎将とやらか。腕に抱えている、その子供に関係した案件か?」

「これはこれは、鈴玉狩りの戦士殿。成果の程は如何かしら?」

 

「フン、貴様に応える義理は無い」

「ウフフフ、つれない御仁ね♪」

 

 輝石の照明で溢れる部屋には、狭間の地より流れ着いた鈴玉狩りこと『鉄茨のエレメール』も控えていた。

皮肉交じりの言葉で牽制するも、彼女は軽く受け流す。

 

「あら…、良さそうな子…、あたしに…くれるの…?フフフフフ…」

「残念だけど、差し上げられないわ♪」

 

「身体だけ…部位(パーツ)だけでも…?」

「ええそうよ。凄く利用価値があるの、この子♪」

 

「凄い、()()()…思い付いたのに…」

「今も彷徨ってる冒険者たちで我慢してくれる?まだまだ捨てたものでもなくてよ?」

 

「そう…するわ…、ンフフフフ…でも、もっと活きの良い身体…躰…」

「この子の価値を見出した観察眼は、職業柄…かしらね」

 

「ロスリック中に溢れている小鬼では不足だと?」

「いやよ…、臭い、汚い、醜い、()()()()気持ち良くない…、最悪…もう飽きた…」

 

 他にも『気抜けの女魔神』は、見習い勇者に興味が湧いたのか譲渡を求めてきた。

普段から気怠そうな振る舞いで過ごす『気抜けの女魔神』だが、捕らえた生物を非検体と称し、生きたままの解体と継ぎ合わせを繰り返す異常性癖の持ち主でもある。

先程、清拭の小教会の映像板を通し大勢の冒険者たちに見せていた光景だが、この『気抜けの女魔神』が主犯として映っていたのである。

(本編前夜 第160B話参照)

彼女が腐心する人形遊びと称した実験は、別名『接ぎ木』と呼ばれていた。常日頃から生物の解体に携わってきた彼女は、一目で体組織の是非を見分ける()()さえ備えていたのである。

彼女の要求を難なく躱した深き夢。

 

「見ない顔ぶれが増えている様ね?新しい参入者?」

「そんな処だよ、それにしても急な訪問だね?その少女…唯者じゃない様だね?」

 

「その通りよ。……あら、其処のボウヤ…只人の…しかも生者の様だけど、この子がどうかした?」

「……!…何でもない」

 

 エレメールや気抜けの女魔神との戯れ(?)を済ませた深き夢は、仮面の錬金術師との交渉に移る。

とはいえ、やはり目立つのだろう。傍目に晒された見習い勇者に関係した件だと、直ぐに見抜かれてしまった様だ。

だが、ふと奇妙な視線に気付いた深き夢。

部屋の片隅に控えていた、貴族服を纏った剣士風の青年に振り向く。

その青年は、見習い勇者の方へと意識を向けていた様だ。何か思う部分でもあるのだろうか?

少々気になった深き夢だが、その青年は直ぐに視線を外してしまう。

 

因みに今の彼は、元の姿へと戻っていた。

以前、エレメールと共に灰の剣士を襲撃した甲冑姿だが、既に任意で制御する術を確立していたのである。

(本編前夜編 第156話参照)

 

「ククク、大広間での宴だけど見ていたよ、使い魔を通してね」

「お見苦しい場面を提供してしまったわね。私だけの責任でもないけれど、…してやられてしまったわ。…()()()()とやらに」

 

「またの名を――」

 

「「薪の王」」

 

「アレを侮ってはいけない、私も苦渋を飲まされ未だ目的達成に至らず」

「…貴方も苦労している様ね」

 

 昨晩、大広間での闘技擬きだが、この組織も傍観していた。

それ故、あの灰の剣士により王妹が救出された事も彼等は知っている。

そして仮面の錬金術師と深き夢は、灰の剣士のまたの呼び名をハモらせた。

 

王妹救出により生贄の儀式は阻止されたかに見えたが、より上質の生贄が手に入った事を明かす深き夢。

それを聞いた仮面の錬金術師も、大方の事情を察した。

 

「成程、儀式にはソウルさえあれば事足りる。だが、彼女の肉体(血肉)にも有用性を見出したと?」

「そうよ。ただ生贄として使い潰すのは、少し勿体ないわ」

 

「そこで私の出番という訳だね?」

「悔しいけど、貴方以上の錬金術師は、ここ以外には存在しないの。協力して頂けると嬉しいのだけれど?」

 

「助成も吝かではないのだが……、その前に…どうやら()()()が御帰還された様だ」

 

 深き夢より事情を聞き、見習い勇者の有用性を共有する仮面の錬金術師。

生贄としてだけでなく別の利用法を見出したい深き夢の思惑に思案を巡らせるも、主である『妖王オスロエス』の帰還を察知した。

 

「諸君、列を正し頭を垂れよ!我らが主が御帰還成された…!」

 

「「「「「……!」」」」」

 

 妖王オスロエスは、長きに渡り聖堂を留守としていた。その主の帰還を察知し、周囲に出迎えるよう号令をかけた仮面の錬金術師。

ロンドール黒教会ほどではないにしても、仮にもロスリックの王族でもあった『妖王オスロエス』という存在。

客分とはいえ、深き夢やエレメールも膝を折り頭を垂れた。

 

「……」

 

 加えて貴族服の青年でもある王侯の剣士『クリストフ=オーレル=アーランド』も、不承不承ながら皆に倣う。

 

程無くして部屋の一区画から、奇妙な魔法陣が浮かび上がり激しく発光する。

その魔法陣より竜型の巨体が浮かび上がり、やがて皆の前でその威容を見せ付けた。

 

「……皆の者、大儀である。面を上げよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

 人型でありながら竜をも彷彿とさせる奇妙な体躯を有した異形、それが妖王オスロエスである。

異形ながらも流暢に人語を発し、暫しの沈黙を経た皆はゆっくりと頭を持ち上げた。

 

「――ッ!?」

「――ひッ…!?」

「…ほぅ」

「あら、まぁ…」

 

 出迎えた各々は、オスロエスの姿に別々の反応を見せる。

恐怖を感じた者。

畏怖を抱いた者。

関心を寄せる者。

そして――。

 

「我が主、御無事の帰還、心よりお待ちしていました。…その輝かしい見姿…、()()なさったのですね」

 

 仮面の錬金術師も姿勢を正し、オスロエスの姿に目的達成を称える。

 

「ククク、世辞には及ばぬ。だが、彼の地で多くを得たことは認めよう。この姿…、真なる上位者へと一歩前進を成したのだ」

 

 結論から言おう。

妖王オスロエスは、()()()()()()()へと赴いていた。

朽ちたとはいえ幾許かの名残も形を保っており、彼はケイリッドに在る『大竜餐教会』にて竜餐の儀式を執り行っていた。

竜餐の儀式とは元来、竜の心臓を食らいその力を得るための儀式である。しかし繰り返せば繰り返す程、徐々に内側より侵食され遂には理性と自我を喪失し、歪な竜の成り損ないへと辿り着いてしまう。

それは『ドラゴンハーディト』と呼ばれていた。

だがいくら竜の心臓を食らい儀式を執り行ったとて、完全な竜の力を再現する事は不可能である。しかも適正ある者でも、ほんの一部の体現に過ぎなかった。

そこでオスロエスは可能な限り知識を搔き集め、心臓と肉体に独自の錬金術を施していたのである。

目的の第一段階として、先ず()()()()()()()を彼は欲していた。

以前の彼は、竜擬きとも揶揄される程に貧弱な肉体しか持ち合わせていなかった。

そこで錬金術で加工した『飛竜アギール』の心臓を食らう事で、肉体中心の強化を図ったのである。

その甲斐もあり、彼の肉体は以前とは比較にならない程の強靭で逞しい肉体へと変容していた。

 

「しかし飛竜アギールは、竜種の中でも下位に位置する存在です。あの心臓だけで、それ程の肉体に至れるとは考え難いのですが?」

「左様、アギールで得た肉体強化は、主に飛行能力…つまり大翼の獲得であった」

 

 だが此処で疑念を投げかけた仮面の錬金術師。

いくら錬金術で改良したとはいえ、飛竜アギールは下位の竜種である。その心臓一つだけで、今のような強靭な肉体を得るには少し無理が生じていた。

それはオスロエスも承知しており、彼は引き続き朽ちた狭間の地での体験談を語った。

 

飛竜アギールの心臓より得た、大幅な飛行能力の強化。

オスロエスは、その飛行能力を駆使し別の地域を徹底的に偵察した。

其処で新たに発見したのは、『グレイオールの竜塚』と呼ばれる地域だった。

その地域には比較的小型の飛竜が多数生息しており、早速オスロエスは飛竜たちに襲い掛かった。

以前の彼なら、一体の飛竜にさえ苦戦していただろう。

だが飛竜アギールの心臓で得た大幅な飛行能力を存分に活かし、飛竜たちを翻弄し一方的な勝利を収めた。

そして飛竜たちから取り出した複数に渡る『竜の心臓』に錬金術を施し、再び大竜餐教会にて儀式を行った。

複数の飛竜の心臓から得た恩恵は凄まじく、彼は大幅な肉体強化へと至ったのである。

その後、彼は締め括りとしてファルム大橋に生息する『飛竜グレイル』に戦いを挑んだ。

同じ飛竜でありながらアギールとは比較にならない戦闘力を備えていた『飛竜グレイル』に、相当の苦戦を強いられたオスロエス。

強化された肉体と飛行能力、そしてソウルの結晶魔術を総動員し辛くも勝利を収める事ができた。

飛竜グレイルを下し、その心臓にて再び強化を図ったオスロエス。

更なる肉体の強化と共に、強大な火炎ブレスまで体得する事が叶う。

 

「そう言う事でしたか。複数に渡る竜討伐に加え、竜餐儀式による強化。ならば竜種の如き強靭な肉体にも説明が付きます」

「そうであろう…と賛美したいのだが…。大竜餐教会の近隣に居た、飛竜『エグズキス』には及ばなかった。たとえ勝利を収めたとしても、赤い腐敗など持ち込みたくは無いのでな」

 

「英断です。あの朽ちた地では、赤い腐敗も衰えているようですが、竜種に宿る腐敗は未だ健在の筈」

「うむ、刺激せん方が無難であろう」

 

 以前とは比較にもならない程に、強靭で逞しい竜種の肉体へと至った妖王オスロエス。

それ程の彼を以てしても赤い腐敗と関わる事を避け、飛竜『エグズキス』を刺激する事を控えた。

今や()()()と化した朽ちた狭間の地。

ほぼ活力も喪失した地では、赤い腐敗でさえ勢いが衰え不毛の地へと侵食されていた。

だが飛竜『エグズキス』の全身は、赤い腐敗に侵され未だ猛威を撒き散らしていたのである。

普段は寝ている状態でさえ、絶えず赤い腐敗の周囲に撒き散らしているのだ。

悪戯に刺激し暴れ回ろうものなら、その被害は筆舌にし尽くし方ほどの規模に発展するだろう。

 

「さて、私が留守にしている間、そちらでも何か動きがあったようだな?詳細を聞こうか?」

 

「ハッ、先ずは――」

 

 朽ちた狭間の地での体験談を語り終えたオスロエス。自分が居ない間、この深みの聖堂でも何か動きが起きていた事を察し、仮面の錬金術師へと詳細を求める。

 

……

 

「ほぅ、その様な事が。…見ない新顔に、よく見れば『深き夢』まで参じているではないか。どうしたのだ、其方ほどもあろう御仁が我が陣営に加わりたいと?」

 

「ンフフフ、お目にかけて頂き光栄の至りですわ。実は少々お力添えをと思い、こうして馳せ参じたのでございます、妖王陛下」

 

 ロンドールによる王都襲撃の件については、オスロエスも知る処ではあった。

だが灰の剣士の暗躍までは存じておらず、事の経緯を聞いたオスロエスは現状を察す。

 

「薪の王による暗躍…、忌々しい事に変わりないが、新たな贄を得た?」

「はい…、しかし他の可能性も見られ、彼にご協力を申し出た次第でございます」

 

「其方らの悲願は『旧黄金律』の復古、新たな翼で旧黄金樹の末路を俯瞰したが、生半可な手法では復古は叶わんと私は観た。どのようにして悲願成就を果たす積りだね?」

「……」

 

「ククク、私とした事が無粋であったな。しかし、無償の奉仕という訳にはいかぬぞ?」

「はい、それは重々承知しておりますわ。…とは言え、此処の組織は大抵のモノを用立ててしまう。私めの懐では、お目に適うモノを用意するのは難しいでしょう」

 

「そうであるな。では、其方には少し足労を頼もうか?…其方の能力なら、そう時間は取るまい?」

「ハッ、私めに出来る事であれば何なりと」

 

 思いもよらぬ流れで見習い勇者を得た深き夢、悲願成就のみならず私欲の為にも助成を願い出る。

これは取引でもあり、単なる協力ではない。当然、助成に見合う見返りを用意しなければならない。

だがオスロエス陣営には、仮面の錬金術師という殆ど規格外の存在が居た。彼の錬金術は生半可な術士を遥かに凌ぎ、大抵のモノを実現させてしまうのである。

彼の才覚の前では、深き夢の手持ちでは相応の見返りを用意する事は困難であった。

 

「あの教会の狩人めは知っておるな?」

「ハッ、あまり交流はありませぬが」

 

「アレの偵察を命ず、まだ使い道もある」

「よ、宜しいのですか、妖王陛下…様…?」

 

「…其方は、死灰神の教会に属しているのだったな。構わぬ、翻意と蛮行が目立つが、あの才覚を捨ておくのも惜しい。…然らば、其方にも協力して貰おうか?」

「は、はいっ…、お、仰せのままに…!」

 

 オスロエスの課した依頼。現在、離反状態にある教会の狩人が率いる『医療教会』の情報収集を命じる。

その内容に驚いたのは、深き夢ではなく寧ろ()()()()()()()の方だ。

今の教会の狩人は、既にオスロエス陣営に組しているとは言い難い程に、身勝手な行動が散見されていた。

それでも彼の能力を手放しにしておくには惜しい人材であり、オスロエスは再び帰属させる事を望んでいたのである。

また眼下の少女が教会の狩人と行動を共にしている事も、オスロエスの知る所であり彼女にも協力を課す。

無論、オスロエスに逆らおうなどという気概も理由も無い彼女は、畏怖しながら深く頭を垂れ従った。

深き夢と死灰信徒の少女に、教会の狩人の偵察を命じたオスロエス。

だが少女の方は、オスロエスの威圧溢れる迫力を前にし完全に委縮してしまう。

 

「付かぬ事をお伺いいたしますが宜しいでしょうか、妖王陛下?」

「…申してみよ」

 

 取り敢えずだが協力を取り付ける事には成功した深き夢。

この件を済ませた彼女は、再びオスロエスへと然る話題を振り掛けた。

 

「あの御方…ローリアン王子様の処遇は、どうなさるお積りで?」

「ほぅ、アレに興味があると?」

 

「興味どころか、()()()として迎えとうございます。あの御方も歴とした神人の血を引く存在、あれ程の御方を放置するなど私めには断腸に通ずる思いですわ」

「…確かに。こ奴めは、私でさえ羨望するほどの才覚を授かっていた。しかし今や、呪いに侵食され何時亡者に変じても可笑しくはない、ホレ」

 

 密かに望んでいたのである、深き夢は。

ロスリック王族にして双王子の片割れ『兄王子ローリアン』を、()()()()へと迎え入れる事を。

彼女の言う『兄王子ローリアン』には双子の弟『ロスリック王子』が存在し、二人は双王子と呼ばれていた。

双子の内、弟であるロスリック王子は薪の王資格者でありながら、先天的に病を抱えた萎びた赤子として生を授かった。

しかし兄王子ローリアンは、超人的な肉体と隙の無い才覚に恵まれ、遥かなる太古では『デーモンの王子』を単騎で討ち取ったほどの武勇を誇っていたのである。

どの様な手段で双王子の情報を得たのか定かではないが、とにかく深き夢は兄王子ローリアンに固執していた。

 

だが兄王子ローリアンは、今も呪いにより歩行能力と言葉を発す機能を消失。更には長き呪いの浸食により、ほぼ自我をも失い半ば亡者にまで陥っていた。

気紛れでも起したのか、オスロエスは空間からローリアンを出現させた。

 

「ああ…ローリアン様、何とお労しいお姿か…」

 

 かの火継ぎの時代では、王とは伴侶をも意味していた。

即ち、兄王子ローリアンを王配として迎え入れる事を彼女は望んでいたのである。

密かに待ち望んでいたローリアンの姿に、彼女は感銘と同時に多大な失望を覚えてしまう。

既に真面な反応さえも失い、唯々人形の如き項垂れるだけのローリアン。

物言わぬローリアンに思わず手を伸ばす深き夢だが、直ぐに思い留まり静かに天井を仰いだ。

 

「こ奴の扱いにも困窮していてな。竜餐の儀式さえ受け付けなかったのだよ。さりとて、サリヴァーン如きにくれやるのも我が矜持が許さぬ」

「――そ、その様な真似はなにとぞ…!処遇に困窮しておいでしたら、是非にともこの私めに、どうかッ――」

 

「私に預けて頂ければ別の道筋も開けましょうぞ、我が主?」

「――き、貴様ッ!?いかに貴様でもそれだけは許さんぞッ!?」

 

 長期に渡る呪いの浸食により、ローリアンの扱いに困り果てていたオスロエス。

かくなる上は『竜の心臓』を食わせ竜餐の儀式に使おうとも試みたのだが、どういう訳かローリアンは激しく拒絶したのである。

まだ微かに自我が残留していると思われたが、再び困窮していたオスロエス。

それを聞いた深き夢は珍しく取り乱し、代わりに『自分に任せて頂ければ』と提案する仮面の錬金術師に、激情をぶつけた。

 

「ファハハハ、こ奴が欲しいのであれば相応の働きを見せる事だ、深き夢よ。…さすればローリアンの身柄、其方に授けてしんぜようぞ?」

「は、ハハァ~、有難き幸せに御座います…!必ずや、必ずや、ご期待に添えて御覧に入れましょう…!」

 

「…期待しておるぞ?」

 

 これまでほぼ全ての事象に対し自らの流れへと導いてきた深き夢には、感情を乱れさせる症状など長年に渡り無縁にも等しかった。

ある意味で『旧黄金律復古』にも比肩し得るような執着を、兄王子ローリアンに抱いていた深き夢。

主導権をオスロエス側に握られていると知りながら、深々と頭を垂れ恭順の姿勢を見せた。

 

「それでは早速…と言いたい処ですが、この子を何処かで安置しておかねばなりません。可能な限り外部の干渉を避ける安全策として」

 

 そうと決まれば直ぐにでも動く事にした深き夢。しかし見習い勇者を保持したままでは、自由が大幅に制限されてしまう。

出来るだけ外部からの要らぬ干渉を遮断するような、可能ならば安全な異空間に少女を安置しておきたかった。

 

「ならば彼女が打って付けだね」

「え、あ…あ、あたくし…?」

 

「…そう言えば貴女、確かそんな能力を備えていたわね?少しばかりの間、この子を預かって貰えるかしら?もちろん、余計な真似をしないでよ?」

「へ、へぇ…あたくしに対しても…、な…何か見返りはあるのかしら…?(く…こ、恐い、この女…!)」

 

 この陣営には『華美の女魔神』という異能の持ち主も所属していた。

深き夢とは異なる別世界出身で、身体能力も魔力もあらゆる分野で深き夢とは大きく劣る彼女。

精々が下級魔神(レッサーデーモン)に毛が生えた程度の実力だが、彼女には『空間生成』という能力を有していたのである。

これは今とは異なる空間を文字通り精製する能力で、部屋程度の規模なら異空間を生み出す事ができる能力だ。

彼女の能力を駆使すれば、見習い勇者を一時的に保護する事も叶うだろう。

無論、預けている間は『華美の女魔神』の管轄下に置かれる。

その事を懸念しながらも『要らぬ手出し無用』と威圧した深き夢。

一方『華美の女魔神』も見返りを仄めかしつつ、虚勢を張りながら内心では気圧されていた。

 

「後で貴方の能力を分けてくれるのなら、私のソウルを差し上げるわ。今の貴女なら、上位魔人ぐらいには上れるわよ」

「ふ、ふん…悪くない…わね…、か、貸しなさいよその子…、預かってあげるわよ…」

 

「…妙な真似をすれば()()…」

「わ…分かってるわよ…!」

 

 華美の女魔神の能力だが、これは深き夢にとっても有用に働きそうだ。

任務を終えた後、彼女から能力を割譲して貰うとしよう。見返りとして自ら膨大なソウルを譲渡する。

深き夢にとっては僅かなソウルでも、華美の女魔神にとっては莫大な力へと変換されるだろう。

見習い勇者を彼女へと預け、深き夢は早々に部屋から飛び去ってしまった。殺意を込めた脅しをかけながら。

 

「全く…生きた心地がしないわ、あの女…。よいしょッと」

 

 見習い勇者を受け取った華美の女魔神は、何気ない動作で瞬時に異空間を精製。

次の瞬間には、見習い勇者の姿は完全に消えていた。

そしてもう居ない深き夢へと、遠慮のない陰口を叩き始める。

 

「そう言うな。力関係が開き過ぎておる、だがアレとて万能ではない。…その上で愚かの極みよ…、()()()()()()()()()()で旧黄金律とやらを復古させられるものかよ」

「ええ全くです。()()()()()が抜けきっております」

 

「まぁ良い。精々、良いように使わせて貰おうではないか」

 

 深き夢に対し、嘲笑の言葉をかけていたのはオスロエスも仮面の錬金術師も同じであった。

良いように使われているのは、彼女とて承知ではあるだろう。

だが彼女の力は侮れないばかりの水準に達しているの確かで、オスロエスらは更なる策謀を巡らせていた。

 

「さて…、そこな者。其方は何者だ、何処から馳せ参じてきた?」

 

 一頻りの話も済ませ、オスロエスは眼下の青年…王侯の剣士へと視線を寄せた。

 

「――ッ…!?ぼ…僕だと…!?…あ…いえ…、わ、(わたくし)めは…、く…クリストフ=オーレル=アーランド…。此処ではない、アーランド共和国より渡航して参りましたっ…!」

 

「ふむ、アーランド…?…あの国からはるばると…。して、我が陣営に何か惹かれるものでも感じたのかね?」

 

「――…!…そ、それはッ――」

 

 別大陸の国家『アーランド共和国』に関してだが、オスロエスも多少の知識を有していた。

それにしても他国の王侯貴族が、この陣営に組するとは余程の理由があっての事なのだろう。

この王侯の剣士なる青年、剣の腕は立つ様だが青二才という印象が抜け切れていないようにも思える。

単純な興味本位で探りを入れるオスロエスだが、王侯剣士の方は完全に委縮してしまい直立不動のまま真面に応じられないでいた。

彼にとってオスロエスの姿は、さぞ畏怖の対象として映ったのだろう。

 

「主よ、彼が怯えております故、私から事情を説明いたしましょう。そもそも彼――」

「――お、おい、余計な事を言うなッ…!」

 

 怯える王侯の剣士を見かね、代わりに仮面の錬金術師が応える事にした。

あまり他者に知られたくはないのだろう、王侯の剣士は漸く普段の口調に戻る。

 

「…左様であったか、その容器に安置されたホムンクルスが例の女を模した義体であると?」

「その通りでございます。この者が若気の至りを発露させてしまい、少し手間を要す羽目に見舞われましたが」

 

「ククク、王侯の剣士とやら?アレを討ちたいのであれば、我が陣営は歓迎する。存分に、その粗削りな蛮勇を振るうが良い」

「此方に協力する限りは、私も助成は惜しまんよ?…此方に協力する限りは…ね?」

 

「――は、ハハァッ~…!我が剣技、所余すことなく総動員し、憎き奴めを屠って御覧にいれます…!」

 

 そう複雑な理由が働いた訳ではない。

この王侯の剣士が暴走し混沌勢に組した原因というのも、男女間の縺れに他ならないのだ。

彼の意識する異性に、灰の剣士が介入してしまったが故の暴走。ただそれだけの理由に過ぎない。

しかし彼にとって、これ以上の理由は無い。

 

何時か大陸最強の剣士と成る。

 

そんな夢さえ霞ませてしまうほどの異性に出会った彼は、気が付けば彼女の姿ばかりを追うようになっていたのである。

しかし灰の剣士が、想い人の心に住み着いてしまった。

これは真に許し難い冒涜にも等しかった。

自分と彼女の繋がりを、何処の馬の骨とも知れぬ下賤の剣士が汚してしまった。

 

許さぬ。断じて許す事は出来ない。

討たねばならない。あの剣士を討ち、彼女の目を覚まさせねば。

 

彼の胸中には、再び灰の剣士に対する殺意と憎悪が燃え滾っていた。

 

しかしである。

 

――本当に、これで良いのか…僕は?

 

灰の剣士に対する憎悪と同時に、ある種の疑念と後悔も、心の奥底に宿らせ始めていた。

 

――もしかして僕は…、取り返しの付かない過ちを犯そうと…、いや、僕は何も…何一つ間違ってはいない…!

 

考えていた以上に、得体の知れない組織へと接触してしまった。

そんな悔恨が脳裏に過るも、灰の剣士に対する憎悪で塗り潰し自身を正当化させる。

 

「男女の縺れとはいつの時代も、時に耽美で時に醜悪なものよの。…だが私は、先ほどから()()()()()に意識が向いてい仕方がないのだ」

 

 王侯の剣士に関する事情など、既に興味も失せていたオスロエス。だが彼は、作業台に置かれていた小さな容器が気になり、傍へと近付く。

 

「流石は我が主。それに目を付けなさるとは――」

「ほほぅ…、この腕に宿るソウル、…()()()か」

 

「左様でございます。教会の奴めからの依頼に御座います」

「ククク…、気の早い出来損ないめが。もう上位者気取りとはな、()()()()()()()()()()()()と本気で思っているのか?このソウルの持ち主を」

 

「ええ、全くに御座います。ですが依頼は依頼。報酬も頂いております故に、錬金術師の端くれといたしましても成し遂げねばなりませぬ。…我が誇りにかけても」

「律儀な男よの。…して、其方を経由しての事なのだな?」

 

「はい。あの狩人は、独自に動き何かを実現させようとしている模様です」

 

 小さな容器の中身は、黒い肌の腕部分のみだ。

死灰信徒の少女を介し、仮面の錬金術師へと依頼を寄越していた教会の狩人。

その内容とは、容器内の腕部位を基点に身体全体を再生させる事。ある意味での()()とも言える内容だ。

少女が持ち込んだ時点では、干乾びた小指だけであった。

しかし仮面の錬金術師による措置で、前腕部の再生にまで到達していたのである。

そして前腕部だけとはいえ、その部位には濃密なソウルが宿っていた。それを感知したオスロエスは、黒い前腕部に一種の警戒を抱く。

また死灰信徒の少女も、教会の狩人に対する情報を可能な限り提供した。

 

「まぁよい、無事に再生を果たした後、送り届けてやるとよい。奴めがどの様な末路を辿るのか、心待ちにするとしよう」

「ええ、必ずや成し遂げて御覧に入れますとも。…こ奴の再生…いえ復活…。またもや世界を掻き乱してくれるでしょう」

 

 仮面の錬金術師による再生技術は順調に進んでおり、そう遠くない内に身体全体の再生も実現できるだろう。

容器内の黒い前腕部に、多大な期待を寄せるオスロエスと仮面の錬金術師。

それを端から見ていた王侯の剣士は、背筋に薄ら寒いものを覚えていた。

 

「…ふむ、確認はこれ位で良いか。…私は再び出撃する」

「…今からどちらへ?」

 

「今度は四方世界の竜共を屠り、心なる臓を抱く。アレ等も強大なる存在、捨ておくには忍びない」

 

 帰還したかと思えば、すぐさま再出撃を告げるオスロエス。

これは周囲にも共有しておらず、思わず行き先を尋ねてしまう仮面の錬金術師。

 

朽ちた狭間の地の大竜餐教会で、オスロエスは強靭な竜体を獲得するに至った。

だがこれだけでは、まだ足りないのだ。

標的となる竜種は四方世界にも多く存在し、彼等も魅力溢れる力を備えているのは間違いない。

狭間の地の竜種と比較しても勝るとも劣らない強大な竜が幾多も存在し、その生息数は圧倒的に多いのも魅力だ。

今度は四方世界の竜種に狙いを定め、更なる力の獲得を目指していたオスロエス。

 

「留守は任せたぞ」

「武運長久を、我が主」

 

「「「「「行ってらっしゃいませ、妖王陛下…!」」」」」

 

 拠点への帰還も束の間、オスロエスは次なる目的達成が為、直ぐに再出撃してしまった。

仮面の錬金術師を始めとし、古参の構成員たちが恭しく彼を見送る。

この組織自体は、決して大規模を誇る訳ではない。

しかし地道な活動の甲斐もあり、徐々に賛同者も集いつつあった。

出撃する間際、見慣れない冒険者や混沌勢を視界に納めていたオスロエス。

彼は口に出さなかったが、徐々に膨れゆく組織規模に内心意識が高揚もしていたのである。

 

「…フゥ…ハァ…行ってくれたか…ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 オスロエスが視界に入るだけで、圧倒され通しであった王侯の剣士。

彼が再出撃し姿が見えなくなったことで、緊張の糸が解れ荒い呼吸を繰り返す。

 

「フン、存外小物よの…!あれしきで肝を縮めていては、誰一人として打ち勝つ事は出来ぬと知れ!」

「――だ、黙れッ!斬り捨てるぞッ…!」

 

「貴様如きの戦闘力でか?新たな力の制御さえままならぬ様ではな…!」

「――言わせておけば…!」

 

「止しなさいよ、貴方たち。身内争いしても、何も良い事ないでしょ!?」

 

 その様子を見ていたエレメールが蔑むような皮肉をぶつけ、対する王侯の剣士も激情で返した。

たとえ仲間意識が薄かろうと、同じ混沌陣営には違いない。

仮に同組織内で諍いを起こしたとて、得る物など何一つ存在しないだろう。

エレメールと王侯の剣士の口論に、華美の女魔神が仲裁の言葉を挟む。

 

「僕は少し席を外すぞ」

「…何処へ行こうというのだね?」

 

 此方の指示に従う限り、その範疇での自由行動は認められていた。

しかし王侯の剣士は、いわば新参者も同然の身分。一構成員に過ぎず、古参に比べ監視の目も厳しい。

この部屋を出ようとした彼に、仮面の錬金術師は制止を含めた言葉を投げ掛けた。

 

「別に逃げようって訳じゃない。新たに得た力を完全にモノにしたいだけだ、其処ら中をうろついている亡者共を相手に鍛錬する」

「…念のため監視役は付けさせてもらうよ、エレメール殿?」

「また我か?まぁ良かろう」

 

 この組織に参入して期間も短いが、王侯の剣士は早くも新たな力を身に着けていた。

まだ持て余し気味だが、完全な制御下に置けば更なる能力向上は間違いない。

その為にも実戦を想定した訓練は必要不可欠で、深みの聖堂近域には数多の亡者が今も徘徊している。

自我喪失の亡者相手になら幾ら斬った処で、誰一人として非難する者は皆無だ。

しかし彼が予定外の行動に出ないとも限らない。

つまらないと難色を示すエレメールに監視役を依頼した仮面の錬金術師。

 

王侯の剣士とエレメールは、そのまま部屋から退出した。

 

「あの術師様、私は狩人の下に向かわずとも宜しいので?」

「ああ、その件か。我が主の命だが、気にする必要もないさ。君は引き続き、私の作業を手伝ってくれたまえ」

 

 先ほど深き夢と死灰信徒の少女は、教会の狩人の偵察をオスロエスに命じられていた。

しかし結局は深き夢だけが先行してしまい、死灰信徒の少女は今も部屋に取り残された形となっている。

自分も任務に赴かなくてはならないと告げた彼女だが、仮面の錬金術師は『気にする必要はない』と自身の支えを依頼する。

実際オスロエスとて、死灰信徒の少女の対する関心は然程抱いてもいない。

このまま仮面の錬金術師の施す術式を助成したとて、何ら咎められる事もない筈だ。

その旨を聞いた彼女は、引き続き彼の作業を手伝う事にした。

 

「姉さまは何処に行ったのかしら全く…」

 

 誰にも聞こえない小声で密かに呟いた華美の女魔神。

彼女たち姉妹の長姉である『白服の女魔神』だが、終始姿を見せていない。

別段オスロエスは意識さえしていなかった様で彼女を罰する命も下していなかったが、身内でもある華美の女魔神は一応彼女の身を案じる。

 

――どうするべきかしらね、あたくしの身の振り方も。

 

内心、この組織へは疑念が絶えなかった。

このまま組織に身を委ね、あの怪しげ竜擬きに従うべきか。

若しくは自分の実姉である『白服の女魔神』の悲願に貢献すべきか。

それとも彼女にとっては異界でもある四方世界で、自由気ままに生きていくべきか。今の『気抜けの女魔神』と同じ様に。

現在この空を支配する赤黒い空と赤爛れた陽光という異常な環境が続けば、生命溢れる四方世界も遠くない内に魑魅魍魎の魔境と化すだろう。

実は言うと、彼女とてそれは望むところではなかった。

自分達が嘗て住んでいた元の世界も、現在の似たような環境下と絶え間ない争乱に晒され、元の美しかった自然は軒並み破壊され尽くされてしまった。

 

――姉さまも無謀よね、大した力もない癖に。…だけど…。

 

思案に耽る華美の女魔神は、自身の固有能力で生成した異空間に意識を傾ける。

 

「…()…か…」

 

 深き夢との約定に従えば、力を譲渡すると告げられてはいた。

確かに彼女のソウルを授かれば、今とは比較にならない強大な力は備わるだろう。

力は必要だ。何を成すにも遂げるにも。

しかし、自分の真の望みはなんなのか。

異空間に匿った見習い勇者へと意識を傾けた華美の女魔神は、いつになく一人で愁いを帯びた表情を忍ばせる。

誰一人として気付かなかったが、その時の彼女は真逆なまでに哀しみを称えた女の佇まいに満ちていたのであった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

アギールの大翼(オリジナル)

 

竜餐の祈祷、異端なる力の象徴。

竜餐の儀式の要となる心臓に、禁忌なる錬金術を施し別の血肉へと変じた。

 

類まれなる飛行能力を得る事ができる。

 

下位の飛竜とて、その翼は強靭には違いない。

羨望にも値する飛翔の力は、大空の覇者に届くのだろうか。

 

 

 

 

 

 




オスロエスは、竜餐儀式と錬金術の応用で、筋肉ムキムキのマッチョドラゴンへと姿を変えました。たぶん単純な殴りや尾の薙ぎ払いだけでも、驚異的な戦闘力を誇ると思います。
次からは、灰の剣士側に視点を戻します。

書き溜めしながら投稿していますので、更新速度は不定期で遅いです。その辺はご了承をば。
R18の方も構想を練っている最中です。そう遠くない内に投稿できると思います。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

ロマサガ2リメイクが楽しみ過ぎる。また執筆そっちのけでプレイしちゃうんだろうなぁ…。


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