気配を消しながら、堂々と更新いたします。
ではドゾ。( ゚ ω ゚ )
赤獅子の炎
将軍ラダーンと共に戦った、赤獅子の軍勢の戦技。
前方広範囲に、強い炎を放つ。
火を力の象徴と崇める勢力は多い。
しかし同時に、火を禁忌と定める勢力も確かに存在する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
デエェェ ―― 流れ着いた廃墟街 ―― ェェェエン
やはりと言うべきか先制したのは、ジーノ=クナープ。
手にした長剣を振り上げ、ミミ目掛け乱雑に振り下ろす。
何の型も成さない無造作な只の振り下ろし攻撃だが、血に酔った彼は普段以上の膂力を発揮していた。
「――ぐッ…!(受け流したのに、なんて重いッ!)」
対するミミも的確な動作で長剣を受け流した…筈なのだが、胴体部に僅かな裂傷を負ってしまった。
「途轍もない剣速と剣圧だ、完全に受け流さねば負傷を重ねるばかり…!」
「それだけじゃないの。ジーノさんの剣って
幾多もの戦いを制してきた灰の剣士でさえ、ジーノの剣技には舌を巻いた。
血に酔った今のジーノは、技量に乏しかったが筋力が増しているように思える。
桁外れの速さと重さを前に、ミミは受け流しに成功していたが若干の痛痒を負っている。
だがそれは彼の剣技だけではなく、剣そのものにも風の魔力が宿っていたのが原因だ。剣を振るう度に刀身から風の刃が迸り、対象へと追加の斬撃を与える仕組みである。
つまり剣の効果と彼の実力が重なり、ミミは防御ごとダメージを負ってしまったという訳だ。
「――フンっ、ちょっと見ない間に荒っぽい剣技になったじゃないの!ゴロツキでも、考えて振り回すわよッ!」
「――ガァあぁッ…!!」
冷や汗を滲ませながらミミはバックステップで間合いを測り、ジーノを挑発する。
そしてジーノは半狂乱となりながら高速で突進し、神速の横薙ぎを繰り出した。
「――ぐぅッ…!(敵に回すと恐ろしいわねコイツ…!)」
ジーノの横薙ぎを穂先で裁くミミ。
だが桁外れの威力に、彼女の槍は弾かれ両手に痺れが奔る。
力任せの攻撃には違いないのだが、如何せん速さが規格外だ。受け流し優位に立とうにも痛痒を負い、反撃に転じる事ができなかった。
過去、彼が魔物により精神異常を引き起こした事例は幾度かあった。
しかし今日ほど血に酔った彼など見た事がない。
明確な殺意を露わとするジーノに、ミミは改めて彼の実力を再認識する。
「――ゴゥララララァッ、死ねよヤァ魔物がぁッ…!!」
「――ミミだっつってんでしょッ!この唐変木っ!」
間髪入れずジーノの連撃がミミに襲い掛かる。連続ながらも型自体は粗雑そのもの。しかし先ほどの攻撃からも分かる通り、一撃一撃に必殺級の破壊力を秘めている事は想像に難くない。
――ヤバっ…結構厳しいかもッ…!
ミミも手練れの実力者には違いなく、彼の連撃を全て槍で裁き時には躱し切るが、剣から発す風の魔力でどうしても負傷を重ねてしまう。
彼の攻撃自体に対応できても、風の追加攻撃には対応が追い付かないでいる。
ジーノに対し強気に言葉を返すも、次第にミミの表情に焦りが見え始めていた。
「長引けば彼女が不利、…『放つ回復』ッ!」
ジーノに攻撃を許せば、その分ミミが不利に追いやられる一方だ。
彼女の闘志は微塵にも萎えていなかったが、軽傷が積み重なり無視できない程に蓄積している。
ミミの負傷具合を懸念した灰の剣士が、遠間から回復の奇跡『放つ回復』で援護する。
彼の指先から聖なる光を射出し、ミミの体に接触。その瞬間、彼女の負傷が一気に回復したのである。
神殿の少女である見習い神官から贈られた『青い
「――恩に着るわッ!」
「――長引かせるな、長期戦は不利ぞッ!」
「――分かってる…わっよッ…!ここッ!捌くッ!」
一瞬で傷が回復し痛みも同時に消え去った。
灰の剣士に振り向く事なく礼を述べたミミ。しかし彼は、長期戦を避けろと指示を飛ばす。
当然ミミ自身が、その事を身を以て体感し密かに反撃の機会を窺っていた。
そして到来する反撃の糸口。
分かり易いほどのジーノの突撃に、ミミは穂先を合わせ剣を弾いた。
この瞬間、攻めの主導権がミミに移り透かさず反撃に転じる。
「――アンタぁ、よくもやってくれたわねッ!ちょっと痛い目に遭って貰うわよッ!」
今までの鬱憤を全て彼にぶつけるかのように、ミミの激しい槍裁きがジーノに降りかかる。
それでも味方である彼を必要以上に傷付ける暴挙は控え、長剣を弾きながら穂先の腹で殴り掛かった。
血に酔った弊害なのか、防御面では普段以上に疎かとなっていたジーノ。
ミミの苛烈で鋭い槍裁きに対応し切れず、身体中の至る箇所が打撲に見舞われた。
「――今っ!」
ミミはカッと目を見開き、ジーノへと肉薄。
必要過不足な痛痒は控え敢えて打撃のみに絞った事が幸いし、ジーノの反応は衝撃で鈍っていた。
ミミの肉薄を許し彼は足を絡め捕られ転倒する。
「――メルル、私ごとで構わないから例の爆弾投げてッ!」
「――ミミさん、ジーノさん、ちょっとだけ眠っててねッ!」
ジーノの動きを止めた事を確信し、メルルへと合図を送るミミ。
またメルルも呼応するかのように、懐から丸状の物体を取り出し二人へと投擲。
それは催眠効果を含んだ煙玉で、ジーノとミミの直ぐ傍へと着弾し破裂した。
破裂と同時に煙幕が噴出し、二人と周囲を忽ち包み込む。
「――グわぁ…ゲホ、ガホ…何だこれっ…!?」
「悪いけど…、私と少しの間…眠って…貰う…わよ…」
視界の効かない煙幕内でジーノとミミの声が耳に届く。
「何だ、どうなって――?」
「見ろ、あの二人――」
静観していた剣戦士風の男と斥候風の男も、戸惑いながら煙幕の晴れを待つ。
程無くして煙幕が晴れ、目の前には意識を失い倒れていたミミとジーノの姿があった。
「作戦成功…かな。二人とも寝てるみたい」
二人の寝息に聞き耳を立てていたメルルは、安堵の息を零す。
取り敢えずはジーノを無力化させる事に成功した様だ。
灰の剣士たちは、二人を地下倉庫へと運び込み時の経過を待つ。
……
「あと2時間ぐらいかな?この二人が目を覚ますの」
メルルの投げた睡眠煙玉の効果で、ミミとジーノは今も寝息を立てたままだ。
「彼女はともかく、問題となるのは長剣士ジーノの状態だ。自我を取り戻していればよいのだが」
あの後、二人を旧冒険者ギルドの地下室へと運び込んだ灰の剣士たち。
血に酔ったジーノが目を覚ました時、元の状態へと戻っている事が大きな懸念と化していた。
もし血に酔ったまま目覚め再び暴れられては、最悪、拘束したまま拠点街へと連れ帰り幽閉する位しか対応法が思い付かない。
「まぁともかく、この人を取り押さえる事は出来たんだ。後は此処を脱出するだけなんだが、まだ小鬼の大群が廃墟を徘徊しているからな。そいつらもどうにかしないと…」
暫定的にリーダを務めていた戦士風の男は、未だ数多く残る小鬼への対応策に頭を悩ませていた。
先程、灰の剣士たちが多くを仕留めていたが半数以上が何処かで息を潜めているのは間違いない。
小鬼自体の戦闘力など蚊ほどにも満たないが、3桁を越える総数が残留している。
此処に居る冒険者たちは皆負傷や消耗の激しい者ばかり。今襲撃されれば被害拡大は免れ得ないのだ。
「さほど大きくはない街だというのに、この生息数は異常だ。数減らしのついでに原因究明したい、今の内にな」
「なら俺が案内しよう。もう原因は判明してるんだ」
この廃墟だが健在時は、西方辺境街と比較しても規模の小さい街だった。つまりは田舎町に分類される程度の規模でしかなかったのだ。
更に今は滅び去った廃墟で、こうしてロスリックに流れ着いてしまっている。僅かに街の面影も物資も残されていたが、3桁~4桁の小鬼が住み着くにしては些か不自然に思えて仕方が無かった。
ミミとジーノが目覚めるまで少しばかりの時間がある。
後顧の憂いを立つ意味合いも兼ね、灰の剣士は原因究明と数減らしを打診した。
そして意外な事に、既に小鬼の異常発生の原因が判明していた事が魔術士風の女性から明かされる。
「原因は召喚術関連ですね。私も同行します」
空いた時間を利用し現場に赴くべく、準備を整える灰の剣士と戦士風の男。そこへ魔術士風の女性も同行を名乗り出た。
彼女が言うには、小鬼の異常発生は召喚術が関係しているとの事。
「首謀者が居るという事だろうか?アールズ卿、貴女はどうする?」
「勿論、私も行くわよ。今の所、ここの襲撃は大丈夫でしょうし」
「決まりだな、少しの間留守を頼んだ」
「お、おう…。相手が小鬼とはいえ、気を付けてな」
灰の剣士を主力としに、案内役は戦士風の男と魔術士風の女性、そしてメルルも同行する事になった。
まだ多数の小鬼が生息している事もあり、残留する斥候風の男は心配気に彼等を見送った。
……
旧冒険者ギルドから然ほど離れていない地点に、小鬼の潜伏場所は存在していた。
「朽ちた廃教会か」
「結構ボロボロね…って言うよりも、小鬼だらけじゃない」
「そうです。この先に、召喚用の魔法陣が設けられています」
「だが邪悪な魔術師や神官なんてのは居なかった。一定間隔で
彼等が辿り着いた先には、損傷の激しい小さな廃教会が存在していた。
そして廃教会の周囲には数百を超える小鬼が其処彼処で、歪な鳴き声で喚き散らし徘徊していた。
魔術士風の女性は、件の廃教会の中心に召喚用の魔法陣が展開されていると語る。また戦士風の男も、その魔法陣が自動で作用し
つまり魔法陣を展開した者は既に居らず、唯々小鬼を無造作に排出し続ける施設と成り下がっていた。
このまま放置し続けていれば、この廃墟のみならず無尽蔵に小鬼で溢れ返る悪夢が待ち構えていたのである。
「先ずは小鬼の数を減らす…いや、殲滅させる…!」
「お、おい、そりゃ無茶ってもんだぜ…!アンタの戦い振りは目にしたが、流石にあの数じゃあ――」
「最初は私一人で戦う。その方が全力で暴れられるのでな、それにこの武器とも相性がいい」
「いくら貴方でも、そんなこと任せられる訳――」
「そんなに心配いらないと思うわよ?まぁ少しの間、この人に任せておきましょ」
廃教会を調べようにも、
戦士風の男が『それは無茶が過ぎる!』と反論するのは、至極当然の流れだ。
それは魔術士風の女性も同意見だったが、メルルは二人を宥め賛同の意を示す。
灰の剣士が今装備しているのは『獣狩りの斧』と呼ばれる特殊な武器で、これは長柄斧にも変形できる代物だ。
長物を操る以上、周囲に味方が居ない方が気兼ねなく全力で振り回せるというもの。先ほどの戦闘では、寧ろメルルたちに気を使い加減さえしていた灰の剣士。
一人で存分に暴れ回り、頃合いを見計らいメルルたちに参戦して貰う。そういう作戦を彼は立てていた。
「…分かったよ。だが危険と判断したら、アンタを置いてでも逃げるからな?」
「それで構わぬ。まぁ見ておくといい」
戦士風の愁いを尻目に、彼は斧を取り出し物陰から身を乗り出した。
「GUROBE!?」
「GYOBEVA!?」
「GYOBUGYOBU!?」
一部の小鬼が彼の存在に気付き、それに釣られ残り多数の小鬼群も一斉に殺意を向けた。
町から調達したのだろうか、ほぼ全て小鬼が何かしらの武器を所持し殺気立っている。
「戦技『黄金樹の誓い』…、…始めようか小鬼達よ…!」
対する彼も『獣狩りの斧』を長柄形態へと変形させ、戦技『黄金樹の誓い』で己自身の攻撃力と防御力に強化を施す。
「「「「「「――GYOROOOVU…!!!」」」」」」
半ば煽るように小鬼達を挑発し、怒り狂った大群が殺到した。
「――そうるぁッ…!」
複数の小鬼が一斉に飛び掛かるも、彼は身体ごと斧を回転させ大振りの回転薙ぎで迎撃。
「GOVE!?」
「GYEBA!?」
「GROA!?」
肉厚の斧に加え回転エネルギーや、その他諸々の相乗効果で生み出された破壊力に、小鬼の体が耐え切れる理由など無い。
無残に引き裂かれた小鬼は、短い絶叫を上げ敢え無く絶命。
「――まだまだまだぁッ!」
「GROA!?」
「GYEBA!?」
「GOVE!?」
「GYEBA!?」
彼は間髪入れず追撃を加え、小鬼群へと躍り掛かる。
斧の質量と重量を生かし、回転運動を加え、戦技を駆使し、並み居る小鬼に破壊の洗礼を浴びせ続けた。
余りの破壊力に小鬼の体組織は破壊され尽くされ、瞬時に物言わぬ肉塊と化す。ほぼ原形を留めない程に破壊されれば、たとえ亡者で復活したとて真面に動く事もできないだろう。
「斧は嫌いか?ならば焼いてしんぜようぞ。『赤獅子の炎』は如何か!?」
時には火の攻撃法を織り交ぜ『赤獅子の炎』で範囲を焼き尽くし、『炎撃』で攻撃と付与を兼ね、呪術の火である『炸裂火球』を連射し多数の小鬼を燃やしてゆく。
「GYEBA!?」
「GROA!?」
「GOVE!?」
「GYEBA!?」
「GROA!?」
身体を引き裂かれ、炎で燃やし尽くされ、運よく肉薄しようものなら蹴りや拳で骨肉を粉砕され、逃げようとしても瞬時に先回りされ結局は同じ運命を辿る小鬼の大群。
大した時間など経過していないというのに、既に小鬼の数は疎らとなり
それでも何とか生き延びようと現場を離れんと足掻く小鬼達。
流石に逃げの一手に集中されては、彼と言えども討ち漏らしは発生してしまうというもの。
「そろそろ加勢を頼む、一匹たりとも逃がすべからずッ!」
物陰にて待機させていたメルルたちへと加勢を呼び掛けた灰の剣士。
「――行きましょ、私たちも!」
「――お、おぅ…!こうしちゃいられねぇ…!」
「――本当になんですか、あの男…?殆ど無双してますよ!」
彼の声にメルルたちも慌ただしく身を乗り出し、逃げ出さんとする小鬼を優先的に討ち取ってゆく。
「――そいやぁ!大人しく斃されなさい!」
「GROA!?」
「GOVE!?」
「GYEBA!?」
王族から冒険者へと鞍替えしたメルルは、獲物を杖から剣へと変えていた。
しかし才覚に恵まれていたのか、剣は彼女に手に良く馴染み他国でも遺憾なく発揮されている。
多数の小鬼を背から切り伏せるメルル。
時折り、彼女の魅惑的な匂いに小鬼が踵を返すも、統率も無く数匹程度が一斉に飛び掛かったとて纏めて返り討ちに遭うのみ。
「――まだまだ戦えるぜぇ、ゴブリン共ぉッ!」
「――サジタ、インフラマラエ、ラディウス…!」
また流れに乗り、戦士風の男も魔術士風の女性も持てる戦闘力を発揮し、残りの小鬼を仕留めてゆく。
灰の剣士を筆頭とした4人は、ほぼ一方的な流れで小鬼群を殲滅し切る事ができた。
「ああいう統率に欠けた集団は、怖気さえ伝染させれば脆い」
念のため残敵の有無を確かめながら、灰の剣士は味方の負傷具合と廃教会の様子を窺った。
「…だとしてもよ、アンタちょっとばかり常識外れもいいとこだ」
「…小鬼の単体が弱いのは常識だけど、500以上居たんですよ!?500ッ!それを殆ど貴方一人でッ…!」
戦士風の男も魔術士風の女性にも、目立った怪我など見当たらない。
そもそも彼等が参戦したのは、浮足立った小鬼の生き残りたちばかり。
100以下に数を減らし戦意も喪失していた小鬼が、真面な応戦など発揮できる筈もなく全滅は必然でもあったのだ。
無傷での完全勝利という結果ながらも、二人は呆れ混じりに彼の方に向く。
「本当に感覚麻痺しちゃうね。このまま敵本陣まで殴り込みに行けそうよ」
またメルルも同意見なのか、肩を竦め普段の余裕な表情を取り戻していた。
抵抗に抵抗を重ね力の限り足掻いたにも拘らず、混沌勢に囚われ生贄にされかけていたメルル。
圧倒的な敵勢力の前に、状況打破の灯さえ見えなかった無明の喪失感。
だが、この男の登場が切っ掛けとなり無事に救出…のみならず、こうして再び反撃の機会にも見舞われた。
まだ結果も表れていないが、灰の剣士と行動を共にするだけで奇妙な安心感に包まれてしまうのだ。
こう考えるのも早計だが、この男さえ居れば現有の戦力でも深みの聖堂を制圧できるのではないか?いや若しかしたら、この男一人だけでも成し遂げそうな勢いにも思えてしまう。
「そうしたいのだが、まだまだ救出したい対象が居る。敵殲滅だけなら、単身でも不可能ではないのは認めるがな」
まだ敵勢力の全容を把握した訳ではないが、現認識では自分一人でも対応ができそうな勢いだ。
だがそれは、単純な武力で試算した場合に限られ、ありとあらゆる搦め手や策謀などを考慮した訳ではない。
敵殲滅及び無力化は彼とて望んでいたが、今も『見習い勇者』や『トトゥーリア=ヘルモルト』の安否も分かっていない状態なのだ。
叶う事なら一刻も早く救出し、心の重石を払拭させたいのが彼の本音である。
「そうだよね。トトリさんも何処に居るか分からないし、黒髪の女の子まで取り残されてるんなら急いで助け出してあげないと…だね」
「ああ。その為にも、今は目の前の問題に取り掛かろう。…これより教会に侵入する。各位、警戒を怠るな」
メルルたちにはトトリ、灰の剣士には見習い勇者。それぞれ助け出したい者たちが居る。
だが今は、眼前の問題解決に動き少しづつ土台を築き上げていく。
味方に合図した灰の剣士は先頭に立ち、静寂を取り戻した廃教会の正門をゆっくりと押し開いた。
施錠はされておらず、重くも古い木扉の軋む音が鳴り響き内部が露わとなる。
「…アレが召喚の魔法陣?」
然して広くもない廃教会だ。正門を開いた瞬間、礼拝堂の中心で浮かび上がっている怪し気な魔法陣が視界に映る。
「此処から小鬼が一定間隔で出現するんだ」
「私たちが此処を発見した当時は、小鬼も100前後でしたわね」
鈍く怪しげな光を今も放ち続ける魔法陣に4人は近付き、戦士風の男と魔術士風の女性が当時の様子を語った。
彼等が脱出の最中、偶然にもこの廃墟に辿り着いたのだが、安堵する間もなく多数の小鬼から襲撃された。
だが不幸中の幸いと言えばいいのか、小鬼は全て小型の通常種ばかり。当時は100前後の数だったが、ジーノ=クナープの活躍も手伝い一方的に勝利していた。
敢えて数匹を見逃し潜伏場所を特定した彼等は、廃教会と召喚魔法陣の発見へと至る。
そこで彼等は目の当たりにしたのであった。
「魔法陣が光を放った瞬間、気が付けば複数の小鬼が現れていました」
魔術士風の女性は、更に詳細を付け加える。
10~20程度の数の小鬼が一日に一回、自動的に召喚される魔法陣。
「魔法陣の解除も試みたけど、異空間にて作動しているみたいです。触れる事も生半可な解呪も受け付けないから、手の施しようもないですわ」
この魔方陣だが、どうやら別空間で今も機能しているというのだ。こうして視認は叶うものの、触れる事も物理的な干渉も受け付けない。
解呪を施そうにも強力な
「高度で古い魔術言語で描かれた魔法陣みたいだけど、文字の配列と術式までは解らないの…。私、学院出身なのに情けないわ…。せめてもっと…、優秀な学院生か賢者級の魔術師が居てくれれば何とかなったかも…」
魔術士風の女性は、賢者の学院の卒業生でもある。彼女も比較的優良な成績を収めていたが、この魔方陣の全容を理解できるほど深い知識を持ち合わせていなかった。
だが全く手立てが無い訳でもなさそうだ。更なる深い知性と造士を併せ持つ者なら、解除も可能だと語る。
「ねぇ見て、魔法陣が光ったよ…!もしかしてこれって――」
「クソ、また作動しやがった…!小鬼が来るぞ!」
魔法陣の特徴を説明している間にも再び召喚機能が作動し、眩い光と共に20足らずの小鬼が姿を現した。
メルルは危険を報せ、剣戦士風の男は舌打ちし刃毀れの酷い剣を構える。
「私がやる。休んでいろ」
だが先程の小鬼群に比べれば、20足らずなど居ないも同然。
メルルたちを手で制した灰の剣士が、瞬く間に召喚されたばかりの小鬼を殲滅してしまった。
「小鬼が召喚されるのは一日一回だったな。なら次の召喚は、翌日という事になるか…。やむを得ん、手出しできない以上、此処に留まっても意味が無い。放置は心苦しいが、引き上げるしかあるまい」
「実は、他にも似たような場所が存在していてな。俺達が確認しているだけでも、あと10か所は在る」
「……ならば尚の事、この廃墟から脱出せねばなるまいさ。残念だが、人手が足りなさ過ぎる」
一日に一回の頻度で約10~20の数の小鬼が、魔法陣を通じ此処に召喚される。今召喚されたばかりの小鬼を全滅させた灰の剣士。
次の召喚までの時間には、一日の猶予がある事を確信した。
だが此処で戦士風の男が言い辛そうに、他にも似たような魔方陣の存在を仄めかした。
幾つかは彼等だけでも解除出来ていたのだが、手出しできない魔法陣が少なくとも10か所存在するというのである。
手出しできないのであれば、此処で手を拱いていても意味が無い。
もどかしい気持ちを押し殺し、灰の剣士は皆に撤収を呼び掛ける。解呪を試みるにせよ、此処を再制圧するにせよ、とにかく人手が足りない事この上ない。
また彼は、爆破用の『フラム』という爆弾を複数所持していたが、たとえ廃教会を吹き飛ばしたとしても、異空間で作動する魔方陣には何ら影響を及ぼす事は出来ないのである。
「一応、撮影とやらを試してみるか」
「あ、宰相閣下から渡されたヤツだね?」
現状では対処のしようも無いのだ。
ギルドに現状を伝達するにも、より正確な情報も必要となるだろう。
ここで灰の剣士は、老齢の宰相より託された機器を用い『撮影』を試してみる事にした。
宰相より依頼された目的とは異なるが、一枚ぐらいなら許されるだろう。
(本編前夜編 第160話参照)
これも現状打破には繋がる重要な情報源となる筈なのだ、ふざけた目的に使うのではない以上、彼から難色を示される事はない筈だ。
「この位置からなら、正確に撮れると思うよ」
メルルの助言を受けながら、彼は撮影機のスイッチを押し魔法陣の光景を写す。
後は撮れた写真を基に情報を伝達すれば、ギルド側もより迅速に動いてくれるだろう。
本来の目的達成には程遠いが、今は生存者が見付かっただけでも大きな収穫に繋がるだろう。
多少の無念は残留したが、彼等は意を決し旧ギルドの地下室まで引き上げた。
小鬼の異常発生源、そして少数だが冒険者たちの確保は成った。
もどかしい気持ちを引き摺りつつ、拠点街へ撤収する方向で話は決まる。
未だミミとジーノは目を覚ましていないが、却って話は円滑に進んでいた。
ミミとジーノはトトリとも昔馴染みの関係でもあり、もし二人が目を覚ましていれば帰還に難色を示した可能性が高い。
トトリの安否も重要案件だが、今も深く傷付き憔悴している冒険者たちを蔑ろにする事も出来ない。
灰の剣士やメルルとて助けたい者が居るのだ。時間を経れば経るほど生存性は低くなるが、二人も自分を押し殺し
「なぁ、引き上げるっていったって、封鎖した瓦礫が積み上げられてるんだろ?どうやるんだ?」
拠点街へ撤収するにも、このルートは封鎖のため高く積み上げた瓦礫を乗り越えねばならない。
それは戦士風の男も承知しており、現状の彼等では乗り越えるのは厳しいとの見解を灰の剣士へと示す。
「それなら問題ない。転移擬きとはいえ『家路』と呼ばれる奇跡で戻れる」
「――な、なんだって!?アンタ、転移の術が使えるのかッ!?」
灰の剣士の発言に、今度は傍に居た斥候風の男が驚きの声を上げる。
『転移だって!?』
『嘘だろ!?そんな真言魔法なんざ――』
『
『もう
彼等の会話に、周囲の冒険者たちも俄かに騒がしくなる。
「皆、落ち着いてくれ。純粋な転移の魔法とは違う。そもそも『家路』の奇跡というのはだな――」
変に騒々しくなり灰の剣士は何とか宥めに掛かった。周囲を落ち着かせる為にも、彼は家路の奇跡について大まかな説明を始める。
白教の奇跡でもある『家路』と呼ばれる術法。
術者が、家ないし家に等しい場所と定めた地点へと一瞬で帰還する為の奇跡だ。
当然、何処へでも自由に移動できる訳ではなく、幾つかの制限が課せられる事となる。
火のない灰として活動していた灰の剣士も不死人としての弊害で、原則的には設置した『篝火』へ帰還するように制約を受けていた。
その特徴を今も色濃く受け継いでいるのか、四方世界へと流れ着き生者と化した今でも『篝火』を熾せば自動的に帰還場所が優先されてしまうのである。
とはいえ設置した『篝火』は、比較的安全なロスリック拠点街の中だ。
彼等にとっても実質は帰還に等しい結果となるだろう。
「皆、荷造りは完了しているのだな?」
「ああ、条件さえ揃えば直ぐにでも動く手筈だったんだ」
確認を取るまでもなく、周囲の荷造りは完了していた。
元々、少し休めば何時でも脱出に移れる手筈だったのだ。
だが小鬼の異常発生とジーノの自我破綻という悪条件が重なり、こうして立ち往生を余儀なくされていたのである。
準備が整っているのなら実行に移すのみだ。
「よし、ならば早速『転移』に取り掛かる。なるべく私の傍に寄ってくれ」
「アレも試すんだね、剣士さん?」
「ああ。貴女の錬金術が活きる時だ」
「任せてよ…ッと言いたいけど、実際試してみないと何ともね、アハハ…」
家路という奇跡の効果は便利だが、如何せん効果範囲が狭いのが欠点だ。
広域化の手段が無ければ、どれほど広くても精々が数メートルしか及ぼせない。これでは全員を送り届けるのは不可能。
その事を憂慮していた灰の剣士は、メルルへと錬金術を依頼。出発前という状況もあり、即席の使い捨て品ではあったが『広域化の石』を錬成してくれた。
しかし物は使い様。
彼の所持している『コア・クリスタル』なる錬金秘具と併用する事で、道具を消失させず効果だけを発揮させる事ができるのだ。
「では、この石を腕輪に――」
メルルの錬成した『広域化の石』を、腕輪状の『コア・クリスタル』へと封入させた灰の剣士。
ちょっとしたやり取りだが、周囲には珍しい光景に映ったのだろう。不思議そうな声が漏れ出ていた。
「これでよし…では始めるぞ。…『家路』…!」
可能な限り、冒険者たちは彼の傍に寄っている。これなら全員が余裕で効果範囲内に収まる。
長居は無用とばかりに、彼は白教の奇跡『家路』を発現させた。
特に何か異常が起こる訳でもなく、奇跡が普段通りの効果を発揮。
彼を中心に眩い聖光と紋様が浮かび上がり、次の瞬間には全員が姿を消していた。
嘗て賑わっていたであろう小さくも活気溢れていた冒険者ギルドだが、もう其処は淀んだ空気が立ち込める空間と化していた。
………
……
…
―― ロスリック拠点街 ――
分かる。
いや、解ると言えばいいのか。
まるで空気感が違う。
呼吸を繰り返すだけで重く淀んだ大気が肺を循環する、何とも不快なあの感覚。
今は、それがまるで無い。
ごく自然と口内から肺へと酸素が行き渡り循環が繰り返される。
ああ…、自然な呼吸が出来るとは、こうも幸せなのだろうか。
そう感じずにはいれらない程、皆は恍惚とした表情で深呼吸を繰り返していた。
「ほ、本当に戻ったのか?此処は…
戦士風の男は『信じられない』という表情を隠しもせず、周囲をキョロキョロと見回している。
「その通り。此処は皆も良く知る『ロスリック拠点街』、どうやら無事成功した様だ」
何の事はない。
家路の奇跡は普段通りの効果を発揮し、皆を無事に帰還へと導いた。ただそれだけの事なのだ。
傍には見慣れた何時もの『篝火』が、何食わぬ顔で火を揺らめかせている。
しかし周囲は『篝火』なぞ目にもくれず、結界越しの空や周囲に視線を泳がせていた。
「――いやったァッ助かったぞぉッ…!」
「――我々は生き残れたんだぁッ…!」
「――ああ、やっと…やっと…、戻って来れたぁ…」
「――この戦いが終わったら引退しよう…、平穏が一番だ…」
漸く叶ったであろう帰還が叶い、冒険者たちは各々が違う反応で声を上げた。
やはり相当過酷な目に遭わされていたらしく、半数は今も折れた心を取り戻せないでいる。
「白教の奇跡…ですね。最近になり、方々の神殿にも広まっているとの噂を聞きました。貴方もその使い手だったとは…」
「灰の剣士…ロスリック生き残り組の筆頭…。そんなアンタがどうして白磁等級なんだ?」
こうして助かったのはいい。
白教の奇跡も冒険者界隈でも浸透しつつあり、多少の知識を有している者も存在していた。
だが幾許かの心の余裕を取り戻した戦士風の男と魔術士風の女性は、灰の剣士へと疑念を投げ掛ける。
数百を超える小鬼相手に実質単身で無双し、あまつさえ『家路』の奇跡で皆を帰還へと導いた。
こうして彼が訪れなければ、全滅に見舞われても不思議ではなかっただろう。
それ程の男が今もどうして『白磁等級』なぞに甘んじているのだろうか?
戦士風の男には不思議に思えて仕方がなかった。
「…察してくれ。元居た街で
「…そう、だな」
人にはそれぞれ過去がある。それは彼とて同じ。
人の事情を根掘り葉掘り踏み入るのも無粋と感じ、戦士風の男もこれ以上追及する事を控えた。
こうして取り敢えずの救出は成った訳だが、本来の目的達成には未だ届かず。
灰の剣士としても直ぐに再出撃したい処だが、深く疲弊した皆を放置する事は出来ない。
幸い誰もが歩けないほどではないようだ。
今も意識を失っている(寝ている)ミミとジーノはともかく、皆を首長の館まで送り届ける事にした灰の剣士。
「アールズ卿、貴女は二人を頼む。この
「オッケ、オッケ、任せて剣士さん」
ジーノとミミの後事をメルルへと託し、彼は皆を引き連れ
首長館へと辿り着いた彼等を見た門衛は、大層驚いた声を上げ急ぎ
灰の剣士は可能な限り、現場の状況を説明し情報を提供する。
「ぬぅ…そうであったか、小鬼の異常発生…とな…!」
「人手が余りにも足りませぬ。私はギルドに立ち寄り、援軍を要請する所存」
事情を知り苦々しい表情を浮かべた老齢の宰相と首長。
連れ帰った冒険者たちだが、回復すれば宰相の部隊へと編入される事を承諾した。少数の生き残りだが、元は手練れの実力者ばかり。戦力として機能するだろう。
そして灰の剣士はというと、当面の問題である戦力不足を解消するためギルドへ立ち寄る旨を告げる。
「アテは…聞くまでもなかったな、確か――」
「ええ。応じてくれるかどうかは未知数ですが、
アテは有るのかと聞き返した首長だったが、以前の調査など思い出し認識を改めた。
彼の要請に快く応じてくれるかどうかは、あの街の状況にも左右されるだろう。
何事も無く平常であれば、数日で此処に馳せ参じてくれる筈だ。
もしも実現が不可能であれば、かくなる上は『水の都』まで転移し国王に支援を要請しなくてはならなくなる。
出来ればあの都市に負担を強いる事は避けたいのだ。
あの街では、今も落ち延びた国民や軍が次々と合流している頃だろう。
流民、難民同然の彼等を纏め上げるとなれば、並大抵の負担では済まされない。
可能な限り此方の裁量で、問題解決を図りたかった。
「事が済めば、直ぐに再出撃いたします。ですが、全てを解決するには時間を要するかも知れませぬ」
ギルドへ援軍を要請した後、彼は間髪入れずにロスリックへと挑む腹積もりでいた。
だが事は、そう単純には進まないだろう。
自身はともかくメルルの容態も気掛かりだ。彼女は平然としていたが、ソウルの波形には少々の揺らぎも見受けられた。アレは間違いなく精神的揺らぎの予兆だ、少し休養させた方がいいだろう。
それにミミとジーノの件も気になる。
あの二人の性格上、目を覚ませば無理にでも此方に加わる可能性が高い。
それに血に酔っていたジーノが、元に戻っている事を確認する必要もある。もし彼が精神を破綻させたままなら拘束し、神殿に明け渡すしかない。
――問題は山積みだな。
灰の剣士の胸中に、重石が次々と圧し掛かる。
「何か必要な物があれば遠慮はいらぬよ」
「ハッ、お心遣い感謝の至り。では、ご厚意に甘えて――」
思い悩む彼の心情を察してくれたのだろうか?
首長は『遠慮は無用』とばかりに更なる支援を約束してくれた。
此処は謙虚に遠慮したい処だが、今は少しでも現状打破の助けとしたい。
彼の言葉に甘える形で首長へと請願した灰の剣士。
……
首長館の用事を済ませた彼は、そのままの足でギルドへと直行。
扉を開け中へと入れば、今も閑散とした空間が出迎えてくれた。
ギルド内に居るのは、僅か数名の冒険者と見張りの必要もなく暇そうに時間を潰している衛兵たち。そして沈んだ表情で黙々と作業を熟しているギルド職員だけだ。
『いらっしゃいませ~、冒険者ギルドへようこそッ!』
彼の姿を見るなり、何時もの営業スマイルで応じたギルドの受付嬢。
彼女は嘗て西方辺境街で働いていた先輩嬢でもある。彼女の声に応じ、カウンターの方へと歩む灰の剣士。
「聞いたわ、王女殿下に冒険者たちの救出…!大手柄じゃない…!」
彼の功績を称える先輩嬢の言葉に、他のギルド職員も作業の手を止め傍に集ってきた。
「アンタ、唯者じゃなかったんだな」
「王妹殿下の救出、他の冒険者まで助けたって報せが入ってるわ…!」
またギルド職員だけでなく、ちびちびと酒を嗜んでいた冒険者や衛兵までもが彼の周囲に集まる。
「まだ楽観視できぬ。調査の結果、厄介事に遭遇してな――」
灰の剣士が訪れた途端、僅かに活気づいたギルド内だったが、彼の心情は晴れてはいない。
折角の空気感を打ち壊す様で気が引けるのだが、彼は小鬼の異常発生について言及した。
それは聞いた周囲は、再び天を仰ぎ『またかよ』といった風情を隠そうともしない。
「故に人手が足りなさ過ぎる。…この書面を例の冒険者ギルドへと届けたい。伝令役は、あの御仁へと首長からも許可を頂いている」
「え…ア…、わ、分かりました!直ぐに手続きを済ませますね…!」
「大至急で頼む、私は此処での用事を済ませ次第、直ぐに再出撃しなければならぬ」
少々殴り書きに近い文面だが、それは先輩嬢が手直しを施してくれた。
書面を封筒へと包み、彼女は慌ただしく手続きを済ませてゆく。
問題となる伝令役だが何も心配する必要はない。
この街へと訪れる際、彼は王都所属の伝令兵と共にやって来たのだ。幸いな事に彼は、
(本編前夜編 第153話参照)
此処から西方辺境街に行くにも、馬車ではかなりの時間を要してしまう。
しかし彼の駆る翼竜なら、迅速な情報伝達も叶う。
「アンタ正気かよ!?」
「あの様な魔境に、
「普通じゃないわ、せめて貴方の言う援軍を待ってから――」
再出撃の旨を聞いた冒険者たちは声を荒げ、彼の正気を疑った。
確かに彼等の意見の方が正しいだろう。
戦力不足なら尚更、援軍を待ちロスリックへと挑むべき。それが至極真っ当な判断だと言える。
「貴方たちはどうする?出来れば、伝令兵の護衛をお願いしたい」
「え…お、おい、どうする…?」
「ふむ…、伝令兵の護衛…とな…?」
「私からもお願いします。これは重要な案件…、失敗は大きな損失となる筈です…!」
彼らの意見も尤もだが、仮にも冒険者。護衛役として指名するに辺り都合が良かった。
翼竜を駆るなら接敵の可能性も極めて低いが、この環境下では何が起きても不思議ではない。
あの伝令兵に一人で行かせるのは少々危険で、幾人かの護衛役を同乗させた方が無難だろう。
数名なら翼竜に騎乗させても負担にはならない筈だ。
灰の剣士の頼みに少々戸惑う冒険者たちだが、職員である先輩嬢からも声が掛かった。
「しょうがねぇな、じゃあオレとコイツで――」
「良かろう…、そろそろ老骨にムチ打たんとな」
彼等の願いに、戦士らしき男と老齢の僧侶が護衛役を引き受けてくれた。
彼等は以前にも『ロスリック高壁』で接触した経緯があった。
(本編前夜編 第155話参照)
「では後を頼む。私はこれにて――」
今回助けた冒険者たちの再起には、まだまだ時間を要さねばならないだろう。
彼等の助けもアテにしたいが、悠長に待ってなどいられない。
ギルドでの用事を済ませた彼は、挨拶もそこそこに立ち去った。
「「「「「……」」」」」
取り残された冒険者や職員達は、半ば唖然とした顔で彼の背中を見送るしかなかった。
「獣狩りの斧…、中々に使い道もあるな」
殆ど通行人も居ない大通りを一人歩く灰の剣士。首長より受け取った『獣狩りの斧』を取り出し、何度も変形させながら視線を注ぐ。
少々大振りで持ち柄を短く変形させても、やはり肉厚の刃は『戦斧』並みの大きさを誇っている。
流石に閉所では取り回しも悪いが、開けた地形なら存分に威力を発揮できた。
戦技や術を併用し運用さえ間違えなければ、この斧は威力を遺憾なく発揮してくれるのだ。
「だがしかし、早く元の装備も取り返さんとな。…ラニに叱られてしまいそうだ…くわばらくわばら…」( ゚Д゚;)
以前の出来事である狭間の地で行われた、ケイリッドの
此処では結界越しという事もあり空の色は赤色に薄い黄色が混ざったかのような色合いだが、あの赤い腐敗に覆われたケイリッドの空も赤黒く禍々しいものだった。
あの過酷な戦いを終え『赤獅子城』にて彼はラニと再び接触、別れ際に幾つかの装備が贈与された。
(本編前夜編 第150話参照)
恐らく報酬代わりと思われるが、今は敵軍に没収されている。
彼女より譲渡された名刀『月隠』は実に手に馴染んだ。
ラニを恐れての事ではないが、彼本人としても『月隠』を敵の手に渡ったままなのは本意ではない。
この斧も悪くはないが、やはり彼には剣が性に合っていたのである。
それにデミゴッドたるラニなら、空間を超越し四方世界を観測できたとしても何ら不思議ではない。
寧ろ
あの人物は、とにかく得体が知れない。
装備が敵に渡った位で激昂するとは到底思えないが、彼女に不快感を与えるのは厳に慎まれる。
「さて、例の二人、そろそろ目を覚ましている頃だろうか?」
人気の乏しい大通りを歩きながら、真っ直ぐ
ソウルを探ってみれば3つのソウルが僅かに動いているのが分かる。
その様子から、目を覚ました可能性は高い。また激しい波形を感じない事からも、ジーノが正気に戻っていると判断していいだろう。
気が付けば、
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炎撃
前方広範囲に炎を放つ戦技。
強攻撃で、踏み込む薙ぎ払いに繋げられる。
またその時に、武器は炎を纏う。
火は光と熱を帯び、故に不死や獣は忌避するのだろうか。
とにかく味方陣営は戦力不足の極み。質は元より数の上でも。
モブ冒険者たちが決して不甲斐ない訳ではありません。
間が悪いのと敵側が強過ぎるだけなんです。
余談ですがジーノ=クナープという男。何も考えてなさそうに見えますが、実際の実力は相当高いという印象を受けました。また灰の剣士も、彼の実力を認めています。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/