色々ありましたが何とか執筆に漕ぎ着けました。
では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
術強化の魔法陣
展開した範囲内の術を飛躍的に増幅させる効力を持つ。
混沌勢で開発された魔方陣であり、発動させるには魔力と血肉を『贄』として捧げねばならない。
魔神の展開規模に応じ、より多大な贄を必要とする正に外法。
贄に捧げられた者は、遺体の方が好ましい。
それは捧げられる際激しい苦痛が伴い、遺体なであれば抵抗意思が働かないからである。
失われた古代魔術を祖とされているが、詳しい事は判明していない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
デエェェ ―― 深みの聖堂 ―― ェェェエン
深みの聖堂に蔓延る混沌勢は、何も女系の魔神軍だけではない。
(推奨BGM ―ファイナルファンタジー4・バトル1―)
「――グルォォオオぉッ…!!」
「――ゴゥアアァァぁッ…!!」
「――ゲェァアアオォッ…!!」
女性体ではない異なる系統の魔の眷属群。
「――KISHEAA!」
「――YUOORAA!」
「――GEHEAAA!」
獰猛な魔獣や恐竜の数々。
「――守れ、我等が女神をッ!」
「――奴めは先ほどの小僧っ…!?」
「――面妖な術で、よくも生贄をッ!」
混沌に組した武装組織や邪教徒団の構成員たち。
目に見えるだけでも100以上、皆一丸となり
彼――灰の剣士は現在、深みの聖堂大広間を目指し狭い通路にて武勇を振るっている。
大広間を繋ぐ通路は思いのほか狭く、彼の縦横無尽な動きを阻害してしまう。
この通路に、強靭力や瞬発力に優れる魔獣群が陣取れば、彼とて足止めは避けられない。
「狭い場所での
敵の目的は彼の足止めと、その間の陣形構築。
それは彼自身も勘付いていたが、別の通路を探すにせよ強行突破にするにせよ、時間の浪費は悪手となる。
彼の前には今、3体の
「――KISHEAA!」
一頭の
「――これしきッ!」
だが
狭い通路に合わせ小型に調整されていた複数の
通常種に比べ小回りも敏捷性にも優れる筈なのだが、既に彼との実力差が開け過ぎていた。
一瞬で側面へと回り込み
胴と泣き別れした首が床に落ちる前に、既に彼は走り抜け残り2頭へと切りかかっていた。
「――YUOORAA!」
そんな彼に、別の
魔力で生成された数本の
この呪文は、回避が困難で高い追尾性を備えつつ防具による威力軽減にも左右され難い、汎用性の高い攻撃呪文だ。
今の彼なら、この程度の弾速など物の数ではない。
たとえ最大射程まで追尾され続けようとも、彼の運動力なら振り切る事さえ可能だ。
しかしワザワザ消耗の多大な運動力で凌ぐ気はない。
彼は敢えて脚を止め、飛来する複数の『
「戦技『カーリアの返報』…!」
腕に
払われた
「――返すぞ…!」
「――YUOORAA!」
彼の頭上に展開されていた4本の魔力剣は、
予想だにしていなかったのだろう。
思わぬ反撃に見舞われた
「――GEHEAAA!」
だが3頭目の
「――その程度でッ!」
意表を突いた筈の奇襲だったが、彼は難なく反応してしまう。
鋭い前肢と爪で彼を押し倒し、牙で食い殺す算段も徒労に終わってしまった。
逆にカウンターの連続斬撃で、前肢は瞬く間にバラバラの細切れと化す。
その痛みを感じる前に頭部もサイコロステーキの如く、バラバラに斬り飛ばされ敢え無く絶命した。
「大人しく果てよ!」
そしてカーリアの返報による魔力剣で苦痛に喘いでいた、最後の
『――レッサー種どもよ、かかれぇッ!』
壮年男性の野太い叫び声が、狭い石造りの通路に乱反射する。
雑音にも似た耳障りな声と呼応し、複数の
「使役に特化した術士か。
奇跡なのか真言魔法なのか彼には判別しかねたが、あの使役士は討ち取るに越した事はない。
だが此方に殺到する複数の
とはいえ只人より大柄な
これなら攻撃の隙を突かれる危険性は、大幅に減る。
一々相手取るのは手間だが、彼は迎撃態勢で待ち構えた。
「――グルォォオオぉッ…!!」
「――ゴゥアアァァぁッ…!!」
どうやら魔術や特殊能力を備えていない個体種の様だが、驚異的な身体能力を活かし鋭くも重厚な爪攻撃を仕掛けてきた。
「――グルォォオオぉッ…!!」
「――かなり速い…!」
絶え間なく繰り出される爪の連続攻撃。
言うまでもなく最小限の体裁きで難なく躱すも、攻撃後の隙を縫うかのように他の敵が次々と入れ替わり、連携攻撃で彼を攻め立てた。
人語を発さず雄叫びを上げる獣染みた振る舞いだが、実際はかなりの知性も備えている様だ。
互いが互いの隙を埋め、絶え間ない攻撃を繰り返し反撃の糸口を与えようとしない。
このままでは何れ
――癖は見切ったぞ。
どうやら後方に陣取る、使役士たちの援護に警戒する必要はないようだ。
彼を攻め立てているのは、
ならば、眼前の
敵の攻撃速度や動作の特徴に見切りを付け、反撃に動く。
敵側にとっては追い詰めていた積りだが、彼は敢えて回避に徹していただけだ。
「――ゴゥアアァァぁッ…!!」
素早い踏み込みで彼を挟撃すべく、側面に回り込んだ
両側面から鋭い爪の
「「――グゥえぇぇアァッ…!!」」
しかし次の瞬間、敵の腕はズタズタに切り裂かれていた。
いや、腕だけではない。
気が付いた時には、もう彼の姿は視界より消え失せている。
「「――ぎぇウゥェアァッ…!!」」
別の激痛が
そして間髪入れずに、
だが彼は再び姿を消している。
生き残りの
だが下級とはいえ、仮にも魔神の眷属。
敵側も辛うじて反応し、彼を迎撃すべく殴り掛かった。
しかし全て空振りに終わり、彼の反撃を受ける。
「――グルォぉッ…!!」
「――ゴゥアぁッ…!!」
「――ゲェァォッ…!!」
名刀『月隠』による連続斬撃で、残りの
残りは使役士を始めとした、混沌の人族陣営だけだ。
しかし彼等は臆するどころか、不敵な笑みさえ浮かべ彼を待ち受けている。
「クックック、ご苦労。…これで儀式の贄が
「――!?」
使役士の一声と共に、気が付けば彼の足元は魔法陣が浮上していた。
だが特に何かが起こる訳ではない。特殊なソウルの波形は感じるものの、攻撃用の術式ではない様だ。
「……」
とはいえ、こういう時ほど慢心は禁物。
補助用の魔法陣と思われるが、次なる一手の布石と警戒した方が良い。
「――今ぞ、仕掛けよッ!」
「「「トニトルス(雷電)…、オリエンス(発生)…、ヤクタッ(投射)!」」」
「――ぐッ(電撃か!)」
今も彼の床に展開された魔法陣だが、どうやら術効果を高める為のものらしい。
使役士の部下らしき3人の魔術士たちが、真言魔法『
この呪文は習得難度も高い分、それに見合うだけの高威力を備えている。それが3人分の効果に加え、呪文強化の魔法陣による相乗効果で恐るべき威力を発揮した。
彼の警戒心が却って仇となり、動きを止めた事が災いした。
3人分の
流石の彼も膝を突き、魔法陣の中で蹲る事しか出来なかった。
電流による麻痺を発症しているのだろう、今も彼は帯電状態で蹲っている。
「ファ、ファ、ファ…!これで貴様も終わりだ…!」
使役士の思惑は成功し、勝利を確信したのか嘲りを浮かべながら彼へと近寄る。
あの
彼を足止めないし討ち取ればそれで良し、それで失敗しようとも贄として遺体を再利用。
今も展開されている術強化の魔方陣だが、これは混沌勢独自で開発された、いわば外法に分類される術式。発動には多大な魔力と触媒が不可欠だ。
強靭な肉体と魔力を持つ、複数の魔物を贄とする事で発動条件を満たしていたのである。
使役士たちの使用する術強度そのものは決して高くなく、精々が並の魔術師を遜色ない程度。魔神の眷属と比較しても明らかに見劣りするものだった。
だが術強化の魔法陣を併用すれば、魔術そのものの威力を双倍以上に引き上げてくれる。
恐らく中級魔神や並の魔術士10人分の威力は発揮した筈だ。
真面に食らったのだ、ただで済むわけがない。よほどの古強者でもない限り、とっくに黒炭化していても可笑しくはない筈だ。だが彼は今も原形を留め、それを妙に思いつつも勝ち誇った使役士は悠然と彼に近付き見下した。
対する灰の剣士の全身は、尚も電流が迸り今も術が効いている事を証明している。
「あと何秒もつかな?」
未だ絶命していないのは意外だが、これだけの威力だ。直ぐにでも死を迎える事だろう。
ほくそ笑む使役士は、彼の死を間近で見届けるべく無防備なままだ。
「さあな?」
「――ぐぎぃぇえぁあアァッ…!?」
いま何が起こっているのだ?
現状に理解が追い付かず、高圧電流の焼け焦げる激痛で思考が上手く働かない。
使役士の頭部は、彼に掴まれていた。
感電状態の灰の剣士だが、全ての電流を使役士へと移し流す。
「……」
僅か2秒足らずで使役士は黒炭化し、そのまま床へと倒れ伏し微動だにする事はなかった。
「ば、ばかな!?」
「何故だ、なぜ生きてる!?」
「あれだけの『
「雷防護」
使役士の死と同時に、灰の剣士は何事も無かったかのように魔術士たちへと近付く。
勝利を確信していただけに今の結果に驚愕した魔術士たちは、恐れ戦くばかりで追撃どころではない。
ずばり、灰の剣士は奇跡(祈祷)『雷防護』を使用し耐え忍んでいた。
これは狭間の地に由来する奇跡(祈祷)だが、使い所さえ合致すれば非情に有用な防御手段となり得た。
「――ええいッ退き返すぞ、撤退、撤退ぃ…!」
もう炭屑と化した使役士の遺体に目もくれず、部下の魔術士たちは一目散に逃げ去ってしまった。
――流石に敵も考えるか。搦め手には用心しなければならんのだが…な。
見習い勇者を助ける気持ちばかりが逸り、我ながら無策に過ぎた。
今の集団も単なる末端に過ぎない筈なのだが、見事に術中に嵌ってしまい余計な痛痒を負ってしまった。
もし『雷防護』がなければ無視できない傷を負ったばかりか、携帯している『フラム』も誘爆し致命傷の危険性も捨て切れない。
彼としても、もう少し慎重に行動しなければならないと反省する。
だが、あの幼い少女の安否が気掛かりで、どうしても勇み足となってしまうのだ。
――向こう側から、ソウルの群れを感じる。
大広間に出た途端、敵からの集中砲火に遭う可能性は高い。
大広間に続く通路からは、否が応にでもソウルの群衆が流れ込んでいた。
「深き夢とやら…、居るだろうか…?」
見習い勇者を攫ったのが『深き夢』を名乗る女の魔神だ。
(本編前夜編 第160・B話参照)
アンリやメルルたちから聞いた話を基軸にしても、相当の実力を有している事は承知している。
敵の殲滅も成し遂げたいが、今は見習い勇者の救出を優先させたい。
彼は気を取り直し、通路奥へと進み大広間を目指す。
「「「「「――キシャァアァぁッ…!!」」」」」
大広間へと出た刹那、頭上より襲い来る幾多もの影。
「――フォースッ!」
久方ぶりの懐かしい敵の来襲。
しかし容赦なく奇跡『フォース』で迎撃する灰の剣士。
奇襲の影の正体は、ロスリックに蔓延る奴隷亡者だった。
痩せ細った体躯でありながら、壁面や天井に張り付き死角より襲い掛かる戦法に長けた連中だ。
また吹き矢や投擲術にも優れており、火継ぎの時代でも手こずらされた記憶が刻まれていた。
「ぶぎゃっ!」
「ぎょべッ!」
「ごびゃッ!」
「ぎょぼっ!」
「げぎゅッ!」
大広間に出たと同時に狙った頭上からの奇襲だが灰の剣士には通用せず、フォースで吹き飛ばされた亡者奴隷たちは全て床に叩き付けられた。
そんな彼等の末路など分かり切っている。躊躇なく止めを刺しゆく灰の剣士。
大広間には、様々な群衆が待ち構えていた。
彼の知る
以前体験した闘技擬きとは、少々違った空気感に満ちている。
最奥には巨大な玉座が鎮座し、その玉座に見合う巨大な美女が悠然と腰を下ろしていた。
――女系の魔神王か、だが私の目的は…。
巨大玉座に腰を下ろしている女系の魔神王は、此方を無表情で見つめており、彼と視線が合う。
だが彼は咄嗟に視線を逸らし、視界から外した。
魔神王と称するだけの事はあり、視界に納めただけで魅了される可能性を考慮しての事だ。
女系の魔神軍を束ねる存在、討伐対象には違いないが、今は別の目的の為に此処に乗り込んでいた。
とにかく『深き夢』を探し出し、あの少女を救出せねば。
『――恐れるな、かかれぇッ!』
女系の魔神王の傍に陣取る複数の女魔神、恐らく側近だと思われる。
その側近の一人が声を大に命令を飛ばし、大広間全体に響き渡った。
魔神の眷属なだけあり、声そのものに異質なソウルを宿している。
呪文の類なのかどうかは判別も付かないが、彼女の声を皮切りに複数の異形たちが一斉に襲い掛かった。
(推奨BGM ―悪魔城ドラキュラ月下の夜想曲・しもべたちの祭典―)
一つは、鳥に似た頭部に人型の胴体、手には異質な形の槍を装備した魔神。
もう一つは、醜悪な顔部の
その二種類の魔神が一組の連携を成し、
2体一組が複数で、彼に襲い掛かる。
個体そのものは
「……」
眼前に移る2体一組が複数に渡る異形の群れ。しかし彼は油断なく武器を構え、何時でも動けるよう備えた。
恐らく認識外からの援護や妨害が介入すると思われる。
先程の狭い通路でさえ、『術強化の魔法陣』を展開され手傷を負ってしまったのだ。
この大広間なら、更なる大規模な搦め手を挿まれたとしても不思議ではない。
況してや女系の魔神軍は、精神干渉や幻術を得意とする傾向にある。
今の2体一組の群れは、武器や物理による戦闘を得意としている様だが先入観は避けるべきだろう。
とにかく脚を止めれば止めるほど、搦め手の的となり易くなる。
「――キシェァアァぁッ…!」
大翼の下級魔神にぶら下がる槍持ちの下級魔神が、上方から彼に襲い掛かる。
槍という特性上の単純な突き戦法だが、それが上空からの急降下となれば少々避け辛い。
彼は戦技『クイックステップ』で、位置をずらし頭上からの槍を回避する。
着地と同時に隙が生じた槍持ちの下級魔神に、彼は容赦なく反撃の刺突を仕掛けようとした。
「――チッ!」
だが別の一組が頭上から槍の刺突を仕掛け、仕方なく彼は回避を優先。反撃を阻止され、軽く舌打ちする。
「――キシェァアァぁッ…!」
「――クシショぉォぃッ…!」
「――ケシュェアァぅッ…!」
「――カシェァィァぇッ…!」
「――ゲシェァゥゥぉッ…!」
だが回避したかと思えば、また次の一組からの強襲。また別の組からの強襲。
それが幾度も繰り返され、彼は回避一方に追い詰められてしまった。
しかもそれだけではない。
――やはりな…!
必要以上に脚を止めるのは、悪手となる事が証明された。
彼がクイックステップで飛び退いた地点に、怪しい靄が幾つも巻き上がっている。
靄そのものから奇妙なソウルが漂っている事から、あのまま足を止めていれば何かしらの
火炎や雷ではなく直接の攻撃呪文ではないのだろう。だが、毒や幻術に類する術の可能性が高い。
搦め手を警戒し絶えず位置をズラす事は正解だが、逆に息を整える暇がなく息切れを起こすのは必至だ。
そうなれば何れ息切れを狙われるのは確実で、この連携を打破する為にも早急なる反撃が必須となる。
次々と襲い来る、槍による上方からの急降下攻撃の連続。
また大翼の下級魔神は、口から火球を吐き彼に追撃を加えていた。
火球そのものは小型だが、並の魔術士が行使する真言魔法『
この敵も複数が宙に陣取り、絶え間ない火球で彼を攻め立てた。
上方からの槍や火球による強襲を回避したかと思えば、今度は地上に着地した槍持ちの下級魔神が鋭い槍裁きで追撃を加えて来る。
上方からの強襲と地上からの槍裁き、そして足を止めれば視界外からの妨害や援護。
外野の妨害を阻止したいが、かなり距離も開いている上に多数の女魔神や女魔人兵が防備を固めている。
それに大翼の下級魔神が複数いる以上、直ぐに追い付かれるのは想像に難くはない。
徐々に壁際へと追い詰めれる灰の剣士。
『――追い詰めたぞ、止めをさせ!』
側近の女魔神が浮ついた声音で、止めを指示する。
彼の後方は壁一面に覆われ、もう退がる事は出来ない。
一斉に降りかかる、槍の穂先、灼熱の火球、術の洗礼。
――よしっ!
しかし彼は何ら臆することなく、自ら壁を蹴り三角飛びで大翼の下級魔神へと飛翔。
「「「「「「――キャァアオゥッ!」」」」」」
幾多もの大翼の下級魔神が反応し、火球で迎撃するべく大口を開けた。
「――遅いッ!」
だが火球を吐かれる前に、彼はフックショットを射出。大翼の下級魔神の額に命中させ、即座にリールを作動させる。
リールの力で
フックショットが額に抉り込まれようと、大翼の下級魔神は未だ落下せず飛翔を保っていたのは驚愕の生命力というべきか。
だが肉薄された時点で命運は決まったようなもの。
「――ギョビャッ!?」
敵の額へと月隠を突き立て、死にぞこないに止めを刺す。
そこで漸く自由落下した敵だが、その敵目掛け周囲の火球が彼へと飛来。
幾多もの火球が命中し爆発を引き起こすが、爆発が治まった時には既に彼の姿は無かった。
「――ギェビェっ!?」
気が付いた時には既に手遅れ。
別の大翼の下級魔神も、頭部に刀を突き立てられ呆気なく絶命。
また絶命した敵が落下する前に、彼は他の敵目掛けスローイングダガーを2本投射。
「――ギェビェぁぁッ…!」
寸分違わず2本とも敵の両眼に刺さり絶叫を上げる敵の出鼻を挫きながら、尚も飛翔を続行する敵の頭部へと再び着地し刺突による止めを刺した。
『おのれぇ只人風情がぁ、調子に乗るなぁッ…!』
テラス部から別の組織と思わしき攻撃呪文が飛来するが、敵の死体に命中するばかりで全く効果がない。
それどころか無用な爆発を引き起こし、敵にとって視界が悪化する一方。
彼にとっては有用な目くらましとして作用し、次々と大翼の下級魔神に飛び移り順次仕留めてゆく。
「――ギェビャビャッ!」
「――ギェビェブョッ!」
「――キャァアオゥッ!」
眼下から槍持ちの下級魔神の何やら喚いているが、大方『卑怯者、下りて正々堂々と戦え!』などと、ほざいているのだろう。
散々周囲からの援護を受けておいて、どの口でほざくのやら。奇声で喚きながらも大槍の下級魔神は、槍先から単純な魔力礫を投射し撃ち落とそうと躍起になっている。
だが単純で鈍い弾速の直射弾など、宙を舞う彼に掠りもしなかった。
宙を舞う彼は自由落下に任せながら残り一体の敵を両断し、大翼の下級魔神を殲滅する。
だが床に着地したと同時に即座にローリング、的を絞らせないよう動き回った。
案の定、敵は彼の着地際を狙い床に術が命中。石畳の床が、小規模の爆発に見舞われていた。
漸く地上に降りた彼に向け、待ち侘びたかのように幾多もの槍が唸り突き込まれる。
だが空中からの援護射撃が無くなった今、彼の負担は大幅に軽減。
敵の槍裁きも鋭いものの、彼は軽やかな体術で擦り抜ける様に躱してゆく。
一つ、二つ、三つ――。
生半可な冒険者を遥かに凌ぐ刺突ではあるが、鋭い穂先は一度も彼に触れる事さえ叶わなかった。
「――シャォウッ…!」
自分が狙われている事を認識し、カウンターの突きを仕掛けた槍持ちの下級魔神の一体。
だが彼は『ロスリック騎士の中盾』による受け流し気味の防御で凌ぎ、更なる踏み込みで肉薄。
間髪入れず戦技『疾走回転居合切り』で擦り抜け、横一文字に切断。
「――ギェッ!」
「――ギョッ!」
「――キャッ!」
しかし敵は臆するどころか、猛追で尚も彼を攻め続ける。
複数の刺突が彼を捕らえんと迫るも、錐もみ回転切りで避けながら別の一体を切り裂き仕留める。
着地した僅かな隙を狙い、2体の敵が彼の頭部と足元へと槍で薙ぎ払わんとした。
――甘いなっ!
だが彼には通用せず、足下の薙ぎ払いには月隠を床に突き立て防御。頭部を狙う薙ぎ払いには、中盾のパリィで弾く。
パリィで弾いた敵は多くの隙が生じ、彼は即座に頭部目掛けた刺突でまたもや一体を仕留めた。
戦いの流れは完全に彼へと傾き、槍持ちの下級魔神も敢え無く数を減らしてゆく。
相変わらず外野からの呪文が飛来するが、彼を捕らえるどころか時には敵に命中する始末。
「――ケェゥウッ!」
最後に残った槍持ちの下級魔神が渾身の魔力礫を放つも、彼は月隠から2発の月光波を投射。
精々が『ファランの短矢』程度の魔力礫では、月光波に抗する事は出来なかった。
一発目で相殺、二発目の月光波が胴体部を捕らえ敵はそのまま絶命。
大翼の下級魔神20体、槍持ちの下級魔神20体、2体一組の計40体の下級魔神を全滅させる。
『――馬鹿な、アイツは闘技で不様に這いつくばっていた新人の筈…!』
『――まるで別人ではないかッ…!』
『――今の奴等も魔神の騎士たち、それを容易く…!』
上方のテラス部から耳障りな声が、彼の耳にも届いた。
未だ信じられないのだろう、以前の闘技擬きの彼と今の彼が同一人物である事実に。
『――魔法陣を展開せよ、贄の手間が省けた…!』
奥の女の声だ。再び命令を発し、床から広大な魔法陣が浮かび上がる。
あの通路で展開された同種類の魔法陣、術強化の効果があるとみて間違いない。
だが規模は桁違いで、大広間の床全体に展開され怪し気な光を放っている。
仕留めた下級魔神の遺体も浮かび上がり、異様な色の血飛沫を上げ塵芥と化し消滅した。
『――同志諸君、今ぞ!術を解き放てぇッ!』
『『『『『『――おオぉおォォぉおォッ…!!』』』』』』
女魔神の姦しい命令に、全周囲のテラス部に陣取る群衆が一斉に呼応。
咆哮にも似た歓声を上げ、ありとあらゆる術を行使する。
精霊魔法や真言魔法だけでなく、何処から学んだのかソウルの魔術や狭間の地の魔術さえも彼に解き放たれた。
――この魔方陣は厄介だな。しかし…!
流石に大規模な魔法陣に加え、魔術の一斉発射は驚異の一言。
視界が効かない程の爆発や炎上、稀に飛散する異様な臭いと色の霧は神経毒だろうか。
とにかく留まり影響下に入っては、流石の彼とて一たまりもない。
得意の戦技『カーサスの高速体術』を駆使し、悪化した視界をも活かしながら大広間を縦横無尽に駆け巡る。
彼は一旦、大広間から別の通路へと身を隠し一時的に退避。術が途切れるのを待つ。
「…あの魔方陣、
今も展開されている魔方陣のお陰で敵の術は何倍にも強化され、面制圧規模の効果を発揮している。
だが
もしそうであれば、敵の妨害に一役買ってくれるかも知れない。
――試してみるか。
彼は武器を仕舞い、両手に呪術の火を展開させる。
とにかく目障りなのは、テラス部に陣取る外野どもだ。
少なからず実力者も潜んでいる様だが、無駄に数が多く宛ら小鬼にも似ていた。
一時的にでも構わない、外野さえ黙らせれば此方も動き易くなる。
両手に呪術の火を展開させた彼は、再び大広間へと出る。
『――居たぞぉ!もう一度、術で呑み込んでしまえぇッ!』
彼の姿を視界に捕らえるや否や、一人の女魔神が怒号で叫ぶ。
だがしかし――。
「――遅いッ!『炸裂火球』を食らえッ!」
再び術の詠唱に移る敵陣だが、それでも彼を認識してから数秒の時を要す。
数秒の時間さえ、彼にとっては絶好の隙に過ぎない。
「――そらそらそらそらッ!」
先ずは前後左右に向け、呪術の火である『炸裂火球』を放つ。
これは超小型の火球を多数、目標に向け散弾状に放つ術だ。
散弾の性質上、単発威力に劣るものの命中精度と制圧力に長ける。
前方は女系の魔神王陣営。それ以外はテラス部の外野に『炸裂火球』を放った。
――よし、思惑通り!
彼の予想は的中。
本来一つ一つの火球は、石ころ程度の規模でしかなかった『炸裂火球』という術。
しかし尚も展開され続ける『術強化の魔法陣』は、見事に彼の術にも作用し無差別に強化されていた。
石ころ程度の火球が今や半径10倍以上に膨張した挙句、それが十数発の規模で敵陣へと襲い掛かった。
『――アタシに任せなぁッ!』
前方の魔神王陣営に陣取る女魔神一人が水流の壁を展開し、炸裂火球を完全に遮断した。
先程から大声で命令を下していた女魔神とは別人だが、何処となく幼女に近い姿をしている。
『――な、何ぃッ!?』
『――術が早過ぎるッ!?』
『――無詠唱だと、これは呪術の火かっ!?』
前方以外のテラス部には、思いのほか効果が期待できた。
真言魔法や精霊術にも無詠唱できる程の実力者は存在するが、どうやら此処には居ないとみていい。
外野連中は、床に伏せるなり障害物に身を隠すなりで、術を中断せざるを得ない。
「まだまだぁッ、オラオラオラオラオラオラオラオラぁッ…!!」
術の強化が確認できた以上、手加減など無粋。
彼は身体を回転させつつ全方位に向け、炸裂火球を両手で連射。
特にテラス部の陣営には成す術もなく、幾多もの火球が着弾した傍から爆発炎上を引き起こす。
ある者は火が燃え移り、ある者は火傷を負い、テラスから外部へと逃走を図る者が続出した。
「フゥ…、魔法陣も消失したか」
限られた時間だが、取り敢えず外野を無力化させる事には成功。
持続限界を迎えたのか『術強化の魔法陣』も消失し、テラス部には少数の構成員が残留しているものの今も身を隠している。
多少の猶予を得た彼は、エストの灰瓶を二度口に含み消費した
それにしても警戒すべきは、前方に陣取る多数の女魔神と女魔人兵、そして自一際目立つ女系の魔神王。
(推奨BGM ―ファイナルファンタジー4・ダンジョン―)
しかし彼の目的は、あくまで『見習い勇者』の救出にある。そしてその少女を連れ去ったと思わしき、一人の女魔神『深き夢』なる存在。
「――女系の魔神王と、お見受けいたす。私は『深き夢』なる女魔神に用がある!良ければ、行方を知りたい!」
無駄なのを承知の上で、敢えて問いかけた灰の剣士。
「アッハハハ、コイツどの面下げて言ってんのぉッ!?ヘルバ生えるんですけどぉッ!?」
先ほど水の壁で炸裂火球を防いだ、幼女型の女魔神が彼に嘲笑を浴びせた。
「フェヘヘヘ、あの闘技の時とは打って変わって別人ではないかえ?」
深くローブを被った老女と思わしき女魔神も、同調するように言葉を加える。
「…どうやら今のが本性という訳ね。あの闘技は演技であったと?」
肌面積が異様に多く局部のみを防護した
「幾多もの部下を屠る戦いぶりといい、単身で乗り込む度胸といい、敵ながら見事な強者よ。その勇猛果敢な姿に免じ、情報を提供してやっても良いが決定権は我が主にある!」
貴族服…いや軍服だろうか?立派な衣服を纏う威風堂々な気品を備えた女魔神は、彼を称えるかのような素振りを見せた。
しかし所詮は、敵側の立場だ。
安易に情報など得られよう筈もなく、また彼とて期待はしていなかった。
最後に喋った女魔神が、玉座の巨大な女である『女系の魔神王』に判断を仰いだ。
「憐憫なる勇者よ、もう苦しむ必要はありません。我が慈悲の洗礼を受け、安寧の抱擁に身を委ねるのです」
無駄だとは理解していたが、対話が通じる相手ではなかった。
恐らく『深き夢』の行方を知ってはいるだろう。だが女系の魔神王から、怪し気な紫光が全身から迸る。
――いかんッ…!
理屈抜きで本能的な危機を察した灰の剣士。
――この光、精神に作用するものか。…ぬぅ、意識が混濁する…。
彼は咄嗟に危機と判断し、可能な限り最大出力で奇跡『魔力防護』を展開。
彼女の放つ紫光に抗いつつ、月隠による長射程の月光波で反撃を試みる。
「――フン、させんでのぉッ!」
ローブを深く被る老女らしき女魔神が、魔力を行使し岩塊を宙に展開。
彼の放った長射程で大型の月光波を遮断し、女系の魔神王を守った。
「フェフェフェ、やるではないかえ?魔神王様の支配に抗う奴など、然う然う居らんでな。…じゃが、抗った罰は受けてもらわんとのぅ…フェフェフェ…!」
「ならば、この不届き者の始末、私めにお任せ下さいませ!我が魔神将『
仮にも主に逆らった灰の剣士に、何かしらの報いを与えねば。
そう動こうとしたローブの老女らしき女魔神…魔神将『
「ほぅ、お主が出るかえ?『
見ただけでも分かる通り、かなりの巨躯を誇る女型の異形。
蜥蜴にも蛇にも似た身体つきに、しなやかで強靭な筋肉を備えつつ女傑を思わせる顔立ちという、正に異形の女魔神。
また衣服は纏っていなかったものの、全身が硬質のウロコに覆われながら動き自体は鈍重さを感じさせない柔軟な足取りで、彼に一歩一歩と近付いてゆく。
魔神将『
「おぅおぅおぅ、アンタほどの女が出るとはねぇ…!そんなババァ無視して、アタシの下に就きなよぉ!?もっと楽しい思いさせてやるってぇ、キャハハ♪」
「…お言葉ですが、私はオババ様に忠義を誓った身。むざむざと主を乗り換える気は御座いませぬ『
水の壁を展開していた幼女らしき女魔神も魔神将の一人でいるらしく、『
この『
自分に乗り換えてみては?と半ば本気に『
「貴様の戦い振りは、とくと拝見させて貰った。あの闘技は言わば只の演技、フン、随分ナメた真似をしてくれたじゃないか。だが、私を前に本気で戦った方が良い。全力を出し尽くし、心置きなく死ぬがいい、只人の剣士よ!」
眼前に迫る大柄な『蛇竜女』と呼ばれる異形。
蜥蜴と蛇を足し顔は女傑という見た目だけでも異様な迫力を醸し出し、佇まいも武人然としている。
また内包するソウルも激しい波形で、強敵である事が容易に判断できた。
「やはり対話など無駄だったか」
彼は油断なく月隠を構え、何時でも動けるよう警戒し気を引き締めた。
「我らは混沌勢、要求するなら相応の力を示してみせろ!それが力を行使する者の掟だ…!行くぞ、剣士よっ!」
どの道、戦いは避けられない。
相手が混沌勢である以上、敵対している事に変わりない。何かを求めるのであれば
それが戦闘力であれ、財力であれ、知力であれ、分野問わず何かしらの力を混沌勢は尊ぶ。それが彼等の不変たる正義でもあり、ある意味で秩序とも言えた。
「――来いッ!」
彼も腰を低く構え、敵の猛攻に備えた。
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大翼の下級魔神
背に広大な翼を生やした下級魔神。
強靭な肉体と高い飛翔能力を備え、口から火球(連射可能)を吐く。
四方世界ではない別の異界に住まう魔神の眷属で、下級種ながら騎士階級に名を連ねる。
単体でも高い戦闘力を誇るが、他の魔人種との連携戦法に優れている。
特に、槍持ちの下級魔神と組む場合が多い。
有効な対処法を見出し単体だけなら、駆け出しに冒険者の一党でも討伐は可能。
槍持ちの下級魔神
鳥型の頭部に人型の肉体を備えた下級魔神。
下級種だが優れた槍裁きを誇り、自前の穂先から魔力礫を放つ能力も併せ持つ。
彼も下級種ながら騎士階級に数えられ、魔神軍の主力を担っている。
単体でも高い戦闘力を持つが、飛翔能力は無い。
だが大翼の下級魔神と連携し、頭上からの奇襲戦法を最も得意とする。
有効な対処法を見出し単体だけなら、駆け出しに冒険者の一党でも討伐は可能。
なれど大翼の下級魔神と組んだ場合、脅威度は格段に跳ね上がり、そうなった場合は即座に撤退する事をお勧めする。
もっとも、敵が見逃してくれればの話だが。
連携を組まれた場合は、複数の中堅冒険者の力が必要になるだろう。
大翼の下級魔神と槍持ちの下級魔神ですが、元ネタは悪魔城ドラキュラ月下の夜想曲にも出現する『ギャイポン』と『べりガン』をモチーフとしております。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/