ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )


第166話―ロスリック・深みの聖堂、魔神将の腹心たち―

 

 

 

 

 

 

蛇竜女(だりゅうめ)

 

女系魔人軍に所属する女魔人の一人。

魔神将の一角、土女(つちめ)のオババの腹心でもある。

蛇と蜥蜴を融合したような体躯に女傑を思わせる人型の素顔を持つ上、太くしなやかな尾を生やしている。

強靭かつ柔軟な筋肉を備え、巨躯でありながら俊敏さと剛力を併せ持つ戦士型の女魔人。

全身は硬い鱗に覆われ、竜鱗ほどではないが高い防御を誇る。

また本人も武人気質で、忠誠心も厚い。

剛力と柔軟な動きで、相手を直接叩き潰す戦法を好む。

拳骨部に骨状の爪を隠し持ち、殺傷力を高める芸当も可能。

だが最大の脅威は、膂力と巨躯を生かした全力のタックル。

 

【挿絵表示】

 

 

水魚の双子姉妹

 

女系魔人軍に所属する魚人型の双子姉妹。

魔神将の一角、水女(みずめ)のお妖に仕える腹心でもある。

物語に登場する人魚というよりは半魚人に近く、只人の美醜感覚で照らし合わせれば些か醜くもある。

水の精勢力に長け、近場や空気中の水分を凝縮させ形を成す能力を備える。

二人の力を合わせれば巨大な水球精製も可能で、中心部の超水圧で敵を圧壊させる戦法を得意とする。

また超純水の壁を展開させ、あらゆる属性攻撃を防御し雷撃さえ通さない。

(壁の耐久力を超える攻撃なら突破可能)

水の生成能力と水中活動に長けるが、地上での肉弾戦は不得手。

そこを突けば、中堅冒険者でも対応は可能と思われる。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM ―ファイナルファンタジー4・バトル2―)

 

 爬虫類を思わせる体躯に女傑を思わせる顔立ち。

露出部位の多い衣服に加え顔部以外は独特の鱗に覆われている。その風貌は、妖艶というよりは異様と評した方が正確か。

また発達した筋肉を保持しながらも、動きそのものはしなやかで柔軟だ。

大小鬼(ホブゴブリン)並の体躯だが、無駄な贅肉は見受けられず敏捷力は遥かに上回ると思われる。

 

「あの闘技、私は参加できなかったからね。存分に武を振るわせてもらうよ…!」

 

 この女型の異形は『蛇竜女(だりゅうめ)』と呼ばれる女の女魔神で、魔神将の一人『土女(つちめ)のオババ』に仕える腹心でもある。

だが振る舞い自体は武人然としており、その口振りから直接戦闘に長けた戦士なのだろう。

術や搦め手の多い女系の魔神軍の中では、逆に珍しい武闘派の女魔神だ。

 

「さぁ、何処まで耐えられるか!?」

 

 先に仕掛けたのは『蛇竜女(だりゅうめ)』で、打ち下ろし気味の拳で殴り掛かる。

 

――確かに速いが…。

 

しなやかな筋肉から繰り出された拳の一撃。

百戦錬磨の彼から見ても、速い一撃には違いない。

だが大柄な体躯が災いしているのか、初速は些か見劣りする水準だ。

この『蛇竜女(だりゅうめ)』という女魔神だが、初速よりも最高速に長けた身体構造だと思われる。

これは彼の憶測だが、四肢を用いた攻撃ではなく助走を生かした体当たりこそが、最も警戒すべき攻撃法ではなかろうか。

敵の拳も充分高速なのだが、今の拳速ならカウンターで腕を切り落とせる。

 

彼は『居合切り』で、間合いに入るのを待ち構えた。

 

しかしである。

 

「――ッ!?」

 

 彼はカウンターではなく、咄嗟に横へと飛び退き自ら間合いを離してしまった。

 

「ほう、よく反応したな」

 

 拳で殴り掛かったかと思えば、次の瞬間――。拳骨から骨状の爪が、瞬時に伸びていたのである。

あのまま拳の間合いで対応していれば、間違いなく骨状の爪の刺突で重傷を負わされていた。

咄嗟に反応し退避した彼に向け、敵は一応の称賛を送る。

 

――異形の類は、どうにも対応が難しい。

 

人型とは些か勝手が違う異形の攻撃。

これまで幾度となく彼は人型以外の怪物とも死闘を繰り返し、時には死に、時には勝利を収めてきた。

だが人型とは違う身体構造の敵には、思いもよらない隠し玉が多い。

拳骨から爪が伸びるという単純な策だが、使い方次第では勝敗を決する切り札ともなり得る。

敵の初撃には対応できたものの、まだ見ぬ手札を隠している可能性もある。

 

「……!」

 

 これで不用意には近付けなくなり、彼は慎重にならざるを得なかった。

 

「フン、怖じ気付いたのかい?来ないなら、容赦なく八つ裂きにするまでだぁッ!」

 

 反撃に消極的な彼の姿勢に、『蛇竜女(だりゅうめ)』は透かさず追撃を加えてゆく。

 

「どうしたぁ剣士ぃ、避けるしか出来ないのか!?ソラソラソラソラッ…!」

 

 今度は両拳骨から骨状の爪を出し、彼をズタズタに引き裂くべく爪の連続攻撃を加え始めた。

膂力と爪の切れ味の相乗効果で、触れた石畳の床がボロクズの様に削れてゆく。

彼は、軽快な足裁きや盾防御で凌ぐも、誰が見ても防戦一方と言わざるを得なかった。

 

「フン、とんだ見掛け倒しだな!さっきの勢いは何処に行ったんだ、えぇっ!?」

 

 絶え間ない連続攻撃の合間に、彼を罵倒し挑発する蛇竜女(だりゅうめ)

先ほど大広間で暴れ回った時の彼とは思えない程に、今は防戦に徹し反撃にも消極的だ。

これ以上続けるのも時間と労力の無駄と悟り、一歩踏み込んだ『蛇竜女(だりゅうめ)』は強力な爪刺突を繰り出した。

真面に直撃すれば、岩壁すらも容易に貫く強力な一撃だ。

 

だが彼は、半身を捻り爪の刺突も綺麗に躱す。

 

「――かかったね…!」

「――ッ!?」

 

 気が付いた時には、宙高く吹き飛ばされていた灰の剣士。

爪の刺突を躱したは良いが、蛇竜女(だりゅうめ)は即座に全身を回転させた()の薙ぎ払いで彼を吹き飛ばしていた。

彼自身も咄嗟の中盾で防いだものの、太く長い大質量の尾の衝撃は凄まじく、盾防御ごと彼方へと吹き飛ばしていた。

 

何とか宙で身体を高速回転させ、足からの着地には成功した彼。

下手に踏み込み堪えるよりも衝撃に身を任せ吹き飛んだ事が幸いし、実質無傷で済んだ。

かなり敵との間合いも離れてしまい、このまま術などの飛び道具で反撃するべきか疾走し再び接近戦を仕掛けるべきか。

 

だが彼が動く前に、敵側に新たな動きが見られた。

 

「受け取るがええ、蛇竜女(だりゅうめ)よ…!」

「感謝致す、オババ様!」

 

 距離が離れた事で、蛇竜女(だりゅうめ)土女(つちめ)のオババから支援を受けていた。

土女(つちめ)のオババが術式を発動させ、蛇竜女の頭上には複数の岩石が出現している。

 

「――潰れてしまえッ!」

 

 やがてゆっくりと降下する岩石を手に取り、それを彼目掛け投射した蛇竜女(だりゅうめ)

直径、只人大ほどの岩石が、高速で彼へと襲い掛かった。

 

しかし彼も、ただ黙って甘受する訳ではない。

 

「――うぅおぁッ!」

 

 手にした月隠を鞘へと納め、背負っていた『獣狩りの斧』で迫り来る岩石を粉砕する。

 

「ふん、少しは抵抗する気があるようだ…。なら、これだけの攻撃、凌ぎ切れるかっ!?」

 

 さらに多くの岩石が蛇竜女(だりゅうめ)の頭上に出現し、手に取っては次々と彼に投射。

宛ら岩石砲弾の連続投射が、彼を圧し潰さんと殺到した。

 

「――せッ!はっ!ふっ!でぁッ…!」

 

 だが彼も彼で全ての岩石弾を獣狩りの斧で粉砕し、見事に凌ぎ切っている。

 

「――だったら、コイツはどうだッ。私の全力タックル…、受け止め切れるかっ!?」

「良いだろう、真正面というのも分かり易い」

 

 全ての岩石弾を防がれはしたものの、蛇竜女(だりゅうめ)の戦意は些かも萎えてはおらず、寧ろ意気揚々と彼目掛け全力疾走。

鱗に覆われた肩部の筋繊維を凝縮させ、その部位が瞬時に硬化。

全体重と並外れた脚力による高速疾走を上乗せした体当たりで、彼を吹き飛ばさんと迫り行く。

 

対する彼も逃げるような真似はせず、斧を構えながら敵に向け全力疾走。

 

「――吹き飛べぇッ剣士ぃッ!」

「――セァアァぁッ…!」

 

 二人は全力で衝突し、その地点から衝撃波が霧散した。

 

「…ぬぅ…ぐぅッ…まさか…、私のタックルが…」

「勝負あったな…」

 

 蛇竜女(だりゅうめ)の肩部には、獣狩りの斧が深々と減り込み赤紫の鮮血が滴り落ちている。

自慢の疾走タックルが打ち負け、彼女は苦痛に顔を歪ませていた。

だが――。

 

「――おまけだッ!そうるぁッ!」

「――グボァッ!」

 

 なんと彼は斧を引き抜いた傍から、再び体を一回転させ斧の追撃を浴びせた。

今度は胴体部へと強撃が炸裂し、蛇竜女の巨体が遥か後方へと吹き飛ばされる。

 

「ぶっ…ぐハァ…この男…いったい何者なのだッ…!?」

 

 斧が直撃した部位からも血液が流れ、彼女は盛大に吐血しつつも睨み付ける。

 

「フゥ…力業というのも偶には悪くない」

 

 結局、彼に然したる痛痒は見受けられなかった。

尾の一撃で吹き飛びはしたものの、それも盾防御と自らの飛び退きによるものに過ぎない。

これで勝敗は決したも同然、しかも彼――灰の剣士は充分な余力を残したままだ。

 

「ぐ…何の…これしきの事で…うぉッ!?」

 

『はいはぁい♪オバサンは引っ込んでてねぇ♪』

『年増の出る幕じゃないっ事よ、ヒィヒャヒャヒャ♪』

 

 深手を負いながら尚も立ち上がろうとする蛇竜女(だりゅうめ)を余所に、ふと水気を帯びたナニカが二つ横切った。

 

「――おぅおぅ、今度はアンタ達が出るって訳ねぇ♪あたし等の実力、とくと味合わせて上げなぁッ、キャハハハ♪」

 

 水気を帯びた二つのナニカに今度は、魔神将の一人『水女(みずめ)のお妖』が高笑いで檄を飛ばす。

その二つのナニカは次第に形を成し、二人の少女らしき異形が姿を現した。

 

「はいはぁい♪アタシは魔神将『水女(みずめ)のお妖』様に仕える一の子分さ…!」

「同じく、アタシは魔神将『水女(みずめ)のお妖』様に仕える一の子分、ヒィヒャヒャ…!」

 

「「二人合わせて、水魚の双子姉妹…!――うわッと危ないッ!」」

 

 少女の形を成し次第、それぞれ口上で名乗り上げた『水魚の双子姉妹』なる存在。

今も奥で苦痛に悶えている『蛇竜女(だりゅうめ)』と比較すれば、かなり人型に近く見ようによっては只人の少女に近似していた。

だがよく見れば、全身至る箇所に魚類を思わせる部位が散見される。特に双瞳などは、魚眼そのもので実に分かり易い。

巷で噂される美しい『人魚』というよりは、より劣等で醜悪な『半魚人』に分類した方が正しいかもしれない。

 

しかし灰の剣士にとっては関係ない。

 

得意気に名乗りを上げた双子姉妹など無視し、奇跡『雷の槍』で二人の頭部に雷撃を放つ。

 

「…水で雷撃を防いだ…?」

 

「はいはぁい…、コイツあっぶないわね!いきなり仕掛けるなんて…野蛮よ野蛮!」

「同じく、野蛮の極み!だけど、純水なら雷撃も通さないんだよ!ヒィヒャヒャヒャ!」

 

 双子姉妹が展開した水壁は高純度の超純水で、『雷の槍』は完全に遮断されていた。

一見、水は電気を通し易いと思われがちだが、それは不純物を多く含んだ純度の低い水である故だ。

彼女たちは水との親和性が高い魔神種で、自在に高純度の水を精製する能力に長けていた。

弱点と思われた雷撃も遮断する、水魚の双子姉妹なる存在。

先ほどの『蛇竜女(だりゅうめ)』とは、毛色の違う特性を備えた難敵と思われる。

 

「はいはぁい、今度はお返ししちゃうよぉ♪」

「同じく。アタシ等の力、堪能しなぁ!ヒィヒャヒャヒャ!」

 

 反撃に出る水魚の双子姉妹。

この大広間には、水が張られた区画が幾つか存在している。

区画の水を利用し、大型の水球を精製した双子姉妹。

だが水球は尚も大きさを増し、小屋ほどの嵩にまで成長した。

 

「「さぁ、超水圧でぶっ潰れておしまいッ!」」

 

 姉妹が言うには、精製した巨大水球は超水圧で凝縮されているらしく、一たび取り込まれれば瞬時に圧壊してしまうという事だ。

宙に浮く巨大水球を灰の剣士へと嗾ける双子姉妹。

巨大水球は宙を自在に動き回り、厄介な事に高速で彼を追い回した。

 

「不様にお逃げっ!疲れた時がアンタの最後さ、ヒィヒャヒャヒャ♪」

 

 あまり大袈裟に逃げ回れば悪戯に持久力を消耗するだけだ。

彼は巨大水球をギリギリにまで引き付け、必要最小限の動きで回避し続けた。

自動追尾する水球なら、彼女達へと誘導し当てるという戦法も取れたのだが、自ら操作しているのであれば通用しないだろう。

だが、手が無い訳でもない。

 

巨大水球を操るのは良いが、どうにも隙だらけに見えて仕方がない。

 

反撃とばかりに彼は双子姉妹に向け、月隠から月光波を投射。

 

「はいはぁい、無駄無駄♪アタシ等の水壁は魔力だって遮断しちゃうからねぇ♪」

「同じく♪。水に魔力さえ込めれば、どんな属性もイチコロって寸法、ヒィヒャヒャヒャ♪」

 

「……」

 

 大抵の敵には通じた月光波も、双子姉妹の展開する水壁には効果がない。

それでも彼は巨大水球を避けつつ、更に数発の月光波を姉妹に解き放つ。

 

「はいはぁい♪コイツ、アホなの?何度やっても無駄だって…」

「同じく、アタシ等は攻撃と防御、同時に行えるのさ、ヒィヒャヒャヒャ♪」

 

「「我等、水魚の双子姉妹に隙なし――ブギャァァッ…!?」」

 

 数発の月光波も水壁には無力だ。

完全に彼を嘲り調子づく双子姉妹だが、突如として全身に雷撃が迸った。

 

「頭上が御留守だぞ、そらそらそら…!」

 

「「――ギィッ、ギェッ、ギァッ…!!」」

 

 彼が次に繰り出したのは、戦技『落雷』と呼ばれる狭間の地に由来する技だ。

確かに彼女達は巨大水球を操りながら、水壁の展開という防御手段にも抜かりはなかった。

しかしそれは正面に対してのみで、意識を灰の剣士と巨大水球に向けるあまり認識外からの警戒を完全に怠っていたのである。

無論、彼女達の実力なら全方位に水壁を展開させる事もできたのだが、それでは壁の強度も薄くなり生半可な飛び道具でさえ貫通されてしまう。

しかも全方位に壁を展開させるには、意識を完全に防御へと割かねばならなかった。

そこで彼は回避しつつも擬態となる月光波を放ち続け、彼女たちの意識を自分と正面防御に向けさせた。

その甲斐もあり頭上は完全に、がら空きの無防備状態。

透かさず戦技『落雷』を炸裂させ、彼女たちは呆気なく集中力を途切れさせ巨大水球も霧散し只の水滴と化す。

彼は追加の落雷を何度も放ち、双子姉妹を完全に無力化させる。

 

「邪悪なる者よ、果てよ!」

 

 少々幼い異形の彼女たちだが、邪悪なソウルを所狭しと漂わせている。

深みの聖堂へと乗り込む道すがら。邪悪ではない善良な女兵士や女魔人達は、敢えて見逃し斬りはしなかった。

しかしこの姉妹は邪悪な者に違いなく、更生の可能性も低い。

彼は容赦なく止めの月光波を双子姉妹に放つ。

 

だが止めの月光波は、横から飛来した岩石に阻まれた。

 

「全く世話の焼ける小娘たちじゃて、フェフェフェ…!」

 

 土女(つちめ)のオババが岩石を盾代わりに飛ばし、水魚の双子姉妹を救援した。

 

『これだから、土も水も駄目だね!』

『次は私たちの出番さぁ!』

風女(かぜめ)の将姫さまの懐刀”長翼の3姉妹”が、いざ参らん!』

 

「水の次は風か、忙しい事だ」

 

 魚人型の双子姉妹を制し、入れ替わる様に3人(体)の鳥人女が襲い掛かる。

見た目からも分かる通り彼女らは鳥人(ハーピー)の三姉妹で、背に生やした翼で自由に飛翔する事ができる。

狭間の地で遭遇した鳥人(ハーピー)は美しい歌声ながら醜悪な風貌をしていたが、この三姉妹は四方世界の住民と判断できた。

3人(体)とも美しい容貌を備えていた。

加虐的な言動や表情を見るに邪悪に偏った人格のようだが、意外にもソウルの波形は()()()()()()()()()()に位置している。

まだ更生の余地を残しているという事だろうか。しかし敵対している以上、斬る事も止む無し。残念だが此処で死ぬようなら、それまでの命だというだけだ。

美しい鳥人三姉妹だが、彼は心動かされる事なく迎撃の構えで備えた。

 

「先ずは私らの姿に見惚れなぁ!」

「ほぅら、遠慮なく見て好いんだぜぇ!?」

「我らが三姉妹の美貌と色香で酔わせてやろうぞ!」

 

「「「我等『三翼鳥』が相手だ!」」」

 

 鳥人なだけあり自由飛行が可能な分、縦横無尽に彼の頭上を旋回しつつ、これ見よがしに彼の視界で舞い踊り始めた。

誘惑を仕掛けている事は明らかで、彼女らは肌面積の多い下着にも似た衣服しか纏っていない。

また獣人要素も少なく背の羽と膝下以外は、只人の女と何ら違いはない。

その美しい容姿と劣情誘う身体つきといい、確かに魅了に値する姿を誇っていた。

 

――ぬ…香薬…?

 

鬱陶しいと思える程、執拗に彼へと纏わり付く鳥人三姉妹。

確かに美しい姿だが、視覚だけで魅了できるとは少々考え辛い。

彼の周囲を旋回する速度は次第に速さを増し、ふと鼻孔からの違和感に気付く灰の剣士。

どうやら旋回していたのは空気の流れを作るための工作で、実は香薬による誘惑が真の狙いだった。

つまり、これ見よがしに半裸染みた肢体を曝け出していたのは、この香薬による誘惑に気付かせないための擬態でもあったのだ。

 

「――おっ、意外と勘が良いんだねぇ♪」

「まぁ気付いたところで、もう遅いんだがなぁ♪」

「この流れは破れん。大人しく虜となるがいい!」

 

 彼の周囲を旋回する鳥人三姉妹は宛ら竜巻にも似ている。

奇妙な匂いは尚も密度を増し、呼吸の度に脳内が揺さ振られる感覚を覚えてしまう。

 

――確かに、このままでは不味いな。

 

女系の魔神王や他の女魔神が仕掛けるのは、魔力や術による精神干渉が主だ。

だが、この三姉妹が使う誘惑は薬品による手法で執り行われる。

鼻孔から粉末を吸収する事で脳内と血流に作用し、次第に視界に映る対象に親近感や執着に似た感情が込み上げてしまう。

このまま何もせず受け入れ続ければ、彼とて鳥人三姉妹の虜と化すのは時間の問題。

彼女達の用いる薬品の手所など知る由もないが、大人しく誘惑される積りなど毛頭ない。

 

彼は『獣狩りの斧』を腰だめに構え、持ち手と足腰に力を込める。

 

「往生際が悪いねぇ、受け入れた方が楽だってぇ♪」

「虜になったら全身隅々まで可愛がってやるから、抵抗すんなよ!」

「お前の態度次第では、我らの()()として愛でてやろう♪」

 

 彼の動作に気付いたのか、三姉妹が口々に軽い煽りを挿む。

相当スピードに自信があるのか()などに当たる筈がないと益々増長し、更に飛行速度を上げつつ散布する香薬の量を増す。

 

「戦技『嵐呼び』ッ…!」

 

 闇雲に斧を振り回したところで、彼女達には掠りもしないだろう。

それは彼も承知しており、最初(はな)から斧で直接撃ち落とそうとは考えていなかった。

そもそも剣に比べ速度の劣る重厚な斧を用いたのは、周囲に舞う香薬と鳥人三姉妹に対応する為である。

 

大気の流れには、同じく大気の流れで――。

 

長大で重厚な獣狩りの斧を頭上で高速回転させ、周囲に()を呼び起こす。

忽ち彼の周囲には、小規模ながら強烈な暴風が巻き起こった。

 

「――ぐわッ!?コイツ、風起こしやがったぁッ!?」

「――魔法ッ!?いや、武技ッ!?えぇいッやはり唯者ではない…!」

「――私らの誘いを無下にするなんてな、コイツは干乾びるまで搾り取ってやるっ…!」

 

 下方から湧く激しい揚力に煽られ、彼女たちは忽ち体幹を崩し陣形を乱してしまう。

 

「「「――ぐわぁッ~…!!」」」

 

 何とか必死に翼を羽ばたかせバランス維持に努めるも、強烈な暴風に押し負け吹き飛ばされた。

露出過多な装備が仇となり、嵐呼びの影響を(モロ)に受けた鳥人三姉妹。劣情そそる全身に、赤い筋が幾つも浮かび上がり身体中至る箇所に裂傷を負う。

彼の起こす嵐は、風圧だけでなく斬撃をも伴っていた為だ。

先ほど彼女達の居た宙には、幾つもの羽毛が舞い散り香薬による異臭も完全に霧散した。

 

「このッ、風を起こした位でいい気になってからにぃッ…!」

「こりゃチョイとばかり、分からせてやらんとなぁッ…!」

「香薬だけではないぞ、我らの武器はッ…!」

 

 あらぬ方へと吹き飛ばされ傷を負いながらも、卓越した姿勢制御で立て直す鳥人三姉妹。

彼の抵抗が予想外だったのか、憎悪を滾らせ再び彼へと飛び掛かる。

 

「――アンタ達、仕掛けるよ!」

「――おっ、久々にアレで行くってかぁ!」

「――丁度いい、我らの真の実力見せてやろう!」

 

 今度も陣形を組み三位一体の連携で彼を攻め立てた。

先ずは二人の女鳥人が彼の両側へと飛翔し、擦れ違いざまに短剣を投擲する。

一人につき2本、計4本の鋭い短剣が、彼の側面を挟み込むように殺到した。

しかし彼は避けようともせず4本の短剣を全て掴み取り、そのまま投げ返す。

 

「――無駄無駄ぁ、当たりゃあしねぇって♪」

「――掴み取り投げ返すだけでも大したものだがな!」

 

 だが高速飛行を得意とする彼女達には掠りもせず、大きく旋回しまたもや投擲体制へと移った。

 

「――隙を見せたねッ!」

 

 二人の姉妹に意識を向けている間、もう一人の女鳥人が小槍を前へと突き出し急降下を仕掛けてきた。

 

「……」

 

 急降下自体は目を見張る速さだ。真面に食らえば薄い金属鎧など、呆気なく貫いてしまうだろう。

だが対応できない速さでもなく、彼は短めのサイドステップで軸をズラし難なく躱す。

 

「初撃を良く躱したねぇ、だがいつまで続くかな!?もう一度行くぞッ!」

「「――あいさッ!」」

 

 三位一体の連携を躱しは出来たが、反撃とまではいかなかった。

鳥人三姉妹は、もう一度空中で陣形を組み直し急襲を再開する。

今度は短剣持ち二人が切りかからんと、彼に高速突進で肉薄を試みた。

鳥人なだけあり空中での飛行速度は決して侮れるものではない。

だが彼は臆することなく月隠をも手に取り、一人に対し月光波を――。もう一人に対しては、獣狩りの斧による『嵐の刃』で応射した。

 

「――くッ!」

「――チッ!」

 

 高速であればある程、カウンターには反応し辛くなるものだ。

二人の短剣持ちは咄嗟に軌道を逸らし、月光波と嵐の刃を辛うじて回避。

しかし出鼻を挫かれる形となり、石柱の衝突を避けながら再攻撃を余儀なくされる。

 

「――えぇいッ、いい気になってからにぃッ!」

 

 激昂した槍持ちが、彼の頭上へと陣取り槍の投擲を仕掛けた。

 

「……」

 

 やはりというべきか彼は上体を逸らし、難なく槍を掴み取り投げ返す。

 

「――おっとっ…あががぁッ…!?」

「――姉貴ッ!?」

「――姉者ッ!」

 

 投げ返された投擲速度は異様に速かったが、彼女も手練れの腹心の一人。直ぐに反応し再び掴み取った。

しかし投げ返された槍を掴んだ瞬間、全身から痺れと激痛が迸り彼女は落下してしまう。

灰の剣士は槍を掴んだ瞬間、密かに奇跡『雷の武器』を付与し投げ返していたのである。

 

「――くそぉっ!今度はアレで行くよッ!」

「「――あいさっ!」」

 

 自慢の連携を二度も覆された鳥人三姉妹だが、まだ諦める気はないようだ。

尚も空中で陣形を組み直し、彼の頭上を旋回しつつ徐々に高度を下げながら旋回半径を狭めてゆく。

今度は槍持ちも短剣へと持ち替え、三位一体で彼に投擲を仕掛けた。

頭上に加え全方位からの間断ない短剣投射が彼に襲い掛かる。

 

手練れなだけあり投射速度も精度も申し分なく、それが全方位の頭上から多数飛来するという、回避の難しい悪条件が重なっている。

 

「――なッ、嘘だろッ!?」

 

 それでも彼には通用せず手にした斧と刀で全て弾き切り、傷一つ負ってはいない。

 

「――なんなんだよぉ、お前ぇッ…!!」

 

 一人の短剣持ちが憤怒の形相で彼へと捨て身の攻撃で突進した。

容姿自体は優れていた女鳥人だが、癇癪にも似た怒りで、今は魔物と遜色ない顔立ちを浮かべている。

 

「――我らも続くぞッ!」

 

 加えて他二人も彼女に続き、彼へと急襲を仕掛ける。

 

――愚か者め…!

 

「――がッ!?」

 

 一人目の短剣持ちに、刀の切り上げで迎撃しつつ自らも跳躍する灰の剣士。

 

「――このぉッ!」

 

 宙に跳び上がった彼に向け、もう一人の短剣持ちが刺突で突撃する。

投擲をしないあたり、予備を使い果たしたのだろう。まぁ彼には関係の無い事だが。

 

「――なッ、私を踏み台にしたぁ…ギャッ!?」

 

 二人目の短剣持ちの頭部を踏み付け、更に跳躍する灰の剣士。

だが単に踏み台にしただけでなく、おまけで戦技『嵐脚』をも加えておいた。

二人目も敢え無く自由落下した事で、その影から最後の槍持ちが彼に襲い掛かる。

二人目の身体で身を隠し、奇襲を仕掛ける算段だったのだろう。彼の思わぬ迎撃に、思惑が外れた槍持ちの彼女は咄嗟の刺突を繰り出す。

だが槍の穂先が彼に届く前に、彼はカウンターで刀を投擲――。

 

「――フンっ、甘いねッ!」

 

 しかし彼女は、身を切らせながらも刺突を継続。

 

「貴公がな」

「――ッ!?」

 

 傷付きながらも全力の刺突――。

しかしそれでも彼には通用せず、刀を投擲した手で穂先を握られていた。

 

「――ぬんッ!」

「――ぐふぁッ…!!」

 

 そのまま地面へと叩き付けられた槍持ちの女鳥人は全身を強打し、完全に戦闘不能へと追いやられる。

 

「…この私らが…たった一人に…」

「…仮にも魔神将『風女(かぜめ)の将姫《しょうき》』様の懐刀たる私たちが…」

「…我ら『三翼鳥』の力を以てしても…いや…本当に白磁等級なのか…あの剣士…」

 

「意外と打たれ強い…いや、反応速度に優れているのか」

 

 鳥人三姉妹は全員が床に伏し、もう戦える状態ではない。全身から裂傷や出血や吐血が見られ、その美しく扇情的な柔肌が鮮血で彩られている。

彼は手心を加えた覚えはなく、絶命させる積りで彼女たちに攻撃を加えていた。だが彼女達も本能的に反応したのか辛うじて急所は外れ、結果的に戦闘不能で済んでいたのである。

後々の事を考えれば今直ぐ止めを刺すべきだ。

この場に他の男冒険者が居れば、『勿体ない、生かしても良いではないか!』と抗議の声が飛んで来るだろう。それ程までに、この鳥人三姉妹は魅惑的な容姿を誇っている。

 

「戦意を失わぬか、しかし果てよ…!」

「「「――ッ…!」」」

 

 しかし敵対する彼女らには、何ら執着にも値しない。

もう戦えない三姉妹だが、首を刎ねるべく冷徹に獣狩りの斧を振り被る。

 

今度こそ死を覚悟した三姉妹は目を閉じ、訪れる運命を受け入れようとした。

 

「次から次と…懲りない連中め」

 

 振り被った矢先、視界外から熱を感じ咄嗟に身を翻し場を離れた灰の剣士。

ついでに月隠を回収し、炎を仕掛けてきた方へと向き直った。

 

「どいつもコイツも情けないねぇ…、やはり炎こそが至高なのさぁッ!」

「…蜥蜴人の女…か?」

 

 炎を飛ばしたのか吹きかけて来たのかは分からないが、彼の視界には蜥蜴人の女が立ちはだかっていた。

彼にとって蜥蜴人は、あまり馴染みが無いため性別の見分けは付き難い。だが膨らんだ胸部鎧が、()である事を証明していた。

先ほど戦った『蛇竜女(だりゅうめ)』と似た戦士タイプにも思えたが、手には()()()()()という少々勝手の違う武器種を所持している。

だが炎を仕掛けてきた事実から、彼女が搦め手と武器戦法を併せ持つ難敵と言えた。

 

「魔神将『炎女(えんめ)の女郎』が片腕、『女型の火蜥蜴(サラマンデル)』が相手してやろうじゃないかぁッ!小童ぁッ…!」

「…いいだろう(好い加減、飽きてきたな)」

 

 もう何度目になるかも分からない連戦を繰り返し、表には出さずとも些か倦怠感を覚えていた灰の剣士。

今の主目的は、あくまで『見習い勇者』の救出であり敵殲滅は後回しである。

一向に事態が前進せず、彼は業を煮やし始めてもいた。

この蜥蜴人女を捻じ伏せれば、情報を提供して貰えるのだろうか。確証はないが、今は打ち勝つしかない。

 

「――どるぁッ、焼き焦げなぁっ!」

 

 蜥蜴人女が『炎の鞭』を、彼に目掛け振るう。

 

――意外と長いな…!

 

明らかに鞭以上の間合いを維持していたが、炎の鞭は唸りを上げ彼へと迫る。

また、しなる鞭の速度も俊敏且つ軌道も変則的で、彼は無駄に大袈裟な回避を強いられた。

大きく跳び退く事で炎の鞭を回避。

先ほど彼の居た床が、スパァンッという音と共に一瞬で焼き焦げ黒い斑点を形成する。

鞭という武器も恐ろしい破壊力を誇り、達人が振るえば岩塊さえ破砕する事もあり得る。

しかも鞭自体も炎を宿し、直撃しようものならタダでは済まない筈だ。

更に言えば鞭使いと戦った経験が、あまり無かった灰の剣士。

意外と長いリーチに加え変則的な軌道を誇る鞭という武器相手に、彼は慎重にならざるを得なかった。

 

「ハッハッハァ…!不様なダンスを見せておくれぇ、憐れな剣士ぃッ…!」

「…自ら癖を曝け出すとはな…」

 

 回避一辺倒の彼を、追い詰めていると増長しているのだろうか。

女型の火蜥蜴(サラマンデル)は調子づき、炎の鞭を乱れ気味に何度も叩き付け愉悦に酔っていた。

故に彼女は気付いていない。

 

彼の回避動作が、徐々に無駄が省かれつつあるという事実に。

 

一旦調子づくと周りが見えなくなる性格なのだろう、女型の火蜥蜴(サラマンデル)という蜥蜴人女は。

彼の回避精度が増し、初撃で見せた無駄に大袈裟な動きは完全に消え失せている。

今や必要最小限の足裁きとサイドステップで、連続で襲い来る炎の鞭を躱し切っていた。

また鞭に加え炎熱も彼を焼かんとしていたが、それさえ見切り火傷を一切負ってもいない。

彼は回避の合間に少しずつ間合いを詰め、反撃の機会を虎視眈々と狙う。

 

「――ファッハァッ…、考えが甘いのさぁッ!…『竜餐の炎』で燃え尽きなぁっ…!」

「――ッ!?(竜餐の祈祷、コイツがか…!?)」

 

 そろそろ武器も届こうかという間合いに迫った矢先、予期せぬ事態が彼を襲う。

なんと女型の火蜥蜴(サラマンデル)の頭上に、突如として竜頭の幻影が浮かび上がったのだ。

また彼女の口から『竜餐の炎』という覚えのある単語が発せられ、彼は一瞬動きを止めてしまったのである。

 

「――チッ…!炎防護、冷気の霧っ…!」

 

 彼女の頭上に浮かぶ竜頭の幻影から、灼熱の炎が勢いよく放射された。

正に火竜が吐く『火炎ブレス』そのもので、これは狭間の地に由来する祈祷に何ら違いはなかったのである。

彼女が発現させた竜餐の祈祷は『竜炎』と呼ばれている。

竜餐の祈祷でも基本の部類だが、確かな威力を有していた。

即座に反応した彼は、同じく狭間の地の奇跡(祈祷)『炎防護』と戦技『冷気の霧』を発動、襲い来る『竜炎』を耐え凌いだ。

 

「冷気と耐火を同時に…ねぇ、本当に何者だい?お前」

 

 この女型の火蜥蜴(サラマンデル)という蜥蜴人も竜信仰を重んじ、崇高なる戦いの名の下、数多くの冒険者とも対峙し悉く勝利してきた。

中には強大な実力者とも死闘を経てきたが、大抵は武力一辺倒か魔術専門ばかりであった。

目の前の彼の様に、高い水準で魔術と武力を併せ持つ冒険者など見た事がない。

 

「――ご想像にお任せする…!」

 

 だが彼女の質疑に応じる気など毛頭ない。

この敵は間違いなく四方世界の住民だが、どういう訳か狭間の地に存在する『竜餐の儀式』を済ませている。

その関連性も気になるが、竜炎をやり過ごした彼は即座に跳躍で肉薄。

敵の胴目掛け、月隠と獣狩りの斧による横薙ぎで返礼する。

 

「――ハンッ!結構やるじゃないかッ!」

「…まさか、呪術の火まで――」

 

 一言でいうと、彼の斬撃は通用しなかった。

いや、正確に言えば刃が徹らなかったと言えばいいのか。

女型の火蜥蜴(サラマンデル)という蜥蜴人女は、呪術の火『鉄の体』で全身を鋼鉄化。

肉厚の金属体へと変じ、彼の攻撃を真正面から受け切ったのである。

 

「――残念だったなぁ!懐に飛び込んだ、お前は袋のネズミさぁッ!オラオラぁ、死になぁッ!」

「…ナめるなよ貴公」

 

 彼の一撃を完全に防いだ事で、瞬時に術を解いた彼女は剛腕を連続で振るう。

蜥蜴人は生来より膂力に優れ、只人を大きく凌駕する種族だ。

鞭の活きる間合いではないが、蜥蜴人なら単純な殴りでも恐るべき威力を発揮する。

一撃でも顔面を殴られようものなら、只人など容易く致命傷に陥るであろう。

 

だが彼は彼で僅かに動揺したものの、単純な殴り攻撃を食らうほど気を乱してはいなかった。

幾度も振るわれる剛腕を最小限の動きで全て避け切り、その上で反撃すら加えていた。

 

「――ハンッ、しっかり殴りなァ!痒くもないんだよ…!」

「――驕りだな、『放つフォース』最大出力ッ!」

 

 剛腕を潜り抜け、月隠の柄頭や蹴りを何度も叩きつけていた灰の剣士。

しかし戦鎧と頑強な筋肉に阻まれ、殆どの衝撃が吸収されてしまう。

やはり蜥蜴人は、膂力だけでなく生命力や耐久力にも優れ、単純な殴り合いでは圧倒的優位性を確保していた。

だが彼も想定済みなのか、ゼロ距離で最大出力の『放つフォース』を発動。

 

当然、敵に避ける暇など無く、女型の火蜥蜴(サラマンデル)は彼方へと吹き飛ばされ全身を強打する。

 

「ぐほぉぁッ…、…ば、馬鹿な…この蜥蜴人たる私が、只人のボウヤ如きにぃッ…」

 

 蜥蜴人特有の巨躯と体重による質量が災いし、吹き飛ばされ床に全身を強く打ち付けた弊害が発生。

流石の彼女も、全身強打の衝撃で直ぐに立ち上がる事ができず激痛に悶えていた。

だが持ち前の闘争心は未だ健在らしく、尚も立ち上がろうと足掻く。

 

『もうよい…!あとは我々でヤる…!』

「――…!?『炎女(えんめ)の女郎』…様っ…!?」

 

 思いのほか痛痒を負っていた女型の火蜥蜴(サラマンデル)に、頭上後方から声が飛来した。

若くも凛々しい声音で叫んでいたのは、女系の魔神軍に属する魔神将の一人『炎女(えんめ)の女郎』なる女だった。

 

「やはり唯者ではないわい、こ奴めは…」

土女(つちめ)のオババ様まで――」

 

 今度は、深くローブを被る老婆風の魔神将までもが参戦を宣言し、彼女の腹心である『蛇竜女(だりゅうめ)』も驚愕の声を上げる。

 

「コイツ等だけじゃないよ、アタシと風女のコイツも総出さぁッ!」

「たった一人の剣士相手に、我々全員が当たろうとはな」

 

「「水女(みずめ)のお妖様ぁ…!」」

「「「風女(かぜめ)の将姫様までもが――」」」

 

 女系の魔神王に尽き従っていた4人の魔神将たち。それぞれ土・水・風・炎を自在に操る術に長け、魔神将の名に恥じない実力者ばかりだ。

彼女たちは紛う事なき上位の魔神であり、魔神王の側近を務める選りすぐりの将でもある。

各人に得手不得手の差異はあれど、皆が総じて高い魔力と戦闘力を保持しており、並の冒険者が束になろうとも適う存在ではない。

もし対抗しようとすれば、圧倒せんばかりの軍事力か勇者級の冒険者一党をぶつける必要に迫られるだろう。

それほど魔神将とは、秩序勢の脅威でもあり国難とも言えるほどの恐ろしい存在なのだ。

 

しかし今の現実はどうだ。

 

たった一体でも国難に比肩し得る魔神将が、あろう事か、たった一人の只人剣士に挑まんとしている事実。

しかも()()()()()()という状況――。

彼女らも総じて長い寿命を有し、只人よりも遥かに長生きできる異界の種族だ。

だが彼女たちの人生でも、たった一人相手に寄って集る(よってたかる)など今まで前例が無かった。

ここまでくると屈辱を通り越え、もはや一種の喜劇とも言える珍事である。

それでも彼女たちは悟ってしまったのだ、彼の実力を前に――。

 

   ―― 一対一では勝てない ――

 

蛇竜女(だりゅうめ)よ。お主は兵を率い、こ奴を取り囲め…!」

「――ハッ…!?ハハァ…!」

 

 蛇竜女(だりゅうめ)に命を下す土女(つちめ)のオババ。

僅かに呆けた蛇竜女(だりゅうめ)だが、直ぐに意図を読み取り魔人兵たちと共に大広間を後にした。

 

「お前等もだよ、兵どもと一緒に例の作戦の準備をしなぁ!」

「「――は、はいぃッ…!水女(みずめ)のお妖様ぁ…!」」

 

 また水女(みずめ)のお妖も、直属の部下である水魚の双子姉妹へと怒号まじりの命を発す。

内容は土女(つちめ)のオババと同様、彼を包囲しつつ追って指示を待てとの事だ。

風と炎の魔神将も、先ほど彼と戦った腹心に指示を出し、彼女たちもそれに従った。

 

今この大広間に居るのは、灰の剣士を含め4人の魔神将と女系の魔神王のみ。

配下の構成員たちは、軒並みテラス部へと集い固唾を飲み見守っている。

 

だがここで灰の剣士は声を大に叫ぶ。

 

「もう十分であろう、私は力を示したぞ。『深き夢』は何処へ!?応えよっ!」

 

 混沌勢は何よりも力を重んじる。

たとえ幾多の組織が存在し互いに対立し合っていようとも、この共通認識だけは決して揺るがなかった。

故に灰の剣士は『力』を見せ付けたのである。

今の彼の目的は見習い勇者の救出で、彼女を攫った女魔神『深き夢』に用がある。

何れ眼前の敵を討つ事に違いはなかったが、今は後回しにしてもいい。

度重なる連戦が続き、彼も痺れを切らし始めていた。

 

「バッカだねぇっ、アタシらが律儀に応えると思うのかいッ!お前はぁ、ここで死ぬんだよぉッキャッハハは…♪」

「…応えない…ではなく、()()()()()()の間違いであろう?」

 

「生意気なガキだねぇ、お前ぇッ…!」

「貴公の方が()()見えるがな」

 

「――キィィィィッ…、コイツ本気(マジ)ムカつくぅッ…!!」

 

 冷静に熟考すれば『深き夢』はロンドール黒教会に属しており、同じ陣営であれど女系の魔神軍とは別組織だ。

それなら幼女の如き水女(みずめ)のお妖が、何も知らない可能性も多分に考えられた。

どうにも感情的で激情家な彼女――。短絡的な振舞いながらも実際は知識豊富なのでは?…と勘繰ってみたのだが、今の様子では期待出来そうになかった。

他の魔神将は、どうだろう?断片的にでも情報を得られないものだろうか?

 

「其処な貴公はどうか?」

 

 今も激昂している水女(みずめ)のお妖とは、ある意味で対局的な位置付けの老女に訪ねる灰の剣士。

 

「フェフェフェ、応える義務は無いぞえ…と言いたい処だが。お主は確かに『力』を示した。…()()()()()()()…それしか言えんのぉ…フェフェフェ」

「…そうか。…では此処に用はない」

 

「――オイコラッ!糞ババァっ…!アッサリ応えんなっ!」

 

 歳を重ねているだけあり土女(つちめ)のオババから、部分的にだが情報を得る事は出来た。

どうやら深みの聖堂に、件の女魔神『深き夢』は居ないという事が判明する。

偽情報という可能性も捨て切れないが、水女(みずめ)のお妖が怒鳴り散らしている様子から、信じても良いだろう。

そうと決まれば長居する必要もない。

深みの聖堂から去るべく灰の剣士は踵を返す。些か情報は足りないが、後は別の手段で得る事にしよう。

 

「残念だけど、貴方を逃がす訳にはいかないわ」

「その通り。実力者たる貴様とは正々堂々と戦いたかったが、此方にも事情というものがあるのでな」

 

 やはりというかなんというか。

案の定、敵側は逃がす積りなど毛頭ないようだ。

大広間から去ろうとした彼の眼前に、二人の魔神将『風女(かぜめ)の将姫』『炎女(えんめ)の女郎』が立ちはだかる。

 

「逃がすかぁってのぉ…!キャハハハ…♪」

「そういう事さな。大人しく観念せぃ…お若いの!」

 

 既に彼の後方にも『水女(みずめ)のお妖』と『土女(つちめ)のオババ』が位置取り、完全に包囲された形となる。

 

「そう慌てずとも時が来れば相手をしてやる」

「やっぱアホだわコイツぅ…!アタシら4人同時に勝てると思ってんのぉッ!?」

 

「見逃してやろうというのだ。脱走するなら今の内ぞ?」

「――コイツぅァアァぁッ…!絶対にぃ殺すッ…!」

 

 水女(みずめ)のお妖からすれば想像もつかないのだろう。自らが敗北する未来など。

やはり彼女は心身ともども幼く、実力と精神が噛み合っていなかった。

加えて自分の実力には絶対の自信を持ち、一人でも彼を圧倒できると信じて疑っていないのである。

それ故、彼の安い挑発をも真に受け、対する彼女は今にも飛び掛からん勢いだ。

 

「――安易に乗るな、我らの連携を乱す魂胆だ…!」

「――うるせぇっ!エラソーに指図すんなぁッ!」

 

 殺意を隠す気もない水女(みずめ)のお妖に、炎女(えんめ)の女郎から叱責が飛ぶ。

彼女の言う通り、灰の剣士は連携を乱す事を画策していた。

とにかく直情一辺倒である水女(みずめ)のお妖なる魔神将。幼女ながら高いソウルを有し、それに相応しい実力は備えていると思われ侮りや油断は慎むべきだ。

だが直ぐに激昂する様子といい、彼の安い挑発を真に受けるという、ある意味で純真な性格といい非常に御し易いという明確な弱点も露呈していた。

 

「――ぜってぇ泣かしてから痛め付けて殺すぅッ…!覚悟しろぉッ…只人風情がぁッ…!」

 

 もう彼女の目には灰の剣士しか映っていない様だ。幼女を釘付けしているという、その手の嗜好を持つ者にとっては狂喜するほどの状況でもある。

水を司る魔神とは思えぬほどに、茹で上がったタコの如く顔面を真っ赤に染め上げ憤怒に満たされていた彼女。

味方である筈の炎女(えんめ)の女郎の制止を振り切り、感情の赴くまま溢れる殺意を彼に向ける。

 

――まだ戦わねばならんか。適当にあしらい脱出するとしよう。

 

正直に言えば無駄に消耗したくもないのだ、彼も。

周囲に水塊を精製した水女(みずめ)のお妖なる魔神将。

それを無数に創り上げ水の弾丸とし、彼へと投射した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

長翼の3姉妹

 

女系魔人軍に所属する女鳥人(ハルピュイア)の三姉妹。

魔神将の一角。風女(かぜめ)将姫(しょうき)に仕える腹心でもある。

鳥人の例に漏れず、背に翼を生やし飛翔能力に長ける。

三姉妹なだけあり三位一体の連携戦術で、対象を翻弄しながら仕留めるのが得意。

鳥人のみならず獣人や亜人種は、人型に近い者や逆に獣型に近い者が存在し実に様々な特徴を備えている。

彼女らは只人の容姿に近く、加えて美しい姿を持ち外観だけでも男を虜にすることも可能。

大抵は、容姿だけで男を虜に出来るが、通用しない相手には香薬を散布し精神に揺さぶりをかける。

これのみならず武器術にも長け、飛翔能力と三位一体の連携で相手を殺傷できる。

身軽な分、防具も必要最小限で肌面積の露出も多く、非常に打たれ弱い。

動きさえ阻害できれば、勝機を見出す可能性も生まれるだろうか。

三姉妹とも差異はあれど、享楽主義な側面が強い傾向にある。

 

【挿絵表示】

 

 

女型の火蜥蜴(サラマンデル)

 

女系魔人軍に所属する、蜥蜴人の女。

魔神将の一角、炎女(えんめ)の女郎に仕える腹心。

蜥蜴人という種族の特性上、優れた腕力と持久力に長け、並の只人では真正面からの殴り合いは避けるべきである。

彼女も戦士型だが、炎の鞭を巧みに操り自身も火の扱いに長ける。

しかし最大の特徴は、呪術の火や竜餐儀式(ドラゴンハーティド)を経ている事実にある。

呪術の火の『鉄の体』で防御を強化し、竜贄の祈祷による『竜炎』で攻撃面にも抜かりがない。

苦手な冷気属性で魔団なく攻め立てる、或いは彼女以上に力技で圧倒することが、勝利の近道となるだろうか。

彼女はとにかく力を重んじる傾向が強く、実力者と認めれば混沌勢でさえ容易く流れ着いてしまう。

これは彼女に限った話ではなく、蜥蜴人全体に浸透している価値観に起因していた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。  
デハマタ。( ゚∀゚)/

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