では投稿致しますドゾ。( ゚ ω ゚ )
妖王竜炎
大竜と化した妖王オスロエスの火炎ブレス。
成体火竜のブレスを凌駕する熱量を誇り、それを収束させ熱線のように変質させることも可能。
幾多にも渡る、竜餐の儀式の賜物。
これ程の能力を有してなお、いまだ古竜の域には到達していない。
古に生きる竜とは、まさに神秘と謎に満ちた存在なのだ。
結晶刃の嵐
以前より得意としていた妖王オスロエスの結晶ブレス。
半ば物質化したソウル魔力は、結晶と化し触れた者に多大な痛痒を負わせる。
だがそれを直接吹きかけず、敢えて周囲に吹きかけ結晶の岩塊を形成。
その岩塊に向け、大翼の風圧で粉砕し対象者へと激突させる。
圧倒的な瞬間風圧で粉砕された結晶の破片は、鋭い刃物へと変容。
嵐にも似た風圧と無数の結晶刃が、容赦なく対象者に殺到し射抜く。
通常の防御で凌ぐのは非常に困難で、魔力を帯びた大楯でも致命打は避けられないだろう。
足りぬ。
これ程の力を得ても、まだ足りぬのだ。
古竜の超越するには。
竜種を極めるには。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
眼前の騎士が振るう特大剣は、尋常ならざる破壊力を備えていた。
対する灰の剣士は、打開策を見出さんと持ち前の敏捷性で悉く躱し続ける。
――あの当時と何ら変わっていないな、呪いの浸食以外は。
「――GYOOOOAッ…!」
尚も奇声を上げ続け、溢れんばかりの殺意を振りまく漆黒の騎士ローリアン。
遥か彼方の昔、彼は屈強な騎士として名を馳せていたと聞く。
武勇にも知勇にも優れ、単身で『デーモンの王子』をも屠った逸話まで残していた。
まさにロスリック王族として、そして歴代屈指の英傑として名を馳せていたのである。
双子の弟王子『ロスリック』の呪いを一身に受けるまでは。
どのような経緯で今に至ったのか、細やかな事情まで知る由など灰の剣士には無い。
例の異界『魔術師の世界』では、呪いや病魔からも解放され悠々自適な生を営んでいる弟王子ロスリック。
対する兄王子ローリアンは、今も呪いの浸食で自我喪失の一歩手前まで追い詰められていた。
嘗て勇名を誇っていた兄王子ローリアン。
当時の彼は、騎士としても王族としても名に恥じないばかりの武勇を誇っていたことだろう。
しかし今や彼は、本能と衝動のまま特大剣を振り回す
時折、特大剣に宿ったと言われている
今のローリアンの剣技は、
今の彼を討つことは難しくない。
呪いの影響による
そんな単調な攻撃を掻い潜るなど実に造作もなく、一気に急所のみを斬り付けるなど、今の灰の剣士なら全力を出すまでもなく実行に移せた。
だが今の彼には、
―― 兄を救ってほしい ――
あの魔術師の世界で弟王子ロスリックより託された一振りの聖剣。
―― ロスリックの聖剣 ――
それを手にしながら猛攻を躱し続ける灰の剣士は、有効手段はないものかと思案を続けるしかなかった。
――一瞬だけ反応はあったのだ、効果が無いわけではなそうだが…。
既に魔力の喪失した『ロスリックの聖剣』など、如何ほどの効果があろうものか。
そう思い込み半ば諦めていた灰の剣士だったが、先ほど聖剣を掲げた瞬間、僅かな間だけでもローリアンは動きを止めていた。
――呪いが進み過ぎた所為か、意図的に呪いを重ねたケースも考えられるな。
恐らくロスリック王子も想定していなかったのだろう、今の状況など。
聖剣を託された時、彼は言っていた。
これを手渡してくれればいい…と。
しかし結果は無情で、ローリアンは殺意の暴流を撒き散らすばかり。
――星々の宇宙儀、効果があればいいのだが…。
仮に呪いの進行が原因だとすれば、除去ないし軽減させれば解決に繋がるのではないか。
幸いにも此方には『星々の宇宙儀』と呼ばれる魔道具が有る。
これは、苦労を重ねながらも錬金術とソウル錬成の併用で生み出した代物だ。
効果は既に実証済みで、あのゴブリンスレイヤーの肉親とも思われる『姉方』の呪いを解くに至った。
ダークリングと暗い穴を併発していたにも拘らず、解放が叶うほどの効果を見せた『星々の宇宙儀』と名付けた魔道具。
実際試してみない事には何とも言えないが、彼…ローリアンの呪いを何とかせねば話にならなそうだ。
――生け捕りにせなばなるまいか。…少し難しいか…?
生半可な説得など何の意味も成さないだろう。彼の暴走ぶりで、それは一目瞭然だ。
ならば彼の戦闘力と動きを削ぎ確保した上で連れ帰り、しかる後に呪い除去の儀式を執り行う。
しかし実際には、
先ずは、オスロエスの妨害を凌がねばならない。
ただでさえ馬鹿げた強化の末、ある意味で女系魔神軍以上の脅威と化した『妖王オスロエス』という存在。
挨拶代わりに見せた火炎ブレスでさえ、石造りのテラスの一部が溶け原型が変容してしまっているのだ。
かなり加減したと思われるが、アレすらも真面に浴びれば蒸発させられる危険性を誇っていた。
況してやローリアンは息子であり、何らかの妨害を仕掛けてくると視野に入れた方が自然ともいえる。
そしてもう一つ。
今の灰の剣士は、好奇心旺盛な黒髪の少女『見習い勇者』の救出を主目的としている。
依頼されたとはいえ、今此処でのローリアンとの遭遇は予期していなかった。
本音で言えば『見習い勇者』と『兄王子ローリアン』の両方を救出したいが、切羽詰まれば『見習い勇者』を優先させるつもりでいる。
ローリアンの救済を願っているカムイやロスリック王子には申し訳ないのだが、もう少し耐えてもらう事も考えていた灰の剣士。
――そろそろ反撃に移るか。
このままでは埒が明かないと踏んだ灰の剣士は、聖剣を再び背に仕舞い込む。
再び月隠へと持ち替え、回避の傍ら徐々に間合いを詰め始めた。
「反撃か…、だがそう思惑通りにいくかな?」
彼の動きの変化を読み取るオスロエス。
やはり何もしてこない筈もなく、口部を窄め火炎ブレスを放射した。
「――ぐッ…!」
本来なら大広間全域をも焼き尽くさんばかりの火炎ブレス。
オスロエスは敢えて範囲を絞り、熱線にも似た火炎を浴びせていた。
しかし範囲が狭まったという事は、それだけ小さな動作で避け易くもなる。
その場を即座に飛び退きブレスから逃れる灰の剣士。
とはいえ熱線じみた火炎ブレスの威力は、決して侮れるものではない。
飛び退いた場の石床は、赤焼けた鉄の如く溶け原型を大きく歪めた。
「――GURUAAAッ…!」
また着地後の僅かな隙を狙っていたのか、ローリアンの特大剣が彼を追撃。
「――ッ…!(重い剣圧だッ…!)」
辛うじて中盾の受けが間に合ったものの、剣圧の衝撃により後方へと吹き飛ばされる。
受け身も間に合い床の激突は免れたが、彼の全身は確実に痛痒が積み重なっていた。
――駄目だ…、どちらかの動きを止めねばっ…!
灰の剣士の思惑など容易く看破されていたらしく、間合いを詰める事さえ困難に追い込まれていた。
ローリアンはともかく、問題はオスロエスの変容ぶりだ。
妖王の庭で対峙した当時とは、もはや別種のナニカと言っても過言ではないオスロエスという先王。
白竜シースに傾倒し研究に熱を上げるあまり、次第に精神を病み狂気に身を窶したと聞いている。
その結果、彼の体は竜種に近似した姿へと変貌していた。
しかし、英雄譚でも頻繁に耳にする屈強で雄々しい竜などとは似ても似つかない程に、オスロエスの体躯は痩せ細った貧弱な体つきであった。
だが今の彼は、屈強で強大な竜種そのものの姿形を成している。
いったいどのような手段で、その体を手にしたというのか。
「狭間の地、ケイリッドの大竜餐教会で得た『力』…素晴らしいであろう、灰の剣士よ」
「――…竜餐の儀式ッ…、まさかドラゴンハーティドにッ…!?」
オスロエスから漏れ出るソウルの波形で薄々とは感づいていた灰の剣士。
だが本人から直接聞かされれば、幾許かの動揺は禁じ得ずにはいられない。
「あの狂った王も、竜餐の儀式に手を出していたのかい…。しかも、あたしより遥かに多くを熟しているようだねぇ…」
物陰から秘かに聞き耳を立てていたのは、女系魔神軍に属する『女型の
彼女は魔神将に及ばないまでも屈指の実力者であり、オスロエスと同じく竜餐の儀式に手を出していた者の一人である。
しかし彼女が手にしていたのは、ほんのごく一部に過ぎず下級竜の心臓を一つ捧げただけに留まっていた。
「どれだけの通過儀礼を乗り換えたかは知らないが、よく理性を保てたものだ」
「ククク、其方の言いたい事などお見通し。
見上げんばかりの巨体を手にしていたオスロエス。
嘗て『人』であったろう面影など微かに散見される程度に、今の彼は竜種へと傾倒している。
確かに竜餐の儀式で、人ならざる力を宿すことはできる。
しかしその代償は決して軽いものではなく、繰り返せば繰り返すほど理性なき竜擬きへと偏ってしまうのだ。
姿ばかりは竜に近似しているが、それは純粋な竜種とは天と地ほども剥離していた。
「錬金術だと…、
オスロエスがさりげなく口にした
あの男は底が知れず、以前から今に至るまで散々苦渋を舐めさせられていた。確かにあの男なら、溶岩土竜の代償を軽減ないし回避させる事も不可能ではないだろう。
だがここで、ふとある事を思い出す灰の剣士。
「――そうかっ!『飛竜アギールの心臓』を盗み出したのは、あの男…そしてオスロエス…貴公の指示だなっ!」
「ほぅ…よく気付いたな、その通り。竜餐の儀式…ドラゴンハーティドへ至る門出として、アギールの心臓は打ってつけだったのだよ」
西方辺境街に存在する地母神神殿での襲撃騒動。
確かあの時も、教会の狩人と仮面に錬金術師が共謀し、決して小さくはない被害を及ぼしてくれた。
戦い自体は勝利を収めることができたが、途中から仮面の錬金術師は不可解な離脱を図っていた。
教会の狩人のメンツを立てるべく場を離れたと思っていたが、実はそうではなかった。
灰の剣士が狭間の地から持ち帰っていた『飛竜アギールの心臓』の奪取も、彼らの思惑の一環でもあったのだ。
(本編前夜編 第137話参照)
竜餐の儀式は得る力の割には多大な代償を強いられ、適性や耐性の無い者は一度の儀式だけでも溶岩土竜へと変貌してしまうと聞く。
加えて格の高い竜の心臓を用いれば用いいる分だけ、力と代償の振れ幅が多大なモノと化す。
それはオスロエスとて例外ではない。
そこで彼は一計を企て、奪取したアギールの心臓に錬金術を施していたのである。
得る力をある程度操作し、代償の危険性を軽減させる。目論見通り得た力は矮小であったものの、精神の影響も微細に留まった。
こうしてドラゴンハーティドへの第一歩を踏み出したオスロエス。
力を得たオスロエスは、手始めに下級の竜種を狙いに定め
「竜餐の儀式だけではないぞ。この四方世界にも魅惑的な竜種は数多く生を営んでおる」
「なるほど、彼らをも標的に――」
狭間の地に生息する竜種だけでは飽き足らず、四方世界に生息する竜へも魔手を伸ばしたオスロエス。
その結果、今のオスロエスは雄々しく屈強な竜種の体を手にしていたのである。
見た目だけでも大広間が窮屈に感じるほどの巨躯を宿し――いや実際そうなのだろう。
今のオスロエスにとって、広大なはずの大広間は狭苦しく、かなり動きも制限されていたのは間違いない。
「しかし私と言えども無限というわけにはいくまい。限りある器を見誤らんためにも、竜餐の厳選には苦労してね。恐らく我が器を以てしても、古竜の心臓は一体分が限度。噂に名高い『古竜ランサクス』の行方は、終ぞ知ること叶わず」
「……(コイツ、あのランサクスを――)」
過去数多に存在したであろうドラゴンハーティドたち。そして行き着いたであろう溶岩土竜という成れの果て。
彼らの中でもオスロエスは嘗てない程に多くの竜餐の儀式を遂げ、自らを竜種へと近づけてきた。
それでも無限とはいかず、彼とて何れ限界を迎えてしまうは逃れられぬ宿命。それは彼自らが本能的に察しており、限界が近づいている事も察していた。
そこで最後の仕上げとして、狭間の地に生息するという『古竜ランサクス』を探し求めていたのである。
他を圧倒せんばかりに強大化したオスロエスだが、これでも古竜を凌駕するかどうかの瀬戸際の総合力しか備わっていなかった。
悔しい現実だが、
そこで、嘗て多くの人族と交流したと伝達されている『古竜ランサクス』の行方を求めていたオスロエス。
その古竜を屠り心の臓を儀式へと捧げ、ドラゴンハーティドの締め括りとする。
その計画で動いていたのだが、再び朽ちた狭間の地を探せども探せども痕跡一つ見つけ出す事さえ叶わなかった。
アテの無い探索を続けている間に深みの聖堂の異変を感じ、急遽こうして帰還した次第であった。
――聖黄金樹の件、口にしない方が良さそうだな。
古竜ランサクスは、もうこの世にはいない。
聖黄金樹を通じ、過去の狭間の地に赴いていた灰の剣士たち。
そこで彼らは古竜ランサクスと竜槍のヴァイクと出会い、時には取引に応じ時には死闘を繰り広げた。
その果てに彼らは『鎮めの教会』にて自らの命を絶ち、その生涯を終えるに至ったのである。
(本編前夜編 第146話参照)
故に、今の朽ちた狭間の地に彼女たちが存在する道理はない。
何らかの要因で復活でもしない限り、オスロエスが彼女たちを見つけ出すことは不可能なのだ。
だが下手に聖黄金樹を口に出そうものなら、この妖王は直ぐにでも向かうに違いない。
彼なら難なく、過去の狭間の地に
「さぁ、お遊びの時間はこれまで。そろそろ幕引きといこうか」
今の会話もオスロエスにとっては余興に過ぎず、再び何らかの動きを見せる。
位置関係としてはローリアンの後方に陣取り、高い頭上から結晶ブレスを広範囲に吹き付けた。
「――魔力防護ッ…!(何をする気だっ!?)」
結晶ブレスは、以前よりオスロエスの得意とする能力である。
濃縮を重ね結晶化したソウルのブレスも侮れない威力を誇るが、どういうわけか直接吹きかけてはこなかった。
それどころか灰の剣士とローリアンの間に吹きかけ、石畳の床には小高い
目眩ましだとでもいうのか。
確かに此方からはローリアンの姿は見えず、オスロエスの上半身だけが視界に移る。
異様に警戒した灰の剣士は『魔力防護』の奇跡を発現させ、敵の出方に備えた。
「下がっておれ、我が息子よ」
「…GURURU…」
このやり取りだけで大規模な攻撃なのは、容易に予想がつく。
ローリアンの巻き込みを避けたいのだろう。ほぼ自我崩壊のローリアンだが、辛うじてオスロエスの指示に従い膝歩きのまま場を離れた。
「では…幕引きだッ…!」
ローリアンの退避を確かめた後、巨大な翼を大きくは広げるオスロエス。
――まさかっ…!
敵の意図を確信した時、もう彼に覆す手立てはなかった。
「――避けられまいッ!」
両に広げた翼は大広間の両端に接触し、かなりの窮屈感に見舞われる。
だがオスロエスは無理やり巨大な翼を羽ばたかせ、ありえない程の暴風を巻き起こした。
一瞬にして搔き乱された空気の奔流は、忽ち大広間全域に暴風を引き起こす。
「――きゃあぁぁぁッ…!?」
「――うぐわぁぁぁッ…!?」
「――なんて風っ…!?」
「――目が…開けてらんないっ…!」
遠間から静観していた女系魔神軍の兵士たちは、荒れ狂う暴風を一身に受け物陰や石柱に身を潜めていた。
「――ぐうぅ…流石は妖王陛下っ…!」
「――これ程にまで力を付けていたかっ…!」
「何か手立てはあるのか…灰の剣士…!」
「――ひぃぃ…ちょっとぉ…、あたくしも居るんですけどぉっ…!?」
そして深き夢や黒い手のカムイ、アンリや華美の女魔神も暴れる風に身を屈め凌ぐだけである。
「――受けたまえッ!」
「――…ッ!?」
突如として渾身の羽ばたきを繰り出すオスロエス。
屋内にも拘らず全域に嵐が巻き起こっていたが、急激に指向性を宿し灰の剣士へと風圧が襲い掛かる。
それはもはや暴風とは呼べず、巨大な『嵐の刃』にも酷似していた。
巨大且つ異常な風圧の津波が結晶の壁を粉砕。
その砕かれた結晶の破片が刃を化し、衝撃に乗り灰の剣士へと無数に殺到。
「――うぐぉぁぁぁッ…!!」
夥しいばかりの結晶刃は、灰の剣士を含め大広間広域を覆い尽くす。
言うなれば『結晶刃の嵐』とも称するべきだろうか。
時間にして極短時間だが、荒れ狂わんばかりの暴風が止み大広間は束の間の静寂に見舞われた。
「う…ぐッ…ぐはぁ…ハァ…ハァ…ハァ…」
暴風が納まった後、灰の剣士を含め周囲には、大小様々な結晶刃が突き刺さっていた。
言うに及ばず、灰の剣士の全身にも夥しい数の刃が突き刺さり、宛らハリネズミの如き様相を呈していた。
一応、急所を中盾で庇い可能な限り身を屈め被弾面積を抑えていたが、それでも多大な痛痒を強いられ出血が止まらない。
青白い結晶刃には彼の鮮血が滴り落ち、結晶まみれの床を赤に染め上げる。
完全な重傷を負った灰の剣士。
剣を支えに立ち上がろうとするも、思うように足に力が入らない。
「…何とか回復を…」
「――させぬっ、カハァッ!」
「――ぶぐぉッ…!」
奇跡での回復を試みようとするものの、完全に読まれていたのか只の
なんて事はない。我々でも実現できる只の吹きかけだ。
しかしオスロエスほどの存在が少々の力を込めれば、それだけで一種の風圧弾と化す。
その風圧を直に受け大きく後方に吹き飛ばされた灰の剣士は、石柱へと叩き付けられた。
「ククク…、もう立ち上がれまい。勝負あったな」
「あ…ぁぁぁ…ぐ…ぅ…」
全身を強く打ち付けたのだろう。
派手に吐血し、満足に立ち上がる力さえ残っていなかった灰の剣士。
「うぉおぉぉッ…!」
「妖王陛下、バンザイィィッ…!」
「そのままとどめをぉっ…!」
「これで我らの勝利は揺るぎなぃっ…!」
暴風が収まり身を起こした女系魔神軍兵士たちは、口々にオスロエスへと賛美の声を送る。
また彼女たちだけでなく、別組織の構成員たちも便乗した。彼らも皆、灰の剣士により大きな痛手を被っていたのである。
「これで流れは此方のものね、大人しくソイツを解放なさいな」
「貴様の相手が私だ…!」
大勢は混沌側に流れた。
テラス部から静観していた深き夢も勝利を確信し、アンリに向け華美の女魔神の開放を要求。
だがまだ諦めがつかないのか、尚も抵抗の意思を見せるカムイ。二刀を構え迫る彼女へと立ち塞がった。
「仮にも其方は
「…ぐぅ…ハァ…ハァ…ゼァ…」
全身が否でもワナワナと痙攣する。上手く足に力が入らず、立とうと足掻いた傍から体幹が崩れてしまうのだ。
これは非常に不味い状況だ。
よもやオスロエスが、これ程の力を得ていようとは。
オスロエスの言うように、確かに『薪の王』などと呼称されていた灰の剣士。
最初の火を消し、自ら彼の時代を終わらせたのは疑いようもない事実。
だが彼自身、自分を王などと自覚し胡坐をかいた事など一度もない。寧ろその様な称号に興味さえ抱いていなかった。
「成る程のう、あ奴めが例の薪の王…灰の剣士であったか。通りで強敵であったわけじゃ。じゃが、あの狂いし妖王のお陰で、立て直しも現実味を帯びてきたわい」
ひっそりと物陰から様子を窺っていたのは、
女系魔神軍に属する最古参であり、今しがた他の魔神将たちの治療を終えたばかりであった。
先の戦いでは灰の剣士という事実に気付かず、実に多大な犠牲を強いられたものだ。
もし最初から彼の素性に気付いていれば、更に念入りな作戦で迎え撃てていただろう。
この上ない強敵には違いなかった灰の剣士。だが、巨躯を誇る竜種と化した妖王オスロエスは、そんな彼を遥かに凌駕する力を備え圧倒していた。
別組織とはいえ、幸いオスロエスは混沌側の陣営だ。下手に敵対しない限り、此方に有利に事を運んでくれることだろう。
この様子なら、半ば崩れ去った部隊の立て直しも然ほど難しい話ではない。
――暫しの間、利用させてもらいますぞ?竜に狂いし憐れなる王よ…。フェフェフェ…。
勝ちを誇るオスロエスと無様に跪く灰の剣士を見やり、物陰でほくそ笑み再び姿を消す
「同じ『王』とはいえ、私と其方では格が…否…
「ハァ…ハァ…(どうでもいい事をベラベラと…)」
自らを持ち上げ他者を下げたいのだろうか、この妖王は。
吐血し大きく息を乱しながらも、半分聞き流していた灰の剣士。
そう言えば毒沼に塗れた庭園でも、この妖王は饒舌だったような気がする。
当時の彼は確か『末子オセロット』なる赤子に執着していただろうか。
だが灰の剣士にとって、過去のオスロエスになど何の興味もない。
ただ一つだけハッキリとしているのは、敗色が濃厚という事実のみ。
最悪『家路』の奇跡で自分だけ逃げ切れば、少なくとも次に挽回するチャンスには恵まれるだろう。
だが自分だけ、のうのうと逃げ押せる様な損得感情は、もう持ち合わせていなかった。少なくとも今の彼には。
「さぁ、終焉の時だ。素直に我が求めに応じ、其方に宿る『王のソウル』を上納したまえよ。このまま恭順するのであれば、我が臣下として取り立ててやらんでもない」
「…まだそのような物に拘っているのか。何時まで過去に縋りつく気だ…?ハァ…ハァ…」
このままオスロエスの勝利が揺らぐ事はない。
満身創痍となった灰の剣士に、現状を覆す余力は残っていなかった。
あの『結晶刃の嵐』により、彼は一気に瀕死へと追い込まれていたのだ。
「痩せ我慢は大概にせよ。この流れを押し返す力が残っているとは思えんがな」
「ズァ…ヘァ…ハァ…、試してみるか…妖王よ…?」
「このまま其方を殺しても良いのだぞ。『王のソウル』は死体からでもゆっくりと回収できるのでな、ククク」
「ハァ、ハァ、ハァ…、無駄だ。もう私というソウルと融合し、別物へと変異しているであろうよ。(恐らく我がダークソウルにな)」
「それに何の問題があるかね?今の我々には、解決するだけの技術と知識が備わっておるのだよ。どう足掻こうと其方の負けだ、薪の王よ」
「ハァ、ハァ…ぐッ…(残念だが、俺の負けだ…!)」
力の差が顕著に過ぎた。
そもそも大広間という地形。個人の戦闘基準としては広大だが、屋内である事に変わりはない。
対するオスロエスは、強大な竜種の体を手に入れ異様な巨躯を誇るに至った。
彼にとって大広間は非常に狭く、飛翔さえままならない程に動きが制限されていた。
ほぼ棒立ちの状態で戦っていたオスロエス。――にも拘らず、力の一端を披露しただけで灰の剣士を圧倒。ローリアンを出現させたのも、ほんの戯れでしかなかった。
もしこれが屋外なら、オスロエスは更に力を発揮し宙を自由に飛び回っていたに違いない。
そうなれば、とてもではないが手の付けられる次元ではなくなってしまうだろう。
そんなオスロエスでさえ、まだ
その現実を身に染みて理解した灰の剣士。
命の危機に晒されながらも『つくづく世界は広い』などと場違いな考えが過り、自分でも気付かないほどの微かな笑みが零してしまう。
「その薄ら笑い、あくまで此方に従う気はないか。…ならば望み通り引導を渡してしんぜよう」
ゆっくりと鱗に覆われたオスロエスの手が迫る。
その鋭い爪で突き刺したいのか、彼の全身を握り潰したいのか、オスロエスは悠然とした動作を保ったままだ。
冷静に考えれば、迫る時間でさえ彼には有用に働いた。
「――アンリぃッ、その女を引き連れて逃げろぉっ…!」
「――…き…み…!?」
徐々に迫りつつあるオスロエスの手。
もう自分の置かれた状況など歯牙にもかけず、灰の剣士は力の限り叫び散らかす。
「――カムイは、深き夢の足止めだっ…!いそげぇッ…!」
形振りなど構っていられない。
このままでは敵に軍配が上がるのは確実。
アンリには、華美の女魔神を引き連れ深みの聖堂から脱出してもらう。
そしてカムイには、それを阻止するであろう深き夢を足止めを担う。
救出対象である少女『見習い勇者』を助け出すには、これしか手立てが思いつかなかった。
此処まで追い詰めれれば、もう『ローリアンと見習い勇者』の両方を助け出すことなど絶望的だ。
ならばせめて、か弱く幼い少女である彼女の救出を最優先させたかった。
どう転ぶかはまだ定かではないが、ローリアンの救出は先送りにするしかない。…ロスリック王子やカムイには申し訳ないのだが…。
「…行くよ、グズグズするんじゃない…!」
「ちょっ、痛い…!貴女もあたくしも女なのよっ!もっと丁寧にっ――」
「させると思って…!?」
「貴様こそなッ…!(ローリアン様の件は残念だが…)」
もう逡巡している暇はない。
そう悟ったアンリは、無理やり華美の女魔神を立たせ聖堂の脱出を図ろうとする。
それを阻止しようと動く深き夢に対し、カムイも二刀で牽制を繰り返す。
「…無駄である、ぬんッ!」
「――ぎゅあっ!?」
「――ぬごぉっ!?」
灰の剣士に呼応するアンリとカムイ。
だがオスロエスの対応は俊敏で、指先から二人目掛けソウルの光条を二本照射。
当然二人には回避する間もなく、アンリとカムイは肩部を抉られてしまう。
「――今のは『ソウルの奔流』ではないかっ…!指先から…溜めもなく複数同時に照射などっ…!」
オスロエスの起こした事象に、驚愕の表情と声を上げる灰の剣士。
あまりに驚愕の事実に自分の苦痛も忘れ、思わずアンリとカムイの居るテラス部へと目線を向けた。
オスロエスの指先から照射された光は、紛う事なきソウルの魔術『ソウルの奔流』そのものであった。
本来のソレとは似ても似つかない程に細い光条ではあったが、あの二人の肩部が難なく抉られたのだ。
その様子を察するに、威力は何ら遜色なく据え置きだと予想された。
「それ程驚く事かね?数多の竜種の中には、魔力に長けた個体も居てね。お陰様で、我が魔力も今以上に忠実しておるのだよ」
何の前触れもなく指先から、しかもたった2本とはいえ複数同時に照射したオスロエス。
数あるソウルの魔術の中でも『ソウルの奔流』は、最高峰の威力と難度を誇ると言われている。
並外れた知力と理解力に加え高い魔力を兼ね備え、その上で魔術の杖という触媒を用いて初めて行使が叶う高難度の魔術。
発動させるにも長い時間を要する筈なのだが、オスロエスは瞬間的に発動して見せた。
しかも消耗など微塵にも感じさせず、まだまだ余裕さえ崩していない。
その気にさえなれば、全ての指先から『ソウルの奔流』を放つ事さえ可能な筈だ。
それこそ全力を出そうものなら、その聖堂全域を破壊しつくしかねない程の威力を発揮できるだろう。
目を見開く灰の剣士を余所に、これまでの武勇伝を宣うオスロエス。
魔力に長けた竜種を心臓を食らったと語るが、恐らく彼自身の才覚も手伝っての事だろう。
――だ、駄目だ…!力の差が開き過ぎている…!
今度は苦痛とは違う要因で、全身がガクガクと震えていた灰の剣士。
ここまで明確な差を見せつけられ、心の奥底から言いようのない絶望感が湧き出ての事だった。
「残念だったわねぇ…灰の剣士…!かなり好き勝手に暴れてくれたようだけど、少々オイタが過ぎたようね♪」
これで此方の敗北が確定。
眼下で震える灰の剣士を見下ろし、嘲りと侮蔑を言葉を向ける深き夢。
彼女が不在の間、この男は相当に蛮勇を働いたというではないか。
あの王妹を救出した件と言い、聖堂内で暴れた件と言い、とにかくただ殺すだけでは気が収まらない。
最終的に生殺与奪の権は、オスロエスが担うことになるだろう。だが可能なら生け捕りにしてほしいものだ。
この剣士、見るからに肉体的な苦痛よりも精神的に追い詰めた方が、此方としても愉しめそうだ。
今も無様に床に伏せている華美の女魔神だが、彼女を脅かすアンリは戦闘不能状態。
そして今も肩口を庇うカムイも真面に戦える状態ではない。二人ともかなりの実力者だが、こうなってしまえば赤子も同然。
一先ずの脅威は去ったという処だろうか。
「妖王陛下…!単に殺すだけでは、私だけでなく女系魔神軍の腹の虫が治まりませぬ!この剣士は生け捕りにし、然るべき処遇を与えるべきかとッ…!」
「そ…そうよぉっ…!」
「あたしらにも復讐の機会をっ…!」
「散々やってくれたんだから、少し位仕返ししてもっ…!」
「そうだそうだッ!アイツに手酷い報復をっ…!」
深き夢の言葉を聞いていた女系魔神軍の兵士たちも、挙って同調の声を上げ始める。
今はオスロエスに圧倒されていた灰の剣士だったが、つい先ほどまでは彼女たちが圧倒され通しであったのだ。
剣での迎撃など言うに及ばず、術や搦手でさえ結局彼には通用しなかった。おまけに魔神将はその腹心たちも翻弄され、部隊としての機能が半壊するほどに追い込まれた。
灰の剣士に対し過剰な恐怖を抱いていた彼女たちだが、オスロエスの圧倒的力により次第に怒りが勝り始めていたのである。
「ね、ねぇ、どうする?」
「どうするも何も、私たちに出来る事なんて何も…」
「でもあの剣士、私たちは斬らずに見逃してくれたっけ?」
「そう言えば私らの事、善良がどうとか言ってたような気が…?」
「単に無視されただけじゃないの…?」
「あの『風の魔神将』をも見逃したたんだっけ…いやあれは違うか…?」
俄かに沸き立つ女系魔神軍の兵士たちだが、別の個所で遠間に静観していた部隊も居た。
彼女たちも灰の剣士を迎撃すべく抵抗したが、どういう訳か斬られていなかった。
もう朧気にしか覚えてないが、自分たちの事を善良あるいは更生の余地ありとか口走っていたような気がしないでもない。
どういう形であれ、彼女たちは見逃されていた。
本音で言えば助け出したいのだが、彼女たちは部隊の中でも劣等に属し何も手立てが無い。
下手に逆らえば重罪は確実で、彼女たちは未だ女系魔神軍に属している事に変わりがないのである。
残念だが見届けるしかなかった。
「深き夢よ…、良かろう。其方の言い分に従い、この男は生かしておく」
「ハハァ…、有難き御配慮…!」
「「「「「「――いやっほぅ~ッ…!!!」」」」」」
彼女の提案が受け入れられ、周囲から歓声が浴びせられた。
これで、うっ憤が晴らせるとばかりに女系魔神軍の兵士たちは盛り上がっていた。
「「「「「……」」」」」
無論、それを良しとはしない部隊も居るには居たが、不承不承ながら同調せざるを得なかった。
「聞こえていたかね、灰の剣士?其方は運が良い。彼女の慈悲に縋り、これからは魔神軍に鞍替えするがよかろう…ファッハッハッハ…!」
再び灰の剣士へと手を伸ばすオスロエス。
彼の鷲摑み全身の骨を圧し折る事で、完全に抵抗力を奪う算段だ。
そうなれば後は好きに扱えばいい。
彼に宿るソウルはオスロエスが頂くが、その後は彼らの知る処ではないのだ。女系魔神軍が彼をどう扱おうと、目的のソウルさえ奪えば用など無い。
「…内なる大力…最大強度ぉッ…!!」
満身創痍に何ら違いない灰の剣士。
しかし彼も、ただ黙って状況を受け入れる気など毛頭なかった。
体内に火を燃やす事で、生命を引き換えに普段以上の戦闘力を発揮する呪術の火『内なる大力』を発動させた、灰の剣士。
それを己の許容限界まで術強度を高め、文字通り最後の抵抗を図った。
体内に宿る火が彼の体を焼くが、ソレが薪となり多大な力へと変換してくれる。
その力を脚部へと収束させ、一気に床を蹴り抜く灰の剣士。
だが爆発的な瞬発力を引き換えに、体細胞や毛細血管は耐え切れず皮膚を突き破り鮮血が噴出。
当然、得体の知れない激痛に見舞われるも、彼は気にも留めずオスロエス目掛け跳躍。
「――なッ…速いッ…!(あの剣士、まだそんな力がっ…!?)」
辛うじて反応できた深き夢だが、対応できたかどうかは疑わしいものだ。
只人を完全に凌駕している、異常な速度。敏捷特化の上位魔神でさえ出せるかどうか疑わしい程の跳躍力に、深き夢は別の意味で驚愕した。
反応できたのは、オスロエスを除けば深き夢だけだ。他の魔神軍兵士や魔神の眼には、彼の残像が映っているに過ぎなかった。
只人にはありえない程の速度で、オスロエスに肉薄せんと迫る灰の剣士。
「――遅いッ…!」
「――がふッ…!?」
しかし結果は呆気ないものだった。
渾身の全力を籠めた跳躍も、オスロエスは難なく見切っていた。
正に
「ぁ…ぁ…ぁ…」
無残にも彼は床へと叩き伏せられ、全身を激しく強打。
ガクガクと小刻みな痙攣を繰り返し、声にならない呻きを漏らすだけの存在と化す。
「かなりの速度なのだろうが、今の私には
「ぅ…ぁ…ぅぅ…(もう駄目だ、おしまいだぁ…)」
これで万策尽きた。
もう彼に抵抗する力など残ってはいない。
最後の苦肉の策も全く通用せず、彼は敗北に追いやられる。
「当時の私なら、逆に討たれていたのであろう。だが現実とは真に残酷なものよの、灰の剣士…いや嘗ての薪の王よ?」
「ぁ…ぅ…(せめて…せめて回復さえでき…れば…)」
立ち上がることは疎か、エスト瓶や奇跡を行使する力さえ残ってはいない。
今の彼は、指一本動かす事もままならなかった。
何やら口走っていたオスロエスだが、今の彼には鈍いナニカにしか認識できていない。
おまけに視界も灰色に染まり、必死に繋ぎ止めていた意識をも途絶える寸前であった。
周囲から一層の歓声が沸き上がる。
既に女系魔神軍だけでなく、他の組織までもが総出でオスロエスを湛えていた。
「ふぅ…一時はどうなる事かと思ったけどぉん、これで此方の勝利は確定したわけねぇん♪」
アンリの負傷により拘束から逃れた華美の女魔神も漸く立ち上がり、衣服に纏わり付いた誇りをパンパンと振り払った。
「アンリちゃんと言ったかしらぁん?このあたくしがタップリと調教して開発して上げるわぁん♪あたくし両方イケるクチでしてよぉん❤」
「おのれ…万事休すか…」
形勢逆転とばかりにアンリへと近づく華美の女魔神。
もう危険はないとばかりに何時もの砕けた調子を取り戻し、アンリへと手をかけた。
――役に立たないクズ女め…、まぁいいわ。これで儀式の準備も整うでしょうし。
調子づく華美の女魔神の態度には、不快なものを感じながらも深き夢も安堵の息を吐く。
これで懸念材料となる邪魔者は無力化できた。
後に残るのは拠点街に残留していると思わしき、死にぞこないの冒険者や兵士ばかり。
正直後回しにしてもいい程に、気に留める価値もない。
「さぁ、あの少女を此方に――」
「ヒッ…!?え、えぇ…今直ぐにでも…!」
見習い勇者の引き渡しを要求する深き夢。
華美の女魔神にとっては、深き夢でさえ恐怖の対象であり身を強張らせる。
だが変に逆らい揶揄おうものなら命の保証はない。
直ぐにでも自己生成した空間を解き、見習い勇者を明け渡そうとした。
だが此処で異変が起きる。
「…へっ…何…?」
「貴女…何をしているの?フザケテないで早くしなさいな…!」
「ひぃっ…待って、お待ちになって…!何か…何かが可笑しいのよっ…!?」
僅かに感情を高めただけの深き夢だが、苛立っている事に変わりはない。
それを察した華美の女魔神も取り乱し、直ぐにでも空間を解こうと試みるが思うように術が作動しない。
「…!?何か異常な歪みがっ…!?」
華美の女魔神を殺せば、どのみち空間は解け件の少女の確保が叶う。
感情赴くままそうしても良かったのだが、彼女が取り乱す通り眼前の空間が異常な歪みが発生していた。
これには深き夢も怪訝な顔を浮かべ、暫し様子を見る事にする。
「あ…あぁ…空間が勝手に暴走…いえ、壊れてしまうっ…!?」
「何…何が起こって――」
空間の異常な乱れが次第に増し、二人の女魔神は困惑の度合いを強めた。
『ぅぅううぅぅ…ぁぁああぁぁぁ……』
そして空間の歪みの中心部から漏れ出る少女の声。
声だけではない。声と同時に眩いばかりに閃光が漏れ出ており、それは次第に増しつつあった。
「この声…まさかっ…!?」
「あぁぁ…あたくしの空間が崩壊をっ…!」
それは深き夢にとっても聞き覚えのある声。あの少女『見習い勇者』の声で間違いなかった。
漏れ出る声と閃光がいよいよ勢いを増し、華美の女魔神が生成した空間が崩壊寸前に至る。
『――あああぁぁぁぁッ…!!』
「あぁぁ…空間がぁ…!?」
「まさか
そして目を射抜かんばかりの閃光が周囲に迸り、少女の雄たけびと共に異空間が破断を迎える。
その瞬間、一人の少女が床に降り立った。
「あ…き…君…どうやって…」
「な…なんだというのだ…あの少女…!?」
その現象に驚いていたのは、二人の女魔神だけではない。
アンリやカムイも同様で、突如として空間を破り現れた『見習い勇者』の姿に呆けるばかりだ。
深き夢の言葉通り、見習い勇者は
「フム…ただの幼子ではないようだな。あのソウル…、王のソウルに比肩…いや、見方を変えれば――」
大広間に居たオスロエスもテラス部の異常に気付き、様子見に徹していた。
「この…ソウル…、太陽の…様…だ…」
床に平伏していた灰の剣士も途切れ行く意識を繋ぎ留め、あの少女のソウルを身に感じている。
太陽の如きソウルながら、それは似て非なるモノで何処となく夜明けを…『暁』を想起させるものだった。
オスロエスや灰の剣士が察知していた通り、見習い勇者の纏うソウルは太陽の輝きにも似ている。
同時に姿を現した彼女の全身は、眩くも温かみに満ちた光で覆われ周囲を取り巻いていた。
「何あれ、何が起こったの?」
「何か光ってるわよ…?」
「小さな女の子供…だねぇ…?」
「アレも冒険者の子…?」
冷たくも荘厳な聖堂に、突如として現れた太陽の如きソウルと光の空間。
静観していた魔神軍兵士や他の混沌勢も、一斉に見習い勇者へと意識が釘付けた。
あまりに似つかわしくない。少女を包む温かみと厳かを兼ね備えた夜明けに似た光の束。
この深みの聖堂は、文字通り深みと闇に満ちた信仰で成り立ち、暗くも神聖な空間だ。
それを代表するかの如き秩序の象徴にも等しい、夜明けの太陽にも似た光条とソウルが大広間を満たさんとしている。
不快だ、実に不快に極み。
混沌勢の中には、彼の時代より神殿に居ついていた『深みの信徒や主教たち』も未だ健在であった。
決して騒ぎはしないものの彼らの心中は穏やかではなく、深く淀んだ胸中を久々に搔き乱されていた。
「これは驚いたわね、まさか自力で異空間を破るなんて」
少し予定外だが、これで手間は省けた。
見習い勇者を確保すべく彼女に手を伸ばした深き夢。
只人の幼子とは思えないソウルと可能性を発露させたようだが、深き夢にとっては些事でしかない。
だが少女に手を伸ばし、光の膜に触れた途端である。
「――なッ…ぐッ…!?」
突如として青い肌が焼け爛れ、反射的に手を引く深き夢。
「――ど、どうなってるのッ!?これでは、近づく事さえ…!」
確保は疎か触れる事も叶わず、深き夢は焼け爛れた腕を庇いながら慄き後退る。
互いのソウルが触れ合った瞬間、反応を引き起こし、深き夢が結果的に焼け爛れるという現象に見舞われた。
生贄の儀式に有用と攫った時には、この少女を抱きかかえても然したる反応は無かった。
だが今はどうだ。
少女の全身から輝かんばかりの陽光が溢れ、神々しいまでの気配に覆われている。
このままでは確保もままならず、触れただけで耐え難い火傷を負ってしまう。
「くッ…、アラーネア(蜘蛛)…ファキオ(生成)…リガートゥル(束縛)…!」
直に触れれば焼け爛れてしまう。ならば別の媒体を用い拘束すればいいだけだ。
透かさず真言呪文『
だが少女に到達する前に、粘性の糸は例外なく全て蒸発した。
「――な…馬鹿な…こんな事が…!?」
『王妹』以上に有用と思わしき大事な儀式の生贄でもある、見習い勇者という少女。
相手が幼子という事もあり過剰に傷付ける訳にもいかず、かなり加減した『
その事実に、深き夢は驚愕し眼を見開く。
これは明らかな異常事態だ。この少女に一体何が起きたというのか。
しかしこのままにはしておけず、何としても少女を捕らえねばならないのだ。
「少し痛いけど我慢なさいな、お嬢ちゃん」
こうなれば直接殴打を加え気絶させるしかない。
意識さえ途絶えさせれば、少女を覆う陽光も沈静化するはずだ。
深き夢は杖を取り出し、見習い勇者へと振り下ろす。
一見非力にも見える深き夢という女魔神。だが彼女の膂力は只人の常識を遥かに凌駕し、岩塊さえ容易に砕く腕力をも備えていた。
もちろん全力を加える訳ではなく、極力加減した一撃を少女へと加えた。
だがそれでも――。
「――ど…どうなってるのッ!?私の一撃をっ…!」
気絶を試みた杖の殴打だが、見習い勇者は容易く細腕で受け止めてしまった。
まるで息をするかのように、さも当然と言わんばかりに少女は汗一つ滲んでいない。
相当の手心を加えたが、よもやこんな幼子が我が一撃を止めてしまおうとは――。
これには殴打を加えた本人こそが最も驚き、信じ難い事実に狼狽えてしまう深き夢。
あの王都襲撃の時でさえ、殆ど打撃だけで数多の近衛兵や騎士を打ち屠っていたのだ。しかもその悉くが、選りすぐりの精鋭ばかり。
「な…なんなの…この少女…普通じゃないわ…」
彼女とてまだ全力を出してもいないが、眼前の少女に対し言いようのない恐怖を覚えてしまう。
「…サジタ(矢)…インフラマラエ(点火)…」
「え…なに…真言呪文…!?」
少女の拘束を試みた深き夢だが全て失敗に終わり、恐れ慄く彼女は無防備な隙を晒していた。
そんな彼女に対し、今度は見習い勇者が手を翳し詠唱を呟く。
詠唱の内容からして、真言呪文『
それ自体、特に驚く事もない。
只人の幼子でも呪文の才覚に長けた者は、成人前に行使する前例は幾つも存在していた。
並の幼子の扱う呪文など、蚊ほどの脅威にも値せず。
本来なら、そう高を括り油断したとしても、深き夢が傷を負う要因など万に一つもありえなかった。
「――…っ!」
しかし彼女は額に大粒の汗を浮かべ、異様に警戒し身構える。
この少女は異常だ。
触れた瞬間、瞬時に焼け爛れた事。
此方の真言呪文が通用しなかった事。
加減したとはいえ殴打も受け止められた事。
どこをどう考えても、こんな幼い只人の少女が女魔神に抗うなど、普通なら先ず起こり得ない。
「ラディウス《射出》…!」
「――…!?」
幾分、気も動転していたのだろうか。
いつの間にか見習い勇者の詠唱は終わり、掌から真言呪文『
こんな幼い子供が放つ呪文など、どれ程の威力を持とうというのか。
これが並の幼子が放った『
だが少女から放たれたソレは、矢というよりは光線に近かった。
「――がッ…はッ…!?」
突如として腹部から登り来る、異様な熱さと激痛。
見習い勇者が放った『
本来なら燃え上がる矢型の刃を投射する『
だが彼女が投射した『
深き夢は反応すら出来ず、いとも容易く腹部に風穴を穿たれてしまう。
「ち…調子に乗るなぁ…クソガキぃ…『奇襲の礫ぇ』…」
口から大量の血を吐き出しながらも、少女に憎悪をぶつける深き夢。
美貌に加え強靭な身体に絶対の自信を誇っていただけに、即座に本性を現し邪悪な殺意を昂らせる。
そして報復とばかりに、狭間の地に由来する夜の魔術『奇襲の礫』を少女に放つ。
この魔術は後方から魔力礫をぶつけ、回避が困難であり文字通り奇襲に向いていた。
しかし見習い勇者は難なく首を傾け、あっさりと回避。
そのまま少女を素通りした青黒い魔力礫は、真っ直ぐ深き夢の顔面へと迫る。
「――馬鹿な…ブグォッ…!?」
あの少女にとって初見の筈だ。まず躱せようがない。
今も肩部を庇い此方を傍観しているアンリでさえ、初見の『奇襲の礫』を真面に受けたのだ。
どう贔屓目に見ても、この少女がアンリに勝るとは到底思えない。
だが現実、見習い勇者は容易く回避。
そのまま直進した奇襲の礫は、深き夢の顔面を直撃した。
「――がぁあぁぁっ…顔がぁ…私の美しい顔がぁッ…!?」
思わず顔面を両手で庇う深き夢は、絶叫を上げながら床を転げまわる。
苦悶に喘ぐその姿は、正に無様というほかない。
「……」
尚も床を転げまわる深き夢の事など、既に少女にとってはどうでもよかった。
一瞬だけアンリとカムイの方へと視線を向けた見習い勇者は、そのままテラスの柵を乗り越え跳び下りてしまった。
「――なッ…高過ぎるッ…!」
まだ幼い少女に過ぎない見習い勇者。不用意に跳び下り着地した瞬間、彼女の両脚は折れてしまうだろう。
肩部の痛みも忘れ少女の後を追うアンリは、そのまま大広間の下階へと身を乗り出す。
だがアンリが見た光景は、難なく着地に成功していた見習い勇者の姿。
彼女が着地した瞬間、全員を覆っていた光の膜が衝撃を和らげるかのように膨張し、結果的に何事もなく跳び下りに成功。
その足でゆっくりと灰の剣士とオスロエスの方へと歩み出す。
「何かが起きたんだ…あの子の身に得体の知れない何らかの力が働いた…」
「正確には、あの少女の潜在能力が解放されたのやもしれぬ…。限られた条件下だとは思うがな」
テラスの柵越しに眼下の少女の身を案じるアンリ。
彼女の見解に、カムイも言葉を付け加える。
少女の身でありながら、秘められた潜在能力が発現したのだと。一時的にとはいえ。
「……」
「これはこれは…、勇ましいお嬢さんだ。よもやとは思うが、このオスロエスの挑もうというのではあるまいな?」
「ぐっ…よ…せ…、逃げ…ろ…」
「……」
灰の剣士を庇うかのように、悠然とオスロエスの前へと立ちはだかる見習い勇者。
そんな彼女に対し、威圧の言葉を投げかけるオスロエス。対する灰の剣士は、地を這ったまま途切れがちな言葉で逃走を促した。
また見習い勇者も暫しの間、灰の剣士に悲しげな眼を向ける。
「……ッ!」
だがすぐさま彼女は、オスロエスへと怒りの形相で睨みつけた。
全く愚かの極みというほかない。
このような只人の幼子が、我が身に挑んでこようとは。
よほど愚鈍の極みとでも言うべきか、現実というもの知らな過ぎる。この幼子は。
だがこの強大で偉大な竜種と化した姿を目にして尚、臆するどころか立ち向かう意思を保つ勇気だけは
並の幼子なら泣き喚き正気さえ失っていただろう。
ならば教育してやろうではないか。
勇気と無謀の、はき違えを。
力の差という現実を。
残酷な世界の、ありようを。
「その勇気に免じて、贈り物を差し上げようではないか」
「ぐ…何とかしないと…『生命沸き』…」
「……」
少女に起きた異常事態はオスロエスも察していた。
只ならぬ夜明けの如きソウルを溢れさせていた少女だが、決して強大とは言い難く矮小に思えた、オスロエスにとっては。
恐らく、この一手で早期に片付くだろう、呆気ない程に。
指先からソウルの刃を三本形成するオスロエス。
人差し指、中指、薬指から各一つずつソウルが凝縮され、次第に大型の槍へと変化を始めていた。
ソウルの魔術『ソウルの槍』を三本形成していたオスロエス。
『ソウルの奔流』に比べれば幾分威力も格も劣るが、高位の魔術には違いなかった。
只の一本だけでも直撃すれば、大物さえ確殺できるほどの破棄力を秘めている。
オスロエスは三本同時に形成し、またもや桁外れの魔力を発現させていた。
それを視界に収めていた灰の剣士は、力を振り絞り辛うじて『生命沸き』の奇跡で回復を試みる。
何とか動けるだけの力を取り戻し、エスト瓶での本格的な回復で再起する手筈でいた。
加勢が間に合うかどうかは疑わしいが、このまま少女を見殺しにする気など毛頭ない。
「ソウルの槍…、受け取りたまえ…!」
巨大で鋭いソウルの槍が三本、見習い勇者に放たれた。
間違いなく直撃コースだ。このまま食らえば少女の肉体など無残に消し飛んでしまう。
「――…!」
だが直撃の寸前、ソウルの槍は塵一つ残さず消失した。
「…な…何をしたのだ…?」
「…ふむ…?」
それを目撃していた灰の剣士とオスロエス。
灰の剣士は目を見開き、オスロエスは顎に手を添える。
一瞬だが彼女に着弾する間際、全身を覆う光の幕が膨張したようにも見えた。
その様子から無意識ではなさそうだが、何かしらの術を発動させた形跡は見受けられない。
意識の集中によるものだと思われるが、それならそれで少女の身に何が起こっているのか。
反応こそ違えど少女に対し、同じ心情を抱いていた灰の剣士とオスロエス。
「まだ力を完全に制御は出来ておらぬ筈だ。もしそうなら、早期に其方を認知していたであろう」
今のソウルの槍。一つ一つが規格外の威力を誇り、それを3本同時に形成し投射。
それだけでも尋常ならざる力を備えるに至った、妖王オスロエス。
だが見習い勇者は意識を集中させただけで、3本のソウルの槍を無効化してしまった。
この事実に灰の剣士だけでなく、テラス部のアンリたちや魔神軍兵士たちも、どよめきの声が漏れ始めていた。
しかしそれでもオスロエス本人は、特に気にした風でもなく寧ろある種の興味さえ少女に向けていた。
恐らく何らかの感情が極限にまで昂り、秘められた潜在能力の一端が発露した。
そう分析するオスロエス。
ソウルの槍を掻き消した瞬間だが、極僅かの一瞬だけ夜明けの如きソウルが爆ぜた様をオスロエスは見抜いていた。
結果、今の状態が彼女の普段の実力ではない事を確信する。
その見解は間違いではなく、高い確率で的中している筈だ。
ならば臆する必要など全くない。この少女に宿る神々しいまでのソウルを奪取し、悲願達成の糧とする。ただそれだけの事だ。
「ククク、力の方はどうかな?」
確かに3本のソウルの槍を一瞬で掻き消すなど、熟練の魔術師でも成し得るかは怪しいものだ。
この少女は、間違いなくタダ者ではない。
しかしそれだけで竜種と化した自分を打ち負かせるとは、到底思えなかった。
では純粋な膂力は、どれ程のものか?
巨大な手を振り上げ、少女の頭上へと振り下ろす。
単純に腕を振り下ろすだけの動作だが、只人から見れば巨人にも似た凶悪極まりない剛腕そのもの。
とてもではないが、見習い勇者がオスロエスの剛腕を凌げるとは思えない。
――くそ…、まだ動けんか…、肝心な時に…!
徐々に回復しつつある灰の剣士だが、未だ腕一本動かすのでさえ四苦八苦している状態だ。
だが今は見習い勇者だけだ、真面に動けるのは。
一刻も早い回復を願いつつも、今の彼女に頼らざるを得なかった。
巨竜の如きオスロエスの剛腕に、少女の矮躯などが耐えられる道理はない。
誰もがそう思うのは、実に正しい認識だ。
しかし、彼女は片腕でオスロエスの腕を食い止めた。
「――ぬっ…!?」
「――……!」
今度はオスロエスも驚愕の声を零し、振り下ろした腕に更なる力を込めようと試みた。
だが小刻みに震えるだけで、少女を圧し潰すことは叶わなかった。
これまで幾度も味わった身肉の潰す感触に興味など無いが、それでも少女を叩き潰そうと躍起になるオスロエス。
そして今も地に伏せながら、それを見ていた灰の剣士も声もなく釘付けになるしかなかった。
「いい気になるなよ、小娘がぁッ…!」
まだまだ全力ではないオスロエス。
少女を潰すべく腕に力を込め、徐々に少女の身体は床に減り込んでゆく。
しかし少女の方は特に悲鳴を上げる事もなく、オスロエスの睨んだまま剛腕を食い止めたままだ。
「許せない…お前をっ…!」
そして不意に紡がれた少女の言葉。
今までにない鋭い目つきでオスロエスを見据えつつ、空いた腕で拳を繰り出した。
「――うごゥゥッ…!?」
この距離で少女の拳が届くはずはない。
少女とオスロエスの体格差など語るまでもなく、リーチでは圧倒的にオスロエスが有利なのだ。
しかし腹部を抑え蹲るオスロエスの様子は、明らかに何かを打たれたかの如く苦悶の声で呻いている。
「――ぬぅ…おのれぇっ…――ッがぁッ…!?」
思わぬ一撃を食らったものの、オスロエスは即座に反撃。今度は鋭い爪で引き裂こうと、再び剛腕を高速で振るう。
だが少女を引き裂くことは叶わず、次は胸部に重く激しい衝撃に襲われた。
「――ごぶぁぁっ…!?」
またもや手痛い一撃を食らった彼は体幹を崩し、竜種の如き巨体が床に崩れ御落ちた。
「……」
言葉もなく見守っていた灰の剣士。彼は確かに目に焼き付けていた。
見習い勇者の拳は、やはり届いてはいない。
しかし拳を繰り出すと同時に、拳骨から
その光輝く衝撃波が、オスロエスの腹部と胸部を打ち据えていたのである。
「…うぅ…ぐふぅ…ぐぼぇぇっ…!?」
転倒したことで大広間全体に鈍い振動が奔る。
あれほどの巨体と質量だ、雑に暴れ回るだけも聖堂全域が破壊されかねない。
それにしても凄まじいまでの衝撃波だ。あの少女の華奢な身体の何処に、これ程の破壊力を秘めているというのか。
灰の剣士でさえ手も足も出なかったというのに――。
見習い勇者の放った陽光の如き衝撃波だが、傍から見ても地味なモノで大した破壊力を備えているようには見えなかった。
だが現に打たれたオスロエスは大量に吐血し、全身を震わせながら苦し気に立ち上がろうとしている。
やはり人族というよりも、彼の身体は竜種に傾いているようだ。
それを証明するように、暗い赤紫という気味の悪い血液を口から垂れ流していた。
顔だちも竜種に限りなく近付いているが、苦悶の表情は読み取れる。
どうやら少女が放った陽光の如き衝撃波は、相当の威力でオスロエスを穿ったらしい。
今も全身を小刻みに震わせながら、少女へ憎悪の視線を向けていた。
「な…なぜだ…?なぜ…このオスロエスが…、たった2撃で……これ程のダメージを……」
完全に狼狽している。
彼の言う通り、ほんの2撃しか受けていないのだ。
しかし彼の身体は無視できない程の痛痒を負い、先ほどの余裕さえ消え失せている。
今もガクガクと身体を震わせつつ、オスロエスは再び少女と対峙した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
陽光のソウル
一只人に過ぎない少女が、突如として解き放った淡い黄金色のソウル。
全てを受け入れんばかりに温もりと慈愛に満たされているが、相反する邪悪は容赦なく焼き溶かす。
淡い黄金色の光に包まれ、宛ら天に座する太陽にも近似していた。
その全容を把握する者は、誰一人として存在しない。
おそらく助言者でさえ、知り得てもいないだろう。
陽光衝撃波
淡い金色に輝く陽光を纏った衝撃波。
邪悪なる要素を一切受け付けぬソウルに指向性を持たせ、対象へと高速で解き放つ。
いくら強固な防御を備えていようと、陽光は邪悪へと反応し問答無用で崩御へと誘うのだ。
然る少女が宿す陽光のソウル。
それは神々の干渉によるものか、それとも、少女自身が宿す人間性の発露ゆえか。
見習い勇者の周囲に纏う、黄金色に輝く陽光のソウル。
きっとシュインシュインシュインシュインという効果音が鳴っているに違いない。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/