ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 神々が、その盤の支配権を巡り、或いは純粋に楽しむ為に骰子を投げ、その出目から導き出される結果に一喜一憂していた。

そんな中一つの盤が、幕を閉じ物語を終える。


イヤーワン編
第1話―神々の盤、そして冒険者―


世界の支配権を巡り今日も骰子を投げ、出目の結果に一喜一憂していた神々。

 

その決着は何時までも着かず、次第に神々は飽き始めていた。

 

そこで神々は一計を案じ、盤《世界》を創り出し、その中に自らの創り出した生命《駒》を置いたのである。

 

その生命《駒》達は、骰子の出目により倒し倒され、生き死んでいき、多様な物語を展開していく。

 

その在り様に神々は、大いに愉しんだ。

 

 

 

そして今日も今日とて神々は、骰子を振る。

 

幻想の神が創った駒『祈りを持つ者(プレイヤー)』達が、賽の出目により運命を決定付ける。

 

真実の神によって創られた、シナリオをクリアして行くのだ。

 

そのプレイヤー達を倒すべく、混沌の神、闇の神、その他の神々によって創り出された『祈り持たぬ者(ノンプレイヤー)』達。

 

祈りを持つ者、持たぬ者達両者が激しくぶつかり合い、物語を創りだしてゆく。

 

 

 

全ては、骰子の出目《運命》の気まぐれ次第。

 

 

 

・・・・・・そう、全ては骰子の出目つまり《運命》に委ねられているのだ。

 

 

 

神々とて、容易に覆すことが出来ない、それが《運命》。

 

 

 

但し、極稀に例外(イレギュラー)が存在する。

 

彼、彼女らは自らの意思で考え、決め、戦い、歩んでいく。

 

いつしか、その者達の存在により、神々の予期せぬシナリオに発展、移行する場合がある。

 

尤も神々にとっては、世界に彩を与えてくれるであろう、その『賽を振らせぬ者』達も愛すべき対象であり、受け入れた。

 

 

 

だがそんな状況が何時までも続くわけが無い。

 

神々の中には、表面にこそ出さないが次第に飽きを感じている者も現れ始めていた。

 

始まりが在れば必ず終わりが在るものだ。

 

何人たりとも変える事が不可能な真理。

 

 

 

即ち宿命。

 

 

 

一人の神様が、ある感情を抱く。

 

この終わりの見えない物語にも、いずれは終止符を付けるべきではないのか。

 

この感情は、次第に強くなっていく。

 

その神は、黒い鳥の神様であった。

 

 

 

 

 

 一つの盤《世界》が、終止符を打たれ閉じられる。

 

それは、決して救われる事の無い 火継ぎ を巡る不死人たちが織り成す世界であった。

 

時折、他の神々がその盤を様子見ては。

 

「もう少し、救いが有っても良いんじゃないか?」

 

口を出される事もあった。

 

その言葉に最初こそ気にも留めてなかった一人の神。

 

火継ぎの盤を主催していた 太陽の光の神 は、この救いの無い絶望に立ち向かう不死人達の姿こそ見たかったのである。

 

この世界がどの様な結末を迎えようとも全てを受け入れる覚悟があった。

 

とは言え、自分の創り出した生命《駒》達。

 

物語を繰り返す内に、徐々に情が沸いてきたのもまた事実。

 

更に先程の言葉を無下にする事も出来なくなっていた。

 

結果、妥協案としてあの、火消しの結末《エンディング》を盛り込んだ次第ではある。

 

始まりが在れば必ず終わりが来る。

 

確かに、それで良い。

 

それで・・・・・・。

 

 

 

閉じられた(火継ぎの盤)から、遊戯に携わった神々が去っていく。

 

一人、太陽の光の神を残して。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

暫く物思いにふけながら腰を上げ、立ち上がり隣の番で盛大に盛り上がっている神々を観た。

 

 

 

――どれ、少し静観させてもらうか。

 

 

 

付かず離れずの距離を保ち、その盤に目をやる。

 

愉しんでいる様なら何より。

 

特に口出しも干渉もする事無く暫し鑑賞にふける。

 

 

 

暫くの後、神々がざわつき始めた。

 

何事かと距離を詰め覗き込むと、蛇の神が終わった(火継ぎの盤)の駒の一部を 現在の盤 に置いているではないか。

 

この蛇の神は、とにかく暗い話やバッドエンドが大好きで、ややサディスティック一面がある少々難儀な神様なのだ。

 

(ついでに独特の口臭も)

 

 

 

どちらかと言えば、(混沌の勢力)側に、肩入れする傾向がある。

 

それ自体は、別にどうという事は無い。

 

その盤での規則(ルール)にのっとった上での、飛び入り参加の様子だし

 

実際、混沌や闇の神々からは、かなり歓迎されている様子だ。

 

だが、この蛇の神に任せてしまえばバッドエンド或いは暗い物語にしか成らないだろう。

 

何せ明るいハーレムファンタジーものでも、ドラッ○オンド○グーン ばりの

 

マルチバッドエンディグシステムを持ち込むぐらいなのだから、性質が悪い。

 

 

 

歓迎する神々も入れば、当然あまり快く思っていない神々もいる訳で、少々落胆した様子を見せている。

 

(決して口臭のせいではない、決して)

 

 

 

太陽の光の神は、少し思案する。

 

そもそも根本からして違う盤にて創り出されたキャラクター《駒》達である。

 

違うルールで作られたキャラクターは桁違いの性能を持っていて当然なのである。

 

このまま放置すれば滅茶苦茶なシナリオとなり、いずれ全員が意気消沈する終わりにしか訪れないのではないか?

 

迷い思案していた彼に、一人の神が近づいて来た。

 

黒い鳥の神である。

 

 

 

どうか参加して貰えないだろうか。

 

君のお気に入りのキャラクターでも構わない。

 

少しばかり制限を付けさせて貰う条件付だが。

 

 

 

どうだろうか?

 

せめて、皆が楽しめる終わりを迎えたい。

 

 

それが自分の望みなのだと、太陽の光の神に持ち掛けて来たのである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

黒い鳥の神、彼もまた盤《世界》をそこに住まう生命《住人》を愛する者の一人であった。

 

 

 

太陽の光の神は、頼み込んだ彼に念を押す。

 

このキャラクターも、骰子を降らせない者の一人だ、それでも良いのだな?・・・・・・と。

 

 

 

少しの逡巡の後、静かに頷く。

 

 

 

― 是 ―  と。

 

 

 

その肯定の意思を受け取った、太陽の光の神は現在展開されている盤に向かう。

 

自ら創りだし供に歩んできた生命。

 

 

 

――  火の無い灰 ―― をその手に携えて。

 

 

 

盤を囲み騒いでいる神々に、特に真実の神に一言断りを入れて参加させて貰う事にした。

 

幾つかの制限を付けるという条件で。

 

 

 

骰子を振らせないという事に若干の不満を覚える神もいたが、自分達も規格外のキャラクター

 

 後の勇者 を創り出してしまったのだから。

 

あまり人の事は言えないのである。

 

それよりも彼、太陽の光の神が創り出した、火継ぎの盤の勇者とも言える存在に少々期待しているのも事実である。

 

どの様なシナリオになっていくのか、神々は胸を膨らませた。

 

 

 

 

 

蛇の神は、その顔をにやけ歪ませ高揚していた。

 

そうこなくては、面白味が無い!

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「――ゴブリンか?」

 

 一人の冒険者が、尋ねる。

 

いつもと変わらぬ様子で。

 

 

 

冒険者とは冒険者を管理し、仕事を斡旋する組織、冒険者ギルドに所属する者達である。

 

その冒険者ギルドから斡旋される依頼を引き受け、多種多様な依頼を遂行して成功報酬を受け取ることで

 

生活の糧としている。

 

冒険者にも実に様々な、職業が存在する。

 

 

 

武器の扱いに長けた戦士。

 

魔法を得意とする魔術師。

 

神の奇跡を行使する聖職者。

 

偵察やトラップの解除を得意とするレンジャー等。

 

数え上げれば、枚挙に暇が無いほどに存在する。

 

 

 

種族に関しても然り。

 

 

 

我々で言う所の人間に相当する、只人。

 

エルフに相当する、森人。

 

ドワーフに相当する、鉱人。

 

これらもほんの一部であり、非常に多様な種族が共存しあう世界なのだ。

 

 

 

「はいっ。ゴブリンです」

 

 清潔感のある服装に身を包んだ受付の女性が、その無愛想な冒険者に笑顔で答える。

 

「ならば、受けよう」

 

 その鎧姿の冒険者。

 

全身を皮鎧で固め。

 

中途半端な長さの安物の剣で武装し。

 

片方の角が折れた、顔全体を覆う鉄兜を被っている。

 

そして首元には、白い小さな 白磁のプレート。

 

顔や表情は確認できないが、声音や佇まいから男であると判断できる。

 

 

 

受付嬢は、説明していく。

 

曰く、この数日間に様々な場所で遺跡が多数発見された事。

 

曰く、この辺境の町に最も近い場所にも遺跡が発見された事。

 

曰く、その遺跡にゴブリンが住み着いている事。

 

そして、調査とゴブリンの討伐を兼ねて三人の冒険者が出発した事。

 

 

 

「ですがお気を付け下さい」

 

 笑顔を浮かべていた受付嬢の顔が、少しばかり陰る。

 

「先日その遺跡の調査に向かった三名の冒険者達が、まだ帰還していません。三人とも黒曜等級です」

 

 受付嬢の忠告を聞く、鎧の冒険者。

 

「その中には、その・・・女性が一人含まれています・・・」

 

 彼女は、言葉を濁す。

 

 

 

 

 

ゴブリンとは、小型種の怪物、その中でも最弱に分類されるモンスター。

 

別名、子鬼ともいう。

 

人間の子供ほどの体躯で、膂力も知能も人間の子供並。

 

原始的な、武器道具を使う程度には知恵が働くが。

 

夜目が効き、暗がりを好み、不意打ち集団戦を基本とし、主に夜行性である。

 

どういう訳か、ゴブリンは雄しか存在しない。

 

子孫繁栄の為には、多種族の女つまり雌と交配し、孕ませる必要が生じてしまうのだ。

 

これだけなら、まだ同情の余地が有るのかもしれない。

 

 

 

だが性格は非常に残忍で、好戦的であるが、自身が不利だと判断すればさっさと同胞を見捨てて逃げ出してしまう。

 

更にゴブリンは、只人や森人の女を好んで攫い、子孫繁栄の性交だけでは飽き足らず

 

攫った女性を弄び、玩具にしたり、嬲り、挙句の果てに捕食したり殺害してしまうのである。

 

 

自分自身が愉しむ為だけという理由で!!

 

 

 

正に悪辣、下衆の極みであり、情けを掛ける余地も無い。

 

 

 

単体では弱小だが徒党を組んで襲撃してきた時は、実に脅威である。

 

 

 

しかし、ゴブリン イコール 弱い、大した脅威では無いという認識が、半ば一般常識化されており

 

実際徒党を組み充全な準備を整えた、冒険者達であっさり始末出来てしまうのだから

 

国の正規軍が動く事は、先ず無い。

 

おまけにゴブリン退治は、成功報酬が非常に安く、新人駆け出しの冒険者の仕事という認識が一般である。

 

ゴブリン自身、単体では弱い為、冒険者が油断や慢心で全滅するケースもよく在るのである。

 

集団戦や夜目が効く、殆ど戦う術を持たない村や集落にとっては脅威であり

 

しかし国の軍は、デーモンやドラゴンの脅威が存在する為、おいそれと動かす余裕が無い。

 

その為に実際ゴブリンに滅ぼされた村も実在する。

 

非常に厄介この上ないモンスターなのである。

 

 

 

 

 

「人質の可能性があるか。任せろ!依頼は、成功させる!」

 

 鎧の冒険者は、静かながらも力強いハッキリとした口調で答える。

 

そう告げると鎧の冒険者は、踵を返し依頼を遂行する為にその遺跡に向かう。

 

 

 

そんな、鎧姿の冒険者の様子を見ていた別の冒険者達が、彼に奇異の目を向ける。

 

「なぁ、アイツ昨日もゴブリン退治をしてなかったか。」

 

「マジで?ゴブリンなんて普通、1 2回で卒業じゃね?」

 

「白磁なんだから、しゃーねぇだろ」

 

「つぅか、小汚ねぇ格好でうろつかれても困るんだよなぁ」

 

「全くだ、俺達とギルドの品位が落ちちまうぜ」

 

皆、彼に侮蔑の眼差しを向け、口々に無責任な言葉を投げ付ける。

 

 

受付嬢は、鎧の冒険者を心配そうな眼差しで見つめていた。

 

「・・・・・・必ず帰ってきて下さい」

 

 

 

「へぇ、彼がお気に入りの冒険者ねぇ」

 

 隣の同業者、つまり彼女の先輩に当たる女性が語りかけてくる。

 

「――んなっ!?」

 

 受付嬢は、突如巣頓狂な声を上げ、顔を真っ赤に染め上げる。

 

それは、羞恥から来るものなのか、或いは。

 

「ちっ!ちち違いますから!私はですねぇっ!あくまで一職員としてですねぇっ!!」

 

 顔を真っ赤に染めながら、必死に先輩嬢に否定の抗議をする。

 

「はいはい、そういう事にしておきましょうか」

 

 若干にやけ顔で、受付嬢をからかうが、少し真顔に戻り

 

「貴方は、やるべき事をやった。そうでしょ?」

 

 先輩嬢は、言葉を続ける。

 

 

 

貴方は、依頼の内容を限られた情報の中で彼に伝え説明した。

 

貴方は、可能な限り最善を尽くした。

 

後は、彼が最善を尽くす番。

 

信じてあげれば良い、と。

 

 

 

「は、はい!そうですよね!」

 

 受付嬢は、いつもの調子を取り戻した様だ。

 

「それに、貴方が最善を尽くす相手は、彼だけじゃないわよ」

 

 先輩嬢は、顎で前方を促す。

 

 

 

「受付さーーん!!依頼をお願いしマース」

 

 先程の鎧の冒険者とは、正反対の人懐っこい様子で受付嬢に依頼を受けに来る

 

槍を装備した青年が一人、受け付けカウンターに詰め寄って来た。

 

後ろの柱には、妙齢の女性魔術師が佇んでいる。

 

「はい、おはようございます。冒険者ギルドへようこそ!」

 

 彼女は、いつも通りに対応する。

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドに併設されている施設で、旅支度を整えた鎧の冒険者は

 

一人依頼のあった遺跡へと向かい、街を出る。

 

そして、誰に向かう事無く一人呟く。

 

「ゴブリン共は、この手で・・・・・・」

 

 

 

 

      「皆殺しだっ・・・!!」

 

 

 

 

 

彼は、後にこう呼ばれる様になる。

 

 

 

 

       ―― ゴブリンスレイヤー ――、と。

 

 

 

 

 

 黒い鳥の神は、密かに自分の作成した駒《生命》を盤に置く。

 

頼みはしたものの、太陽の光の神がこの物語の終局を迎えるのなら良し。

 

だがもしも、彼の駒(火の無い灰)が、失敗しまともな終わりを迎えられない様であれば・・・・・・。

 

――この駒の出番だな。

 

密かに作成した黒い駒を見やる。

 

その視線はまるで獲物を狙う、漆黒の黒いカラスにして小鬼(ゴブリン)の様な人型。

 

 

 

   ―― レイヴン ―― のソレであった。

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか?

まだまだ、馴れない部分も有って色々改良の余地有り有りです。

神様視点での、話も書いてみたい事もあり冒頭は、あの様な形と成りました。

因みに、時間軸はイヤーワン時代の時間軸です。

楽しんでいただけたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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