ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 今回も、ゴブリン側の視点から始めていきます。

「ゴブリン側はもういいよ」と言う方、御免なさい。m(_ _)m

ダークソウル リマスタード、再プレイを始めました。

実は、途中でプレイを止めてしまっていたので今度は、最後まで進めようと思っています。

では投稿します。


第21話―深き異端―

 

 

ダークレイス。

 

 

 闇撫でのカアスとの誓約。

 

 カアスに唆された、ダークレイスたちの業。

 彼らは人間性を求め、さらなる闇に堕ちていく。

 あるいは、それこそが本来の人であろうか。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 

 

 

 鳥のトーテムが設置された、およそゴブリンらしくない巣穴。

 

とある広場にて数匹のゴブリンが集められていた。

 

数にして4体。

 

そのゴブリン達は他のゴブリンとは少し違っていた。

 

通常種に比べ、体が大きく筋肉も発達し、それなりの知性も有している。

 

普通に考えれば、一人で小規模の巣穴を統率出来るほどの固体なのだ。

 

更に共通して装備している、黒い鳥の紋様が彫られた肩当。

 

その集団の中には、先日合流したばかりの物見を専門とするゴブリンも居た。

 

暫くして巣穴の長、ダークゴブリンと長弓ゴブリンがやって来た。

 

「Gyeio!」

(これより作戦を説明する!)

 

 側近の一人、長弓を背負ったゴブリンから、詳しい内容が説明される。

 

近隣の街道に、大型の荷馬車を襲撃するという内容だった。

 

内容自体は、そこいらのゴブリンとさして変わらないが、積荷は巣穴の発展に有用な物資が満載されている。

 

護衛に冒険者が付いている事が予想される。

 

単純ではあるが、非常に重要な任務だった。

 

 

 

程無くして、大柄で鍛え抜かれたホブゴブリンが10体ばかりの通常種を引き連れ現れた。

 

「Giyeebu」

(囚人の中から活きの良い奴を厳選して来たぜ!任務成功と引き換えに正式に入団させる条件付でな)

 

 10体のゴブリンは、肩当てを着けていない、囚人のゴブリン達だった。

 

巣穴の規律を無視した者、襲撃や乗っ取りを試みた者など、様々だったが全て鎮圧され懲罰区行きとなってしまった。

 

ある意味、非常に模範的で健全なゴブリン達。

 

懲罰区の中で、ホブが幾つか厳選し、この作戦に参加させる事にした。

 

そのゴブリン達に、簡単な装備を支給させ出撃する一団。

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が空高く登り、時刻は正午に差し掛かろうとしていた。

 

一台の大きな荷馬車が鍛え抜かれた馬2頭に率いられ、街道を進んで行く。

 

荷馬車の幌で、雇われた護衛の冒険者達が雑談に華を咲かせていた。

 

4人パーティーで男3人、女一人で構成された全員白磁等級の戦士職の新人達だった。

 

一応2回ほど小規模のゴブリン退治をした事があった。

 

御者がゴブリンが現れたらお願いしますと、頭を下げた。

 

過去の経験で自信を付けていたのだろう、ゴブリンに対する慢心がどこかに芽生え始めていた。

 

木の上で新しい遠眼鏡で馬車の様子を確認した物見ゴブリンは、合図を送る。

 

その合図を下に配置に就くゴブリンの集団。

 

街道の中央に腕を組み仁王立つホブゴブリン。

 

他は茂みに身を隠した。

 

 

 

御者は、前方に大柄なホブゴブリンの存在を冒険者達に伝えた。

 

それを聞いた冒険者のリーダーは止まらず、馬車の勢いを借りて全速で突っ切る事を指示する。

 

下手に立ち止まるより、馬車の速さと質量を生かし、突破した方が上策と判断したのだ。

 

確かに普通のゴブリン集団相手なら、有効策だろう。

 

普通のゴブリン集団相手になら――。

 

だが立ち塞がるホブゴブリンは、自ら鍛え抜き、学習する事に貪欲な変わり者である。

 

臆する事無く、腰を深く落とし前屈みの姿勢を取り、突進して来る馬の下に潜り込んだ。

 

「Gruoaaa――!!」

 

咆哮を上げるホブ。

 

全速に達した馬の勢いをそっくりそのまま利用し、上背を勢い良く起こし馬2頭を馬車ごと空中に放り投げた。

 

宙を舞い何が起こったのかも認識し切れていない、馬と御者と冒険者達。

 

重力に従い、頭部から落下した馬2頭は、首を圧し折り即死した。

 

荷馬車は損傷し、御者はそのまま気絶。

 

幌の中から冒険者達が這い出て来る。

 

幸い皆軽傷で、戦闘に支障は無かった。

 

戦士職が有利に働いたのだろう。

 

「皆大丈夫か?」

 

 一人の男戦士が、皆の安否を確認し、戦闘体制に入る。

 

気が付けば、周りはゴブリン達に囲まれていた。

 

その数17体、決して倒せない数ではない、数だけなら。

 

だがこの集団、異様極まりない。

 

10体ばかりのゴブリン、こいつ等はまだ分かる。

 

いつものゴブリンだ、粗末な武器を持ち、舌舐めずり下品な哂いを浮かべている。

 

だが他のゴブリンはかなり大きい、自分達よりやや小さいと言ったところか。

 

装備もしっかりしており、まともな装備に身を包み変わった肩当てをしている。

 

それぞれが武器を構え、経験を積んでいる事が新人の自分達でさえ伝わって来た。

 

そして集団の後方に位置する、3体の大柄なゴブリン。

 

一体は馬を放り投げ、馬車を破壊したホブゴブリン。

 

もう一体は、やや細身で帽子を被り長弓を装備した、大柄のゴブリン。

 

 

 

一番分からないのが、中央の黒い奴。

 

 

 

他2体に比べれば小柄だが、豊かな金髪を蓄え、引き締まった筋肉に、紅い双瞳。

 

顔立ちも只人に近いものを感じる、服装によってはゴブリンだと解らないだろう。

 

そして唐突に、無警戒で此方に歩み寄って来た。

 

冒険者達は武器を構え直し、何時でも飛び掛れる様にする。

 

だが黒いゴブリンは、冒険者達には目も暮れず、間をすり抜け馬車の方に悠然と歩いて行った。

 

まるで冒険者達など存在していないかの如く。

 

「――!!」

 

――何かが弾け飛んだ錯覚を覚え、リーダー格の男戦士は黒いゴブリン、ダークゴブリンに切り掛かった。

 

しかしその刃は空中で止ったかの様に微動だにせず、引く事も切る事も敵わない。

 

ダークゴブリンは振り返る事無く、男戦士の剣を掴み止めていたのだ。

 

「ふん、軽いな!」

 

 唐突に掛けられる言葉。

 

それはゴブリンの言語ではなく、完全な人族の言葉だった。

 

「噓だろ?喋った?!」

 

 冒険者達の間で、動揺が走る。

 

有り得ない、ゴブリンが喋る事など。

 

本当にゴブリンなのかコイツ?

 

続いて投げ掛けられる言葉。

 

 

 

「貴公ら、無事に役割を果たし給えよ」

 

 

 

 その言葉はどちらに掛けられたものなのか?

 

冒険者に?

 

ゴブリンに?

 

或いは両方に?

 

人族の言語を放ったダークゴブリンは、再度馬車の方へと足を向ける。

 

それを合図に周りのゴブリン達が冒険者達に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

気が付いた時、10体の内7体の通常ゴブリンが倒されていた。

 

そして男戦士二人も、若い命を散らす。

 

善戦した方だろうか。

 

襲って来たのは通常種のみで、中型種や側近連中は高みの見物だったが。

 

長弓ゴブリンの号令で、通常種が下がる。

 

そして長弓を引き絞り、鋭い矢を射た。

 

単純な射撃だが、経験の浅い新人冒険者に対応は出来なかった。

 

肩に刺さり、苦痛に顔を歪める男戦士。

 

自分の後ろには、互いを想い合った女戦士が居る。

 

絶対に守り抜いてみせる。

 

矢を力任せに引き抜き、闘志を燃やす男戦士。

 

そこへ馬車を物色していたダークゴブリンが出て来た。

 

木箱やら書物やらを肩に担ぎ一声、ゴブリンの言葉で喋り出す。

 

「Guoobu」

(任務は成功だ、後は好きにせよ。死体以外は持ち返って良い)

 

 そして振り返る事無く去って行く。

 

後に残された二人の冒険者と、ゴブリン集団達。

 

 

 

その後は、実質ホブゴブリンのみが男戦士と戦い……にすらならず、一方的に嬲られる事になる。

 

女戦士は他のゴブリン達が取り囲み、手出し出来ない様にした。

 

彼女も剣を振り回したが、全く相手にならず足を掛けられ転倒させられる。

 

傷だらけで満身創痍の男戦士に、ホブが信じられない行動に出た。

 

 

 

「タノム、女ダケデモ助ケテヤッテクレ。ソウ思ッテイルダロウ?」

 

 

 

 何と目の前のホブまでもが、人語で語り出したのだ。

 

あのダークゴブリンに比べれば少々拙いが、意味は充分理解出来る。

 

既に男戦士は、悟っていた。

 

もう彼女を守り切る事が出来ない、と。

 

僅かな希望……願望を込めて静かに頷く。

 

そして、ホブは極めてゴブリンらしい笑みを浮かべながら――。

 

 

 

「駄ァ~目♪」

 

 

 

 

……

 

………

 

数時間が経ち最後に残された男戦士は、原形を留めない物言わぬ肉塊と化していた。

 

女戦士は、3体の通常ゴブリンと、2体の中型ゴブリンによる、熱烈な歓迎を存分に受けた。

 

女は男を知っている身だったが、それに女の喜びを感じる事は無く、苦痛と絶望だけが身体を駆け巡った。

 

物見と中型一体、長弓は陵辱に参加する事無く、荷馬車から必要そうな物資だけを担ぎ、巣へ戻る。

 

ホブは空腹の方が勝っているのか馬2体を捕食し、絶命した男冒険者達の装備を剥ぎ取る。

 

日が傾き、ゴブリン達にとって早朝に差し掛かる頃、一通りの行為が終わり、女戦士は事切れた。

 

一体の中型ゴブリンが、ホブに謝罪する。

 

「Guea」

(すいやせん。アニキの分も残そうとしたのですが、下っ端共が調子扱(こ)いて女が事切れました)

 

 最後はホブに愉しんで貰おうと女を死なせない様に扱っていたのだが、通常ゴブリンが何度も群がり不必要に損傷を加え、ホブの食欲が満たされる頃には力尽きていたのだ。

 

「Guoobu」

(構わねぇよ、どの道腹が減っていたんでな)

 

 ホブは特に咎める事無く、自分が損傷させた馬車に手を掛け、荷車の要領で巣に運び出した。

 

「Gyobu!」

(おい下っ端共!愉しんだ分働け!てめぇ等は冒険者の装備品を持って帰りな!懲罰区に戻りたいのなら好きにしていいがな!)

 

 ホブの一声に慌てて、冒険者達の剥ぎ取った装備品を持ち帰る下っ端達。

 

荷馬車の後を押しホブの手助けをする、中型種2体。

 

日が更に傾き始め上空には黒い鳥、鴉が死体の残り肉に有り付こうと飛び回っていた。

 

これがダークゴブリン集団の日常なのだ。

 

何と慎ましく、無慈悲で、血に酔った、素晴らしく残虐で平和な一日だろうか。

 

これは混沌側のありふれた一日。

 

因みに日が暮れる頃、唯一生き残った御者は、事の顛末を可能な限りギルドに伝えたが、良くある話として処理され、熟練の冒険者が動く事は終ぞ無かった。

 

これもありふれた良くあるお話。

 

 

 

持ち帰った馬車の積荷は、巣の貯蔵庫に持ち運ばれた。

 

大半は鉄や銅といった金属系の資材で、加工の手順を記した書物や道具や工具の類が殆どを占めていた。

 

巣に帰った下っ端3体のゴブリンは、肩当てとソウルの恩恵を授かり巣の正式な一員となった。

 

金属加工場で、一人鍛造に勤しむダークゴブリン。

 

そこに物見ゴブリンが現れる。

 

視線を向ける事無く、”何用か”とだけ尋ねるダークゴブリン。

 

物見は問う、ボスの最終目的は何なのか?と。

 

勢力を拡大し、ゴブリンの頂点に立つことなのか?

 

それとも魔神王すら倒し、新たな支配者に成り代わる事か?

 

もしくは国を築き、ゴブリンの楽園を築く事なのか?

 

矢継ぎ早に質問をぶつける。

 

どれもが当てはまりそうだが、同時にどれもが合致しない様にも感じる。

 

やがて作業の手を止め、ゆっくりと此方に視線を向けた。

 

視線は真っ直ぐ物見を捉え静かな迫力があった。

 

そして口を開き、それらは通過点に過ぎないとだけ答える。

 

通過点?つまりその先があると言う事だ。

 

支配する以上の先に何があるというのか?物見には判らなかった。

 

”下がれ”その一声で大人しく引き下がる物見ゴブリン。

 

これ以上の追求は流石に避けた方がいいだろう。

 

仮にも相手はこの巣穴の長なのだ。

 

下手に刺激し懲罰区行きなど御免被る。

 

物見が去った後、ダークゴブリンは鳥を模したトーテムを見つめ一言。

 

「……全ては救済だ」

 

 

 

 

 

 

 

数日が経過し会議場では側近達が、今後の方針について議論を交わしていた。

 

「Guuoob」

(呪文使いが我とボスのたった二人。シャーマンを勧誘なり雇うなりして、中型種に学習させようではないか)

 

 ローブを着込んだ側近の一人、やはり大柄で呪文を仕えるがその種類は3種類だけで、その事を懸念していた。

 

「Gruoao」

(否、訓練をより細分化し、結束と兵の戦闘力を強化すべきだ。量よりも質だろう)

 

 側近の一人長弓ゴブリンが意見を出す。

 

「Gyebu?」

(あちきは逆でさぁ。物資と娯楽を増やし、多くの同胞を呼び込む。戦と力は、数がモノを言いますぜ?)

 

 長弓ゴブリンよりも更に細く、身軽なバンダナを巻いた側近の一人。バンダナゴブリンが軽い口調で自分の案を提示する。

 

「Gyobea」

(原点に戻り、ゴブリンらしく混沌の軍勢に回帰する方法も存在致しますぞ)

 

 書物を肌身離さず書き込み、ペンを動かしながら魔神王残党軍への合流を提案する、書記担当の側近。書記ゴブリン。

 

どれもが自らの勢力にとって有益だが、それ故に意見が中々纏まらなかった。

 

腕を組み、沈黙を保ったまま耳を傾けるダークゴブリン。

 

「Gruoobu」

(焦る必要は無い、今は忍耐の時。ゆっくりと確実に力を蓄えておくのだ)

 

 その言葉に、側近達が深く一礼で応える。

 

そして一人立ち上がり巣穴の出口、つまり地上へと出ようとする。

 

「Guee?」

(ボス、どちらへ?)

 

 側近の一人、大シャーマンが部屋を出るダークゴブリンを呼び止めた。

 

「Goobua」

(収穫だ。深淵に近い、黒きソウルを感知した。俺独りで行く、意見をまとめておけ)

 

 ”御意”、側近達は従い会議を続行する。

 

巣穴を出、月明かりが地上を照らす中、一人鍛錬を行っていたホブがダークゴブリンを見付け言葉を投げ掛けた。

 

「Huoobu?」

(なんだぁ、いつもの御愉しみか?)

 

 ホブの皮肉交じりの問い掛けにも動じず、”そうだ”とだけ答えるダークゴブリン。

 

「Hooobua!」

(早く戻らねぇと、俺様が乗っ取るぜぇ!)

 

 ニヤケ面で煽るが、ダークゴブリンは楽しみだ、と返し一瞬で姿を消す。

 

ホブはフンっと鼻を鳴らし、何事も無かったかの様に鍛錬を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つの月が草原を照らす。

 

今宵は良く晴れている、二つの月光がやけに明るい。

 

昼間とまではいかないが、照明器具入らずで視界を容易に確保出来るほどの明るさだ。

 

薄汚れた皮鎧を纏い、腰には中途半端な長さの剣と丸い小盾を装備し、ゴブリン対峙のみを請け負う一人の冒険者。

 

今日も今日とてゴブリンの巣を潰し、休養を取る為に下宿している牧場へと足を向ける。

 

牧場に向かう途中その冒険者、鎧戦士は一人の剣士を思い出していた。

 

深緑のフードに身を包み、剣術に長けた冒険者。

 

組んだ回数は少なかったが、あの男は腕が立ちゴブリン退治にも一役買ってくれた。

 

「火の無い灰……」

 

 思わず口に出していた。

 

ロスリックとやらの遺跡調査に赴き、数日が経つ。

 

願わくば生還して貰いたいものである。

 

「教えた事が無駄になってしまうからな……」

 

 誰に向けるでもない言葉、もしかしたら自分に言い聞かせたのか。

 

「どうでもいいな。俺はゴブリンを退治するだけだ」

 

 いつもの自分に戻り、思案する。

 

”次はどの様な有効策でゴブリン退治をしてやろうか?”と。

 

牧場が見えてきた、今夜は月が明るい為、良く見える。

 

暫し立ち止まり月を見上げた。

 

特に何かを思う訳ではない、単純にそうしたかっただけだ。

 

「……?」

 

視線の先に人影を捕らえた。

 

月明かりの逆光ではっきりとは見えないが、黒っぽい全身甲冑に身を包んだ騎士らしき者が此方へゆっくりと近付いて来る。

 

いや本当に黒い鎧を纏っている様だ。

 

恐らく冒険者の類だろうか、それとも尋ね人か、こんな時刻に?

 

ゆっくりと近付くにつれ、ある違和感が彼を警戒させた。

 

――この黒い騎士、剣も納めずに!――。

 

抜刀したまま近付く漆黒の騎士。

 

自分でさえ戦闘以外は納刀すると言うのに、何なんだこの騎士。

 

武器を手にして近付けば、流石に誰でも警戒し身構える。

 

ましてやこの時間帯だ、どこからどう見てもただ事ではない。

 

「何の用だ?止まれ!」

 

 声を掛け、静止を促すが反応は無い。

 

聞こえていない筈は無い、昼と違い静かな夜なのだ。

 

尚もゆっくりと近づく黒い騎士。

 

更に警戒を強める。

 

良く見れば背中に、木の枝らしき物が生えているではないか。

 

そして、不気味に紅く輝く双瞳。

 

普通ではない。

 

「聞こえた筈だ、止まれと言っている!」

 

 鎧戦士も抜刀し、戦闘体制に入った。

 

その刹那――!。

 

漆黒の騎士が黒い肉厚の剣を振り下ろして来た。

 

「――速い?!」

 

 やや距離があった為、辛うじてローリングが間に合い、回避に成功した。

 

しかし漆黒の騎士は、再度踏み込み重厚な武器を片手剣並みの速度で振り回す。

 

左右の2連袈裟切り。

 

これを何とか身を捻る事でかわす。

 

更に間髪入れずの突き攻撃。

 

避け易い顔面を狙ってきた為、首を捻る事で避ける事が出来たが反撃どころではない。

 

突きの後、内巻きの横薙ぎ攻撃が飛んで来る。

 

回避は間に合いそうに無い。

 

剣と盾の両方を使い、黒い剣を防御した。

 

防ぐ事は出来たが、常識外れの剣圧が両腕に響き、剣を落としてしまった。

 

「しまった――!」

 

 剣を拾いたいが、腕が痺れる上に漆黒の騎士が迫り、再度横薙ぎの攻撃が襲って来た。

 

今度は両腕を交差させて、盾を前に押し出し防御する。

 

さっきの威力は体で覚えていた為、剣を防ぐ瞬間わざと後ろへ飛び、腕を引き下げ少しでも衝撃を和らげる。

 

それでいて尚、桁外れの威力で10数メートル吹き飛ばされてしまった。

 

勢い良く転がり、転倒し体制を崩してしまった鎧戦士。

 

彼の不利は続く。

 

 

 

 

 

 エストの補充作業も終え、森を抜け出した火の無い灰。

 

紺色の夜空に浮かぶ赤と緑の月が、一層目に映る。

 

雲一つ無く、月光のカーテンが灰の目蓋を柔らかく撫でた。

 

「――月光か……」

 

 二つの異なる月光に晒されながら、嘗ての時代に思いを馳せる。

 

『陰の太陽』とも称される月、別称『暗月』。

 

太陽だけでなく、月も深く関っていた、彼の時代。

 

 

 

――これより先は、大王グウィンの墓所、何人であれ、これを穢すことは許されない。

  汝、不敬の意思なく、正しく陰の太陽の信徒ならば、我グウィンドリンの声を聞き、そこで跪くがよい。

 

 

 

『陰の太陽グウィンドリン』。

 

大王グウィンの末子で、神々の一人でもある。

 

『暗月の司祭の指輪』を指にはめ、当時のアノールロンド下層に位置する、隠し部屋での会話を思い返す。

 

眼前に広がる白い霧の先は、大王グウィンの墓らしい。

 

先に進みたいと、好奇心が無かったと言えば噓にはなる。

 

だが警告にも拘らず、無闇に踏み込み人の領域を荒らす行為は、人として如何なものだろう。

 

ロードラン時代の灰は、それほど精神の亡者化も進行しておらず、妙な所で律儀だった為、思い止まり引き返した。

 

 

 

――汝とは、再び相見える気がする。

 

去り際に、そんな言葉を聞いた気がした――。

 

 

 

――まさか時を越えて別の形で再開するとは、予想だにしていなかったが。

 

気の遠くなる様な刻が経過し、荒廃したあの『アノールロンド』の宮殿にて、グウィンドリンと再開したのだった。

 

『聖者エルドリッチ』に喰われ、グウィンドリンの大半をその姿に宿しながら。

 

彼女(彼)の自我が残っていたかどうかは、定かではない。

 

敵同士として激闘を繰り広げ、苦戦しながらも打倒する事に成功した。

 

自分の体に流れ行く『異形のソウル』から語り掛けて来た、彼女(彼)と思わしき意思。

 

ロードランで火を継いだ後もグウィンドリンは生き残り、病に倒れ幽閉されるまでアノールロンドを守り続けていたのだと言う。

 

幽閉したのは、冷たい谷のイルシールを治める『法王サリヴァーン』。

 

結局サリヴァーンもエルドリッチも滅び、栄華を極めたアノールロンドも朽ち、残ったのは崩れ行く建造物の残滓のみ。

 

時の流れとは斯くも残酷な事か。

 

 

 

時代は移り変わり、記憶も風化してゆくは、世の理。

 

今や完全に姿を変え、再び新たな火が宿った、この四方世界。

 

火の無い灰も、取り残された古き世界の名残なのかも知れない。

 

死ぬ度に記憶が抜け落ちる筈の『不死の呪い』。

 

だが、ロードランやロスリックを駆け巡った記憶は、今も鮮明に脳裏に刻み込まれている。

 

「偶には、こうして思い出してやるか」

 

 忘れない事――。

 

それが、只の思い上がり から来るものなのだとしても、彼等に対しての礼儀と供養になるだろう。

 

 

 

「それにしても、妙に感が冴え渡る」

 

 この世界に来て、普段以上に意識が鮮明に鋭敏に働く。

 

「確か月は魔力を有するのだったな」

 

 得た知識の出所は、もう思い出せないが月光には不思議な魔力が含まれ、あらゆる生き物にに影響を与えるのだと言う。

 

軽い興奮状態にさせたり、美容と健康の為に月光浴を行う者達も居るらしい。

 

魔道具作成の祈りや、信仰の対象になったりもする。

 

火継ぎの世界でも、月の宿す魔力を利用した、武具が数多く存在した。

 

だからだろうか?

 

灰の脳裏に、忘れ様も無い独特のソウルを感知したのは――。

 

 

 

――このソウルの波長……、まさか……?

 

 

 

深い深い、深淵の底に沈みゆく様な、黒いソウル。

 

沈みながらも何かを求め、絶えず乾き続ける暗きソウル。

 

 

 

「――!奴の傍に誰か居る!!」

 

 

 

 前触れも無く疾走り出す灰。

 

目指すはソウルの元、街外れの牧場へ――。

 

 

 

 

 

 

 

 夜の静寂さに抱かれながらも、一糸纏わぬ裸体で寝台の上で目を覚ました一人の少女。

 

紅く長い髪と、豊かに育った身体。

 

既に成人女性に並ぶと言っても良い、女性の象徴を備えていた。

 

本来は街外れの牧場の住人ではない。

 

その少女の故郷は、滅び去ってしまった。

 

5年前、あの悪辣な小鬼達によって。

 

偶然街へ遊びに行く事が決まり、牧場の叔父の元に訪れていた為、運良く自分は難を逃れる事が出来た。

 

しかし小鬼……、ゴブリン達によって両親や村人達は命を落とし村は壊滅し、家族と住む家を失った。

 

そのまま牧場の叔父に引き取られる事となり、此処の住人となった。

 

――とは言え、村と家族の訃報は彼女の心に重く沈んだ『深み』を残す事となった。

 

本当なら楽しく過ごせていたであろう、子供時代も感情を顕にする事無く、引き取られてから経過する事5年。

 

深く暗い不死人の如く、人間性を磨耗していた彼女だったが、数週間前に転機が訪れた。

 

5年前村を離れる前日に喧嘩別れしてしまい、二度と会えないと思っていた、幼馴染の彼が生きていたのだ。

 

突如の再開に彼女は、困惑し心が躍った。

 

聞きたい事が山ほどあった。

 

あれから村はどうなったのか。

 

家族はどうなったのか。

 

君と、君の姉はどうなってしまったのか。

 

 

 

……時間とは残酷だった。

 

いや、この世界そのものが残酷なのか。

 

5年の歳月は、彼を変えていた。

 

嘗ての面影さえ見て取れないほどに。

 

彼は、復讐鬼に変貌していた。

 

ゴブリンのみを狩り続ける、冒険者と言う名の復讐鬼に。

 

命を落としていたと思っていた彼と再開し、叔父に無理を言ってまで部屋を貸しても、彼との会話は極めて希薄で、完全に別人と言ってもいい位だった。

 

「……はぁ」

 

 ふと溜息が漏れる。

 

未だ彼女の心は、深いしこりを残したままだった。

 

彼女は服も着ず裸体のまま部屋の窓を開け、月明かりとささやかな夜風に身を晒す。

 

 

 

今日も彼は帰って来ないか……。

 

幼馴染の彼を想い、何気なく窓の外を見つめ続けた。

 

「……ん?音?」

 

 夜の静寂のお陰で聞き取れる、微かな金属同士がぶつかり合う音。

 

音の方角に視線を向けると、二人の人影が激しく動いている。

 

普段見ない珍しい光景だった。

 

良く眼を凝らした時、彼女は驚愕で瞳を大きくする。

 

 

 

――彼だ!!。

 

 

 

彼が戦っていたのだ!

 

見知らぬ、黒い誰かと。

 

彼女は居ても立っても居られなくなった。

 

下着も着けずシャツだけを羽織り、ランタンを片手に裸足で外に飛び出した。

 

只一直線に彼だけを目指して、駆け寄る。

 

現場に到着するまで、そう時間は掛からず、彼と漆黒の騎士が剣を交えていた。

 

 

 

 

 

 明らかに劣勢、否、一方的と言っても過言ではなかった。

 

漆黒の騎士の繰り出す攻撃に防戦一方、反撃の糸口を掴む機会さえ見出せなかった。

 

無慈悲に振り下ろされる剣の一撃に、またもや吹き飛ばされる鎧戦士。

 

それは幸か不幸か、今しがた駆け寄って来た牧場の幼馴染と目が合ってしまった。

 

「――だ、大丈夫?!」

 

 彼を気遣い、傍に駆け寄る幼馴染の牛飼い娘。

 

鎧戦士の思考は一瞬停止し、動きが止まる。

 

その制止した時を漆黒の騎士は見逃さず、剣を構え突撃して来た。

 

「馬鹿っ!離れてろっ!!」

 

 彼女を思い切り突き飛ばし、ギリギリのタイミングで自分も立ち上がる。

 

しかし防御も回避も間に合わず、黒い肉厚の剣が鎧戦士の肩を掠めた。

 

「ぐぉぁっ!」

 

 質量と速度が両立した攻撃、掠めただけでも鎧と肩肉の欠片が弾け飛んだ。

 

皮や布、血肉の混じった肉片が月光に照らされ、舞い散る。

 

「――っひぃ?!」

 

 その様を目にし、思わず悲鳴を上げた牛飼い娘。

 

生き物の血は、叔父が経営する牧場の作業である程度見慣れてはいるが、こういう光景は初めて目にする。

 

これから先慣れる事も、平然と受け止める事も無いだろう。

 

漆黒の騎士は、開いた手を鈍く輝かせ、鎧戦士の首を掴み挙げた。

 

「う、うぉぉっ……」

 

 物凄い握力で掴み挙げられ、息が詰まる。

 

「い、嫌……やめて……」

 

 突き飛ばされた衝撃でランタンを落とし、近くの草が僅かに燃え上がる。

 

その体制で目の前の様を震えながら、見る事しか出来なかった。

 

「にぃ、げぇ、ろぉ……」

 

 首が絞まり声を必死に絞り出しながらも、彼女に逃げる様に促す彼。

 

「は、やく……、逃げ……、っぐうぉぉぁぁぁあああああ!!」

 

 突然絶叫にも似た悲鳴を上げる、鎧戦士。

 

最早抵抗する腕もダラリと下げ、小刻みに痙攣し苦痛に喘ぐ。

 

 

 

「――い、いやぁぁぁ!誰かぁぁ……!!」

 

 

 

 腰が抜け、見ている事しか出来ない牛飼い娘も、同様に絶叫し所構わず助けを求める。

 

 

 

 

 

――?!!。

 

突然、漆黒の騎士の背中が燃え上がった。

 

鎧戦士を掴んでいた手は、輝きを失い彼を離す。

 

更に漆黒の騎士に向かって、火球が2発3発と飛んで来る。

 

漆黒の岸は、腕を赤く輝かせ火球を防いだ。

 

 

 

「うぅぉぉおおおおお!!」

 

 

 

火球の飛んで来た方角から雄叫びを上げ、剣を構え突撃して来る物が一人。

 

その人物と漆黒の騎士の両者の剣が激しくぶつかり合い、勢いを付けたまま漆黒の騎士に体当たり。

 

漆黒の騎士を吹き飛ばした。

 

「……何とか間に合ったか……!」

 

 駆け付けた人物――火の無い灰は、倒れ痙攣を繰り返す鎧戦士の下へ駆け寄る。

 

 

 

「おい!一体何事かね?!」

 

 農具の鍬を手にし、牧場の主も駆け寄って来た。

 

鎧戦士と牛飼い娘の絶叫に目を覚まし、現場に駆け付けて来たのだろう。

 

 

 

「……お二方、彼をお願いします!」

 

 牧場の主が駆け付けてくれたのは幸運だった。

 

倒れた鎧戦士を牧場主と牛飼い娘に任せ、吹き飛ばした漆黒の騎士に備えた。

 

「お、おい!君?!」

 

 状況が飲み込めず、灰に問い詰めようとするが”話は後で”と、阻まれてしまった。

 

「……何があったんだ?」

 

 牧場主は、牛飼い娘に事情を聞こうとするが、泣きじゃくるのみで話にならない。

 

灰は剣を構え、起き上がった漆黒の騎士と対峙する。

 

「月明かりの恩恵に感謝しないとな!ダークレイス!!」

 

 

 

 漆黒の騎士、ダークレイスは紅い目を更に妖しく光らせ、黒い剣先を火の無い灰に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月光の照らす草原の中、もう一つの影が疾走し、風を切る。

 

「面白いソウルだ、奪うに相応しい!」

 

 

 

 

 

月の宿す魔力故か、ソウルが全てを呼び合うのか、盤上の神々さえも視線が釘付けとなる。

 

 

 

 

 

 




 病に倒れた とありますが、グゥインドリンさんの病とはどんなものなのか、想像もつきませんね。

そしてダークレイス。

ロンドールとは密接な関わりがあるようですが、ロンドール国民の普段の生活様式。
これも想像がつかん。
暗い所でお祈りしながら過ごしているんでしょうかね?

後半やっとゴブスレさんが出せた。
速攻でダークレイスに、ボコられてますが。

如何だったでしょうか?

気が向いたらで良いので、感想お待ちしています。
私のやる気が著しく上昇しますので、どうか宜しくお願い致します。

ゴブリンスレイヤーTRPG欲しいなぁ。
此処田舎だから、都会まで出向かないと売ってないんですよねぇ・・・・・・。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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