ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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本当に有難う御座います。m(_ _;)m
これからも精進していきます。

では投稿します。


第23話―暗闇と残り火―

 

 …ああ、ありがとうございます。

我らの王よ……。

 

おお、我ら亡者の王よ

ロンドールを、お導き下さい。

 

 

カアス、貴方の意思を

簒奪者よ、火を奪ってください……。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 けたたましく鳴く鶏の声が、朝露で滴らせた草原に響き渡る。

 

日は昇っていないが、地平線は明るみを帯び、夜が明けようとしていた。

 

辺境西の街外れに位置する、牛飼い牧場――。

 

木造の家の一角に在る、石釜に火を灯し鉄鍋で何かを煮込む者が一人。

 

皮造りの軽防具に、深緑のフードマントで顔を覆う剣士――。

 

火の無い灰だった。

 

昨夜、ダークレイスに重傷を負わされた、鎧戦士の療養の為に療養食を拵える。

 

牛飼い娘を経由して、牧場主に厨房の使用許可をもらった。

 

鍋には、干し肉や乾燥させた穀物などをベースに、数種類の薬草を混ぜ、煮込んでいく。

 

調味料は、東国から伝来したと見られる『ミッソ(味噌)』なる代物を湯で研ぎながら、混ぜ込む。

 

同期戦士の仲間の僧侶から聞いた話では、『大豆』等の豆類を発行させて生成されるらしい。

 

東国の国民にとっては、代表的な調味料の一つでもあると言う。

 

暫く弱火で、じっくりと煮込み、灰は徐に口を開いた。

 

「――彼が過剰なまでに、ゴブリンに固執するには、そんな理由が……」

 

「うむ、村が突如襲われ、唯一人の姉を目の前で……な……」

 

 牧場主は椅子に座り、苦々し気に語った。

 

ゴブリン襲撃の最中、姉の誘導に従い、床下に匿われ姉が自ら囮となり、嬲られ弄ばれ――。

 

 

 

           ”目の前で”

 

 

 

彼の過去については、灰の墓所で大まかには聞いていたが、そんな過去を経験していたとは――。

 

両者は、口を閉ざしてしまった。

 

犠牲者の中には、牧場主の家族も含まれていたのだから。

 

これ以上語る必要は無いだろう。

 

 

 

灰自身もゴブリン退治を経験し、攫われた女性達を何人も目にしてきた。

 

救出した女性達の何人かは、神殿に入った者も居る。

 

女性達の目は一様に暗く、希望の欠片も見えなかった。

 

どことなく、あちら側(ダークソウル)の住人達を髣髴とさせる。

 

「……君も冒険者かね?」

 

 不意に訊かれ灰は静かに、”ええ”と応える。

 

牧場主は冒険者に関する、個人的な見解を語った。

 

ベテランの上級冒険者ならともかく、新人冒険者は登録さえすれば、ほぼ誰でもなれる。

 

その中には、心無い野党やゴロツキ等無頼の輩も、多数存在するのだ。

 

その様な連中が、村や街で問題を起こす例も数多く聞くと言う。

 

即ち新人、白磁の駆け出し冒険者は、偏見の目で見られる側面も孕んでいるという事だ。

 

灰は沈黙したまま耳を傾けていた。

 

「私としては彼に早く定職なり、この牧場を継いでくれるなり、と思っている」

 

 返す言葉も見付からず、押し黙ったまま灰は鍋を見つめるのみだった。

 

「――あ、いや、すまんね!助けて貰っておいて、見ず知らずの人にこんな事を――」

 

 ”彼の事を宜しくお願いする”

 

そう言い牧場主は野良仕事の為、外へ出て行ってしまった。

 

「……」

 

 灰は一人鍋の前で、沈黙のまま佇むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「――干し肉と穀物に、薬草を各種煮込んである」

 

 携帯食と所持品から捻出した食材で、拵えた療養食である。

 

鎧戦士に貸し与えている納屋の中で、出来上がった療養食を持ち込み食事の準備をする。

 

「動ける?」

 

 牛飼い娘が彼を気遣い、助け起こそうとする。

 

「大丈夫だ。手足も何とか動く……」

 

 弱々しくぎこちないが、自力で何とか動ける様だ。

 

食器に療養食をよそい彼に手渡す。

 

口を火傷しないように、若干冷まし口に運び易くしてある。

 

「お前が作ったのか?」

 

 彼が聞いてきた。

 

美味(うま)くは無いぞ」

 

 灰は短く返す。

 

彼は黙ったまま、食し始めた。

 

牛飼い娘はそんな彼を見つめていたが、怪訝な顔をする。

 

――今笑ってなかった?……気の所為かな?

 

皺だらけの顔で彼が一瞬だけ見せた変化、あまりに唐突だった為その変化を気の所為だと捉えてしまった。

 

 

 

食事を摂り終え、暫しの時間が流れる。

 

「ゴブリン退治は私が引き継ぐ」

 

 灰は不意に宣言した。

 

「……いいのか?」

 

 鎧戦士の問いに”ゆっくり英気を養え”と応え、納屋を出た。

 

「後を任せた」

 

 納屋を出る間際、牛飼い娘に鎧戦士を託し、彼女の快活な返事が返って来た。

 

去り行く灰の背を眺める鎧戦士と牛飼い娘。

 

「……君、お友達出来たんだぁ……」

 

 彼に向き、はにかんだ顔で語り掛ける。

 

「只の同業者だ」

 

 ぶっきらぼうに応えるが、彼女は”そう言う事にしときますか”と悪戯っぽく笑うのだった。

 

 

 

「……後はこいつを持ち返らないとな――」

 

 納屋を出た灰は、倒したダークレイスの亡骸を簀巻き状に布で包み、背負う。

 

街道に出ようとした所で、牧場主から声を掛けられた。

 

「私は今から街へ配達に行く所だ、君もどうかね?」

 

 牧場で加工した食材を荷馬車で配達に行くらしい。、

 

新鮮な食材を乗せた荷台に、簀巻き状とは言えダークレイスの亡骸を乗せるのは気が引け一度断ったが、牧場主は”気にする必要は無い”と言い、灰は言葉に甘える事にした。

 

正直、全身鎧を纏ったダークレイスの亡骸は重かった。

 

ギルドに着き牧場主に礼を言い、別れた灰は昨晩の出来事を報告する為、監督官候補の受付嬢の元に訪れていた。

 

開店直後のギルドの時間帯、大勢の冒険者達で賑わっていた。

 

だが灰の持ち込んだ、簀巻き状の物体に皆の視線が集まる。

 

「……何持ち込んで来たのよ?」

 

 得体の知れないナニカを持ち込んだ灰に、彼女は眉を潜め疑いの視線を向けて来る。

 

なるべく人目の着き難い場所で話がしたいとの要望を出し、2階の応接室へと案内された。

 

 

 

「ええっ?!じゃあこれ、例の『漆黒の亡者騎士』なの?」

 

 案内された応接室で素っ頓狂な声を上げ、簀巻き状の物体を指差す。

 

数日前『ロスリックの高壁』を調査した、青玉等級の一党。

 

壊滅したその一党と遭遇した亡者騎士、ダークレイス。

 

灰を含めたパーティが探索した時は、到頭発見出来ず、情報も途絶えていた。

 

「――で、偶発的に遭遇(ランダムエンカウント)した貴方が倒したわけね?」

 

 彼女は胸を撫で下ろし、安堵の顔を浮かべた。

 

正直に言ってしまえば、ダークレイスについては情報が少な過ぎて、事の真偽を確かめる術に乏しかった。

 

これといった被害報告も無く、不確かな情報で依頼を出す訳にもいかず、ギルド内では対応に苦慮していたのだ。

 

「でも良かったわ、被害者も居ないみたいだし――」

 

 彼女の言葉に、”一人居る”と応えた灰。

 

「……え、だ、誰か、犠牲者が……?」

 

 灰は牧場の出来事を事細やかに説明する。

 

鎧戦士がダークレイスに襲われていた所を、何とか急行し助け出せた事を。

 

その彼が活動停止に追い込まれた事を。

 

ダークレイスを倒した直後、例の黒いゴブリン『ダークゴブリン』に遭遇した事を。

 

鎧戦士の回復には、時間を要する事などを包み隠さず説明した。

 

それらの内容に呆気に取られ、口をポカンと開けていたが直ぐ我に返り、報告内容を用紙に記録していく。

 

「……有難う、貴方のお陰で問題は一つ解決したわ。それで……報酬の件だけど――」

 

 彼女が追加報酬について口にしたが、灰は”要らない”と断った。

 

ダークレイスはソウルを奪う為に、他者を襲い見境が無い。

 

それが生者だろうと亡者だろうと、基本無差別だ。

 

放置して置けば、被害が拡大したであろう事は、容易に想像がつく。

 

もしかしたら自分達が認知していない所で、被害者が出ているかも知れないのだ。

 

情報が入り次第、無報酬だろうと討つつもりでいた。

 

灰にとっては元不死人として、あちら側(ダークソウル)の住人として、背負うべき当然の責務だと認識している。

 

「……本当にいいのね?後で欲しい、て言っても遅いわよ?」

 

 彼女は念を押すが、灰は報酬を断った。

 

「……分かったわ。――にしても」

 

 少し溜息を着き――。

 

「例の彼の現状、あの娘にも報告しないとね……」

 

 少し気だるそうに力を抜く、彼女。

 

倒れた鎧戦士の事だろう。

 

「それは私がやろう。ゴブリン退治を引き継ぐんだ、どの道伝えねばな?」

 

 灰の言葉を聞き、彼女はじっと灰を見据えた。

 

 

 

「……まさか!そのまま!ゴブリン退治に行くつもりじゃないでしょうね?」

 

 

 

 彼女の声は怒気を孕み、底冷えしていた。

 

間違い無く怒っている、同時に心配もしてくれている。

 

「そ、それこそ、まさかだ。よ……予定もある、今日位ゆっくり休むさ」

 

「……本当ね?信じるわよ!」

 

――……こわい……。

 

彼女の言葉に冷や汗を掻きながらも、今日は休む事を約束した。

 

「ああ、それと――」

 

 急に何かを思い出したかの様に、言葉を付け加える灰。

 

「……なに?」

 

「せめて護衛を付けるべきだと思うんだが……」

 

 ”君に対して”と付け加える。

 

密室に女一人、少し無警戒じゃないか?、灰はそう指摘する。

 

「な……!なによ、襲う気?」

 

 彼女は身を引き、自分の肩を抱き竦めた。

 

「ダークレイスがな」

 

 無表情で語る灰の言葉に、凍り付く彼女。

 

「絶命させてあるが、亡者だ。何が起こっても不思議じゃない」

 

「貴方そんなの持って返って来たわけ?!」

 

「じゃ、後は任せた」

 

「こ、こら、一人にしないでよ!意地悪!!」

 

 彼女は慌てて呼び鈴で男性職員を3人呼び、ダークレイスを運ばせた。

 

ダークレイスの遺体は、厳重な監視と管理の下で研究されるそうだ。

 

火継ぎの時代に関しての資料は乏しく、未知の部分が多い。

 

今後の為に少しでも解明される事を願おう。

 

「……貴方ねぇ……!」

 

「運び出すまで、居てやったじゃないか……」

 

 彼女は怒りの形相で灰を睨み付けるが、灰はそそくさと部屋を後にした。

 

 

 

 

 

応接室を下り、再び一階に戻った灰は、監督官候補の同僚が担当するカウンターへと向かった。

 

鎧戦士の現状と、彼に代わってゴブリン退治を引き継ぐ意思を伝える為だ。

 

「あっ、冒険者ギルドへようこそ。依頼の件でしょうか?」

 

 ゴブリン退治の依頼を優先的に斡旋している受付嬢は、普段通りに対応する。

 

「……少々報告すべき事が――」

 

 少しばかり気が重かったが、伝えねばならない。

 

灰は、鎧戦士が行動不能である事と、ゴブリン退治の引き継ぎの件を伝えた。

 

その報告を聞いた彼女は、幾許か取り乱し灰に詰め寄るが何とか宥め、鎧戦士の命に別状は無い事を伝えた。

 

「じゃあ彼は……」

 

「心配ない。だが、この先安静が必要だ」

 

 その言葉を聞きホッと胸を撫で下ろした。

 

「――その上で、彼に代わりゴブリン退治を引き継ごうと思う」

 

「勿論大歓迎です。此方からお願いしたい位ですよ!」

 

 案の定、ゴブリン退治を積極的に引き受ける冒険者は、殆ど居ない様だ。

 

「早速、請けられるのですか?」

 

 そうしたい気持ちがあったのは否定しない。

 

しかし先程から灰に突き刺さる、或る視線がとても堪えた。

 

言わずもがな、その視線は監督官候補の受付嬢だった。

 

ふと彼女と視線が合う。

 

          

 

           ――つーん――

 

 

 

彼女はそっぽを向き、他の冒険者の依頼を担当する。

 

そんな様子を見て苦笑いを浮かべる新人受付嬢。

 

「依頼は明日にする。準備も要るしな」

 

 明日からゴブリン退治を受ける事を彼女に伝えた。

 

横から彼女の先輩受付嬢が、灰に小声で囁く。

 

「あんまりウチの後輩、苛めないで下さい……」

 

 そんなつもりは毛頭無かったのだが――。

 

「……自重します」

 

 一礼して灰は、ギルドを出た。

 

「またのお越しを――!」

 

 灰を見送る受付嬢。

 

”ベー”と舌を出す監督官候補。

 

ギルドは何時もの平常運転に戻っていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「後は武器工房だな」

 

 ギルドを出た後、併設された階段を下り工房へと足を運ぶ灰。

 

「おう!オメェか、色男!」

 

 いつもの厳つい店主が店番をしていた。

 

奥から金属音が聞こえて来る。

 

アンドレイが地下で武器を鍛えているのだろう。

 

彼と話をしたいがそれは後回しにし、先ずは損耗した装備品の修繕と新たな武具類を揃える事にした。

 

「これ等の修理をお願いしたい」

 

 カウンターにブロードソードやシミター、バックラーを並べた。

 

「……随分こき使ったな!手入れはしていた様だが――」

 

 刃毀れや磨耗した部分を指でなぞり、丹念に調べ上げる店主。

 

「相当踏んだみてぇだな!」

 

 鋭い眼光で灰を見据えた。

 

灰はこれまでの経緯を説明した。

 

ゴブリン退治からロスリックの調査に至るまで。

 

「……ああ、聞いたぜ!バケモン共とやり合ったらしいじゃねぇか?!」

 

「修理しておくが、消耗が激しい。時間がかかるぞ?!」

 

 念を押してきたが、灰は”お願いする”と料金を払い、修理を依頼した。

 

ロスリックで失ったショートソードは、新しく購入する事にした。

 

「後、弓矢を購入したい」

 

 灰の注文に厳つい顔付きが、一瞬だけ呆けた顔に変貌し、僅かに間の抜けた表情を滲ませる。

 

「剣士のオメェが弓矢を――?!」

 

 ”転職でもしたのか?”と少しからかわれてしまった。

 

「剣以外の武器も可能な限り習熟しておきたい、今後必要になるだろう」

 

 明日からゴブリン退治を引き受けるのだ。

 

一応仲間を募ってみるが、恐らくは単独行動になるだろう。

 

少しでも手数や戦術の幅は拡げておきたい。

 

弓矢に関しては、火継ぎの世界でも使っていたが、あまり習熟しているとは言えなかった。

 

純粋な技術は、専門の弓手にも劣るだろう。

 

『初歩』以上『習熟』以下と言った、水準か。

 

それらの足りない戦闘技術を修練する意味でも、ゴブリン退治は打って付けの依頼であった。

 

質は大した事は無いが、数はやたらと多い。

 

様々な状況を想定して試す事が出来る。

 

実戦形式で――。

 

ゴブリン退治の引継ぎは、単純な義侠心や正義感だけではなく、彼なりの打算も含まれていた。

 

腹黒いと言ってくれるな、これも生きる為だ。

 

「分かった、どれにするね?」

 

 灰は、短弓と長弓の2種類を注文する。

 

短弓は近中距離での速射や連射に対応する為、長弓は遠距離の狙撃や強射の為に。

 

「成る程、用途別に用意しておく訳だな」

 

 店主は棚から、真新しい2種類の弓矢を取り出して来た。

 

灰は弦の張り具合や数度試射し、馴染みを確認する。

 

それ等を購入し、追加で飛刀をセットで購入しておいた。

 

「購入は以上だが、実はアンドレイにも用があってな――」

 

「あん?」

 

 アンドレイとの取次ぎを店主に頼み込んだ。

 

そろそろ確かめたい――。

 

自分があの世界で『始まりの火』を消した後、何が起きたのかを――。

 

「ああ、構わねぇよ。アイツは働き過ぎだ。少しは休んで貰わんとな!」

 

 意外と話の分かる店主だ。

 

店主の取り計らいで、今夜食堂の一角で落ち合う約束を取り付け、灰は工房を後にした。

 

 

 

「重戦士の話では、食事会は夕方だったか。まだ時間はあるし、少し寝るか」

 

 ロスリック探索から帰還したが、皆が皆消耗し切っていたので、打ち上げは今日の夕方に設定されていた。

 

借りていた宿に戻り、少し仮眠を摂る事にした。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

日も傾きつつあり、夕方直前の時間帯。

 

ギルドの食堂は、徐々に賑わいを増しつつあった。

 

目を覚ました灰は、平服に最小限の防具だけ身に着け、食堂の一角で時間を潰していた。

 

珍しくフードも外し素顔を晒している。

 

メンバーが一堂に会し、生還を祝うのだ。

 

戦闘装束では無粋と言うものだろう。

 

食堂の喧騒は、一般人から見れば野蛮極まりないものだが、灰にとってはこの喧騒を眺める事すら楽しみの一つとしていた。

(因みに喧騒に参加する趣味は無い)

 

増しつつある食堂の賑わいや喧騒に、その雰囲気を愉しんでいたが、そんな灰に見知らぬ複数の人物が声を掛ける。

 

「そこのお兄さん。お一人でしたら、私達と飲みません?」

 

 3人の若い女の冒険者達だった。

 

皆容姿に優れた美人で、長い金髪で露出の高い森人の魔術師が二人、一人は只人の赤い短髪で女戦士だった。

 

3人とも鋼鉄等級の認識票を身に着けている。

 

どうやら灰を食事に誘っている様だ。

 

当然彼女達とは、面識も接触も無い。

 

「……何処かで、お会いした事が――?」

 

 灰は尋ねてみたが、彼女達とは初対面で間違いない様だ。

 

「だって、ねぇ?」

 

「一人で居るより、きっと楽しいわよ」

 

「それで飲んだ後はさ、私達の部屋で……ね?」

 

 三者三様、彼女達は其々の言葉で、灰を誘惑するが――。

 

「……申し訳ありません。予定がありますので」

 

 やんわりと断り、食堂を出てしまった。

 

出口まで彼女達が追い駆けて来たが、上手く撒けた。

 

「……おかしい、こんな事は今まで無かったぞ」

 

 体験した事の無い出来事に、困惑しながら歩き出す。

 

しかしその道中にも、様々な人達から声を掛けられた。

 

どういう訳か、全て若い女性ばかり。

 

「一緒に食事でもどう?」

 

「冒険者ですか?私達と組みません?」

 

 これ等はまだ良かった方だが、酷いのになると――。

 

「一夜の夢を見ませんか?何なら今直ぐにでも」

 

「アタシ等と遊ばない!」

 

「主人を早くに亡くして寂しいんです。今夜慰めて下さい!」

 

 下心を隠そうともせず、接近を試みる女性達まで出てくる始末。

 

最初は躱していた灰だが、中にはしつこく追って来る連中も多く、全力疾走と高速体術の併用で、人通りの少ない場所まで逃げて来た。

 

 

 

――どうしてこうなった?――

 

 

 

理由が分からず、思案しながら近くの噴水の水面を何気なく見つめる。

 

水鏡に浮かぶ自分の素顔に気付いた。

 

「原因はこれか!」

 

 違和感の正体、フードを外し素顔を晒していた事だった。

 

冒険者になる前、地母神の神殿で”極力素顔を隠した方が良い”と、司祭長から忠告されていたが、街中でも問題が発生するらしい。

 

「おちおち外出も出来んなこの格好では。もしくは、人との接し方を新たに学ぶ必要があるか」

 

 当分顔を晒したまま街中を歩けないと判断した灰は、急いで宿の戻りフードマントを被る事にした。

 

フードを被り食堂に戻った途端、声を掛けられる事は無くなり、予定の時間まで待つ事にした。

 

因みに声を掛けて来た、鋼鉄等級の女冒険者達は、素顔の灰を探していたが、フードを着けた灰と同一人物だとは、勘付く事は無かった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

大人数用の大きなテーブルには、実に様々な料理と飲み物が並べ立てられていた。

 

大皿には、調味料をふんだんに使った豪勢な肉料理、野菜料理、穀物料理など普段口にする事が無い料理ばかりだった。

 

「――イヨォシッ!かてぇ挨拶は抜きだ!カンパァイッ!!」

 

『カンパァイ!!』

 

 ロスリック探索の頭目を勤めた、重戦士の威勢の良い掛け声に、皆が呼応する。

 

 

 

知をもって、晩餐に対する者がいた。

そして最後に、無知を知った。

食のはじまりにそれは無く、終わりにもそれは無いだろう。

味は知識なく始まり、知識なしに終わるだろう 。

あたりまえのことじゃあないか、だから君、晩餐を恐れるなかれ

 

 

     我ら食餌の時だ!

 

 

 

「おらぁっ!飲め!喰え!楽しめぇ!頭目からの命令だぁ!!」

 

 上機嫌で、樽ジョッキを片手に、麦酒を盛大に飲み干している。

 

早速出来上がっている様だ。

 

隣の女騎士も、酒に酔っている様で、半森人の軽戦士に絡み、論破されたりと楽しんでいる。

 

槍使いと魔女は、ほろ酔いつつも食事に舌鼓を打っていた。

 

鉱人の斧戦士は、豪快に火酒を飲み干し、肉を頬張り笑い飛ばしている。

 

禿頭の僧侶と半森人の野伏は大人し目に、食事を口に運んでいた。

 

「アンタ、こんな時までフードを取らないのな?」

 

「不便じゃないですか?」

 

 向かいの同期戦士や隣の圃人の巫術士が、灰に問い掛けてくる。

 

「実は、さっきまで外していたんだが、問題が発生して……な」

 

 穀物料理を食しながら、歯切れの悪い言葉を濁す。

 

フードを外し人目に晒した途端、色々な連中が寄って来た出来事を思い出す。

 

「ああ、見てたぜ!逃げ回ってたじゃねぇか」

 

「こら、かれに、しつれい、よ?」

 

 どうやらあの現場を槍使いと魔女に、見られていたらしい。

 

「いやぁ、見物だったぜ!寧ろ、羨まけしからん位だったな!」

 

 盛大に大笑いしながら、フードを外していた灰が女性達に口説かれていた様子を細やかに話し出した。

 

その事に関しては事実だし、もう過ぎた事だったので、特に反論もしなかった。

 

――だが槍使い、貴公些か笑い過ぎではないかね?

 

槍使いから、女性との接し方を学んだ方が良いだろうか?馴れてそうだ。

 

結局その出来事をネタに、弄られ続けられる火の無い灰だった。

 

ご愁傷様。

 

 

 

「それにしてもいいのか?料理代が、そっち持ちで?」

 

 灰の質問に重戦士が歯をニカっと剥き出し答えた。

 

「気にする必要ないぜ。成功報酬の他に持ち帰った、備品やら小道具類やらが良い値段で売れて、工面した金だからな!」

 

 彼が言うにはロスリックから持ち帰った品々は、文化的価値も高く、収集家や歴史研究者達が結構な値段で買い取ったらしい。

 

そうした宝を目当てに、今後もロスリックに挑む冒険者達は、後を絶たないだろう。

 

余計な犠牲者が出なければいいが。

 

時間が過ぎ皆の腹も満たされ、そろそろお開きが近付く頃。

 

「なぁ、灰のアンタ」

 

 徐に声を掛けて来たのは、同期戦士。

 

「これからどうしていくんだ?もし決まってないなら、俺達とこのまま――」

 

 臨時とは言え、彼等の一党に所属していた灰。

 

今後もこのまま一党に属してはどうか?

 

彼はそう提案してきた。

 

確かに彼等と切磋琢磨しながら、依頼を解決し等級を引き上げていく。

 

正直悪くない、魅力的な案だった。

 

だが灰は、約束してしまった。

 

今は倒れ、牧場で療養中の鎧戦士と。

 

「実は皆に伝えておきたい事が……」

 

 灰は皆に耳を傾ける様に促し、現状を伝えた。

 

ダークレイスの事。

 

ダークゴブリンの事。

 

倒れた鎧戦士の事。

 

そしてゴブリン退治を引き継いだ事。

 

「なに?!あの変なのが倒れたのか?」

 

「雑魚狩りばっかりやっているからだ」

 

「そのダークレイスとやらは、アンタが倒したと?」

 

「本当に居たんだな、その黒いゴブリンって奴が」

 

 大なり小なり反応に差はあるが、皆は一様に驚いていた。

 

既に討伐したダークレイスに関しては、一応の解決を見たと言っても良い。

 

問題は、これから脅威になるであろうダークゴブリンだが、如何せん情報が少な過ぎる。

 

信じていない冒険者が大多数を占めた。

 

それらも踏まえ、これから先、情報収集も必要不可欠になるだろう。

 

「そうか、お前さんゴブリン退治を――」

 

「すまん。被害に遭う村を放置は出来ない」

 

 鉱人の斧戦士が残念そうな顔をする。

 

「まぁ、しょうがねぇわな!無理強いは出来ねぇし!」

 

「折角の誘い有難う。また機会があれば組もう!」

 

 灰は、皆に別れを告げ食堂を後にした。

 

残された彼等も、再び自分達の道を行くだろう。

 

彼等は白磁等級の新人、冒険は始まったばかりなのだから。

 

 

 

宿に戻った灰は頃合を見計らい、再び食堂の一角の席に座る。

 

もう一つの予定、嘗て同じ世界で世話になった鍛冶師『アンドレイ』と会う為だ。

 

夜もかなり遅く、先ほどのメンバーは全員、食堂を後にしていた。

 

客も疎らで、ごった返していた食堂は、大分落ち着き物静かですらある。

 

程無くして目的の人物、アンドレイが姿を現し、ドカッと椅子に腰を落ち着けた。

 

「よう!こうやって飲み交わすなんて初めてじゃねぇか?」

 

「全くだ。火の祭祀場でもこんな事は無かったな」

 

 アンドレイだけでなく灰も心成しか、口を吊り上げていた。

 

先程の打ち上げではほぼ無表情を貫いていたが、同じ世界の住人と言う事実が些か意識を高揚させている様だ。

 

「ご注文は何にしますかぁ!」

 

 給仕の声に両者は、各々酒とつまみを注文する。

 

酒が運ばれ二人はジョッキを手にし、カチンと合わせる。

 

「「再会を祝して乾杯!」」

 

 乾杯と同時にアンドレイは一気に飲み干した。

 

因みに彼が飲んだのは、『ハチミツ酒』である。

 

灰は、酒にはあまり強くないが『リンゴ酒』を一口含んだ。

 

「美味いねぇ、仕事の後の一杯は格別だ!!」

 

「そうだな」

 

 アンドレイは豪快に笑い、更に酒を注文する。

 

「……」

 

「……」

 

 お互い沈黙が流れるが、やがて――。

 

「アンタが、火を消した事は知っとるさ」

 

 アンドレイから話し出す。

 

「教えて欲しい、火を消した後どうなったのか」

 

 アンドレイには解っていた。

 

灰が最初に聞きたかった事が――。

 

「……あの嬢ちゃんは、戻ってこんかった」

 

 火防女の事である。

 

灰が火を消し自身が消滅した後、祭祀場に彼女は戻っていない、と言う。

 

彼女がどうなったかは、アンドレイ自身も分からないらしい。

 

「火防女……」

 

 灰の呟きを意に介さず、彼の独白は続いた。

 

火を消した後、火の祭祀場に火防女は戻って来なかった。

 

中央の篝火は急速に衰え、完全に消えゆく寸前にアンドレイがその残り火を掻き集め、鍛冶場の炉に移し替え、その残り火で暫く生き永らえた事。

 

火が消えた後、少なくともロスリックは暗闇に包まれ、闇の世界に変貌した事。

 

その事実を耳にし、押し黙ったままの灰だったが――。

 

「私は……、終わらせたかった!」

 

「無限に繰り返される、火継ぎを――」

 

「世界の存続だとか、繁栄を心底願った訳じゃない……!!」

 

「只、……ただ……、終わらせたかったんだ……」

 

 

 

 

 

          ――自分自身を――

 

 

 

 

 

突如沈黙を破り、絞る様に呻く。

 

誰に対してでもなく、自分に対してでもなく。

 

「アンタを攻める気は無いぜ!」

 

「それに火を継いだところで、何れ陰る事は俺でも分かっていた」

 

 ”アンタは間違ってない!”

 

アンドレイは灰の所業を咎めず、寧ろ認めていた。

 

「残り火を炉に移し替え、暫くしての事なんだが……」

 

 アンドレイは言葉を続けた。

 

そうだ――!まだ続きがある。

 

アンドレイがどうやってこの世界に転移したのか?

 

アンドレイは曰く。

 

祭祀場に武装した集団がやって来た。

 

兜以外は黒騎士の鎧と大剣を携えた大柄な騎士を筆頭に、騎士鎧とアストラの直剣を装備した騎士が数人。

 

自らを『闇の王』と名乗り、”残り火とソウルの返礼に安らぎを与える”を名目に数少ない生き残りが次々と犠牲になった。

 

祭祀場の侍女、大沼のコルニクス、カリムのイリーナ、闇術士カルラ。

 

最後にアンドレイだが、彼は最後の最後まで、或る物を作り続けていた。

 

残り火を炉に移し替えたのは、そう言う理由も含まれていた。

 

 

 

「依頼通り、造ってくれたようだな。礼を言わせて貰おう」

 

 『闇の王』の言葉がアンドレイの脳裏に過ぎった。

 

「お前さん。今更こんなモン、何に使う気だ?」

 

 火が消え、炉の残り火だけが唯一の拠り所となった、祭祀場でアンドレイは問い詰めた。

 

「貴公は良く働いてくれた。安らぎ与えよう」

 

 その言葉と共に、黒騎士の大剣でアンドレイを真っ二つに両断した。

 

「――クソヤロウ……!!」

 

 その言葉を最後に、アンドレイの体は灰となって、虚空に消え去った。

 

その際彼は、鍛冶道具の槌を遂に手放す事は無かった。

 

「これも必ず役割を果たす時がやって来る」

 

「だが、今は火が足りん。『残り火』を掻き集め、『ソウル』を掻き集め、生き永らえねばならん!」

 

「炉の『残り火』も頂いておくとしよう」

 

 『闇の王』は炉に手を翳し、火を奪いソウルに変換し体内にしまい込む。

 

祭祀場は完全に暗闇に閉ざされ、熱も音も消え去った。

 

闇の王の前に、配下騎士達が跪く。

 

「再び新たな『始まりの火』が灯ろう。どれだけの刻を要するかは、定かではないがね。出来損ないの『薪の王』め!余計な事を――」

 

「全ては輝かしい亡者の!ロンドールが世界を平定せんが為に!」

 

「フフフフフ……、フハハハハハ!!」

 

 真の暗黒が支配する祭祀場で、配下騎士達を従えた闇の王の不気味な笑い声が木霊する。

 

闇の王の手には、安らぎを与えてやったアンドレイから受け取った、或る物が不気味に燃え盛っていた。

 

それは、黒い炎を宿す『螺旋剣』だった。

 

名を『深みの螺旋剣』と言う。

 

ソウルとなり霧散しつつある意識の中で、鍛冶屋アンドレイが記憶している、それが最後の光景だった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

アンドレイの独白は終わり、彼は再び酒を一気に煽った。

 

「まっ、そう言うこった。俺もやられちまったのさ」

 

 そして彼が再び目を覚ました時は、ギルド前で槌を持ったまま倒れていた所を工房の店主に拾われた。

 

それが縁で住み込みで工房で働かせて貰っている訳である。

 

 アンドレイの言葉を聞き、静かに歯軋りしていた灰。

 

「『闇の王』め……!」

 

 ”火を消した”と言う自責の念から、いまや完全に闇の王に対する憤りが彼の感情を支配していた。

 

「人に物を造らせておいて、最後はバッサリだ!非道ぇ話だよ全く!」

 

 追加で注文した酒を飲み干すアンドレイ。

 

物凄いペースだ。

 

ヤケ酒の意味合いも含まれているのかも知れない。

 

「ところで貴方の最後に造った物が、気になるんだが」

 

 闇の王が依頼した黒い炎を発す『深みの螺旋剣』。

 

灰が火を消した後、灰に敗れ蘇生した闇の王。

 

再び『最初の火の炉』へ赴き、灰が倒した『王達の化身』から回収した『火継ぎの大剣』。

 

それをベースに加工し、造られた呪物である。

 

何の目的で造らせたのか?

 

「俺にも分からん」

 

 ぶっきらぼうに応えるアンドレイ。

 

彼が言うには、火に深みを与え、死の炎に変えてしまうのだそうだ。

 

――恐らくは、より亡者に適した火を生成する為の、道具である可能性が高い。

 

灰は灰自身で長く『火』に関わってきた故、ある程度の推察が着いた。

 

「しかし、『螺旋剣』が向こう側に渡ってしまったのか……」

 

 これでは螺旋剣を手に入れる事は絶望的となってしまい、意気消沈する灰。

 

「心配はいらねぇよ!」

 

 アンドレイは口を吊り上げ、腰に下げた袋から金属物を取り出した。

 

灰は見覚えのある物体に目を見開く。

 

「こ、これは螺旋剣……の、ボロボロだな?」

 

 灰の目にした物は紛れも無く、火の祭祀場に刺さっていた『螺旋の剣』その物だった。

 

「今は火を宿す力も無ぇが、必ず復活させてやるさ!」

 

 有り難い!

 

自分に協力出来る事があれば言って欲しい、螺旋剣が復活すれば、完全な篝火を生成出来る可能性が高くなる。

 

「大量の楔石と貴石が必要になるだろうがな」

 

「何年掛かるか分からないが、必ず手に入れる」

 

 ロスリック以外でも入手出来るだろうか?

 

それが懸念材料だが――。

 

「それなら問題ねぇ!別の都や街からの冒険者が、楔石を売りに来た事もあったからな」

 

 成る程、ロスリックの以外の入手手段も有るのなら、上手く行きそうだ。

 

『螺旋の剣』と『不死人の遺骨』が手に入れば、完全な『篝火』を起こせる。

 

エストの補充や回復手段だけでなく、転移手段としても期待出来る。

 

是が非でも、実現したいところだ。

 

「頼むアンドレイ!」

 

「おう!協力しろよ!」

 

 灰は手持ちの楔石を渡そうとしたが、”少しは武器の強化に使え”と、受け取らなかった。

 

纏まった数が入手出来たら、『螺旋の剣』修復の為に渡すとしよう。

 

心なしか気分が上向きになり、灰もリンゴ酒を一気に煽った。

 

 

 

二人のささやかな酒宴は終わりを向かえ、アンドレイは上機嫌のまま寝床へと戻って行った。

 

「先ずは、頑張って階級を引き上げないとな!……ま、ゴブリンも放置出来んがな」

 

 店が閉まるまで残っていた灰は、料金を支払い酒場を出た。

 

夜もすっかり更け、人の往来は少なく、治安維持の為の衛兵が巡回していた。

 

「何事も無いな?」

 

「特に問題は無いようだな」

 

「怠けるなよ?」

 

「油断せずに見張っていなくちゃな……」

 

 真面目に巡回している様だ。

 

「風呂に入って、寝るか……」

 

 明日からゴブリン退治だ。

 

灰も入浴を済ませ、就寝し明日に備える事にした。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 時が巡り、人が変わろうとも、世界は廻る。

 

掲示板に張り出された依頼に群がる、冒険者達。

 

時に言い争い、時に小競り合いにまで発展する、冒険者ギルド。

 

相変わらずの喧騒に、一人の剣士『火の無い灰』は距離を開け、事の成り行きを見守る。

 

下手に割り込み、喧騒に巻き込まれる必要は無い。

 

良く見れば、重戦士の一党や槍使いの一党、同期戦士の一党も喧騒が落ち着くのを待っていた。

 

彼等も白磁の新人。

 

身振りや割の良い依頼は、階級の高い冒険者が優先的に引き受けていく。

 

致し方が無い、階級が高い=実績と信頼を積み重ねた、と見なされるのだ。

 

我々新人は、一つ一つ積み重ねて行くしかない。

 

喧騒も一段落つき、重戦士等一党も、残された依頼に目を通し、次々と請け負っていく。

 

しかし灰はまだ動かない。

 

いや、動く必要が無いのだ。

 

やがて掲示板に残された張り出しは、片手で数える程度になっていた。

 

人も少なくなった頃、漸く灰も動き出した。

 

どんな状況でも必ずと言っていい程、残され敬遠される依頼――。

 

危険と苦労の割りに、報われない見返り。

 

誰も積極的に受けようとしない、新人向けの依頼――。

 

 

 

――其はゴブリン退治。

 

 

 

「いらっしゃいませ!冒険者ギルドへようこそ!」

 

 彼女の前に現れたのは、いつもの鎧戦士ではなかった。

 

深緑のフードマントで身を隠し、全容を覗えない細身の剣士。

 

何時もゴブリン退治のみ請け負う、あの鎧戦士に何処と無く似ている。

 

彼女は目の前の剣士に、そんな印象を抱いていた。

 

その剣士、火の無い灰は、言葉を発す。

 

――あの鎧戦士の様に。

 

 

 

 

 

           ”ゴブリンだ――”

 

 

 

 

 

 




 如何だったでしょうか。

余計事ばっかり書くから、文章が無駄に長くなるんだなウン。

メインのアンドレイとの会話シーンだけ書いてれば良かったものを。

しかし、気が付けば20話を超えてる始末。

本編に合流するのはいつに成る事やら・・・・・・。( ゚ ω ゚ )

デハマタ。( ゚∀゚)/

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