ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 極端に暑い日が続いたり、急激に雨が降りジメジメしたりと、気温差で頻繁に咳が出ます。
私の地方では、夏と言えど夜は急激に冷えるので、少し油断をするとあっという間に体調を崩してしまいます。
今後とも気を付けねば。

それでは投稿します。


第25話―骰子の運命、人の意志―

太陽のメダル

 

 「太陽の戦士」の誓約にある者が召喚され、エリア最後の戦いに勝利した証。

助けられた者もまたこの証を得る。

 

太陽のホーリーシンボルが刻まれたメダルは、わずかに熱を帯びている。

分かち合った勝利の、なによりの名誉の証だ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 灰色気味の濁った雲が空を染め上げる。

 

雨は降っていないが、曇り空の農村で複数人の冒険者が武器を振り回す。

 

「おい、そっちへ行ったぞ!」

 

「うわ、わ、逃げられちゃう?!」

 

「囲めばそんなに苦労はしないな」

 

「気を抜かないで下さい!小鬼とは言え、混沌の勢力です」

 

 互いに声を掛け合い、緑色の異形『ゴブリン』を討ち取っていく、四人組の一党。

 

若い戦士を筆頭に、半森人の少女野伏、鉱人の斧戦士、禿頭の僧侶で構成された、同期戦士の一党だった。

 

「心配すんな!ゴブリン相手に容赦はしねぇ!」

 

 同期戦士のアストラの直剣が、野菜を抱き抱え逃げ惑うゴブリンの胴体を、袈裟切りに両断する。

 

ゴブリンの遺体から吹き出た、鮮血が野菜に付着し、見る者の食欲を減衰させる。

 

「流石に喰う気になれんぜ……」

 

 顔を顰め、口に手をやる同期戦士。

 

「あっちにも、まだ居るよ!」

 

 少女野伏が指し示した方角には、子山羊を抱え一目散に逃げ去るゴブリンが一匹。

 

「こうなったら!《土精(ノーム)水精(ウンディーネ)、素敵な(しとね)をこさえてあげて!》」

 

 彼女が行使した精霊魔法、『泥罠(スネア)』。

 

腰に吊るした水筒の水を触媒に土精が混ざり合い、ぬかるんだ泥となって、ゴブリンの足を絡め捕った。

 

半森人の彼女は森人程ではないが、精霊魔法に通じているのだ。

 

泥罠(スネア)に足を捕られ見事に転び、ゴブリンは泥から抜け出そうと藻掻く。

 

「よっしゃ!もろうたぜ!」

 

 鉱人の斧戦士が、愛用のバトルアクスで動きの鈍いゴブリンの頭部をかち割った。

 

頭蓋骨諸共砕かれ、呆気なく絶命するゴブリン。

 

「これで討伐数は互角じゃな!」

 

 ゴブリンから斧を引き抜き、豪快に笑う。

 

「はっ!言ってな、次は俺が勝つ」

 

 同期戦士も剣に付着したゴブリンの返り血を、消毒液を含ませた布で拭い去り納刀する。

 

「怪我人は無し、一安心です」

 

 禿頭の僧侶は、ホッと胸を撫で下ろす。

 

これまで遺跡探索を数回こなしただけで、野外の戦闘は未経験だった為、ゴブリン退治と言えど、負傷者が居ないのは幸いだった。

 

因みに彼にとって、ロスリックの探索は遺跡には含まれておらず、彼の中では『異界』扱いである。

 

「そちらはどうです?」

 

 僧侶は『彼』を見やる。

 

薄汚れた皮鎧、持ち手の無い小盾、中途半端な長さの剣を携えた戦士。

 

鎧戦士(後のゴブリンスレイヤー)。

 

「問題ない」

 

 ゴブリンの頸部を剣で突き刺し、確殺していた。

 

「一つ」

 

 淡々と応え、作業でもするかの様に、剣を引き抜く。

 

「そちらは二、俺は一、計三か」

 

「ああ。野菜は駄目だが、子羊は取り戻せただけ良しとしよう」

 

 ”なぁ?”同期戦士に笑い掛けられ、少女野伏は子羊を抱え、笑みで返す。

 

「うん!がんばったよ!」

 

 そんな彼女の笑みを余所に、子羊は彼女から必死に抜け出そうと藻掻く。

 

「やれやれ、羨ましい場所に居るってのに、何が不満なんだか」

 

 藻掻く子羊を見て、同期戦士が肩を竦める。

 

「羨ましい?」

 

 野伏は、彼の言葉と含みのある視線に意味を察し、”んもうっ!”と頬を膨らませ抗議した。

 

「はは、悪い悪い」

 

 謝る同期戦士と微笑む野伏との仲睦ましい光景に、斧戦士がヤレヤレと首を振る。

 

「ま、こんなもんか。ゴブリンじゃと」

 

 少々物足りなさそうだ。

 

「ロスリック騎士の一人でも出てくれれば、張り合いがあったんじゃがの!」

 

 何とも物騒な事を言い出す斧戦士である。

 

「……それはそうと、後は彼ですね」

 

 禿頭の僧侶は、或る方角に視線を向けた。

 

向けた視線の先――。

 

「……殲滅完了」

 

 その男の足元には、嘗てゴブリンだったモノが、バラバラの状態で転がっていた。

 

深緑のフードマントで上半身を覆った、細身の剣士。

 

『火の無い灰』の手には、薄刃の曲刀(シミター)が握られていた。

 

シミターの修理を依頼したものの、刃毀れや損耗が酷い為、交換してもらったのだが、交換したシミターはロスリック製であった。

 

ロスリック製は、数打ちとは比較にならないほどの頑強さを誇り、損耗率が非常に低い。

 

灰は大いに喜び、それ以来愛用品として使う事にした。

 

「そちらも片付いたようですね」

 

「此方は九、そちらは三、合計で十二。数は合うな」

 

 鎧戦士を始めとした面々が灰の下に集まってくる。

 

「……周囲に残敵は無し。終わったと見なして良いだろう」

 

 灰の宣言で、このゴブリン退治は終わった。

 

「灰の予測通り、巣穴は無かったか……」

 

 鎧戦士の言葉に禿頭僧侶は、しゃがみ込み仰向けになったゴブリンの死体を検分した。

 

「これは『渡り』のゴブリンですね」

 

「渡り?」

 

 剣を納め、僧侶に意味を問う。

 

「食の状態が悪く、非常に痩せている。穴持たず……とは熊の事ですが、巣穴を失ったゴブリンだそうです。それらの一部が経験を積み、成長するとも聞きますね」

 

「成る程な、他には」

 

 鎧戦士は興味有り気に、僧侶から情報を得ようとした。

 

「ああ、いえ。私もそこまで詳しくは無いので……」

 

 僧侶は困惑気味に頭を掻く。

 

「ゴブリン退治は、装備用の資金調達の意味合いもあったからな」

 

 同期戦士は、ゴブリンの死体を眺める鎧戦士の肩に手を置いた。

 

「しかしまさか、あんた達とバッティングするとは思わなかったぜ!」

 

 このゴブリン集団は、考え無しに近隣の村を襲っていたのだろう。

 

一つの村が討伐を依頼し、一つの一党が請け、一つの村が防衛を依頼し、一つの一党が請ける。

 

その結果、こうして共同戦線となったのである。

 

「これも何かの縁さ。こっちとは、ロスリックで苦楽を共にし、こいつと俺は同じ日に登録したからな」

 

 鎧戦士とは同じ日に冒険者として登録した、彼が『同期戦士』と呼ばれる所以でもある。

 

「なぁ、これからどうすんだ?」

 

 彼は鎧戦士と灰に今後の予定を聞いてみる。

 

灰は後4件ゴブリン退治を請け負っているが、鎧戦士はリハビリを兼ねていた為、これで依頼を終わりだった。

 

「後4件も?!相変わらず良くやるねぇ」

 

 少し呆れ気味な同期戦士。

 

「…そうだな。貴公らが少しでも、ゴブリン退治に意識を向けてくれたら助かるんだがな」

 

「あ、あははは……。ま、まぁ考えとくぜ……」

 

 灰の返しに、苦笑いを浮かべた。

 

「俺達はこれから鉱山の探索依頼を請けてるんだ」

 

「金が取れなくなっちゃったんだよね!」

 

「大方奥に、怪物でも潜んでいるんじゃろうて!」

 

 同期戦士の言葉に少女野伏と斧戦士も続く。

 

 

 

「うわぁ……」

 

 少女野伏が息絶えたゴブリンの死体に、近寄った刹那――。

 

カッ!と目を見開いたゴブリンが、彼女目掛けて伸し掛かった。

 

不意を突かれた少女野伏は、大した抵抗もままならず乳房を鷲掴みにされ、押し倒された。

 

その勢いで彼女のスカートが捲くれ上がり下着が顕となるが、それどころではなかった。

 

「ひっ?!」

 

 恐怖のあまり、か細い悲鳴を上げ目を見開く。

 

「――?!こいつ、まだ生きてやがった!」

 

 彼女の元に駆け寄る、同期戦士達。

 

そこへ逸早く疾走した鎧戦士が、ゴブリンの腹を蹴り上げ、馬乗り状態になる。

 

「……ゴブリン!」

 

 腰のナイフを抜き、まだ息のあるゴブリンの体を捌き始めた。

 

「?!!…何をなさっているので?!」

 

 禿頭僧侶が、その異様な光景に顔を顰める。

 

「調べる。俺はゴブリンについてまだまだ知らねばならん」

 

 さも当然の様に応え、絶叫を上げるゴブリンを生きたまま解体していく。

 

「……君は、……そこまで……」

 

 凄惨な状況には慣れていた筈の灰も、言葉が続かなかった。

 

「灰よ、お前は言ったな?何事も勉強だと――」

 

 ギルドで鎧戦士に掛けた言葉が思い起こされる。

 

「お前の言う通りだ。俺はこれからゴブリンを徹底的に調べ上げる」

 

 不慣れな手つきで、ゴブリンの臓物を取り出し、丹念に検分する鎧戦士。

 

気が付けば同期戦士の一党は、”付き合い切れない”と言った表情で、現場を後にしていた。

 

「……次の依頼があるのだろう、早く行った方が良い。俺は一日野営して増援に備える。すまんが報告を頼まれてくれ」

 

「……わかった。後でな」

 

 灰もこれ以上何も言わず、次のゴブリン退治に向かった。

 

「まさか、ギルドでの言葉が、こんな形で返って来るとはな……」

 

 何とも言えない複雑な感情で、道中そんな事を考えながら……。

 

 

 

日が暮れた頃、灰がギルドの扉を潜ると、一斉に冒険者達の視線が注がれた。

 

いつも通り、奇異や侮蔑の陰口が囁かれる。

 

いつも通り、それらの微笑ましい歓迎の言葉を気にも掛けず、カウンターで報告を済ませた。

 

「あのぅ、あの人は……?ご一緒だった筈では……」

 

 受付嬢は、彼の安否について聞いて来た。

 

朝、一緒に居た鎧戦士が見当たらなかった為だ。

 

「それなら心配無用だ。彼は――」

 

 灰は、近隣の村でのゴブリン退治について、包み隠さず報告した。

 

無論、ゴブリンの解体を行った事も含めて。

 

「……うっ!……そ、そうですか。それなら良いんです、依頼達成お疲れ様でした!」

 

 流石にゴブリンの解体には、口に手を当てる受付嬢。

 

「……こう言うのも何だが、あまり彼を深く攻めないでほしい」

 

 牧場主から鎧戦士の過去を知った灰。

 

その凄惨な過去を思えば、此度の奇行も止むを得ないかも知れない。

 

「……了解しました。但し、職務上の義務は遂行致しますので、ご了承下さい」

 

「ああ、分かっている」

 

「それでは成功報酬は此方になります。……ゴブリン退治、本当に有難うございました!」

 

 深く頭を下げ、礼を尽くす受付嬢。

 

実際鎧戦士の不在中、灰の達成したゴブリン退治で、住民から感謝の声が多数寄せられていた。

 

何時も余り気味のゴブリン退治――。

 

僅か一週間とは言え、未解決の依頼書が半分以下に減っていたのも事実だった。

 

後は鎧戦士がゴブリン退治を引き継ぐだろう。

 

報酬を受け取った灰は、監督官候補の受付嬢の担当するカウンターへと足を向けた。

 

「……やっとこっちに戻って来てくれたわね。お疲れ様」

 

 業務上の表情ではなく、優しげな微笑みで灰を迎えた。

 

「あ、ああ。有り難う……」

 

 灰にとって意外だったのだろうか。

 

てっきり小言を言われると予想していた為、つい言葉が詰まってしまった。

 

もしかしたらこれが、彼女本来の素顔なのかも知れない。

 

「ええと私宛に、依頼があると聞いたんだが?」

 

「ええ、あるわよ。神殿から――」

 

 彼女が差し出した、依頼用紙。

 

依頼主は、地母神神殿の司祭長からだった。

 

 

 

 翌日、ギルドに帰還した鎧戦士は受付嬢からあれやこれやとお叱りを受けたのを、神殿に向かった灰は知る由もなかった。

 

灰の頼みが功を成したかどうかは、定かではない。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

”残念だが彼女の冒険は此処までだ”

 

頭の中で声の様な何かが木霊する。

 

それも何度もだ。

 

カランコロン。

 

乾いた何かを転がす音も混じって――。

 

 

 

出目は1。

 

所謂ファンブル。

 

もう一度聞こえて来る、声らしきもの。

 

”あ~あ、残念”

 

そんな諦めにも似た声。

 

骰子が司るは運命、それは盤上の神々でさえ、予測不能な要素。

 

半森人の少女野伏の冒険は此処で終わる。

 

 

 

 

 

――岩石の外郭を持つ怪物、『岩喰怪虫(ロックイーター)』によって――。

 

 

 

 

 

 ロックイーターの大顎が、少女野伏に迫る。

 

本来なら、誰一人気配を察知する事も無い筈だが、どういう訳か全員がその気配を察知してしまったのだ。

 

”残念だが彼女の冒険は此処までだ”

 

またあの声だ。

 

一党の頭目である、同期戦士の頭の中に響き渡る何者とも知れぬ声。

 

だが彼の口は自然と或る言葉を発す。

 

「――だからどうしたぁ!!」

 

 気が付けば、少女野伏を思いっ切りタックルで吹き飛ばしていた。

 

軸がずれた事により、頭上から迫るロックイーターの牙はガチンと音を立てるのみで、そのままの勢いで地中へと潜った。

 

 

 

――あれ?何かがおかしい。

 

盤上の神々は首を傾げます。

 

間違い無く出目は1。

 

彼女は此処で終わる筈なのに――。

 

ロックイータの攻撃を避けてしまったのです。

 

仲間の力を借りて――。

 

『火の無い灰』、彼ならまだ分かる。

 

彼は火を継ぎ、火を消し、終わりに導いた存在。

 

しかしあの一党は、正真正銘只の冒険者達。

 

何故?

 

疑問は残りますが、神様達は次の冒険者達に目を向けます。

 

冒険者は、彼等だけではないのですから。

 

 

 

 

 

「下から来るぞ!気を付けいぃ!!」

 

 鉱人の斧戦士が武器を構えロックイーターの奇襲に備える。

 

「おいっ!ロックイーターとか言ったか?今の――!」

 

「そうです!私達の手に負える相手ではありません!一刻も早く撤退しますよ!」

 

 同期戦士と禿頭僧侶が言い争う中、地響きと共に斧戦士の片脚が食い千切られた。

 

「ぐおぉぉぉっ…!、わ、ワシの脚がぁ?!」

 

 余りの激痛に、転げ回る斧戦士。

 

その勢いのまま天井に大穴を開け、再び岩石の中に潜り込むロックイーター。

 

「ぅう、うぅ……」

 

 少女野伏が蹲りながら、呻き声を上げる。

 

地面に転げ落ちた松明が、うっすらと彼女の様子を照らした。

 

彼女は顔面を手で押さえ、指の隙間からおびただしい量の血が滴り落ちていた。

 

かなりの出血だ。

 

ロックイーターが地面を潜った際に生じた岩石の破片で、額を深く抉ってしまったらしい。

 

「いたい……、痛いよぉ……」

 

 惨たらしい様を目の当たりにし、戦意を喪失する同期戦士。

 

「……撤退しましょう。生きて、生きてさえいれば。いつか…、いつか必ず――!!」

 

 禿頭僧侶は、斧戦士を肩に担ぎ直ぐに動ける状態だ。

 

――こいつに、こんな力があったのか?!

 

場違いな感心をしながらも、少女野伏を肩に担ぎながら、後は一心不乱に他には目も暮れず出口へと走り出す。

 

そこからどうやって、坑道を脱出したかは覚えていない。

 

気が付いた時には、片脚を失った斧戦士、額を大きく負傷した少女野伏、焦燥し切った彼と僧侶。

 

とても、冒険を続けられる状態ではなかった。

 

――彼等は失敗したのだ。

 

……そして、一党は壊滅した。

 

 

 

        ――全員生還という報酬を得て――

 

 

 

――岩喰怪虫。

 

金脈を深く掘り過ぎた所為で、住処を追われたブロブは、それから逃れる為に地表へと沸いた。

 

その事情を知ったのは、ずっと先の事である。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ちょっと悪いけど、そこの薬草を取ってくれる?」

 

「この人の包帯を取り替えてあげて!」

 

「そこの負傷者は、そっちに寝かせて」

 

「この包帯を洗って来て!」

 

 忙しく動き回る、聖職者達。

 

此処、地母神の神殿は診療所も兼ねている為、多くの傷病者がやって来る。

 

――が、今日はやけに多い。

 

一体どうした事だろう。

 

金髪に青い瞳の侍祭は、まだ10歳になるかならないかの年齢だったが、周りの同年代よりも要領が良く、逸早く治療の手伝いを任されるに至っていた。

 

治療具一式の入った小箱を棚から下ろし、先輩の神官に手渡す。

 

「有り難う、助かったわ。後は此方に任せて、あの人を手伝ってあげて」

 

 先輩の神官が示した先には、一人の雇われ冒険者が奇跡を行使し、治療行為に当たっていた。

 

「複数人纏めて、治療する」

 

 粗布で作成されたタリスマンを握り締め、祈りを捧げると負傷者達の傷が瞬く間に回復していく。

 

「灰のお兄さん、お手伝いに来ました」

 

「ああ、済まないな。この人の傷は塞がったから、後は血糊を拭いてやってくれないか」

 

 回復の奇跡で傷口は塞がったものの、肌には乾いた血の跡が付着していた。

 

治療士として依頼を請けた『火の無い灰』を手伝う為、少女は彼を手助けする。

 

 

 

「これで一段落着いたか…。それにしても随分冒険者が多いな。何があったんだ?」

 

 負傷した冒険者が多い割には、緊急を要する程の重症でもなく、比較的軽症の患者が多かった。

 

何かの前触れだろうか。

 

「ああ、それはですね――」

 

 灰と同じく、治療を担当していた男神官から情報が寄せられた。

 

近日中に、金鉱山に巣食う怪物『ロックイーター』を討伐する為、冒険者を多数雇うそうだ。

 

階級に関係無く参加出来る為、その依頼に備える冒険者が多いのだと言う。

 

此処で治療に訪れた冒険者達も、その一環だろう。

 

「そんなに多くの冒険者達が――」

 

「お兄さんも参加するんですか?」

 

 少女の問いに、灰は静かに否定する。

 

今日神殿に呼ばれたのは、治療士としてだけでなく、後日或る村に援助物資を送り届けてもらう為に灰を指名した。

 

その寒村には、小さな交易神の寺院が在り、司祭長の友人が院長を勤め孤児達を養っている。

 

少しでも子供達の助けになれればと、司祭長の私財から捻出した支援だった。

 

――信頼して下さるのは有り難いが、白磁の私を指名するとは……。

 

支援物資の中には生活用品や食糧だけでなく、現金も含まれている。

 

本来ならもっと階級の高く、社会的に信頼と実績を積み重ねた冒険者達を指名するべきなのだが。

 

残念だが、白磁の下級にはゴロツキ紛いの犯罪者も存在するのだ。

 

司祭長は”貴方だから安心して任せられるのですよ”と、にこやかに微笑むのみであった。

 

当然無下に断る訳にもいかず、指名された以上は成し遂げるつもりでいた。

 

「――すいません!急患、2名追加です!どなたか動ける方――!」

 

 突如、負傷者が運ばれて来た。

 

「すまねぇ、治療を頼む!」

 

 診療所に駆け込んで来たのは、過去に臨時で一党に所属していた、同期戦士の一党だった。

 

怪我をしているのは、片脚を失った鉱人の斧戦士と、額を深く傷付けた半森人の少女野伏だった。

 

どちらも重症だった。

 

「一体何があった?」

 

「……アンタ、火の無い灰?!」

 

 

……

 

………

 

「ロックイーター、此処でも噂になっている」

 

「ああ、そいつに酷くやられてな…。この様だ……」

 

 一通りの治療を施し、別の広場で同期戦士から事情を説明してもらった。

 

「くそっ!……俺がもっと、もっと、上手く立ち回っていれば……」

 

 歯軋りし、自分の不甲斐無さを悔いる同期戦士。

 

坑道での状況も、大方把握出来た。

 

「……もっと、しっかりしていれば……きっと今頃は――」

 

 

 

 

――本当にそうだろうか?――

 

 

 

 

 

「君は寧ろ、最善の選択肢を取ったんじゃないのか?――」

 

 灰の言葉の意味が分からず、暫く困惑した表情を浮かべる彼。

 

灰は言葉を続ける――。

 

君達が真上からの奇襲に気付けたからこそ、全員生き残れたんじゃないのか。

 

もしも、その気配を感知出来ずにいたら、どうなっていたのか――。

 

その言葉に同期戦士は暫し考え込む。

 

――確かにそうだ。

 

頭上から怪しい息づかいを運よく聞き取れたからこそ、奇襲に気付く事が出来た。

 

咄嗟の判断で彼女を突き飛ばし、最初の難を逃れる事が出来た。

 

もしも――。

 

もしも、奇襲に気付く事無く、彼女を突き飛ばさなかったら……?

 

 

 

想像したくはなかった。

 

 

 

少女野伏が頭から噛み砕かれ、そのまま捕食される姿など……。

 

 

 

「僧侶から聞いたんだが、かなり手強いらしいじゃないか。ロックイーターとやら」

 

 状況と装備にもよるが白磁の駆け出しで、どうこう出来る敵だとは思えない。

 

敢えて言おう。

 

 

 

――貴方の選択肢は、正しかった――。

 

 

 

「少なくとも私……いや、俺はそう思う!」

 

 本心で語る灰。

 

……。

 

「…お、俺は……、オレはぁ……!」

 

 自然と目尻に涙をを浮かべ、声を挙げる事無く同期戦士は泣いた。

 

 

 

 

 

夜も更け、神殿内の資料室にて古代文字で書かれた文献の、解読作業に当たっていた灰。

 

火継ぎの時代を生き抜いた灰にとって、古代文字は母国語に当たる。

 

この作業も、依頼内容の一環だった。

 

「……やはり、火を消した後の時代……、それを記した資料はないか……」

 

 解読作業の傍ら自ら消した『始まりの火』、暗闇に包まれたであろう、その時代の様子を記した文献を探してみたが、見付かる事はなかった。

 

「調べ物ですか?灰の方」

 

 ノックした後、ドアが開かれ入室してきたのは、同期戦士の一党の一人、禿頭僧侶だった。

 

彼等も軽症を負っていた為、神殿の善意で治療と宿泊を施されていた。

 

「ああ、『火の時代』の後について、な……」

 

「『宵闇の時代』の事ですね」

 

「『宵闇の時代』?」

 

 初めて聞く名だった。

 

「そう言えば君は、東国出身だったな。聞かせてくれないか?知っている範囲で良い」

 

宵闇の時代について僧侶に尋ねてみる事にした。

 

 

 

彼曰く。

 

最初の火の炉でロンドール一派を退け『薪の王』となった灰が、火防女と共に『始まりの火』を消した。

 

その後は世界中が暗闇に包まれ、殆どの人々が亡者となるか、死に絶えるかのどちらかであったと言う。

 

僅かに生き残った人々は、散らばった『残り火』を必死に掻き集め、独自の火を形成し生き永らえた。

 

生き残る為『残り火』を求め、人々同士で奪い合い、国同士での戦争も起こった。

 

彼の国、東国でも各地の大名や領地を納める武将同士が、『残り火』を求め争い、戦国乱世に突入した。

 

乱世の最中、退魔士や陰陽師達が、必死に結界を強化しダークリングの呪いを辛うじて食い止め、真っ当な生者も極少数存在していた様だ。

 

正確には判明していないが、『宵闇の時代』は数百年続いたと言う。

 

 

 

生き延びる為に奪い合い、残り僅かな命を散らして行く、何と矛盾と皮肉が混在した哀しい時代なのか――。

 

「……色々有り難う」

 

「いえいえ、これ位で良ければ」

 

 僧侶は笑みを絶やさなかったが、火を消した事自体どう捉えているのだろう?

 

どの様な時代を歩んだにせよ、『残り火』を争い奪い合う要因を創ったのは、紛れもなく自分自身なのだ。

 

「……もしも……、もしもだ。……もしもこの場に、火を消した人物が居たら、君は……どうする――?」

 

 灰の真意が読み取れず、怪訝な表情を浮かべる禿頭僧侶。

 

「……返答に困る質問ですね」

 

 少しの間思案し、やがて口を開いた。

 

「仮にこの場に居たとしても、私は彼を攻める気も咎める気も毛頭ありませんよ。――そんな権利もありませんし。逆にその人が火を消したお陰で、今の世界と我々が存在しているのではないですか?」

 

 決して『宵闇の時代』が、人類にとって良き時代であったとは言い難い。

 

しかし広義的に観れば、『薪の王』が居たからこそ、現代がある。

 

少なくとも僧侶にとっては、恨む対象ではない。

 

彼はそう言っているのだ。

 

「『薪の王』に何か思い入れが――?」

 

「――?!あっ、いや!単純に気になっただけだ。済まないな、変な事を聞いて」

 

 疑問を浮かべた僧侶に慌てて取り繕った。

 

「……明日、正式に一党を解散します。片脚を失った彼を故郷へ送り届ける為に……」

 

 彼は鉱人の斧戦士を故郷に送り届ける為、一党を抜け出発する。

 

この部屋に訪れたのは、灰に別れの挨拶をする為でもあったのだ。

 

「……そうか、気を付けてな」

 

「ええ、生きて何処かで、また会いましょう!」

 

 そう言い、両者は握手を交わした。

 

「……宵闇の時代、か……」

 

 彼が部屋を去った後、再び机に向かい作業を再開した。

 

 

 

翌朝、禿頭僧侶は斧戦士に付き添い、神殿を後にした。

 

そして彼、同期戦士もギルドへ戻る為、神殿の正門で灰に別れの挨拶をしていた。

 

「悪いな、泊めて貰って」

 

「私じゃない。司祭長様の善意だ」

 

「ハハハ……、違いない。それじゃギルドに戻るよ。……何処までやれるか分からないけどな……」

 

 そう言い彼も、神殿を後にする。

 

負傷した少女野伏を頼む、そう言い残して。

 

神殿を去った同期戦士の貌には、未だ迷いと恐れが混在しているのを、灰は感じ取っていた。

 

「……あのままでは危険だ。彼にはあの娘が必要な筈だ」

 

 直ぐ様踵を返し、診療室へ向かう。

 

診療室では、既に彼女が目を覚ましていた。

 

傷は塞がり、体力も意識もハッキリしている。

 

だが額の傷跡は眉間まで、くっきりと残り、可憐な容姿と相まって異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「あの、大丈夫ですか?もう少し寝ていた方が……」

 

 幼い少女が心配そうに寄り添う。

 

「大丈夫、平気平気!あたしは仮にも冒険者だもん!この位で寝てられないって!」

 

 半森人の少女野伏は、心配後無用!と言わんばかりに、華奢な腕を捲くって力こぶを作って見せた。

 

その様子に”おおっ!”と目を見開く幼い少女。

 

「……貴方にしか出来ない事がある。頼まれてくれないか?」

 

 野伏に歩み寄り頼み事をする灰。

 

「うん!分かってるって!あの人の事でしょ?」

 

「ああ。彼には、貴方が必要だ!」

 

 どうやらこの少女野伏に関しては、何も心配要らない様だ。

 

細身で小柄な体格だが、精神面は打たれ強いのかも知れない。

 

数時間後、身なりを整えた彼女も神殿を後にする。

 

彼を追って――。

 

「……後は私自身の本来の任を果たさなくてはな」

 

 神殿内に戻った灰は、購買部である物に目が留まった。

 

「いらっしゃいませ、何かお求めですか?」

 

 購買部の若い女性聖職者が、対応する。

 

カウンターには水薬や聖水を始めとした、小道具類が陳列されている。

 

カウンターの横隅にポツンと置かれている、小さな金属物が二つ。

 

「あの、すいません。これを何処で――?」

 

 その金属物を指差し、質問する。

 

「ああ、それですか?実は――」

 

 彼女が言うには、先日遺跡探索から帰還した冒険者が持ち帰った物で、持ち合わせが少ないからと言って、半ば強引に治癒の水薬と引き換えに、それを置いて行ってしまったのだ。

 

「全く酷い話だと思いません?貴重な水薬と得体の知れないガラクタとを交換するなんて!」

 

 女性聖職者は、かなりご立腹だったが、灰はその金属物に釘付けで、殆ど耳に届いていなかった。

 

「……良ければ、金貨2枚で引き取りたいのだが?」

 

「え?!良いんですか?是非お願いします!」

 

 思わぬ提案に喜んでそれを差し出し、金貨2枚で買い取った。

 

「やったぁ、これで水薬の元が取れたぁ!」

 

 上機嫌な聖職者を余所に、灰はその小さな金属物二つを手に握り締める。

 

聖職者に”得体の知れないガラクタ”と言われた事が少々癇に障ったが、火継ぎの時代を知らない者にそれを言っても詮無き事である。

 

手に握り締めた2枚の金属物に、静かに心で語り掛けた。

 

――太陽万歳!

 

その後自分の依頼をこなす為、旅立つ準備を整える。

 

 

 

――太陽のメダルを二枚、懐に仕舞いながら――

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「食糧……一週間分だ」

 

「はい!承りましたぁ!」

 

 ギルドに併設された酒場で、旅に必要な携帯食を注文する鎧戦士。

 

彼にとっては食糧を買う以外、ろくに立ち寄った記憶がない。

 

辺りを見回すと、疎らな客の中に一人見覚えのある冒険者が一人。

 

だらだらと酒を煽り、つまみを口にする周りの客とは違い、殆ど酒を口にする事も無く、無言で俯く若い戦士の冒険者。

 

彼と同じ日に冒険者登録をした、同期戦士だった。

 

塞ぎ込んでいるのは彼にも分かった。

 

「いよぅ、なんだぁ!これから冒険かぁ?!」

 

 そんな空気をぶち壊し、対面の席に無遠慮に座る美丈夫が一人。

 

槍使いの青年だった。

 

ブロブや何やらで絡まれ、一人で騒いでは感情をコロコロ変える。

 

賑やかで騒々しく、疲労が蓄積した彼の頭にグワングワンと響く。

 

そして腰の雑嚢から覗かせていた『強壮の水薬』を目聡く指摘され、再びギャイのギャイのと絡まれた。

 

先程もギルドで、受付嬢から体調不良で小言を言われたところだ。

 

「ほ、ら、その、辺に、ね?」

 

 途中で仲裁に入って来た魔女。

 

「ごめ、んな、さ…いね。あ、とで、《粘糸》で、だま、らせる…か、ら」

 

「問題ない。……それよりアイツは――?」

 

 同期戦士の様子について魔女に尋ねる。

 

魔女の話しによれば、ロックイーターに壊滅させられ、一人は顔面を負傷して神殿にて治療中。

 

一人は片脚を食われ引退、もう一人はその一人を故郷に送る為に付き添う為、離脱。

 

結果一党は事実上解散。

 

「よ、く、ある・・・こ、とよ」

 

 魔女はつまらなさそうに、煙管で一服。

 

「よ、く、ある…事、で、しょ?」

 

「……そうか」

 

 その後魔女は、槍使いの襟首を引っ掴んで、酒場を去って行った。

 

「お待たせしましたぁ!」

 

 獣人の女給が注文した食糧を持って来る。

 

鎧戦士は、それを受け取り銀貨を数枚支払い、酒場を後にする。

 

酒場の扉に手を掛け、再び同期戦士に向き直る。

 

ふと彼と目が合った。

 

暫し視線が交差したが、彼は無言で外に出る。

 

取り残された同期戦士は、歯を食い縛り拳を震わせていた。

 

「俺のやるべき事は、こんな所で油を売る事か……?」

 

 ――違う筈だ!……俺の……やるべき事は……、成すべき事は――!

 

椅子から立ち上がり、料金だけを机に置き、彼は酒場を後にした。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「さて、積み込みはこれで良し!」

 

 火の無い灰は、荷馬車に必要な支援物資を全て積み込み、積み残しが無いかを確認する。

 

「抜かりは、ありませんね?出発出来ますよ!」

 

 何故か神殿の少女までついて来て、積み込みを手伝ってくれた。

 

「この手紙を寺院の院長先生に渡して下さい」

 

「承知した」

 

 男神官から『司祭長の手紙』を受け取り馬車に乗り込む。

 

彼が少女の護衛も兼ねてくれた為、神殿の外まで出る事を許可してくれたのだ。

 

「では行って来る!司祭長様に宜しく言っておいてくれ!」

 

「了解です!道中お気を付けて!」

 

「お兄さんに地母神様の加護があらん事を!またお話しましょうねぇ~!」

 

 街を出る荷馬車を男神官と少女は、手を振りながら見送った。

 

 

 

「――目的地は辺境の開拓村ですな?少し飛ばしますよ、はぁ!」

 

 荷馬車の御者は鞭を打ち、馬を走らせた。

 

――装備に抜かりは無し。

 

武器工房で修理の終わった装備を受け取り、荷台で丹念に確認作業に入る。

 

「……冒険者さん。料金を一人分余計に貰ってますが何故です?」

 

「もうすぐ、一人の冒険者と合流出来る筈だ。その人も乗せて頂きたい!」

 

 神殿から旅立つ前に、司祭長から聞いていた。

 

その開拓村では、日増しにゴブリンの被害が、増加傾向にあるのだと言う。

 

寺院の院長とは友人同士でもある為、何度か手紙のやり取りで近況を共有していた。

 

ゴブリン退治の件は、別の依頼としてギルドに提出し、他の冒険者が請け負った事も聞いた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

――失敗を糧に少しずつ変えていった。

 

背中の背嚢は、腰の雑嚢に――。

 

丸盾も小盾に代え、持ち手を振り払い、縁を金属の環で覆い――。

 

長剣をやめ、数打ちを刷り上げた、中途半端な長さの剣――。

 

冒険者に成り立ての頃に購入した防具は、ゴブリンや自分の血反吐ですっかり汚れ切った――。

 

古びた鉄兜も角が片方折れ、異様な見てくれに――。

 

新しく購入した、鎖帷子を鎧下に着込み、隠密性と防御の向上に――。

 

武器工房の店主が、戦士顔負けの逞しい爺さんに代わっていたのは、正直驚いたが問題ない。

 

――ゴブリンを殺し、ゴブリンを殺し、それからゴブリンを殺し――。

 

頭の中で何度も繰り返しながら、彼はある失敗に気付き舌打ちする。

 

「……馬車に乗るべきだったか……」

 

 街から目的地まで、徒歩では時間が掛かり過ぎる。

 

普段からゴブリン退治を何件も繰返してきた為、白磁等級にも関らず資金には余裕があった。

 

しかし、出立するのが遅かった。

 

考えても時間は待ってくれない。

 

彼は無言で歩を進める。

 

暫く進んでいると、後方から馬車が近づいて来た。

 

「おお、アンタだな冒険者さんは。乗ってくれぃ!」

 

 突如御者から声を掛けられ、戸惑う彼。

 

渡りに船だったが、馬車を頼んだ覚えはない。

 

「何故、俺を乗せる?」

 

 彼が質問すると、馬車の幌から灰が顔を出した。

 

「目的地は同じだ、事情は中で説明する」

 

「分かった」

 

 鎧戦士は素早く馬車に乗り込む。

 

……。

 

「成る程、言われてみればゴブリン退治の依頼主は、神殿の関係者だったな」

 

「ああ。私は司祭長様の依頼を請け、件の村に向かう途中だ。ゴブリン退治も兼ねてな」

 

「そう言う事なら助かる。味方は多いに越した事は無い」

 

「……君は少し寝た方が良い、疲労が蓄積しているだろう。外から見れば良く分かる」

 

 目的地まで、まだ時間が掛かる。

 

図星を突かれた鎧戦士は、言葉に甘え睡眠を取る事にした。

 

「……ゴブリンは感知出来るか?」

 

 楽な姿勢でダランとし、灰に尋ねてみる鎧戦士。

 

「ん――。やってみよう」

 

 意識を集中させ、『ソウルの感知』を行使し、気配を探る。

 

暫く沈黙が流れた後――。

 

「……いや駄目だった。距離が遠過ぎる」

 

 距離が離れ過ぎている上に、周りの獣や小動物のソウルが邪魔をして、上手く感知する事が出来なかった。

 

「そうか、ならいい。」

 

 そう言い、彼は寝息を立てて完全に寝入ってしまった。

 

大分馬車が揺れているにも拘らず、起きる気配がない。

 

余程無理をしているのが目に見えて分かった。

 

灰自身も、疲労が溜まっているのを看破され、受付嬢に怒られた経験がある為良く分かる。

 

自分も仮眠を取る事にしよう。

 

しかしソウルの感知で気になった事が一つある。

 

――微かに感じたソウル。太陽?……いや、例えるなら暁に似ていたな。

 

小さくも僅かに感じ取った、夜明けの太陽に似たソウル。

 

まだ、ほんのりとぼやけていたが、方角だけは正確に分かる。

 

……そう、これから向かう開拓村の方角だった。

 

――情報では何の変哲もない、小さな村らしいが、何があるというのだ?

 

 

 

その開拓村は、とある少女が住んでいる。

 

太陽の様な笑みを絶やさない、少女が。

 

この時の灰は予想すらしていなかった。

 

その開拓村には――。

 

 

 

 

 

          ――後の、導かれし勇者が存在する事実に――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

火の無い灰

 

 装備品

 

  頭:アイアンヘルム(改)

 

  体1:皮の胸当て

 

  体2:厚布の戦闘服

 

  腕:厚手の腕帯

 

  足:ハードレザーブーツ

 

 

 

  武器1:シミター

 

  武器2:ショートボウ

 

  盾1:スモールシールド

 

  盾2:タリスマン

 

 

 

所持品:  エスト瓶(10回)

 

      エストの灰瓶(5回)

 

      螺旋剣の破片

 

      遠眼鏡

 

      太陽のメダル×2

 

      基本セット

 

 

 

           スローイングナイフ×8

 

           緑化草×1

 

           不死狩りの護符×1

 

           帰還の骨片×5

 

 

 

 

 

火の無い灰

 

 素性:持たざる者

 

  ソウルレベル 30

 

   生命力・14

 

   集中力・13

 

   持久力・13

 

   体力 ・13

 

   筋力 ・13

 

   技量 ・15

 

   理力 ・12

 

   信仰 ・14

 

   運  ・12

 

技能

 

  奇跡、呪術の火、ソウルの魔術、カーサスの高速体術、ソウルの感知。

 

 

 

 

 

 




 如何だったでしょうか?

本来なら死ぬ筈の、『半森人の少女野伏』。

生存確定しました。

サイコロで決めても良かったのですが、折角の二次創作物ですから・・・・・・ねぇ。

そしてある意味クライマックスでもある、ロックイーター戦と開拓村のゴブリン戦。

そして後の『勇者』ちゃんとの邂逅、どうなる事やら?

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ( ゚∀゚)/

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