ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 お待たせして申し訳在りません。m(_ _;)m
大分日にちが空いてしまいましたが、投稿します。

フロムソフトウェアから『ELDEN RING(エルデンリング)』なる新作が出るそうで
とても楽しみです。
(いかんな、まだSEKIROも未プレイだというのに・・・・・・)

それでは投稿します。


第28話―鉱山の岩喰怪虫―

 

 

 

【黒火炎壷】

 

特殊な火薬により威力を増した「火炎壷」

敵に投げつけ、爆発して大きな炎ダメージを与える。

 

物理とは異なる炎属性のダメージは、

生身の肉体や獣など炎に焼かれ、恐れる敵に効果が高い。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「よ~し、良いか。敵は鉱山の奥に居る!故に、坑道の四方から攻め立て、追い込む!」

 

 輝く高価な鎧を纏い、細身の刺突剣を腰に提げている、髭を整えた貴族風の男。

 

首には銅の認識票を掛けた銅等級の冒険者が、50人以上の冒険者集団に采配を振るっていた。

 

依頼主の所有している金鉱山にロックイーターが住み着いた為、こうして多数の冒険者が討伐に参加しているのである。

 

参加資格の等級は特に定められておらず、白磁の新人から銅の実力者まで、実に多様な冒険者達が集った。

 

時刻は、午前真っ只中。

 

早朝からギルドを出発し多くの荷馬車が、この鉱山の入り口付近に殺到していた。

 

50人以上の冒険者、大雑把に数えても十以上の一党が参加している事になり、その様相は小規模な軍隊と言えよう。

 

「ハッ!随分小奇麗な銅等級様なこって!」

 

 采配を振るう銅等級の冒険者を見やりボヤク一人の若い男――。

 

「大方都で市街戦(シティアド)ばっかやってたんじゃねぇの?」

 

 槍使いの青年である。

 

とはいえ、銅等級の冒険者は、まだ良い方だ。

 

その動作一つ一つが、実践を潜り抜けた証が滲み出ている。

 

実際足捌きも悪くない。

 

金や権力で冒険者の等級は手に入らない。

 

裏打ちされた実力、そして人格や信頼を勝ち取らなければ、昇給は認められないのだ。

 

「……怪物退治、出来んのかね?」

 

 グルリと周りを見渡せば、目に付くのは白磁や黒曜の新人ばかり。

 

占める割合は、全体の7割に昇った。

 

その新人の殆どは、ゴブリン退治よりも格好がつくからと、初仕事に此方を選んだ連中だ。

 

目が浮ついている者や、異性を口説く者まで居る始末……。

 

それを言ってしまえば、槍使い自身も白磁の新人であり、人の事を言える立場ではない。

 

しかし彼を含め、見知った顔の連中は新人とは言え、幾度も実戦を潜り抜けた者達だ。

 

あの規格外の難易度を誇る、『ロスリック』の調査を生き残ったのである。

 

同じ新人でも、経験と実力は雲泥の差があり、その表情にも緊張感と覚悟が表れている。

 

「……せめて油樽の一つや二つ用意して貰いたいもんだぜ。ブロブも居るんだろ?」

 

 敵は、ロックイーターだけではない。

 

生ける粘液の固まり、ブロブも冒険者達とって脅威となるのだ。

 

「馬鹿野郎。こんな狭いとこで火なんぞ使ってみろ。全滅間違い無しだぞ!」

 

 そんな槍使いの肩を叩いたのは、大剣を担いだ大柄の戦士、重戦士だった。

 

「それに依頼人は、鉱山の持ち主だ。下手に焼け焦げさせられちゃ堪らんのさ!」

 

「だからって、こうも雁首並べてゾロゾロと行くモンかね?」

 

「一人二人の探索行じゃないんだ。……周り見とけよ。他の誰かが助けてくれるかも知れん」

 

「流石、一党の頭目を勤めてる奴は、言う事が違うね」

 

”茶化すなよ”そう言った重戦士は、自分の一党の方へ向き直った。

 

そこでは、半森人の軽戦士が年少組の面倒を見ていたり、女騎士が装備の手順を間違えたりと、多少のトラブルに見舞われていたが。

 

その傍らでは、黙々と装備の手入れに着手する二人組……。

 

若い同期戦士と半森人の少女野伏が居た。

 

「よう、そっちはどうだ?行けるか?」

 

 重戦士は、彼等二人組にも声を掛ける。

 

「うん!大丈夫だよ」

 

「ああ、やれるさ。借りはキッチリと返す!」

 

 決意に満ちる同期戦士と少女野伏。

 

回りの見知らぬ新人達とは違い、装備の手入れも準備も手馴れたものだ。

 

思えば彼等もロスリックの生き残り組である。

 

……その人数を二人ほど減らしてしまったが――。

 

「あれから何度か、冒険してたみたいだな」

 

「ああ。小さな遺跡探索とか、一応ゴブリン退治とかも……な」

 

「ゴブリン退治か」

 

 重戦士の一党も、洞窟でのゴブリン退治を経験したが、嫌な思い出が蘇り顔を顰めた。

 

実は彼も、大剣を狭い洞窟で振り回し見事に壁に引っ掛け、散々な目に遭ったのである。

 

その事を女騎士にからかわれ、槍使いもその失敗談に食い付く。

 

「……そう言えば、ゴブリンと言えば『変なの』が見当たらないな」

 

 直ぐに話題を変え、矛先を逸らす重戦士。

 

「ああ。……大方、ゴブリン退治にでも行ってるんだろ」

 

 素っ気無く応え、新調した頭防具を身に着ける同期戦士。

 

その兜は、火の無い灰が利用していた『アイアンヘルム』と同じ品だった。

 

「……うん?その腰にぶら下げてるのは何だ?」

 

 腰の壷に目が行き、尋ねる重戦士。

 

「これか?『黒色火炎壷』だ」

 

 同期戦士の腰に提げられた、一つの小さな壷。

 

投擲する事で、油と可燃物を撒き散らし、広範囲に渡って燃焼させる『火炎壷』。

 

それに火の秘薬(火薬)を混ぜ、更に爆発させる投擲武器である。

 

一つにつき金貨2枚と、少々値段が張る為、予算の都合上一つしか購入出来なかったが……。

 

「灰の奴に教わったのさ。”これを口の中にぶち込んでやれ”ってな!」

 

 少し得意気な顔になり、腰のそれをトントンと指で突く。

 

「アイツか……」

 

 重戦士も思い浮かべる。

 

桁違いの難易度を誇る『ロスリックの高壁』で実質皆を導き、卓越した実力で全員生還を成し遂げさせた、最大の功労者。

 

「灰の野郎が居てくれりゃ、こんな大人数で行軍する必要も無かったろうぜ!」

 

 何時の間にか槍使いも、会話に参加していた。

 

20人、30人の、当てになるかどうかも怪しい見知らぬ新人よりも、火の無い灰一人居てくれた方が槍使いにとっては在り難かった。

 

此処に居ない事が悔やまれる。

 

「居ないのを気にしても仕方ないさ。俺達の出来る事を最大限に生かす。……そうだろ?」

 

 同期戦士は、全ての準備を終え、何時でも戦える状態だ。

 

「さっ!行こうぜ!俺達は先遣隊。役割を果たさないとなっ!」

 

 決意を秘め、入り口に向かって行く。

 

その背中を見やる槍使いと重戦士。

 

「……変わったな、アイツ」

 

「ああ。ロスリック前と後じゃ、まるで別人だ」

 

 ロスリック前の彼は、実力と自身が噛み合っていない何処か頼り無い存在だったが、今は明確な目的を持ち前に突き進む、頼もしい背中をしていた。

 

「それはそうよ。彼は、あたしの頭目だもん!」

 

 微笑みながら同期戦士の後に続く、少女野伏。

 

そう言えば彼女もロックイーターの攻撃で、顔面を酷くやられたにも拘らず何事も無かったかのように復帰している。

 

「俺達も負けてられねぇな」

 

「……だな!」

 

 重戦士と槍使いも、後に続いた。

 

重戦士を筆頭とした先遣隊が、坑道に侵入して行く中、本隊側で一つの些細な口論が発生していた。

 

「何故です?!何故僕を先遣隊に組み込んでくれないのですか?!」

 

 白と青を基調とした法衣に身を包み、金属で装飾された錫杖を手にしている聖職者。

 

辺境西のギルドに所属する、青玉等級の男神官が銅等級冒険者と揉めていたのだ。

 

「――何度も言った筈だ。貴殿は、数少ない優秀な神官だ。先遣隊で、消耗させる訳には行かぬよ」

 

「……くっ!了解……です……!」

 

 結局要求は受け入れられる事無く、大人しく引き下がるしかなかった。

 

「くそっ!命に軽いも重いもあるものかよ……!先遣隊の人達だって命はひとつしか無いんだぞ……!」

 

 ……せめて彼等の無事を祈ろう。

 

――いと慈悲深き地母神様。どうか彼等に大地の御加護があらん事を……。

 

男神官は、密かに天を仰ぎ静かに祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 複数の松明を頼りに暗い坑道の中を進んで行く先遣隊。

 

「……なるべく間隔を空け隊列を組め!助け合えるギリギリの距離を保つんだ。奴は地中からの奇襲を得意とする。下手に固まれば一網打尽にされかねんぞ!」

 

 隊列の戦闘を勤めるのは、軽装の斥侯だった。

 

「アンタ、かなり手馴れてるな」

 

 後に続く重戦士が、素直な感想を述べる。

 

自分の一党に所属する幼い少年斥侯と比べても、経験から裏付けられた知識や度胸は、彼とは一線を画していた。

 

「フッ、当然だ。俺は、鋼鉄等級の斥侯だからな。お前等、白磁の新人共と一緒にされちゃあ困るな」

 

 道理で、手慣れていた訳だ。

 

ある意味この男斥侯は、幼い少年斥侯の良い見本になるだろう。

 

「と、言う事は俺達より二つ上か」

 

 面白くも無さそうに、槍使いがボヤク。

 

「ここでは俺の指示に従ってもらうぞ。……と、待て!」

 

 唐突に脚を止め、地面を丹念に調べ上げる斥侯。

 

一見すると何の変哲も無い地面に、石ころが転がっているだけだが、彼には不自然に映っていたようだ。

 

これも経験の成せる技か。

 

どうやら彼は、相当優秀な斥侯らしい。

 

「――気をつけろ!来るぞぉ!!」

 

 斥侯は声を張り上げ、隊全員に警戒を呼び掛けた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 蝋燭の僅かな灯りが、無機質な石造りの空間を照らす。

 

そこは音も無く、冷たく生命の息吹さえ感じられない様な空間。

 

祈りを捧げている亡者の彫像が、至る所に点在している奇妙な部屋で二人の人物が向かい合っていた。

 

一人は、漆黒のドレスの下に強固な甲冑を身に纏い、顔には仮面を着け、東国式の剣『刀』を腰に吊るしている。

 

もう一人はドレスの人物に跪き、頭を垂れていた。

 

アストラの上級騎士の鎧一式を装着した騎士だ。

 

無機質な薄暗い空間でドレスの人物が口を開く。

 

「目的の人物には会えたのか?」

 

 低い声音だが、その声は若い女性の声だった。

 

「はい。けじめをつける事が出来ました」

 

 短く応え、頭を垂れる騎士も年若い女性の声。

 

二人とも若い女性だった。

 

「……そうか。貴公の我侭を聞いてやるのも当分は無いと思え。これからは、存分に働いて貰うぞ」

 

 ドレスの女性に対し”はい”と応え、深く平伏する騎士。

 

「宜しい。次の命が下るまで、貴公は待機せよ。アストラの……否、『ロンドールのアンリ』よ!」

 

「はい。ユリア様……」

 

 ドレスの女性は、『ロンドールのユリア』。

 

亡者と老人の国、『ロンドール』に属する者の一人。

 

『黒教会』と呼ばれる組織を立ち上げ、世界を闇と亡者の(真の人)の時代へと導く為に暗躍する三人の指導者の一人。

 

嘗て火継ぎの時代にて亡者の世界にするべく動いていたが、陰りゆく『始まりの火』の前で『薪の王』に挑み敗れ去った過去を持つ。

 

尤も彼女は不死人であるが故、何度倒されたところで蘇生し復活するだけなのだが。

 

だが彼女が復活した時には、既に『始まりの火』は消され世界は闇に包まれた。

 

幾らロンドールが『闇の時代』の到来を望もうとも、火が消えては意味を成さないのだ。

 

亡者の国ロンドールと言えど、存続する為には火の力が要る。

 

 

 

彼女は再び動き始める。

 

自らの望みを果たす為に。

 

「……薪の王……、とうとう不死人でさえ無くなったか……」

 

 アンリが去り、誰も居ない部屋で彼女は一人、天井を見上げ続ける。

 

彼女の言葉の真意は誰にも分からない……。

 

「……ああ、薪の王……」

 

 誰にも聞こえぬ声で、嘗て自分を倒した薪の王を思い浮かべる。

 

薪の王――。

 

 

 

       ――火の無い灰――

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「――それで、どうすんだよ?!」

 

 槍使いが、大声で叫ぶ。

 

金鉱山の坑道にて姿を現したロックイーター。

 

先頭を担当していた鋼鉄等級の斥侯が、一瞬で上半身を喰い千切られ絶命した。

 

皆戦闘体制を取り、魔女による『力矢(マジックアロー)』で牽制するものの、効果の程は薄かった。

 

地中から現れては突撃を仕掛け、直ぐに岩盤の中へと潜って行くロックイーター。

 

巨体に加え岩石の甲殻は硬く、突進速度も速い。

 

生半可な攻撃は通用せず、地面に潜られては手の出し様が無い。

 

更に脅威はロックイーターだけではない。

 

生ける粘液の塊、『ブロブ』も生息しているのだ。

 

ブロブに絡み付かれた獲物は、粘液に宿す強酸で溶かされながら喰われてゆく。

 

つい先程も、ロックイーターに気を取られ、一人の女弓使いがブロブに顔面を生きたまま溶かされ命を落としたばかりだ。

 

「このままじゃ、ジリ、貧ね」

 

 魔女の言う通りだ。

 

このまま長引けば、徐々に犠牲者ばかりが増え、最悪全滅の憂き目に遭う事も在り得る。

 

せめて、ロックイーターの来る場所さえ分かれば――。

 

皆が武器を構えながら歯軋りし、時間と緊張感ばかりが浪費していく。

 

実際は数分経ったかどうかだが、その数分が何時間にも感じ取れる位に、皆の神経を磨り減らしてゆく。

 

 

 

「……来る場所なら、分かるかも知れない」

 

 突如呟いたのは、数日前この鉱山でロックイーターに敗北し壊滅した一党の頭目、同期戦士だった。

 

「あの斥侯がやられた時も……、俺が狙われた時も……、奴は視覚では無く聴覚で俺達を襲って来るんだと思う」

 

 度重なるロックイーターの襲撃で、同期戦士のアイアンヘルムは岩石の破片を食らい、傷だらけになっていた。

 

「……正確には、音の発する振動を感知しているのでしょうね」

 

 半森人の軽戦士が補足説明を付け加えた。

 

「確かにそれを利用すれば、反撃の糸口を見出す事出来るかも知れませんが……――」

 

 彼の言葉そこで途切れる。

 

問題は誰が音を発し、囮役と成るかだ。

 

ロックイーターの脅威は、この場の全員が身を持って知った。

 

少しでも反応が遅れれば、即捕食されあの世行きとなるだろう。

 

全員足が竦み、萎縮してしまう。

 

一体誰がそんな自殺染みた真似をしたがるだろうか。

 

此処に要る全員が理由は様々だが、何らかの志や希望を抱いて冒険者となったのだ。

 

誰もが命は惜しい。

 

「囮か……、聖騎士志望の身としては賛同出来んな」

 

「俺はヤだよ!囮なんて!」

 

 重戦士の一党に所属している女騎士と少年斥侯達も皆と同様、萎縮してしまっている。

 

「上にはブロブも居る。のんびり戦っている暇は無いぞ!」

 

 重戦士の後方で戦っている白磁の男軽戦士も叫んだ。

 

こうしている間にも戦闘は続き、時間を追う毎に消耗していくのだ。

 

「……どうするんですか?」

 

 圃人の少女巫術士が重戦士に尋ねた。

 

鋼鉄等級の斥侯がやられた以上、実質皆を取り纏めるのは重戦士を置いて他には居なかった。

 

――くそったれっ!どうすりゃ良い!!

 

正直彼にもどうすれば良いか、皆目見当もつかなかった。

 

屈強で一党の頭目をやっていても、白磁の新人。

 

彼とて、この状況に恐怖を感じていたのだ。

 

「俺がやろう」

 

 前に歩み出たのは、同期戦士だった。

 

「よせ!死ぬ気か!」

 

「オイオイ!マジかよっ?!」

 

 重戦士と槍使いが止めに入る。

 

「駄目だよ?!そんな事しちゃ……!」

 

 半森人の少女野伏も思い止まらせようと続く。

 

だが同期戦士は耳を貸さず『アストラの直剣』を構え、坑道の天井を見据えた。

 

「俺に考えがある。矢を俺の上の天井に撃ってくれないか」

 

 彼は少女野伏に頼み込んだ。

 

「……死なないでよ?折角生き残ったんだから」

 

 涙目になりながらも、彼女は天井に矢を二発射った。

 

カツン、カツンと岩盤に矢が当たり、音を立てて落下していく。

 

「俺は此処だ!かかって来い、虫野郎!」

 

 大きく息を吸い込んだ同期戦士は、矢の当たった天井に向かって目一杯声を張り上げた。

 

地響きが坑道を揺らし始めた。

 

――奴が来る!

 

彼は天井に向かって、『アストラの直剣』を霞の構えで備えた。

 

「よぉし、腹減ってんだろ?今からイイモン食わせてやっからよ。俺だけを狙って来い!」

 

――タイミングは一瞬!少しでもしくじれば、オシマイだ!!

 

 

 

 

 

――こう構えて。……振り上げ!……そして……、突き上げる!!――

 

 

 

 

 

彼の脳裏を掠めゆく、一つの記憶。

 

それはロスリック高壁での出来事だった。

 

「戦技『振り上げ』は、相手の盾防御を崩す効果があり――。『かち上げ突き』は、強力な刺突技だ!」

 

 高壁の塔にて休憩中、彼は剣技を教わっていた。

 

『霞』と呼ばれる独特の構えから繰り出される、強力な戦技。

 

その戦技を会得してから、幾度と積極的に使用し錬度を高めていった。

 

 

 

「――灰の野郎なら!こう戦う筈だぁっ!!」

 

 同期戦士を喰らわんとするロックイーターの顎が、頭上から迫り来る。

 

大きく拡げた顎目掛けて、戦技『かち上げ突き』を繰り出す。

 

「いっぱぁぁつッ!!」

 

鋭い直剣の切っ先が、ロックイーターの顎内部にく深々と突き刺さった。

 

「GYOoooaaEEEEeeeee!!!」

 

 その瞬間、巨大で獰猛な岩石を纏った怪物は、悲鳴を上げ仰け反る。

 

――まだ浅い!

 

「もう一丁ッ!」

 

 力ずくで剣を引き抜き、続け様にもう一度『かち上げ突き』を見舞う。

 

『アストラの直剣』は、先程とは違う顎の内部に突き刺さった。

 

顎から内部の器官に届いているのだろうか?

 

ロックイーターは明らかに、苦痛にのた打ち回り暴れ狂う。

 

「も、もういい!離れろ!死んじまうぞぉ!!」

 

 重戦士が声を張り上げる!

 

顎に剣が刺さったまま暴れ狂うロックイーター。

 

しかし同期戦士はその剣の柄に、しがみ付いたままだった。

 

既に彼はロックイーターの口に中だったが、突き刺さったままの剣の影響だろうか――。

 

未だ口は閉じられておらず彼は捕食されていないが、このままでは危険な事に変わりは無い。

 

「もういっぱぁぁっつッッ!!」

 

 剣を引き抜き片手でロックイーターの牙を掴み、両足で牙を踏み付け揺れる体を支える。

 

そして不安定な体制のまま、更に顎を突き刺した。

 

「どうやら口を閉じられない様だな。お詫びに良いモン食わせてやるよ!!」

 

 ロックイーターの口は完全には閉じられないものの、彼の至る所に鋭い牙が食い込み出血している。

 

「仲間達の仇だ!受け取れぇ!!」

 

 彼は腰に吊るしてあった『黒色火炎壷』をロックイーターの口内奥深くに放り投げ、何とか脱出を果たす。

 

脱出する際、食い込んだ牙が彼の体を引き裂き、彼自身は満身創痍に陥っていた。

 

彼が地面に落ちると同時に、ロックイーターの内部からくぐもった鈍い爆発音が響く。

 

どうやら不発にはならず『黒色火炎壷』は、効果を発揮したらしい。

 

ロックイーターの胃袋付近で爆発した『黒色火炎壷』は、熱と破片を撒き散らし内部器官を滅茶苦茶に引き裂いた。

 

逃げ場の無い熱と衝撃は、ロックイーターの中を暴れ狂い胃は勿論、食道までも深刻なダメージを与える。

 

「ったく、無茶しやがって……!」

 

 重戦士が急いで駆け寄り、同期戦士を助け起こす。

 

「馬鹿だよっ!こんな事して……、死んじゃったら元も子もないんだよ!!」

 

 少女野伏が、怒り心頭で抗議の声を上げた。

 

目尻には涙も浮かんでいる。

 

「……すまん。……だがな、此処で死ぬ位だったら俺は、所詮それまでの男だと言う事だ」

 

 体中から血を流しながらも、彼はのた打ち回るロックイーターに警戒の視線を向ける。

 

「効いてる……のか?」

 

 後方で一人の冒険者が、ロックイーターを見る。

 

顎に剣を突き入れ、内部から爆発物を投げ入れたのだ。

 

効いていない筈はない。

 

「……それにしても、何だか急に冷え込んできたわ……」

 

 女性冒険者が二の腕を擦り、小刻みに震える。

 

「そう、言えば、少し、寒い、かも」

 

 魔女も寒さに凍え、同意する。

 

参加している女性冒険者は、比較的に肌を露出した装備者が多い様だ。

 

軽装の冒険者は皆、寒さを訴え出した。

 

「確かに急激な冷えっぷりは異常だけどよ、今は目の前のデカブツを退治するのが先だぜ!」

 

 槍使いの言う通り、ロックイーターは未だ絶命しておらず、のた打ちながらも健在だった。

 

前衛の冒険者達がロックイーターに向き直る中、突然坑道内に激しい振動が走る。

 

「な、何だ?まさか落盤の前触れか?」

 

「ロックイーターの仕業じゃねぇのか?!」

 

 重戦士や槍使いがバランスを保とうと屈み、様子を覗う。

 

揺れは、ますます強くなる一方だ。

 

「この揺れ方は、ちょっと不自然ですね。何か居るのかも」

 

 半森人の軽戦士が、ひび割れつつある天井を見据えて推測する。

 

「まさかロックイーターが複数居るとでも?!」

 

 女騎士が問い詰めるが、確証する術は無かった。

 

そうこうしている間にも揺れが増し、坑道内の天井が徐々に崩れ落ちる。

 

「不味いな!皆一旦下がるぞ!」

 

 重戦士の合図の下、皆がその場から退避する。

 

その刹那、天井の一部が崩れ落ち、多数の岩石や土砂が坑道内に降り注いだ。

 

距離を置かなければ巻き込まれていただろう。

 

岩石や土砂の巻き上げる土煙が、視界を遮り呼吸に支障をきたす。

 

多数の冒険者が土埃で咳き込む中、ロックイーターと別のナニカの咆哮が坑道内に響き渡る。

 

「……ゲホっ、ゴホっ!な、何が起こってやがる……?!」

 

 皆が咳き込み回復しきっていない視界の中、松明を照らしながらも現状を確認しようと辺りを見回す。

 

――どうやら全員無事みたいだな。

 

取りあえずメンバー達の無事を確認し、安堵する。

 

”ほら、治癒の水薬だよ。飲んで”確認の最中、同期戦士は少女野伏に付き添われ、水薬で傷を治療している。

 

彼の心配は無用だろう。

 

土煙が次第に薄れ視界が回復していくに従って、周囲からざわめきの声が上がり始める。

 

「おい、何なんだ?あのバケモノは?!」

 

 重戦士は見た。

 

冷気を纏った全身甲冑に身を包み、巨大な体躯と戦鎚を手に持ち、手負いのロックイーターと揉み合いになっている巨大な騎士を――。

 

ロックイーターは手負いながらも、巨大な騎士に噛み付き喰い尽そうとするが、巨大な騎士はモノともせずに力尽くで引き剥がし、ロックイーターを地面に叩き付けた。

 

そして透かさず手にした巨大な戦鎚で、ロックイーターの頭部を力任せに叩き付け、猛威を振るっていた岩石の怪物『岩喰怪虫(ロックイーター)』は、死んだ。

 

 

 

――呆気無く死んだ――。

 

 

 

剣や槍を叩き付けても、強固な岩の甲殻に阻まれ有効打を与えられず、地中に潜り奇襲を仕掛けて来るロックイーター。

 

あれだけ苦戦し腐心した怪物が、一瞬で物言わぬ骸と成り果てたのだ。

 

たったの一撃で……。

 

「一撃で……、ロックイーターを……」

 

 後方の女冒険者が戦慄し、他の冒険者達も余りに一瞬の出来事に唖然とする。

 

「何でだよ……?!……何でアイツがこんな所に居やがるんだ?!」

 

「アイツって、もしかして……――」

 

 重戦士や同期戦士の言葉を余所に此方へと向く、巨大な戦鎚の騎士。

 

「くそったれ!冗談じゃねぇぞ!!」

 

 槍使いも額に汗を滲ませ舌打ちする。

 

重戦士達には見覚えがあった。

 

巨大な体躯。

 

それを強固な甲冑で全身を覆い、冷気も追加で纏う。

 

大型の金属製の鎚。

 

忘れようが無い。

 

過去にロスリックで散々痛め付けられ、ボロボロに至るまで痛め付けられたのだ。

 

 

 

女騎士が叫ぶ。

 

 

 

「冷たい谷のボルド!!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

アストラの直剣

 

 亡国の名で呼ばれる上質の剣

 没落したアストラは、かつて貴族の国であった

 この武器はその名残、遺産であるのだろう

 

 戦技は「構え」

 構えからの通常攻撃で、盾受けを下から崩し

 強攻撃で踏み込みからのかち上げ突きと

 状況に応じ使い分けられる

 

 

 




 原作では、ロックイーター戦の時期は数日早いのですが、此処ではある理由の為
少々ズレが生じています。

実際ロックイーターとボルドがガチで戦ったら、どんな戦いに成るのやら。
原作や漫画を読む限り、ロックイーターも中々の強敵に思えるのは、私だけでしょうか?

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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