嬉しいです。私の様な拙い作品を呼んでいただいて、本当に有難うございます。
更なる精進を心掛け、少しでも皆様に楽しんでいただける作品にしたい所存です。
頑張ります。(*゚▽゚)ノ
・・・・・・背中が硬い何かに当たっている。
この感触、忘れもしない。
何度も何度も繰り返し、味わって来た感触。
火継ぎの使命を果たす度に、この硬く冷たい石で出来た無機質な棺の中で目を覚ましてきた。
・・・・・・ああ、またか。
まだ繰り返せというのか。
あの時、亡者と成り果ててまで火を消し、使命を全うしたというのに。
もういい、もう疲れた。
このまま、火が消えるまで何も考えず寝てしまおう。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
結局眠りに就くどころか、かえって意識が鮮明によりハッキリと冴え渡っていく。
それもその筈。
背中の感触が直に棺の床部分に触れている。
成る程冷たい訳だ。
その男、火の無い灰は棺の中である違和感を感じていた。
目覚める時、必ずといっていいほど頭を揺らさんとするばかりの
大音量で、鳴り響いていた火継ぎの鐘の音が聞こえて来ないのである。
火継ぎの鐘 それは最初の火が陰り、火を継ぐ為の薪と成る者が途絶えたという証。
つまり世界の終焉が近いという証拠である。
それが、全く聞こえて来ない。
・・・?おかしい・・・・・・。
灰は、当惑した。
棺の中は、全くの無音という訳では無い。
それどころか、聞き覚えの有る音が棺の蓋の隙間から僅かに漏れて来るのである。
更に蓋の隙間からは、うっすらと光まで漏れてきている。
考えても仕方が無い、起きない訳にはいかないか。
灰は、仕方なく棺の蓋を退かせ身を起こした。
何度も繰り返した動作だ、火を継ぎ周回させられる度に。
灰は、上半身だけ棺から身を起こしたが、その思考は一瞬で停止する。
「・・・・・・何だこれは?!」
灰は驚愕のあまり、つい口に出してしまう。
「何が起こったんだ?此処は、灰の墓所の・・・・・・はずだよな・・・?」
灰は、すっかり狼狽え起こした上半身のままキョロキョロと周りに目を配らせる。
間違いなく此処は灰の墓所である。
墓だらけの周囲。
積もり積もった灰。
見覚えの有る地・・・形?
地形を自分の記憶と照らし合わせた辺りから自信が無くなって来た。
地形は、確かに今までの記憶通りで間違いない。
だが問題は、そこではない。
墓の周りの木々が緑に力強く生い茂っているのである。
記憶違いでなければ、あの木々は既に枯れ灰色に朽ちかけていた筈だ。
まして葉や木の実をつける事など考えられない。
実際周りの木々だけでは無い。
地面も灰にこそ覆われているが、雑草が花が芽吹いている。
それも強い生命の息吹を感じさせる。
前の記憶でも植物の生息している地域はいくつもあった。
不死街。
生贄の森。
冷たい谷のイルシール、等。
だが、生命の力強さを感じる事は無かった。
ただの一度も。
本来死者を葬る為の墓所さえ、木々に鳥が舞い降り各々囀(さえず)っている。
上から差し込んで来る光、間違い無く陽光である。
これほど強い太陽の光を見たのは、何時以来だろうか?
決して強過ぎず、そして柔らかい陽光はそれだけで温かみと癒しを感じ取ることが出来た。
空を見上げる、眩しい陽光に思わず目を閉じる。
目蓋に僅かな鈍痛を覚えながらも、灰は空を見た。
青い空。
ひたすらに青い、吸い込まれそうな錯覚さえ覚える。
『古竜の頂』もこの様な青い空だったな。
灰は思い返す。
最初こそあの澄み切った空に感動を覚えていたが。
あまりに過酷な環境だった。
自分以外は、全て敵。
その殆どは、竜の眷属達。
中には、本物の竜も相手取った。
二度と御免被りたいものだ。
「ふぅ・・・」
灰は、棺から出た。
いつまでも感動して、過去に記憶を巡らせる訳にも行くまい。
先ずは、現状把握に努める事にした。
灰は自分自身を見つめる。
身体が亡者化していない。
完全に生者のそれである。
自分は、あの時亡者化した筈だ・・・それが何故?
そう疑問に思う内に在る事に気が付いた。
「ダークリングが無い?!」
灰は、胸元を擦り何度も確かめた。
だが、不死人特有の証であり不死の呪いの元凶でもある
ダークリングが現れてこないのだ。
何度も過酷な体験をしてきた灰も、こればかりはさすがに驚愕を禁じえない。
「まさか、不死の呪いから開放されたのか?」
灰は、ふと判断してしまう。
もしそうだとすれば、それは言葉では表現出来ない程に狂喜乱舞を通り過ぎ、発狂する位喜ばしい事である。
――・・・・・・いや、そう判断するのは少しばかり早計か。
灰は、溢れ出る感情を無理やり押さえ込む。
「・・・ふぅ」
少し深呼吸をし、気分を落ち着けた。
単純にダークリングの呪いが弱まっただけに過ぎない、その可能性も否定しきれない。
逸る気持ちを抑えて灰は、意識を自分の体内に向けて集中させる。
先ず、自身の身体能力《ソウルレベル》から確認する。
生命力・10
集中力・10
持久力・10
体力 ・10
筋力 ・10
技量 ・10
理力 ・10
信仰 ・10
運 ・10
・・・つまり、オール 10.
ソウルレベル・1 である。
・・・
・・・・・・
・・・・・・灰は、言葉を失い頭を抱えてしまった。
今の今迄積み重ねてきた苦難の結晶が、全て初期化されてしまったのだから無理も無い。
「はぁ・・・・・」
灰は、ため息を吐き次の作業、装備品所持品への確認に移る。
現在の装備品は、・・・言うまでも無く。
ほぼ全裸、正確には股間部に装備している
― 恥部隠し ―
これのみである。
自身の陰茎を隠す為だけのいわば下着以下の布切れの腰巻である。
「・・・・・・」
灰は、もはやため息すら出なかった。
武器である、木製のクラブ《棍棒》も 木の板を張り合わせた 木板の盾 すらない。
身を守る為の武器防具も無い状態だ。
・・・・・・!
もしかしたら、ソウルの中に収納してあるのかも知れない。
灰は、すぐさま意識を自分の中に在る イベントリ を覗き込むも。
・・・・・・出来ない。
灰は、何度も何度も複数回にわたって繰り返す。
だが・・・・・。
出来ないのである。
正確には、出来ないと言うよりも、認識出来ないと言った方が正しいか。
灰は、絶望感を噛み締め始めた。
探索途中で新たなアイテムを拾ってもソウルに変換し、取り出す、持ち運ぶ。
それら一連の行為が出来なくなってしまったのだ。
これは、非常に不味い状況に追いやられてしまった。
今や灰の所持品は、何一つ持ち合わせていない。
(恥部隠しは装備しているが)
灰の遠い記憶の中に在る、北の不死院に居た時とほぼ同様である。
いや、北の不死院の牢獄から脱出した時でさえ 直剣の柄 を装備していたぐらいだ。
おまけに不死者の宝と言われている エスト瓶 すら手元に無い。
そう彼は、文字通り ― 持たざる者 ― と成ってしまったのだ。
灰は、暫く俯き完全に思考停止に陥っていた。
その様は、実に立派な亡者そのものだった。
――コツン。
何気に動かした灰の爪先に何かが、当たった。
ふとその先に視線を向けると、そこには。
― エスト瓶 ― じゃないか!
― エストの灰瓶 ― もある!
灰はすかさず、それらを拾い上げる。
エスト瓶 とは、篝火の力を借りその火を瓶の中に詰め液体に変える特別な瓶である。
不死人の遺骨とソウルで燃え上がる火で出来た、その液体を飲めば
どんな傷も瞬時に癒し回復してしまう、正に不死人の宝。
一方 エストの灰瓶 は、篝火の火を冷たい熱に変え、その液体を飲めば
対象者の精神的疲労《RPGでいうところのMPに相当》をたちまち癒してしまう。
これも不死人、火の無い灰にとって必須の代物だ。
灰の表情は大きく綻び、頬を緩める。
今までのストレスを一気に吐き出すかの様に。
瓶の中身は空の状態だが、そんなことは些細な問題でしかない。
篝火さえ見付けてしまえば、エストは補給出来るのだから。
エスト瓶は、火の無い灰と供に在る。
いわば、自分の一部も同然。
エスト瓶の存在は、持たざる者となった彼に多大な希望を与えた。
ある事実を知るまでは。
出発しようと意気込む灰。
空のエスト瓶をソウルに変換しようとするも。
・・・・・・やはり出来ないのか。
何度も試すが、結果は変わらず。
ソウルに変換したアイテム類が、認識出来ないのだから
手に入れた新たなアイテムをソウルに変換し、収納する事も出来なくなっていても何ら不思議ではなかった。
いよいよ灰は、困窮してしまった。
今迄、呼吸するかの様に当たり前に出来ていた事が、まるで出来なくなったのだ。
「これは、本当に困ったな。う~む、う~~ん、う~ん・・・・・・」
腕組みをし、腰を落として座り込む。
それは、さながらタマネギの様な全身鎧に身を包み、陽気で豪快なカタリナの騎士、ジークバルトの様であった。
(灰本人は、自覚していなかったが)
ソウルに変換出来なければ、代案を模索するしかない。
いつまでも唸ってはいられない、時間を無駄に浪費するだけだ。
灰は、立ち上がり周囲を見渡す。
何か小道具を収納出来る物は、落ちていないだろうか?
そう都合良く道具袋やポーチの類が落ちているわけも無く。
自分の周りは、生い茂る樹木や雑草、石材で出来た名も知らぬ墓ばかり。
――・・・・・・作るか。
灰は直ぐに思考を切り替え、使えそうな素材を探す。
少しの探索の結果。
丈夫な植物の弦、大きめの木の葉、そして・・・・・・。
「何故亡者が倒れている?」
そこには戦闘で倒されたらしい亡者の遺体が転がっていた。
少々気は引けるが、四の五の言っていられない。
亡者の纏っているボロい布切れをも剥ぎ取った。
更に落ちている、尖った石を拾う。
金属製のナイフと比べ様も無いが、使い捨ての加工道具には成るだろう。
道具は、一通り揃えた。
灰は、集めた素材を尖った石で切断し加工して、即席の道具袋を作成した。
あまり丈夫では無く、激しい戦闘には耐える事は難しいだろう。
それでも、エスト瓶を両手に持って戦う様な事態は、避けたいのも事実。
無いよりは、ずっと良い。
念の為、エスト瓶には亡者の布切れと木の葉を緩衝材として覆い。
その外側に植物の弦を何重にも巻き付け万が一、瓶が割れてしまわわぬ様に加工した。
残った素材は、恥部隠しの補強に使った。
戦闘中、何らかの拍子に陰茎がはみ出てブラブラぶら下げながら戦いたくは無いのだ。
他には即席のサンダルと腕に巻くバンテージを作成する。
裸足は、ごつごつした岩肌で少々チクッと来る。
バンテージは、武器を入手した際の滑り止めとして。
良し!
取り敢えずの旅支度は完了した。
灰は、今度こそ出発を決意する。
とにかく篝火を目指しエストを補給せねば。
回復手段が有ると無いとでは、これからの旅路の難易度に、雲泥の差が生じるのだ。
灰は一歩踏み出そうとするも、歩みを止めた。
・・・・・・?!
・・・何か、来る?
灰は動きを止め、視線を前方へ見やる。
何かが、近づいて来る。
それも複数。
未だ姿は見えず、だがハッキリと感じ取れた。
ソウルの変換も収納も出来なくなった火の無い灰。
だが、ソウルの存在や流れを感知する能力は、そのまま残っていた。
寧ろ以前よりも、鋭敏に長距離を感知する事が出来ていた。
これは、大きな優位的要素である。
近づく何かが、敵にせよ味方にせよ、先に存在を感知してしまえば
その分有利に事を運べる。
対応の時間も確保できる。
――このソウル・・・墓所の亡者とは、違う流れだ。
灰は大きめの木に隠れ観察しながら、やり過ごす事にした。
過去の経験から、出会った者が味方であった試しが殆ど無い。
大抵、問答無用で襲い掛かって来る亡者。
闇霊の侵入者。
闇の勢力。
ダークレイス。
そして薪の王達。
たまに出会った極少数の、まともな者達。
だが彼らも自らの使命を果たした後、亡者化して襲い掛かるか消滅して命を全うするかのどちらかであった。
暫しの感傷に浸っていた灰は、意識を前方のソウルへ戻す。
ソウルの正体を視界に捕らえた。
――!!?
声は出さなかったが灰は、またも驚愕する。
――何だっ?あの異形の怪物は!?
灰は、息を呑み身を隠しながら複数の異形を観察する。
初めてお目に掛かる。
人間の子供程度の体躯。
薄気味悪い、緑色の体表。
悪意の篭った、下品極まりない醜悪な顔。
手には、粗末な刃こぼれしたナイフや棍棒を所持している。
そして、腰巻を身に着けた異形の怪物達。
――どうやら亡者とも違うようだが、どこと無くロスリックの奴隷達に酷似しているな。
灰は一瞬迷い身を乗り出そうかと思案したが、直ぐに思い直す。
どこからどう観ても友好的な輩には、見えなかったのだ。
「GOBURURURU!!」
「GYAGYABOOUU!」
灰には、解読不能な言語で会話らしきやり取りをしている。
仮に友好的、中立的な存在であったとしても、意思の疎通は困難だろう。
灰は観察を続行し、情報収集に努める。
そして複数の異形の群れから、一際大きな体躯をした異形が姿を見せる。
身長は、約2メートル前後。
筋肉もより膨張して発達している。
小型の異形よりも、明らかに戦闘力は高そうだ。
手に、何か担いでいる。
――あれは人?不死人か?
灰は、大型の異形が担いでいるのは人だと判った。
それも女性だ。
気絶しているのか、動く気配は無い。
装備を剥ぎ取られた後がある。
身体に付着する僅かな布切れがそれを物語っていた。
更に複数の傷跡、血痕。
そして担がれた女性の裸体の、足の付け根の跡からは
血と濁った体液が流れ出ていた。
――・・・・・・いや、まさかな?
灰は否定し頭(かぶり)を降る。
ふと異形達が足を止めた。
そして鼻で匂いを探るように、辺りを嗅ぎだす。
「GYA?GYAGAGA・・・・・・」
明らかに周囲に注意を向け始めた。
――私の存在に勘付いた?奴等、鼻が効くのか?!
灰は、内心焦った。
このままやり過ごすべきか、それとも大人しく出て行くべきか。
・・・・・・或いは・・・・・・。
灰は、拳に力を込める。
討って出るべきか!
灰の瞳に、暗い炎が宿る。
・・・・・・否、それは最終手段だ。
灰は思い直し、周囲の自然物と呼吸を合わせ、気配を同化させる。
なるべく自然体で。
心を平常にして。
物音を可能な限り消す。
自己流のやり方だがエストも無い今、極力戦闘は避けるべきだろう。
「GUuuu・・・・・・?」
気のせいか?
と言わんばかりに異形達が興味を失い、その場を後にした。
向かった先は
― 大食らいの結晶トカゲ ―
の住処である。
灰は、疑問を浮かべる。
「奴等、結晶トカゲに用でもあるのか?」
結晶トカゲ、小型の蟲の様な怪物で、倒すと武器の強化に必要な貴重な素材、貴石を落とす。
性格は、とても臆病で近寄っただけで直ぐに逃げ出し碌な攻撃手段も持たない。
だが成体に成長した、大食らいの結晶トカゲは、非常に獰猛でテリトリーに踏み込んだ者を容赦無く襲う。
攻撃手段も豊富で、巨体を生かした攻撃や魔力を含んだブレス攻撃を駆使してくる、戦闘力が桁違いに跳ね上がるのだ。
「まともにぶつかり合えば、あの異形共に勝ち目はまず無い」
もしかした、共存する術を持ち合わせているのかも知れない。
灰は、先程のやり過ごした異形達を頭の隅に追いやる。
それにあの女性が不死人で、火の無い灰なら死んだところで大した問題になるまい。
不死人は、死んだところで一定の場所で復活する。
精神性を代償に支払う事になるが、不必要に関るべきではない。
灰は、最初の篝火を目指し歩んで行く。
草木に覆われた狭い通路を抜け、篝火付近の崖に着いた灰は自分の持つ記憶とは、まるで違うその絶景に目を奪われた。
見覚えのある広大な岩山の山脈は、緑に覆われ生命の息吹を感じさせた。
山脈の麓に広がるのは、只々無限かと思わせる一面緑の広大な草原。
谷から吹き上げる優しい風は、灰の身体を心を優しく撫でる。
僅かに温かい風は、非常に心地良い。
青く澄み切った空に様々な形の雲、不思議と見惚れてしまう。
いっその事此処に留まってしまおうかと、そんな欲が芽生える程に灰の心は、満たされていた。
これ程の生命に溢れた光景を目に出来たのだ。
――太陽万歳!!
灰は心の中で叫び、両手を振り上げ大陽を賞賛した。
「いつか俺は、太陽の様にでっかく暑い男になりたいんだ!」
嘗て心を交わした、あの大陽を目指した騎士の様に。
――ソラール。
その騎士の名を思い返す灰。
忘れた事など片時も無かった。
「GOB?」
「GOBB?」
声のした方へ目を向けると、篝火とその近くに屯(たむろ)していた小型の異形が二体、此方に近づいて来る。
一人は、折れた直剣を。
一人は、クラブを装備している。
あまり友好的とは言えないが、灰は努めて穏やかな表情で語りかける。
先程の素晴らしい景観を堪能して、心が穏やかだったのだ。
柄にも無く。
「初めまして。私は火の無い灰、旅をしている者だ。良ければ君達の事を教えてくれないだろうか。何も知らなくてね」
なるべく、敵意が無い様に接する。
二体の異形は、顔を合わせ何やら喋っている。
そして、口元を吊り上げた。
少々醜悪な笑顔が気になるが。
もしかして此方の言葉が解るのか?
灰は少しばかり期待した。
意思の疎通が、対話が可能かも知れないと。
但し、それらは灰の一方的な価値観、判断基準であった。
それをこの二体の異形によって思い知らされる事になる。
――突如二体の異形が武器を振りかざし襲って来た!
「まっ、待て!」
灰を咄嗟に、攻撃をかわす。
「たのむ!やめてくれっ!無駄に争う気は無い!!」
尚も説得を続ける灰。
だが異形達は、攻撃を止める気配は無い。
続けて飛び掛ってくる異形達。
一人は、折れた直剣で跳躍しながら、灰の頭部目掛けて振り下ろすが
体躯が小さい為リーチが異様に短い。
跳躍力も弱い為その攻撃速度は、灰にとっては文字通り『止って見える』のである。
最小限の動きだけで上半身を横に逸らし難なくかわす。
間髪入れずにもう一人がクラブで横から殴りかかる。
正直遅い攻撃速度だ。
灰は、体の軸を僅かにずらし大振りのクラブを容易にかわす。
全く掠りもしない、ロスリックの奴隷の方が遥かに手強かった。
灰も薄々気付いていた。
先程浮かべた異形の笑みは、友好の善意ではなく見下し小馬鹿にした、悪意であったのだ。
異形達は、隙を伺い攻撃の手を緩めようとしない。
――異形の一人が距離を詰め灰に、のしかかろうとする。
「・・・残念だよ。私が、どうかしていた・・・・・・」
灰は無表情で、掌底打ちのカウンターで応えた。
「BUGYOee・・・!!?」
顔面に掌底の直撃を受けた異形は自身に何が起きたのかも理解できぬまま、吹き飛ばされ崖に墜ちて行った。
「GYOBABAbabbb・・・・・・」
残された異形は、明らかに動揺を顕にしている。
灰は、静かに警告した。
「その武器を置いて去れ!命は、助けてやる!」
灰は、異形を真正面から見据える。
そして何を思ったか、背を向けたのだ。
一瞬異形は戸惑ったが、直ぐにニタリと顔を歪ませた。
「GOBUAaaa!!」
無防備な灰の背中目掛けて跳躍する。
「・・・そうか」
灰は、異形の反応出来ない速度で、武器を叩き落とす
間髪入れずに蹴り上げ、全身を回転させ体重の乗った、後ろ回し蹴りで異形を崖の奈落に蹴り飛ばした。
「許せ、そして来世で生きろ」
この高さだ、助かりはしない。
絶命確定である。
程なくして、先程の倒した二体の異形から、ソウルが体内に流れ込んで来た。
灰は戦闘態勢を解くと、異形の使っていたクラブを拾い上げる。
何とも言えない、やるせなさを覚えながら灰は篝火に近寄り、手をかざす。
― BONFIRE LIT ―
先程まで弱々しく燻っていた火が、突如勢いを増し燃え上がる。
灰は、ゆっくりと腰を下ろし即席のポーチから、エスト瓶と灰瓶を取り出しエストの補給作業を開始する。
あの異形は、亡者などではない。
れっきとした、生者即ち定命の者達だ。
防衛の為とはいえ、私は命を奪った。
私は、間違いを犯したのだろうか?。
やり切れない気持ちを抱え、灰は篝火の温もりに身を委ねた。
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即席のポーチ
転生した火の無い灰お手製のポーチ。
植物の弦、大きめの木の葉、亡者の纏っていた布切れを
使い可能な限り丈夫に作成してあるが
激しい戦闘には長時間耐えられる保証は無い。
資金が出来れば、早急に正規品を買うべきだろう。
即席のバンテージ
転生した火の無い灰お手製のバンテージ。
亡者の布切れをベースに植物の葉や弦で加工してある。
精々手に持った武器の滑り止め程度にしかならず、防御効果は期待できない。
出来るだけ速めに、真っ当な防具に買い替えをお勧めする。
即席のサンダル
転生した火の無い灰お手製の足防具。
亡者の布切れと木の葉を何重にも靴底に張り合わせ可能な限り
足の裏を防御してくれるが、防具としては心許ない。
直ぐに破損してしまうだろう。
まともな靴に買い換えるべし。
補強型恥部隠し
従来の恥部隠しでは、公に出来ない物が隠し切れないと判断した為
転生した火の無い灰は、廃材を用いて隠しきれる様にした代物。
ボクサーブリーフに似た形をしている。ある程度の戦闘には耐えられる様だが
結局下着と何ら代わりは無い。
このような格好で公の場に出ない様に!
きっと人間性を疑われ、喪ってしまうだろうから。
火の無い灰
素性:持たざる者
ソウルレベル 1
生命力・10
集中力・10
持久力・10
体力 ・10
筋力 ・10
技量 ・10
理力 ・10
信仰 ・10
運 ・10
いかがだったでしょうか?
火の無い灰は、亡者状態から解除された為
感情が戻り、まともに喋れる様になっています。
只、この状態の彼はソウルレベルは、初期化。
他にも能力が制限されています。
それに伴い、戦闘力も大幅に減衰しています。
更に、少々間抜けさもアップしています。