34話の終盤より、時間が少し遡ります。
この話、ゴブスレさんに或る行動をさせたいが為だけに書いた様なモンです、灰!
ぶっちゃけ、後はオマケみたいなモノです。( ゚∀゚)ゝ
34話に組み込めなかった分を此処で組み込んでみました。
聖職の聖鈴
神の奇跡をなす聖鈴。
不死となった聖職者が与えられるもの。
戦技は「恵みの祈り」
左右どちらに装備していても有効な戦技。
一定時間、HPをごくゆっくりと回復する。
この時代では、聖鈴の本当の力を把握している物は少なく
『恵みの祈り』を知らない者達が、未だに数多く存在する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
廻る、廻る、世界は廻る。
強大な怪物を倒したからといって、物語が終わる訳では無い。
神殿にて傷の癒えた鎧戦士は、ギルドを出た。
彼自身は気付いていないが、先日の少女が初めて起こした、奇跡の影響だった。
先程ギルド内で、『昇級審査』の件で説明を受けていた彼。
彼自身の達成した依頼は、ゴブリン退治に限定されるが、それが積もりに積もって昇級のラインに迄、達したのである。
(密かに、『ボルド』『ダークゴブリン』戦も昇級の為の判断材料となっているのは、余談である)
これから、牧場へと帰路に着く道中での出来事だった。
そう呼ばれたのは、自分の事だとはすぐに気付かなかった。
街の日常と賑わい、初夏の日差しが辺りに降り注ぐ。
その呼び声に、ゆっくりと振り向いた。
「俺か?」
「お前以外に誰が居る?」
奇妙な渾名で呼び止めたのは、彼と同じ日に冒険者登録をした、同期戦士。
傍らには、半森人の少女野伏も居る。
「怪我はもう良いの?貴方も、随分やられていたよ」
少女野伏も声を掛けて来る。
「ああ、問題ない」
彼は何時も通りの口調で答えた。
最後の最後で、『ダークゴブリン』の思わぬ反撃に遭い、ダメージを負った。
その上で、気を失った灰を担ぎ、地母神の神殿にまで連れて行ったのだ。
負傷に加え連戦の疲労で、結局彼自身も倒れてしまった。
本来なら、数日の休養を余儀なくされる程の、消耗だった。
しかしどう言う訳か、彼の傷は綺麗に癒え全快とは行かずとも、体力も回復していたのである。
「こっちもだ。ま、お互い体が資本だからな。元気で何よりだ!」
肩を叩かれた彼は、ふと同期戦士の雑嚢に目をやる。
隙間からは、地図らしき紙が覗く。
「冒険か」
「ああ、下水道のネズミ退治だ!」
同期戦士は笑って答える。
「仲間を失い、一党は壊滅したけど。もう一度、一から出直しだ!小さな事を一つずつ、積み重ねていく事にする!」
「あたし達二人で、そう決めたの」
被害も出たが、それなりの実績を積んできた彼等。
無論、彼等にも昇級審査の話が持ち上がっている。
にも拘らず、彼等は一からやり直す道を選んだのだった。
「お前や灰には、到底及ばなかったが。いつか必ず、自分を誇れる様な冒険者に成ってみせるぜ!」
決意を示す彼に鎧戦士はボンヤリと、酒場で塞ぎ込んでいた彼の様子を思い出す。
「・・・・・・そうか」
鎧戦士は短く答える。
しかし――。
「鉱山でのお前は、・・・・・・立派だった。誰が何と言おうと、お前は・・・・・・」
――誇り高き戦士だ――
「――っ・・・・・・!!」
余りに唐突だった。
普段、無愛想でぶっきらぼうな彼から、そんな言葉が出るとは――。
「・・・ばっ、馬鹿っ!灰みたいな台詞を言うじゃねぇっ!」
急にそっぽを向き、声を荒げる同期戦士。
心なしか、顔が紅い。
「フッ、確かにな。アイツの所為だ」
同期戦士と少女野伏は、信じられない様なものを見る目で、目の前の鎧戦士を見た。
――この人、ちゃんと笑えるんだ。
兜で表情は覗えないが、確かに彼が笑っているのを少女野伏は、感じ取った。
「何かあったら、呼びな!俺とお前は、同期の桜だ!」
彼の皮鎧に、軽く拳を突く。
「ああ。その時は頼む」
「おう!」
同期戦士は嬉しそうに微笑む。
「それで、お前はゴブリン退治か?」
「いや、帰る所だ」
「そうか」
ゆっくりと頭を振る彼に、同期戦士は頷いた。
そして彼は、歩き出す。
背中から同期戦士達の声が、彼に向けられた。
「また会おうぜ!小鬼を殺す者!」
――ゴブリンスレイヤー!!――
この言葉に鎧戦士、否、ゴブリンスレイヤーは、ある動作で返す。
――ジェスチャー『静かな意志』で――
これは、侍祭の少女が、初めて奇跡を行使した直後のお話。
△▼△▼△▼△▼
それから数日が経つ。
地母神神殿の礼拝堂は、元通りとなっていた。
緊急で運ばれて来た冒険者達は全て、治療を終え神殿を立ち去っていたのである。
一人の剣士を除いて。
彼から『ダークゴブリン討伐』の報を受けた後、ゴブリンスレイヤーを初めとする集団は引き上げていった。
部屋には、侍祭の少女と火の無い灰のみが残されていた。
灰の身を案じ、泣きじゃくっていた彼女は、落ち着きを取り戻す。
「お兄さん・・・・・・、ホントにもう大丈夫・・・?」
尚も心配そうに、此方を覗き込む彼女。
「ああ・・・、大丈夫・・・と言いたい所だが、まともに動く事すら出来ない・・・・・・参ったな・・・・・・」
普段の彼からは想像も着かないほどに、弱々しい声だった。
灰自身それ程饒舌でもなかったのだが、静かながらも佇まいは毅然としていた。
「あのっ!お兄さん?!」
何かを伝えようとする少女に首だけを動かし、視線を向ける灰。
「もう冒険者なんて辞めて、此処でアタシと暮らして下さい!」
「・・・・・・」
突然の告白。
流石の灰も、押し黙ってしまう。
「アタシ、一生懸命勉強して神官に成ります!だから・・・、お兄さんも・・・・・・――」
言葉足らずだが、彼女が何を言わんとしている事は、灰にもよく伝わっていた。
しかし――。
「・・・・・・残念だが、私には、果たし抜く、使命が、ある・・・・・・。申し訳、無い・・・・・・」
灰は懸命に言葉を搾り出し、本心を伝えた。
相手は年端もゆかぬ少女だが、下手な慰めは却って彼女を傷付ける要因となる、そう判断したのだ。
「・・・・・・」
灰の言葉に、少女は目に涙を溜め――。
「お兄さんの・・・、分からず屋ぁ!!」
目一杯叫んだ後、部屋を出て行ってしまった。
廊下を走る彼女の足音が、次第に遠くなる。
――スマン・・・・・・、そして、有り難う・・・・・・。
心の中で謝罪と感謝を述べた。
そして入れ替わる様に部屋に入って来た、一人の聖職者。
「・・・・・・貴方は・・・・・・?」
「此処の神官達を束ねる者です、灰の方」
深い一礼で応える、若い女性の聖職者。
彼女は、この神殿の『神官長』を勤める女性だった。
「余り御気になさらず。あの子は一途な反面、少々思い込みの激しい所がありますので・・・・・・」
「・・・・・・ええ、存じています・・・・・・」
灰なりに、あの少女の事は理解しているつもりだったが、そう簡単に此方の事情を理解してくれる事は、厳しいだろう。
「神官長殿・・・・・・、一つ頼まれてくれませんか・・・・・・」
「何でしょう?」
灰は、神官長に或る物を持って来てくれるように頼み込んだ。
灰が頼んだ物、それは――。
『聖職の聖鈴』
「・・・・・・灰の方。貴方が、奇跡の使い手である事は私も存じていますが、その御体で使用なさるお積りですか?」
神官長も、流石に灰の身を案じる。
だが”心配ない、体に殆ど負担を強いる事が無い、やり方がある”と伝え、神官長に再度頼み込んだ。
彼女は若干、納得していない様だったが、”怪我が早く治る”と言う事を聞き、聖鈴を持って来る事にした。
彼女個人としても、早く傷を癒して神殿から去って貰いたかったのも、理由の一つだった。
決して、火の無い灰を嫌悪していた訳ではない。
彼の看護を巡り、若い女性信徒達が小競り合いを始めていたのだ。
この神殿には敬虔な信徒が大勢居る。
しかし、信仰に身を捧げる前に一人の女であるのも、また然り。
色恋沙汰に敏感な年齢で、自由時間には、そう言った話に華を咲かせるのも無理からぬが道理。
つい出会いを求め、神殿内の男性信徒に思慮を寄せるのも、そう珍しい事ではなかった。
時々、冒険者や外来の男性が、女性信徒を口説きに来る者も存在するが。
ましてや神殿と言う空間に、負傷した若く容姿に優れた男が運び込まれたのだ。
看病に託け、距離を縮めようとするのは、ある意味自然の流れと言えよう。
今の彼は、素顔を晒したままなのだから。
現に、最近神殿に戻って来た『男神官』を巡り、常日頃牽制し合う女性信徒が、日に日に増しつつある。
これ以上拗らされては、神殿の評価は無論、信仰そのものに悪影響が出るのも否定し切れなかった。
過去に司祭長が、灰に素顔を隠すよう促したのも納得がいく。
聖鈴を持って来た彼女は、それを灰に手渡す。
受け取った灰は、何とか体を起こし握った手に力を込める。
「・・・・・・恵みの祈り」
清い鈴の音が鳴り響き、灰の体を一瞬だが淡い聖光が包み込んだ。
「あの、今のは?」
神官長も目にした事が無い奇跡の行使に、思わず尋ねてしまう。
「戦技、恵みの祈り」
灰は、行使した戦技について軽く説明した。
奇跡の触媒となる『聖鈴』には、専用の特殊効果が備わっている。
使用条件さえ満たせば、信徒でなくとも使用する事が出来る。
静かに祈りを捧げる事で、癒しの光が使用者の傷をゆっくりと時間を掛けて、治癒する効果があった。
言わば、自然治癒の効果を得る事が出来るのである。
少ない集中力と負担で行使する事が出来、安全な場所で使えば長期間の探索も可能になる。
癒しの奇跡を行使出来ない者達にとっては、非常に有用な代物だ。
「このまま行けば、夕暮れ時には動ける位に回復するでしょう」
彼女にそう伝える。
「知りませんでした、聖鈴にそんな効果があったなんて・・・・・・」
驚きと感嘆の念を禁じ得ない、神官長。
「・・・・・・奇跡を行使出来るほどの聖職者なら、問題なく発動させる事が出来るでしょう。問題は、これを手放した途端、効果が切れてしまう事ですが」
灰は”もう暫くお借りします”と、一言断りを入れた。
「畏まりました。私はこの事を『司祭長様』に、報告して来ますね」
”ごゆっくり、養生なさいませ”とだけ伝え、彼女は退出する。
灰の予測通り夕刻には、歩ける程度に回復していた。
しかし、少女とは顔を合わせる事が出来なかった。
そして日も沈み、時刻は夜。
灰の部屋に尋ねて来たのは、神殿の最高指導者、司祭長だった。
灰は改まって、姿勢を正す。
「・・・・・・いいのですよ、楽になさって下さい」
司祭長は柔和な表情を崩さず、椅子に座る。
一体何事だろうか?
先刻の少女の件だろうか?
別段、問題を起こす様な事はしていない筈だ。
自然と力んでしまう灰。
「灰の方・・・・・・、実は、神殿内の結界に幾許かの乱れが生じているのです」
彼女は、神殿の結界について話してきた。
「・・・結界の乱れ、ですか?」
「ええ、誠に申し訳なかったのですが・・・・・・」
司祭長は布に包まれた、或る物を取り出し、彼の目の前に差し出す。
「これが乱れの正体。・・・・・・貴方の所有物ですね?」
灰に差し出したそれは、『法王の左眼』と呼ばれる指輪だった。
「・・・・・・はい」
只短くもはっきりと応えた。
「他人の荷物を勝手に探るなど、人として風上にも置けぬ真似をしてしまった事を、深くお詫び致します。・・・ですが・・・・・・」
自分の身勝手さを灰に詫びる司祭長。
しかし、結界の乱れが生じ、その原因を探るのも神殿を預かる聖職者として、責務を果たさなければならない。
「顔をお上げ下さい。全ては私の未熟さが招いた、不祥事。貴方様は何も間違ってはおりませぬ!」
腰掛けていた寝台を下り、灰は跪いた。
これには司祭長も驚いたが、灰は構わず『法王の左眼』について説明を始める。
『冷たい谷のイルシール』に存在した、『法王サリヴァーン』の事。
『サリヴァーン』は、外征騎士を使い『ロスリック』に攻め入った事。
外征騎士達に指輪を与え、理性持たぬ獣に変えてしまった事。
その中には、ロスリックの王族も含まれていた事。
『法王の左眼』と言う指輪は、絶大な力を与える代わりに、使用者の理性を剥ぎ取り獣性を開花させる、恐ろしい呪物である事。
そして自分には、それらの真相を暴き。サリヴァーンが世界に害悪をもたらすのなら、討つ必要がある事。
それらを簡潔にだが、彼女に伝えた。
「・・・・・・」
司祭長は目を閉じ、暫く沈黙していた。
「・・・・・・そうですか。彼の時代の残滓が、今この世界に流れ着いているのですね。そして、貴方に新たな使命が出来てしまった」
「・・・・・・」
今度は灰が沈黙したままだ。
「灰の方、この指輪を如何なさるお積りですか?」
「指輪の効果は、ある程度把握しております。ですが、私の知らない何かが隠されているかも知れません」
この指輪を更に調べ上げ、呪物以外の何物でもないなら、破壊もしくは封印する積もりであった。
混沌の勢力や邪教徒の類に渡れば、悪用される事は明白であり、売却するという選択肢は完全に除外される。
それを聞いた司祭長は、深く何度も頷く。
「貴方の意思が確認出来て安心しました。では、貴方が旅立つまでこれは、地下安置所に封印して置きましょう。厳重に――」
「はっ!お手数をお掛け致します!」
灰は深く頭を下げ、礼を述べる。
「幸い結界の乱れを感知しているのは、私を含めて極一部の者だけです。ご安心を――。・・・・・・では」
司祭長は一礼の後、部屋を退出した。
一人残された灰。
――鉱山で語り掛けて来た、ボルドのソウル。恐らくサリヴァーンが復活したのだろう。だが、彼の者は何を成そうというのか?この世界で。
火継ぎの時代でも、推し量る事が出来なかったサリヴァーンの真意。
この四方世界を支配しようとでも?
「再び挑む必要があるな。ロスリックに・・・・・・」
寝台に潜り込み、眼を閉じる。
やがて睡魔が彼を包み込み、そのまま夜を過ごした。
翌朝を迎え、神殿はいつもと変わらぬ様相を見せる。
朝の祈りを済ませ、各々が役割を果たしてゆく。
大量の冒険者が運び込まれた喧騒はすっかり消え失せ、神殿内は平穏な日々を取り戻していた。
寝台から身を起こし、洗面を済ます灰。
――あの子は来なかったな。
鏡に写る自分の顔を見つめ、ボンヤリとそんな事を考える。
多分、避けられているのだろう。
聖鈴の戦技『恵みの祈り』のお陰で、傷はほぼ完治した。
我ながら厚かましい申し出だが、もう一日だけ神殿の世話になろう。
そう考え、神官長にこの事を伝えるべく、彼女の私室に足を向けた。
その途中である光景が目に留まり、灰は足を止めた。
神殿内の一室で、男神官が神官長の前に跪き、錫杖を手渡していたのである。
何らかの儀式だろうか?
流石に式の途中で踏み込むのは、無礼千万と言うものだろう。
一連の式が終わるまで、待つ事にした。
程無くして、儀式が終了したのだろう、二人は緊張を解き楽な姿勢へと戻す。
灰はそれを見計らい、入室した。
彼は尋ねた。
”何をしていたのか”と。
どうやら男神官は、錫杖を返還していたとの事。
彼は、正式に冒険者として復帰する事を決意していた。
しかし、今日まで使っていた錫杖は、神殿の持ち物であり、本来は女性が使う為に調整された物だと言う。
故に、彼は錫杖を返還し、自前の触媒を用意する事にしたのである。
男神官は曰く。
「あの錫杖は、僕以上の使い手がきっと現れるでしょう。ですから、お返しする事に決めました」
彼はそう述べ、部屋を去った。
彼の背中を見送る灰。
優秀な彼の事だ、きっと色んな一党から勧誘を受けるだろう。
彼を見送った灰は、神官長に”後一日だけ世話になる”旨を伝えた。
彼女は快く承諾し、灰の旨を受け入れる事にした。
その後、得にする事も無く神殿の庭園に出た灰は、木のベンチに座り一人ボ~っとしていた。
”何か出来る事は無いか?”と、神官長に頼んでみたものの、”仮にも貴方は怪我人です”と、即答で却下されてしまったのだ。
只ボンヤリと何を考える訳でもなく、澄み切った青空を眺める灰。
庭園では、幼い子供達が楽しそうに遊んでいる。
灰は、ふと考え込んでしまった。
自分にも、あんな時期があったのだろうか?
いつ視たのかも思い出せないが、断片的に視た、あの夢――。
あの夢は、不死人と成る前の自分自身なのだろう。
何故今頃になり、あんな夢を視たのか定かではない。
しかし確実に言えるのは、目の前の子供達の様な、笑顔溢れる生活は送っていなかった様だ。
――労働奴隷・・・・・・、か。『持たざる者』の私らしい。
自嘲染みた、乾いた笑みだけが毀れる。
――今更こんな記憶。使命に邪魔なだけだ!・・・・・・クソッタレッ!
苦しい。
戦っている訳でも、旅をしている訳でも無いと言うのに――。
――考える事が、こうも苦しいとは・・・・・・。
原因は分かっていた。
あの少女の事である。
只、考えない様にしていただけなのだ。
だが、考えずにはいられなかった。
彼女の精一杯の心を、事実と言葉足らずの弁明だけで、突き返してしまった。
――もっと言い方があったろうに・・・・・・、馬鹿だ、俺は・・・・・・!
彼は怖かった。
これ以上、彼女との距離が離れて行ってしまうのでは無いかと言う事に、恐れを抱いてしまっていた。
――臆病で、弱い。・・・・・・これが本当の俺か。何と滑稽な。
人は繋がりを持つ。
何処に居ようと、何をしていようと。
否、人だけに非ず。
世界に存在し続ける限り、必ず何かと繋がり、在り続ける。
それは宿命だ。
何人たりとも、逃れ得る事は出来ない。
あの、火継ぎの時代でも、そうだった。
ロードランで、ドラングレイグで、ロスリックで――。
敵対する者、協力してくれる者、嫌悪する者、好意を寄せる者――。
結局、何かと繋がり続ける事、それは人も同じ。
彼自身もそうだ。
この世界に転移して、実に様々な人々と繋がりを持った。
その繋がりが――。
――世界を構築するのだ――
「火の陰った時代じゃないんだ。何時までも、らしくない!」
彼は立ち上がる。
「もう一度あの子に、本心を伝えよう!」
折を見て、少女に会う事に決めた。
――問題は、彼女が会ってくれればの話だが・・・・・・。
灰自身が決心したとて、肝心の彼女が避ける様であれば、意味が無い。
彼女が受け止めてくれれば良し、まだ避け続ける様であれば諦めるしかない。
だが、世界は残酷だ。
結局この日、彼女と顔を合わせる事は、叶わなかった。
△▼△▼△▼△▼
更に翌日。
灰は、神殿の入り口迄見送ってくれた面々に、礼を述べる。
「お世話に成りました。今迄有り難う御座います」
丁寧な一礼で、彼等に頭を下げた。
見送ってくれたのは、司祭長、神官長、男神官、そして侍祭の少女。
各々が彼に労いの言葉を掛ける。
そして・・・・・・。
「さぁ、貴方も・・・・・・」
神官長が、俯いたままの少女を促す。
躊躇いがちに、灰の方へと歩み出す少女。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
灰も少女も、押し黙ったままだった。
しかし、その沈黙を破り、灰が口を開く。
しゃがみ込み、彼女と同じ高さに目線を合わせながら。
「果たすべき使命が有る。故に、君と共に歩む事は出来ないんだ」
「・・・・・・」
少女は俯き、黙ったままだった。
「・・・・・・だが、いずれ。この街で家を買おうと思っている」
「!」
家を買うと言う灰の言葉に反応し、彼女は顔を上げた。
「この街に居を構えるという事だ。何時に成るかは分からないが、全ての使命と向き合い、全うした時。・・・・・・或いは――」
「おにぃ、さん・・・・・・」
灰の言葉に、彼女は漸く口を開いた。
「君のあの時の言葉、本当に嬉しかった。有り難う。とても誇らしい!」
その瞬間、少女は灰に抱き付いた。
そして泣きじゃくる。
目一杯に。
今度は灰も彼女の背に手を回し、ゆっくりと抱き締めた。
少女が落ち着いた頃、灰は神殿を去った。
その足で、武器工房に向かう為に。
しかし少女は何時もの愛らしい笑顔を取り戻し、灰の姿が見えなくなるまで見送り続ける。
後に神官として、冒険者として、『ゴブリンスレイヤー』や『灰の剣士』と道を共にするなど、誰が想像出来ようか。
本来なら、彼女は『火の無い灰』と出会う世界などは用意されていなかった。
とある複数の神々の介入により、発生した因果律の『イレギュラー』。
灰との出会いが、後の『女神官』と成る彼女に、どう影響を与えるのか?
それは、誰にも分からない。
廻る、廻る、世界は廻る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
錫杖
聖職者が持つ杖。
武器と言うよりも、身の証としての意味合いが強い。
その杖は、軽い金属製の棒に、碧い魔力石を嵌め込んだ代物。
本来は、女性の信徒用に誂えた代物であるらしい。
(当然男性用も存在する)
男神官の手から離れ、何れ誰かの手に渡り、日の目を見る事になるだろう。
ダークソウルの某MAD動画を見て、ゴブスレさんにこれやらしたらカッコいいんじゃね?( ゚ ω ゚ )
と言う、安易な発想で書いてしまったお話。
(異論は認めます)
これがやりたかっただけです、灰。
一応少女『後の女神官』と灰の交流をもっと「キャッキャウフフ」な展開にする予定だったのですが、いざ書いてみて「何じゃコリャ?!」状態。( ̄□ ̄;)!!
どうしてこうなった?
解せぬ・・・・・・。( ̄ー ̄)
これで、イヤーワン原作一巻の時間軸は終了です。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/