ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 オマケ編です。

遺跡のゴブリン退治後、ギルドに報告した直後のお話です。

ゴブリンに蹂躙された女性達、もしかしたらこんな事もあったんじゃないか?
そんな妄想の元に練り上げたお話です。

つまんなかったら、適当に無視しといて下さいな。( ゚∀゚)ゝ

では投稿します。


第35.5話―喪ったもの―

 

 

 

 

 

楔石の大欠片

 

 武器を強化する楔石の欠片。

 その中でも特に大きなもの。

 それは神の原盤から剥がれた薄片であるといわれ武器に刻むことでその武器を強化する。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 これは遺跡のゴブリン退治を済ませ、ギルドに帰還した時のお話。

 

日は既に沈み、夕闇の空が全体に広がる時間帯。

 

些か慌しいギルドだが、ゴブリンスレイヤーと灰は普段と変わりなく報告を済ます。

 

「衛兵が来れない?」

 

「はい。何でも、街の到る所で騒動が発生してて、その対応に追われているようです」

 

 灰の問いに、受付嬢は応える。

 

街の各所で、無頼の輩やゴロツキといった荒くれ者達が、揉め事を引き起こしているらしく、衛兵達はその対応で、此方にまで手が回らないとの事だ。

 

奥の別室で、待機させている被害者の女性達。

 

何も救出した被害者達を、衆目に晒す必要など無い。

 

今回のゴブリン退治で、ゴブリンによる被害を被った者達であった。

 

救出した被害者を神殿に連れて行くのは、治安維持や警察能力を持った衛兵達の仕事なのだが、当人達は来れないという。

 

となれば、ギルドで保護するか自分達が担当する他無い。

 

「では、私が彼女達に意思の確認を取ってきますね?」

 

 受付嬢が、別室へと消えていった。

 

待つこと数分、彼女が戻って来る。

 

彼女の話によれば、女性達は神殿行きを希望しているとの事だった。

 

「致し方あるまい、私達が連れて行こう。衛兵達も何時戻って来るか、分からないしな」

 

 灰が彼女達の護衛も兼ね、連れて行く事にした。

 

「分かりました。一応、気を付けて下さい。治安が悪化している様なので」

 

「承知した。多少人目には付くが、大通りを歩いて行く事にする」

 

 受付嬢の忠告を元に、なるべく大通りから神殿に向かうルートを選択した。

 

ゴブリンスレイヤーと共に被害者の女性達を引き連れ、ギルドを出た一行。

 

念の為、彼女達は最低限の治療が施され、支給品の平服を着せてある。

 

更に顔を周囲に晒さない為、布シーツを頭から覆った。

 

日は完全に沈み時刻は、夜となっていた。

 

だが、心なしか人通りが少ない気がする。

 

普段なら衛兵が巡回に当たっている為、街の住民達はこの時間でも安心して歩けるのだが、彼等が居ない事が原因なのだろうか。

 

冒険者とはいえ、身も心もゴブリンに踏みにじられた、若い女性達だ。

 

心無い輩が狙っていても、何ら不思議ではない。

 

消耗し切った彼女達に付け込み、何をしでかすか――。

 

だが、こういう時に限って、良からぬ騒動に巻き込まれるのは最早、世の常だろうか。

 

もうすぐ神殿に辿り着こうとした矢先、灰達の前に人相の悪い連中が立ちはだかる。

 

「・・・・・・ハァ・・・・・・」

 

 その様子に灰は、ゆっくりと左右に首を振った。

 

「へっへっへ・・・、お嬢さん達。どこ行くんだい?俺達が可愛がってやんよぉ!」

 

 舌なめずりしながら、女性達に近寄ろうする無頼漢達。

 

人数は5人。

 

「・・・・・・悪いが退いてくれないか。貴公等に出来る事は、何も無い」

 

 静かに、だがきっぱりと断りを入れる灰。

 

それを聞いた無頼漢の一人が、見る見る間に貌を紅潮させ激昂した。

 

「あぁ?何だてめぇ!殺すぞ、ゴルァッ!!」

 

「俺達ぁよぉっ!北の辺境じゃ銀等級と張れる位の冒険者なんだ!ナメッてッと潰すぞ!」

 

 

 

 ――北の辺境?此処では余り見掛けない顔だと思ったが、流れて来たのか。

 

 

 

無頼漢の言葉から、『北の辺境』と言う単語を聞き、連中が流れ者だと判断した。

 

彼等の首からは、白磁等級のプレートが垂れ下がっている。

 

口では、銀等級の実力と発言していたが、それが虚勢である事は明白だ。

 

銀等級は、在野最上位の等級。

 

実績、実力、社会的信頼、貢献、ありとあらゆる面で高い水準を要求される。

 

当然素行やモラル、人柄といった人間性も兼ね備えねばならない。

 

目の前の無頼漢は腕っ節に関しては、それなりの水準にあるだろう。

 

体格にも恵まれている様だ。

 

 

 

・・・・・・それだけの連中だが・・・・・・。

 

 

 

それらを差し引いても、素行や人柄の悪さ、品性といった面で不快を覚えたのは、灰やゴブリンスレイヤーだけでは無いだろう。

 

もし奴等が銀等級に比肩し得るなら、余程の問題を引き起こし昇進出来なかったか、北の辺境ギルドがそう言う連中の集まりなのか。

 

 

 

”もしくは、北のギルドで何かが起こり得たのか”

 

 

 

彼等を冒険者と観るには、些か無理がある。

 

「精々、悪党なら信じてやったがな」

 

 ゴブリンスレイヤーも、口を開いた。

 

流石の彼も、無頼漢の振る舞いは不快な事この上ないのだろう。

 

「へっへっへっ、おい!このボンクラ共やっちまおうぜ!」

 

「ああ同感だ。衛兵共が戻って来ない内にな!」

 

 

 

 無頼漢はヤル気だ!

 

 

 

――全く、何処の時代、世界でも、屑のやる事は皆同じと言うわけか。

 

 

 

余計な荒事は引き起こしたくなかったが、放置は出来ない。

 

仕方なく彼等も、臨戦態勢に移る。

 

――その時だった。

 

 

 

グシャァッ!

 

 

 

無頼漢の顔面が変形し、血飛沫を上げながら倒れ込んだ。

 

「ぉ・・・ま、え・・・ら、なん、かに・・・・・・」

 

 灰も彼も突然の出来事に驚き、声の主に向き直った。

 

「お前等・・・・・・、なんかに、お前らなんかに・・・・・・、私達の・・・・・・」

 

 声の主は被害者の一人だった。

 

「私達の・・・・・・!」

 

 どうやら彼女が、手にしたクラブで無頼漢の顔面を、叩き付けたのだ。

 

万が一を想定して、彼女達には最低限の護身用武器を持たせておいたのだ。

 

「私らの痛みが分かってたまるかぁっ!!」

 

 怒りの形相で、元来の美しい顔は歪みに歪み、無頼漢に飛び掛った。

 

いや、彼女達だけではない。

 

他の女性達も、武器を手に次々と無頼漢達に飛び掛って行く。

 

その光景に流石の灰と彼も、呆気に取られた。

 

彼女達は、無頼漢を叩き伏せ、血みどろの乱闘を繰り広げていく。

 

灰達と衛兵達に取り押さえられるまで――。

 

気が付いた時には、大通りは野次馬達が集まり大騒ぎとなっていた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

「・・・成る程、彼女達はゴブリンによって・・・・・・――」

 

 灰と彼は、駆け付けた衛兵の班長に事情を説明していた。

 

此方に絡んで来た無頼漢は、彼女達の怒りを一身に浴び、顔面が変形していた。

 

だが、此方が罪に問われる事は無く、正当防衛と見なされた様だ。

 

というにも、流れて来た無頼漢共は、指名手配されていた重犯罪人だという。

 

北の辺境ギルドで素行の悪さを咎められ昇進を断られた事が、事の発端の様だ。

 

更に性質の悪い事に、当時担当していた受付嬢を逆恨みし、集団で輪姦した挙句、行きつけの悪徳娼館に売り飛ばすという言語道断な事件が発生。

 

当然彼等は、重犯罪人として指名手配とされるが、彼等は逃亡。

 

ギルドと司法機関は、他の街や都市部にも注意喚起を促した。

(因みに被害を被った受付嬢は、同僚や義憤に駆られた冒険者達の活躍により、早急に娼館から助け出されている)

 

逃亡している間に仲間を集め、この街で娼館を経営しようとしていたらしい。

 

事前に情報を入手していた為、根付く前に検挙出来たのは幸いだった。

 

しかし、仲間の数が比較的多く当然抵抗にも遭った為、捕縛には時間を要した。

 

無頼漢共は、この街に流れ着く道中で、孤児や攫った幼い幼女等を娼婦として囲っていた様で、彼女達の保護にも人数を割く事となり、大通りの衛兵達も駆り出されたのである。

 

それらの事情を聞いた灰達は、”増員を検討してみては?”と、案を出す。

 

当然衛兵達も、それらの必要性を感じており、上申する積もりらしい。

 

「後は我々が処理致します。道中お気を付けて」

 

 衛兵達は、無頼漢達を連行しその場を去る。

 

灰達は、未だ涙を浮かべ立ち尽くす彼女達を引き連れ、神殿に向かうのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「灰の方、面会です」

 

 神殿の休憩室で休憩していた灰に、面会を求めて来る者が居た。

 

ゴブリンスレイヤーは神殿に着くなり、早々と牧場へ帰ってしまった為、今は火の無い灰一人だ。

 

部屋に入って来たのは、先ほどの4人の女性達だった。

 

「一体、何事か?」

 

 その顔ぶれに少々驚いたが、灰は話を聞く事にした。

 

「・・・・・・?!」

 

 彼女達の意外な言葉に、疑問符を浮かべた灰。

 

今の言葉が聞き間違いでなければ、彼女達は――。

 

 

 

     ――私達を抱いて下さい――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 彼は沈黙を保ち、彼女達も返事を待つ。

 

彼は長椅子から静かに立ち上がり、部屋の出口へと向かう。

 

そして――。

 

「他を当たってくれ」

 

 早々に部屋を出ようとドアノブに手を触れた瞬間――。

 

「待って・・・・・・、お願い・・・、です・・・・・・」

 

 彼女達の弱々しく、か細い声が、灰を引き留めようと懇願する。

 

彼女達はすすり泣いた。

 

「・・・・・・」

 

 仕方なく、元居た長椅子にまで戻り、再び座り直す。

 

彼女達は、多くを喪っていたのだ。

 

ゴブリン達によって。

 

尊厳を、希望を、夢を、目的を――。

 

そして、純潔を――。

 

それは灰にも理解出来た。

 

遺跡で虜囚となった彼女達は、皆一様に陰部から血を流していたからだ。

 

つまりはそう言う事であった。

 

何れは思慮を寄せる誰かに、捧げたかったであろう乙女の証。

 

その証を無残に踏み躙られたのだ。

 

ゴブリンによって。

 

その結果心の均衡を崩し、神殿と言う安全地帯に辿り着いた事で、歯止めが利かず自暴自棄となってしまい、今の様な状況に陥ってしまったのだろう。

 

「・・・・・・私達じゃ、駄目・・・・・・?」

 

 尚も涙ながらに媚びた視線で、関係を要求する彼女達。

 

これが普通の男なら、一も二もなく、むしゃぶりついただろう。

 

実際彼女達は、容姿に優れた美少女である事は、疑いようも無い。

 

今は泣き顔だが、どんな表情を浮かべていても、男の視線を集めるほどの容姿を持ち合わせているだろう。

 

それに加え体の方も豊満で、女性の特徴をこれでもかと主張している。

 

道中無頼漢共も、その豊満な体を目当てに迫って来たのだろう。

 

そんな彼女達が関係を要求しているにも関らず――。

 

「仮に私が、貴公等と関係したとする。・・・・・・その後貴公等は、どうしていたんだ?」

 

 灰は、先頭の彼女に問う。

 

「え・・・?・・・そ、それは・・・・・・」

 

 言葉に詰まり、彼女は視線を逸らす。

 

 

 

「――自害するつもりじゃなかったのか?」

 

 

 

 底冷えするかの様な灰の言葉。

 

「――・・・・・・?!!」

 

 その言葉に身を引き、たじろぐ彼女達。

 

「・・・・・・ま、いいさ。貴公等の命・・・・・・。決めるのは貴公等であって、私じゃない」

 

「・・・・・・」

 

 灰の言葉に彼女達は押し黙ってしまう。

 

「・・・ぁ、なた、なんかに・・・。貴方なんかに・・・・・・」

 

「アンタなんかに何が分かるのよぉっ!!」

 

「私らの苦しみなんかぁっ!!」

 

 押し黙っていた彼女が、目を見開き激昂した。

 

そして灰に掴み掛かり、ガクガクと激しく何度も揺らす。

 

灰は抵抗する事無く、身を任せた。

 

「痛かったの!」

 

 何度も揺らし――。

 

「熱かったよぉ!」

 

 力一杯に叫び――。

 

「悔しかったっ!」

 

 目を見開き、涙を垂れ流す――。

 

「辛かったん・・・・・・で・・・す・・・・・・」

 

 灰に感情の丈をぶつけ心のままに吐露するが、次第に言葉と腕の力が弱まっていく。

 

彼女は嗚咽を漏らし、とうとう崩れ落ちてしまった。

 

灰は彼女に視線を落としたまま、静かに口を開く。

 

「喪ったものの重み・・・・・・、少しだけ、ほんの少しだけだが・・・、私にも、分かる・・・・・・!」

 

「え・・・・・・?!」

 

 灰の言葉に彼女は思わず、彼を見上げた。

 

彼も多くを喪った。

 

あの時代で――。

 

何度も何度も、繰返し殺され、喪った。

 

記憶を、感情を、友を、理性を、名前を――。

 

最後は亡者となり――。

 

 

 

           ――果てた――

 

 

 

「だが、私よりも彼女達の方が、その重みを理解しているだろうな」

 

「・・・・・・彼女達・・・・・・?」

 

 灰の言葉にいまいち理解が追い付いていない彼女であったが、”後ろの扉を開けてみると良い”と促された。

 

灰の促すままに別の女性が扉を開けると、そこには・・・・・・。

 

「あ・・・・・・」

 

 扉の空けた先には、10人ほどの聖職者達が聞き耳を立てていたのである。

 

「その人達も今の貴公等と同じ、ゴブリンによって多くを喪った人達だ」

 

 バツが悪そうに俯く、聖職者達を余所に灰は言葉を続け、立ち上がる。

 

「何かを喪ったのは、貴公等・・・・・・君達だけじゃない」

 

 灰は、泣き崩れた彼女を立たせる。

 

「君は、無頼漢や私相手に感情をぶつける事が出来た」

 

 フード越しだが、灰は真正面から彼女を見据える。

 

「君の心は、何処かで立ち直る事を望んでいる。・・・・・・そうだな!」

 

 彼女の肩を掴み、強く語り掛けた。

 

「・・・・・・そ、それは・・・・・・その・・・」

 

 灰の語り掛けに戸惑う彼女だったが、彼は構わず続ける。

 

「時間が傷を癒す事もある。・・・・・・今は、ゆっくり休むと良い」

 

 彼女から手を離し、灰は出口へと足を向けた。

 

「君達は必ず、立ち直れる!」

 

 開いた扉の前で、もう一度彼女達に振り向く。

 

そして――。

 

 

 

――君達の火は、まだ陰っていないのだから――

 

 

 

その言葉を残し、灰は部屋を去る。

 

部屋には呆けた彼女達と、唖然としていた聖職者達が残された。

 

 

 

暗がりの神殿の庭園で、灰は一人階段に腰掛け、物思いに耽っていた。

 

被害を受けた女性達とのやり取り。

 

本当にあれで良かったのか?

 

別の解決策は無かったのか?

 

そんな思いばかりが、脳裏を過ぎる。

 

――こんな事なら、私も早々に退散しとけば良かった。

 

静かに頭を振る。

 

「此処に居られたのですね、灰の方」

 

 ふと背中から声を掛けられる。

 

近づいて来たのは、神殿の長『司祭長』だった。

 

「司祭長様。此度の騒動、誠に申し訳ありません!」

 

 改まった灰は、直立し姿勢を正した。

 

「楽になさい。貴方を攻めに来たのではありません」

 

 彼女は楽にするよう促し、灰の隣に腰掛けた。

 

暫しの無言が、夜の静寂に一層拍車を掛ける。

 

「やはり、気になっているのですね」

 

「はい・・・・・・」

 

 果たして、あの対応が最善だったのか。

 

気に病む位なら、最初から関らなければ良かった。

 

何故、早々に部屋を出ず、彼女達と向き合ってしまったのか。

 

自分の余計な一言で、却って彼女達を追い詰めてしまったのではないか。

 

「大した言葉も持ち合わせず、高い位から彼女達を見下す様な発言をしてしまいました。・・・・・・私は・・・、私は只・・・・・・」

 

 それ以上言葉が続かず、彼は口を噤んでしまう。

 

「貴方は何故、彼女達との関係を拒む事が出来たのですか?」

 

 司祭長が尋ねる。

 

正直彼女達は、非常に女の魅力に溢れていた。

 

それは灰自身も認めている。

 

これが灰ではなく、普通の冒険者や男性なら、快諾し即行為に及んでいただろう。

 

しかし火の無い灰は関係を拒み、尚且つ彼の持つ最大の言葉を搾り出し、彼女達を立ち直らせようとさえした。

 

司祭長には、それが不思議でならなかったのだ。

 

実は、彼女もその様子を遠目から覗っていたのだから。

 

彼女は尋ねる。

 

灰自身に、”性的欲求は存在しないのか”と。

 

正直に言ってしまえば、彼自身にも性欲は存在する。

 

いや、そう言った欲が蘇ったというべきだろうか。

 

嘗ての不死人時代は、肉体の成長も老いも完全に停滞し、食糧の摂取や睡眠も必要なくなる。

 

それに準じて、それらの生理的欲求も、非常に希薄となる。

 

だが、今の灰は不死人ではなく、完全な生者。

 

真っ当な只人だ。

 

不死人時代の反動なのか、生理的欲求も復活し、寧ろ常人よりも強い部類に入るだろう。

 

彼の精神性は大人のそれだが、肉体そのものは成長真っ只中の青年期なのだから。

 

普通なら、よく食し、よく学び、よく遊び、誰かと出会い交流を育んでいく。

 

そんな年齢なのだ。

 

にも拘らず、彼は魅惑的な彼女達の要求を跳ね除けた。

 

「・・・・・・彼女達のあの目・・・・・・」

 

 灰は、ポツリと呟く。

 

「彼女達のあの目・・・、亡者と同じでした」

 

 灰と関係を要求した彼女達の目は、生気の感じられない亡者そのものだった。

 

肉体は生者、心は完全な亡者。

 

嘗ての灰と真逆であった。

 

彼女達は、完全に心折れた死人同然の目をしていた。

 

灰自身がイヤというほど理解している。

 

心折れた者の末路を――。

 

灰が彼女達を拒んだ最大の理由が、それだったのだ。

(因みに性欲等は、篝火に触れる事で綺麗さっぱり吹き飛んでしまい、最低でも数日間は平静(賢者モード)でいられる)

 

そして灰自身、柄にも無く彼女達と向き合ってしまった。

 

その結果どう転ぶのかも分からず、灰はこうして物思いに耽っているのである。

 

彼女達がああなってしまったのは、自分の所為では?とさえ、考え始めていた。

 

「・・・・・・あのまま去るのが、最良の選択肢だったのかも知れません」

 

 どう折り合いを付けていいか分からず、本音を漏らす。

 

「・・・・・・お言葉を返しますが、それに向き合うのは貴方ではなく、彼女達ではないでしょうか」

 

 司祭長が文字通り言葉を返す。

 

元々こうなった事の発端は、彼女達の未熟さが招いた結末だ。

 

自分達の実力不足でゴブリン達に不覚を取り、挙句に多くを喪う結果となった。

 

その上で、灰とゴブリンスレイヤーが命を賭けて死地に飛び込み、彼女達を救出したばかりか、手にした財宝を被害者達の救済金に割り当てたのだ。

 

普通の冒険者なら、ここまではしない。

 

――故に、灰が背負い込む事では無いし、彼自身を攻める権利は誰にも無い。

 

「――問題は彼女達が、”どうするのか”ではなく。”どうしたいか”、なのではないでしょうか。・・・・・・私見ですが」

 

 こればかりは彼女達の領分。

 

本来灰が介入し、共に背負う義務は何処にも無いのである。

 

司祭長は、言葉を付け加えた。

 

「貴方は、よくやりました」

 

 ――と。

 

「・・・・・・司祭長様・・・・・・」

 

 灰は静かに頭を下げ、感謝の意を伝えた。

 

「・・・・・・もしも・・・・・・」

 

「もしも私が彼女達を受け入れ行為に及んでいたら、彼女達は本当に自害していたのでしょうか?」

 

 止せばいいものを、敢えて口にしてしまう灰。

 

「――・・・・・・かもしれないですし、違っていた可能性も否定出来ません。只一つだけ言えるのは・・・・・・」

 

 灰の言葉にも咎める事無く、受け止めた司祭長。

 

無表情だった彼女の表情は幾分崩れ、若干の笑みを浮かべ――。

 

「行為に及べば、彼女達と関り続ける義務が発生したでしょうね」

 

「――!!」

 

 司祭長の言葉に、背筋がゾクリと震え上がる。

 

確かにその通りだ。

 

もしあの時、彼女達を受け入れ関係を結べば、どう言う形であれ『赤の他人』ではなくなる可能性がある。

 

それに心が折れていた状態だ。

 

自害しないまでも、灰に依存し続ける可能性は極めて高いだろう。

 

いざ冷静に考察してみれば、人生を左右しかねない大きな分岐点ともいえた。

 

涼しい筈の夜の空気が一層ひんやりと感じたのは、気の所為だろうか。

 

「やっぱり部屋を早々に去るべきでした」

 

 冷や汗を搔きながら、それを拭う。

 

「まぁ、実際行為に及んでもらっても困るのですがね。仮にも神の御前たる神殿ですので」

 

「それはそうですよ!」

 

 司祭長の言葉に灰も反応する。

 

「灰の方、もし興味がおありでしたら、私の知り合いが経営する店に通われてはどうですか?お望みなら、紹介して差し上げますが?」

 

「い、いえ。お気遣いなく!」

 

 悪戯っぽく笑う司祭長に、灰は慌てて首を振った。

 

”なんて事を口走る人だ”そう思った灰だが、これは地母神の教義に反する背徳行為でもない。

 

例え一夜の限りとはいえ、そこに愛や恋愛感情が存在していれば、地母神は認めているのである。

 

尤も素顔を晒すだけで、女が寄って来るほどの美貌を持つ色男の灰。

 

彼が通おうものなら、そんな店でも一騒動起こる可能性も否定し切れないが――。

 

「ほっほっほ。気が向いたら、いつでも紹介状を書いて差し上げますよ。・・・・・・では私これにて――」

 

 ”余り遅くならない内に、お帰りなさい”と、言葉を付け加え彼女は神殿の中へと引き上げてしまった。

 

「・・・・・・」

 

 無言でそれを見送る灰。

 

彼の中にふとある考えが過ぎった。

 

「――まさか、あの人も・・・・・・」

 

――ゴブリンに・・・・・・!

 

良からぬ考えが浮かび、彼は即座にその考えを振り切る。

 

――これ以上は、あの人に対して無礼も甚だしい!・・・・・・よそう。

 

徐に立ち上がった彼は、静かに神殿を後にした。

 

 

 

夜の大通りは、治安が回復しつつあった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 それから一週間後。

 

 

 

傷が完治した、彼女達は『黒曜等級冒険者』として復帰した。

 

自分達の様な犠牲者を少しでも減らす為に――。

 

各地を転々と渡り歩き、ゴブリン退治を中心に活動する事になる。

 

その冒険で培った知識や戦術を、彼女達なりに集落の住人や新人達に伝授する活躍を見せる。

 

後に彼女達は、こう呼ばれる様になる。

 

 

 

          ――ゴブリンスイーパー――、と。

 

 

 

それは、また別のお話。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

粗製の貴石

 

 禊石が変質強化したという貴石。

 ロスリック兵士たちの武器を鍛えたという。

 武器の変質強化に使用され粗製の武器を作る。

 粗製の武器は扱いが簡単で武器そのものの攻撃力は高まるが能力補正は消失してしまう。

 

 

 

 

 

 




彼女達は原作や漫画版で、ゴブリン達にヤキゴテを当てられていた女性冒険者達です。
等級は勝手に決めさせてもらいました。
一人は、左足が欠損していたと思いますが、此処では存在しています。

私だったら、彼女達の要求に簡単に屈してしまうと思います。

5Pプレイをルパンダイブで。←サイテーだ!この作者。( ̄ω ̄;)

如何だったでしょうか?

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ( ゚∀゚)/

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