そしてお気に入り登録してくれた方々、本当に有難うございます。
感謝の念に絶えませぬ。
これからも、精進を続けていきます。
只、私にフロム脳はあまり期待しないで下さい。
篝火の温もりに身を委ねていた灰は、ある異変に気が付いた。
「この篝火、急速に弱まっていないか?」
常に篝火と共に旅をして来た灰にとって、その異変に見間違えるはずも無い。
篝火の炎は、急速に勢いを無くしていく。
灰は、すかさず手をかざし火の勢いを保とうとした。
消えてもらっては、困るのだ。
だがそんな努力も虚しく火は消えてしまった。
灰は篝火の燃えカスを調べ、原因を探ろうとした。
消えた篝火からは、燃え尽きていない遺骨が見つかった。
亡者の遺骨だ。
亡者でも不死人でもない人骨も混在していたが。
篝火は木材や枯れ草等を燃料とせず、不死人の遺骨とソウルを燃料として燃え上がる。
亡者は、不死人の終着点の一つだ。
恐らく亡者の骨では、燃料の役目を果たし切れなかったのだろう。
まだ確証は無いが、それが原因だとすれば、多少の説明が着く。
だが、亡者でも不死人でもない人骨は、どういう事なのか。
――まさか、生者の遺骨?
だとしたら、正真正銘の生きた人間が存在するのかも知れない。
「可能性はあるか」
幸い、エスト瓶の補給は完了している。
灰瓶も満タンに補給出来た。
だがこの先篝火が存在するとは限らない。
念の為、まだ燃え尽きていない亡者の遺骨だけを回収しておいた。
亡者の遺骨を回収している途中で、指に硬い金属物が触れる。
その金属物の正体は、灰の良く識る物だった。
― 螺旋剣の破片 ―
この道具を握り締め深く篝火を念じる事で、最後に立ち寄った篝火に転送する事が出来る道具である。
本来、篝火の発火剤は、螺旋の剣本体を使用する。
――とは言え、この欠片も元が螺旋の剣であるが故、弱いながらも発火財として機能したのだろう。
灰は、螺旋剣の破片も回収しておいた。
灰の脳裏にある疑問が生じる。
――この篝火、一体誰が起こしたのだ?
不死人の遺骨で燃やす筈の篝火に、亡者の遺骨が使われていた。
あの緑色の異形達が起こしたのか?
憶測の域は出ないが、長居し過ぎるのもどうか?
灰は再び歩み出す。
詳しい事は火防女か、クールラントのルドレスに聴けば良い。
火防女は、篝火を守り管理するのが役目であり、専門の知識を豊富に有しているだろう。
加えてクールラントのルドレスは、仮にも薪の王の一人。
博識であり、良識者だ。
古代の知識にも精通している。
二人共、火継ぎの祭祀場に居る筈だ。
灰は祭祀場を目指す。
道中、例の異形達が崖や物陰、死角を利用して奇襲を仕掛けて来た。
だが、灰は全て返り討ちにする。
そもそも、ソウルを感知出来るので、死角に隠れようが奇襲を掛けようが、関係無い。
予め解っているのであれば、迎撃は容易いのである。
更に動作も緩慢である為、対応する術は幾らでも存在する。
灰は異形との意思の疎通は、無駄と認識していた為、反撃に躊躇いは持たなかった。
灰は歩を進め、とある広場前の入り口に付近に着いた。
その入り口手前に、三体の異形が守りを固めている。
その内の一人・・・否、一匹はクロスボウを所持していた。
傍らに倒れている、亡者から奪ったのだろう。
灰は、この醜悪な異形に対しての対話は絶望的だと判断した為、一人から一匹へと認識を改めた。
命を奪う行為は、決して称賛されるものでは無い。
しかし殺意を向けてくる相手に、無抵抗を貫く事は、厳に慎まれるべきである。
灰は、標的を正面のクロスボウ所持者に定め、地を蹴る。
脚力が弱体化しているとは言え、敵側からすれば、十分過ぎる程の速度だ。
「――GIYee?!」
反応が遅れた異形は、苦し紛れにクロスボウのボルトを放つ。
しかし、ソウルの流れを感知できる灰にとっては、無意味に等しい。
攻撃する直前のタイミングまで読めるのだから。
尤も今の粗末な射撃では、ソウルの感知など無くても簡単に回避出来た。
灰は勢いを止める事無く、正面の異形に先程奪ったクラブを突き出し、顔面を押し潰す。
残る、二匹の異形が背後から迫り、折れた直剣を振りかざす。
灰は即座に反応し、正面の壁に跳躍しその壁を蹴る。
三角跳びの要領で背後の異形目掛けて、上からクラブを振り下ろした。
完全に意表を突かれた異形は、回避も防御も間に合わず、頭部を潰され鮮血を撒き散らしながら絶命した。
残された最後の一匹が背を向け退散する前に、灰は異形を蹴り上げクラブで追撃を加え、息の根を止めた。
戦闘後、残されたクロスボウを回収しようとしたが、戦闘の衝撃で破損しており使い物になりそうに無かった。
回収を諦め、灰は入り口を潜る。
先へ進んだ灰は、見覚えのある円形の広場に出た。
忘れもしない。
墓石で周りを覆われ、地面は水溜りで満たされており、消失する事の無いロウソクに火が灯っている。
何度も此処を訪れ、挑み、打ち倒されては、復活した。
身体に螺旋の剣が突き刺さったまま、長い期間眠り続けていた大柄の鎧の巨人。
―― 灰の審判者 グンダ ――
この広場で待ち構えていた、強大な敵。
大型の斧槍を自在に操り、高い防御を誇る金属製の全身鎧を身に纏った強敵。
更に追い詰められると、内包していた人の膿とやらが、暴走し更なる変異を遂げ、より凶悪になって襲ってきた。
苦戦の末漸く倒して、初めて火継ぎの祭祀場へと続く扉が開かれのだ。
審判の名に違わず火の無い灰が、散った薪の王達を王座に連れ戻すに相応しいか、選定するのが役目だ。
だが、それも過去の出来事。
グンダは、もはや存在していない。
グンダの広場に居るのは、何度も遭遇した醜悪な異形のみ。
中央には、一際大きな異形も佇んでいる。
先程、大食らいの結晶トカゲの住処に向っていた奴と同じ種類だ。
その周りには、14匹の小型の異形が待ち構えていた。
――まだいる!
灰は、意識を集中させた。
墓石に隠れている者。
数にして約15匹か。
中央にいるのも含め、延べ30は居る。
このまま敵の懐に飛び込めば、確実に囲まれ四方八方から攻撃を受けるのは、自明の理。
火の無い灰にとって数の暴力は、実に脅威である。
只の亡者でも囲まれれば、たちまち袋叩きにされ、数え切れない位の命を落としてきた。
敵の中央に飛び込むのは、無謀極まりない。
だが、異形達は仕掛けてくる様子が無い。
あくまで、自分の領域に引き込みたいのだろう。
このまま出方を窺っていても、先へ進めない。
「・・・・・・いいだろう!貴様らの策に乗ってやるっ!!」
灰は、不敵な笑みを浮かべ、あえて広場の中央に歩を進めた。
大型の異形の傍には、火が燃えている。
「篝火・・・・・・?いや、只の焚き火か」
燃えている火は、不死人の遺骨では無く、木材の薪だ。
いや、薪だけでは無い。
切断された人の腕や脚らしき物体が、燃やされている。
恐らく、男性の物だろう。
焚き火の周りには、ボロボロに拉(ひしゃ)げた武具、鮮血が飛び散っている。
「この異形共は、食人鬼か!?」
灰は、嫌悪感を顕にする。
自分自身とて決して、賛美される様な人生は歩めていない。
目的の為、火継ぎの使命を果たす為、協力者に剣を向けた事もあった。
別次元の不死人の世界に侵入して、残り火を奪った事もある。
だが、これ程まで敗者に対して、醜悪残忍な仕打ちはしなかった。
少なくとも灰は、敗者に対しても一礼で敬意を表していたのだから。
この瞬間を以って、灰の異形に対する罪悪感は、綺麗さっぱり消え失せた。
「・・・ん!?」
灰はある事に気付く。
既に門は開かれた状態だ。
――そう言う事か。
ならば、何も馬鹿正直に戦う必要は無い。
突破口を開きこの広場から脱出すれば良いだけの話だ。
灰は、多数の敵を前に武器を構える。
視界に入る敵だけでなく、隠れ奇襲を狙っている敵にも意識を向けた。
皮鎧を纏った冒険者は、目的の場所に到着した。
「此処が依頼の場所か、見張りは居ない様だな」
鎧の冒険者は、慎重に周りを警戒しながら、巨大な門に近づいて行く。
今のところ、ゴブリンは確認されなかった。
恐らく、門の向こう側に陣取っているのだろう。
彼にとって、洞窟以外のゴブリン退治は、初めての依頼であった。
今までとは違う戦法が、要求されるだろう。
ましてやこれだけ開けた場所なのだ、ゴブリンがどれだけ生息しているかも判らない。
それに、墓石だろうか?
身を隠すには、打って付けだ。
自分がゴブリンならこの地形を存分に活用する。
彼は警戒を怠らず、剣を抜く。
太陽が、頭上高く昇っている。
灯りは必要無さそうだが、勝手が違う分洞窟よりも進行速度が緩やかだ。
周囲の墓石を隈なく探索して回り、ゴブリンが居ない事を確認する。
漸く、門に辿り着くとある異変に気が付いた。
「GOBUU!」
「GYEAaaa!」
「GYOUAaaa!」
ゴブリン共の鳴き声だ。
聞き慣れたゴブリンの鳴き声を聞き、門を潜ろうとしたが咄嗟に身を隠した。
「誰か、戦っているのか?」
物陰から、顔だけ出して状況を確認しようとする。
どうやら半裸の男が、棍棒を片手に複数のゴブリンとホブゴブリンを相手に一人で戦っていたのである。
ホブゴブリンの足元には、焚き火が在る。
にんげんの四肢が焼かれていた。
先行した冒険者は、確か三人だったな。
一人は、死亡が確定。
一人は、現在戦闘中。
一人は、女性。
恐らく奮闘虚しく、連れ去られたのだろう。
ならやるべき事は、一つ。
あの冒険者と共闘し、ゴブリン共を殺す!
鎧の冒険者は、立ち上がり展開されている戦場に飛び込んだ。
― ゴブリン共は、皆殺しだ!! ―
灰の前方から3匹同時に、異形が襲い掛かる。
灰は、サイドステップで異形の一体に狙いを絞り側面から、クラブを叩き込む。
呆気なく絶命したと同時に灰の姿は無く、次の一体に間合いを詰め振り上げ攻撃で異形の顎を粉砕した。
だが灰は、それを確認する事も無く跳躍、高速体術で瞬時に詰め寄り、三体目を砕く。
しかし数は未だ多く、敵の攻勢が止む事は無い。
灰は迎撃では無く、攻撃の戦術に切り変えた。
敵が勢い付いているとは言え、集中力の散漫な奴が必ず居るものだ。
灰は、その固体を優先的に狙う。
複数体同時に襲い掛かって来た、異形の攻撃をロ-リングで回避し、いったん包囲から脱出する。
すぐさま灰は、意識が散漫している固体に狙いを付ける。
少し距離を取り、己の陣営が有利なのをいい事に、気を抜いている集団が居たのだ。
灰は全力疾走で、その集団目掛けて間合いを詰めた。
唐突な灰の行動の変化に反応し切れていない異形達は、灰のダッシュ攻撃に対応しきれず、一体が頭部を叩き潰され絶命した。
傍にいた異形達は、灰の攻撃後の隙を突き反撃する事も無く、狼狽えるばかり。
立て続けに振るった横薙ぎのクラブにより、更に複数の異形達が吹き飛び、血しぶきを撒き散らす。
これが、亡者なら灰の隙を確実に突き、反撃に出ていただろう。
灰は常に動き回り、異形達の的を絞らせない様に勤めていた。
動きを止める事が即、死に繋がるのだから。
「GOAA!!」
突如、静観していた大型の異形が咆哮を上げる。
その表情は、苛立ちが感じ取れた。
雄叫びを上げるや否や、墓石に隠れていた異形達が姿を現した。
その手には、粗末だが木製の弓が握られている。
既に矢を番えた状態で、何時でも打てる様に射撃体勢に入っていた。
ソウルの流れで存在を感知していた為、灰は落ち着いて回避体制に移行する。
一斉に矢が放たれたが、余りにいい加減な狙いで弾速も遅かった。
灰は、軽快な足捌きで軸をずらす。
20本近く放たれた矢は半分近くが外れ、残りの半分は灰が片手で全て叩き落とした。
粗末な小型の弓、ましてや子供程度の膂力では、大した張力も得られないのは当然か。
筋力に左右されにくい、機械式のクロスボウなら結果が違っていたかも知れないが。
とは言え、増援に加え飛び道具を所持しているとなると、戦況はますます不利に傾く。
「Gyeeaa!」
唐突に異形の断末魔が耳を打つ。
大型の異形の後方からだ。
灰を含め、異形達も声のした方角に視線を向ける。
そこには、鎧姿の男が異形の頭部に剣を突き立てていた。
全身を皮鎧で身を包み、ブロードソードやショートソードとも違う、中途半端な長さの剣。
小型のスモールシールド、安っぽい鉄兜、角が片方折れている。首には白いプレートを掛けていた。
刺した剣を引き抜き、異形達を見据える。
――何者だ?
灰は、鎧戦士のソウルを探りながら呼吸を整える。
少なくとも、侵入者でも闇霊でも無い。
侵入して来たのなら、特殊なオーラを纏った霊体で現れる。
恐らく私と同様に何らかの使命を帯びた、火の無い灰なのだろう。
敵意を此方には、向けていない。
ならこの正体不明の鎧戦士と、共闘も期待出来る。
刹那。
「そこの冒険者!先ずは、こいつ等を殲滅する!話は後だ!!」
突然の語り掛けに、少し面食らったが直ぐに承諾する。
「承知した!」
灰と鎧戦士の共闘が始まった。
後の、ゴブリンスレイヤーと灰の剣士との邂逅。
― 運命との遭遇である。 ―
いかがだったでしょうか?
遂にゴブスレさんと出会いました。
これから二人で共闘しながら、灰の墓所のゴブリンを殲滅して行きます。
火の無い灰の能力ですが、アイテムをソウルに変換、出し入れが出来ない代わりに
ソウルの感知が、今迄よりスキルアップした状態です。
ではマタ。(゚▽゚)ノ