ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 ど~もです。

かなり日にちが空いてしまいました。

モンハン・アイスボーンやらデモンエクスマキナやらに夢中になり、執筆そっちのけでプレイしていました。

特にデモンエクスマキナは、すごく良かったです。

何処となくアーマードコアを髣髴とさせるメカデザインに高速バトル、完全に虜となり
この作品の為だけにニンテンドースイッチを買ったようなものです。

フロムでも、アーマードコアの新作が出てほしいと心底願います。

さて、前置きが長くなってしまいましたが投稿します。


第36話―孤電の術士―

 

 

 

 

 

 

(スパーク)の指輪

 

 中央の宝石部分に揺らめく様に燃え上がる炎を有した指輪。

 途轍もなく強大な魔力を秘め、使用法を知る者には是が非でも手にしたい代物だった。

 秘めた力は、空間と世界を隔てる壁でさえ越えると伝えられている。

 

 指輪の真価が分からない者とっては、『何処でも呼吸が出来る』程度の価値しか無いらしい。

 

 知識と理を探求する一人の魔術師は、世界を越え次元を越え、果てに何を見出すのか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 屋敷とも小屋とも形容し難い、古びた家の中。

 

(スパーク)の指輪』を巡り、二人の男女が交渉らしきやり取りをしていた。

 

男は、ゴブリンスレイヤーと呼び――。

 

女は、孤電の術士と呼ぶ。

 

そんな二人の蚊帳の外に居た、火の無い灰。

 

彼等の交渉が終わるまで、暇潰しにと手元の本を適当に読み上げる。

 

 

 

――ソウルの魔術書?!

 

 

 

大まかに目を通しただけだが、その書物は彼のよく知る言語で綴られており、ソウルの魔術について記載されていた。

 

といっても、高度な魔術が記載されている訳ではなく、精々が『ソウルの矢』関連の類であったが。

 

――この時代にも、ソウルの魔術が伝わっているのだろうか?

 

この世界に来てから今日に到るまで、ソウルの魔術を使用した者は向こう側の住人達だけだった。

 

無論灰自身もソウルの魔術は行使出来る。

 

その際、触媒が必要不可欠となるが。

 

そもそも、この時代の住人はソウルについて、どれほどの理解を深めているのか。

 

今の今迄ソウルについて深い理解を示した者は、皆無だった。

 

灰が何気無く目を通す内に、二人の話は纏まった様だ。

 

「話は付いたのか?」

 

 灰の問いに彼は頷く。

 

「俺にとっては、何処でも呼吸出来る指輪に過ぎないが、彼女にとっては――」

 

「非常に有用という訳さ!」

 

 彼の言葉を途中で遮り、言葉を割り込ませて来た、孤電の術士。

 

「ゴブリン退治に役立つ物と引き換えに、指輪を譲る事にした」

 

 どうやら彼は、彼女に指輪を譲る気らしい。

 

その見返りに、ゴブリンに有効な品を譲って貰う、取引。

 

彼は、足の踏み場も無い様な部屋を通り過ぎ、出口へと向かう。

 

「俺は一足先にゴブリン退治へと向かう」

 

 そう言い残し家を出ようとした時、灰が声を掛けた。

 

「もし、資金に余裕があるのなら『火炎壷』の購入を検討してみると良い。あれもゴブリンに対して有効的な品だ!」

 

 灰の助言に、コクリとだけ頷き、早々と出て行ってしまい、残されたのは灰と孤電の魔術師だけとなった。

 

互いに言葉を発さず、無言の喧騒が二人の間に轟く。

 

――が、やがて灰の方から口を開いた。

 

「失礼した。私も鑑定を依頼したいのだが・・・・・・」

 

 もしかしたら先程の行動(不意に手を叩く)で、彼女に不快感を与えてしまったかも知れない。

 

最悪断られる事も、念頭に入れておいた方が良いだろう。

 

少々、自分の軽挙を噛み締める。

 

しかし、眼前の彼女は値踏みするかのような笑みで、此方を覗き込む。

 

「・・・・・・ああ、良いとも。何か珍しい物が見られると良いのだがね?」

 

 『(スパーク)灯の指輪』を手にした事で、彼女の心は高揚していたのだろう。

 

灰の備えは、杞憂だった様だ。

 

彼は、雑嚢から二つの品を彼女の前に置く。

 

先日遺跡の財宝から入手した水晶と、ボルドから手に入れた『法王の左眼』と呼ばれる指輪だった。

 

彼女の視線はもっぱら、『法王の左眼』に注がれている様に思えたのは、気の所為だろうか。

 

「おっと。先ずはこっちかな?」

 

 気が付いたかのように、水晶に視線を移した彼女は、手に取るでもなく一通り見回しただけで結論を出してしまった。

 

「これは、『魂石』と呼ばれる代物だね」

 

 表情を変えるでもなく、その水晶を見抜く。

 

「・・・・・・魂石?」

 

 聞き覚えの無い名前に、疑問を浮かべる灰に彼女が説明する。

 

『魂石』とは特殊な水晶を加工し、様々な魔力を溜め込む事が出来る、いわば器の様な物らしい。

 

普段は、付与の施された魔法の武具や魔道具の作成に、使用される。

 

また魔力を溜め込む事で、大規模な魔法の行使に必要な魔力を、肩代わりしてくれる使用法もある。

 

つまりは、魔力の入れ物、と言う訳だ。

 

「サイズとしては”大”位かな。それなりの値段で引き取れるけど・・・・・・?」

 

 今の所、特に使い道が思いつく事も無く、早々に引き取ってもらった方が有益かも知れない。

 

だが彼は敢えて質問する。

 

「ソウルも収納出来るのか?」

 

 灰の言葉に彼女は、途端に神妙な顔付きになる。

 

「・・・・・・君、・・・ソウルが理解出来るのかい?」

 

 メガネの奥から射抜く様な視線に晒され、先程の砕けた態度から想像も付かないほどに真剣な眼差しになる。

 

「・・・・・・ほんの少しだけ、な・・・・・・」

 

 その視線を避ける事もせず、真正面から彼女を見つめ返す。

 

「まぁ多分・・・、出来るんじゃないかなぁ?」

 

 返って来たのは、肯定とも否定とも解釈出来る様な、何とも曖昧な答え。

 

不明瞭な態度に灰の視線がフードの奥から若干険しくなる。

 

「おいおい?!。言っとくけど、はぐらかしたんじゃないぞ!」

 

 彼女は、慌てて弁明する。

 

「ソウルの秘術は、太古の時代から研究されているが、正直な所遅々と進んでいないのさ。私はソウルの知識を多少持ち合わせているが、とても扱い得るものじゃない!」

 

 人を喰ったかのような彼女が、慌てて弁明したのだ。

 

その言葉に噓は無いだろう。

 

「そうか、済まなかった。『魂石』とやらは、此方で色々試してみる事にする」

 

『魂石』を引き取って貰う事は、取り合えず後回しにした。

 

ずれたメガネの位置を戻し、椅子に深く座り直した彼女は灰を改めて見つめ返す。

 

「それにしても、変わった男だね君も。あのゴブリンスレイヤーと同じ位に――」

 

「さっきソウルの魔術書を見ていた・・・・・・いや、読んでいたね?君」

 

 彼女の淡い緑の瞳が、色を増したかのように鋭く輝く。

 

「・・・それが何か?」

 

 彼は、その行為に何ら疑念すら抱いていない。

 

「あれは難解な古代文字で記された魔術書なんだ。特別な教養のある人物か、余程の天才しか読む事すら出来ない書物なんだが・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・私は、読む事が出来ない側なんだ」

 

 

 

 低い声音で彼女が囁き、灰は”しまった”と、自らの行動を悔いた。

 

まさか、そう来るとは――。

 

「何者なんだい?君」

 

 彼女が距離を一層詰め、灰に迫った。

 

まるで獲物を見定めるかの様な孤電の術士。

 

その表情は穏やかではあるが、瞳孔は凝縮され『逃がすまい』といった、意思が込められているのが分かる。

 

密着せんばかりの距離で両者は、無言で見つめ合う。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 お互い一言も発する事無く、沈黙と静寂が古びた小屋に一層空気を張り詰めさせる。

 

「・・・・・・分かった、負けだ。腹の探り合いは不得手でね。」

 

 灰は両手を挙げ、降参の意を示す。

 

「だが、要求しているのは私なんだ。先に鑑定を済ませて頂けると助かるのだが?」

 

 水晶の事は理解出来たが、肝心の『法王の左眼』については全くの手付かずだ。

 

期待通りの成果を得られずとも、結果を知りたいのは灰自身であり、残りの指輪についての鑑定を彼女に促す。

 

「――?!・・・・・・っハハハ・・・・・・、そうだったね!失礼した、私とした事が・・・・・・!」

 

 急に毒気を抜かれたかのように、普段通りの陽気さを醸し出しながら彼女は『法王の左眼』を手に取り、意識を集中させた。

 

程無くして彼女から陽気さは完全に消え失せ、額や顔の到る所から汗が滲み出している。

 

彼女の吐息が徐々に荒くなり、何処と無く甘い林檎の香りが灰の鼻腔をくすぐった。

 

『法王の左眼』を掴む彼女の指に力が込められ、小刻みに震えているのが分かる。

 

無論灰はこの指輪の効果を、熟知しているつもりではあった。

 

しかし、あくまで灰自身の見解だ。

 

魔術に長け知識や理を追求し続ける彼女には、どう映るのだろうか。

 

もしかしたら、灰自身の知らない効果や使用法が見付かるのかも知れない。

 

そんな淡い期待を抱き、灰は鑑定を依頼したのである。

 

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

 一通りの検分を終えたのだろうか。

 

深い溜息を吐いた後、ローブの袖で流れ出る汗を丹念に拭い上げ、指輪を机の上に置いた。

 

彼女の呼吸は未だ荒く、逸る気持ちを抑え灰は彼女の答えを待つ。

 

「・・・・・・」

 

 呼吸が落ち着いた彼女は、無言で灰を見つめた。

 

だがその瞳は、以前とは明らかに違っていた。

 

彼女の目に幾許かの怯えが混ざっていたのだ。

 

その瞳は何処か焦点が定まっていない様にも見て取れる。

 

「・・・・・・大丈夫か?」

 

 灰は彼女を気遣う。

 

彼自身は鑑定の専門職ではない故、ここまでの消耗が伴うかどうかの判断は付きかねる。

 

しかし、彼女の消耗は尋常ではない事位は分かる。

 

実際体力や集中力も消耗しているだろう。

 

「ああ大丈夫だ。気にしないでくれ給えよ!」

 

 ずれたメガネを指で押し上げ、彼女の表情は陽気なものに戻った。

 

「時間を取らせてしまったね。では結果を報告しようか!・・・・・・まぁ君も座ると良い」

 

 灰に椅子を差し出し、着席を勧める孤電の術士。

 

せっかくだと、勧めるままに灰も椅子に腰掛け、答えを待つ。

 

さて、どう出てくるか――。

 

「『法王の左眼』だったかな、この指輪?」

 

 彼女は徐に語り始めた。

 

その答えは灰自身もよく知るもので、使用者に絶大な力を与える代わりに、獣染みた精神性に変貌させると言うものだった。

 

――予想通りか。・・・・・・いや、実際使わずとも見事に的中させたのだ、その腕前は見事と言う他ないだろう。

 

やはり灰自身知る以上の効果は無かったようだ。

 

「だが、正確に言えば・・・・・・!」

 

 灰がそう判断を下そうとした矢先、彼女の言葉が続いた。

 

「――?!」

 

 灰は思わず顔を上げ、彼女を見つめる。

 

”少し待っていてくれ給え”唐突に席を離れ、彼女は何やら道具を取り出しては机の上に並べ始めた。

 

机の上には、薬液の詰まったフラスコに小さなナイフと小さじが、並んでいる。

 

一体何を始めようと言うのか?

 

「少し、指輪を削らせてもらって構わないかな?」

 

『法王の左眼』は、彼女自身の持ち物ではない。

 

彼女は灰に許可を求めた。

 

”別に構わない”と許可を貰い、彼女は慎重に指輪の石部分をナイフで削り始めた。

 

「宝石ではなかったのか。ナイフで削れる程度の硬度だったとは・・・・・・」

 

 その様を目にした灰は、思わず言葉を発してしまう。

 

「ああ。宝石じゃないな、この石・・・・・・。明らかに人工物だ・・・・・・」

 

 そう応えながら彼女は、ゆっくりと『法王の左眼』を削り、その滓を小さじに落としていく。

 

黒色の粉末が一つまみ程溜まったところで、彼女は作業を終えた。

 

「まっ、この位で良いかな」

 

 その小さじを手に取った彼女は、薬液の詰まったフラスコに黒い粉末を流し込む。

 

「危ないから退ってくれ給え!」

 

 粉末を流し込んだ直後、彼女はその場から離れるように指示する。

 

既に彼女は距離を開け、灰もそれに従った。

 

時を同じくして、粉末が混入されたフラスコの薬液が何やら変化の兆しを見せ始める。

 

「始まるぞ!」

 

 彼女が言葉を発した瞬間、薬液が沸騰したかのように荒れ狂い、フラスコ内を激しく掻き乱す。

 

フラスコと言う狭い閉鎖された空間で、行き場の無い薬液は暴れ狂い、容赦無くフラスコを揺らした。

 

初めて目にする光景に、灰だけでなく孤電の術士も思わず息を呑む。

 

「――来るっ!」

 

 彼女の言葉と同時に、薬液が”パァンッ!”弾け飛び、ガラスで出来たフラスコごと粉砕してしまった。

 

弾け飛んだガラスの破片と薬液に思わず顔面を庇う、灰と彼女。

 

その現象に両者とも、只呆けるしかなかった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

「まっ、こう言う事さ」

 

 机に飛び散った破片と道具を片付け、二人は再び席に着いた。

 

「・・・・・・まさか『法王の左眼』に、こんな効果があったとは・・・・・・」

 

「途轍もなく危険な呪物だよ、それ――」

 

 彼女は、『法王の左眼』を指差す。

 

彼女の説明を要約するとこうなる。

 

 

 

『法王の左眼』は、精神や魔力に過剰な反応を見せ、それらを激しく奮い立たせる効果があるという。

 

指に嵌める事で、使用者の精神や魔力に過剰反応し、結果的に獣性を引き出すという形で効果を及ぼしていたのだろう。

 

それは生き物に限った事ではない。

 

例えば、魔力を含んだ物に反応させれば、忽ちそれを強制的に暴走させ、破壊する事も可能らしい。

 

つまりは、破壊兵器としての使用法もあるという事だ。

 

 

 

――外征騎士達が総じて獣の様になってしまったのは、破壊し尽くされた人間性の暴走、そういう事だったのか。

 

 

 

『法王の左眼』を手に取り、見つめる灰。

 

「本当に恐ろしいのは、そんな危険物を何個も作り出せる者が存在したという事実だね」

 

 彼女は、手土産にと購入した『林檎酒』を口に含む。

 

全くもってその通りだ。

 

『冷たい谷のボルド』や『冷たい踊り子』に限らず、イルシールの外征騎士達は複数存在していた。

 

その一体一体が、強大な戦闘力と攻撃性を秘め、奴等には散々苦労させられた苦い経験がある。

 

今更に思う。

 

 

 

             ――法王サリヴァーン恐るべし――

 

 

 

「本当に危険な代物さ。・・・・・・秘めた魔力だけなら、この『(スパーク)の指輪』にも匹敵するよ。・・・・・・そんなのが何個もゴロゴロしてるっていうんだから、世の中まだまだ不思議な事だらけだよ!」

 

 指に嵌めている『灯の指輪』を愛おし気に撫で、”クック”と笑う。

 

「残念だが、『法王の左眼』を差し上げる事は出来ない。完全に人の手に余る物だからな」

 

「要らないよ、そんな物騒な物!引き取ってくれと言われても、即お断りだ!」

 

 灰の忠告に即座に反応する彼女。

 

手をひらひらと振りながら、豪快に林檎酒を煽った。

 

もしも彼女が『法王の左眼』を求めていた場合の処置を思案していたが、彼女自身がきっぱりと拒絶してくれた。

 

もしかしたらイルシールの、あの世界の一端を垣間見たのかも知れない。

 

「有り難う、お陰で様々な収穫を得る事が出来た。それで、鑑定料は幾らになる・・・・・・?」

 

 灰は、鑑定して貰った報酬の件について話す。

 

ゴブリンスレイヤーの件は『灯の指輪』を譲る、と言う事で話は付いたが灰の場合は別件だ。

 

「・・・・・・もう分かってるんじゃないのかなぁ?ねぇ・・・・・・?」

 

 片目を閉じ、値踏みするかのように灰に迫る孤電の術士。

 

 

 

――苦手だ。こういう手合いは・・・・・・!

 

 

 

彼にとって男女に限らず、人を喰ったかの様な人物に深く関る事は、出来るだけ避けたかった。

 

腹の底を見透かされ、隅々まで入り込まれるかの様な感覚が、どうしても拭えなかったからだ。

 

「私等魔術や知識を探求する者は、押し並べて探究心旺盛で、理の深淵を求めるものさね!」

 

「・・・・・・深淵に飲まれ、その結果『人間性』を喪失しても、か?――」

 

 彼女の言葉に灰も反応し、知識を求める事に傾倒した挙句の果て、狂気に飲まれた者達を思い返していた。

 

そして目の前の彼女も例に漏れず、『神代の時代』よりも古い『宵闇の時代』、それよりも更に古き太古の時代『火継ぎの時代』を知りたがっていたのだ。

 

話すのは構わない。

 

相手が只の一般人なら、話した所で驚くか感心するかが精々関の山だろう。

 

しかし、目の前の彼女は違う。

 

魔術に長け、豊富な知識と駆け引きの上手さ、旺盛な探究心を備えている。

 

そういう側の人間だ。

 

下手に話せば、その真相を解明する為に手段を選ばず狂気に飲まれた結果、人に仇なす存在に成り果てる可能性も皆無ではない。

 

もしそうなれば、灰自身が引導を渡す必要も出てくるだろう。

 

このまま金だけを置いて、退散するべきか――。

 

そんな事を思案していた灰を知ってか知らずか彼女は。

 

「・・・私から言わせて貰えば、そんな奴は只の阿呆としか言い様が無いねぇ・・・・・・」

 

 頬杖をついた彼女は、さも、つまらなそうに答えた。

 

更に彼女は言葉を畳み掛ける。

 

「知や理の深淵なんてのは有って無い様なもんさ。仮に最果てを見つけたところで、それは一つの到達点に過ぎないのさ。たった一つの到達点に辿り着くが為に、大事な自我も心も放っぽり出してしまうってのかい?冗談じゃない!知識や理の到達点てのは、無限にあるんだ。狂気に飲まれ、自我を捨て去るような奴は、知識を追い求めたんじゃない!真理を解き明かす私達の使命を忘れ、欲に飲まれた自称知識人の唾棄すべき末路さっ!・・・・・・はっきり言って滑稽で憐憫の念しか・・・・・・、いや――!怒りすら覚えるよ!!」

 

 何時の間にか彼女は立ち上がり、感情の篭った目で言葉をまくしたてた。

 

篭められた感情は、憐れみか悲しみか、それとも怒りか。

 

誰に向けられた感情だろうか。

 

過去に彼女と交流があり、狂気に飲まれた人物が居たのかも知れない。

 

もしくは、彼女にそんな思いをさせてしまった灰に向けられたものだろうか。

 

或いはその両方か――。

 

荒い呼吸を繰返す彼女の目尻には、うっすらと涙すら浮かんでいる。

 

だが火の無い灰は、そんな彼女の言葉と思いを全て受け止め、僅かに微笑みで返した。

 

「貴方の本心が聞けて良かった!貴方になら全てを話す事も出来そうだ、少し・・・長くなるが――」

 

 灰はそう返し、嘗て辿って来た『火継ぎ』の時代を話そうとする。

 

「――?!ま、まぁ、そう焦りなさんなって」

 

 彼女は慌てて手で制す。

 

「折角面白そうな話が聞けるんだ。何もこんなジメジメした薄暗い小屋の中でなくとも、いいんじゃないかね?」

 

 ”薄暗い小屋の中でなく、折角だから何処か洒落た店でも如何か?”

 

彼女はそう提案しているのだ。

 

正直に言えば灰にとってその提案は、快諾出来難いものだった。

 

店の中で周囲の客の耳に入りその結果、灰自身動けなくなる様な事態は極力避けたいのである。

 

「だったら、私が良い店を紹介しようじゃないか!ちょっと高級店だが、君にとっても決して悪条件ではないと思うよ?」

 

 ”ワリカンでな”親指と人差し指で輪っかを作り、片目を閉じウィンクしながら提案する。

 

「そう言う事なら、頼めるか?」

 

 灰も彼女の案に乗る事にした。

 

「決まりだな!私は準備してくるから、君もそうし給えよ!」

 

 彼女は外出用の服装に着替えるようだ。

 

「では後でな」

 

 灰自身も一度宿に戻る事にする。

 

それなりに見栄えの良い服装に着替え、必要最小限の道具のみに所持品を絞り、所定の場所で待ち合わせる事にした。

 

流石にフードは外す事になる。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

街の噴水広場で待つ事数分。

 

太陽は真上に達しようとしている、もう正午といっても良い時間帯だろう。

 

この時間帯は人の往来も多く、食料品を取り扱う出店が客の気を引こうと引っ切り無しに声を掛ける光景が、其処彼処に見受けられた。

 

――悪くないな、こんな時間を楽しむのも。

 

この時代に来て約一ヶ月そこそこだが、その大半を討伐依頼に費やしてきた。

 

正直な所、前の時代とやっている事が大して変わっていないのである。

 

不死から解放されたからといっても、ゴブリン退治やロスリックの怪物や不死人達との死闘に明け暮れ、当たり前に繰り広げられているであろうこの営みさえ、目にすることすら殆ど無かった。

 

――いかんな。もう少し、戦い以外にも目を向けるべきか。

 

そんな事を考え、耽ってしまう。

 

そうこうしている内に、私服に着替えた孤電の術士が姿を現した。

 

白を基調とした上品な上衣に、淡い青と金糸で装飾された薄い外套を羽織り、ロングスカートを身に着けていた。

 

先刻小屋で見た、所々跳ねた髪は整えられ、その佇まいは上流階級の知的な令嬢を彷彿とさせた。

 

散らかっていたあの小屋に住んでいる彼女と今の彼女が、同一人物とはとても思えないほどに見違えている。

 

その姿は、何処と無くアストラの貴族を思い起こさせる。

 

灰自身が、アストラの住人であったかは定かでは無い。

 

不死から解放され、不死人以前の記憶が徐々に蘇ってきている。

 

そのおぼろげな記憶に、労働奴隷時代に目にした事がある絵画の記憶が、孤電の術士の服装とアストラの貴族を重ねたのだろう。

 

だが、彼女は誰かを探しているようだ。

 

「遅いな、アイツ何をしているんだ?女である私を待たせるとは・・・・・・」

 

 彼女は辺りをキョロキョロと見回している。

 

私は此処に居るではないか。

 

ワザとやっているのだろうか。

 

仕方なく灰は、彼女に声を掛けた。

 

しかし返って来た反応は酷く素っ気無いものだった。

 

「残念だが、待ち合わせをしていてね。君の様なボンボンに用は無い」

 

「・・・・・・あ~~、川沿いの小屋に住んでいる術士で間違いないのだろう。先程鑑定を依頼した者だが、私は・・・・・・」

 

 その言葉を聞いた孤電の術士は、目を見開き灰に視線を這わせる。

 

足の爪先から頭髪に到るまで、何度も嘗め回す様に・・・・・・。

 

「・・・・・・もしかして、さっきの剣士君かい?」

 

 彼女の言葉に静かに頷く。

 

その仕草に彼女の顔は、見る見る間に紅潮してゆく。

 

「・・・プッ、アハハハハハハッ・・・・・・!!」

 

 やがて豪快に笑い出し始めた。

 

周りの住民が、その光景に怪訝な顔で視線を向けて来る。

 

しかし、そんな視線も気にする事も無く、彼女は目に涙を浮かべながら只管に笑い続けた。

 

「もしかして、そんなに可笑しかったか?私の服装は・・・・・・」

 

 笑われる事に怒り等は湧かず、寧ろ自分の今の格好が非常に場違いなものに思えてしまった灰は、逆に心配になり彼女に尋ねる。

 

「いやぁ、スマンスマン!余りに違い過ぎたのでね。君がそんな色男だったとは知らなくてね!・・・・・・プッ、クククク・・・・・・」

 

 ――これでも鏡を見て、失礼の無い様に自分なりに整えたのだがな。

 

周りの住民による視線と彼女に笑われた事もあり、些かの居心地の悪さを覚えた灰は、早く店に案内するように促した。

 

「分かった分かった、じゃあ行こうか!」

 

 彼女に案内され、灰もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 その店は、街の上流階級がよく利用する店だった。

 

上質の木材は丹念に磨け上げられ、塗った漆も非常に高価な物が使用されている。

 

建て方そのものも頑丈で、資金と技術が惜しみな費やされているのが分かる。

 

また店の入り口に続く通路は、白く磨き上げられた石材のタイルが敷き詰められ、一層高級感を引き立てていた。

 

成る程、高級店だけの事はある。

 

青銅造りの装飾が施された木製の扉を開け、孤電の術士を先頭に灰も続き店内へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ。当店へようこそ」

 

 入り口付近の若い男性店員が、応対する。

 

「二名、部屋を貸切りで頼めるかな?」

 

「二名様ですね、畏まりました」

 

 彼女の要求に店員は即座に対応し、無駄の無い動作で部屋へと案内された。

 

貸し切り用の部屋は、2階に設置され清潔感と高級感溢れる造りとなっていた。

 

席に着いた二人。

 

孤電の術士は、早速酒と軽めの食事を注文する。

 

もう少し、この部屋の空気を楽しんでも良いと思うのだが、彼女は意外とせっかちなのだろうか。

 

もしくは、この店の常連なのか。

 

程無くして、給士から食事と酒が運ばれて来た。

 

「それでは、二人の出会いに乾杯!」

 

 高級グラスに注がれた酒を手に取り、上機嫌でグラスを差し出す彼女。

 

灰も呼応するかのようにグラスを差し出し、彼女のグラスと触れ合わせた。

 

 

 

――…だが、今はまず祝杯だな。

 

 

 

ふと灰の脳裏にあの言葉が浮かぶ。

 

 

 

――貴公の勇気と、我が剣、そして我らの勝利に太陽あれ!ガハハハハ。

 

 

 

片時も忘れた事などなかった、太陽に似た陽気な騎士。

 

 

 

「二人の出会いに太陽あれ!」

 

 何時の間にかあの言葉を口にし、乾杯のジェスチャーで応えた。

 

「?なんだい、今の言葉は・・・・・・?」

 

「気にしないでくれ給えよ、貴公。」

 

 彼女の疑問を軽く流し、灰は酒を一口含んだ。

 

彼女も、それ以上は追及せず酒を含む。

 

「・・・・・・う~ん!やはり良い味だ。この店は基本的に外れが無いからね、時々は通うのさ!」

 

 酒に舌鼓を打った彼女は、この店に何度か足を運んでいた様だ。

 

「さて。何処から話そうか?」

 

 灰が話を切り出そうとすると、彼女から”待った”の声が掛かった。

 

「意外とせっかちさんだな君は。仮にも女と二人きりの相席なのだよ?もう少し楽しんでからにし給えよ、君」

 

 まだ食事にも手をつけない内から無粋だと、窘められてしまった。

 

”せっかちなのはお互い様だ!”と反論したい所だが、確かに彼女の言う事にも一理ある。

 

折角高い料金を払っての食事だ。

 

冷めてしまっては元も子もない。

 

先ずは酒と食事を堪能する事にした。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・、ご馳走様」

 

 一頻り食べ終わった両者は、給士に食器を下げさせた後、テーブルの上には追加で注文した飲み物と豆類のつまみだけが並べられていた。

 

一息ついた二人。

 

今度こそ話を切り出すべきだろう。

 

「・・・・・・そろそろ良いだろうか?」

 

「ああ。頼めるかい」

 

 今度は、彼女も聞く体制に入ってくれた様だ。

 

両者とも姿勢を正し、灰が徐に口を開き物語り始めた。

 

 

 

「先ずは、『最初の火』についてだな」

 

「『最初の火』・・・・・・。ああ、あったね。そんな言い伝えが――」

 

 古い文献や伝承でしか伝わっていない、『最初の火』。

 

精々、名前位しか聞いた事が無い彼女にとって、灰の言葉は知的好奇心を満たしてくれるだろうか。

 

余り過度な期待を抱かず、出来るだけ平静な精神で、灰の語りに耳を傾けた。

 

 

 

 

 

彼は語る。

 

最初の火が現れる前の世界を――。

 

彼は語る。

 

突如と出現した『最初の火』言うものを――。

 

其処から始まる、途方も無い物語り――。

 

 

 

 

 

 

        巡礼の物語り(ダークソウル)巡礼の物語りを。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

魂石

 

 水晶に似た、魔力を封じ込める為の石。

 極小~極大までのサイズが存在し、大きさに比例して魔力の貯蔵量も変動する。

 使用法は実に多岐に渡り、魔道具の製造や魔法行使の肩代わり等多種多様だ。

 

 実際はソウルの封じ込めも可能だが、試した者は現時点では皆無。

 使用法すら思いつく者は存在していない。

 

 ソウルの存在は、かなりの昔から研究が行われているが未だ解明されていないのが実情である。

 極一部の者は、ソウルの感知までは可能であるが、それを自在に行使する者は存在していない。

 

 火が消えた後、『宵闇の時代』『神代の時代』と進むにつれ、廃れてしまった事も原因だろう。

 

 注意:(この設定にはオリジナル要素が色濃く含まれています)

 

 『魂石』と言うアイテムは、スカイリムより抜粋。

 

 

 

 

 

 




 『魂石』というアイテムを出しましたが、これはオープンワールドファンタジーの
スカイリムと呼ばれる作品のアイテムで、独自の解釈と設定を加えて抜粋しています。
(一応、色んな小ネタ、と言うタグを設定してはいますが)

一応メインは、ダークソウルとゴブスレのクロス小説なので、これ以外の他作品からの抽出は極力控える積もりではいます。
(気分を害した方は、申し訳ありませんm(_ _;)m)

 それにしても、孤電の術士の口調、これで良かったのだろうか?
なかなか掴み所の無い人物なので、上手く描けていると良いのですが・・・・・・。( ̄ω ̄;)

如何だったでしょうか?

何時も感想、お気に入り登録、評価、そして読んで下さっている皆様方、本当に有り難う御座います。

デハマタ。( ゚∀゚)/

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