ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 どもども、投稿します。
今回もダークゴブリン側の視点です。

今しばらく、お付き合いくださいな。


第37.5話―ダークゴブリンの力(中編)―

 

 

 

 

 

 

火球(真言魔法)

 

 射程距離内の対象に投射した後、着弾点を中心とした範囲に爆発を起こす火の魔法。

 威力や効果範囲は、術者の力に依存し使い手によっては恐るべき威力を発揮する。

 

 真に力のある言葉『真言魔法』。

 火継ぎの時代には、存在し得なかった魔法。

 彼等の目には、どう映っているのだろうか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 それは、見事と言う他なかった。

 

余りに豪華にして絢爛、厳然にして壮麗。

 

そして、神々しく高貴。

 

これぞ正しく、”城”だった。

 

花崗岩を使用した石円柱は、白い光沢を放ち、重厚且つ美麗さを醸し出していた。

 

床は丹念に磨かれた大理石をタイル状に敷き詰め、中央の通路は粘板岩をふんだんに使用し、光沢を帯びた茶褐色の通路部は洒落た構造をしている。

 

壁部分も高級感溢れる造りで、天井部は色取り取りのステンドグラスが張り巡らされていた。

 

そして、ステンドグラスを通した光は、様々な色合いで来訪者を照らす。

 

”此処は神々の居城か”と見紛わんばかりだ。

 

本当に混沌側の住処なのだろうか?

 

ダークゴブリンは元より、側近達も終始圧倒され絶句するばかりだ。

 

「おやおや、我等が力に声も出ない様で」

 

 絶句する小鬼達の態度に場違いな優越感に浸る、先導役の人物。

 

別段、この男が建築した訳でもないだろうに、何から何まで癇に障る男だ。

 

先導役の侵入者が歩き出し、小鬼達もそれに続く。

 

巨大な金属製の扉には、豪華な鎧とスカートに身を包み、手にした錫杖二人が扉を守る様に立っていた。

 

先導役の男が近付くと、二人は無言で扉を開ける。

 

守りに就いていた二人の顔は、兜で隠され男か女かも判別がつかない。

 

しかし扉を潜る際、ダークゴブリンは感じ取っていた。

 

 

 

――あの二人から感じるソウル、生者のモノではないな。この侵入者にしてもそうだ。

 

 

 

感じ取ったソウルは、嘗て牧場で吸収した、あの『ダークレイス』に何処か似ている。

 

しかし、亡者とも言い切れない独特のソウル。

 

 

 

――一体何者だ?こいつ等。

 

 

 

疑念を抱きながらも、歩く事暫し――。

 

神々しい豪華絢爛な城が、混沌側の建築物である事が否が応でも思い知らされる事になる。

 

それもその筈――。

 

通路の両脇には、数え切れない程の混沌勢が、ひしめき合っていたのだ。

 

小悪魔から上級の魔神、邪悪な獣や魔獣、闇人や混沌に与した人族。

 

オーガを始めとした、鬼の一族。

 

そして同胞達――。

 

ゴブリンに至るまで――。

 

成程、此処は紛う事無き『混沌側』の城だ。

 

混沌の住人達の視線を一身に受けながら、ダークゴブリン達は通路を真っ直ぐに歩んで行く。

 

だが、此処は混沌側の領域。

 

何も起きない方が、あり得ない事だ。

 

「…ほぅ、貴様が噂の黒い小鬼か!」

 

 一体のオーガが、立ち塞がる。

 

多数のオーガの中でも、一回り大柄で上質の装備を纏っていた。

 

恐らくオーガの上位種なのだろう。

 

「雑多な小鬼共が騒々しいのでな、どんな奴かと思えば――」

 

 オーガの見下す視線に得体の知れない圧を感じ取り、側近達は警戒し身構える。

 

「黒いだけの雑魚ではないかっ!!」

 

 侮蔑と怒号の混じった蔑みに、周囲の魔神達も呼応する。

 

側近達は、その迫力に完全に気圧され、額に汗を滲ませた。

 

唯ダークゴブリンだけは余裕を崩さず、先導役を押し退け、オーガの前に悠然と歩み寄る。

 

そして、オーガの視線を真正面から受け止めた。

 

臆する事無く。

 

「これはこれは。人喰鬼(オーガ)ともあろう御方が、黒いだけの雑魚に目くじらを立て様とは、器が知れますなぁ!」

 

 ダークゴブリンの挑発を真に受けたオーガは、全身を小刻みに震え上がらせる。

 

「貴ぃ様ぁっ!!鬼一族の魔人将より一軍を預かる我を、『オーガ・ジェネラル』と知っての侮辱かぁっ!!」

 

 完全に激昂したオーガは、今にも襲い掛からん勢いだ。

 

だが、そんなオーガの怒りも、何処吹く風――。

 

「オーガの中でも屈指の上位種『ジェネラル』。そんな上位種が、たかがゴブリンの俺に一々構うなど、貴公の部隊は余程平和を享受しておられる様だ。ククク、実に結構結構!」

 

 怖じ気付く処か、火に油を注ぐ勢いで皮肉を返す、ダークゴブリン。

 

「……よくぞ言った!余程、我が力を味わいたいと見ゆる!」

 

 完全に何かが弾けたオーガは、臨戦体制を取る。

 

オーガは手を翳し真に力のある言の葉、真言魔法の詠唱に移る。

 

これが秩序側の住人なら誰かが静止に入るが、此処は混沌側の勢力。

 

止めに入る者は誰一人としていない。

 

唯一先導役の男のみが、”勝手な真似は許さん”と怒鳴り散らすが、誰一人耳を傾ける者は皆無だった。

 

寧ろ、観客気分で煽りに煽るデーモンを始めとした混沌の住人達。

 

最早、衝突は避けられぬ事態となった。

 

「カリブンクルス、クレスクント……」

 

 オーガは、真言魔法の一つ『火球』を斉唱し始める。

 

「GruooB!」

(お前達、焼かれたくなくば下がっていろ!)

 

 側近達に交代を命じたダークゴブリン。

 

しかし、それだけなくオーガ側の同胞達に向けても、退避を命じる。

 

「GruooB!!」

(オーガ側の同胞達よ!焼け死にたくなくば退避せよっ!!)

 

その雄叫びに、オーガ側のゴブリン達は、弾けた様に柱の陰に身を隠す。

 

そして、困惑する。

 

――まさか、俺達を案じているのか?!あの『黒き同胞』。

 

「所詮は小鬼。代わりなど幾らでも効くわ!!」

 

 オーガの練り上げた火球が更に膨れ上がる。

 

 

 

「カリブンクルス、クレスクント……」

 

 時を同じくして、ダークゴブリンも手を翳し、火球を練り上げる。

 

「ふはははっ!そんな貧弱な火球で、我と張り合うか!」

 

 嘲るオーガの火球は尚も膨張を続け、直径10メートルを超えるまでに成長していた。

 

「……試してみるか?オーガ・ジェネラル!」

 

 一方ダークゴブリンの火球は、直径1メートル前後。

 

しかしその色は赤色ではなく、限り無く白色に近い。

 

更に火球そのものが、鈍い光を帯びていた。

 

「小鬼風情が、爆ぜよ!」

 

 

 

「「ヤクタァッ!!」」

 

 

 

 同時に打ち出される双方の火球。

 

オーガの、巨大な火球。

 

ダークゴブリンの、小さくも輝く火球。

 

二つの異なる火球が衝突し合い、互いを飲みこまんとする。

 

衝突の際発生する熱波と余波が、周囲を焦がす。

 

大きさで言えば、オーガの火球が遥かに勝っている。

 

これは誰の目にも明らかだった。

 

しかし、もたらした結果は予想だにしない方へと流れた。

 

輝く火球がオーガの火球ごと押し込み、二つの火球はオーガの方へと迫る。

 

「ば、馬鹿な?!あり得んっ!こ、こんな事がっ……!」

 

「なぁに単純な理屈だ。俺の魔力が貴公に勝る……、それだけよ!」

 

「ひっ!ひぃっ!やめ…、たす、k――」

 

 眼前に迫った火球は、オーガを焼き尽くさんとし、彼を飲み込む瞬間――。

 

突如出現した青白い光の弾丸が、火球を在らぬ方へと弾き飛ばした。

 

余りにも唐突な事象に、観客気分で見物していた混沌勢は呆けている。

 

 

 

『……汝、我が元に……』

 

 

 

 前触れも無く空間から響き渡る、得体の知れぬ声。

 

その声に呼応するかのように跪く混沌勢。

 

「ふ…、ふははは。運が良かったなぁ!我が主のお目に適ったぞ!ダークゴブリン!!」

 

 半ば腰が抜けていた先導役は、上ずった声で虚勢を張る。

 

「――ならば早急に案内せよ。その、そっ首刎ねられたくなければなっ!」

 

護身用として所持していたダークソードを首元に突き付けられ、先導役は腰を抜かし尻餅を突く。

 

先程の威勢は何処へやら、その姿は最早憐れとさえ言えた。

 

大慌てで、早々と通路を進む先導役。

 

ダークゴブリン達も後に続く。

 

新たな大扉を抜け、姿が見えなくなったのを確認した混沌勢は、俄かにざわつき始めた。

 

内容は、言わずもがな。

 

皆が皆、先程の黒い小鬼について、好き勝手に言を吐く。

 

「ほぅ、中々に面白い奴だ!」

 

 オーガ・ジェネラルを上回る存在、『オーガ・キング』は興味を示す。

 

鬼一族の軍勢、その一角を担う魔神将でもある。

 

(黒き同胞。アイツこそが、俺達を束ねるに相応しいのでは…?)

 

オーガ側に居たゴブリン達。

 

オーガジェネラルを上回る力を見せ付けた、異端の小鬼。

 

 

 

「へぇ、あれがダークゴブリンねぇ。結構素敵じゃない?ゴブリンにしては――」

 

 妖艶な美女の姿をした、女魔神の軍勢。

 

その一角を担う魔神将『上夢魔』も興味を示す。

 

瞬く間に混沌勢の視線を釘付けにした異端の小鬼。

 

 

 

その名は、ダークゴブリン。

 

 

 

 

 

門を抜けた先、異様な光景がまたもや目を打つ。

 

神々しい王座の間は、相も変わらず。

 

しかし、異様なのは複数の玉座が存在していた事だ。

 

先ずダークゴブリンの目に映ったのは、五つの玉座。

 

その玉座其々に、只ならぬ異形達が腰を下ろしていた。

 

鬼を彷彿させる者。

 

女の姿をした者。

 

獣に酷似した者。

 

魔神そのものと云える者。

 

そして中央の玉座に鎮座する、何者か。

 

「中央を除き、4人全てが魔神将と云った所ですかな?」

 

 長弓ゴブリンの質問に、先導役は”否”と応える。

 

「あの4人は、我が主の僕。『魔神王』だ!」

 

「何ダッテ?アレガス全て、魔神王ダト?!」

 

 格闘ホブが、驚愕のあまり何度も4人いや4柱の魔神王を見比べる。

 

「ま、まさか!混沌側の最頂点たる魔神王が4柱も?!……在り得ませぬ!」

 

 書記ゴブリンは、動揺を隠せない様だ。

 

元来魔神王とは、混沌側の神に等しい存在。

 

謂わば、混沌側の長とも云える。

 

今日まで魔神王なる存在は、現れては滅ぼされを繰り返し、何柱も存在してきた。

 

しかし原則として実体化するのは、一柱ずつと言うのが常だった。

 

いや、一柱で充分と言える。

 

その一柱が混沌の軍勢を率い、秩序側と熾烈な戦を繰り広げてきたのだ。

 

過去に何度も。

 

それが一度に4柱も――。

 

”流石に在り得ない”側近達の脳裏にそんな否定ばかりが過る。

 

「在り得ぬ話ではない。我が主の御業を以てすれば、可能なのだよ!」

 

 先導役は得意気に、ほくそ笑む。

 

「ぬぅ、では中央に鎮座する者こそが、『主』という事か」

 

 ダークゴブリンの言葉に”そうだ”と返す、先導役の男。

 

その言葉に、嘘偽りはなかった。

 

4柱の魔神王だけでも尋常ならざる事態だが、中央の人物からは溢れんばかりのソウルを感じる。

 

それも魔神王を凌ぐほどに――。

 

刺繍の入ったローブを身に纏い、複雑に絡み合った金色の王冠を被り、素顔は網目の様な仮面に覆われている。

 

その落ち着いた佇まいは、圧倒感と神々しさを併せ持つ。

 

そして豪華な玉座の後ろには巨大な金属製の――。

 

 

 

黒い鳥の彫像。

 

 

 

「……美しい……」

 

 思わず口にするダークゴブリン。

 

それは、中央の人物に対してか、彫像に対してか――。

 

「思い知ったか!この御方こそが偉大な我等が主、『魔神皇』様よ!」

 

 

 

          ――魔神皇――

 

 

 

数多の魔神王を制し、その上に君臨する上位者。

 

先導役は早口に捲し立てるが、唐突に『下がれ』の言葉が下り、口を閉じざるを得なくなった。

 

今のは『魔神皇』の言葉だろうか?

 

ダークゴブリンは中央を注視するが、玉座の傍らに何者かの存在を確認した。

 

かと思えば、それは一瞬で姿を消し目の前に現れる。

 

「だ、大主教様!」

 

 先導役は、平伏し頭を垂れた。

 

大主教と呼ばれた人物。

 

先導役の男と同じく、濃い藍色のローブを纏い、ホブゴブリン並みの体躯と身長を誇る、半ば巨人染みた聖職者だった。

 

「此処から先は、愚僧が引き継ぐ。……下がるが良い」

 

「……し、しかし……、いえ、畏まりました!」

 

 怯えているのか定かではないが、先導役は慌てて姿を消した。

 

大主教は、改めてダークゴブリン達の方へと向き直る。

 

「主教の非礼の数々、どうかお許し願いたい」

 

 深く頭を下げ、謝罪の意を示す大主教。

 

頭を下げて尚、巨漢である事に違いはないが。

 

「歯牙にも掛けぬ。それよりも、中央の御仁が貴公等の『主』か」

 

 ダークゴブリンの疑念に”是”と答え、彼等をより近くへと案内した。

 

「我が主『魔神皇』様、件の御客人を連れて参りました」

 

 大主教の言葉に、深く頷く『魔神皇』。

 

秘めた莫大なソウルに加え、周囲から注がれる4柱の魔神王の視線。

 

その威容に側近達は言うに及ばず、ダークゴブリンでさえ戦慄を禁じ得ずにいた。

 

「よくぞ参られた、御客人」

 

 その言葉に流石のダークゴブリンも、膝を折り頭を垂れる。

 

 

 

そして始まる、ダークゴブリンと魔神皇との会談。

 

 

 

 それは、拍子抜けする程に短時間且つ平穏に進められ、気が付けば会談は終わっていた。

 

ダークゴブリンの予想とは裏腹に、”軍門に下れ”などといった要求は一切無く、お互いの目的や思想を語り合うといった内容だった。

 

 

 

ダークゴブリンの悲願は、『救済』。

 

自分を含め集団と同胞達に圧倒的な力を保持し、その力を以てゴブリン主導の社会体制を構築する。

 

先ずは人族の勢力を徹底的に削ぎ、秩序からも混沌からも蔑まれ虐げられし、同胞達の社会文明を築き上げる。

 

ゴブリン主体の社会を構築しながらも、人族は決して絶滅させる事無く『搾取』の対象として生かし続ける。

 

それがダークゴブリンの謳う、救済計画だった。

 

その為には、力が必要不可欠。

 

武力、知力、財力、生産力、技術力、思想、価値観、物資、文化――。

 

数え上げればキリがない。

 

彼の崇める神『黒い鳥の神』は、その”力”を行使しうる偉大な神。

 

何もかも黒く焼き尽くし、後に新世界を構築する破壊と創造が混在した、強大な存在。

 

それがダークゴブリンの悲願――。

 

この言葉に驚いたのは魔神皇ではなく、寧ろダークゴブリンの側近達と魔神王達だった。

 

実は側近達でさえ、救済計画の抽象的な部分しか聞かされていなかったからだ。

 

精々、大規模な村か街レベルを築き上げ、其処で安住の生活を構築する位にしか考えていなかった。

 

しかし、ダークゴブリンの構想は、それを遥かに凌駕している。

 

当初は彼の出現に奇異の目を向けていた側近達。

 

あらゆる意味でに常識外れで、次々と概念を覆した黒き同胞。

 

 

 

”何かを変えてくれる”

 

 

 

そんな漠然とした期待を抱き、今日までついて来た。

 

それなりの危険は遭ったが、甲斐あって安定した拠点を築きつつあり、豊富な物資も備蓄されている。

 

まさか、本当にゴブリンの未来の為に動いていたとは……。

 

無言を貫いていた魔神王達も、どよめきを隠せなかった。

 

世界の『破滅』ではなく、『構築』の為に動く小鬼など前代未聞であったからだ。

 

ダークゴブリンの計画に魔神皇は快く聞き入れ、彼を『同志』として受け入れた。

 

同じ神を信望する者として。

 

 

 

そして魔神皇も語る。

 

自らの使命を――。

 

彼の使命は、『駆逐』。

 

盤の外へと至った後、神々に挑み排除し尽くす事。

 

最後に残るは、『黒い鳥の神』。

 

古きの時代から存在し続け、世界と自分達を翻弄し続けた太古の神々。

 

今尚、この世界を翻弄し続け、飽きもせず愉しみの為に君臨し続ける、憎悪すべき存在。

 

その神々を駆逐し、最後に残りし『黒い鳥の神』に、この世界の見届け人となって頂く。

 

それが魔神皇の宿願。

 

嘗ては、甘く冷たい腐ってゆく異界にて誕生し、滅び去った都で『罪の火』に魅入られた。

 

月光の照らす冷え切った都市に君臨し、古の神々と王家の血筋を陥れ追放し、最後に名も無き不死人に討たれ生涯を終えた。

 

過去に、こう名乗った事もある。

 

 

 

          ――法王――、と。

 

 

 

魔神皇の言葉に感銘を受けるダークゴブリン。

 

『黒い鳥の神』が見届ける世界。

 

なんと、甘美な世界だろうか。

 

正しく彼『魔神皇』こそ、同志であった。

 

この瞬間を以て、両者は『同盟』関係を結ぶ事となった。

 

互いの血をグラスのワインに一滴垂らし、それを両者が飲む。

 

簡潔な儀式ではあったが、それだけに強固な関係と言えよう。

 

 

 

とは言え、規模も組織力も魔神皇軍が遥かに上。

 

協力を要請する見返りに、必要な物資や支援を与えるという盟約を結んだ。

 

 

 

そして呆気ない程に会談は終わる。

 

魔神皇は見抜いていたのだろうか。

 

ダークゴブリンに大量の『魂石』と呼ばれるアイテムを授けた。

 

魔力やソウルを貯蔵が出来る水晶で、今の彼等には打って付けの品だった。

 

その後、大主教自らが篝火を通した転移で、ダークゴブリン達を住処へと送り届けた。

 

篝火は、傷と疲労を癒す効果があるとの事で、そのままにされる事となる。

 

 

 

さて、心中穏やかでない一部の魔神王――。

 

正確には更に下っ端の配下達か――。

 

 

 

城の一角に設けられた鬼一族の居住区で、周囲に当たり散らしていたのが、オーガ・ジェネラル。

 

先程、ダークゴブリンと衝突した挙句、力の差を見せ付けられ、その上で命乞いという情けない姿を晒してしまったのだ。

 

その無様で滑稽な姿に、他の混沌勢は侮蔑の眼差しを向けた。

 

「己、おのれぇっ!!ゴブリン如きが、よくもっ!!」

 

 完全に血が上ったオーガは、部下のゴブリン達に当たり散らし、鉄棍で殴り付けた。

 

当然ゴブリン達がオーガの力に耐えられる筈も無く、次々と肉塊にされてゆく。

 

完全に只のトバッチリだった。

 

「……その辺にしておけ、ジェネラル!我等、鬼の魔神王様の品位を削ぐ気か!」

 

「――?!。魔人将、オーガ・キング様!」

 

 オーガ・ジェネラルの上官、オーガ・キングの出現により取り敢えず矛を収める。

 

「その方は、過剰に自己顕示欲が強い。残念だが、あの小鬼の実力は本物だ!」

 

「ぐうううぅぅ……、ダークゴブリン……!」

 

 その事実を告げられ、歯ぎしりするしかなかった。

 

「ならばキング様!我に機会を――。あの小鬼を屈服させる機会を我に――」

 

 プライドの塊であるジェネラルも、上官には頭を下げ出撃の許可を求める。

 

「ほぅ、あの小鬼を此方へ取り込むと?魔神皇様の御意向に反するのではないか?」

 

 すでに魔神皇軍とダークゴブリンは同盟関係にある。

 

下手に動けばそれは反旗に他ならない。

 

しかし、此処は混沌側の勢力。

 

秩序側の倫理は容易に覆される。

 

「我等が仕えるのはあくまで、『鬼の魔神王』様のみ!『魔神皇』などではありませぬ!」

 

 オーガを始めとした鬼一族の長は、常に鬼の魔神王1柱のみ。

 

今は力と統率力に屈しているが何れは勢力を盛り返し、混沌勢の覇権を握って頂くのがオーガジェネラルの悲願であった。

 

憎々しい存在ではあるが、オーガはダークゴブリンの実力と価値を認めていたのも事実。

 

屈服させ、此方の勢力に取り込めば、鬼一族の軍勢は更に盤石なものとなろう。

 

異端とは言え、ダークゴブリンも鬼に連なる眷属だ。

 

『だが、後手に回ってしまったな』

 

 突如として現れたのは、オーガを遥かに上回る巨躯を誇る、鬼そのものであった。

 

「なぁっ…!お、鬼の魔神王様っ!!」

 

 予期せぬ魔神王自らの登場に、ジェネラルを始めとしたキング、通常のオーガ、ゴブリン達、他諸々の鬼族達が平伏し頭を垂れる。

 

鬼の魔神王。

 

身長、約十メートル強。

 

東国式の戦鎧を身に纏い、巨大な金砕棒を携え、首には数珠をぶら下げ太い尾を生やした出で立ちだった。

 

元々この魔神王は、東国出身の鬼で、その国でも猛威を振るっていたが、強力な人族集団に敗北した経緯がある。

 

その人族集団は、対鬼討伐に特化した戦士団で『鬼を討つ鬼』と呼称されていた者達であった。

 

鬼の魔神王の目的は、この国で力を蓄えた後、再度東国に攻め入る事だ。

 

「我が魔神王様。後手に回ったとは……?」

 

 オーガキングの質問に、鬼の魔神王は一つの丸い水晶を差し出す。

 

「既に、女形の魔神王が動き出しおった。標的は無論、黒き小鬼よ」

 

 水晶に映し出された映像は、妖艶な美女の姿をした『上夢魔』率いる集団が翼を翻し、ダークゴブリンの住処へと向かう最中だった。

 

「ぐぅっ…、淫売共め!」

 

 映像を見たオーガジェネラルは、拳を机に叩き付ける。

 

「……暫し静観しようではないか。あの小鬼の御手並み拝見と行こう」

 

 鬼の魔神王の言葉に、その場に居た全員が固唾を飲み見守る事にした。

 

 

 

その頃玉座の間では、魔神皇と1柱の魔神王のみが残留していた。

 

其の魔神王は、まさしく『魔神そのもの』と言えた。

 

背中に巨大な翼を生やし、鋭い爪と角、常に炎を燻ぶらせた、ある意味混沌の象徴。

 

 

 

「混沌より生まれし、我らデーモン。…本来なら滅ぶべき存在……」

 

 

 

 静かに言の葉を紡ぐ――。

 

魔神皇に対して。

 

「再び火が宿った。…故に、汝等は二度目の『生』を得た」

 

 魔神皇が言葉を返し、更に付け加える。

 

「あの神なら、それも可能」

 

 魔神皇が崇める神、『黒い鳥の神』。

 

徐に火の魔神王は立ち上がり、魔神皇に背を向ける。

 

「あの神が司るは、終局と始局。そなたの宿願が成就されたとて、終局の宿命から逃れ得る事叶わず」

 

 そして玉座の間から去る。

 

その場には魔神皇が残されるのみとなった。

 

「……それで、よい。……そうでなければ、ならぬ」

 

 火の魔神王の言葉を拒絶する事無く、寧ろ寛容でさえあった。

 

始まりがあれば、必ず終わりがある。

 

終わりを迎えた後、再び新たな始まりが芽吹く。

 

そうした輪廻を繰り返し、この世界は続いてきた。

 

それは、これからも変わる事がないだろう。

 

そして、そうでなくてはならない。

 

「あの王は……、…違う様だがな!」

 

 魔神皇は一人の不死人を思い返す。

 

漆黒の鎧を纏い亡者を束ねし、『死』に魅入られた者。

 

「『闇の王』。…あれも油断ならぬ男よ。……汝と同じ様にな」

 

 先程空いた玉座に、魔神皇は視線を移す。

 

「火の魔神王……。いや、嘗てはこう呼ばれていたか――」

 

 

 

        ――デーモンの王子――

 

 

 

デーモンの王子と呼ばれた魔神王だけは、他の魔神王を圧倒していた。

 

単純な戦闘力だけなら、魔神皇すらも凌ぐほどと言えた。

 

結局は、古くからの協力者でもある大主教と配下達の助力を得て、制す事が出来たのだ。

 

魔神皇個人では、敗北していた可能性も否定出来ない。

 

それほどまでに、デーモンの王子(現、火の魔神王)は別格と云えた。

 

結果、デーモンの王子は火の魔神王を名乗り、他の魔神達を束ねる存在となる。

 

だが、それほど恐ろしい火の魔神王も、遥か昔は人に敗北していたのだ。

 

 

 

一人は、ロスリックの王族『兄王子ローリアン』。

 

 

 

もう一人は、故も知らぬ『不死人』に。

 

 

 

この新たな世界にも居るのだろうか?

 

それほどの不死人が――。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

魔神皇との会談から翌日。

 

ダークゴブリンの住処は活気に包まれていた。

 

手に入れた大量の魂石は、魔力の貯蔵に大いに約立った。

 

これにより、死体の長時間使役も容易となった。

 

後は、数と筋力に優れた上質な死体さえ入れば、労働力確保は安定するだろう。

 

そしてダークゴブリン本人は、黒い鳥の彫像の手直しに没頭していた。

 

魔神皇の城に鎮座していた彫像、あんな物を見せられては動かずにいられなかったのだ。

 

最早、衝動的ともいえる。

 

暫く作業にに没頭していると、突如として篝火から一人の巨漢が転移して来た。

 

「む?!貴公は、あの御仁の側近……」

 

 その気配に気付いたダークゴブリンは、転移した巨漢に見覚えがあった。

 

魔神皇の傍らに居た、一人の聖職者。

 

巨体を誇る、大主教だった。

 

「間も無く、贈り者が其方に到着致します。存分に御使い下さいませ」

 

 必要事項だけを述べ、大主教は再び姿を消した。

 

余りに短時間のやり取りであった為、大主教の転移に気付いた部下は一人も居なかった。

 

「贈り物だと……?!この『篝火』と『魂石』が贈り物ではなかった、と?」

 

 大主教の真意が読み取れず、訝しむダークゴブリン。

 

思案に耽っている最中、突然扉が開かれた。

 

「Gooob!!」

(大変です、ボス!女魔の集団が此方に向かっております!内一体は、魔神将らしき者!!)

 

息を切らせた中型種の一人が、早口で捲し立てる。

 

「GruooB」

(ほう、女魔とな?!……くくく、……そう言う事かっ!)

 

大主教の言葉は、()()()()意味だったのか。

 

真意を理解したダークゴブリンは、全部下に招集を命じた。

 

 

 

――全てを見透かす御仁、いや大主教の計らいか!……少々気に食わんが、有難く受け取らせて貰おう。

 

 

 

小道具を片付け、迎え入れる準備を整える、ダークゴブリン。

 

 

……

 

………

 

「GruooB!!」

(よいか!合図があるまで、決して此方から仕掛けるな!女とは言え、相手は魔神の眷属。一人は強大な力を有す魔神将だ!作戦の失敗が即、全滅を招くものと知れ!)

 

ダークゴブリンの訓示に、全体に緊張が走る。

 

これまでの相手とは格も勝手も違うのだ。

 

同じ混沌の勢力と戦ってきた事は何度かあった。

 

だが、相手は精々乗っ取りを画策した、同胞。

 

或いは、オークと云った多少上の存在で、ダークゴブリンと側近達の戦闘力を以てすれば、いとも容易く勝利を手に出来た。

 

しかし此度の相手は、混沌の代表格『魔神』の眷属達。

 

問答無用で緊張感が増そうというもの。

 

解散の合図と共に、ゴブリン全体が慌ただしく動き回る。

 

隊長職の中型種が、部下に何度も確認作業を取らせ、所定の配置へと就いた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

翼をはためかせ、立ち込める霧の、やや上を飛行する女魔達。

 

「御姉様、そろそろ頃合いかと……」

 

「そうね。皆、降下するわよ!」

 

 魔神将でもある『上夢魔』を筆頭に翼を持つ女魔達は、次々と降下を開始した。

 

翼を持たない下級の女魔は、巨大な体躯を誇る『巨女魔』達の背に乗っていた。

 

濃い霧が立ち込める山道を徒歩で進む女魔達。

 

「それにしても、随分辛気臭い所に住んでいるのね、あの小鬼」

 

 上夢魔は、居心地悪そうに顔を顰めながら山道を進み、やがて木製の防壁を視界に入れた。

 

その門には、ダークゴブリン手製のトーテム。

 

先端には、黒い鳥を模した木製の彫像が飾られている。

 

「間違い無いわね、此処で」

 

 立ち止まった上夢魔は声を大にして張り上げる。

 

 

 

「誰ぞっ!誰ぞ在るっ?!!」

 

 

 

 魔神将とは云え、その声は美しく透き通った女の声だった。

 

歌唱力や美声に優れる『鳥人』とは、また違った魅惑の声だ。

 

程無くして、木製の大扉は開かれ2体のホブが扉の開閉を担当していた。

 

「ゴブリンにしては、大した建築能力ですよ?御姉様」

 

「ええ。ダークゴブリン、本当に面白い奴だわ」

 

 側近の中夢魔の言葉に、上夢魔は頷く。

 

「ようこそ参られた、お嬢様方……」

 

 恭しく一礼で迎えたのは、ダークゴブリン本人だった。

 

「あら?御本人自らとは、嬉しいじゃない!」

 

 気を良くした上夢魔。

 

ダークゴブリンに案内された女魔部隊は、大扉を潜り住処へと足を踏み入れる。

 

上機嫌の女魔部隊とは裏腹に、緊張した面持ちでそれを見守る部下の小鬼達。

 

 

 

混沌側の住処は、更に混沌の色合いを増してゆく。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

主教のローブ

 

 深みの聖堂、その主教たちのローブ

 エンジは火の加護を意味する。

 深みの封印者であったはずの彼らは

 やがて皆、おぞみに飲まれた。

 信仰も灯火も、役には立たなかったのだ。

 

 今も尚、彼等は深みと混沌に惹かれ続ける。

 其処に居場所を見出したのだろう。

 

 それこそが、安らぎと信じて。

 

 

 

 

 

 




 様々な魔神王が登場致しましたが、『鬼の魔神王』にはモデルが存在します。
鬼を狩る、和風討伐アクションゲームの鬼。
鬼の指揮官級と呼ばれた、とある鬼をモデルとしています。

ダークゴブリンの火球魔法。
本来、存在しない魔法ですが、ソウルを駆使し、加工させたという解釈で。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
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