小出しにしても良かったのですが、纏めて投稿しようと思い、此処まで時間が掛かってしまいました。
では投稿します。
炎の貴石
禊石が変質化したという貴石。
デーモンの内に稀に見出されるという。
武器の変質強化に使用され炎の武器を作る。
炎の武器は炎攻撃力を持つが、能力補正は消失してしまう。
運良く手に入れた冒険者達は、こぞって己が武器に、この貴石で変質強化したという。
そして後に些かの後悔を覚える。
能力補正が消失し、これ以上の強化が非常に困難な事実に――。
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孤電の術士と別れてから、経過する事数日。
ギルド内では、ちょっとした噂が持ち上がっていた。
『知ってるか?ゴブリンスレイヤーの事……』
冒険者の誰かが発した言葉、その言葉に聞き覚えの有るあだ名が耳を打つ。
ゴブリンスレイヤー。
ゴブリンのみを標的とし、淡々と依頼を遂行する変わり者の冒険者。
別名『変なの』。
そして、”ゴブリンスレイヤー”と言う単語に反応する、一人の冒険者。
灰の剣士。
現時点では『変なの2号(仮)』。
ギルドの奥で一人薬草茶を嗜んでいた彼は、ひっそりと聞き耳を立てる。
『アイツ最近、一党を組んだって話だ』
『一党って、相手は灰の剣士じゃないのか?』
噂話をする冒険者の相手、若い戦士こと同期戦士は、火の無い灰の名前を出す。
『その相手は、女なんだよ。…つ~か灰の剣士なら、お前の真後ろに居るじゃねぇか』
冒険者の指さす方角、つまり同期戦士の真後ろに灰は居たのだった。
『あ、ホントだ。アンタそんなとこに居たのか?』
後ろを振り向き、灰の存在に気付いた同期戦士は、彼の方へと歩み寄って行く。
「やぁ。出来ればその話、私にも聞かせてくれないか?」
「よう。最近は、あの変なのと一緒じゃないんだな。昨日は俺の一党にも手を貸してくれてたしな、アンタ」
「私は彼程、ゴブリンに拘っている訳でもないのでな。それに折角黒曜等級に昇格したんだ、小鬼以外の異形も知っておきたいが故に、様々な依頼も吟味しておきたいのさ」
実際、孤電の術師と別れて数日間。
ゴブリンスレイヤーとは組まず、彼は小鬼退治以外の依頼を受けていた。
マンティコアの討伐。
邪教徒の調査依頼。
群れを成すインプの殲滅。
等々――。
重戦士や槍使いを始めとした一党に臨時で加えて貰い、依頼を達成していたのだった。
そして先日は、彼――。
同期戦士の一党に助っ人として参戦する事になり、依頼を遂行した。
故に、ゴブリンスレイヤーとは別行動を取り、ゴブリン退治には参加していない。
灰は、彼等の分の茶を追加で注文し、話を聞く事にした。
彼等の話を要約すると、こうだ。
ここ数日、ゴブリンスレイヤーは孤電の術師と組み、小鬼退治に勤しんでいるらしい。
そして彼が連日連夜の様に、彼女の家へと通いつめているとの事だった。
「成程な、勤勉な彼らしい」
茶を一口含みつつ、湯飲みをテーブルに置く。
話し出した冒険者は、”小汚い奴等同士お似合いだ”だの”可愛い女給士が居て、絶対俺に気がある!”だの、脱線した話ばかりだったが彼と彼女の近況が聞けて何よりだった。
少なくとも今は無事で居る事が確定して、少し安心した
突如、後ろから『ガタッ』と物音がし、三人は反射的に音の方へと向く。
「あの子は……確か」
灰の目には、見覚えのある少女の背中が映っていた。
髪を切り印象がかなり変わっていたが、間違い無く牧場の牛飼い娘だ。
彼女は走り去り、ギルドを後にする。
既に太陽は地平線に沈み、夕刻の時間帯を迎えていた。
――彼女、何か思い違いをしていなければ良いんだが……。
灰は、彼女を追う事にした。
間違い無く、今の話を聞いていた筈だ。
それで妙な誤解を生み、彼との仲に軋轢を生む事は、灰自身も望んではいない。
本来なら関わるべき案件ではないのかも知れないが、彼女とは全く知らぬ間柄でもない。
少々お節介かも知れないが、念のため誤解を解いておくのが望ましいだろう。
「少し外す、料金は私が持とう」
同期戦士と相手の冒険者分の料金を支払い、灰はギルドを出た。
幸いにも牧場の所在地は知っている。
見失う事は先ずあるまい。
彼女が走り去ったと思わしき方角へ、足を向ける。
ちょうどその時、小さくなりつつある彼女の背中と、それを小走りに追い駆ける見覚えのない人影が、灰の視界を捉えた。
――…?彼女の知り合いだろうか?
彼は疑問に思いつつも、後に続く。
見た処、体格からして男性で間違い無いだろう。
赤い装飾入りの帽子と、派手な刺繍入りの服装に身を包み、腰の弦楽器をぶら下げている。
おそらく吟遊詩人なのだろう。
この街ではあまり見かけない顔だが……。
まぁ、それ自体は何ら問題は無い。
灰は僅かに訝しむ。
問題は、その男が後ろに隠し持っていた或る物についてだ。
その男は小さなガラスの小瓶を後ろに隠し持ち、中身は何やら怪しい液体が入っていた。
「あんな物、何に使う気だ?」
彼は、ますます不信感を募らせ、牛飼い娘とそれを追う吟遊詩人の後を付ける。
街の正門を潜り抜けたと同時に、彼は声を掛けられた。
「おや?灰の剣士殿ではありませんか。険しい表情で、どうされましたかな?」
突如、守衛の衛兵に声を掛けられた事で、幸か不幸か足止めを食らってしまった。
灰は、内心焦る。
――何もこんな時に声を掛けなくても……、いや!待てよ――。
治安を守る衛兵なら、寧ろ男の素性が分かるかも知れない。
「実は……」
彼は事の顛末を衛兵に説明した。
”あの男について何か知らないか?”と。
「ふむ?……そう言えば何処かで見覚えが有る様な……?……暫しお待ちを――」
衛兵は所持していた紙面を捲り、視線を這わせる。
程無くして、衛兵は何かに気付いた様に目を見開く。
「あの男、もしや?――」
目の色を変えた彼は、もう一人の衛兵に事情を説明し、灰と共に彼女等の後を追う事にした。
――叔父さんの言ってた事、本当なのかも知れない……。
碌に呼吸も合わせず走った結果、流れ出る汗で薄いシャツはベッタリと肌に張り付き、年齢の割に発達した胸部のラインを描く。
ギルドで、彼の噂をダメと知りつつ盗み聞きしてしまい、完全に動揺していたのだ。
数日前の晩、育ての親でもある牧場主から”恋人が出来たのかも知れん””或いは娼婦に入れ込んでいるのでは?”等と言った、心中穏やかならざる言を聞いてしまい、彼の事が気になって仕方がないのだ。
確かに此処数日、彼…ゴブリンスレイヤーの帰りが異様に遅い。
前々からそうだったが、以前にも増して距離が離れてしまった様な気がする。
――何か……、寂しいなぁ……。
深い溜息と共に、沈みつつある夕日に目を向ける。
――夕暮れは嫌い……。
憂鬱な想いと共に、風に当たり火照った身体を沈めていく。
「其処の可憐なお嬢さん」
不意に声が掛かる。
「――え?!」
幾許かの動揺を覚え、声の方へと向く牛飼い娘。
其処には柔和な笑みを浮かべ、洒落た服装に身を包んだ男が立っていた。
「……あ、あの…、どちら…様、ですか……?」
当然、彼女には見覚えが無い。
牧場の叔父に引き取られて幾星霜、殆ど人との接触を拒み続け、漸く街への配達に顔を出し始めたばかりなのだ。
知っていると言えば、牧場の叔父と彼(ゴブリンスレイヤー)、ギルドの受付嬢に槍使いの一党……、そして黒い騎士から彼を助けてくれた灰の剣士くらいだろうか。
突如の見知らぬ男。
どうしても、警戒心が湧く。
冷めつつある汗が急に冷たく感じられ、彼女は腕をキュッと閉め身を強張らせた。
「おおっと!そう警戒しないで下さい!私は旅の吟遊詩人。先程、見た目麗しい貴女様の悲壮漂う顔を目に致しまして、この私……――」
些か早口に捲し立てるこの男、どうやら旅の吟遊詩人らしい。
そう言えば、腰に楽器らしき物が吊り下げられている。
「どうでしょう?御慰めに一曲、如何ですかな?悲しむ女性を慰める……、これも我ら詩人の大いなる務め!」
「は…、はぁ……」
吟遊詩人の畳み掛ける口八丁に圧倒される牛飼い娘。
つい腕を降ろし、汗で透けた胸を露にしてしまう。
薄いシャツに透けた下着を、男は見逃さなかった。
――おっ?!やっぱり極上の躰してやがるぜ、このガキ!
「そうだ、お嬢さん!詩の前にこれを嗅いで貰えませんか?」
彼は、後ろに隠し持っていた小瓶を差し出し、彼女の前で蓋を開ける。
「これは我が家に伝わる秘薬でして、一度嗅ぐだけで唄の効果が高まり、気分が大変高揚致します!勿論、お代は結構!」
不審がる彼女を可能な限り柔和な笑みで語り掛け、言い包めていく。
「……じゃあ、少しだけ……」
すれ違う彼との関係が、隙を生んだのだろうか?
牛飼い娘は、自分でも気付かない内に小瓶の匂いを深く吸い込んだ。
「……あ…れ…r……」
――何か…、ボ~っとす……る……?
時間にして数秒、牛飼い娘の意識は途絶え、その場に倒れ込む。
その様を目にし、男の顔はギラついたニヤケ面に変貌した。
「へへっ、巧くいったぜ!」
男は手早く、近くの茂みに彼女を連れ込み、汗で湿った衣服へと手を掛ける。
オーバーオールの留め金を容易く外し、シャツを下着ごと一気に捲り上げた。
その手付きは慣れ切っており、瞬く間に彼女の胸と陰部だけをはだけさせた。
「前から目を付けてたんだよなぁ、この雌ガキ!」
無防備な彼女の胸を揉みしだき感触を愉しみながら、一人ごちる。
「チョロいもんだぜ、俺様の手に掛かればよ!」
年齢不相応に発達した胸の先端部を乱暴に摘まみ上げながら、悦に浸る。
最早、周囲の事など気にも留めていなかった。
「さぁてっと!」
彼女の脚を無理やり開かせ、行為の準備に移る。
「では早速……」
既に硬直した自分の陰茎を、押し込もうとした瞬間――。
『そこまでだ!!』
其処には吟遊詩人に槍を突き付ける、鬼の形相を浮かべた衛兵と――。
『人間性を差し出すか!貴公……!!』
フードの奥から橙色の眼光を滾らせ『鋭利なシミター+3』を詩人の頸に当てがう、火の無い灰の姿が――。
…
……
………
牛飼い娘に魔手を伸ばした下手人は、後ろ手に縄を縛られ、敢え無く衛兵に確保される事となった。
吟遊詩人の顔は至る所青アザだらけで、ボコボコに腫れ上がった何とも無残な貌を曝け出していた。(←ご愁傷様)
中途半端に美形だったのが却って仇となり、自らの恥を上塗りするだろう。
衛兵は曰く。
この吟遊詩人は数日前にこの街に流れ着き、方々の女性を口説き回っては言葉巧みに人気の無い場所へと誘い出し、先程の薬を嗅がせて行為に及ぶという悪行を繰り返していた様だ。
それが発覚したのは、昨晩の女性から被害届が提出された事に起因する。
どうやら薬品に強い耐性を有していた体質らしく、行為中朧気ながらも記憶が残っていた為だ。
衛兵は直ちに対策を講じ、男の特徴を可能な限り割り出し警戒に当たっていたのである。
そして文字通り、お縄を頂戴した吟遊詩人は悔し涙と共に、衛兵に連行されて行った。
今後、あの吟遊詩人は多大な賠償と責任を背負わされる事になるだろう。
完全な自業自得である。
その後、牛飼い娘の乱れた衣服を元通りに直した灰は彼女をおぶり、牧場へと足を向けた。
成るべくゆっくりと歩いていたつもりだったが、僅かに続く振動で彼女は目を覚ます。
「あ…の…、此処は……?」
「お目覚めか?」
「……?!えっ?……え?!……何で…?、剣士…さん……?」
動揺する彼女を余所に、灰は事の顛末を説明した。
衣服を脱がされ、行為に及ぶ寸前だった事は伏せておく。
「……そう……、だったんですか…。……あ~あ、ダメだなぁ……、アタシって」
彼女は灰に背負われながら、藍に染まりつつある夕空を仰ぎ見た。
「……少し、休むと良い……」
灰は彼女を気遣う。
「……うん……」
力無く返事をする彼女。
その声は何処と無く弱々しい。
牧場へ向かう間、両者とも無言であったが、突然灰から話し始めた。
「彼等の名誉の為に言っておく。君の想像している様な関係では、断じて無い。…断じてな!」
「…えっ?!」
余りに唐突な事実を告げられた事に、彼女は戸惑いを隠せないでいる。
最も知りたかった彼の事が、予想もしていないタイミングで告げられたからだ。
「ギルドで聞いた。あの二人は、ゴブリンの生態調査を兼ねて、討伐を行っている。そして、得た知識を記録する事で、一つの書物を完成させようとしている」
灰の言葉に、無言で耳を傾ける牛飼い娘。
「それに、彼の事は君自身が最も理解しているんじゃなかったのか?」
灰の言葉に彼女は”そうだ!”と言う事が出来なかった。
正直分からなくなりつつあるのだ、彼の事が。
灰に背負われながら、彼女は俯き押し黙ってしまう。
「それとも望んでいるのか?彼に特定の相手が出来る事を――」
「…?!そっ!そんな事っ…!そんな事あるわけっ……!」
核心を突かれ、流石の彼女も感情を露にする。
掴む灰の肩に、思わず力が籠る。
だが、か弱い少女の力などモノともせず、彼の言葉は続く。
「ならば、彼を信じ続けてやってほしい」
「…え?」
その言葉に、またも戸惑う彼女。
「彼は、孤独だ……。今の私以上に」
「……」
彼は『孤独』。
それは彼女自身も、よく理解していた。
ゴブリンに故郷を奪われ、5年振りに再開した幼馴染の彼。
しかし、待っていた現実は、変わり果ててしまった彼。
ゴブリンを殺す事だけに心血を注ぎ、大事なナニかを何処かへと置き去りにしてしまったかのような変わり様。
叔父は言うに及ばず、可能な限り彼の傍に居続けようとした彼女とも、良好な関係を築けているとは到底思えない。
「ゴブリンを殺戮するという深淵の狂気に呑まれない為にも、誰かが彼を繋ぎ止める必要があると、私は思う」
「…繋ぎ止める…」
彼の言葉をうわ言の様に呟く彼女。
「本当の孤独に至った時……、彼は狂気の亡者と化すだろう」
「そっ…、そんなっ…!彼が亡者なんて……!」
彼女の脳裏に、思い出したくもない光景が蘇る。
数週間前、牧場に突然現れた漆黒の騎士『ダークレイス』。
その『ダークレイス』に、彼は亡者寸前に迄追い詰められたのだ。
今は正常だが、あの時の彼は本当に身の毛がよだつ冒涜的な素顔に変貌していた。
それは、宛ら亡者の如き素顔を晒し、直視すら出来かねたのだから。
「なればこそ。君の様な支えが要る。…君を置いて、他に居るまいさ」
「……剣士……さん……」
――頼む、彼を支え続けてやってくれ――
その言葉を最後に、彼等は牧場へと到着した。
牛飼い娘の帰りが遅いため牧場主からの小言が飛んで来たが、灰の執り成しで深く責められる事は無かった。
辺りはすっかり夜の闇に包まれ、牛飼い娘が”お礼をしたい”とシチュ―を馳走してくれる事になった。
空腹だった事も手伝い断り切れなかった灰は、結局馳走になる事にした。
「……そうか……。そんな不埒な輩が……!」
厨房に立つ牛飼い娘に聞こえない様声を抑えながら、今迄の経緯を説明した灰。
義理の親とは言え、これまで大事に育ててきた姪だ。
見知らぬ男の毒牙に危うく懸かり掛けた事実を告げられ、厳しい顔付きに成る牧場主。
「その男は既に確保されています、ご安心を」
灰の言葉に牧場主は、取り敢えずの安堵を漏らした。
「いや、スマンね。彼だけでなくあの子まで、助けて貰って……」
「いえ。たまたま、不審人物を偶然見掛けたに過ぎなかっただけです」
「この街の住民には、そんな不埒な輩は居ないだろうが、流れ者にはもう少し注意が必要だな」
そんな会話を繰り返している内に、牛飼い娘が鍋を運んで来てくれた様だ。
「は~い!お待ちどう様~!」
鍋から何とも食欲をそそる香りが漂って来る。
「おおっ、良い匂いだ……」
匂いだけでも充分に満たされた気分になる。
僅かに甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
トウモロコシを使っているのだろうか。
「沢山作ったから、好きなだけ召し上がれぇ♪」
三人は食卓に着き、祈りの言葉を唱えた後、食事を始める。
灰は、シチューを掬った木製のスプーンを口へと運んだ。
すると、どうだろう。
舌が味を感じ取った瞬間、塩見とほのかな甘みが口全体へと染み渡る。
「……美味い……」
思わず口から出る、素直な言葉。
冒険者用の食堂も決して悪くはなかったが、牛飼い娘の作ったシチューは言葉では言い表せない別の美味しさがあった。
彼はすぐさま、肉を野菜を穀物を、次々と口へと運んだ。
「これは、本当に美味い!」
灰の素直な感想に、彼女も笑顔で返す。
「出来れば、彼にも美味しいって言葉言って欲しかったんだけどなぁ~」
牛飼い娘は、若干遠い顔で告げた。
「なんと?それはイカンな!彼には私から告げておこう」
「ホントぉ?お願いねぇ!」
その後彼は黙々と口に運び、皿に盛られたシチューはあっという間に空になっていた。
「おおっ、早いね~。良かったら、おかわりいる?」
”沢山作った”と言う牛飼い娘の言葉に、灰は”是非お願いする”と頼み込み腹が膨れる迄、鍋の三分の二を平らげてしまった。
――ぬ?私とした事が、少し厚かまし過ぎたか?
シチューの殆どを灰が食べてしまい、鍋の中は残り僅かだ。
精々、2食分有るか無いか位の量しか残っていない。
「も、申し訳ない……!つい、調子に乗って……」
灰は、気まずそうに頭を下げた。
「いいの、いいの。これ位食べてくれた方が、作った甲斐があるってもんだから!」
「ははは、その通り!口に合って何よりだ!」
牛飼い娘と牧場主は”何も気にする必要はない!”と、笑顔で受け止める。
――本当に、良い人達だな。私には勿体ない位だ。
人々からもたらされる、小さくも確かな温かさ――。
これもまた、新たに灯った火なのかも知れない。
彼の時代、火が陰る事で失われ廃れてしまった、生命の営み。
いや、火が陰る前の黄金期にも、確かに存在していた筈なのだ。
だが永遠などは、決して存在しない。
新たに宿ったであろうこの時代の『火』も、何時の日か陰る時がやって来るだろう。
――必ず――
その時、この世界も再び闇が侵食し、あの冒涜的な時代へと突入してしまうのだろうか。
生命も。
営みも。
温もりさえも。
そして不死が蔓延し、人の形をも歪められ――。
亡者が溢れる時代がやって来るのかも知れない。
その時、この世界の住人達は、どう向き合うのだろう。
…
……
正直、考えたくもなかった。
それに考えた処で、何の意味も成さない。
それを迎えた時代、今の自分は間違い無くこの世を去っているのだから。
そもそも、自分が何かを考察し対策を練る役割を担っている訳でもないのだ。
今の自分が成すべき使命は――。
火を継ぐ事ではないのだから。
――そう、今の私は火継ぎの使命からも解放されている。生者に生まれ変わったことが、何よりの証だ。
「おや、具合でも悪いのかね?」
思案に耽る灰を気遣い、牧場主が心配そうに声を掛けて来た。
「?!…あ、いえっ!…失礼、つい考え事を……」
ふと我に返った灰は、慌てて”何でも無い”旨を伝える。
「…そうか。差し出がましい様だが、君も余り切り詰めるのは良くないぞ。……程々にな」
ゴブリンスレイヤーと今の灰を何処と無く重ねたのだろう、嗜める様な声だが、灰には有難く聞こえた。
「御忠告、痛み入ります」
灰は軽く頭を下げ、その言葉を受け止める。
牛飼い娘は食器の片付けの為、厨房に移動していた。
「それでは、そろそろギルドに戻ります」
灰は、立ち上がり戻る事にした。
少々、長居し過ぎてしまった様だ。
本来は、ゴブリンスレイヤーと孤電の術士との関係を疑う、牛飼い娘の誤解を解く事が目的で此処に赴いたのだ。
途中、予期せぬ些事が介入したが故に、夕食まで馳走になってしまった。
これ以上の長居は、灰にとっては抵抗を禁じ得なかった。
「おや、もう帰るのかね?」
「ええ。彼に宜しく、言っておいて下さい」
「そうか。もう夜だ、道中気を付けてな」
母屋を去る灰を見送る為、 牧場主と牛飼い娘は出口まで彼を見送る。
「今日は本当に有難う。また来てねぇ!」
「ああ。今日のシチューは格別だった。では……」
「お休みぃ!」
食事前まで、牛飼い娘は敬語で灰に対応していたのだが、今は常態語に変化していた。
助けてくれた事で、灰に親しみを感じてくれたのだろうか。
『貴人の一礼』で応えた後、彼はギルドへと帰路に着いた。
夜も更け、冒険者ギルドは、依頼を終えた冒険者で賑わっていた。
結果を報告する者、報酬を受け取り酒場へ直行する者、明日の準備に取り掛かる者、実に様々だ。
「さて、明日からまた活動だ。まだ時間もあるな、どうしたものか?」
ギルドへと着いた灰は、明日の予定に思案を巡らせていた。
その時である。
『剣士ぃっ!灰の剣士は、居るかぁっ!!』
突然の怒号と共に、ギルドの扉が勢いよく開かれる。
”何事だ?!”と、周りの冒険者達は扉の方へと視線を向けた。
当然灰もその方角へと、目を向ける。
「何だ何だ?」
「あの女は?」
「灰の剣士と知り合いか?」
「あの女、確か…川沿いの……」
冒険者達が、ざわつき始めた。
声の主は女……、若い女性だった。
だが、その眼は異様に興奮し切っていた様に見える。
鈍い緑眼は灰を鋭く捉え、口元は吊り上がり不気味な笑みを形成している。
正直、あまり関わりを持ちたくない顔付きであった。
「あの人、……ちょっと怖い……」
重戦士一党の一人、圃人の少女巫術士は完全に委縮してしまっている。
声の主は、火の無い灰を発見し、にじり寄る。
「おお、居た居た。剣士君、今夜は付き合って貰うぞぉ!」
「……誰かと思ったら貴公か。そんなに叫ばなくても聞こえてる」
若干の溜息を吐きながら、声の主に向き直った。
「……で、何事か?そんなに血相変えて」
声の主、孤電の術師は手をワキワキさせながら、獣の如くゆっくりと灰に、にじり寄った。
流石の灰も、これには気圧され後ずさる。
因みにゴブリンスレイヤーは、牧場に帰っていた。
「今夜は寝かさんぞぉ?たっぷりと付き合って貰うからなぁ……剣士君っ!!」
――さぁ、『夜』を始めよう――。
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深みの貴石
楔石が変質化したという貴石。
深みの聖堂、その澱みに生じるもの。
武器の変質強化に使用され深みの武器を作る。
深みの武器は闇攻撃力を持つが能力補正は消失してしまう。
そこは人智の届かぬ暗闇なのだ。
多くの人は知らない。
闇もまた光と表裏一体であり、決して切り離す事が出来ない宿命に。
そして闇は決して邪悪ではなく、人の可能性……。
宇宙を模しているのだと――。
如何だったでしょうか?
時間軸としては、ゴブスレさんと孤電の術士が、二人でゴブリン退治をしている時期ですね。
牛飼い娘は、何とか悪人の魔手から逃れる事が出来ました。
良かった良かった。
灰の剣士も彼と彼女の関係修復に、一役買っています。
その効果の程や如何に?
次回は、オマケ話です。