ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 今回もオマケ話です。

そんな話より早く本来のシナリオを書けや!
そう文句を言われても、反論の余地がありません。
こんな事ばかり書くから、無駄に長くなる……、自覚しています。

しかし折角のファンタジーモノですから、ゴブリン以外の冒険も書いてみたい。
ゴブスレさん以外の一党との共闘も書いてみたい。
そんな願望があった為、今を置いて他は無い。
そう思い事に至った次第です。

では投稿します。


第38.5話B―槍使い一党との邪教徒退治(前編)―

 

 

 

 

 

 

火矢(ファイアボルト)(真言魔法)

 

 サジタ(矢)…、インフラマエ(点火)…、ラディウス(射出)

 射程内の対象に、火で生成された魔法の矢を放ち、攻撃する魔法。

 この魔法は、威力を重視した呪文で耐久に優れたホブゴブリンでさえ

 一撃で即死させる威力がある。

 

 本来は単体で射出するが、熟練者や実力次第では複数同時に放つ事も可能。

 また散弾状や連射弾、収束させた高速弾に加工する事も出来る。

 

 そこまでの使い手は、現在では殆ど存在していない。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 魔女は、頼みたい事が有る様だ。

 

内容にもよるが、話を聞く価値はあるだろう。

 

 

 

因みに掲示板に残っていた依頼はというと。

 

 

 

楽しく湧き合い合いとしたアットホームな素晴らしい労働。

 

――ギルドの裏にて マ・キ・ワ・リ 100束――

 

報酬額、銀貨15枚……だそうだ。

 

 

 

最早、戦闘要らずの単なる雑用である。

 

完全に白磁向けの依頼内容だ。

 

 

 

灰は、彼女の言葉に耳を傾ける事にする。

 

彼女の話によれば、古い地下遺跡に住み着く邪教徒が近隣の村から住人を攫い、連れ去ってしまったとの事だった。

 

運良く邪教徒の束縛から逃れた村人が、大急ぎで冒険者ギルドに助けを求めて来たらしい。

 

当然人口の減った住人達では、報酬額を工面出来る筈も無く、事態を重く見たギルドから依頼を出す事にした。

 

邪教徒の暗躍とあらば、ギルドも軽視する訳にはいかない。

 

今回の依頼内容は、遺跡の調査と其処に住む邪教徒の偵察であって、討伐が主目的ではない。

 

可能ならば討伐せよ、と付け加えられていた。

 

「邪教徒……か。依頼用紙を見せてくれるか」

 

 詳細情報を自分で確認したい為、彼女に用紙の回覧を要求するが、現在槍使いが受付まで確認の為に持って行ってしまっていた。

 

「…ん?内容をわざわざ確認?不備でもあったのか?」

 

 槍使いの行動に首を傾げるが、魔女が苦笑しながら語り掛ける。

 

「彼、ね。読み、書き、でき、な、いの」

 

「……」

 

 魔女の告げられた事実に暫し無言になる灰。

 

「意外だな。何時も自信に溢れていたから、てっきり――」

 

「彼、すこ、し、見栄っ張り、なとこ、ろ、ある、から……、背伸び、する、事、多い、わ」

 

 魔女の言葉に灰は納得する。

 

――そうか。彼には彼の事情があるのだろう。

 

「承知した。私で良ければ、協力させてくれ」

 

 灰は一礼を加え、助力を承諾した。

 

「ほん、と?た、すかる、わ」

 

 彼女が礼を述べると同時に槍使いが戻って来る。

 

「よう、待たせたな!内容に偽りは無い様だぜ!」

 

 上機嫌な顔で語る槍使い。

 

お目当ての受付嬢と会話出来て嬉しかったのだろう。

 

「……っと、よく見れば灰の剣士じゃねぇか。どうしたんだ一体?」

 

「彼、に、手伝って、もら、う事に、した、わ」

 

「ん……、ああ……。ま、しゃ~ねぇわな。相手は邪教徒だ、どんな手を使って来るか分からねぇしな」

 

 些か腑に落ちないといった顔だったが、反対している訳ではない様だ。

 

恐らく、自分達の力だけで解決したかったのだろう。

 

気持ちは分からなくもない。

 

「確かに邪教徒となれば、奇跡やおぞましい術を使うだろう事は予想が着く。俺達には回復役が居ないし、アンタは奇跡も使えるんだっけか?」

 

「ああ。余り高位の奇跡は行使出来ないがな」

 

「じゃあ、頼むか。協力してくれ!」

 

「微力ながら、宜しくお願いする」

 

 貴人の一礼で応え、槍使いと魔女の一党に臨時で参加する事にした。

 

既に出立の準備は整えている。

 

ギルドを出た一行は、速度に優れた馬車を借り、現場まで急行した。

 

先ずは情報を得る為に、遺跡付近の村を目指す事にする。

 

方角は此処より、南西に数時間向かった先だ。

 

馬車を走らせること暫く――。

 

村へと到着した一行は、住人から聞き取りを開始する。

 

住人の大半が邪教徒に拉致され、逃げ延びる事が出来た者は僅かだった。

 

彼等の話を聞いた限りでは、目的の邪教徒は徒歩で数時間の山奥に在る、古びた遺跡を根城にし、日々怪しげな儀式を行っているらしい。

 

近隣のこの村が標的にされ、住人が根こそぎ拉致された。

 

拉致には、巨大な木の化け物や悪魔を使役し、大勢の村人を攫ったらしい。

 

自分達は運良く牢籠の鍵が外れ、脱出に成功したとの事。

 

当然、すぐさま街のギルドへ救援の要請に行ったが、冒険者に支払う報酬額が工面出来なかった為、ギルド自らが報酬を用意してくれた。

 

「お願いします!どうか助けて下せぇ!」

 

「おら達の娘夫婦や、孫も攫われちまった」

 

「子供達も含まれているだ、頼んます!」

 

 村人達が涙ながらに懇願する。

 

「任せな!俺達が来たからには、もう大丈夫だ!」

 

 槍使いが意気込み、村人達を元気付けた。

 

 

 

――罪も無い子供達まで犠牲にしようとは、許せん!

 

 

 

灰も決意を固める。

 

本来は、遺跡と邪教徒の偵察が主目的だが、時間を置けば犠牲者が増すばかりだ。

 

討伐も視野に入れ、一行は遺跡を目指す。

 

草木の生い茂った山道を歩く事1時間と少し、茂みに隠れた苔だらけの入り口を見付けた。

 

 

 

 

 

――古く朽ちた遺跡――(←ボォォ~~ン《ダクソ特有のあの効果音》)

 

 

 

 

 

 かなり古いのだろうか、入り口には元が何だったのか判別も着かない朽ちた彫像が建っていた。

 

「エラく古いじゃねぇか。こんな中に邪教徒が……?」

 

 余りに古びた遺跡に、疑問符を浮かべる槍使い。

 

本当に村人達と邪教徒が居るのだろうか。

 

「まち、がいな、いと、おもう、わ。だって、遺跡、ここ、しかな、いのだから」

 

 独特の口調で魔女が発言する。

 

 

 

――禍々しいソウルを奥から感じる。此処で間違い無い。

 

 

 

ソウルの感知で、灰は此処だと確信していた。

 

「っしゃぁっ!行くぜ、気合入れろよぉ!」

 

 彼なりに鼓舞してくれているのだろう。

 

槍使いを先頭に、魔女、灰の順に遺跡へと侵入して行く。

 

「明かりが灯されてやがる。ランタンは要らねぇか」

 

 視界を確保する為にランタンを腰に釣るしていたが、魔法の類だろうか?

 

壁面には人工の灯かりが点在し、松明やランタン等の照明具は必要ない様だ。

 

”油が勿体ない”と槍使いはランタンを消し、更に奥へと歩を進める。

 

灰は槍使いの或る変化に気が付いた。

 

「ん?貴公の使っていた槍、持ち手が随分短くなっている様だが……?」

 

 彼の使っていた槍は確か『ロスリックの長槍』だった筈だ。

 

その持ち柄がが半分以下の長さになっていた。

 

「ああ、その事か。短くしてもらったのさ。あのままだと長過ぎて、取り回しがどうも…な」

 

 確かにあの槍は少々長い。

 

野外戦闘ならともかく、屋内の閉所で仲間を伴って戦うのは危険が増す。

 

下手に振り回せば、味方にも危害が及び兼ねない。

 

それに短くなればリーチは縮まるが、軽量化され攻撃速度と取り回しが格段に良くなり、汎用性が増す。

 

賢明な選択肢と言えた。

 

差し詰め『ロスリックの長槍』から『ロスリックの槍』へと変貌を遂げたと云った処か。

 

暫く周囲を警戒しながら慎重に進んでいたが、罠や敵の襲撃も無く狭い通路に差し掛かった。

 

「なん、にも、ない。却って、不気味、よ」

 

「クソ!何なんだ?これで何にも無かったら、完全に無駄足だぜ!」

 

 魔女と槍使いの会話を余所に、灰は或る異変に気が付いた。

 

「一旦停止だ!左右の台座に水晶らしき物体が在る。…何だか見覚えが有る様な物体だが――」

 

 灰の言葉通り足を止めた一行。

 

辺りを見回してみれば、狭い一本通路の左右に小さな台座が在る。

 

それが幾つも存在し、台座の上には水晶らしき物体が載せられていた。

 

灰は台座の水晶に見覚えがあり、その水晶は赤く輝いている。

 

「魂、石、ね。ずいぶ、ん、小さい、けど」

 

 魔女の指摘通り、台座の水晶は魂石だった。

 

灰の所持している物に比べ、かなり小さい。

 

サイズとしては、極小サイズだろう。

 

「我々の接近に伴って赤く輝いているな。それらが奥の出口迄幾つも……」

 

 灰は目を凝らし、通路の出口であろう奥まで視線を送る。

 

「この反応だと多分、罠……だな」

 

 槍使いが推察する。

 

多分そうだろう。

 

「私が近付いてみる」

 

 先ず、灰が名乗りを上げ警戒しながら台座の魂石へと近付く。

 

「危なくなったら直ぐ逃げな!」

 

「気を、つけ、て」

 

 二人の心配する声を受け、灰が台座に近付く毎に魂石の赤い輝きが一層増す。

 

――もう少し近付けば、多分……!

 

「――っ!!」

 

 至近距離まで詰めた途端、魂石から炎が勢い良く吹き出し、灰を焼焦がさんとする。

 

反射的にバックステップで回避し、彼が離れると炎も停止した。

 

それに伴い台座の魂石も、輝きを無くす。

 

「おいっ!大丈夫か?」

 

「……ああ、何とかな!」

 

「こう、いう、仕組み、だった、の、ね」

 

 近付いた者を炎で炙る罠。

 

魂石を使い、条件さえ満たせば自動で発動する。

 

それが通路一直線にビッシリ。

 

魔法を駆使した罠。

 

厄介な事この上ない。

 

「全力疾走で駆け抜ければ、行けそうだな」

 

 距離を詰め罠を発動させた結果、炎が吹き出すにも若干の時間差があった。

 

その時間差を利用して、一気に奥まで走り抜ける。

 

突破出来る可能性は、十分に有るだろう。

 

しかし――。

 

「俺達はまだ良い、戦士職だからな。……問題は――」

 

 槍使いと灰は、魔女に向き直る。

 

どうやら彼女も、此方の意図を察したらしい。

 

「ごめ、なさ、いね。わた、し、脚、おそ、い、の」

 

 申し訳なさそうな顔で、俯く彼女。

 

「くそ!行き詰まりかよっ!」

 

 槍使いは悔しそうに、歯軋りする。

 

「……まだ手は有る」

 

「え……、ある、の?」

 

 灰はショートボウと矢を取り出し、射撃準備に移る。

 

「おい、何する気だ?」

 

「単純な方法だが……、まぁ見てろ」

 

 灰は透かさず矢を放ち、近くの魂石を砕いた。

 

台座の魂石に矢が命中し、その衝撃で水晶が粉砕される。

 

「そうか!破壊すりゃ良かったんだ!」

 

「時間は掛かるが、確実だろう」

 

「人質、も、居る、ん、だし、諦め、られな、いわ」

 

灰の様子を見た槍使いは”片方は任せろ”と槍で片方側の通路を担当する。

 

こうして灰の弓矢と槍使いの槍で、通路の魂石は悉く破壊された。

 

「よぅし!これで先へ進めるぜ!」

 

 罠の心配は無くなり、通路を抜ける一行。

 

殆ど一本道なのだろうか。

 

構造自体は広いが、迷う様な複雑な遺跡ではなかった。

 

壁面には、絵や朽ちた彫像に加え、掠れた文字らしき記号が描かれている。

 

「アンタ、古代文字はある程度読めるんだろ?」

 

 槍使いは灰に訊ねてみる。

 

灰は一通り壁面に視線を泳がせるが、首を左右に振る。

 

「ダメだ。判る単語が幾つかあるが、殆どが読めない文字ばかりだ」

 

「あな、たでも、わか、ら、ないの、ね?」

 

――恐らくは、私が火を消した後の時代…、『宵闇の時代』だったか?その時の時代に建てられた建造物みたいだな。

 

灰は、そう当たりを付ける。

 

文字は分からなかったが、絵や朽ちた彫像の方で何となく察しが着いた。

 

騎士らしき人物が篝火を消す様子が、順に絵で示されていたからだ。

 

殆どボロボロだったが、頭部は上級騎士の兜、胴体部は銀騎士の鎧に酷似している、半ば朽ちた彫像。

 

傍らには、火防女の像まで在る。

 

間違い無い、この彫像は自分を模した物だろう。

 

 

 

――時代を後世に伝える為の建造物だったのかも知れんな、この遺跡。

 

 

 

自ら『最初の火』を消し、一つの時代を終わらせた。

 

その後に訪れる、暗闇の時代。

 

後に再び宿る『二度目の火』。

 

 

 

――再び宿った『二度目の火』の時代で尚、あの時代と関わるか……。

 

 

 

「……因果だな」

 

 誰にも聞こえない小声で、一人呟く灰。

 

一行は奥へと進行する。

 

 

 

 

 

壁面の絵や文字には目もくれず、一行は只管奥へと進む。

 

扉の無い入り口から、一際明るい光源が漏れている。

 

この奥先が最奥だろうか。

 

入り口を潜った三人が目にした光景――。

 

巨大な5体の彫像の前に跪き、魔法陣の中央で何やら口走り、頭を垂れる人物が一人。

 

付近には、大型の牢籠に大勢の人間が捕まっていた。

 

十中八九、人質となった村人達で間違い無いだろう。

 

村人達は絶望で、目が既に死んでいる。

 

中には幼い子供達も交じっていた。

 

巨大な彫像群の前には台座が在り、人一人が載せられていた。

 

すぐ傍には、巨大な魂石らしき水晶が鎮座している。

 

何が詰まっているのかは分からないが、魂石は淀んだ黒色に染まっていた。

 

何処からどう見ても、神聖な儀式とは程遠い。

 

その光景は、深みの聖堂を彷彿とさせる。

 

だが躊躇している時間は無い、間を置けば新たな犠牲者が増えるだろう。

 

「そこまでだッ!邪教徒めっ!」

 

 槍使いが叫び、三人は一気に躍り出た。

 

牢に居た村人達がそれに気付き、ざわつき始める。

 

「もうちょっと我慢してくれっ!直ぐ助けてやるからな!」

 

 槍使いが呼び掛け、頭を垂れていた人物は漸く頭を上げた。

 

「……無粋な輩め。我が崇高な祈りを邪魔するとは……、生きて帰る事は出来んぞ!」

 

 その人物はローブを羽織り、金属製の派手な杖を携え、此方に向く。

 

――あれは『主教のローブ』。まさか、深みの主教の一人?

 

灰は、羽織ったローブに見覚えがあった。

 

しかし感知出来たソウルは、亡者とも不死人とも違う生者のソウルであった。

 

――どうやらこの時代の人間らしいな。

 

更に巨大な5体の彫像。

 

鬼らしき像、女らしき像、獣らしき像、デーモンらしき像、そして中央の人らしき像。

 

その内、2体にも見覚えがある。

 

――一つは『デーモンの王子』に似ている。そして、もう一つ……。

 

5体の中から中央に鎮座する、一つの彫像。

 

似過ぎるほどに似ている。

 

月光に照らされし冷たくも荘厳で美麗な都市、『冷たい谷のイルシール』。

 

そのイルシールの支配者――。

 

 

 

        ――法王『サリヴァーン』――

 

 

 

あの邪教徒は、サリヴァーンの関係者だろうか。

 

灰は槍使いより前へと歩み出す。

 

「ほう……、不敵な奴よ。余程我が贄になりたい様だな」

 

 邪教徒はニヤケ付く。

 

「傍に在る台座の人物……既に絶命しているか」

 

 邪教徒の傍に鎮座する台座。

 

載せられていた人物は既に呼吸も停止し、苦悶の表情を浮かべ完全に死んでいた。

 

苦痛を受けながら死んでいったのだろう。

 

「その巨大な魂石に宿っているのは、ソウルだな!」

 

 その言葉に若干驚きつつも、邪教徒は”その通りだ!”とほくそ笑む。

 

「良く知っているではないか!何者だキサマ?」

 

 邪教徒は灰を睨むが、彼も腰のシミターを抜き睨み返す。

 

「…只の剣士だ!」

 

 灰は戦闘態勢に入る。

 

「ひでぇ事しやがる。覚悟は出来てんだろうな!」

 

「貴方、許せないわ!」

 

 槍使いと魔女も自分の武器を構え、眼前の邪教徒を見据えた。

 

「クックックッ……、一般人のソウルにも少し飽きた所だ。丁度良い。きさま等冒険者共のソウルで魂石を満たし、我が主の供物としてくれる!」

 

 自信あり気に哂う邪教徒。

 

「だが崇高な私が相手をしてやる迄も無い」

 

 手にした杖を掲げ、呪文を詠唱する。

 

「さぁ、我が忠実なる僕よ!この不届き者共を捕らえよっ!!」

 

 中央の魔法陣が光り輝き、陣から木の巨人が姿を現した。

 

「な、何だ?あの巨人は?!」

 

 槍使いには初めての光景なのだろう。

 

槍を構え直し、慎重に敵の戦力を測る。

 

「魔法、生物、『ウッド、ゴーレム』ね」

 

魔女が分析した。

 

「魔法生物……」

 

――ロードランやドラングレイグ時代にも見掛けたな。似た様な存在を。

 

木の巨人を見た灰は、古代の残滓を垣間見た気がした。

 

 

 

魔法生物『ウッドゴーレム』

 

硬い樫の木を媒介に、魔力で活動する巨人。

 

術者の命令通りに行動し、様々な用途に使役される。

 

必ず樫の木である必要はない。

 

 

 

「相手が木なら火が有効か。まだ分かり易い方だ」

 

 灰はシミターに手を添え、呪術の火を行使する。

 

「カーサスの孤炎!」

 

 忽ちシミターが炎に包まれ、刃が炎熱化した。

 

「なぁ、そのエンチャント。俺の槍にも出来ねぇか?」

 

 それを見た槍使いが、槍を差し出してきた。

 

「……試した事は無いが、やってみよう」

 

 火継ぎの時代では、終ぞ試す事の無かった他人へのエンチャント。

 

「カーサスの孤炎!」

 

 槍の先端に手を翳した後、瞬く間に炎が宿る。

 

「成功、ね」

 

「うぅし!恩に着るぜ、これで有利に戦えらぁっ!」

 

 意気込む槍使いが戦意を高揚させ、敵に対峙する。

 

再び敵に向き直ると同時に、ウッドゴーレムが突撃を開始した。

 

樫の木独特の足音を立てながら、冒険者達に殴り掛からんとする。

 

「俺は右を!アンタは、左から頼むぜっ!」

 

「承知!同時に行くぞ!」

 

「サジタ…、インフラマエ……」

 

 それぞれが迎撃の構えを取り、敵を見据える。

 

「オゥラアァァッ!!」

 

「セィアッ!!」

 

 灰と槍使いが同時に疾走し、ウッドゴーレムの拳を掻い潜る。

 

ウッドゴーレムの拳は、二人を捕らえる事無く空振りし、石畳を打ち付けるだけだった。

 

「「貰ったぁっ!!」」

 

 二人の剣と槍が、敵の大腿部に当たる部分を切り付け、損傷を負わせつつ駆け抜けた。

 

カーサスの孤炎で炎熱化された刃は、切り抉ると同時に炎上を引き起こす。

 

木で構成されたゴーレム。

 

火が良く燃える。

 

しかし――。

 

「――思っていたより、硬い?!」

 

「もう一回やるぜっ!」

 

 踵を返し、再度敵に突進。

 

灰が先陣を切り、槍使いが後に追従する。

 

ウッドゴーレムは、灰目掛けて腕を振り払った。

 

「結構速いな、見切れない程ではないがっ!」

 

 想定以上の速さに違和感を拭えなかったものの、屈んでそれを躱す。

 

しかし、敵を腕を切り返し再度振り抜いて来た。

 

「――これしきっ!」

 

 迫る腕目掛けて、袈裟懸けにシミターを振るう。

 

燃え盛る刃は、ゴーレムの腕を捕らえ、炎熱と裂傷の二重の痛痒を与えるが――。

 

「やはり硬いっ?!」

 

 灰自身ウッドゴーレム自体は初めてお目に掛かる。

 

しかし、付与され楔石で強化されたシミター――。

 

相手が魔法生物とは云え、先程の初撃で切断出来ても何ら不思議ではなかった。

 

結局は損傷を与えるに留まり、敵の間合いから一旦離脱する。

 

『――ラディウス!』

 

 突如、別方向から真言魔法『火矢』が飛来し、ウッドゴーレムの胸部に命中した。

 

魔女が呪文を行使したのだ。

 

火矢により、胸部が弾け飛び、中から変色した木片が露出する。

 

「今、よ!核、貫いて!」

 

 火矢を放った後、魔女が弱点を指摘した。

 

「任せなぁっ!」

 

 槍使いが叫ぶと同時に、全力で跳躍。

 

そして胸部の核目掛けて、渾身の力で炎熱化された槍を突き出す。

 

穂先は狙い過たず、ゴーレムの核を貫通し、その身体を構成していた木材は燃え上がりながら瓦解してゆく。

 

今のでウッドゴーレムは、完全に絶命したようだ。

 

いや、活動停止と言った方が、正しいだろうか。

 

「おぅし、仕留めたぜ!」

 

 槍使いが戦果を確認し、勝利を確信する。

 

「だが、予想以上の防御力だった。何か切り札を隠しているやも知れん」

 

 灰は、ウッドゴーレムの防御力に疑念を抱いていた。

 

「確か、に、ちょっと、怪しい、わ。あの、魔法、陣、特に……」

 

 魔女も同意し、邪教徒の足元に描かれている魔法陣を注視する。

 

「だとしてもよ!アイツを倒し、依頼を完遂してから考えれば良いのさ!どの道戦闘は避けられねぇんだからよ!」

 

 確かに槍使いの言う通りだ。

 

もう此処迄来たのだ。

 

あの邪教徒を倒し、村人を救う。

 

その事自体、何ら変わる事は無いのだ。

 

三人は再び集結し、眼前の邪教徒を睨み付ける。

 

「クククク……、たかがウッドゴーレムごとき倒した位で、調子に乗るな!今のは、我が崇高な切り札の時間稼ぎに、過ぎんのだからなぁっ!」

 

 醜く貌を歪め目を見開いた邪教徒は、短い詠唱を終え魔法陣を輝かせる。

 

「…奥の手を隠していたか!」

 

「ちっ!大魔法でも飛んで来るのかよっ!」

 

「――!違う、わ、また、生成、よ」

 

 魔女の言う通り、魔法陣から得体の知れない何かが形成されてゆく。

 

そして、間もなくそれは完成され、三人の前に立ちはだかった。

 

「ふはははっ!さぁ、ゆけいっ!ストーンゴーレムよ!奴等を蹴散らせぇい!」

 

 生成されたそれは、先程の魔法生物『ゴーレム』の類で、名の通り石材で構成された『ストーンゴーレム』だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

樫人形(ウッドゴーレム)

 

 堅木である樫の木を媒介に、魔法の儀式によって作り出された動く人形。

 因みに木材なら樫の木である必要はない。

 ゴーレムの中では比較的下級で、脅威度も低いが楽に材料を調達出来、制御も負担が小さい。

 故に、数を揃え易く、労働力や取り敢えずの戦力として使役される事も多い。

 

 また木材である為、火に弱く、駆け出しの一党でも油断さえしなければ十分に対応可能。

 

 今回槍使い一党が戦った個体は、一際大型に生成し且つ上質の木材が使われた。

 その為、全ての能力が上昇した強化種である。

 

 

 

 

 

 




 スカイリムのダンジョンに魂石を使ったトラップが仕掛けられていた、箇所が幾つかあった記憶があります。
それを参考にして、今回の遺跡に配置してみました。

上手く書けていれば良いのですが。

後半に続きます。

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