ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 後半です。
投稿します。
もう少し魔法描写を上手く書きたい。
文章力が欲しい。


第38.5話B―槍使い一党との邪教徒退治(後編)―

 

 

 

 

 

 

ロスリックの槍

 

 ロスリックの長槍の柄を短く加工した代物。

 リーチと引き換えに、取り回しが良くなった。

 

 長物は、閉所での戦いにて不利に働く事が多い。

 また傍らに居る仲間に危険が及ぶ可能性も捨て切れない。

 

 ある槍使いの冒険者は、武器攻防に頼み込み、柄を短くしてもらった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 唸り声を上げつつ拳を振り翳し、三人に向かい距離を詰めるストーンゴーレム。

 

「何だコイツ?!石造りの割に脚が速えぇ!」

 

 予想外のスピードに、驚愕する槍使い。

 

「私が出鼻を挫く、追撃は任せた!」

 

 敵の突撃に合わせ、灰も疾駆する。

 

灰を射程内に捉えたゴーレムは、拳を叩き付ける。

 

――確かに動作も速い、この分だと……!

 

灰は更に踏み込み、拳を避けつつ脛部を切り付ける。

 

刃は滑る様に、敵の脚を撫で抜けるが――。

 

「――やっぱりかっ!」

 

 石材であろうと本来なら、切り裂き破砕出来る様な斬撃だ。

 

しかし結果は、数センチの溝を掘る事しか出来ていない。

 

「奴の硬度、まるで金属並みだ……!」

 

 斬撃の効果が薄く、彼は顔を顰める。

 

その時ゴーレムは、振り向き様に裏拳気味の拳を繰り出して来た。

 

「ちっ!」

 

 灰は、スライディングでこれを擦り抜けるが、ゴーレムの空いた手が彼を捕らえた。

 

金属とは一味違った質量の塊が、彼に激突する。

 

灰は咄嗟にスモールシールドとシミターでこれをクロスガード。

 

紙一重で防御が間に合ったものの、その衝撃を完全に吸収し切れず、槍使いと魔女の付近まで吹き飛ばされてしまった。

 

何とか空中で受け身に成功し、転倒は免れたが。

 

「おい!大丈夫かっ?!」

 

「怪我、は……?!」

 

 二人は灰の身を案じ駆け寄って来る。

 

「あ、ああ……。腕が痺れただけだっ…!」

 

 腕を摩りながら”心配ない”とだけ付け加える。

 

「それにしても、厄介だな。敏捷性だけでなく、防御も予想以上だ」

 

「くそ!石造りでだけでなく、金属並みの硬さかよっ!」

 

 手持ちの手段だけでは決定打に欠け、攻めあぐねる三人。

 

「ふはははっ!見たか冒険者共!」

 

 己が優位を確信し、高笑いで此方を見下す邪教徒。

 

「どうかね?我が崇高な強化方陣の威力は?!」

 

 両手を広げ、誇らし気に足元の魔法陣をひけらかした。

 

その魔法陣は尚も怪しく輝き、機能しているのが分かる。

 

「……ああ、流石だな。お見それした…。……どうやら挑む相手を間違えた様だな……」

 

「お、おい?!どうしたんだよっ急に?!」

 

「――?!」

 

 突如とした灰の弱気な態度。

 

槍使いと魔女は当惑の色を隠せない。

 

灰は小声で何やら伝え、目配せする。

 

「ククク…、そうだろう、そうだろう。この強化方陣がある限り、私自身を始め、私の下僕達は全ての強化が施されるのだ!これぞ我が崇高な実験の賜物!」

 

 邪教徒は完全に勝ち誇り、強化方陣の特徴を語り出した。

 

「……な、何だって?それじゃあ、弱点なんか無いじゃねぇかよ!」

 

 そして槍使いも追従する様に、狼狽えた様を露わにする。

 

「そう!その通り!私は崇高で完璧な存在!弱点など在ろう筈も無い!」

 

「うう…、分かった、わ。貴方、の、言う、通り、に、する、から。せめて、最後、に、教えて…、強化方陣、の、正体、を」

 

 魔女も屈服し、懇願するかのような表情で媚びた視線を送る。

 

その視線を浴び、大層ご満悦な笑みを浮かべ邪教徒は、声高らかに語り始めた。

 

「良いだろうっ!我が僕となる記念に教えてやろう!なぁに簡単だ、中央の記号が魔力制御の核となる。それを細工すれば、直ぐにこの方陣は機能を停止するのだよ!まぁ、崇高な私だ。万が一にも在り得ぬが、暴走した場合の緊急策としてな!」

 

 自分の築き上げた成果が誇らしいのだろうか?

 

まるで陶酔するかの如く、邪教徒は天を仰ぐ。

 

「この成果さえあれば、まだ見ぬ我が主『魔神皇』様も、私に目を掛けて下さるだろう」

 

「魔神皇?」

 

 聞き馴れぬ言葉に首を傾げる灰達。

 

「魔神王、の、間違い、では……?」

 

 魔女が聞き返す。

 

「違うな!魔神王を束ねる至高の存在『魔神皇』!何れ世界全てを平定する途轍もないお方だ!……いや、待てよ?」

 

 邪教徒は急に語尾を変え、顎に手を当てつつ歩きながらブツブツと呟き出す。

 

「そうだ!崇高な私が、わざわざ魔神皇などに忠誠を誓う必要など無いではないか!今後儀式と魔術の研鑽を重ね、ソウルを力に変える技術さえ確立出来れば、私自らが世界を統べる神に成り代わる事も不可能ではない!アッハッハッハ……!崇高な私とした事が何故気付かなかったのだ、なぁ新たな下僕達よ!」

 

 自分の世界に浸り切り、支配者気取りで灰達に向き直る。

 

……が、視界に灰達の姿は無かった。

 

「ん?奴等は…?」

 

 辺りをキョロキョロと見廻し、視界に移ったのは――。

 

 

 

輝きが消え失せ、機能の停止した魔法陣。

 

 

 

粉々に粉砕された、ストーンゴーレム。

 

 

 

そして眼前に立ちはだかる、怒りに満ちた槍使い。

 

 

 

「……?!え…、な…、何だ…?何が…、起こって…、え……?!」

 

 邪教徒は眼前の光景に思考が追い付かず、狼狽え頸を左右に振る事しか出来ずにいた。

 

「アリガトよ!わざわざ弱点をベラベラ喋ってくれてよ!」

 

 槍使いは武器を突き出し、首元で寸止めする。

 

「ほんと、に、簡単、だったわ、解くの」

 

 魔女が魔法陣の中央で、ろう石を使い書き換えを終えていた。

 

「気付かなかったのか?ご高説している間、貴公は魔法陣を離れていたぞ」

 

 邪教徒はハッと我に返り、改めて現状を確認した。

 

気が付けば自分は方陣からかなり離れていた。

 

つまり灰達が故意に屈服する様子を見せ、それを真に受けた邪教徒は得意気に自慢話を聴かせる事に没頭した挙句、魔法陣を離れその隙を突かれてしまったのである。

 

邪教徒が高説を終えた時は既に手遅れ、魔女により強化方陣は只の落書きと化し、ストーンゴーレムはその恩恵を失った。

 

本来のストーンゴーレムは灰の敵ではなく、岩ごと切り砕かれ呆気無く崩壊。

 

そして槍使いが、邪教徒の前に立ちはだかる。

 

「貴公が魔法陣を離れるのは、正直予想外だった」

 

 本来の作戦は、邪教徒の隙を突き、彼に攻撃を加え魔法陣から突き放した後、槍使いが彼を抑え、魔女が方陣を書き換えるという作戦だった。

 

彼が勝手に魔法陣から離れるのは想定外だったのである。

 

漸く自らの置かれた立場を認識した邪教徒は、ワナワナと震え出す。

 

「き、キぃ、KIi…、キぃサァマァラァっ!!何という事をっ!ナァントォいうぅこぉトォヲォォッ!!!」

 

 半狂乱になり亡者の如く貌を歪めた彼は、半ば全身を痙攣させながら天を仰ぐ。

 

「私もそうだが。貴公……、私以上に間抜けだな……」

 

 灰の言葉が止めになったのだろうか。

 

邪教徒は絶叫を上げ、殺意を剥き出しにする。

 

「許さんぞぉっ!貴様等ぁっ!絶対に、ゆるS、んごぉっ……?!」

 

 激昂する彼は最後まで言葉を紡ぐ事無く、胸部を槍で貫かれた。

 

「ギャアギャア五月蠅えぇんだよっ!」

 

 貫かれた胸部から血を滴らせ、口からも大量に吐血する。

 

「テメェの夢物語は、その崇高な脳内で見な!下衆野郎っ!」

 

 槍使いは怒りを込め、更に槍を抉り込ませる。

 

「ぐぉふぅっ…!……ふ、ふふっ……、馬鹿め……、最後の、抵抗を……、見せて、やろ、う……!」

 

 口から血を吐き出しつつ、槍使いに手を翳す。

 

「あんっ?!何だぁ?!」

 

 槍使いは訝しむも、後方から灰の叫び声が飛んで来る。

 

「それを食らうなぁ!逃げろっ!早く逃げろぉっ!」

 

「ちっ!野郎っ!」

 

 槍を引き抜き退こうとするが、邪教徒が槍使いの手を掴み阻止される。

 

「っ!くそっ!邪教徒の癖に何て握力だっ!」

 

 引き剥がそうと必死でも藻掻くが、一向に離れる事が出来ずにいた。

 

「貴様も道連れだ、我が崇高な最後の抵抗を垣間見よ!」

 

「――!間に合ってくれ!」

 

 邪教徒の手が黒く輝き出し、灰が全力疾走で槍使いに向かう。

 

 

 

「深みの奇跡『蝕み』!」

 

 

 

 邪教徒の手から黒い虫が群れを形成し、槍使いに殺到する。

 

その虫は彼の全身を這い巡り、小さくも鋭い顎で彼の皮膚を乱雑に破り裂いた。

 

 

 

「――っ?!ぎぃぃやあぁぁぁっっ……?!!」

 

 

 

 全身に駆け巡る絶え間無い激痛に襲われ、彼の身体から夥しい血が噴き出した。

 

「グぎゃゃぁぁぁぁ……!イテエェェェっ?!!」

 

 想像を絶する痛みに、彼はのた打ち回り地面を転げ回る。

 

彼の鎧は赤い鮮血に染まり、彼自身は白目を剥きながら息絶え絶えに喘ぐ。

 

「い…、嫌…、剣士、さ、ン…っ、おねが、い…、彼、を、助け…、…て…」

 

 苦痛にのた打ち回る槍使いを目の当たりにした魔女は、顔面蒼白になりながら涙を流し、膝から崩れ落ちた。

 

「ふ…、は、は、は……、崇高、な…、私、に、栄光、あ…、れっ!」

 

 苦痛に苛まれる槍使いを見て満足したのか、最後まで自分に酔った邪教徒はその言葉を最後に息絶えた。

 

「今助けてやる、少し我慢しろ!」

 

槍使いの傍に到着した灰は、間髪入れずに白教の奇跡『治癒の涙』を行使し、彼の出血状態を解除する。

 

「はッ、はぁっ、はっ、あぁっ……」

 

 激痛は去ったものの、苦痛は続き彼の呼吸は荒いままだった。

 

「彼、は、大丈夫、なの……?」

 

 魔女も駆け寄り、震えながら灰に訊ねる。

 

「かなり食い破られているが、肉体の深部に迄は到達していない。治癒を施せば命は助かる!」

 

 灰はそう答え、更に奇跡『中回復』を行使――。

 

結果、彼はほぼ全快にまで回復した。

 

彼の呼吸は次第に安定し、魔女に彼を任せた灰は、村人の救出に移る。

 

既に息絶えた邪教徒の懐から牢籠の鍵を取り出し、牢の鍵を外す。

 

「ああ、助かったぁ!」

 

「俺達生きてるぞぉっ!」

 

「かぁちゃぁんっ!」

 

「もう大丈夫だ!」

 

「有難う御座います!冒険者様方!」

 

 牢から解放された大勢の村人が皆喜び合い、村長らしき男が灰に礼を述べる。

 

しかし、灰は或る光景に視線が行っていた。

 

「貴方……、貴方ぁぁ……、どうしてぇ……」

 

 一人の若い女性が、台座の亡骸に抱き着き泣いていた。

 

よく見れば、彼女の腹は膨らんでいる。

 

「妊婦?台座の男性は、彼女の夫だったのか」

 

 やるせない気持ちになりながらも、灰は自分の成すべき事を見出していた。

 

――残念だが、今の私に彼女を救う事は、出来ん。だが、成すべき事は分かる。

 

「今の俺が出来る最大の救済……」

 

 彼はショートボウを取り出し、彫像付近に在る巨大な魂石に狙いを定めた。

 

「今、苦痛から解放してやるからな!」

 

 限界まで引き絞り、矢を射る。

 

矢は狙い過たず命中し砕けた魂石から、大量のソウルが拡散する。

 

ドス黒い色に染まっていた大量のソウルは、やがて白い本来の色を取り戻し空間を暫く漂った後、天に向かって飛散した。

 

どうやら苦痛の枷から解放されたようだ。

 

その光景に安堵する灰だったが、一つのソウルだけは空中を漂い続け、灰の付近を浮遊する。

 

――なんだ?このソウル。何か思い残す事でも?

 

暫しそのソウルを見つめ疑念を向けるが、突如としてソウルが彼に語り掛けて来た。

 

(頼む、彼女と話をさせてくれ。俺を感知出来るのは、アンタだけなんだ!)

 

――……そう言う事か、任せろ!

 

語り掛けて来たソウルは、亡骸の男性に寄り添い泣く妊婦の夫なのだろう。

 

灰は妊婦に歩み寄り、彼女に跪き話し掛ける。

 

「貴方に伝えたい事があると、彼が申しています。手を出して下さいませんか?」

 

「……え?えっ?」

 

 唐突に見知らぬ男に話し掛けられ困惑するが、戸惑いながらも手を出し、灰自身も手を合わせた。

 

灰の手を伝わり彼女の手を通し、ソウルは彼女に語り掛ける。

 

(こんな結果になって、すまない。生まれて来る子を生きて見れないのが心残りだが、これからはずっと一緒だ。お前が天寿を全うする迄、俺はお前達の傍に居る。だから俺達の子を強く優しい子に育ててあげてほしい。そしてお前にも幸せになって貰いたいんだ!これからは一緒だ、だから……、泣くな!)

 

「ああ…!貴方っ、貴方ぁっ……!」

 

 彼女は胸を抱え、大泣きした。

 

しかし彼女は孤独ではない。

 

お腹に宿した新たな生命と、ソウルと化した夫が傍に居てくれるのだ。

 

彼女は生きていくだろう。

 

 

 

――善良な人々を私欲の為に手に掛ける……、断じて許すまじ!

 

 

 

灰は立ち上がり、後始末に取り掛かった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

解放された村人を無事村に迄送り届け、彼等は馬車でギルドへと帰路に就いた。

 

そして村長を含めた数名の村人が、ギルドへの証言の為同行してくれた。

 

一、二時間で街へと到着し、ギルドに帰還した一行。

 

『蝕み』を真面に受けた槍使いは、全身の防具が血で真っ赤に染まっていた為、三つ編みの受付嬢にひどく心配され咎められてしまった。

 

しかし、彼は何処と無く嬉しそうであった。

 

「彼に関しては、心配無用か」

 

「まった、く、しんぱ、い、する、こちら、の、みに、もなって、ほしい、わ!」

 

 その光景を目にした灰と魔女は、安堵するやら呆れるやらである。

 

「さて、肝心な部分を処理しないとな」

 

 槍使いの横から灰が強引に口を挟み、応接室の手配とギルド長の同席を頼み込む。

 

その様子に槍使いは些か不満顔だったが、彼に任せ切ったのでは何時本題に入れるか、分かったものではない。

 

応接室を借り受けた灰達一行はギルド長にも同席して貰い、今回の経過を報告する。

 

本題は邪教徒の口走っていた『魔神皇』についてだった。

 

現監督官を務める先輩嬢を含めギルド長は、”魔神王の聞き間違いでは?”と返す。

 

しかし同行した村人達も含め灰達全員が、『魔神皇』と言う言葉を聞いている。

 

一人二人だけなら、聞き間違いの可能性も否定出来ない。

 

しかし、遺跡で人質になっていた村人ほぼ全員が、その言葉を耳にしているのである。

 

聴き間違いという線は薄いだろう。

 

「魔神皇、か……。過去に前例が無い。現段階では判断基準が少な過ぎるし、軽々しく断定は出来んな。もし本当だとすれば、一辺境で収まる問題ではない故に……な!」

 

 結果として、この話は他のギルド長を含めた幹部も交え、議論の場を設ける必要があるだろう。

 

そう判断を下したギルド長は、この件を一旦切り上げた。

 

下手をすれば、この案件は国家の一大事に関わるかも知れないのだ。

 

もしかしたら王国に迄、この話は伝わるかも知れない。

 

灰は念の為証拠品として、現場で回収した『主教のローブ』を手渡した。

 

ローブの裏地には黒い鳥の刺繍が入っていたが、それは取り敢えず無視する事にした。

 

ダークゴブリンの件も気になるが、公式には討伐されている事になっている。

 

灰自身は生存説を強く支持しているが、不確かな情報でギルドを混乱させる訳にも行かず、この事は触れずにいた。

 

何れは分かるだろう。

 

こうして一連の報告は終わり、邪教徒が絡んだ彼等の冒険は終了する。

 

因みに同行した村人の送迎は、ギルド側が責任を以て対応してくれるとの事で、その辺は安心だった。

 

彼等は成功報酬を受け取り、邪教徒の陰謀を阻止した事もあり、追加報酬も頂く事が出来た。

 

一人当たり金貨4枚を受け取った。

 

「よぅし!メシ行こうぜぇ!」

 

 上機嫌な槍使いだったが、彼の身体は血汚れが酷く魔女と灰に怒られる。

 

 

 

――先ず体を洗浄し、着替えて来い――と。

 

 

 

数時間後、彼は平服で姿を現し、食堂の席に着いた。

 

各々が料理と飲み物を注文し、楽しい時間が到来する。

 

「なぁ、やっぱ俺も覚えた方が良いのかなぁ?魔法」

 

 槍使いは不意にそんな質問を投げ掛けた。

 

向けられた質問は、灰に対してか魔女に対してか。

 

「…その前に覚えるべき事がある」

 

「おん?!」

 

 灰の言葉に、葡萄酒を飲みながら視線を向ける槍使い。

 

「先ず、読み、書き、出来、ないと、ね?」

 

 魔女が指摘した。

 

「なっ?!何で知ってやがるっ?!お前らっ!」

 

 図星を突かれた槍使いは、席を立ち上がり声を荒げた。

 

「行動を見てれば分かる。彼女に教えて貰うと良い。私も神殿で習ったしな」

 

「うっせ!大きなお世話だ!俺は独学で学んでやる!」

 

「ごう、じょう、も、の」

 

 周囲の喧騒も盛り上がり、食堂は賑わいを増してゆく。

 

宴がお開きを迎え、灰は彼等との一党を解き、宿へと戻った。

 

 

 

その後公衆浴場へと行き、風呂に浸かりながら今回の邪教徒との戦闘を振り返っていた。

 

 

 

――魔神皇。恐らく、あの彫像と無関係ではないだろうな。

 

 

 

遺跡で目にした五体の巨大な彫像。

 

その中に見覚えのある、サリヴァーンとデーモンの王子を象った物。

 

「きな臭くなってきたな……私一人で、どうにかなるだろうか……」

 

 静かに呟き、ゆっくりと疲れを癒す。

 

そして宿にて就寝に就き、翌朝を迎えた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 次の日の事である。

 

火の無い灰は死んでいた。

 

何時もの様に。

 

 

 

――YOU DIED――

 

 

 

今度はうつ伏せに倒れ、落下死の如く屍を晒している。

 

――アの、一撃、は、キイ、た……。

 

依頼争奪戦に参加していた彼は、突如背後からの致命攻撃(バックスタブ)を仕掛けられ、敢え無く陥落したのであった。

 

「……」

 

 

 

――そう言えば、彼等は今頃どうしているだろうか?

 

 

 

うつ伏せの体制のまま、彼はゴブリンスレイヤーと孤電の術士について考えていた。

 

大体の察しは着く、彼はゴブリンスレイヤーだ。

 

間違い無く小鬼退治に向かったのだろう。

 

しかしここ数日、彼はギルドに顔を見せていない。

 

確か、彼女と行動を共にしているのだったか。

 

今度聞いてみようか?

 

ボンヤリそんな事を考えていると、傍から声が掛けられて来た。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 少女の声だった。

 

灰は首だけを動かし、声の方に向く。

 

 

 

――いかん……、最近多い……。

 

 

 

またもや、白い絶景が灰の眼前を支配する。

 

その相手は短いスカートで片膝を立て屈んでいるのだから、当然である。

(決して、灰自身が望んで見たい訳ではない、決して)

 

少し顔をもたげ、視線を上にやれば、声の主は灰も知っている人物だった。

 

半森人の少女野伏で可憐な容姿をしているが、以前のロックイーターの襲撃で顔面を負傷し、額から顔にかけて大きな傷跡が残り異様な風貌となっている。

 

それでも美少女には違いないが。

 

彼女は確か、同期戦士と一党を組んでいた筈だ。

 

「もしかして、貴公も何か頼み事か?」

 

 徐に立ち上がった灰は、彼女に向き直った。

 

「うん……。お願いしたい事……、あってさ」

 

 依頼絡みだろう事は、大体察する事が出来る。

 

「私で良ければ」

 

 灰は話を聞く事にした。

 

 

 

 

 

新たな冒険が始まる。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

石巨兵(ストーンゴーレム)

 

 石材を触媒に魔力で生成された、巨大な石造りの人形。

 ウッドゴーレムとは違い、此方は最初から戦闘用として使役される事が多い。

 材料となる石材によって強度や強さに差が生じるが、質量を生かした攻撃は脅威に尽きる。

 真面に食らえば、無事では済まないだろう。

 

 今回邪教徒が使役したのは上質の触媒に加え、自ら編み出した強化方陣で誕生した個体である。

 その恩恵で、敏捷性、防御力、攻撃力、運動性、が強化され

 アイアンゴーレム(四方世界Ver)並みの戦闘力を誇った。

 

 どうしようもない悪人であった邪教徒だが、その崇高な努力と研鑽は評価に値するだろう。

 

 

 

 

 

 




 如何だってでしょうか?
魔女をもっと活躍させればよかった。
それにしても彼女何歳なんだろう?
見た目が20代いってそうなんだが……15歳説もあるしなぁ……。

次もオマケ話です。

もう少しお付き合い下さいませ。m(_ _;)m

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