この時点ではまだ、銀髪の武闘家ちゃんと一党を組んでいる状態だった筈です。
そして本来は死亡している半森人の少女野伏が生存しています。
それが今後、彼等にどんな影響を与えるのやら。
自分の考察力で書いていくしかありません。
では投稿します。
蝕み
深みの聖堂に伝わる暗い奇跡。
蟲の群れを召喚し、敵を蝕む。
深みに潜む蟲たちは、小さな顎に牙を持ち瞬く間に皮膚を裂き、肉に潜り込む。
それは激しい出血を伴うという。
深みに魅入られた邪教徒達は、好んでこの軌跡を習得する。
この術を受けた被害者の苦痛に喘ぐ悲鳴と感情は、尊い供物となり
彼等の崇拝する魔神や邪神達に捧げられる。
そのおぞましき御業は、世界に対する彼等の憎悪なのだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
賑わう冒険者ギルドの一角、其処に設けられた大人数用の四角形テーブルで、難しい顔で唸る冒険者達。
「やっぱり総員一丸となって、突撃すべきだと思うんです!」
銀髪の少女武闘家が、突撃案を支持する。
「その作戦で、先日痛い目を見たのを忘れたのですか?」
獣人の魔術師に、その案で失敗に至った事を指摘され、彼女は”うっ…”となる。
「とは言え、呪文の連携射撃からの一斉射撃による、面制圧……。あれは見事にやられました」
「先生!感心している場合じゃありませんぜ!」
先日の依頼失敗の第一要因に感心する獣人の魔術師に、ツッコミを入れる鉱人の少女斥候。
彼女は鉱人としてはまだ幼く、髭も生えていない。
鉱人の女性は、長じると髭が生えるらしい。
最近では、細身の体形を保ったり髭が生えない様にする、鉱人女性も多いとの事だ。
地下都市を飛び出し、冒険に憧れる彼等が他種族と関わりを持った事も大きな要因だろう。
「しかし、我々には資金の余裕が無い。今回の依頼が達成出来なかった場合は最悪……」
森人の男司祭が、一党の台所事情について語る。
彼は森人だが、地母神の信仰に目覚めた青年だ。
「繰り返し下水道潜りか、ゴブリン退治だな」
暫定的に頭目を務める只人の若い戦士、同期戦士が結論を出す。
「ええぇ~っ!嫌ですよっゴブリンはもう――」
「下水道も虫や鼠ばっかで、気持ち悪いったらありゃしない!」
「騒ぐな鉱人!今の我々には、糧を得る金も必要なのだ!」
銀髪の少女武闘家を始めとした面々は、嫌な顔をする。
だが資金も必要だ。
生きる為にも冒険を続けて行く為にも。
「まぁ少し待て。もう直ぐだ」
同期戦士が皆を落ち着かせ、静かに待つ。
「お~い、連れて来たよ~!」
背後から半森人の少女野伏が火の無い灰を引き連れ、彼等の前に姿を現した。
「よぅっ!待ってたぜ、灰の剣士!」
「少し見ない間に、随分大所帯になったな」
同期戦士と灰は其々挨拶を交わし、彼を紹介する。
「皆、紹介するぜ。今回の助っ人に来てくれた、灰の剣士だ!」
「本業は剣士、他にも奇跡や呪術の火を若干使える。黒曜等級だが、皆の支えとなりたい。宜しく頼む」
灰は、貴人の一礼で簡単な自己紹介を交え挨拶した。
「此方こそ宜しく頼みます、灰の剣士殿」
先生と呼ばれる獣人魔術師が、深く頭を下げ真っ先に応対してくれた。
「獣人の魔術師。初めて見る……」
灰は些か驚き、彼と握手を交わした。
「ははは…、流石に珍しかったようですな」
灰の反応も彼は何ら気にする事はなかった。
同期戦士の補足説明では、彼は学院で講師を務めていた過去があると言うのだ。
”確かにかなり落ち着いている”灰はそう思い、他のメンバーにも視線を移す。
次に鉱人の少女斥候と森人の男司祭が、自己紹介をする。
聴けば少女斥候は、軍隊育ちでもあるらしい。
多少知識には劣る所があるが、強靭な精神を有している可能性がある。
経験と見聞を広めれば、頼もしい存在に成長するだろう。
そして、森人僧侶。
正直に言えば彼の事は、幾度か目にした事がある。
地母神の神殿でも一際背が高く、森人という事もあり、神殿の女性達からもかなりの人気を誇っていた筈だ。
さて、神殿随一の奇跡の使い手である、あの男神官と彼、どっちの人気が上なのやら。
「ふっ……、私は何れ彼をも超えて見せよう!」
男神官の事を言っているのだろう。
髪を掻き揚げ、天を仰ぐ森人僧侶。
奇跡を含め全てにおいて彼を超えると宣言している。
「……無理すんなよ。解毒の奇跡しか授かっていない癖に……!」
「むっ?!何だと?!」
鉱人斥候の横槍に顔を顰め反応する、森人僧侶。
「貴様、愚弄するか!」
「ホントの事じゃんか!事実、博打にドはまりして素寒貧になった挙句、路頭に迷ったとこを司祭長様に助けられたんだろうが!」
「ぐぅおっ?!」
図星を突かれ、精神に痛打を受けた彼は反論出来ない様だ。
――あの人には、本当に世話になったな。
灰も司祭長を思い浮かべる。
今後も彼女とは、関わりを持つ事になるだろう。
それにしても、鉱人斥候と森人僧侶の口論が絶えない。
森人と鉱人は、生来より不仲だと聞いた事があるが、今の状態を指すのだろうか。
「さ、最後は、アタシだね……。その…、よろしくっ……!」
最後は銀髪の少女武闘家が挨拶してきたが、やけに短い自己紹介だった。
彼女はそっぽを向き、此方に時折視線を向けるのみだった。
――何なんだ一体?
その様子に灰は訝しむが、理由は分からなかった。
「お、おい。随分簡潔な自己紹介だったな。もう少し、こう……何かあるだろ?」
同期戦士も疑問に思い彼女に言及するが、彼女はそっぽを向いたままだった。
「いいの!アタシは、武闘家!それで十分っ!」
彼女はそう返すのみで応じようとはしなかった。
――言えない!狙い易かったから練習がてらに、背後から一撃を加えたなんて、絶対に言えない……!
つまり、そう言う事なのである。
依頼争奪戦のドサクサに紛れ、灰の背後から『バックスタブ』を決めた張本人は、彼女なのであった。
彼女はその事を思い出し冷や汗を流していたが、灰がその事実に気付く事は終ぞ無かったという。
「さて、俺達の事は、もう知ってるよな!」
「勿論だ。改めて、宜しくお願いする」
「よろしくね、剣士さん!」
同期戦士と少女野伏の事は、よく知っている。
過去にロスリックや鉱山で、何度も戦場を共にして来た仲だ。
「では早速なのだが、依頼用紙を見せてくれないか?」
依頼内容を確認する為、灰は用紙の回覧を求める。
「これです。ご確認を――」
獣人魔術師が、用紙を差し出して来る。
灰は用紙を吟味し、記載された内容に目を通した。
依頼内容
小悪魔軍団の調査。
インプと呼ばれる小悪魔の集団が、平原に集結している。
これらの原因を調査されたし。
もし可能なら原因の究明、及び、殲滅をお願いする。
数日前の夜中、街道付近を巡回中に小悪魔の集団に襲われ
応戦したものの班の半数が負傷する事態に陥った。
これ以上は治安維持のためにも、人数を割く事は出来ん。
頼む、何とかしてくれ!
成功報酬:出来高制
特別報酬:小悪魔を率いる存在の討伐
依頼主 :街の衛兵団団長
「小悪魔の調査――」
用紙に目を通した灰は、小悪魔について記憶を巡らせた。
過去に資料を回覧した際、目にした覚えがあった。
「小悪魔……、私の記憶が正しければ確か――」
小悪魔、又はインプと呼称される最下級の悪魔。
非常に小柄な体躯で、その大きさは小鬼よりも劣る。
しかし、それ以上の悪賢さを有し、呪文を行使出来る。
単体ならそれほど脅威ではないが、やはり集団で行動する為、注意が必要。
大抵は、より上位の悪魔に率いられている。
「まだ遭遇した事も無い異形だが、集団戦法に加え呪文を一斉に行使されるとなると……」
灰は顎に手を置き、考え込む。
「そうだ。先日は奴等の集団戦法にやられたんだ!」
同期戦士が悔しそうに、歯を食いしばった。
見れば他の冒険者達も同様に悔しそうにしている。
「数はどの位なんだ?」
灰は小悪魔の戦力について尋ねてみた。
「確認しただけでも、20程居たかな?」
鉱人斥候が、思い出しながら答える。
灰にとってインプは未知の存在だが、ゴブリン同様悪賢いとなると伏兵を考慮した方が良さそうだ。
「奴等は悪知恵も働くと、ならば実際はもっと多いだろうな」
「では、それ等を率いる指揮官の存在も考慮に入れた方が、宜しいかと――」
灰の予測に獣人魔術師も反応し、議論を着々と進めてゆく。
幾許かの時間を要し、大方の方針が決まった処で、皆は出立の準備に取り掛かった。
遭遇場所は、此処から北東の街道付近に在る平原地帯だ。
徒歩でも一時間と経たずに到着可能な距離で、馬車は必要ないだろう。
集合場所に皆が集まり、現場へと行軍する。
灰にとってインプは初見で、未知の存在に等しい。
質はどうであれ、用心するに越した事は無いだろう。
先頭は灰が務める事にした。
仮に奇襲を受けたとしても、回復手段が豊富な自分なら万が一負傷しても直ぐに立ち直る事が出来る。
最後尾は銀髪の少女武闘家と同期戦士が務める事となった。
行軍の最中、彼女は同期戦士に話し掛ける。
「ねぇねぇ、あの人本当に強いの?……何だか背中が隙だらけなんですけど……」
朝の依頼争奪戦の時間、物の弾みでついバックスタブを仕掛けてしまったが、彼女にとって灰の背後は非常に狙い易く隙だらけだったのである。
「アイツに、余計な事してないだろうな?言っちゃ悪いが、格闘術だけでも今の君より遥かに強いからな」
「ええぇ~っ!何か細身だし、貴方より弱そうに見えますよ?」
同期戦士の答えにも、信じられないと言った表情で、灰の背中を見詰めた。
――信じられないのも無理ないか。今は多少評価がマシになったが、白磁当初は嫉妬や侮蔑の視線が圧倒的だったからなぁ……。
同期戦士は白磁等級の灰を思い出していた。
ギルドの冒険者連中の声は大半が『薄汚い新人』。
この一言に尽きたと言う。
あのゴブリンスレイヤーと同じく、奇異の目で見られる事が非常に多かった。
ロスリックでの調査を成功に導いたのを切っ掛けに、灰の評価は徐々に変わり始めた。
牧場でのダークレイス戦。
鉱山にて、冷たい谷のボルド討伐。
極め付けは、あの異端のゴブリン、ダークゴブリンとの死闘。
多数の冒険者が見守る中での、戦いぶり――。
その冒険を機に灰の評価は、『薄汚い新人』から『腕利きの剣士』へと置き換わったのである。
事実、彼は「灰の剣士」と呼ばれ、ギルドの注目を集めつつあった。
――まっ、今でも嫉妬や必要以上に蔑む連中が存在するのも確かだけどな。
「口で説明するより見た方が早いぜ、アイツの実力は――」
同期戦士の言葉にも彼女は”ふ~ん”と相槌を返すだけだった。
――街道付近の北東平原――(←ボォォ~~ン《ダクソ特有のあの効果音》)
街道からやや離れ、そろそろ目的地に到着する頃合いだろうか――。
突然、灰から声が掛かる。
「全員散るんだ。早くっ!」
武器と盾を構えた彼は足を止め、メンバーに散開を指示する。
鉱人斥候と銀髪武闘家から、何やら言葉が飛んで来るが今はそれ所ではない。
森人僧侶が斥候の襟首を掴み、同期戦士が銀髪武闘家の手を掴み、其々散らばる。
一瞬の静寂。
時刻は昼間近。
天候は快晴。
心地良い微風が、皆の肌を優しく撫でる。
最早冒険どころではない。
絶好のピクニック日和だ。
こんなのどかで平和な時間に、わざわざギルドの依頼をこなすなど、馬鹿馬鹿しくなってくる。
そんな時だった。
「っ!来るぞ!」
灰が叫んだと同時に、二つの燃える物体が飛来する。
灰はシミターとスモールシールドで、二つの物体を弾いた。
弾かれた燃える物体は軌道を変え程無くして消滅した。
「嘘っ?!もう火矢が飛んで来たの?!」
それを見た少女野伏が、弓を構え臨戦体制に移行する。
「予想以上に早い奇襲でしたね」
「向こうも待ち構えてるって訳か……!」
獣人魔術師と同期戦士も、警戒を強め敵に備えた。
灰が居なければ、呪文の狙撃を真面に食らい、犠牲者が出ていた可能性もある。
皆の緊張感は一気に上昇し、低い背丈の茂みに伏せ息を潜めた。
「どうすんだよ、昨日よりも悪条件じゃんか!」
「静かにしろ、鉱人!居場所がバレる!」
喚く鉱人斥候を嗜める森人僧侶だったが、本人の声が一番デカいのはこの際、置いておく。
「静かにして、耳を済ませて下さい、皆!」
獣人魔術師が、落ち着いた口調で指示を出す。
彼の発言した途端皆は沈黙し、耳を澄ませて神経を研ぎ澄ませた。
これも年長者故の貫禄だろうか。
「奴等は低い背丈を有効活用し、茂みに身を隠しながら私達を包囲する気だ。恐らく包囲した後、呪文の一斉射撃で攻める作戦だろうな」
「囲まれちまったら昨日の二の舞だ!」
「剣士さん!手は無いんですか!」
灰の予測に同期戦士は不利を想像し、銀髪武闘家は焦り出す。
「私が前に躍り出て、囮になる。奴等を攪乱しつつ呪文の消耗を狙う。皆はその隙に各個撃破を狙え!呪文が使えなくなれば小悪魔の身体能力自体は小鬼と同等だ、個人でも十分対応出来る!」
「……くれぐれも無茶をなさらぬ様」
「お手並み拝見させて貰おうか?剣士君?」
獣人魔術士と森人僧侶の声を背中に受け、灰は茂みから立ち上がり身を晒す。
彼が姿を晒した時を同じくして、小悪魔達も姿を見せた。
――何処となくゴブリンに似ているな。これで色が同じだったら、ゴブリンと混同しても不思議ではない。
確かに普段ゴブリンを目にしない人から見れば、判別は困難だろう。
だがゴブリンは濁った緑色だが、インプの体表は青黒い。
姿を見せたインプは次々と呪文を詠唱し、灰を仕留めんとする。
彼の左右には5体ずつ、計10体のインプが姿を見せていた。
――なまじソウルが小さいと、全体の戦力を予測する事が厳しい。もう少しソウルの感知能力を磨く必要があるな。
そんな事を思いながら、彼は疾走を開始する。
灰が動き出したのを見計らい、インプ達は真言呪文『火矢』を放った。
灰の左右から十本の火矢が迫る。
一斉に放ったのなら凌ぐのは、さほど苦労しないだろう。
しかし、其処は狡猾なインプ。
ワザとタイミングをずらし火矢を放った為、回避の難易度が飛躍的に向上する。
「この程度で!」
だが相手は、幾度となく火継ぎを繰り返した、火の無い灰。
培った技術と経験で、疾走しながら軸をずらし盾で防ぎ剣で弾きながら、インプ達に肉薄した。
先ずは向かって右側5匹のインプ達に、シミターを横薙ぎに一閃――。
一振りで3匹のインプを切断する。
「Gyabebe?!」
「Gyabuburu?」
灰の動きに反応し切れていないのか、現状を認識すら出来ずに濁った悲鳴を上げるインプ達。
右側に残ったのは2匹のインプ。
僅かに生じた時間差で左側のインプ達が反応し、手にした武器で灰に向かって投射した。
インプ達が投射した武器は、鉄の矢だった。
身体の小さい彼等にとっては、手槍代わりになるのだろう。
投射された5本の鉄の矢は、全て彼に命中しようとしている。
投射の心得があるのだろうか、此処はゴブリンとは一味違っていた。
しかしローリングした灰には掠る事も無く、地面に突き刺さるのみだった。
ローリングから起き上がった彼は間髪入れず左側のインプ達に疾走し、左右の袈裟切りを見舞いした。
速度の乗った鋭い刃は、回避の暇を与えず2匹のインプを切断する。
そして下半身を回転させた斬撃で、更に2匹のインプを絶命させた。
左側には、1匹のインプが残る。
だが、そのインプには目もくれる事無く、その場を離れた。
後は、同期戦士達が処理してくれるだろう。
次の潜伏箇所と思わしき茂みに、接近する灰。
それを見越したかのようにインプ達が次から次へと、姿を見せる。
その総数、実に60を突破する。
「何だ?予定の20を遥かに凌駕しているじゃないか!」
流石の彼も、この数には驚愕を禁じ得ない。
襲撃された衛兵達も、彼等もよく無事で帰って来れたものだ。
もし今の様な戦力で襲撃されていれば、今頃はもっと大惨事になっていただろう。
そんな事が頭を過るが、敵は待ってはくれない。
前衛の集団が手始めに、鉄の矢を彼目掛けて投擲する。
その狙いは正確だが、如何せん腕力が足りない。
弾速はノロく、軽く跳躍する事で難なく回避。
しかしインプ達はそれを熟知しているのか、慌てる事無く呪文の詠唱に移る。
彼は詠唱を阻止しようと接近を試みるが、中衛の集団が矢を投擲し妨害を測ってくる。
威力そのものは脅威とならない為、彼はマントで飛来する鉄の矢を打ち払った。
だが、僅かに生じた彼の隙を見計らったインプ達の作戦で、前衛集団は詠唱を終え、真言魔法『火矢』を放つ。
今度は回避先をも予測した、散弾状に放った。
10本の火矢が広範囲で、彼に迫る。
「――ならばっ!」
彼は地面に可能な限り伏せ、うつ伏せの状態でこれ等を回避した。
空しく通り過ぎる魔法の火矢。
流れ弾が後ろの仲間達に当たらないか、少々心配だが今は気に掛けてる場合ではない。
彼は透かさず半立ちのまま、インプの集団に飛び込み肉薄する。
そしてシミターで、横一閃の薙ぎ払いを何度も往復させ、その度にインプ達が切り裂かれ切断され、その命を散らしてゆく。
辛うじて残った前衛のインプ一匹を蹴り上げ、回転を付けたシールドバッシュで打ち払い、後方の同期戦士達の元へと送り飛ばす。
これで前衛は壊滅した、後は中衛と後衛の集団だ。
まだ、四十程居る。
インプ達は、呪文を即座に行使し火矢を放って来た。
流石に40を超える火矢を一斉に放たれては、彼と云えども回避は困難を極める。
彼は身を屈め被弾面積を可能な限り減らした上で、盾と剣で防御体制へと移行する。
数発が彼の身体を捕らえたが、有効打となったのは大腿部に命中した一発のみで、他は外れるか武具や防具の命中し、大した痛手とはならなかった。
多少のダメージは負ったものの、戦闘に支障はない。
「一発でも食らうと、結構熱いな……!」
だが、エスト瓶で回復を図る暇は無い。
敵側は呪文を使い切った事で、接近戦へと戦術を切り替えて来たからだ。
「……格闘戦を挑んで来るか、良いだろう。全力でお応えしよう!」
灰は不敵に笑い、インプ達に駆け出した。
鉄の矢を灰に向かって、次々と繰り出すインプ達。
下から突き上げて来るそれ等を、身を捻る事で回避。
振り向き様にカウンターで2匹を切り伏せ、手首を返し迫る一匹を切り上げる。
そのまま勢いを消す事無く、体を回転させシールドバッシュで傍の一匹を殴り飛ばし、更に回転を付けた回し蹴りで飛び掛かる3匹を纏めて蹴り飛ばす。
インプそのものの耐久度は、通常種のゴブリンと大差は無く、ほぼ一撃で絶命させる事が出来る。
跳躍したインプは灰の顔面に狙いを定め、鉄の矢を付き出した。
しかし灰は、それを見切り掴む。
そのままシミターで困惑するインプを切り倒す。
灰は何気無く矢の先端に視線を移した。
「――ん?!」
鏃に何か塗ってある。
先端部から滑り落ちる液体には、見覚えがあった。
「ゴブリンと同じだ……、毒かっ!」
そう、彼等の武器も毒が塗付されていたのだ。
「全員気を付けろ!奴等の武器は、毒が塗られているぞ!!」
多少の隙は生まれるが是非も無い。
彼は後方の仲間達に向かって警告を施す。
「ええっ!毒ぅっ?!聞いてませんよ、そんなの!」
銀髪武闘家が愚痴りながらも、前方のインプをローリングソバットで仕留める。
「俺は兎も角、他の連中は食らうとヤバいな!」
同期戦士は警戒しながらも、直剣でインプの首を刎ねた。
自分達は灰が倒し損ねた残りを処理するだけだ、先日とは打って変わって真逆の戦況となっていた。
しかし油断は禁物だ。
ロスリックの亡者による狙撃や、初遭遇したロックイーターの奇襲の件もある。
一度冒険に出れば、死など路頭に転がっているのだ。
同期戦士は周囲の仲間達にも気を配る。
彼の視線の先には、少女野伏が弓でインプを仕留めていた。
彼女も成長している。
弓の技量も出会った頃より、確実に上昇していた。
そして獣人魔術師が杖でインプの頭部を殴り付け、撲殺している。
問題は寧ろ……、残りの二人か。
「おい、鉱人。前に出過ぎだ!」
「うっさいな!飛び道具持ってないんだから仕方ないだろ!」
相変わらず口論が絶えない、森人僧侶と鉱人の少女斥候である。
彼女は素早さと小柄な体躯を利用し、ローリングからのフェイントを織り交ぜた短剣を駆使し、インプを切り伏せた。
「……これだから、野蛮な鉱人は困る!其処だっ!」
森人僧侶が悪態を付きながらも、装着したダートガンで、インプの額を穿つ。
一応役割は果たしてくれている様だ、咎めるには値しないだろう。
しかし、呪文や武器を失ったからと云って、インプには鋭い爪を有している。
これはゴブリンには備わっていない身体的特徴だ。
其処は魔神の端くれ、警戒に越した事は無い。
こうして戦いに明け暮れている内に、殆どのインプが仕留められていた。
残り数匹となったインプ達。
残敵処理を終えた同期戦士達は、灰へと合流する。
「全員無事か?」
「おうっ!お陰様でコッチは片付いたぜ!」
軽くやり取りした後、全員は残りのインプ達を見据える。
「良いじゃないですか。残り4匹、順調ですよ!」
「だけど、仮にも魔神の眷属。何があるか分からないよ!」
「インプだけでは、どれが指揮官か判別が付きかねますな」
野伏と武闘家の軽い会話に、魔術師が思案を挟む。
そんな彼等を余所に、インプ達が必至の雄叫びを上げた。
「GyoEeeeAaaaaa!!」
小悪魔が発したとは思えない程の、鼓膜を激しく揺さぶらんばかりの音量。
あの小柄な声帯の何処にそんな力を有しているのやら。
一行は思わず耳を塞ぐ。
そしてシンと静まり返る。
「何だ?こけおどしか?」
「何も起きないじゃんか」
森人僧侶と斥候が、辺りを見回すも視界には特に変化の兆しが見られない。
――いや、一際大きなソウルが複数。何処だ、何処から来る?!
「皆、警戒しろ!間違い無く何か来るぞっ!」
灰が警戒を呼び掛ける。
「微かに風の流れが……」
「僅かに匂いますな……、この方角……」
野伏と術士が、変化を汲み取る。
「こういう時は全方位に、気を配れ……、上だっ!!」
過去の経験から野外だろうと先入観無しで、全方位に視線を泳がせた同期戦士。
上にも視線を傾けた矢先、突如上空から何かが急降下して来た。
「皆伏せてぇっ!」
銀髪武闘家が叫び、皆一斉に身を屈める。
「クソ!何だってんだよ?!」
黒い影が複数、同期戦士達の頭上を掠める。
「おいっノロマのノッポっ!避けろっ!避けろぉっ!」
不意に鉱人斥候が森人僧侶に怒号を飛ばす。
「ぬっ、おぉ?!」
「GyaGyaGya!」
突然の変化に対応が追い付かない森人僧侶に、インプの一匹が鉄の矢を構えて突撃して来た。
「させるかよっ!」
森人僧侶を押し退けた斥候は、身代わりとなりインプの矢を受けた。
「あぎぃっ?!!」
食い込みは浅かったものの、腹部を突きさされた鉱人の斥候。
確かインプの武器には、毒が塗られていた筈だ。
「あぐぅああっ……!」
「Gyabebebe!」
インプはニタリと口元を吊り上げ、鉄の矢を握り締め更に踏み込む。
その度に矢が深く食い込み、彼女の腹部を赤く染めてゆく。
「このぉっ!離れろぉ!」
銀髪武闘家が、インプを蹴り飛ばす。
顔面から真面に食らったインプは、そのまま吹き飛ばされ、森人僧侶のダートガンで止めを刺された。
「ふん!小悪魔風情がっ!」
止めを刺した森人僧侶は、呻き声を上げ苦痛に喘ぐ斥候に駆け寄る。
「運が良かったな、鉱人。私の奇跡が日の目を見る事になったぞ!」
「……素直に、礼の一つでも言えよ!……って言うか、解毒してから言えっ!」
鉱人斥候は、気丈に振舞っている。
ここまで軽口が叩けるのなら、心配はいらないだろう。
「いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者の血より、病毒をお清め下さい」
森人僧侶が腕に巻いた聖印を翳し、祈りの言葉と共に聖なる光が斥候を包む。
その後彼女に浸食していた毒素は、全て除去された。
「良し……、解毒は完了した!……もう良いぞ、鉱人」
「お前……、ホントに奇跡使えたんだな……」
「キサマ!礼の一つでも言えんのか!」
結局繰り返される、売り言葉に買い言葉の応酬。
これが彼等の日常なのだろう。
「よくも、アタシの仲間をっ!」
怒りに震える銀髪武闘家は、残りのインプに飛び掛かっていた。
しかし、インプも魔神の眷属。
身体に備わった爪で、彼女を迎え撃つ。
2匹のインプが彼女に爪を振るう。
その爪を上半身をずらし躱し、カウンター気味のボディブローで反撃。
仕留めたインプの陰からもう一匹が爪を突き出すが、駆け出しとは言え訓練された彼女はその攻撃を難なく潜る。
そしてがら空きの身体に、内巻きの手刀を叩き込み、勢いを付けた追撃の回し蹴りでボレーシュート。
蹴り飛ばされたインプは絶命しながらも生き残り達に激突し、その隙を逃す事無く彼女は接近する。
慌てるインプ達を蹴り上げ、宙に舞った一匹を踵落としで叩き落す。
叩き落したインプの頭部を踏み潰し止めを刺す。
側面から彼女の顔面に向かって、2匹のインプが襲い掛かる。
しかし彼女は臆する事無く、敵の顔面に向かって一匹ずつに2連のジャブで迎撃。
仰け反るインプの一匹に、ハンマーナックルで叩き落し撲殺。
最後のインプには、横蹴りで頸椎を圧し折り絶命させた。
一連の動きで、5匹のインプを仕留め、インプ達は全滅した。
「ふぅ……、まっこんなモンかな?!」
一呼吸置き、彼女は構えを解く。
「アタシも中々出来るじゃないの……、っとイケナイ、イケナイ、あの人に油断するなって言われてたんだっけ!」
彼女はすぐ気を引き締め、周りに気を配る。
視線の先では、斥候と森人僧侶を除く面々が戦闘を継続していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
小悪魔(インプ)
ゴブリンよりも小柄な体躯をした、醜悪な青黒いデーモン。
悪賢く、自然体得で初歩の真言魔法を行使出来る。
また集団戦法にも長ける。
デーモンの中では最下級で、魔神達に使役される雑兵以下の存在だが、侮るなかれ。
最下級とは言え魔神の眷属。
長じて力を有し、稀に魔神将や魔神王と進化する個体も存在するのである。
掲示板前で、倒れている灰の剣士ですが『絶景』を見たいが為に、無抵抗でいる訳ではありません。(決して 断言!)
他人に遠慮し過ぎているだけです、彼は。(多分)
銀髪武闘家にバックスタブを決められていますが、彼はその犯人が彼女である事は今後も知らないままでしょう。
ま、彼は今更特に気にしても居ませんが。
後半へ続きます。