インプの体色が原作では言及されていなかったので、オリジナルで決めさせて頂きました。
では投稿します。
突風(ブラストウィンド)(真言魔法)
ウェントス(風)…、クレスクント(成長)…、オリエンス(発生)
範囲内に突風を巻き起こす魔法。
術者の力量次第で、風そのものに殺傷力を持たせる事も可能。
風圧で吹き飛ばしたり、生じる真空波で切り刻む事も出来る。
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「ちっ!インプとは比べモンにならんぜ!」
「まさか、レッサー種とは言え本物のデーモンとは――」
「何とか隙を作らないと!」
先程のインプが上げた雄叫びで、増援が表れた訳だがレッサーデーモン2体に加え、紅いデーモンが一匹。
恐らく、赤いデーモンが今回の指揮官に違いない。
同期戦士、獣人魔術師、少女野伏の三人が一体のレッサーデーモンを相手取り、残りは灰が対応していた。
レッサーデーモンが強靭な筋力を生かし、鋭い爪を繰り出して来る。
同期戦士はそれを剣で受け止め、野伏が弓で射撃。
矢は、デーモンの胸部に刺さるが自身は気にも留めていない。
「あの二人はあまりアテになんないし、アタシがどっちかを加勢しないと!」
森人僧侶と鉱人斥候に一瞥した銀髪武闘家が、同期戦士達か灰の剣士かどちらに加勢するかを決めあぐねていた。
「あまり面識はないけど、剣士さんの方だよね!」
同期戦士達は三人で一体のデーモンと対峙していたが、灰の剣士は、一人で赤いデーモンとレッサーデモンを同時に戦っている。
彼女は灰の方に向かう。
レッサーデーモンの左右の爪攻撃が灰に繰り出される。
その攻撃を盾でいなし、剣で裁きながら懐へ踏み込む。
しかし懐へ入った灰を蹴り上げで対応するが、彼はローリングで更に接近。
軸足の腱をシミターで切り裂く。
痛みでバランスを崩し、悲鳴を上げるレッサーデーモン。
灰は止めを刺そうと剣を振り翳すが、上空から火球が飛来し出鼻を挫かれる。
――上空からの援護か!厄介だな!
その隙にレッサーデモンは体勢を立て直し、翼で空中へと飛び上がる。
そこへ銀髪武闘家が駆け付けた。
「手を貸すよ、剣士さん!」
彼女は意気込むが灰は静かに首を振る。
「違う、私じゃない。まず彼等のデーモンを倒すんだ!」
「えっ?!ど、どうして?!」
灰の指摘に”意味が分からない”と彼女は返す。
「君が一人加わった所で、戦況は然程変わらないだろう。それよりも、彼等と共闘し早急に向こうのデーモンを仕留めてくれ。その分味方を此方に集中させる事が出来る。……頼む!今、自由に動けるのは君だけだ!」
「……」
灰の言葉に彼女は暫し無言でいたが、やがて手決意を露にし――。
「わかった!アタシに任せて!」
彼女は踵を返し、同期戦士達の方へと走る。
「依頼取り合いの時みたく、死んじゃ駄目だよっ!!」
何故か早朝の出来事を持ち出し、彼等に加勢する。
――……一言多い……。
彼は再び、上空に退避したデーモン達に構える。
「中々隙を見せねぇなコイツ……!」
同期戦士達は慎重に隙を窺うが、それはデーモン側も同様だった。
両者の間に睨み合いが続く。
「せやぁっ!」
突然デーモンの背後に、衝撃が入る。
「もう一発!」
駆け付けた銀髪武闘家が跳躍し、延髄に蹴りの追撃を食らわせた。
「今の内だよっ!早く!」
剣なり呪文なり、追撃してくれと言わんばかりに催促する。
「では…。ウェントス…、クレスクント…、オリエンス…!」
獣人魔術師が風の真言魔法を行使し、突風をデーモンにぶつける。
威力が低い為、直接痛痒には至らないが、デーモンは身体全体を手で覆い、風に抗している。
「今よ!いけぇっ!」
少女野伏が矢を放ち追い風に乗ったそれは、デーモンの頭部に深々と突き刺さった。
頭部を庇うようにデーモンは、頭を低くし翼を広げる。
「まずい!今飛ばれたら――」
デーモンが飛行体制に移り、同期戦士が歯軋りする。
「――!。そうだ、コイツの出番だ!」
同期戦士は腰に吊り下げた、ある物を取り出す。
「これでも、食らいなぁっ!」
投げ付けたそれはデーモンの頭部に命中し、燃え上がる。
それは、火炎壺だった。
飛び散った油が着火し、デーモンの頭部を焼く。
火の親和性が高いデーモンならいざ知らず、下位のレッサー種なら火も十分通用する。
「オラぁ!貰ったぜぇっ!」
その隙を突き同期戦士は、突撃する。
そして蹲るレッサーデーモンの首に剣を振り下ろした。
「せぇいっ!」
彼の剣『アストラの直剣』が、デーモンの首を切り落とし、レッサーデーモンを仕留めた。
因みに彼の剣は秘かに『楔石』で強化され、現在は『アストラの直剣+3』となっている。
「やったぁっ!デーモンを倒したよ!」
幼子の様にピョンピョンと跳ね、喜びを露にする少女野伏。
「中々に手こずりましたな」
ふぅ、と汗を拭う獣人術師。
「まさかデーモンに出くわし、レッサー種とは言え倒せちまうとはな……」
呼吸を整えながら、デーモンの屍と自分の剣を交互に見やる同期戦士。
「皆!感心してる場合じゃないよ!剣士さんを助けないとっ!」
銀髪武闘家の一喝で、三人が我に返る。
「そうだ!アイツはたった一人で、デーモン2体を――」
「あの赤いデーモン、確かレッドキャップでしたかな?手強い存在です」
博識を生かし、赤いデーモンについて考察する獣人魔術士。
三人は急いで灰と合流を試みる。
気付けば、森人僧侶と鉱人斥候も加わっていた。
上空からの連続急降下に手を焼く、火の無い灰。
間合いを見計らい剣で迎撃しようにも、赤いデーモン『レッドキャップ』の火球に邪魔され、思う様に戦局が好転しない。
先に呪術の火でレッドキャップを迎撃しようにも、飛翔速度が速く容易に交わされてしまう。
――邪魔さえ入らなければ、何とかなるんだが。
そう思案している内に、同期戦士達が合流して来た。
「こっちは片付いた、待たせたな!」
「ああ、手を貸してくれ。奴の邪魔さえ阻止出来れば、巧く迎撃出来る!」
灰の迎撃を邪魔するレッドキャップ。
一瞬でも良い、阻止さえ出来れば勝機はある。
「なら、アタシに任せて!」
銀髪武闘家が勇み足で前に出るが――。
「……君の実力は認めるが、余り自身を危険に晒すものではないと思うがね?」
仲間である森人僧侶が、苦言を呈す。
「……ちゃんと考えはあるよ。アタシは、どうしよもない馬鹿だけど――」
彼女がそうこう言う間に、レッサーデーモンが急降下の体制に移り、レッドキャップが嘲りながら火球の投射体制に入った。
「議論の暇は無い、君の案。アテにするぞ!」
灰の言葉に彼女は”任せろ!”と言わんばかりに、親指を立て『サムズアップ』で応える。
「飛び道具持ちは、私と共に迎撃に加われ!次で仕留めるぞ!」
灰の号令に皆が答える。
野伏が弓を構え、森人僧侶がダートガンに矢を装填し、斥候は短剣の投射体制に移る。
灰も手に呪術の火『火の玉』を宿す。
そして再びレッサーデーモンが、全速で急降下を開始した。
「まだだ、もっと引き付ける!」
皆は、灰の合図を元に射撃を待つ。
そしてレッドキャップが、火球を灰に向けて投射した。
「やっぱりね!そう来ると――」
武闘家が何かを投げる体制に移る。
「――思ったよっ!」
そして火球に向かって投げ付けたナニカ――。
ナニカは、狙い過たず火球に衝突し、小さな爆発と共に燃え上がる。
思わぬ横槍に、レッドキャップは狼狽えた。
彼女の投げたナニカ――。
それは先程仕留めた、インプの屍だった。
「今だっ!」
灰の号令と共に、皆が投射を開始。
野伏の矢、森人僧侶のダート、斥候の短剣、そして灰の火の玉が、レッサーデーモンに命中する。
「Gurolooo?!」
全弾直撃したデーモンは、そのままの体制で地面に激突、転倒し完全に弱っていた。
「よっしゃぁ!止めは任せろぉ!」
同期戦士が剣を掲げ、転倒したデーモンの首を切り落とした。
「よし!討伐数2!」
止めを刺した彼は、残りのデーモンを見やる。
残るは、デーモンの候補生に相当する「レッドキャップ」のみ。
このまま退散するのか、此方に襲い来るのか?
カラコロ、カラコロ。
神様達が骰子を振ります。
この判定は、士気判定。
このまま逃げるのか、それとも戦うのか。
レッドキャップの士気は、7。
2Ⅾ6を振った結果、出目は、8。
足した合計値は15。
戦場に留まる目標値は13ですので。
「レッドキャップ」は、やる気の様です。
では戦闘を再開しましょう。
「さっきから嫌な動きで攻め立てて来るな、あの赤いデーモン」
不規則に軌道を変えながら、連続急降下で襲い来るデーモン。
同期戦士は、剣を振るうが一向に当たらない。
更に去り際に火球を投射し、此方は攻め手に欠いていた。
「あの火球、魔法ではない様ですね」
「既に10発以上は投射してるよ!」
獣人魔術師と少女野伏も、業を煮やし始めている。
「私の武器では、動きを止める事が出来ん!」
「アイツ、着地する気配ゼロだもんな!」
「一瞬でも動きさえ止められたらなぁ……!」
司祭、斥候、武闘家の三人も、顔を顰め恨めしそうにデーモンを睨む。
「呪文しかないか……、先生は風を興せるのでしたか?」
灰が獣人魔術師に確認を取る。
「ええ。あと一回ですが……」
魔術師が答えた後、灰は野伏にも確認を取った。
「うん、泥罠(スネア)が使えるけど、空中のアイツに効くかな?」
野伏は若干の不安を覚えている様だ。
「後は、奴の視界を妨害出来ればいいんだが……」
何かないかと思案を巡らせた灰に、鉱人斥候が或る物を差し出して来た。
「『煙玉』ってのがあるんだけど、役に立つか?」
差し出されたそれを見て、彼は深く頷く。
「……これだ!」
「皆!聞いてくれ、最後の作戦だ!」
灰は周りに呼び掛け、最後の策に打って出る。
”これが駄目なら諦めて撤退する”と、付け加えながら。
…
……
………
赤いデーモンが次の獲物を見定めて、舌なめずりする。
そろそろ遊ばず、一匹ずつ仕留めてやろう。
誰が良いだろうか?
いや、迷うまでも無い。
さっきから散々我が下僕達を蹴散らし、手こずらせてくれたフードの剣士。
奴さえ仕留めれば、後は大した事は無い。
じっくり嬲って殺してやろう。
デーモンは手にした槍を構え、空いた手には火球を灯らせる。
あの剣士が何を考えているかは知らないが、この俺が負ける筈がない。
デーモンは狙いを灰にのみ定め、全速の急降下体制に入った。
「よし!こっちに狙いを定めたな!」
灰は待ち侘びたかのように、デーモンを見据える。
程無くしてデーモンは、灰目掛けて急降下を開始した、槍を突き出しながら。
――点火。
呪術の火で『煙玉』の導火線に火を点け、デーモンのやや手前で煙が発生する様に投擲した。
弾から発生した白煙が、デーモンの視界を遮り、運の良い事に煙が目に侵入。
「Gyeooevaa!」
染みる痛みにデーモンは動きを止め、目を覆いながら空中でジタバタと藻掻き始めた。
「土精(ノーム)、水精(ウンディーネ)、素敵な褥をこさえてあげて!」
「ウェントス…、クレスクント…、オリエンス…!」
続け様に少女野伏と獣人魔術師が、魔法を行使する。
「泥罠(スネア)!」
「突風(ブラストウィンド)!」
野伏が生成した泥濘を魔術師の風で、デーモンに向かって吹き飛ばす。
粒上の泥が風に乗り、デーモンの体中至る所に付着した。
水で湿った泥は粘性を帯び、地味に重量も増す。
翼に付着した大量の泥は、デーモンの飛行能力を一時的にだが喪失させ、デーモンは地面に落下する。
自由落下の衝撃と、目に染みる煙の痛みで、デーモンは未だ立ち直れずにいた。
こうなれば、レッドキャップと云えど、最早獲物に過ぎなかった。
少々見栄えは悪いが、赤帽子の異名を持つデーモン『レッドキャップ』は、同期戦士達の袋叩き(ボコスカラッシュ)で呆気無く絶命した。
標的は全て、殲滅。
これにて、戦闘は終了。
…
……
………
「それにしても、屍の山、山、山」
同期戦士が顔を若干引き攣らせ、死屍累々の平原を警戒しながら歩く。
残敵が居ないかを確かめる為だ。
「昨日とは打って変わっての大戦果だねぇ。剣士さんが居なければ、どうなってたんだろ?」
傍らで少女野伏も、視線を移しながら同行する。
「……」
「どうしたの?」
難しい顔をする同期戦士に、少女野伏は心配そうに覗き込む。
「いやな、灰の剣士と俺の目指す理想の冒険者像……何かが違うと思ってな」
白金や金は無理でも銀等級には到達したい、そう目標を定めていた彼だったが、誰かを見本に見立てていたのも事実だった。
何度も助けて貰い、圧倒的な実力を誇る灰の剣士が目標になるだろうか?そう思っていた時期もあった。
しかし、自分の目指す何かが違うと今回の戦いで、それは確信へと変わった。
「それは当たり前だよ。彼と貴方は、使う武器も戦法も判断基準も何もかもが、違う方向性だもん。真似しても却って弱くなるだけだと思うよ、アタシは」
彼女の指摘に”う~ん”と唸る、同期戦士。
他の奴を参考にする選択肢も、当然彼の視野には入っていた。
「ここいらの連中の殆どは、顔を覚えてしまったからなぁ……どれも違うんだよなぁ……」
正直今のギルドに所属している冒険者達は、大半が顔見知りとなってしまった。
時々流れ者も目にするが、そういう奴は大抵一癖も二癖も有り、直ぐに此処を去って行く。
「ままならねぇもんだ……」
戦闘後の疲労もあるのだろう、彼は浅い愚痴を零す。
「まぁ、今焦っても仕方ないよ。焦らずじっくりと行こ」
そんな彼の愚痴にも嫌な顔一つせず、笑顔で受け止める野伏。
「……だな!」
彼も笑顔で返す。
「じゃあ、鋼鉄等級になったら、遠征に出てみよっか?」
野伏は、他のギルドにも冒険に出てはどうかと提案する。
「おお。それ良いかもな!」
彼もその案に快諾し、”よ~し、頑張るかぁ!”と張り切るのだった。
同期戦士は出合えるだろうか?
彼の手本と成り得る冒険者に。
「お!手紙持ってるぜ、このデーモン!……読めないけど……」
「ふはは!これだから鉱人は困る、どれ貸し給えよ。……ふっ……、やはりな……そういう事か!」
「お前、絶対読めてないよね……、それ――」
相変わらずの二人のやり取りに銀髪武闘家が、獣人魔術師に手紙を渡す。
「どうですか先生?」
「……」
先生と呼ばれた獣人魔術師は、暫く手紙を凝視するが、やがて首を左右にゆっくりと振る。
「駄目ですね、古代文字は私の管轄外です。残念ですが……」
「先生でも駄目かぁ……」
銀髪武闘家は肩を落とす。
「私が読んでみよう」
そこで火の無い灰が手紙を手に取り、目を通し始めた。
「えぇ?アンタ読めんのかよ!」
鉱人斥候が驚く、他三名も同様だった。
「……」
読み始めた灰に、突如として息遣いに変化が見られ、小刻みに手が震え出す。
四人は緊張した面持ちで固唾を飲む。
「内容を説明する」
灰が告げた。
レッドキャップ率いるインプの群れは、近日中に街を襲撃する算段だった様だ。
その街を征圧した後、そこを更なる悪魔召喚の拠点へと利用する。
そういう計画を立てていたらしい。
その言葉を聞いた四人は一斉に騒ぎ立てる。
「それってヤバかったじゃんか!」
「五月蝿いぞ、鉱人!我々はその計画を未然に防いだのだ!」
「あのインプの数なら、街の襲撃に足る戦力かも知れませんね」
「その計画って、この赤いデーモンが考え付いたの?」
四人が各自言及する。
最後の銀髪武闘家の質問に灰は応える。
「問題は、この後の警句だ。読むぞ――」
――我ら闇によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬ者よ。かねて闇を恐れたまえ――
「……」
その警句に四人は言葉も出なかった。
その意味を理解出来たのか逆なのか、もしくは警句の醸し出す高過ぎる啓蒙の次元故か。
それは、闇に対する恐れ敬い、そして情景、それ等の闇に対する畏怖と崇拝が人という枷を超越し、人という枠組みから解放され、故に生命の在り方を根底から覆そうという、試みだろうか。
更に灰は語る。
「私の見解ではあるが、死に行く自らの運命を乗り超えようとしたが故の、戒めと情景なのかも知れない……」
「それってつまり……、……どういう意味ですか?」
理解出来てないのだろう、銀髪武闘家が訪ねて来る。
「……私とて、真の意味など分かるまいよ!この警句には実に多く意味が込められているのだろう。……重要なのはデーモンのバックに、人が関わっているという事だけは確定した」
灰の指摘に皆がどよめき、再び言葉を失う。
「私達は、大きな渦に飛び込んでしまったのかも知れない。それだけは留意しておいてくれ!」
「……」
無言で立ち尽くす四人。
そこには、先程の達成感など綺麗サッパリ消え去っていた。
「……すまん、少し脅かし過ぎたな。この手紙は、私が翻訳してギルドに提出しておこう。収入源に直結する筈だ、出来高制だったかな?確か――」
「そ、そうだよな!アタシらデーモンの陰謀を阻止した上に、全滅させたんだ!完璧じゃんか!」
「そ、そうですよ!一党結成以来の大金星ですよ、これは!」
灰の言葉に斥候と武闘家が沸き上がり、場を何とか盛り上げる。
その後同期戦士達も合流し、残敵が居ない事を確認した後、一行はギルドへと帰路に就いたのだった。
一行が立ち去り誰も居ない筈の平原に、一つの人影が姿を現す。
「……下級のデーモンでは、こんなモノか。もう少し踏み込めると、思ったのだがな」
黒いフードマントを風に靡かせ、くすんだ金色の瞳が鈍く光を放つ。
「流れを変えたあの剣士……、覚えておこう……」
その言葉を最後に人影は姿を消し、平原には誰一人存在しなかった。
ギルドへ戻る途中の街道にて、一行は賑やかに談笑している。
先程の戦いの疲労は何処へやら、彼等の顔は皆、一様にして明るい。
火の無い灰を除いては――。
最後尾で、手紙の内容を思い返していた。
――あの警句……、覚えがある。
――我ら闇によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬ者よ。かねて闇を恐れたまえ――
闇を信望し、命を…、人の在り方を変え様とした、暗き亡者の国。
「ロンドール……、『黒教会』が動いていたか……!」
皆には聞こえない様に配慮しながら、黒教会の名を口にした。
――この生命溢れる世界を、再び死の世界にする訳にはいかない。奴等は、まだ諦めていなかったのか!二度目の火が宿って尚――!
死と深み、亡者とおぞみを”是”とする国『ロンドール』。
その国の指導機関『黒教会』。
今は何処に在るのかも、見当すら付かない。
だが、遅かれ早かれ対峙するであろう事だけは、確信が持てた。
一行がギルドに到着する頃、夕日が山脈を掠めようとしていた。
それは偶然だったのだろうか?
心なしか落日は、普段よりも赤黒く染まっている様に思える。
それは、いよいよ火が陰り、最初の火が燃え尽きんとしていた、あの黒い太陽を思わせた。
△▼△▼△▼△▼
「ええっ?!小悪魔60以上に、下級悪魔2と熾火の魔神ですか?!」
同期戦士達の報告にギルドの受付嬢は、大声で驚愕の声を上げる。
だが周りには誰も居らず、この応接室に居るのは、一党の暫定的頭目の同期戦士と火の無い灰、そしてギルド長を加えた受け付け嬢のみだった為、その声は他に届く事は無かった。
「それにしてもデーモンの群れが、この街を襲撃していようとはな……!」
ギルド長は苦い表情で、頭を悩ませた。
「今の処は、未然に防ぐ事が出来ましたが、今後どう事が推移するか分かりません!」
灰はそう付け加え、赤いデーモン『熾火の魔神ことレッドキャップ』から入手した手記を提出した。
無論、彼の翻訳付きで――。
それを手に取り、目を通すギルド長。
「うぅむ……!。背後に人が関わっているとなると……」
「邪教徒の類でしょうか?」
同期戦士が訪ねる。
「まだ断定は出来んが、先日の邪教徒討伐といい、今日のデーモンの群れといい――」
顔を顰め目を瞑ったギルド長は、眉間にシワを寄せ、ますます顔に小ジワを増やしていく。
「残念だが、鉱山の一件で冒険者の数が大幅に減少している。今すぐ対策を講じる事は出来んよ。せめて来季の春に大勢の冒険者達が登録し、尚且つ彼等が力を付けてくれなければ、話にすらならん。無論君達も含めてね」
一応、可能な限りの策は講じてみる。
そう発言したギルド長は、些か疲れを見せている様だ。
冒険者達の知らない所で、現状での最善を尽くしてくれているのだろう。
今は冒険者達で、数々の依頼を解決していくしか道は無い様だ。
「……とは言え、此度のデーモンの襲撃を阻止した君達の活躍は見事だった。この件は報酬の上乗せと、貢献度で報いる事としよう、有り難うだった皆!」
最後にギルド長が、笑顔で冒険者達に感謝の念を伝えた。
”報酬は受付で受け取ってくれ給え”と付け加え、報告作業は終わりを告げた。
成功報酬と特別報酬を加え、金貨21枚。
一党一人当たり、3枚の配当となった。
一人金貨3枚は、見方によっては意見の分かれる所だが、一党のメンバー達にとっては初の大収穫となった。
「やったぜぇ!何買おうかなぁ!」
「ふっ……、悪くないな」
「これからも精進したい所ですな」
「何か美味しい物でも食べようかな!」
各々が喜びを露にし湧き立つ。
「あんまり贅沢は出来ないけど、メシにするか!本当に皆、良く頑張ってくれたな!」
同期戦士からの労いの言葉に、皆は盛り上がり食堂へと直行した。
既に食堂は賑わいを見せつつあり、給士達が忙しなく食事を運んだりと忙しそうだ。
メンバー達は、金貨を1枚ずつ出し合い、各々が食べたい物を注文する。
そして久々の、否。
一党結成以来初の、豪勢な食事に顔を綻ばせるのだった。
皆が食事を楽しむ姿に、フードの奥から笑みを浮かべつつ灰は一人、決意を固める。
――ロンドールなどに、この営みを破壊させてなるものか!奴等にも、分からせてやりたいものだ……。命の素晴らしさを!
――闇の王……、貴公とて最初から亡者だった訳ではあるまい。
嘗て最初の火の炉で戦った黒騎士の鎧に身を包みし、もう一人の『火の無い灰』。
彼にも分る筈だ――。
皆が楽しみ、喜びを分かち合い、心のままに生きる事の尊さが。
――命の息吹を――
翌日。
今日は依頼を受けず、灰は休む事にした。
特別疲労している訳ではなかったが、邪教徒の件といい小悪魔の件といい、色々考えを纏めたかったのが本音であった。
それにギルドでは様々な冒険者の噂話を聞く事が出来る。
彼等が何気無く語った言葉でも、ふとした拍子にそれが思わぬ情報となる事もあるのだ。
決して休みが無駄になる訳ではない。
ギルドの片隅で薬草茶を嗜みながら、今迄の出来事を思い出し手帳に記録していく。
こういった地道な作業も、将来実を結ぶだろう。
一通り作業を終えギルドの賑わいが増す頃、聞き覚えのある単語が背後から聞こえて来る。
『知ってるか?ゴブリンスレイヤーの事……』
見知らぬ冒険者と先日共闘した同期戦士が、ゴブリンスレイヤーの事で話し込んでいた。
そうか、彼も今日は休むのだな。
他のメンバー達も、各々の時間を過ごしているのだろう。
思わず火の無い灰も、彼等の会話に聞き耳を立てた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
熾火の魔神(ファイアブランド)
赤い外皮と翼を持つ、俗に「赤帽子(レッドキャップ)」と呼称されるデーモン。
不規則で俊敏な飛行で、相手を翻弄し、急降下の突撃や火球の投射で攻撃して来る。
鋭い爪や牙の他に、槍や剣を装備した個体も存在する。
彼等は、魔神の中でもそこそこの階級で、士官候補生(スポーン)とも言われている。
レッサー種とは言え、仮にも魔神の眷属。
少し弱くし過ぎた感じが今更ながらにします。
灰と他メンバー達の強さのバランスが、中々に難しいです。
如何だったでしょうか?
こんな拙いだらけの作品を読んで下さって、本当に有難う御座います。
気が向いたらで良いので、感想、評価、宜しくお願い致します。
デハマタ( ゚∀゚)/