ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 どーもです。
今年も後僅か、もう直ぐ年越しですね。
車も人の往来も激しくなり、思わぬ事故に繋がり易くもなります。
気を付けねば!( ̄ー ̄)/
もっと筆が速くなればなぁ、と願望を抱きつつ投稿いたします。
デハ……。


第40話―依頼者と冒険者のシナリオ―

 

 

 

 

 

レッサーデーモン(一般)

 

 下級の魔神兵。

 一概にレッサーデーモンと言ってもその種類は千差万別で、実に多い。

 ここでは最も数多い、一般の個体種を指す。

 

 身長2メートル前後の屈強な体躯で、飛行用の翼を有す。

 筋肉は発達しており、単純な筋力は力自慢の只人をも凌ぐ。

 主な攻撃方法は、その力や爪を生かした単純な物理攻撃が主体だが

 武器を所持している事もある。

 

 当然亜種も存在し、姿形も多種多様で女の姿や異形の姿を有した者も居る。

 また呪文攻撃に特化した者や、頭脳戦に長けた者も存在し、混沌の中核を成している。

 

 下級の雑兵と侮るなかれ。

 

 彼等は歴とした魔神の眷属、この中から魔神将や魔神王が誕生する事もあるのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「居たぁっ!」

 

冒険者で賑わうギルドの入り口で、一人の女性『孤電の術士』は人目もはばからず叫び、一人の冒険者へと駆け出す。

 

「数日前から来てくれないし、お見限りかと思ったじゃないか。ええ?待っていたのにさ!」

 

 次の瞬間には冒険者の傍らに居る、牛飼い娘の横をすり抜け、彼に飛び付き抱き着いていたのは『孤電の術士』と呼ばれる、一人のアークメイジ。

 

呆然とする彼女を余所に、その冒険者は”そうか”と短く頷くばかり。

 

孤電の術士は喜色満面で大はしゃぎ、彼(ゴブリンスレイヤー)相手に何やら話し掛けている。

 

「もう直ぐ、我が願いが成就しそうなんだ!悪いが手伝ってくれ給えよ!」

 

「ゴブリンか?」

 

「残念ながら、不幸にして、幸いな事に、その通り!」

 

 彼はもう一度、そうか、と頷き、ぐるりと周りを見回した。

 

そして彼の視界は、入り口付近で腕組みをしながら壁に寄り添い佇む、一人の男を捉えた。

 

「……」

 

「……」

 

 佇む男は、フードの奥から彼と視線を交わし、無言で頷く。

 

それを確認した彼は牛飼い娘に向き直り、”すまんが、依頼だ”と短く告げる。

 

その様子をフードの男『灰の剣士』は、遠巻きながらに見つめていた。

 

ゴブリンスレイヤー、孤電の術士、牛飼い娘の間で何やら会話が行われているが、それは彼が関与する事ではない。

 

敢えて介入することはせず、事の経緯を見守る事にした。

 

あの不死人の襲撃から経過する事、数日。

 

彼女の要望通り、護衛を引き受けた灰の剣士。

 

彼はその間、意識を集中させ周囲のソウルを探っていたが、怪しいソウルの持ち主が表れる事は無かった。

 

 

 

ただ事ある毎に肌を密着させ、しな垂れかかって来たが為、少々反応には困ってしまったが――。

 

からかっているだけなのか、純粋に思慮を寄せてくれたのかは、判断しかねた。

 

彼女は元から、そういう性格なのだろうか?

 

まぁ、何はともあれ特に変わった事も起こらず、こうして平穏な時間が過ぎ現在に至るという訳だ。

 

 

 

そして――。

 

 

 

「さぁさ!君達ぃ、糧秣やらを買ってくれ給えよ!」

 

 孤電の術士はビシッと指を指し、灰と彼に注文を付けた。

 

「俺がか?」

「私もか?」

 

「そうだ、君達がだ!丹念に時間を掛けてじっくりと選ぶよう、依頼主は注文を付けるぞ!」

 

 灰と彼は観念したのか、”分かった”と短く頷き、ギルドを後にした。

 

二人が去ったギルドで、女二人の秘密の会話が行われたが、それは男二人が知る事ではなかった。

 

 

 

 雑貨屋を始めとした様々な店舗を回り、必要な物資を購入する二人の冒険者。

 

「出発は何時になる?」

 

「明日早朝だろうな。もしかしたら、今日中に立つかも知れん」

 

「そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーと灰の剣士とで、そんな会話を交わしながら、彼女の注文通り『じっくり丹念に時間を掛けて』物資を調達していく。

 

暫し無言でいた二人だったが、今度は灰が口を開く。

 

「……彼女の事なのだが……」

 

”孤電の術士か?”と、彼は反応したが灰は頭を振り、”牛飼い娘”の事に言及し始めた。

 

「……」

 

 滅多な事では作業を止めない彼も手が止まり、無言で耳を傾ける。

 

灰は語る――。

 

数日前の出来事を――。

 

牛飼い娘が帰路に就く途中、心無い輩の毒牙に掛かりかけた事を。

 

運良く早期に対応出来たお陰で、下手人は確保され事無きを得る事が出来たが、今後再発する可能性も否定し切れない。

 

牧場と街の距離が近いからと言って、彼女一人で出歩かせるのは、些かに無防備が過ぎるのではないだろうか?

 

その事実を耳にし、ゴブリンスレイヤーは無言のまま立ち尽くしている。

 

「……どうすれば良いか分からん……」

 

 当然彼とて、彼女が不幸な目に合う事は望んでいない。

 

だが今日迄、真面に人との交流を育む事が無かった彼には、どう接すれば良いか見当も付かなかったのである。

 

「一緒に、風呂にでも連れて行ってやるのは、どうだろうか?」

 

「……風呂?」

 

 灰の提案に彼は聞き返す。

 

「君も彼女も大半は清拭で、身を清めているのだろう?」

 

「……ああ」

 

「時々で良い。一緒に風呂に連れて行ってやれば、彼女もきっと喜ぶ」

 

 街の住人は兎も角、街外れの住民や村人達の身の清め方は、大抵が清拭だ。

 

元来、湯に浸かるという事自体、非常に贅沢な事この上ないのである。

 

だがこの街は小さな辺境とはいえ、公衆浴場が幾つか点在していた。

 

そして娯楽にも一躍買っている。

 

公衆浴場は街の住人達にとって楽しみの一つでもある。

 

これを利用しない手は無いだろう。

 

「小鬼退治に支障が出るなんて言うなよ?」

 

「む?」

 

 彼が言おうとした事を察し、灰は機先を制した。

 

「身体を洗浄する事自体は、そうそう影響はしない。直接装備品を細工する訳でもないしな。湯に浸かれば疲労回復にも繋がるし、私もよく利用している」

 

「……」

 

 彼は無言のまま灰の言葉に耳を傾けていたが、やがて――。

 

「そう…、だな…、やって…みようか」

 

 若干の戸惑いはあったものの、彼なりに動く気配を見せる。

 

「ああ。そうして欲しい」

 

 灰はそう告げ、両者は再度買い出しに集中する。

 

途中”彼女が作るシチューは美味かった。一言『美味い』と言ってやってくれ”と、駄目押しの追撃を加えながら――。

 

 

 

工程を終えた男二人は、ギルドへ戻る。

 

入口へ差し掛かるや否や孤電の術士が、二人の元へ駆け寄って来た。

 

彼女は牛飼い娘に”ではな”と一言だけ告げ、彼等と共にギルドを立ち去った。

 

残された牛飼い娘の表情が、先程とは打って変わっていたのを彼等は知らない。

 

 

 

ギルドを出た後、灰は別行動を執らせてもらう事にした。

 

自分自身の準備に取り掛かる為だ。

 

別れ際、孤電の術士に何やら不満を漏らされたが、それに付き合ってる場合ではない。

 

彼女の目的を成し遂げる為の目的地は、非常に危険な地域に存在しているからだ。

 

彼は宿に戻り、借りていた自室にて装備品の点検に移る。

 

そして点検作業中、或る事を思い返していた。

 

孤電の術士と数日間過ごし、その中での会話が彼の脳裏に過る。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「魔法の時代?」

 

「そうっ!突如現れた、偉大な魔術士達が自ら編み出した魔術で決闘を始めたのが、事の発端さ!」

 

 灰の問いに孤電の術士は、得意気に話し出す。

 

既に小鬼の生態を記した書物は完成し、彼女は自由時間を有意義に過ごしていた。

 

何故か椅子に座っている彼の膝上に腰掛け、その肢体を密着させながら――。

 

その後、彼女から『魔法の時代』について語られる。

 

移り変わる時の狭間に訪れた、その時代。

 

一人の天才魔術師の出現を切っ掛けに、魔法を行使した戦争が勃発した。

 

魔術師達は自ら開発し練り上げた魔術を駆使し、多種多様な手管で呪文の応酬が繰り返される。

 

その様に、人々は歓喜し狂喜し、誰もが熱狂した。

 

当時の魔術は、今とは比べるべくも無い程の協力無比な呪文が存在していたらしい。

 

それこそ、四方世界の理が変革しかねない程の――。

 

一説によれば、その状況に神々でさえも危惧したほどだと伝えられている。

 

だがしかし意外にも唐突に、呆気無なくそれは終わり迎えたのである。

 

激戦を繰り広げた数多の魔術師達は、何らかの方法を使い、四方世界の外へと旅立ってしまった。

 

その理由は今現在でも学士達の議論の的となっているが『己が研鑽を高めるが故に』というのが、有力説となっている。

 

一人、また一人、と旅立ち、次元の壁を越えるほどの力量を有した魔術師達は、皆この世界を去って行った。

 

「そして始まりを迎えた今の時代、それを『冒険の時代』と呼ぶ学士達も居るね!」

 

 一通りを語り終える孤電の術士。

 

彼女の甘く酸っぱい、微かな林檎の吐息が彼に吹きかかる。

 

「……初耳だ、そんな時代もあったのだな」

 

「確かに存在した魔術師達の時代。私にとっては、一種の憧れでもあるのさ!……しかし、だ……」

 

 彼女が語尾を弱めた。

 

「偉大な先人達が、神々の御座す領域に迄辿り着けたのか否かは、確かめる術が無いんだ」

 

「ん?別の領域が在るという事か?」

 

 この世界を去った魔術士達が辿り着いた世界、それは盤外の神々が存在する世界か、はたまた別の次元なのか証明する資料は疎か、誰一人として確かめ得た者は皆無だった。

 

「ま、仮に神々の領域に到達出来ずとも、偉大な先人達と邂逅した上で見聞を広め得るのなら、決して無意味ではないさ!」

 

 彼女の言葉を聞いていた灰は、一つの疑問を投げ掛けた。

 

「戻り得る術は在るのか?」

 

「……」

 

 彼の疑問に彼女は言葉を返さず、暫し無言でいる。

 

「……片道切符かも知れんね……」

 

 彼女は、手持ちの煙管に煙草を詰め、”インフラマエ”と呟き火を点ける。

 

そして一服した後浅く息を吐き、そう呟く彼女の表情は何処と無く寂しげだった。

 

「行く術が在るのなら、戻りゆく方法も必ずっ……!」

 

「……そう信じたいよ、私も……」

 

 彼は思い付く精一杯の言葉を発し、彼女も返事を返す。

 

しかし口調は弱々しく、彼女の瞳は虚空を泳いでいる、何を見ているのだろうか。

 

彼女はダラリと力を抜き、彼の膝上に更に深く腰掛けた。

 

「……まぁ、もしかしたら先人の何人は秘かに、この世界に帰還していたのかも知れないね。……皆が勘付いてないだけで」

 

 彼女は再び言葉を発す。

 

「極稀に、規格外の天才が現れる事もあるしね。きっとそいつは、帰還した先人達の末裔なのさ!」

 

 少し陽気さを取り戻した彼女は、にこやかに語り掛けた。

 

「貴公も、その末裔の一人かも知れんぞ!」

 

 灰も笑顔で返す。

 

「おっ?嬉しい事言ってくれるじゃないか!」

 

 少し上機嫌になる彼女。

 

 ”そっかそっか”と彼女は腕をグンと上げ、伸びをする。

 

「だったらさ……。今夜はこのまま、キミの上で眠らせておくれ?」

 

 彼に全体重を預けた孤電の術士は、彼の承諾も得ないまま瞼を閉じ身を完全に委ねる。

 

「暖かいんだ……。キミの傍は……、……木漏れ日みたいだ……」

 

 そう言った彼女は、間も無く寝息を立て始めた。

 

不死人が襲撃した時に見せた、彼に対する怯えは微塵も感じられない。

 

今の彼女は完全に、身も心も彼に許していたのである。

 

「私で良ければ……おやすみ」

 

 彼は静かに語り掛ける。

 

寝入った彼女の顔は、まるで年端もいかない純朴な少女の様だった。

 

安らかの寝息を立てる彼女の髪をそっと撫で、彼は決意を固める。

 

 

 

 

 

――必ず成功させてやる、任せておけ!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 翌日、まだ日が顔を出す前に三人の客と一人の御者を乗せた荷馬車は街を出発し、北西へと向かう。

 

街道沿いに走らせる事数時間、一人の魔術にして学士の女性『孤電の術士』は、小さな愚痴を零した。

 

「何だい何だい!折角の旅路を楽しもうと思ったのにさ!荷馬車なんかで向かうなんて!」

 

 さも不満を隠そうともせず、拗ね気味に一人の男『灰の剣士』を睨み付けた。

 

彼女は徒歩で目的の場所に向かう積りであったが、灰は荷馬車を用いる事を半ば強引に取り決め、渋る彼女を抱きかかえ幌の中へ放り込んだのだった。

 

「残念だが、そんな余裕はない。道中の襲撃を極力避け、尚且つ目的地へ最小限の消耗で辿り着く必要がある」

 

 彼はそう告げ、手持ちの地図を広げる。

 

「……全く長旅の妙味を楽しまない奴は、人生を溝川に捨てると同義だよ?」

 

 孤電の術士は、そう返しながら頭の後ろに腕を組み、幌の中でもたれ掛かる。

 

「それで目的を達成出来なくば、本末転倒だ」

 

「何か問題でも発生したか?」

 

 灰の言葉にゴブリンスレイヤーが反応し、彼に問う。

 

「誰かさん風に言わせて貰えば、問題とは不動にして変動するもの。重要なのは目的地ではなく、其処へ至る迄の道のりに発生している」

 

「そ~んな稚拙な使い方はしないね!……私は――!」

 

 灰の軽口を混ぜた物言いに、孤電の術士が反応し声を荒げる。

 

しかしそんな彼女を無視し、灰は言葉を続ける。

 

彼が拡げた地図にはペンで印を点けられた跡がある、恐らく其処が目的の場所なのだろう。

 

「過去に、この近隣で発生した巨大地震。貴公等にも覚えがある筈だ」

 

 灰の言に”だから?”と言わんばかりの視線を向ける、二人。

 

「その巨大地震に呼応するかの如く姿を現した、正体不明の遺跡群――。二人共名前くらいは知っているだろう?」

 

 灰の言葉に二人の反応は無い。

 

先程迄、減らず口だった彼女も沈黙していた。

 

灰は話を継続する。

 

「これから向かう先は数多の冒険者達が挑んでは帰らぬ人となり、今尚挑み続ける遺跡。故郷の流れ着く地――」

 

 灰は一旦言葉を切り上げ二人に改めて向き直り、二人もそれに反応し孤電の術士も姿勢を正した。

 

 

 

                 ―― ロスリック ――

 

 

 

その言葉に二人暫し言葉を失う。

 

恐らくは最初から存在していた彼女の目指す目的地に、ロスリックが地震の発生と共に流れ着いたのだろう。

 

やがて彼女が口を開いた。

 

「その割に君の地図には、記載されていないのだが?」

 

 彼女の言葉に”当然だ”と灰は返した。

 

そもそもロスリックが出現したのは、最近の出来事だ。

 

まだ調査も碌に進んでいないのに地図が更新されるわけが無い。

 

念の為、最新の地図を購入してみたが、ロスリックのついては何も記載されていなかった。

 

数日前に、彼女から目的地を告げられた。

 

そして彼女が有する地図で方角と距離を大まかに算出し、或る事実に気付いた。

 

彼女の目指す目的地とロスリックの存在する座標が、見事に重なっていたのだ。

 

当然彼は彼女にロスリックについて事前説明をしておいたが、知識として記憶するのと実際体感するのとでは危険度に雲泥の差が生じる。

 

何度も彼女に意思確認と念を押してみたが本人の決意は変わらず、寧ろ好奇心を抱かせてしまったようだった。

 

「其処では亡者共が跳梁跋扈し、死と深みが充満する未だに呪われた地だ。今迄とは何もかも違う、留意しておくんだ。亡者だけではなく、おぞましい異形やデーモンの類、小鬼の存在も確認できたのでな」

 

「……ゴブリンだな」

 

 ゴブリンスレイヤーが食い付く。

 

「その通り。……そこで死を迎え、『亡者』と化したゴブリンと戦った事がある」

 

「ほう」

 

「だが細心の注意を払うのだ!其処では死ぬだけでは済まされず、犠牲者は亡者と化し親しい隣人にも躊躇無く襲い掛かる、化け物へと変貌してしまう。……これから向かう所は、そう云う呪われた地だ!」 

 

 彼は白磁等級の時、仲間達と共にロスリックへと踏み込んだ事がある。

 

どういう訳か、その地でゴブリンの死体と遭遇した。

 

仲間の一人がその死体に近付いた瞬間、突如死体が襲い掛かり、仲間の腕に噛み付き食い千切ろうとした。

 

そのゴブリンは干乾びた亡者と化していたのである。

 

恐らく潜入を試みた後に殺され、そのまま呪いの影響で亡者へと変貌したのだろう。

 

「確か翠玉等級以上でなければ侵入は許されていなかった筈だが?」

 

 誰に問うでもなくゴブリンスレイヤーが訪ねる。

 

「それは心配ないさ。そういった制限はギルドを通してのみの依頼に適用されるからね。今回は私個人の依頼で、ギルドを通さず直接お二人さんに頼んだ事だから心配いらないよ!」

 

 彼女の答えに彼は、いつもの”そうか”と短く頷く。

 

その後は三人共特に何を話すでもなく、馬車はロスリックへ向け只管と走って行く。

 

 

 

 

 

数時間が経過し、幌の窓を覗いていた灰が二人に告げる。

 

「見ろ!あれが故郷の流れ着く地『ロスリック』だ!」

 

 灰に釣られて二人も窓を覗き込み、その存在感溢れる景観に圧倒された。

 

「…ぬぅっ……」

 

「ほぁ~……、こりゃすごい……王都顔負けじゃないか……!」

 

 孤電の術士は勿論、余程の事が無い限り感情を露にしないゴブリンスレイヤーも息を呑んだ。

 

形式上遺跡となってはいるが、その気になればそのまま住み着く事すら可能なほどに、ロスリックの建築群は未だ原型を失ってはいなかった。

 

「この馬車は、冒険者用の中継拠点へと向かっている。其処で一旦休憩を挟み、万全の態勢で臨む事にする。少しでも成功率を上げたいのでな」

 

 二人に指示した後、程無くして馬車は中継拠点へと到着した。

 

荷馬車は停車地点で停まり、三人は馬車から下車する。

 

その拠点は過去に、王都から派遣された調査隊が構築したベースキャンプが元となっており、当時は天幕が張られていたのみだった。

 

あれから数週間。

 

天幕は完全に姿を消し、代わりに丈夫な建物が数件並んでいた。

 

その建物はレンガと木造で建築され、街のギルドとほぼ変わらない造りをしている。

 

中央の大きな建物に大勢の人々が出入りしている。

 

彼等の大半が冒険者である事は、まず疑いようが無かった。

 

だが守衛や巡回の兵士達の姿も混ざっている。

 

増員されたのだろうか?

 

確認出来ただけでも、20名程居た。

 

「治安にもかなり力を入れている様だねぇ、それだけ荒くれ者も多いって事か」

 

 予想以上に人の行き来が多い事に彼女は感心するでも呆れるでもなく、その様子を視界に納める。

 

確かにロスリックは、尋常ならざる危険度の高い遺跡だ。

 

その損耗率は極めて高く、生還率は10人に一人か二人と言われている。

 

故に参加する冒険者達は実力派揃いで、中には荒くれが多いのも事実で、常に目を光らせておかなければ同業者同士で荒事騒ぎが起こるのは明白だった。

 

それ等の治安を維持する為に正規兵達が、増員されたのである。

 

「俺が考えていたよりも人の往来が多いな」

 

 珍しくゴブリンスレイヤーも感想を述べた。

 

極めて危険度が高い遺跡と呼ばれる悪名高き、ロスリック。

 

その豪華絢爛な建築群から”この遺跡には大層な財宝が眠っている”と冒険者界隈では噂になっていた。

 

そんな出所不明な噂を本気で信じているのか、死亡率が高くとも危険を顧みず、一山当てて一獲千金を狙う者、強大なデーモンや竜を討伐し名声を得ようとする者、少し変わった者は其処で修練を積み力や啓蒙を高め様とする輩など、枚挙に暇がない程実に数多の冒険者達がこの遺跡に挑戦しては消えていくのである。

 

だが、此処に訪れる冒険者達が急激に増加した原因――。

 

実はこの、灰の剣士に起因していた。

 

と言うのも、まだ彼が白磁等級だった頃、重戦士等を始めとした多くの一党と共に、この遺跡へと挑んだ。

 

そして同じくして調査に当たっていた正規部隊と合流し、紆余曲折を得ながら『冷たい谷のボルド』と戦闘。

 

結局ボルドには逃げられ、正規兵から数名の犠牲者が出たが、灰の剣士率いる冒険者側の犠牲者は皆無で、更に珍しい希少価値の高い食器やら装飾品やらを持ち帰り、実質彼等一党は大成功を収めた事になっていた。

 

当然その報はギルドで記録され、宝を記した地図も飛ぶように売れ、その噂は瞬く間に口伝で他のギルドや王都にも伝わる事になる。

 

更に彼ら全員が、白磁等級であった。

 

後に彼等は『ロスリックの生き残り』と呼称される事になる。

 

これが他の冒険者達の対抗心に火を点ける、大きな要因となっていたのも事実だ。

 

 

 

――白磁の新人で生還したのだから、それより高い等級の俺達に出来ない道理は無い!――

 

 

 

結果、今尚多くの冒険者達が押しかけているのである。

 

灰は当然、その原因が自分達の成功例に起因する、という事実を知る由も無かったが……。

 

「依頼確認の簡易ギルドを中心に、武具屋に道具屋、食堂酒場類に、宿まで一通り揃えてあるか。まるで『死の迷宮』付近の拠点『黄金の騎士亭』宛らだな。その内、街規模に迄発展するかもね」

 

 孤電の術士は建造物と行き交う人々を見回し、そう評した。

 

「道具類を扱う店も在る。資金さえ枯渇しなければ、補給に困る事はあるまい」

 

 ゴブリンスレイヤーも別視点で分析する。

 

「踏破状況を把握したいな。先ず簡易ギルドへ向かってみるか」

 

 灰は二人を先導し、簡易ギルドへと向かう。

 

彼等の目に着いたのは、何も冒険者や衛兵だけではなかった。

 

今尚増築途中の建築士や職人、物流に従事する一般人も多数、忙しなく仕事に取り掛かっている。

 

これから更に発展していくのだろう。

 

一行がギルドの扉を開け中に入ると、其処には見慣れている様で若干違和感の拭えない光景が広がっていた。

 

建物内の広さ自体は街のギルドと、そう変わるものではなかった。

 

しかし、上質の装備に身を包んだ者や目付きの鋭い気迫に満ちた者、屈強な猛者を彷彿とさせる冒険者のなんと多い事か。

 

その殆どが、玉等級の認識票をぶら下げている。

 

更に彼等が荒事を起こさぬ様、完全装備に身を包んだ正規兵達が守衛室に待機し、常に目を光らせている。

 

「おうおう、居るわ居るわ。強そうなのが、わんさかと!」

 

「流石に危険地帯へ挑むだけの事はある。この前とはワケが違うな」

 

 挑んだ冒険者の帰還率が、異常に低い事を流石に学んだのだろう。

 

此処に屯する冒険者達は、明らかに街の連中とは身に纏っているオーラ(ソウル)が違う。

 

驚愕する孤電の術士に灰も同意し、受付嬢の居るカウンターへと足を運んだ。

 

 

 

「いらっしゃいませ!ロスリックのギルドへようこそ!」

 

 

 

 訪れた灰達に受付嬢が対応する。

 

「ロスリックのギルド」その言葉に、言い様のない『(パワーワード)』を感じる。

 

顔も全く知らないギルドの職員。

 

王都から派遣されて来たのだろうか?

 

「ロスリックの踏破状況について確認したい。後、それを記した地図の購入も――」

 

「承りました、少々お待ち下さい」

 

 灰の要求にも職員は慌てる事無く、手際良く直ぐに応じていく。

 

――かなり手馴れているな、相当のベテランだ。

 

灰はその手際良さに感心し、その職員に視線を向けていた。

 

容姿も美人の部類に入るだろう。

 

しかし横から不意に、肘で小突かれる。

 

隣に目を向けると、孤電の術士が何とも苦々しい表情で、灰の脇腹を肘で突いていた。

 

「バァカ……っ、見過ぎだ!隣の女を差し置いて……!もう少し女心を学び給えよ、キミぃ…!」

 

「……何でそっちの方に話が飛躍する?!」

 

「……フンっ!」

 

 灰と彼女が小声で口論している間に、受付嬢が書類を片手に此方へと向き直った。

 

「お待たせしました。えっとですね……」

 

 彼女が現状について説明を始める。

 

……

………

 

結論から言えば、殆ど進展していなかった。

 

運良く帰還した冒険者達の証言によれば、殆どがロスリック城門前の庭園で行き詰っていたのである。

 

それと言うのも、新たにロスリック騎士部隊が配置され、挑んだ冒険者はほぼ全て彼等に阻まれ、結果戦死していた。

 

その犠牲者が亡者と化し、近辺を徘徊し冒険者を襲う。

 

そして其処で生まれた犠牲者は亡者と化す。

 

挙句新たな冒険者を襲う。

 

亡者となる。

 

また襲う。

 

亡者。

 

……。

 

つまりは好転する事の無い悪循環を繰り返し、殆ど進展していないのが実状であった。

 

それ等の事実を知った冒険者達は危険を避け、珍しい家具類や金属物の収集を目的に、ロスリック高壁内の兵舎探索を優先していた。

 

現在そうした状況が続き、ボルドの広場から先へ進んだ者は皆無であったのだ。

 

尤も、それはギルドが把握している内容だけなので、人知れず忍び込んだ者達や祈らぬ者達が根城にしている可能性は考慮しないものとする。

 

「……分かった、有難う」

 

 灰は受け付け嬢に地図代を支払い、二人が待機している場所へと戻った。

 

「……どうだった?」

 

「……殆ど好転していない……。厳しい行軍になるだろう」

 

 孤電の術士の問いに灰は、頭を振りながら答える。

 

「……戦力面にも不安は残るが、肝心の目的地への正確な座標は把握しているのか?」

 

 今度はゴブリンスレイヤーが彼に問う。

 

「それは問題ない。既に把握済みだ」

 

「そうか」

 

 ボルドが逃亡した後、灰達一行は扉を開け不死街の絶景を堪能していた。

 

その時灰は、確かな違和感を感じていた。

 

火継ぎの時代で何度も繰り返し目に焼き付けて来た光景故に、違和感の正体には直ぐに気付く事が出来た。

 

不死街の入り口付近に、得体の知れない『黒い塔』が存在していたのである。

 

あの時はさして気にもしなかったが、今回の地図と目的地の座標を照らし合わせ、あの奇妙な塔が孤電の術士が目指す場所で、間違いないだろう。

 

「一時間後に出発する。それまでは各自で準備を整えておいてくれ」

 

 灰は二人に指示し、彼等もそれに従った。

 

そして一時間後、彼等は拠点を発ち、ロスリックの高壁へと向かう。

 

巨大地震で陥没した地面に巨大なクレーターが形成され、その窪みにスッポリとロスリック全域が存在しているのである。

 

入り口に続く幾つかの細い道を辿り、彼等はロスリックへと迫った。

 

「間近で見ると迫力が桁違いだねぇ!私は建築関係は専門外だが、未だに原形を留めているとはね!」

 

 道中も孤電の術士は、ロスリックに対し視線が釘付けになっていた。

 

”太古に存在していた筈なのに、殆ど風化していない。どういう事かな?”彼女は疑問を口にする。

 

「憶測ではあるが……」

 

 灰が返す。

 

「私が火を消した後、或る日を境に突如転移したのだろう。膨大な時を跨いでな……」

 

 灰の言葉に”根拠はあるのかい?”と、彼女が返すが、結論から言えばそれは、”是”。

 

闇の王との死闘の後、彼は亡者となり使命と共に果てた。

 

そして再び目を覚ました場所はあの『灰の墓所』。

 

だが、其処はあまりに変わり果てていた。

 

原形を留めない程に。

 

本来なら塵灰に覆われた、あの墓場。

 

今現在、目にしているロスリックとは違い、生命溢れる緑に覆われ単なる遺跡と化していたのだ。

 

「どういう訳か、このロスリックに関しては変化が殆ど見られない。……まぁ、多少変わってしまっているがな」

 

 火を消した後、数多くの時代が訪れては、世界と文明が盛衰興亡(せいすいこうぼう)を繰り返し、刻を繋いできた。

 

本来ならロスリックそのものも、朽ち果てても何ら不思議ではない。

 

世界が本当に終わろうとした、あの『吹き溜まり』の如く。

 

しかし、実際はこの様相だ。

 

恐らくこのロスリックもここに居る灰と同じく、そう時間を重ねていないのだろう。

 

そもそも荒廃が進行していない。

 

「例の目的地迄なら、私の土地勘で案内してやれる。しかし其処から先、私は足を引っ張るかも知れん。……過信するなかれ」

 

 灰は二人に念を押す。

 

敵側の質はともかく量は、繰り返した彼の時代よりも遥かに上回っている筈だ。

 

「分かった…、と言いたいとこだが――」

 

 孤電の術士は一旦言葉を区切り――。

 

「この中での最大戦力は、お前だ。お前無しで目的は達成し得ん」

 

 ゴブリンスレイヤーが彼女の言葉を補完した。

 

「わかった、最善を尽くそう」

 

 彼等に応える様に灰も頷き、入り口へと到達した。

 

”覚悟はいいな?開けるぞ!”そう叫んだ灰は、古びて尚頑丈な鉄扉に手を掛け力を込める。

 

油の切れた金属の掠れる音が彼等の耳に纏わり付き、扉がゆっくりと開かれた。

 

――こんな形で、再びロスリックに来れるとはな。

 

心の中で呟いた灰と二人は、入り口を潜り中へと侵入する。

 

「……とうとうこの時がやって来たか!」

 

 孤電の術士は興奮と不安の入り混じった複雑な表情で、灰の後に続く。

 

「……」

 

 ゴブリンスレイヤーは無言だったが、呼吸が荒い。

 

最後尾の彼は震える手付きで武器を抜き、何時も通りの体制で二人の後に続いた。

 

 

 

故郷のの流れ着く地、ロスリック。

 

どの様な苦難が彼等を待ち受けるのか?

 

それは宿命と偶然を司る『骰子』だけが、全てを知っている。

 

これより始まる彼等の冒険(シナリオ)、一つの節目を迎えようとする彼女の冒険(シナリオ)

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ダートガン

 

 投矢銃とも呼ばれる、機械式の小型武器。

 主に腕に装着し、バネの運動力でダート(投げ矢)を投射する。

 クロスボウを小型化させた銃方も存在するが、地方や注文者にとって様々だ。

 

 非常に軽く小型である為取り回しも良いが、曲りなりにも機械式である故

 整備には専門知識が必要となり、複雑な機構は高確率で故障を招く。

 

 都会の最先端を走る、ならず者がこの武器を好む。

 

 本体の値段は平均で、金貨6枚。

 ダートは一本、   銀貨3枚。

 

 改造と工夫次第では、特殊弾の使用も可能になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

火の無い灰

 

 装備品

 

  頭:アイアンヘルム(改)

 

  体1:皮の胸当て

 

  体2:厚布の戦闘服

 

  腕:厚手の腕帯

 

  足:ハードレザーブーツ

 

 

 

  武器1:シミター(鋭利なシミター+3)

 

  武器2:ショートボウ

 

  盾1:スモールシールド

 

  盾2:タリスマン

 

 

 

所持品:  エスト瓶(10回)

 

      エストの灰瓶(5回)

 

      螺旋剣の破片

 

      遠眼鏡

 

      太陽のメダル×1

 

      基本セット

 

           聖水×3

 

           スローイングナイフ×6

 

           帰還の骨片×1

 

           火炎壺×1

 

 

 

 

 

火の無い灰

 

 素性:持たざる者

 

  ソウルレベル 46

 

   生命力・15

 

   集中力・14

 

   持久力・15

 

   体力 ・15

 

   筋力 ・16

 

   技量 ・17

 

   理力 ・14

 

   信仰 ・16

 

   運  ・13

 

技能

 

  奇跡、呪術の火、ソウルの魔術、カーサスの高速体術、ソウルの感知、一部の戦技は武器種を問わず使用可能。

 

 

 

 

 

 




 自分で言うのもなんですが、この主人公今の調子で使命を果たせるのか不安になってきた。( ̄□ ̄;)
皆もお気付きかと思いますが、灰の剣士は典型的な器用貧乏型です。
も少し、ソウルの割り振り方を考え直すべきだったかな?

それにしても孤電の術士さん、戻って来れるんですかね?

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

感想、評価、お気に入り登録、誤字脱字の指摘、本当に有難う御座います。

もし宜しければ、感想、評価、メッセージ等、お待ちしています。
勿論、気が向いたらで結構です。

デハマタ。( ゚∀゚)/



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