ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 大分時間が掛かってしまった。
どうにも調子が出ず、文が中々進まなかったデス……。<(_ _*)>
正直盤外の世界なんぞ、自己考察で練り上げねばならず、此処の練り上げで今後の展開が決定されると言ってもいい位の重要な場面なので。
ある意味、イヤーワン編はこの邂逅の布石でしかなかったとも言えます。
相変わらずの稚拙な文章力ですが、投稿致します。


第46話―賽を振るという事―

 

 

 

 

 

 

螺旋の剣

 

 始まりの火を継いだ薪の王たち。

 神のごとき彼らの「化身」の大剣。

 

 それは、玉座無き彼らの前にずっとあった。

 篝火に刺さる螺旋の剣である。

 

 戦技は「残り火」

 陰り消えようとする火を一時に燃やし前方に放つ。

 

 火の時代の終焉を見届けし、其の剣。

 

 数ある螺旋剣の一振り。

 

 『火』とは生きる源であり、故に『死』の象徴でもある。

 

 ありとあらゆる生命に宿りし宿命。

 

 何物も逃れ得る事叶わず。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『最初の火の炉』を模した篝火は、嘗てのソレと何ら変わらず火を巻き上げ、天を仰いでいた。

 

燃え上がる火の中央には、あの『螺旋の剣』が突き刺さっている。

 

その螺旋の剣を中心に円を囲む、数名の男女と一羽の鳥。

 

盤《世界》を形成し観測する側の神々と、駒となり自らの役割を演じる人間。

 

皆が己の思惑を胸に互いの視線が交差し合う。

 

「さて…、正直に言えば、もうお嬢さんに用はないのだよ。単にこの男とソウルで繋がり、この世界に呼び出した時点で卿の役割は果たしたと言えよう」

 

 何ともあっさりと”もう用済みだ”と言われたも同然な物言いに、孤電の術士は絶句する。

 

眼前の老人から感じ取れる圧と威厳に委縮していたのが、馬鹿らしくなる瞬間でもあった。

 

「……な、何…だって、……私は……、もうお役御免だと……?!」

 

 眼前の老人は本当に神なのか?と疑わんばかりの、傲慢で尊大な態度――。

 

自分の想い描いた神々像が、いとも簡単に崩れた様な感覚に見舞われる。

 

いや、この尊大な振る舞いこそが、ある意味神々を代表するに相応しいだろうか。

 

「君を特別に此処まで呼んだのは、単純に礼を述べたかっただけさ。君の塔での奮戦は、僕らも見入っていたからね。……特に君を担当する知識神は、活き高揚としていた。ほんの礼代わりに後で直接会わせてあげるよ、孤電の術士君」

 

 老人の肩に停まっていた、黒い鳥も言葉を掛けた。

 

眼前の自称神を名乗る老人に食って掛かる寸前だったが、黒い鳥の言葉に辛うじて()()を抑え込む。

 

「……用が有るのは……」

 

 老人は鋭い眼光を一人の若い男――。

 

『火の無い灰』に向ける。

 

「……今更私に何の用だ?『大王グウィン』」

 

 老人の事を『グウィン』と呼び、フード越しに視線を返す。

 

「今の儂は『太陽の光の神』を名乗らせて頂いておる」

 

「どうでもいいっ!何の用かと聞いている!」

 

「ククク…、随分と荒れているではないか?」

 

 今にも激昂しそうな勢いで、眼前の神に斬り掛かろうと半立ちになる。

 

今のところ理性で何とか抑えてはいるが、何時まで耐えられるかは保障出来かねる状態だった。

 

「貴方が成した数々の業……!称賛出来る功績もあるが、あのおぞましい世界で、一体どれだけの人々が翻弄され無念の最期を遂げたと思っているっ!……知らぬ存ぜぬとは言わせんぞっ!!」

 

 怒号すら交え、感情の丈をぶつける灰。

 

正直、今迄出会った全ての人々に代わり、文句の一つでも言い返さねば気が収まらないのだ。

 

本音で言えば、神に対して悪感情のみを抱いている訳ではない。

 

あの(ダークソウル)世界を築き上げた神々でさえ、自らを犠牲にしてまで世界の延命に身を捧げた位なのだ。

 

目の前に鎮座するこの神が、最たる例だ。

 

だがしかし、この神を目にした途端、それ等の感情は一度に吹き飛び憤りと憎悪の念が噴出した。

 

特に眼前の神は『最初の火』から『王達のソウル』を見出し、その力を利用し古竜達に挑んだ。

 

その結果見事に勝利を収め、自らの時代『火の時代』を築き上げた。

 

そして名も無き小人が見出した『ダークソウル』の台頭を恐れ、『火の時代』の延命を図り続けてきたのである。

 

しかし訪れた結果は、散々たる見るに堪えない世界だった。

 

火の無い灰が不死となり、ロードランを始めとした『巡礼の旅』を続けて行くに従い、神々について様々な思惑を抱く者達に出会って来た。

 

その過程で神々の真実も垣間見たのである。

 

(もと)を正せば、この神がほぼ全ての元凶と言っても差し支えないだろう。

 

最早あの時代になんの意味があったのだろうか。

 

ロスリックに至っては、何度も何度も火を継いでは繰り返し、それに辟易した時あの『ロンドール』とも結託し『火を簒奪』した周回も有った。

 

そして最後は自ら火を消し、自分自身も消滅した。

 

彼は感情の全てを神にぶつけた。

 

怒鳴り散らし、激昂し、怒号を交え、喚き散らし叫ぶ。

 

それで、今迄出会って来た者達が報われる訳でもない。

 

感情をぶつける度に言い様の無い()()()が、彼の胸中を満たす。

 

「ハァッ…、ハァッ…、ハァ……」

 

 息を切らせ呼吸が荒くなりながらも、眼前の神を睨み続けた。

 

「……気は済んだかね?(灰の剣士)よ」

 

 冷め切った目で灰を見た彼は、更に言葉を付け加えた。

 

「儂が此処に赴いた目的は、お主を『賽振らせる者』に戻す為だ!」

 

「『賽振らせる者』……?何だい…じゃなくて何です?…ソレ……!」

 

 言葉の真意が読み取れず、最早蚊帳の外だった孤電の術士が、思わず口を挟む。

 

「実際、やらせた方が早いか……。『幻想』殿、『真実』殿っ!少々宜しいか?!」

 

 神は後方に向かって叫んだ。

 

灰達もそれに釣られ、視線を向ける。

 

太陽の光の神の後方には、独立した台地に玉座らしき物が用意され、其処に様々な姿をした者達が腰を据え此方を観ていた。

 

幼い少年少女の姿をした者や、異形の姿をした者達まで実に千差万別である。

 

よく視れば覚えの有る『ロードランの神々』も混ざっている、全てではないが……。

 

声に応えたのか、椅子から愛らしい少女の姿をした『幻想』の神が立ち上がり指をパチンと鳴らす。

 

その瞬間、灰達の傍に小さなテーブルが現れた。

 

こういう力を容易く行使出来る辺りは、少女の姿をしていても神といった処だろう。

 

「ん?机の上に置いてあるこれは……『盤』……かな?」

 

 孤電の術士が机の上にある物に気付き、それに視線をやった。

 

「左様。今現在、ワシ等が遊戯に興じておる『四方世界』の盤よ」

 

「その盤に見覚えの有る駒が幾つかあるだろう?見てごらんよ」

 

 太陽の光の神と黒い鳥の神が、盤の駒を示す。

 

灰と孤電の術士は、盤へと寄り添い中に在る駒を手に取った。

 

「この駒……、彼…か…?それにこれは……、()…か」

「こいつ等……、知ってるぞ」

 

 手に取った駒を見つめ、その中に『ゴブリンスレイヤー』や自分を模した物が有る事に気が付いた。

 

「その通り。その盤はお主等が住む『四方世界』。今手に取った駒は、お主等を含めたその世界の住人達だ」

 

 太陽の光の神の説明は続く。

 

神々は遥か太古の昔から、宇宙の支配権を賭け争いを続けてきた。

 

最初は武力や神通力による直接対決であったが、次第に偶然と宿命を司る小道具『骰子』を使った勝負へと移り行く。

 

しかし何時まで経っても勝敗は決まらず、彼等は世界を模した『盤』を拵え、その中で駒と骰子を使用した勝負事に興じる様になる。

 

やがてそれは他の神々をも巻き込み、ある神々は自らで班を形成し新たな盤を構築。

 

またある神々は、特殊な盤で専用の骰子遊びに興じる様になり、次第に規模が拡大していく事になる。

 

現在目の前にある盤も、無数に存在する世界の一つ。

 

幻想と真実の神が主導となり他の神々が参加しているのも、班の一つに過ぎない。

 

「私達が盤の中で生きていたって言うのは、本当だったんだな」

 

 孤電の術士がまだ見習いだった頃、師より賜った真実の一端。

 

自分たち生命は、神々が創り給うた盤内の世界で動いているに過ぎないという事実。

 

実際こうして目にする事でそれが、真実であった事が分かる。

 

「この盤が『四方世界』だとすると、……あの世界(ダークソウル)を模した盤も――」

 

 灰は嘗て嫌という程生き抜いた、彼の世界の記憶を思い起こしていた。

 

「無論だ。特別に見せてやろう」

 

 太陽の光の神が手を翳し、もう一つの盤を出現させる。

 

灰と孤電の術士は、その盤を見やり、もうその(世界)が機能していない事を知った。

 

嘗ての世界は、色も躍動も完全に停止し、もう誰一人(生命)が存在していない事を確かめる。

 

「あの時代は完全に終わりを迎え、その幾つかの残滓は『四方世界』へと引き継がれたのだ」

 

「ロスリックが流れ着いたのも、それが原因さ。……ま、当初は予定されていなかった事だけどね」

 

 灰は、役目を終えた盤に視線を具に泳がせた。

 

 

――彼女は……火防女は……?まさか……未だこの(世界)の何処かで……。

 

 

最後の最後まで共に在り続けた一人の女性、『火防女』の行方を探し出す。 

 

()()()を確かめている様だが、……その世界には、誰一人として何一つ存在せん。完全に役割を終えたのだからな」

 

 太陽の光の神の言動に、些かの安堵を覚えた。

 

今迄心の何処かで(しこり)として残っていた火防女の事。

 

彼女を残し自分だけ消滅し、四方世界へと生まれ変わった。

 

火の消えた()()()()で、彼女は今も尚取り残されているのではないか?

 

そんな焦燥にも似た想いが、彼の心に重しとして圧し掛かっていたのであった。

 

しかし、盤上を見渡した限り彼女の姿は何処にも無く、グウィンの言葉もあり杞憂に終わった。

 

少なくとも火防女が、あの世界(ダークソウル)に取り残されると事実は無くなった訳だ。

(生きている保証は何処にも無いが……)

 

そして灰が安堵した後、黒い鳥の神が二人に勧める…”試しに骰子を振ってごらん”…と。

 

「「……」」

 

 二人は取り敢えず、言われるがままに骰子を手に取り、適当にそれを転がした。

 

カラン。

コロン。

 

乾いた角のぶつかり合う音が盤上に響き、複数の骰子がそれぞれの出目を弾き出す。

 

灰は思い出していた。

 

過去に何度も頭の中で響いたあの転がる音――。

 

あの音が鳴る度に意識が混濁し、まるで何らかの衝動に駆られる様に行動しそうになる。

 

過去に何度も体験し、意識を保つ事で衝動に抵抗し、自分の意志で動いてきた。

 

「さぁ、お互いの出目で対象の駒が動くよ。よく見ててご覧」

 

 黒い鳥の神の言葉に従い、二人は盤上の駒に目をやる。

 

すると複数の駒が盤上から動き出し、やがて怪物を模した駒に倒され盤外に弾き出された。

 

「ふむ……、どうやら混沌勢にやられてしまった様だな」

 

 太陽の光の神が発言すると当時に、二人の脳裏には映像が流れ込んでいた。

 

四方世界の見知らぬ地で、とある冒険者の一党が怪物に敗北し全滅してしまったのだ。

 

「「……!!」」

 

 脳裏に過った映像に二人は言葉が出なかった。

 

「今の一党は、そのお嬢さんが弾き出した出目の結果だ」

 

 太陽の光の神が言うには、孤電の術士が転がした骰子はたった今全滅した一党を司っていた様だ。

 

よく見れば彼女が出した骰子の出目は二つ合計で()

 

大失敗(ファンブル)ではないものの、それに近い数値だ。全員死亡とはいかずとも、間違い無く一党は壊滅……生存者は後遺症を残し苦労を重ねて、今後の人生を歩むだろうね」

 

 黒い鳥の神が話すと同時に、またもや彼等一党の今後が映像として流れ込んできた。

 

4人居た一党は壊滅し、唯一残った生存者の男性は不自由な片腕に後遺症を残し、農作業に従事しながら細々と生活している。

 

「こ……これは……、現実…なのかい、いや、なの…ですか……?」

 

 狼狽した孤電の術士は恐る恐る、黒い鳥の神に訊ねる。

 

「……そうだよ。たった今、君の振るった結果が彼等に反映され、映像通りの現実が展開されたんだ」

 

 まるで感情が籠っていないかのような静かな口調で、黒い鳥は事実を語る。

 

「……」

 

 言葉も無く額に汗を滲ませ彼女は茫然と立ち尽くした。

 

「あまり気に病む事は無いよ。今のは検証用に僕が用意し担当した一党だからね。彼等の責任は僕が取る!心配しなくてもいい」

 

 一応彼なりの気遣いなのだろう。

 

だとしても、自分の些細な行動で人の人生が決定してしまったのである。

 

彼女自身も四方世界の娯楽に、骰子や盤を使った遊戯が存在するのは知っているし、実際に遊んだ経験もある。

 

誌面に登場人物()を描き、骰子を転がし、弾き出た結果で行動と結末が変わり行き、一喜一憂したものだ。

 

目の前にある神々が用意したこの盤も、概念そのものは非常に似通っている。

 

唯一つ決定的に違うもの――。

 

それは、結果が現実世界に反映されるという揺ぎ無い事実。

 

つい先ほど流れ込んで来た一党の結末。

 

たとえどの様な結果であれ、それをもたらしたのは他でもない自分自身なのだ。

 

「ぅう…、あぁぁ……」

 

 青ざめた彼女は数歩下がり息を整える。

 

「さて、今度はお主が弾き出した出目じゃな。……ほほぅ、これはなかなか……」

 

 太陽の光の神が盤上を覗き込み、灰が転がした骰子、その二つを合計した出目は6と5……つまり()()を弾き出していた。

 

大成功(クリティカル)ではないが、それに近い数値……、先程の孤電の術士とは真逆の出目だ。

 

程無くして対応した4つの駒が動き出し、その映像が彼等に流れ込む。

 

 

 

――……!彼女達は、確か……!

 

 

 

その四人に灰は見覚えがあった。

 

あの地母神の神殿で何やら話し込み、神殿を去ってゆく。

 

その表情は決意に満ち溢れ、足取りもしっかりとしたものだった。

 

「……そうだ。あの4人は、お主と小鬼殺しが『(スパーク)の指輪』を手に入れた遺跡にて救出した少女達だ。……確か、今のお主と同じ黒曜等級だったかな?」

 

「君と(ゴブリンスレイヤー)は、今の遺跡であの指輪を……?」

 

 映像は当然孤電の術士にも流れ込んでいた。

 

当時の彼等の奮闘ぶりが直に伝わって来る。

 

彼女達を救出し神殿に送り届けたは良いものの、心身共に追い詰められ自暴自棄となっていた彼女達は事もあろうに灰自身へ肉体関係を迫って来たのである。

 

当時の彼女達は後先考えず、その姿が彼の良く知る『亡者』を彷彿とさせ、無論彼は拒絶した。

 

だが彼自身その事に、幾許かの自責の念が湧いていたのであった。

 

もう少し温かみある対応は執れなかったのだろうか。

 

些かに冷徹に突き放してしまったのではないか。

 

そんな想いが心の何処かで彼を締め付けていたのだが、今の彼女達を見てそれは要らぬ心配に終わった。

 

「あの4人は、冒険者へと復帰する様だな。お主が振った骰子は、彼女達の意思決定を判定するものだった」

 

 骰子を振る事で、その結果が住人達の()()()()()()を決定する。

 

「これが『賽振らせる者』よ」

 

「だけど、稀に『例外(イレギュラー)』も存在するんだ。コッチを見て御覧?」

 

 二柱の神に促され、二人は盤の()()方へ目をやる。

 

其処には幾つかの駒が動いていた。

 

それ等は骰子の出目にも左右されず自分の意志で動き、己が定めた目的に向かって突き進んでいた。

 

その駒の中には、あのゴブリンスレイヤーと灰の剣士も含まれている。

 

「これで分かっただろう。今のが『賽振らせぬ者』…さ」

 

 その言葉に暫し盤上を見つめていた灰だが、やがて視線を太陽の光の神に向け睨み付けた。

 

「……こんな……、こんな……、こんな骰子で私の……いや、()()の人生は弄ばれて来たのかぁっ……!」

 

 次第に怒りを滲ませ、声音も徐々に凄みを増してゆく。

 

「何故だっ……、何故俺達を弄ぶような真似をっ……!!」

 

 やがて小刻みに震え出し、握る拳に力が籠る。

 

「……け、剣士君……?!」

 

 孤電の術士は、嘗て豹変した彼の様子を思い返し慄いていた。

 

「ふんっ、愚問よの……。これは遊戯。遊戯は楽しむ為に在る。それだけぞ!」

 

 さも当然であるかのように、心底どうでもいいかのように答える太陽の光の神。

 

「……そうか……、貴様等のお遊びの為に俺達を、世界を弄んでゆく気か……、貴様等の都合でっ……!!」

 

「この世界を構築し、貴様ら駒を創造したのは我等が神々……。何か不都合でもあるかえ?」

 

「……。……キィ…サァ、マァぁぁ……!!」

 

 灰の怒りは最早頂点に達しようとしていたが、孤電の術士は神々の対応にある違和感を覚え始めていた。

 

 

 

――……何だ……?これは明らかに挑発……、煽りだ。……まるで剣士君自信を焚き付けるのが目的であるかのように……。彼等の目的は一体……?

 

 

 

「直ぐに亡者として…果てる筈だったのだがなぁ……、お主の様な『出来損ない』は!」

 

 彼を完全な駒として見ているのだろうか。

 

その眼には何の感情も籠っていない様だった。

 

「この誌面を見よ!」

 

 突如掌からか紙束を出現させ、灰達に寄越す。

 

「「……?!」」

 

 灰と孤電の術士は、幾つかの誌面に目を通した。

 

「こ、これは、まさか……」

「冒険者の登録用紙にも似ているね」

 

 二人が目にした紙面には、人物像とそれに関連した能力値や技能、細々とした経歴などが事細やかに記されていた。

 

「――!これは……、過去の私……か」

 

 自分が記された用紙《キャラクターシート》を見付け、孤電の術士も視線を寄せて来た。

 

「……。……自分と、まぁ……、|見窄()()()らしい装備、だね……。それに……、何と言うか……その……能力値が……」

 

『北の不死院』で目覚めた頃の彼だろう。

 

 まだ『火の無い灰』ですらなく、彼が只の不死人として巡礼の意味も見出せていない時期だ。

 

誌面にはその時代の彼が記されていた。

 

孤電の術士は、何か不味い物でも見たかのように遠慮がちに彼に尋ねる。

 

彼自身の能力値を含めた総合力は、他の誌面に記された不死人に比べ非常に見劣りするモノだった。

 

「そ奴に幻滅したろ?お嬢さん。そいつは儂が創った歴代の不死人の中で、最も弱く、最も出来の悪い、いわば最低最弱の()()()()()だ」

 

「……」

 

 神の言に返す言葉も無く、無言で灰が手にする誌面に目を向け続ける孤電の術士。

 

そして彼の経歴、不死人になる以前の項目に目が行った。

 

「……素性『持たざる者』……」

 

 どういう顔をして良いかも分からず、彼女は灰に視線を向けた。

 

「……そうだ。不死人になる以前の私は何一つ持ち合わせず、平民以下の『労働奴隷』……四方世界で謂う処の『農奴』。……それが、本当の()なんだ……名前すらも無い」

 

「……剣士……君……」

 

「本来なら、お主は北の不死院で完全な亡者として果てる予定であった。脱出も叶わずな」

 

 太陽の光の神は何人もの不死人(キャラクター)を創り続け、不死院から旅立たせ、結果全てが失敗に終わっていた。

 

だが、尚も彼は諦めず駒を造り続け、最後の一体として出来上がったのが当時の灰だった。

 

しかし出来上がった駒は過去の面々と比べても明らかに見劣りするモノで、他の神々からも憐憫の眼差しを向けられる事になった。

 

結果など見ずとも分かり切っていた。

 

このまま無かった事にし作り直す事も視野に入れていたが、折角出来上がったのだ。

 

太陽の光の神は規定違反をしないギリギリの範囲で、その駒に()()()()を施し当時の盤上(ダークソウル・ロードラン編)に駒を置き、遊戯を再開した。

 

案の定、その駒は序盤の亡者達に敗れ、一定以上の死を重ね亡者として敵勢力へ移る()だった。

 

想定内の結果に感情を揺らす事も無く、次の駒の作成に取り掛かろうとした矢先、或る変化に気が付いた。

 

先程果てた駒が、独りでに動き出し巡礼の旅を再開し始めたのだ、骰子を振る事も無く。

 

想像主である彼は無論、他の神々もこれには驚いた。

 

これまでの駒は骰子で行動と結果を決定し、その役割を演じ続けて来たのである。

 

それが今の駒は勝手に動き、自分の意志で旅を再開している。

 

太陽の光の神は駒の作成を注視し、暫く様子を見る事にした。

 

その時はまだ幾らか骰子を要求する場面も散見されたが、旅を続け成長するに従い、次第に骰子に頼る場面は減り、より自我に基づいた行動を執る事になる。

 

「……その時からだ……。何度死のうとお主は亡者と果てる事無く、遂に巡礼の旅に終止符を打った。……これまでの駒は、多くて十回以上の死で亡者と成り果てたのだが、お主は延べ()()()の死で亡者となり同時に物語も終えた」

 

 数え切れない程の死を繰り返しながらも、彼はロードラン、ドラングレイグ、ロスリックを踏破し、見事使命を果たし終えた。

 

「……故に!お主は『賽振らせぬ者』として、自らを確立した!……だが、四方世界の盤にて問題が発生したのだよっ!」

 

 再び眼光が鋭くなり、太陽の光の神は灰を見据える。

 

「『地母神の小娘』を始め様々な神がお主に介入を試み始めたのだ。その様な事態が多く続いては、わざわざ手間暇かけて参加した意味が消失してしまう!……そこで儂は、お主を再び『賽振らせる者』へと戻す為に……こうやって馳せ参じた訳だ!」

 

 太陽の光の神はゆっくりと腰を上げ、立ち上がる。

 

しかし、それに疑問の声をぶつけたのは意外にも、孤電の術士だった。

 

「待ってくれ神様!だったら直接コイツをアンタ達の世界に呼べば済むんじゃないのかい?なんで態々(わざわざ)この世界に呼び出したんだ?!」

 

「……僕が説明するよ。僕等の世界に彼を直接呼べば、彼自身のソウルが消滅してしまうのさ。幾重にも重なった次元断層の壁に耐え切れずにね。そこで、比較的『四方世界』に近いこの世界を借りる事にしたんだ。それに僕達の領域に召喚する、又は四方世界に直に神が降臨する事は、直接的な介入と見なされ規定(ルール)違反となってしまうんだ。僕ら神々とて規定は当然存在するし、無暗矢鱈(むやみやたら)に破る事は厳に慎むべき蛮行だからね」

 

 彼女の疑問に応えたのは黒い鳥の神だった。

 

「だがしかし、何の繋がりも無い状態の灰を召喚した処で、こ奴は長く存在できぬ。……が幸運な事に、界渡り(ブレインズウォーカー)を画策しておったお主が存在していた」

 

 予め神々が『(スパーク)の指輪』を用意し、孤電の術士が()()を入手し且つ灰と交流を深めさせる様に仕向けていたのである。

 

その結果二人はソウルで繋がる事により、灰はこの世界で長く存在する事が可能となった。

 

「……くっくっく…成程。してやられた訳だ、この私も……。……散々、言葉で人心を惑わせてきた報いかも知れないね」

 

 自嘲めいた笑いで、くつくつと彼女は皮肉を込め笑い出す。

 

「左様……。()()()では兎も角……、この盤でのお主等駒の役割は、神々を楽しませる為に意義が在るのだからな」

 

「……貴方のその言葉……!何時かは自身を滅ぼす事になるんじゃないのか……!」

 

 神の言葉に灰自身も立ち上がり、静かな怒りを込めた視線を向ける。

 

「……漸く()()()になりおったか、手間取らせてくれる!」

 

 互いの視線が交差し、周囲の空気が緊張を帯びる。

 

「待て、剣士君!明らかな挑発だ!神々の思惑に乗るな!」

 

 孤電の術士は慌てて灰を制止しようとする。しかし――。

 

「……ああ、そんな事は愚鈍な私でも分かる。だが、許せんよ!……別けても()()()()()はなっ!勝敗など関係ない!あの顔面に一発でも、ぶん殴らんとなっ!!」

 

 フードの奥から橙色に目を灯らせ、拳を握り締める灰の剣士。

 

「……出来るかな?()()()()に」

 

「結果の是非は関係無いと言った!……貴様はぶん殴る!……必ずなぁっ!!」

 

「……ぅわ、もう駄目だ。私では止めようが無い……!」

 

 一色触発の空気感に圧倒され孤電の術士は後退る。

 

互いの空気はより一層張り詰め、最初の火の炉を模したこの場所も手伝い、戦いは避けられぬ状態となった。

 

尤も神は最初から()()()()()で此処に降臨した訳だが――。

 

其処へ黒い鳥の神が声を掛けた。

 

「太陽の光の神、君のソウルレベルは100分の1に封じさせてもらうよ。……まず戦いにならないからさ」

 

「頼む。……そうでなくては意味が無い。……()()がな……!」

 

「――なっ?!100分の1…だとっ……!」

 

 黒い鳥の提案に灰は驚愕し、顔を顰める。

 

「そうだ。()()()の儂と()の儂を同じにするな。……そもそも、お主と対峙したのは『最初の火』に身を投げロードランを去った、儂の()()()()を相手にしておったのだからな。更に部下達に大半のソウルを分け与えた後、身を捧げたのだ。そんな儂や王達の化身を数度倒した位でいい気になるな小僧!……そもそも『ソラ―ル』の助力を得て漸く儂に討ち勝ったのだろう!あの時のお主と今のお主、それ程違いがあるとは思えんなぁ!!」

 

 グウィンは篝火から『螺旋の剣』を抜き取り、武器とする。

 

「……そうかいっ!」

 

 一方灰も腰のシミターを抜き、グウィンに対し構えを取る。

 

最早孤電の術士にはどうする事も出来ない、只事の成り行きを見守る事しか出来なかった。

 

「――ん?!」

 

 突如として彼女の周囲に結界が張り巡らされた。

 

「おっと忘れる処だった。消し炭に成りたくはあるまい?其処で事の顛末を見てい給え、お嬢さん!」

 

 グウィンが彼女に結界を張り巡らし、退避を促す。

 

――これが『ロードラン主神』の神の力か。100分の1に落として尚これだけの結界をいとも簡単に行使出来るとは。しかし、不可解なのは周囲の連中だ……!

 

彼女は周りに視線を向け、結界外の魔術師達を見やる。

 

――本当に剣士君と戦うだけが目的なのか?……だとしたら、彼等を観客代わりに呼び集める必然性が何処にも無い筈だが……?この神の真意は何処にある?……さらに黒い鳥の神!見た目にあんなんだが、見方を変えればあのグウィンとやらよりも力は上かも知れん……!

 

訝しみながらも孤電の術士は、灰の身を案じ後ろへ退がる。

 

「剣士君……無事でいろよ!」

 

 

 

「さぁ、これで僕の作った闘技場(アリーナ)も役割を果たせるわけだ。ちょっと僕の(世界)が流れ着いちゃったけど、良い飾り(オブジェ)にはなるさ!」

 

 黒い鳥が鳴き声を上げ、軽く羽ばたく。

 

何も無かった空間から炎が一気に舞い上がり、それが闘技開始の合図となった。

 

「さぁ!闘技開始!!《レディ・ゴー》」

 

 

 

 

 

初代薪の王、現薪の王、互いの意地を賭けた戦いが幕を開ける。

 

 

 

「さぁ来い、小僧!!」

 

 

 

「行くぞ、大王グウィン!!」

 

 

 

 灰の剣士が全力突撃を敢行する。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

大沼のコルニクス

 

 嘗ての時代、不死街の籠の中に捕らわれていた呪術師。

 老いたが故に、様々な知識を有し思慮深い。

 籠の中で諦観していた処を、当時の『火の無い灰』と出会い彼に呪術の火を伝授する事になる。

 後に灰が火を消し、火継ぎの時代を終わらせた後も『火の祭祀場』に留まっていたが

 『闇の王』率いるロンドール一派の手に掛かり、その生涯を終えた。

 

 その後『魔術師の世界』にて新たな人生を歩み、知識と技術の研究に明け暮れている。

 

 彼の有す呪術が珍しいのだろうか?

 余所から様々な魔術師達が彼に教えを請い、彼に弟子入りしている。

 『孤電の術士』もその中の一人だ。

 

 「ほう、君は…火の無い灰だね

  我が家へようこそ

  私はコルニクス。古い呪術師だ

  そして今はこの通り、籠の鴉というわけだが…

  どうして、面白い出会いもあったものだ

  ハッ

  なあ、君、火の無い灰は器と聞く

  どうかね?この老人から、呪術の業を学ぶ気はないかね?」

 

 

 

 

 

 




大王グウィン。
とある考察動画でも、良く言及されています。
余りに深い考察力で、参考にするものの私のリアル啓蒙が追い付かず、殆ど生かせていないのですが……。( ̄□ ̄;)

ダクソ……深過ぎる……。
まるで深海の時代の様だ……。( ̄ω ̄;)

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/

そろそろ絵も追加してみようかな?
花粉症が辛い……。(_ _;)
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