ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 どーもです、投稿します。

灰が神殿に赴いた直後のお話です。

少しばかり際どい描写があります(R17.5 位)

もし気分が害されるという方は、読まない事をお勧めします。


第49.5話―問われる変化の兆し―

 

 

 

 

 

 

ソウルの槍

 

 「ビッグハット」ローガンの独自魔術。

 貫通するソウルの槍を放つ。

 

 戦いにおけるローガンの強さを象徴し、彼の伝承でも頻繁に登場する代表的な魔術

 その威力は、グウィン王の雷にすら、たとえられる。

 

 四方世界でも、『ソウルの魔術』自体の存在は確認され、日夜研究されているが

 失伝した魔術を復興させるのは並大抵の事でない。

 賢者の学院でも、ソウルの矢を打てる大魔術師が数人存在するだけだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 西方辺境の神殿。

 

主に恵みと癒しを司る慈愛と性愛の神『地母神』が治める神殿。

 

神殿の執務室にて、二人の女性と一人の男が向き合っていた。

 

机を挟み、ソファーに腰掛ける数人の人物。

 

二人の女性は聖職者用の法衣に身を包み、一人の男は冒険者だった。

 

机の上には数冊の書物が並べられている。

 

「太古の時代、廃れ消え去ったと言われる教義、この様な形でお目に掛れるとは思いませんでした」

 

 一人の壮年女性、この神殿を預かる最高指導者『司祭長』は、一冊の聖書を手に取り目を通しながら呟いた。

 

彼女が目にしているのは『カリムの点字聖書』を四方世界の言語に翻訳した物だ。

 

「『カリム』は聖職者達の国とも呼ばれ、特に白教が盛んに進行されていたようです。カリムでは聖女は語り部でもあり、盲人も多かったようですね」

 

 向かいに座る一人の冒険者『灰の剣士は』、カリムについて簡潔に説明する。

 

カリムで盛んだった『白教』。

 

不死を不浄とし、それを討ち払う事を貴ぶ事を教義とする。

 

そして彼の時代では物語りを知る事で、奇跡を学ぶ事が出来たのである。

 

無論、神々の奇跡を行使するには、深い祈りと信仰心が必須となり触媒も不可欠だ。

 

「物語りを知る…ですか……」

 

 深く考え込む様にもう一人の若い女性『神官長』が、カリムの聖書に目をやった。

 

この世界の奇跡は、手順を踏まえた儀式にて授かる事が出来る。

 

信仰心と純粋な神への祈りで、様々な神の恩恵をもたらすのだ。

 

「興味深いですね。奇跡の一つ一つに物語りが存在し、それを知るのは神学を学ぶ者として、一つのささやかの楽しみと言えましょう」

 

 口元に手を当て、僅かにはにかむ神官長。

 

彼女も敬虔な聖職者。

 

違う宗派とは言え、神の物語りは興味深い対象なのだろう。

 

実際白教は、邪を討ち癒しを与える奇跡に恵まれている。

 

そういう意味では、四方世界の教義とも相性がいいのだろう。

 

「……しかし、此方の黒い書物……」

 

 カリムの聖書を机に置き、黒色の表紙に包まれた一つの書物を手に取る。

 

それは『深みの聖書』。

 

深みの点字聖書をカルラが翻訳した代物だ。

 

「目を通しただけで、背筋が凍り付く感覚に見舞われます……」

 

 それに目を通す司祭長は額に汗を滲ませ、つい手に力が込もる。

 

「如何にも邪教徒が修めようとするほどに、悍ましい……」

 

 隣の神官長も同調し、小刻みに身を震わせた。

 

深淵と澱みに魅入られし聖職者達――。

 

闇の奥底にこそ真実と理を見出し、それを司る神々も当然存在する。

 

朽ちぬ古龍と岩だけが存在する世界で、突如とした熾った『最初の火』。

 

其処から差異が生まれ、命の営みが始まった。

 

火が無ければ世界は闇に支配されたまま――。

 

闇にこそ真理を見出す者が現れても何ら不自然ではないだろう。

 

「ロスリックの奥底に『深みの聖堂』と呼ばれる古い施設が存在します。嘗て其処は『白教』の施設だったという話も聞きます」

 

 灰が語る『深みの聖堂』。

 

『不死街』の小教会を抜け、『生贄の道』を更に進んだ山奥に今尚眠る、大聖堂。

 

 恐らく今も、深みに魅入られし異端者達が蔓延っているだろう。

 

その証拠に、この世界で幾度が遭遇した『深みの主教』達――。

 

「では、此方側(四方世界)の邪教徒や死霊使いなどを取り込み、膨れ上がっている可能性も……」

 

「……断言は出来ませんが、”無い”とは言い切れません」

 

 司祭長の質問に灰は答える……、”可能性はある”と。

 

彼等に重い沈黙が流れる事暫し、司祭長がゆっくりと口を開いた。

 

「灰の方、貴方は禁忌とされた奇跡を修めておいでなのですか?」

 

 司祭長の言葉に即答は出来なかったが、重苦しい空気の中、彼は頭を静かに下げた。

 

ロードランから始まり、ロスリックでは何度も周回を繰り返してきた。

 

摩耗した精神、迫り来る闇、それ等に晒され続けた彼は禁忌とされる奇跡すら受け入れ、有用だと判断した場合は何の躊躇いも無く行使していた。

 

以前不死人が『孤電の術士』の住処を襲撃した際、深淵の業『ダークハンド』で敵を亡者に変えた事がある。

 

繰り返す周回の中で、深みに積極的に関わった時間軸も存在するのだ。

 

彼の本心としては、禁忌とされるこれ等の業は失伝させてしまいとも考えていた。

 

しかし、時すでに遅し――。

 

四方世界には、深みを信仰し傾倒した者が其処彼処に存在しているのだ。

 

嘗て寒村にて、小鬼の混乱に乗じて襲撃して来たロンドールの白い影。

 

そして、槍使いの一党と共に討伐した邪教徒。

 

孤電の術士の悲願を成就する為に旅立ち、立ちはだかった深みの主教。

 

彼等は皆(こぞ)って、禁忌の奇跡や魔術を行使した。

 

今更自分一人が抗った所で、状況は然程変わりはすまい。

 

「……恐らくこの神殿…いえ、この街だけで処理出来る状況ではないのかも知れません」

 

 司祭長は言った。

 

これ等の書物は、水の都に在る至高神の神殿に送られ、王都に迄伝える必要に迫られるであろうと。

 

この地域は比較的穏やかだが、王都に近い地域では災厄の前兆が現れ始めていた。

 

活発化しつつある混沌勢の攻勢に始まり、内政の混乱や都での不可解な事件。

 

平穏は、徐々にだが崩れ去ろうとしていた。

 

「時と場合によっては、貴方に奇跡の伝授を要請するかも知れませんね」

 

「し、司祭長様?気は確かですか?!」

 

 司祭長の言葉に神官長は驚き、席から立ち上がってしまった。

 

無理もない。

 

見方を変えれば、信仰が根底から覆る可能性も暗示していると言えよう。

 

「私達が想定している以上に、この世界は混乱の兆しが見られます。現に気付かぬ間に、邪教徒や不死人の侵入を許しているのですよ。寧ろ彼…灰の剣士殿のお陰で被害が未然に防げているのが実情です。我々にも、変化を迫られる時期が訪れたのやも知れません」

 

 とは言え、今すぐ奇跡の習得に走る訳ではない。

 

高位の聖職者に招集を掛け、充全に議論する必要が有るだろう。

 

それに、これ等の奇跡を神々が受け入れるのかも、未知数だ。

 

白教や竜狩りの奇跡には、四方世界の神々に相容れないものも存在する。

 

じっくりと検分し検証しつつ、神々の反応を窺い『宣託』を授からなければならない。

 

こればかりは初の試みだ。

 

司祭長や神官長も高い水準で奇跡を行使出来る人物。

 

しかし信徒によっては反対意見も当然出るだろう。

 

それ等も考慮し、議論と奇跡の選別を探る必然性に迫られる。

 

「現時点では、どの様に事が推移するかは計れません。しかし時期が来れば、貴方にも協力を要請する事になるでしょう。その時は、お願い致します……『灰の剣士』殿」

 

 司祭長の表情が険しくなり、真っ直ぐに彼を見据える。

 

年をそれなりに重ねているが故だろうか?

 

彼女には有無を言わせぬ迫力がある。

 

「はっ、ははぁっ……!承知致しました!その時は是非とも、この私めをお使い下さいませ!」

 

 得体の知れぬ圧に気圧され、彼は深々と頭を垂れた。

 

「私からも宜しくお願い致します、灰の方」

 

 神官長も頭を下げ、彼に頼み込んだ。

 

そして彼等の会談は終わりを告げ、カリムの聖書を始めとした書物は、取り敢えず神殿の預かりという事になる。

 

「神官長、明日から動いて下さい。忙しくなりますよ」

 

「はい、司祭長様」

 

 司祭長の言葉に従い、彼女は準備に取り掛かる為、早々に退出した。

 

「灰の方も、ご苦労様でした。申請は受けております、泊まっていかれると宜しいでしょう。あの子が待っていますよ」

 

 普段通りの表情に戻った司祭長は、灰を労い宿泊を許可した。

 

「はっ。ご配慮、感謝致します!」

 

 灰は深く一礼し、部屋を出た。

 

誰も居なくなった執務室で司祭長は、ロンドールの聖書に視線を移す。

 

「まるで……、蟲が這いずり回るかの様な感覚ですね。……ロンドールの黒教会…でしたか。邪教や悪魔崇拝に傾倒する者を数多く見てきましたが、これ程悍ましい教義は初めてです……!私には理解出来ませんね……。普通なら正気を失い、気が触れても不思議ではない。黒教会の指導者『リリアーネ』、一体何者なのでしょうか」

 

 軽い眩暈を覚えながら彼女はソファー身を任せ、浅い眠りに就いてしまった。

 

生者を忌み、不死や亡者を人とする国『ロンドール』。

 

その臣民達は本当に心安らかでいられるのか。

 

彼女に推し量れるものではなかった。

 

 

 

 

 

少々遅めの食事を済ませた、灰と侍祭の少女は水場へと足を運んでいた。

 

清拭で身を清める為である。

 

大きめの桶に湯が張られ、その湯を小さな桶で汲み取り、石鹸を混ぜた。

 

石鹸は、植物性や動物性の油と石灰岩や灰を利用した原料を組み合わせた原始的な物だ。

 

ある程度の素材は自給自足が叶い、非常に安価に拵える事が出来た。

 

中にはオリーブ油などを使用した高価な物も出回っているが、贅沢を遠ざける傾向が強い地母神の神殿では、非常に重宝していた。

 

出来上がった石鹸水を確認した少女は、衣服を脱ぎ忽ち一糸纏わぬ姿となった。

 

下着も剥ぎ取り、股間部まで晒している。

 

そう――。

 

目の前に、灰が居るにも御構い無しにだ。

 

これには流石に彼も面食らう。

 

「き、貴公…!何をしているのだ…?!」

 

 困惑し、狼狽えるばかりの灰。

 

その様子に少女は首を傾げ、”何を言ってるんだ?”という表情だ。

 

「……お兄さんこそ、何時までそんな恰好なんですか?早く脱いで下さい、お湯が冷めちゃいますよ?」

 

 少女は気にする風でもなく石鹸湯に布を浸し、準備を終えた。

 

「貴公…その…何だ…、恥じる気持ちが沸かないかね?私を前にして」

 

「アハハ、何言ってるんですか?こんなの恥ずかしがるのは、子供と女の子ぐらいですよ?」

 

 少女は何故か得意気に手を腰に当て、胸を反らした。

 

10歳前後の年齢だが彼女の身体は僅かに丸みを帯び、平坦な胸は微かに膨らみ始めている。

 

「ほら早く!アタシ達で最後なんですよ。後始末の方達を待たせてはダメです!」

 

 少女は”早くしろ”と急かす。

 

――貴公は、子供で女の子なのだが……。何かズレてるな、この子。

 

このまま下手に言い訳しても、後始末を任された信徒達に迷惑が掛かる。

 

仕方なく彼も承諾し衣服を脱ぐ。

 

「じゃあ座って下さい、お背中拭きますから」

 

 (すのこ)の上に胡坐で座り、少女がと湿らせた布で丁寧に拭き取ってゆく。

 

「え~と、痛くないですか?」

 

 彼女は灰を気遣い、力加減を聞いた。

 

「少し、こそばゆいか…。もう少し、強くしてくれて構わんよ」

 

「はいっ!」

 

 元気よく返事し、彼女は手に力を込める。

 

「それにしてもお兄さんの背中、すごく大きくて暖かいですね。同級の子とは全然違いますよ」

 

 少女は背中を満遍なく拭き取っては布を石鹸湯に浸け直し、また背中の拭き取りを再開する。

 

「そうかな?自分では自覚が無いのだが」

 

 そんな他愛も無い会話をしながら一通り背中を拭き終え、彼女は灰の前に移動した。

 

「大丈夫だ、前は自分d「遠慮しないで下さい、ホラ!」あ…ラ…ウ……」

 

 皆迄言い終える事無く、少女は胸部から腕部分へと丁寧に拭き取りを開始する。

 

――ぬゥ…司祭長さマ、と、神…官長…ハ、ヨく、許可…し、たな…、解せ、ヌ……!

 

何故か亡者一歩手前の心境に戻り、彼は疑念を抱きながらも彼女にされるがままだった。

 

上半身も終え、いよいよ下半身へと移ろうとした時、彼は少女にこう言い放った。

 

「そ、ろ、ソ、RO、貴公…も、清拭を…開始、シた…方、ガ…イい…」

 

 先程、あまり待たせるなと彼女自身が発言していた。

 

自分のみに時間を掛けては、示しが付かないというもの。

 

彼女の清拭に移る必要があるだろう。

 

「……お兄さん、喋り方ヘンですよ?大丈夫ですか?」

 

 怪訝な顔をしながらも彼女は、長い金の髪を掻き揚げ背中を向けた。

 

――……誰の所為だと思っている……、とにかく慌てず急いで丁寧に済ませてしまおう。

 

一度残りの石鹸湯を捨て、もう一度湯を汲み直した。

 

”もったいない”と彼女に窘められたが、自分の垢汚れが付着しているかも知れない湯を彼女に使う訳にはいかなかった。

 

汲み直した湯に再度石鹸を混ぜ、少女の華奢な背中を丁寧に拭いてゆく。

 

――少し圧せば折れてしまいそうな程の、か細い身体だ……。

 

こんな細身の身体で彼女は常日頃、神殿の為、人助けの為、活動しているのだ。

 

――本来なら、こういう子こそ、幸せになって貰いたいものだ。

 

あと数年も経てば彼女も成人と見なされ、神殿を出るか聖職者として従事する日々がやって来る。

 

灰本人としては、誰かに恋をし、結ばれ、子を生み、穏やかな人生を送ってくれる事を願っていた。

 

「あっ、お兄さん。背中はもういいですよ。前もお願いします」

 

 小柄な彼女の背中、直ぐに拭き取りは終わり、少女は振り向き上半身を晒した。

 

――まぁ、そうなるな……。

 

どこぞの某伊勢型航空戦艦の如き台詞を、心中で発しながら大方の展開は、予想出来ていた。

 

下手に言及したとて彼女の事だ、聞き入れる気は無さそうだ。

 

しかし彼女はまだ第二次成長期に入るかどうかの年齢だ、男女を意識する以前の段階なのだろう。

 

あと数年もすれば彼女も事の意味を理解し、この様な真似は二度としなくなる筈だ。

 

そう踏んだ彼は、彼女の上半身を丁寧に拭き取ってゆく。

 

「…ぅう、くぅっ…、ぁははは……」

 

「……大人しくしててくれ……」

 

「はぁい、…ぅくぅっ、くははは……っ」

 

 力を強める訳にもいかず、なるべく加減しながら拭いていたが、少女は身を捩じらせ笑いを堪えながら身を任せていた。

 

そして上半身も拭き終わる。

 

残すは彼女の下半身だが、流石にそれは抵抗がある。

 

灰は”自分の下半身を拭き取る間に、君も自分で拭き取ると良い”と彼女に言い聞かせようとしたが、此処で彼女は背を向けた。

 

「アタシ、髪を洗いたいので下もお願いしますね」

 

 少女は立ち上がり、もう一つの桶で湯を汲む。

 

そして、そそくさと洗髪を始めてしまった。

 

その様子に呆気に取られ、彼は暫く固まっていたが、少女に”早く!”と叱られ、渋々と承諾し観念した。

 

下半身を洗うという事は当然、彼女の()()も対象に入る。

 

彼女は、こう見えて意外と頑固だ。

 

未だ長い髪を洗っている最中で、彼女自身に洗わせるのは期待出来そうにない。

 

彼は仕方なく彼女の()()()()()も拭き取る事にした。

 

幸い彼には、まだ篝火の効果が残っている。

 

篝火はそう云った欲求をも吹き飛ばし、抑える効果もあるのだ。

 

――あと数日は篝火の効果が持続するが、早いとこ薪となる骨が必要だな。もし手に入らなかった場合は最悪……。

 

今の等級では、篝火用の燃料は手に入りそうもない。

 

ロスリックを探索するには、翠玉等級の階級が必要になる。

 

灰の墓所で、亡者の遺骨を回収する事も考えたが発掘隊が入り込んでいる為、潜入は期待出来ない。

 

そうなった場合に今の様な状況に出くわせば、間違いが起こる可能性もあるだろう。

 

彼は一般人に比べ性欲が強い傾向があり、少女も少し女性らしい体付きに成りつつある、そしてお互いそれを自覚出来ていないのである。

 

――処理の仕方、どうだったかな?そう云った書物の購入も検討しておくか。

 

先ず彼女の脚を拭き取り、残すは彼女のある部分のみだ。

 

察した彼女は脚を開き臀部を前に突き出した。

 

意を決し彼女の()()に触れる。

 

()()()()()は、未成熟とは言え繊細で敏感だ。

 

「…ぅう、っくぅん…ん、…んっん…、…んっぁぁ…」

 

 少女自身が意図せずとも身体を小刻みに揺らし、一人でに()()()()()()()()漏れてしまうのは、致し方のない事か。

 

「ああ…!コホン!こんなものでいいかな?」

 

 彼も流石にこれ以上は不味いと判断し、早々に切り上げ拭き取りを完了した事を告げた。

 

「…ハァ……そうですか…?フゥ…もっと続けて欲しかったですけど、また次もお願いしますね!」

 

 洗髪を終えた少女は振り向き、息を乱しながらもにこやかに答える。

 

彼女の頬が上気し紅潮しているのは、果たして湯気の所為か高揚した気持ちの所為か?

 

――次も()()()気か……、少々心配だこの子……。

 

彼女の将来に些かの不安を覚える灰であった。

 

清拭を終えたが大桶には予想以上に湯が残り、温度もまだ冷め切ってはいない。

 

ちょっとした贅沢、二人は残りの湯で身体を洗い流し水場を後にした。

 

身の清めた後、二人は寝室へと向かうのだが、少女から或る事実を告げられた。

 

過去に灰に割り当てられた部屋は他の信徒が使用し、今は空きが無いとの事。

 

(したが)って、彼はこの少女の部屋で就寝する事になる。

 

「……その事について、司祭長様や神官長は何か言っていなかったか?」

 

「いいえ、何も」

 

「ん…そうか」

 

 最早何も言うまい。

 

幾ら冒険者とは言え、仮にも来客。

 

廊下や物置で寝かせる訳にもいかず、彼はこの少女と共に就寝する事になった。

 

彼女の部屋にお邪魔する事になり、其処には寝台が一台置かれていた。

 

簡素な毛布と枕が二つ置かれている。

 

「えへへへ、何かちょっとドキドキしますね。お兄さんと寝るの初めてです」

 

 少女は照れ臭そうに笑いながら、彼を見る。

 

もし彼女が年頃の年齢なら、()()()()()()に発展していても何ら不思議ではない環境だ。

 

「まだ就寝には少々時間が有る、喉も少し乾いただろう」

 

 灰は腰の雑脳から水筒と小さな簡易コップを取り出し、果汁水を注ぎ込んだ。

 

「林檎と蜂蜜で、若干甘めにしてある。割と余ったのでな、口に合えばいいのだが」

 

 糖分と酸味を瞬時に摂取出来るよう、常備し依頼遂行の合間に愛飲している物だ。

 

実際栄養価も高く、良好な味わいは士気の持続にも役立つ。

 

「わぁ!いいんですかぁ!じゃあ、お言葉に甘えて…頂きまぁす!」

 

 少女は無邪気に喜び、一口飲む。

 

「ふわあぁぁ…、甘くて少し酸っぱくて美味しい……」

 

 神殿では、あまり甘味のある物は出されず、素材の味をそのまま生かした物が多い。

 

それも偏に、大地の恵みと自然を愛する地母神の教義によるものだろうか。

 

彼は水筒に残った果汁水を、全て彼女に振舞う事にした。

 

普段から世話になっていたのだ、何らかの形で礼をしたいと考えていた。

 

ほんの細やかな礼だが、彼女が喜んでくれて何よりだ。

 

だが彼の行動は、明日にちょっとした事件を引き起こす。

 

そうとも知らずに二人は寝台へと潜り込んだ。

 

流石に彼女の手前、ランプの火は完全消さねばならず、彼も一晩位ならと我慢する。

 

「ねぇ、お兄さぁん。冒険者って、すごく危険なんですよね?」

 

 少女が彼に寄り添い、訪ねてきた。

 

「そう…だな。成功すれば、不思議な体験を皆で話し合ったり、大勢で騒いで食卓を囲んだり出来るが、実際は失敗の方が遥かに多い」

 

 依頼を成功させ、遺跡やら迷宮やらで宝を手にすれば、それは武勇伝として語り継がれるだろう。

 

しかし、その裏では何倍、何十倍もの犠牲の上に成り立っているのもまた事実。

 

そうした犠牲者達から学び取り、後に続く者が成功を収めているといっても過言ではないだろう。

 

だが失敗すれば死傷者が出る。

 

それが親しい間柄なら、猶更哀しみと後悔ばかりが後に残る。

 

「でもぉ…、困っている人達も助けてるんでしょ?」

 

 少女は不安気に語り掛けた。

 

何もドラゴンやデーモンを倒し、遺跡から財宝を持ち帰るだけが冒険者ではない。

 

日常生活を脅かされ、身近な脅威に苛まれる人達も大勢居る。

 

例えば――。

 

ゴブリン――。

 

そしてそれを殺す者――。

 

ゴブリンスレイヤー――。

 

「……ギュってして、お兄さん……」

 

 彼女は、か細い声で彼にしがみ付いた。

 

彼は彼女の肩を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。

 

「どうしても、冒険者に成りたいというなら止めはしない。だけど今は勉学に励み、少しでも皆の為に頑張ってほしい。……だからゆっくりと、お休み」

 

「うん……」

 

 彼女はそう答え瞼を閉じ、眠りに就いた。

 

――この子が冒険者…か……、やはり関わる事になるのだろうか、……ゴブリンに……。

 

将来彼女が成るであろう冒険者像を想像しながら、彼も目を閉じ眠りに落ちた。

 

夜は更け時が過ぎれば、朝が来る。

 

……

………

 

そして事件は起こった。

 

 

 

 

 

「……この子が致す事は、昨日今日に始まった事ではないのですが、今回の件に関しては、貴方様にも些かの責任が有るかと存じます」

 

 翌朝、神殿の一室にて侍祭の少女と灰は神官長に、叱責を受けていた。

 

「……返す言葉も御座いません、此度の一因は私の浅慮によるもの。故に、どうかこの子に寛大な処置を!」

 

「ううぅぅ……、ごめんなさい……神官長様……」

 

 灰は跪き頭を深く垂れ、少女は涙目で謝った。

 

彼等の傍には、物干し竿に敷毛布が吊るされ、それには見事な世界地図が描かれていたのである。

 

その地図は人類未踏の大陸を描いた、摩訶不思議な形をしているといっても過言ではないだろう。

 

この部屋は日当たりが良く、部屋で干しても人目には付き難い。

 

一応、神官長なりの配慮でもあった。

 

つまり、うな垂れるこの少女は、粗相をしてしまったのである。

 

昨夜、就寝前に灰から果汁水を振舞われ、彼女は調子に乗って大量に摂取してしまった。

 

「何度も言った筈ですよ。就寝前には、必ず()を済ませなさいと。……唯でさえ、貴方は他の子に比べ近いのですから……」

 

 毎日ではないものの彼女は月に一~二回、致す事があるのだ。

 

「ハァ……兎に角、御自分達で後始末を着けて下さい。それが済むまで灰の剣士様は、神殿から出る事は許しません、いいですね?!」

 

「謹んで、お受けします!」

 

 神官長に釘を刺され、二人は昨晩利用した水場に移動した。

 

二人は同じ寝台で、身体を密着させ眠りに就いていた。

 

当然、彼の衣服にも世界地図の影響が現れ、その断片が流れ着いた。

 

故郷が流れ着く様に――。

 

早急に洗濯しなければ、この神殿を出る頃には日が暮れているだろう。

 

「さて、早く洗って乾かさねばな」

 

「ごめんなさい、お兄さん。アタシの所為で……」

 

「今回に限っては私に原因がある、君一人を責められたものではないさ」

 

 そう言うや否や彼等は手早く衣服を脱ぎ、洗濯し始める。

 

彼の場合、上着だけを洗えばよかったが、彼女はそうもいかず下着も含めて洗う必要がある。

 

幼い彼女には多くの時間を要するだろう。

 

極短時間で灰は洗濯を済ませたが、彼女はまだ時間を必要としていた。

 

少女は、全裸でいるのも気に留めず一心不乱に衣服を洗っている。

 

このまま彼女を放って自分だけ退出するのも、酷薄というもの――。

 

彼は手伝いを申し出る。

 

決して、善意からの行動であって下心は無いと、宣言しておこう。

 

「――本当ですか?やったぁ!じゃあ、これお願いしますね!」

 

 快諾した彼女は灰に、未洗濯の衣服を寄越す。

 

――だからと言って下着を寄越さなくても……。

 

しかし手付かずなのは、その下着だけだった。

 

彼女が()()を寄越したのも、致し方がないというもの。

 

彼は余計な事を考えず、洗濯に集中する事にした。

 

甲斐あって小一時間ほどで洗濯は終わり、二人は脱衣場で衣服を乾かす事にした。

 

乾くまで少々時間が掛かるものの、この格好のまま脱衣場から出る訳にはいかない。

 

彼女は着替えを持参して来た為それに着替えたが、彼は乾くまで待つ必要があった。

 

この時点で少女は、一定の後始末を済ませた事になる。

 

彼は退出を促してみたが、少女は却って不満顔で断り此処に留まる事を主張――。

 

彼が神殿を出る迄、一緒に居る事になった。

 

結局、彼が神殿を出る頃には正午を迎えようとしていた。

 

見送ってくれたのは少女と、焼けた葡萄の様な褐色肌の少女が来てくれた。

 

高位の信徒達は今以上に、忙しなく動いている様だ。

 

昨日持ち込んだ、あの聖書が関係している事は、容易に想像が付く。

 

「また来てね、お兄さん!果汁水、美味しかったです」

 

 何時も通り少女は笑顔で見送るが。

 

「……この子を、あまり泣かさないでよ?剣士さん!」

 

 褐色肌の少女には、不審な目で睨まれてしまった。

 

「勿論、約束する!」

「…なら、いいですけどね」

 

 そう答えた彼は、神殿を後にした。

 

 

 

 

 

 ギルドに到着した彼は、何故か受付嬢や一部の冒険者から失笑と同情の視線を向けられた。

 

どうやら今朝の出来事が、神殿を訪れていた冒険者を通じてギルドにも伝わっていたらしく、世界地図を描いたのは彼という事になっていたのだ。

 

女騎士からは”やれやれ”と肩を竦められ、同期戦士からは”まぁ、人生色々あるさ”と同情され、三つ編みの受付嬢から”あまり気にしては駄目ですよ!”と、笑顔で励まされてしまった。

 

そんな視線に晒されながら、冷や汗を搔き苦い表情で、掲示板の前に立つ灰の剣士。

 

ある意味、原因は自分に在る。

 

それは事実だ。

 

彼は、その小さな汚名を被る事にした。

 

そんな小さな事件を経て、彼の冒険者生活は新たな幕を開ける事になる。

 

 

 

これもまた冒険なのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ソウルの奔流

 

 凄まじいソウルの奔流を放つ。

 

 ロスリックと大書庫のはじまりにおいて

 最初の賢者が伝えたとされる魔術。

 

 最初の賢者は火継ぎの懐疑者であり

 また密かに、王子の師でもあったという。

 

 この魔術は使用者の質が顕著に表れ、実力者が放てば

 山一つ丸ごと吹き飛ばす事も不可能ではない。

 

 極めて危険で、禁呪に指定されても不自然ではないだろう。

 

 ロスリック王子は、病弱ながら魔術に対する高い素養を備えていた。

 それは薪の王たる資格者故なのか、彼本人の人間性故か。

 

 

 

 

 

 




 これで、イヤーーワン編は正真正銘の最後となります。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
 
デハマタ( ゚∀゚)/
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