ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 皆さん、本当に長らくお待たせしました。

再び投稿致します。

活動報告で書き溜をすると言っておきながら、結局数話分しかストックが無いと言う非常に情けない現状……。<(_ _*)>

そんなこんなで拙いお話ではありますが、続きを投稿致します。


第52話―地下水路、しかし小鬼と残滓の時間とはな―

 

 

 

ファランの短矢

 

 ファランの不死隊、その魔術師たちが

 独自の調整をほどこした「ソウルの矢」

 

 ソウルの短矢を放つ。

 

 もっとも名の知れたファランの魔術であり

 その使い勝手から、ひろく学ばれている。

 

 ファランの不死隊は剣士でも戦士のみの組織でもなく

 魔術や学問に精通した者や生活面に長けた者達も多数

 所属し、彼等を支えて来たのである。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

デエェェ ―― 水の都の地下水路 ―― ェェェエン

 

 

 

 既に日の光は届かず、その空間は暗闇と湿気に覆われ、辺りは冷たく淀んだ空気が立ち込めていた。

 

視界を確保する為には照明具の類が必要不可欠である。

 

灰の剣士の手には松明が握られていた。

 

従来の松明に使われている普及品ではなく、上質の松科の木材を使用した大型で長めの代物だ。

 

非常に長持ちする上に火力も高く、それ故に広範囲に視界を確保できた。

 

しかし暗闇に眩いばかりの火は、祈らぬ者達を余計に引き寄せるだろう。

 

彼の時代、灰が『残り火』に引き寄せられる様に……。

 

だが彼はそれを承知の上で、ゆっくりと慎重に地下水路を進みゆく。

 

――思っていた以上に、内部は複雑な構造だ。

 

一定距離を進んでは立ち止まり、地図作製(マッピング)

 

地図作成を終えては再び一定距離を進み、また地図作成を繰り返してゆく。

 

「くそっ!こんな事ならもう少し、地図作成の技術を学習しておくんだった!」

 

 一応初歩的な技術を習得してはいるものの、お世辞にも実用水準とは言い難い。

 

こう謂った技術に関しては、技術を習得したばかりの初心者レベルに過ぎなかった。

 

無理もない――。

 

嘗て巡礼の旅路で、地図の作成など殆ど不要で文字通り()()()()()()()各地域を廻って来たのだ。

 

加えて篝火を経由した転送技術が、不死人時代の彼等には当然の如く存在していた。

 

他人が見ても何とか理解出来る範囲で、地図を描き上げていく。

 

この依頼が無事成功すれば、斥候に関しての修練を更に積もうと考えていた灰であった。

 

帰り道に迷わぬよう、適当な石造りの台座に(くぼ)みを穿(うが)ち、其処に『七色石』を埋め込み目印を作る。

 

下手に置けば、ゴブリンが要らぬ手出しで消失する可能性もあるからだ。

 

しかし埋め込んでおけば、余程の力と労力で取り出す必要があり、容易に手出しは出来ない。

 

地図作成と七色石の埋め込みを幾度と繰り返し、ある程度の探索を終える。

 

――?!このソウル……。

 

彼はふと足を止め、感知したソウルの方角へと改良型松明を向ける。

 

「……敵…ではないな」

 

 其処には水路から僅かに顔を覗かせる沼竜が、此方を窺っていた。

 

――成程、コイツが私の監視役という訳か。

 

この地下水路へと侵入する前に聞かされていた、剣の乙女が使役する使い魔――。

 

それを通じ、彼の動向を逐次観測しているのだろう。

 

――……いいだろう。私は役割を果たすのみ。

 

沼竜に一瞥した後、彼は探索を再開した。

 

 

 

……

 

 

 

「流石に勘が鋭いようですな、あの剣士。……視界の悪いあの空間で、こうもあっさりと沼竜の存在に気付くとは」

 

 水晶に投影される映像を見た神官戦士長。

 

「……彼も私と同じくソウルを感知出来る者。希有な存在ですわ」

 

 沼竜を通じ、彼の様子を具に見ていた剣の乙女が応えた。

 

「それ程の能力者が、未だ『黒曜等級』とは――」

 

 戦士長の妹である副長も灰の様子を見ていた。

 

「この依頼が無事成功した暁には、彼を『鋼鉄等級』へと昇格させましょう」

 

 剣の乙女は仮にも『金等級』の冒険者。

 

数年前、仲間と共に魔神王を討ち果たした『六英雄』の一人でもある。

 

彼女の権限を以てすればギルドに掛け合い、彼を昇格させる事など造作もない事である。

 

そう決めた彼女は、再び使い魔へと意識を集中させた。

 

 

 

……

 

 

 

複雑に入り組んだ、瓦礫の羅列。

 

灰の剣士は立ち止まり、警戒を強めた。

 

――ソウルの感知を行うまでもない。匂いと息遣いが、此処まで伝わる。

 

今迄嗅ぎ馴れた異臭。

 

嫌という程に聞き飽きた息遣い。

 

このまま足場と視界の悪い瓦礫に踏み込む必要はない。

 

そう判断した彼は、声高らかに叫ぶ。

 

「さぁ出て来い小鬼共っ!獲物が目の前に居るぞっ!」

 

――……さて、どう来る?

 

敢えて叫び、ゴブリンの出方を窺う。

 

すると少しの間を置いてゴブリンが複数、醜悪な笑みを浮かべ瓦礫の影から這い出て来た。

 

それは奇襲が失敗したと悟ったが故の行動か、或いは堪え切れず獲物を求める小鬼特有の精神性故の行動か。

 

結果的に誘いに乗った事で、状況は彼の有利に運んだ。

 

――……とは言うものの、足場は狭く踏み外せば水路へ”ドボン”だ!下手に動き回る事は出来ぬ。

 

彼の今居る位置は比較的平坦な足場だが、周囲は複雑に絡み合った水路で隔たれ、動きは制限されてしまう。

 

現在彼の装備は革製が大半を占めている故、万が一水路へ身を投げ出しても直ぐに沈む事は無い。

 

とは言え、狭く入り組んだ地形と暗闇はゴブリンにとって有利に働いた。

 

「数は9。初見の地形だが、故に良き修練にはなる。来るが良い、ゴブリンよ!」

 

 彼は鞘ごと長剣(ロングソード)を構え、改良型松明を足元へ置いた。

 

松明の特性上、地面に転がっても暫くは燃え続け、視界を確保してくれる。

 

そして、それに呼応するかの様にゴブリンが襲い掛かって来た。

 

限られた空間と狭い足場に、長剣は不利に働く。

 

しかし、物は使いよう――。

 

2匹のゴブリンが剣を手に迫り来る。

 

彼は長剣の鞘を持ち、ゴブリンの頭部に柄頭を突き込んだ。

 

半ばカウンター気味に繰り出された攻撃だ。

 

当然、通常種のゴブリンが反応出来る訳も無く、頭部に衝撃が直に浸透し吹き飛ばされた。

 

彼は一瞥くれる事も無く腕を薙ぎ、十字に張り出た鍔の先端部をゴブリンのこめかみに叩き込む。

 

点に近いその衝撃は脳を揺らし、ゴブリンは呆気無く即死。

 

忽ち2匹のゴブリンが絶命し、それに触発された残りが一斉に彼へと殺到した。

 

だが、ゴブリンの攻撃は彼に届く前に次々と命を落としてゆく。

 

長剣のあらゆる部分、柄頭、鍔、鞘、鞘の先端、それ等の部位を持て余す事無く有効に活用した。

 

鞘に納めたままの長剣は、一種の鈍器として機能し、8匹のゴブリンを撲殺――。

 

長剣(ロングソード)万能武器(ユニバーサルウェポン)と呼ばれる所以でもある。

 

残された一匹は恐れをなし、彼の前から逃走した。

 

本来の彼なら此処で逃がす様な真似をせず直ぐに止めを刺す処だが、この地形にはまだまだ未知の部分が多い。

 

敢えて一匹だけを生かし様子を窺う。

 

この小鬼が集団で行動している以上、これだけの数で生息しているとは考え難い。

 

――さぁ、道案内をして貰おうか!

 

逃げたゴブリンは、間違い無く仲間の元へと向かっている筈だ。

 

ゴブリンを見失わぬよう注意を払いながら、適度な所で七色石を埋め込み追跡を開始する。

 

ゴブリンを追い辿り着いた所は、広い空間ながらも適度に起伏のある地形だった。

 

水の都が神代の遺跡の上に建てられたというのが、よく分かる構造だ。

 

崩壊し朽ち果てた柱や建造物群が瓦礫となり、天然の砦を形成している。

 

其処に多数のゴブリン達が配置に着き、皆が弓矢を装備していた。

 

――ふむ、かなりの数だが此処が本陣ではあるまい。

 

灰の憶測通り、奥には更に下層へと続く通路が”ポッカリ”と口を開けている。

 

「この布陣は明らかに攻撃ではなく迎撃の構え。……でなければ、全員が飛び道具を装備する筈がない」

 

 25匹以上のゴブリンは全てが弓矢を装備し、矢を番えていた。

 

そして一歩も動く事無く、射撃態勢に入っている。

 

リーダー格のゴブリンが射撃を開始。

 

それが合図だったのか、他のゴブリン達も一斉に矢を放った。

 

高低差を利用し三次元的に陣取った小鬼による、一斉射。

 

多数の矢が灰に殺到する――。

 

――が。

 

「……」

 

 矢は一本たりとも彼に命中する事は無く、彼に到達する前に失速するか弾道が大きく逸れ、回避行動をする迄も無く全弾外れる事となった。

 

彼は足元に落ちている矢を拾い、調べてみた。

 

曲がりくねった枝に、骨を削った鏃。

 

造りそのものが杜撰(ずさん)な事この上ない代物だ。

 

彼は懐からロングボウを取り出し、その矢で射撃を試みた。

 

放った矢は、ゴブリンが放ったものよりは幾分マシな弾道を描くものの、狙った所には到達する事は無かった。

 

「こんな粗末な矢では、当たるものも当たらん。待ち伏せ、配置は見事だが、装備の質が()()ではな」

 

 彼は矢筒から矢を取り出し番える。

 

「射撃のお手本を見せてやろう。代価は貴公等の命で良い、なぁに遠慮するな!」

 

 引き絞った矢をゴブリンに放つ。

 

鋭い射線を描いた矢はゴブリンの額を貫き、即死させた。

 

「gyobe?!」

 

「gov,gov,gov!!」

 

 絶命し、足場から落下する同胞を目にしたゴブリンは慌てふためき、各々が独断で矢の反撃を見舞う。

 

多数の矢が雨霰(あめあられ)となり、彼に降り注ぐが有効打は皆無に近かった。

 

時折まぐれ当たりで彼に命中するが、失速気味の矢では彼の防具を貫く事も叶わず、結果彼は無傷であった。

 

実質無駄撃ちに等しい反撃を見舞うゴブリン達だが、一匹また一匹とロングボウの餌食となり、次々と討ち取られてゆくばかり。

 

数匹を残すのみとなったゴブリンは迎撃を諦め、奥の通路へと退却を開始する。

 

「迎撃の構えを見せた位だ、奥に近付けたくない()()が有るのは間違いない」

 

水路には沼竜が顔を覗かせ、奥へと視線を向けていた。

 

剣の乙女達も奥が気になるのだろう。

 

弓を仕舞い、彼は奥へと侵入を開始した。

 

……

 

奥に歩を進めるにつれ、空気が徐々に変わりつつあるのに気付く。

 

霧も次第に濃くなり、異臭が垂れ込み始めた。

 

空気の変化が色濃くなるにつれ、灰の胸中はある確信に見舞われる。

 

――この空気感…覚えが有るぞ……!

 

忘れもしないあの巡礼の旅――。

 

火の陰りし、彼の世界――。

 

此処が水の都地下深くである事に変わりはない。

 

しかしこの空気は紛れも無く、あの世界(ダークソウル)特有のものだ。

 

あの世界では、あらゆる時空が歪み世界がズレを発する。

 

此処が()()()()と繋がる事も、充分あり得る話だ。

 

『gorooov!!』

『gyoruuubo!』

『gov、gov、goro!!』

 

 突如として、聞き覚えの有る絶叫が奥から響いて来た。

 

――ゴブリンの悲鳴だ!

 

灰は走り出し、悲鳴の元へと駆け付ける。

 

――……?!!

 

其処には無残な光景が広がっていた。

 

巨大な鼠がゴブリンに殺到し体中を食い荒らされ、うち数匹は結晶化しながら絶命するゴブリンも居た。

 

結晶化したゴブリンの傍には、あのカエルに似たトカゲが複数存在している。

 

「この大ネズミとトカゲ……()()()()かっ!!」

 

 この四方世界の下水道で見た大鼠は気味が悪いものの何処か愛くるしさを感じる姿形をしていたが、此方側の大ネズミは眼球が半ば露出し身体も至る所が朽ち果てている。

 

その上、凶暴性や獰猛さでは此方が桁違いに高い。

 

だが真に脅威となるのは、トカゲとカエルを融合させたかのような生き物。

 

通称『バジリスク』である。

 

この敵は、呪いのブレスを吐き掛け、浴びた者に対し呪いに侵す。

 

呪いが臨界点を突破すれば、如何なる者であっても体中から結晶が吹き出し、呪死してしまうのだ。

 

この呪いを解除する手立ては基本的に存在せず、時間経過による回復か、呪いに高い耐性を持つ道具を身に付けるしか方法がない。

 

バジリスク単体なら然程脅威ではないが、この敵は基本複数で行動する。

 

さらに厄介なのは、他の敵に気を取られている間に、ブレスを吐き掛けられ呆気無く呪死してしまう点にある。

 

火が陰り不死の蔓延したあの時代は、篝火に戻されるというだけで何度もやり直しが効いたが、この世界では一度死ねば其処で全てが終わってしまう。

 

そして今、大ネズミの群れとバジリスクの群れに加え、此方が生者という()()()()最悪な状況に追い込まれていた。

 

「……勘弁してくれ…この状況でこいつ等に出くわすとは……!」

 

 冷えた地下水路の空気にも拘らず、灰は全身から汗が噴き出ていた。

 

そして大ネズミとバジリスクの群れが感付き、此方に迫り来る。

 

「退き撃ちに徹する!」

 

 彼は連続でバックステップを繰り出しながら可能な限り距離を離し、孤電の杖を取り出す。

 

更に、もう片方の腕には呪術の火を宿らせた。

 

「ファランの短矢!」

 

 孤電の杖から小型のソウルの矢が射出され、突進速度に優れる大ネズミから仕留めてゆく。

 

威力そのものは『ソウルの矢』に劣るものの、速射性と連射性に優れ消耗も軽い。

 

速さを重視した魔術である。

 

単発で大ネズミを仕留め切れるもではなかったが、呪術の火『火の玉』組み合わせ止めを刺す戦術に出た。

 

呪術の火『火の玉』は威力と範囲に優れ、『ファランの短矢』で牽制した後『火の玉』で纏めて焼き払う事で、先ず大ネズミを優先的に狙う。

 

時折バジリスクが跳びあがり、呪いブレスを吐き掛けるも彼は更にバックステップで距離を取り、退き撃ちを徹底した。

 

ファランの短矢と火の玉で、前衛の大ネズミ群を全滅させ、残りはバジリスクのみとなった。

 

――数は5匹、連携では吐かれては厄介だ。……ならばっ!

 

2匹が口を膨らませ跳躍体制に移るが、彼はその隙を見逃さなかった。

 

その隙を見極め、2匹にナイフを投擲する。

 

ナイフが命中し、僅かな時間だが動きを怯ませた。

 

――好機っ!

 

彼は、得意の高速体術で集団に肉薄。

 

他3匹のバジリスクを長剣で切り伏せ絶命させる。

 

その間、体勢を立て直した2匹だが、彼は視界から消え突進突きで一匹を仕留め、振り向き様に長剣の投射で残り一匹を仕留め、バジリスクを全滅させた。

 

「……」

 

――……よし…!バジリスクはもう居ないな……!

 

周囲に敵が居ない事を確認した彼は、息を大きく吐き出す。

 

気が付けば全身から汗が噴出し、息も上がっていた。

 

たまたま足場の良い地形で助かったが、他の異形と凹凸の激しい地形の組み合わせが重なれば、結果は逆だったかも知れない。

 

バジリスクとは、それ程の脅威なのだ。

 

彼は投げ捨てた松明を拾い上げ、更に奥へと脚を進めた。

 

 

 

……

 

 

 

「見ましたか?!あのトカゲの様なカエル!」

 

 水晶を見ていた神官戦士の一人が声を荒げ、周囲に呼び掛ける。

 

「落ち着け…!皆見ている……!」

 

 副長が興奮する部下を鎮めたが、彼女も額に汗を滲ませていた。

 

「あのブレス……浴びた者を忽ち石化させ死に至らしめる化け物……、それが複数も……!」

 

「あの化け物だけじゃないっ!同時に湧いていた大ネズミも我々の知る()()とは違い過ぎていたぞっ!」

 

「攻撃性も獰猛さも桁違いだっ!もしあんなのが大挙して、この街に這い出て来たとしたら、それこそ()()だぞっ!ゴブリンどころの騒ぎではないっ!」

 

 神官戦士達が騒ぎ出し、俄かに騒々しくなる。

 

「――静粛に!大司教様の集中を妨げてはならんっ!」

 

 見かねた戦士長が檄を飛ばし、周囲を静かにさせる。

 

「今戦っているのは、我々ではなくあの冒険者です。詳細は彼から聞けば良いでしょう。彼の生還を見守りましょう」

 

 意識を集中させながらも剣の乙女が口を開く。

 

――どうやら、大詰めに来たようですが水路はここ迄。奥も気になりますが、これ以上は我々にとっても未知の領域。彼をこれ以上危険に晒す訳にもいかない。切り上げさせるとしましょう。

 

沼竜を通じて見た光景。

 

濃い霧が立ち込め、奥へと続く通路は更に下層へと繋がっている様だが、霧の様な壁に阻まれていた。

 

更に水路は此処で遮断され沼竜はこれ以上先に進む事が出来ず、様子を把握する事も不可能だ。

 

先程の異形と言い、この地下水路には小鬼で片付く問題を遥かに凌駕している可能性も暗示させる。

 

今現在、地下水路に侵入している『灰の剣士』の実力は充分に理解出来た。

 

単純な戦闘力だけなら、既に銀等級にも比肩し得るほどの実力者だ。

 

必要以上に危険に晒し、無駄死にさせる訳にはいかない。

 

ゴブリンを積極的に狩り続ける冒険者。

 

そういう者は驚く程に少ないのが現状だ。

 

上手くいけば彼を此方側に引き込み、自分をあの()()から救い出してくれるのではないか。

 

そんな淡い期待すら抱いてしまう自分が居た。

 

彼女は使い魔に意思を送り、彼に切り上げる様に促した。

 

 

 

……

 

 

 

彼の側面には水路が広がり、沼竜が帰還の意志を伝えてきた。

 

沼竜が逆方向を向き、彼に対し一声鳴く。

 

「……戻れと言う事か……」

 

 意を察した彼は、霧に阻まれた通路と沼竜を交互に見やる。

 

――確かに此処からは私でさえ推し量れぬ未知の領域。

 

今回の依頼は、彼自身の実力を測る為の小鬼退治で、調査はついでの様なもの。

 

恐らく小鬼はもう存在しまい。

 

そういう意味では一定の任務を達成した事にはなる。

 

危険を避け、このまま帰還したとしても成功報酬を受け取る事は出来よう。

 

しかし――。

 

「…折角の気遣い有難いが、私はこのまま進ませて貰う」

 

 彼は霧の方に向き直り、そのまま侵入した。

 

確かに此処で切り上げても依頼達成にはなる。

 

しかし、火継ぎの時代に酷似した空気に加え、過去に遭遇してきた()()()の異形達。

 

このまま放置すれば水路を経由して異形達が、都へと被害を齎す(もたらす)可能性も十分にあり得る。

 

同じ側の住人としての責任感が、彼を突き動かしていた。

 

――下手をすれば、このまま戻って来れなくなる可能性も否定出来ん。だが、此処で放置すれば罪無き民に被害が及ぼう。それを見過ごす訳にはいかぬ!

 

そのまま彼は霧の奥へと姿を消した。

 

……

 

再び騒めく、法の神殿。

 

「どういう積りだ?あの剣士?!」

 

「危険過ぎるが、手の出しようが無い!」

 

「我等は見守る事しか出来ん……」

 

「……おにいさま……」

 

――剣士様……、御無事の帰還を……!

 

騒ぐ神官戦士達を余所に、剣の乙女と幼夢魔は只管に剣士の無事を願ってた。

 

……

 

霧を抜け、少しばかり通路を進む灰の剣士。

 

景色は一変し、最早地下水路の面影は微塵にも感じさせなかった。

 

――前方に幾つかのソウルを感じる上に、この空気……間違いなくロスリックの何処かに続いているな。

 

気配と覚えのある空気をひしひしと感じ取り彼は歩を進めて行くと、やがて広い空洞に辿り着いた。

 

その空洞には生活感があり、幾つかの古びた家具が並べられていた。

 

木製の本棚に幾つかの書物が収納され、机には怪しげなガラス瓶や用途不明な道具類が無造作に置かれている。

 

そして一際目を引くのが――。

 

「……ゴブリン?!」

 

 思わず口に出す灰の剣士。

 

空洞の中央には、巨大な十字架が立て掛けられ、其処に一匹のゴブリンが磔にされていた。

 

「あのゴブリン……、大型種だな」

 

 普段目にする通常種やリーダー格の中型種とは違い、ホブやシャーマンとは似て非なる進化を遂げた大型の小鬼だった。

 

――……小鬼の磔も珍しいが、奥に誰か居るな。

 

磔台の奥に、人影らしきものを見付けた。

 

小さな机に向かい、何やら記録している様子が伺える。

 

程無くして作業を終えたのだろうか。

 

その人物は、ゆっくりと椅子から立ち上がり此方に振り向いた。

 

「ようこそ御客人。我が実験の場へ――」

 

「……不死人……此方側の住人か!」

 

 茶系のローブに身を包んだ、若い声の男だ。

 

その男から感じるソウルで、火継ぎの時代側の不死人だと判断できる。

 

そして口にしていた”実験場”という単語。

 

恐らく磔にされている大型種のゴブリンが被検対象となっているのは、明白だ。

 

「何の実験をしているのかは知らぬがゴブリンが関わっている以上、街の住民側にとって喜ばしくないのは明らかだな」

 

先程のバジリスクや大ネズミの件といい、この男が関わっているのは先ず間違いない。

 

彼は問い詰める。

 

”何を成そうとしているのか”と。

 

「くっくっく、頭の悪い男だ。実験と成果の確認は切っても切り離せぬもの!愚鈍なその眼に焼き付け犠牲となれ!」

 

 ローブの男は高く跳躍し、磔となっているゴブリンの頭上に着地した。

 

――何という跳躍力だ?!かなりの手練れだ……こいつ!

 

魔法職か戦士職かも判別は付かないが、眼前の不死人が相当の実力者である事は疑いようが無かった。

 

ローブの男は、手にした注射器の様な物で、ゴブリンの頸動脈部に針を刺し込み得体の知れない液体を注入する。

 

容器の中から薄っすらと見える液体は、濁った赤色の液体であった。

 

――今のは、()…の類か?!

 

何処と無く色褪せた人血に近いものを感じ取った灰の剣士。

 

「くくく……、ロスリックの残せし()()()()の一環…とくと堪能せよっ!!」

 

「――ロスリックだと?!貴公っ!何者だっ?!」

 

「貴公に教える義理は無し!食い尽くされよ!獣の羅患者になっ!!」

 

 男の口から出た”ロスリックの血の営み”と”獣”と呼ばれる言葉に食い付くが、明確な答えなど当然返って来る筈も無い。

 

程無くして磔のゴブリンがゆっくりと目を覚まし、拘束用の鎖を一気に引き千切り咆哮を上げた。

 

まるで獣が雄叫びを上げるが如く――。

 

――何だっ!何が起こっているっ?!

 

身の危険を感じ、長剣を鞘から抜き戦いに備える灰の剣士。

 

ゴブリンの目は深紅に灯り、全身から濃い体毛が生え始めていた。

 

「GOlululululu……」

 

 これまでのゴブリンはまるで違う鳴き声を上げ、元々鋭かった爪は更に鋭利さを増し恐るべき凶器と化している。

 

――小鬼の……獣人化か……!

 

獣と化した小鬼――。

 

 

 

さしずめ小鬼獣 『ゴブリンビースト』 と言った処だろうか。

 

 

 

身構え全身から汗がとめどなく、溢れて来る……――その刹那!!

 

「――GLuOoo!!」

 

 小鬼獣が一瞬で間合いを詰め、爪で引き裂きにかかった。

 

「――速いっ!!」

 

 彼は咄嗟にサイドステップで辛うじて躱すが、その瞬発力に慄き冷や汗を流す。

 

――なんて速さだ……グウィン程ではないにせよ、小鬼の速度じゃないっ!

 

余りの瞬速に、全身から震えが込み上げた。

 

初撃に戦慄を覚える暇もなく、左右の爪による連続攻撃が彼を襲う。

 

彼は小刻みな足捌きと軸ずらしで必死に攻撃を回避していくが、防戦一方に陥ってしまった。

 

このまま回避に徹すれば傷を負う事は無いものの、スタミナは何れ尽き動きが鈍った瞬間八つ裂きにされるのは必至であった。

 

反撃の糸口が掴めぬまま焦る気持ちが先走るが、回避に徹する事で敵の癖に気付く事が出来た。

 

――こいつ…、力も速さも驚異的だが、攻撃動作そのものは単調だ。

 

一見、敵の攻撃は非常に激しく獰猛だが、実際は左右の単純な引っ掻き攻撃を繰り返しているに過ぎない。

 

何度も同じ周期(リズム)で攻撃を繰り返せば、事前に流れを読む事は容易くなる。

 

――先ずコイツを躱し…!

 

爪薙ぎを避け、次の攻撃を待ち構える。

 

――ここっ!!

 

もう一方の爪攻撃に合わせ、マウントさせた『ターゲットシールド』で攻撃を弾く(パリィング)

 

攻撃を弾かれ、体幹を崩された小鬼獣は、大きな隙を生み出してしまう。

 

――今っ!!

 

その隙を逃さず彼は長剣で、小鬼獣の心臓部に長剣を平突きに刺した。

 

そして間髪入れずに剣を横に振り抜き、敵の胸部ごと心臓を掻っ捌く――。

 

「――GRULOooooVa!!」

 

 心臓部を直接狙った致命攻撃に、堪らず絶叫を上げる小鬼獣。

 

――よしっ、このまま決める……。

 

すぐさま追撃を加えようとしたその矢先――。

 

「――っぐぁ?!」

 

 脇腹に凄まじいばかりの衝撃が奔り、彼は後方へ吹き飛ばされてしまった。

 

透かさず片手で地面に手を着き、宙返りしながら地への激突は回避し、被害を最小限に抑える事には成功。

 

しかし、予想外の反撃を真面に食らい、想定以上の痛痒を被ってしまう。

 

――まさか、あの体勢から返し技を……?間違いなく手応えを感じたのだが。

 

油断や慢心は微塵も無かった彼だが、致命攻撃の隙を逆に突かれ、脇腹に横蹴りを受けてしまった。

 

致命打を受けた筈の敵は、胸元から血を流しながらも平然と此方にゆるりと迫って来る。

 

――ろっ骨は……無事か。しかし、今のをもう一度食らう訳にはいかんっ!

 

警戒を緩める事なく、彼は再び剣を構え慎重に間合いを詰めゆく。

 

再び小鬼獣が地を蹴り彼に襲い掛かるが、彼も同時に突撃し迎え撃った。

 

両者の激しい攻防が繰り広げられる。

 

敵の爪攻撃が連続で彼に降り注ぐが、動きに慣れたのだろうか。

 

彼は全く臆する事無く、全て剣や盾を駆使し攻撃を捌き回避を織り交ぜ、敵の体幹を崩しにかかっていた。

 

徐々に敵の隙が大きくなり、彼は其処に付け入った。

 

敵の腕を踏台《ふみだい》にし、高く跳躍――。

 

「――っしっ!!」

 

 敵の頭上から長剣の唐竹割りを繰り出した。

 

肉を裂き、刃が血を掻き分け、その感触が彼の腕に伝わる。

 

過去に嫌という程に体験した剣の感覚。

 

しかし、断ち切ったのは敵の頭部ではなく、腕部だった。

 

――まさかっ!頭部を庇った?!

 

またもや予想外の行動に彼は驚愕するが、がら空きとなった脚部に容赦なく下段斬りを見舞う。

 

だが敵は此処でも、予想外の行動に出た。

 

彼の下段斬りを軽業の側宙(サイドフリップ)で躱し、爪を槍に見立てた連続貫手で返礼した。

 

彼自身もそのカウンターを小円を描く足捌きで回避する。

 

そして、激しい攻防が再び繰り返された。

 

激しい長剣の連続斬撃――。

 

対する、爪と蹴りの乱撃――。

 

――こいつっ!戦いながら、力と技の使い方を学習しているのかっ!

 

激しい連続攻撃の応酬――。

 

その最中にも、敵の動きが徐々に洗練され多彩な戦術を行使し始めていた。

 

彼の攻撃に即応しつつ、擬態(フェイント)を織り交ぜた高度な技で、攻め立てる。

 

――成長速度が速いっ!このまま長引けば、此方が確実に不利だっ!

 

戦いの経験を積む毎に、小鬼獣が戦術を学び戦闘力が上昇してゆく。

 

成長限界はあるだろう、しかし時間を費やせば、それだけ脅威度は跳ね上がり万が一逃がす様な事になれば、敵の齎す被害は計り知れないものになるのは必至だ。

 

――何とか奴の隙を突き、短期決戦で仕留める他ない!

 

どうにか敵の隙を作ろうとするが息切れを起こす気配は微塵も見せず、寧ろ攻めが激しくなるばかりだ。

 

「――ならば!」

 

 敵の攻撃に合わせ、あろう事か彼は剣を手放す。

 

敵の爪は彼の剣を打ち、実質空振りに近い形となる。

 

その僅かな間隙を縫い、彼は懐へ踏み込んだ。

 

「――浄化ぁっ!!」

 

 両の掌を敵の腹部に添え、呪術の火『浄化』を発動させた。

 

敵の内部から火が盛り、全身が燃え広がる。

 

「――GRYOoooAaaa!!」

 

 痛覚に鈍感だった敵もこれには耐え難いのか、藻掻き苦しむ。

 

「安心しろ。甚振る(いたぶ)性癖は持ち合わせていない!」

 

 彼はすぐさま懐から、黒火炎壺と破裂石弾の入った小袋を取り出し、敵の口内に押し込んだ。

 

そして即座に後方へと跳躍し、距離を取る。

 

「――放つフォース!!」

 

 口内の爆発物を狙い、奇跡『放つフォース』を行使した。

 

彼等側の奇跡を発動させるには、触媒を握り締めるか肌に触れる必要がある。

 

しかし以前の様にタリスマンを握り締めていたのでは、片手が塞がり咄嗟に行使する事が出来ず自由度も落ちてしまう。

 

そこで彼は工夫を凝らし、手首に直接『粗布のタリスマン』を巻き付ける事にした。

 

布造りの触媒なら自由に形を変える事ができ、巻き付けた触媒の上に腕防具を重ねれば紛失する危険も無い。

 

つまり四六時中、常時肌に触れている事になる。

 

彼が聖鈴ではなく布製のタリスマンを選んだのは、こういう利点が働いていたからだ。

 

彼の掌から放たれたフォースは敵口内に吸い込まれ、爆発物に衝撃を与える。

 

その衝撃で破裂石弾が爆ぜ、黒火炎壺にも誘爆した。

 

口内と気管を爆発の熱波が容赦なく駆け巡り、無残に焼きながら引き千切った。

 

出口を求め暴れ回った熱波は、敵の眼球を押し出し顔部から解き放ち頭部を爆散させた。

 

無尽蔵の耐久性を誇ったかに見えた小鬼獣も、頭を失っては生命活動を維持する事は出来ない。

 

首なしの敵はそのまま崩れ落ち、完全に沈黙する。

 

「……はぁ…はぁ…、何とか片付いたか……!」

 

 完全な絶命を確認した彼は、呼吸を整えながら敵の後方を睨み付けた。

 

その視線の先ではローブの男が、誌面にペンを走らせている。

 

「ふむ、中々に良い情報(データ)が収集できた。今回の成果はとても意義のあるものだったよ。協力…感謝するよ、冒険者君♪」

 

 一通りの記録を終えたのか、薄ら笑いを浮かべ灰の剣士に向き直った。

 

「……貴公……、サリヴァーン側か?それとも……」

 

「さぁて…ね…、自分で探ってみ給えよ…()()()()()君♪」

 

「……」

 

 軽口を叩きながら、彼は姿を消した。

 

大方、転送技術を使い篝火にでも帰還したのだろう。

 

「……撤退したか。奴の感じたソウル……相当の手練れだ…!何者だ?あの男……」

 

 誰も居なくなったその広場で、彼一人が取り残される事となった。

 

「今の男が有用な証拠を残す下手は打たんと思うが、一応この空洞を調べてみるか」

 

 剣を回収し、残された本棚や机の小道具類を物色する事にした。

 

 

……

 

………

 

役に立つかどうかも定かではない書物を幾つか厳選し回収した。

 

その中には、見覚えのある木彫り像が目に映った。

 

――槍使い達と共に邪教徒を討った際に見たな。この像……。

 

木彫り像を手に取り、視線を這わせる。

 

あの時目にした、サリヴァーンの彫像に寄り添う形で鎮座していた異形の像。

 

その内の一体に、獣の姿をした像が在ったのを思い出す。

 

――近年噂になっている魔神王とやらの一体……、確か『獣の魔神王』だったか……?

 

あの男は獣の魔神王の配下のだろうか。

 

だとすれば、サリヴァーン側に属している事になる。

 

そんな憶測を立てながら、念の為その木彫り像も回収した。

 

そして先程死闘を繰り広げた獣化した小鬼の一部を切り取り、これも証拠品として持ち帰る事にする。

 

一つは法の神殿に納める為、もう一つは自分の所属する辺境ギルドに持ち帰る為である。

 

「まだ奥に続いている様だな。恐らくロスリックの何処かに繋がっていると思うのだが……此処までにするか」

 

 奥に続く通路に進みたいという衝動に駆られるが、今回の探索は此処で切り上げる事にした。

 

唯でさえ依頼人の方針を振り切ったのだ。

 

これ以上長引かせるのは勝手が過ぎるというもの。

 

彼は霧の壁を抜け、地下水路へと戻った。

 

脇の水路では沼竜が律儀に待機していた。

 

「……待たせて申し訳なかった。一応の成果はあった故、それで許してほしい」

 

 沼竜に一礼し、帰路へと就く。

 

その道中、逃走したゴブリンを結晶呪死させた、バジリスクの遺体も回収する事にした。

 

報告するにせよ、亡骸とは言え現物を見せた方が信憑性は増す。

 

亡骸を布で包み、それを背負いながら井戸へと向かう。

 

途中『七色石』の道標が功を成し、道に迷う事は無く井戸の真下に辿り着く。

 

そして上から縄梯子を投げ入れて貰い、漸く神殿内に帰還する事が出来た。

 

「おおっ、戻ったか!」

 

「おにいさまっ!」

 

「灰の方……よくぞ……」

 

 上で待機していた面々が彼の帰還を歓迎する。

 

「……ふぅ…はぁ…、只今、帰還した!」

 

 持ち帰った証拠品は思いの外、嵩張ったのだろう。

 

荒く呼吸しながら、それらを無造作に降ろした。

 

 

 

灰は、地下水路にて起こった出来事を説明する。

 

持ち帰った異形の亡骸も含めて――。

 

「『バジリスク』……石化の呪いを撒き散らす存在か」

 

 台座に置かれた亡骸に視線を這わせながら、神官戦士長が唸った。

 

この四方世界にも『コカトリス』と呼ばれる怪鳥が存在する。

 

嘴に石化の魔力を蓄え、啄んだ対象を忽ち石化させる鳥の異形だ。

 

翼を有し飛行出来るため、在らぬ方向から奇襲を受ける可能性も有り警戒が必要だが、極論で言えば嘴に注意すればそれ程脅威ではない。

 

しかし、此方のバジリスクと呼ばれる彼の世界の異形。

 

トカゲともカエルとも異なる姿形に加え、呪いのブレスを広範囲に散布し浴びた者を呪死させる能力を持つ。

 

尤も、攻撃手段はそれしか無く単体なら対処は容易だが、真に恐ろしいのは他の異形や集団で連携された時にある。

 

また、その呪いを解く手段は基本的に存在していない。

 

耐性を持つ防具に身を包むか、ブレスを警戒しつつ早期に倒すか……。

 

だが問題は他にある。

 

それは、この異形がロスリック外に出現してしまったという事実だ。

 

本音で言ってしまえば直ぐにでも人を搔き集め、地下水路を封鎖してしまうのが現状で実現し得る最善策だろう。

 

しかし、地下水路はこの都市の生活に密接に関係している。

 

現実そんな事を強行しようものなら、人々の生活は早急に破綻してしまうだろう。

 

あの地点でのバジリスクは殲滅したが、これから先、別地点で出現する可能性もあり得るのだ。

ク灰は、自身が知り得る限りの特徴と対処法を周りに伝えた。

 

ブレスの射程外から遠距離で仕留めるか、若しくは一気に肉薄し倒す。

 

状況にもよるが最優先で倒さねば、後々取り返しのつかない被害を齎す事は間違いない。

 

「……分かりました。この事は此方のギルドにもお伝えしておきましょう」

 

「宜しくお願いします」

 

 剣の乙女も情報提供に協力してくれる様だ。

 

そして灰は、霧の向こう側で何が行われていたのかを話した。

 

霧の抜けた先では、広い空洞で実験が行われていた事。

 

大型種の小鬼を使い、何やら怪しげな薬を打ち込んでいた事。

 

その小鬼が獣の様な姿に変貌し、驚異的な力と学習能力を発揮した事。

 

それを行った首謀者は、間違いなく人であった事、などだ。

 

「小鬼獣の戦闘に気を取られ、その人物を取り逃がす羽目となってしまった」

 

 結局重要な情報を握っているだろう人物には逃げられてしまい、彼は仕方なく残っていた書物などを回収してきたのだった。

 

持ち帰った物には、獣の魔神王らしき木彫り像も含まれている。

 

「……まさかな……。貴君の実力を推し量る為の小鬼退治が、この様な事態に発展してしまうとは」

 

 証拠品の数々を手に取りながら、戦士長は苦い顔で呟いた。

 

「今出来る対策としては、これ等の怪物が水路の外に出ない様、警戒を強めるしかありますまい。……(いたず)らに冒険者を送り込んだとて、被害だけが増すのは必至――」

 

 副長が、現時点での妥協案を提示した。

 

確かに、中途半端な一党を小出しに送り込んだとて、未知の怪物に対応出来るかは甚だ疑問符だ。

 

仮に送り込むとなれば、上級の一党に絞られるだろう。

 

本来なら灰の剣士自身が潜入するのが最善策だが、彼等の認識では精々が『少しは出来る』程度の評価でしかなかった。

 

剣の乙女を除いては――。

 

地下水路の奥も気になるが、今の彼にもやるべき事が幾つも有る。

 

「取り敢えず、一旦この辺りで切り上げましょう。彼もお疲れの御様子……今日はゆっくりと体を労わって下さい」

 

 剣の乙女がこの件を一度区切り、灰に休養を促した。

 

本来この依頼は、彼がダークゴブリン討伐に足る戦力か否かを測る為だ。

(仮に”否”と判断されても、勝手に参加する腹積もりではいたが……)

 

こうして地下水路での依頼は終わり、一区切りが着いた。

 

 

 

……

 

 

 

「ロスリック…血の営み……ですか……」

 

「そうだ。奴はそう言っていた」

 

 神殿の談話室にて、灰の剣士と剣の乙女が向かい合い会話していた。

 

あの後、彼は剣の乙女に呼び出され現在に至る。

 

灰の剣士が彼の時代の人間である事は、実際彼女と侍女しか知らない。

 

多くの神官戦士が居たあの場では、全てを話す訳にもいかなかったのである。

 

獣と化した小鬼を使役していたあの男――。

 

確かに発言していた『ロスリックの血の営み』――。

 

火が陰り行くあの時代において、薪の王たる資格者を生み出す為に行われた業だと聞いていた。

 

彼自身『血の営み』については無知に等しいが、人の道を外れた(おぞ)ましい所業であったと、嘗て『クールラントのルドレス』から伝えられていた。

 

”獣化の実験も、その一環である”。

 

ローブの男はそう言っていたのだった。

 

実際血の営みがどの様な内容なのかは、彼には想像も付かない。

 

しかし、ロスリックの王『オスロエス』は、その業にに発狂し異端である『白竜シース』の研究に没頭したらしい。

 

そして血の営みの到達点の一つが、『王子ロスリック』なのだろう。

 

確かに彼は『薪の王』の資格を有していたが、彼自身それを望んではおらず結局は彼と彼の兄は『大書庫』の最奥に引き籠り、火継ぎを拒否したのである。

 

「……皮肉な話だ。火の時代を絶やさぬが故に終焉を招いてしまった、悲しき一族の末」

 

「……」

 

 灰の独白に、彼女は返す言葉も見付からなかった。

 

あの時代、様々な勢力が多様な方法で世界を延命させようとしていた。

 

中には、深みに傾倒し自ら闇に浸かる事を望んだ勢力も居る。

 

又は、飽くなきソウルを求め自らが絶対者に君臨する事で、闇と滅びを克服しようとした者も居た。

 

醜い竜へと変貌したオスロエスもそうだったのだろうか?

 

白竜シースの研究にのめり込み、太古に存在した『朽ちぬ古竜』を目指していたのかも知れない。

 

「まぁ結果的に……私が火を消し、火の時代を終わらせたのは間違い用の無い事実だがな」

 

 確かに彼自身が陰り行く最初の火を消し、全てを終わらせた。

 

 

 

――かに見えた。

 

 

 

しかし、盤外の神々がこの四方世界に火の時代の残滓を送り込み、物語りは続いている訳だが、それは口に出さないでおいた。

 

「……」

 

 暫く沈黙を保っていた剣の乙女だったが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「灰の方……、此処に籍を移す気はありませんか?」

 

「……」

 

 その言葉に、今度は灰自身が押し黙る。

 

確かに此処を拠点とすれば、ある意味使命を果たし易くもなるだろう。

 

この都市は辺境に比べ、物資も情報の流通も盛んだ。

 

更に彼女はこう付け加える。

 

(わたくし)直轄の冒険者として活動なさっては?”と――。

 

神殿最高指導者でもあり、六英雄の一人でもある剣の乙女。

 

何より彼女自身は金等級の冒険者、序列第二位の肩書を持ち世間の評価も高い。

 

多少自由は制限されるだろう。

 

しかし彼女の下で活動すれば、衣食住に加え情報の取得もかなりの融通が効く。

 

それに、先日保護したあの『幼夢魔』も彼と共に居る事を望んでいる。

 

 

 

悪くない条件だ。

 

 

 

しかし――。

 

 

 

「……済まぬが、それは出来ぬ!」

 

 彼は顔を些かに顰め、その誘いを断った。

 

六英雄にして大司教でもある『剣の乙女』直々の勧誘――。

 

恐らくは、滅多にない事だろう。

 

もし此処に他の冒険者が居れば、羨望や嫉妬の感情をぶつけられる程に――。

 

だが、彼には彼の理由がある。

 

今の今迄彼を信頼してくれた、ギルドの職員や神殿の司祭長。

 

何処の馬の骨とも知れぬ自分を慕ってくれた、神官見習いの少女。

 

回数は多くは無いが、死線を潜り抜けて来た辺境の冒険者達。

 

そして何よりも、今の自分を頼り何度も運命を共にしてきた(ゴブリンスレイヤー)――。

 

彼等は未だ自分を必要としてくれている。

 

「……出来ぬ……許せ……!」

 

 申し訳なさそうに頭を深く下げる火の無い灰。

 

仮に此処を頼るとなれば、それはまだまだ先の話だろう。

 

しかし、彼女は何時も()()なのだろうか?

 

関わった冒険者を勧誘し、自らの陣営に引き込む。

 

彼女に訊ねる事にした。

 

「――?!い、いえっ!……貴方様が、それに足る御方だからと判断した次第ですわ」

 

 一瞬面食らった彼女だが、直ぐに調子を取り戻す。

 

「そう判断するのは、些かに時期尚早かと……。本当に信頼に足るか否かを判断するのは、『ダークゴブリン』を討った後からでも遅くはあるまいよ」

 

「……残念…ですわ」

 

 本当に残念そうな表情をしながら彼女は少し項垂れた。

 

何故こうも自分に拘るのか、少々疑問に思いながらも彼は敢えて言及はしなかった。

 

「そう言えば、貴方様は私達の知らぬ魔法を使っておいででしたね。……あれは一体何ですの?」

 

 居た堪れぬ雰囲気を変えるべく、彼女は別の話題を振った。

 

バジリスクや大ネズミの群れを迎撃する為に、彼が行使した魔法に些かの興味も沸いていたのである。

 

「ああ、あれか。……あれは『ソウルの魔術』と『呪術の火』と呼ばれる魔法だ。貴公等にとっては太古に廃れた魔術、として伝わっているそうだが」

 

 火継ぎの時代では当たり前の様に行使されていた、多種多様な魔術や呪術の類――。

 

彼自身が最初の火を消し時代が四方世界へと移り変わった時には、まったく別種の術に置き換わっていた。

 

真言魔法を始めとする、精霊魔法や祖竜術――。

 

ソウルの魔術などは最早過去の遺物に過ぎず、僅かな文献が残るのみとなっていた。

 

ただ文化的価値は非常に高く、現在でも王都の学院や賢者達の間では、それ等を復古しようと研究されているが難航しているのが実情である。

 

初歩的なソウルの魔術である『ソウルの矢』なら、極一部の上級魔術士が行使出来るに留まり、それ以上の発展は望めなかった。

 

ロスリックがこの世界に流れ着き、多くの文化財がこの国に齎し始めている。

 

何れは『ヴィンハイムのオーベック』も学院への入学を望んでいる様だ。

 

遅かれ早かれ、ソウルの魔術についても進展がみられるだろう。

 

だが懸念すべきは、既に混沌勢がそれ等の術を伝道し彼等の勢力が勢い付いている事が挙げられる。

 

更には、心無い輩がそう云った技術や知識の悪用を謀り、国家転覆や他国側へと流出させる事も充分に在り得る事だ。

 

太古の文化は、恩恵と同時に災厄や戦争の火種を燻ぶらせる要素も孕んでいる。

 

「私個人としては、少々複雑でもあるな」

 

 どの様な理由であれ形であれ、火を消しこの状況を創り上げた遠因は彼にもある。

 

たとえ彼自身に咎が無くとも、罪悪感を感じずにはいられなかった。

 

「……そうだとしても、それは貴方様が御一人で背負う()ではありませんわ」

 

 太古の知識や技術――。

 

善用するにせよ、悪用するにせよ、それ等は使う者が責務を負わなければならない。

 

彼自身が、それ等の技術を生み出したのなら事情は変わるが、実際は灰も術を学んだ一人に過ぎないのだ。

 

故に、灰自身を咎め非難するのは、四方世界の住人として恥ずべき事ではないだろうか。

 

少なくとも、剣の乙女自身はそう考えていた。

 

大司教や金等級冒険者としてではなく、一人の()として――。

 

「……気を遣わせてしまったか。……少し心が軽くなった気がする、有難う。剣の乙女よ」

 

 彼は微かに笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

 

其処へドアがノックされ、剣の乙女の付き人である侍女が入室して来た。

 

どうやら消灯時間が迫っている様だ。

 

「……もう時間ですのっ?!少し早いのではなくて?」

 

「何を仰います!かれこれ3時間以上話し込んでいるのですよ!」

 

 侍女と剣の乙女の間で若干の言い争いが行われ、心なしか彼女の顔が上気していたのは気の所為だろうか?

 

半ば強引に彼女は連れられ、談話室を出て行った。

 

残された彼も席を立ち上がり、当てがわれていた部屋に向かう。

 

その途中で幼夢魔と鉢合わせした。

 

「……」

 

「……」

 

 両者は暫く無言でいたが、やがて彼女の方から口を開いた。

 

「明日……、行っちゃうんですね」

 

「……そうだ」

 

「……そっか……」

 

 既に彼女も察している。

 

明日、彼はこの神殿を発ち、辺境へと戻る事になっていた。

 

彼女の本心としては彼と行動を共にしたかったが、それには多くの障害が立ち塞がっていた。

 

その事は、神殿の信徒達からよく聞かされていた為、彼女もその願いは叶わぬと悟っている。

 

「済まんな、連れて行ってはやれぬ。……だがこれが、今生の別れではない。それだけは確かだ」

 

 なるべく言葉を選び、冷たくなり過ぎぬよう配慮しながら、彼女を諭す事にした。

 

「……うん……。分かってます」

 

 頭では理解していても、感情がそれに追い付くかは別だ。

 

しかし、彼女は年齢の割に理解力に優れているのか、それ以上我儘を言う事は無かった。

 

その後、彼女を見付けた世話係の女信徒に引き連れられ、その場から離れて行った。

 

最後まで名残惜しそうに、灰に振り向きながら――。

 

――元気でな。

 

心の中でそんな言葉を幼夢魔に投げ掛け、彼も部屋へと戻り一夜を明かした。

 

 

 

―― あの悪夢に苛まれて ――

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

朝日が昇り若干の雲が青空に漂う、よく晴れた翌日。

 

剣の乙女を筆頭に幼夢魔と神官戦士長が付き添いとして、灰の剣士を見送る為、神殿の入り口まで来ていた。

 

「灰の方、此度での出来事は辺境のギルドに通達しておきました」

 

 既に、ダークゴブリン生存の件を中心とした書簡をギルドへと配送していた。

 

そして今回の依頼にて、彼を『鋼鉄等級』に昇格させる事も含め、通達してある。

 

「何から何まで腐心して頂き、感謝致します大司教様!」

 

「……いえ、こちらこそ。少ない報酬の不足分ですので、お気になさらず」

 

「これが、今回の報酬だ」

 

 神官戦士長から、金貨の詰まった小袋を受け取る。

 

受け取った彼は、それを掌でポンポンと軽く持ち上げた。

 

金貨の重なり合う音が袋から漏れ、確かな重さを感じ取れる。

 

「……確かに、受け取った!」

 

 その小袋を懐にしまい、これにて法の神殿での依頼を全うした事になる。

 

「では私はこれにて――」

 

「ダークゴブリン討伐の時には是非とも御助力下さいませ、灰の方」

 

「おにいさま、また会えますよね!」

 

「貴君の活躍…期待している」

 

 それぞれが言葉を交わし、彼は神殿を去った。

 

灰の顔色が何処と無く優れなかったのが気になってはいたのだが、剣の乙女は敢えてそれを詮索しなかった。

 

――薪の王……いえ、灰の剣士様……。不思議なソウルの持ち主でしたわね……。若しやあの人が、太陽の騎士殿が仰っていた人なのかしら?

 

過去に太陽を信仰する騎士から言及された、木漏れ日の様なソウルの持ち主――。

 

そんなソウルの持ち主なら、自分を救ってくれるだろう。

 

あの時の言葉が思い出される。

 

――灰の剣士……様……。

 

もう一度その名を心で呟きながら、青空を見上げていた。

 

今日も良く晴れ、この神殿に多くの人々が訪れるであろう。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

辺境に戻る為、馬車屋に足を向ける途中でギルドが視界に入った。

 

「……折角だ、少し覗いてみるか」

 

 辺境のギルドに比べ、一回りも二回りも大きな建造物だ。

 

造りそのものも頑丈で、品の良さと高級感が漂っている。

 

灰は扉を開き、中へと入る。

 

「おお……、凄い賑わいだ……」

 

辺境に比べ豪華な造りの内装に、数多くの冒険者達がごった返していた。

 

彼は奥へと歩を進めながら、冒険者達に目をやる。

 

流れ者も居るであろうが此処に所属する冒険者達は、外観に気を配った装備品に身を包んでいる様に見える。

 

流石に彼を知るものは此処に居る筈も無く、視線を向けて来る事も無かった。

 

彼は依頼が張り出されている掲示板へと足を運ぶ。

 

「案の定……だな」

 

 大方予想はしていたが、此処でもゴブリン退治の依頼は余り気味で人気が無いのが見て取れた。

 

そこへ聞き覚えのある声が、奥から届いて来た。

 

『今日は本当に世話になりました、先輩!』

 

『先輩は止せ!俺は技術を教えたに過ぎん!』

 

 その声の方角を向けば、辺境ギルドに所属していた同期戦士の一党が目に入った。

 

――まさか彼等も、この都市に来ていたのか。

 

同期戦士達は、傍らに居る別の一党と会話に興じている様だ。

 

頭目らしき戦士と大柄な重装戦士、男斥候、女司祭で構成されている4人組の一党だ。

 

頭目の戦士から、銀等級の認識票が視界に入った。

 

同期戦士の一党は、彼等から共同で依頼を遂行していたのだろうか。

 

会話の内容からして、彼等から何らかの形で教導して貰っていたのかも知れない。

 

程無くして彼等は会話を切り上げその場を去り、残された同期戦士が灰を見付けた。

 

「おおっ?!誰かと思えば、アンタじゃねぇか!奇遇だな」

 

 彼にとって予想外だったのだろう、灰を見付け驚いた表情で話し掛けて来た。

 

 

 

……

 

 

 

西方辺境に向かう馬車の幌の中で、灰の剣士を含めた同期戦士達が互いの情報を交換し合っていた。

 

どうやら彼等も依頼を終え、これから帰還する積りだったらしく、こうして行動を共にしている訳である。

 

同期戦士、半森人の少女野伏は既に鋼鉄等級に昇格し、残りの面々も黒曜等級に昇格していた。

 

ある程度経験を積んだ事により、水の都まで遠征に乗り出していた。

 

そこで、銀等級戦士が率いる一党と出会い、紆余曲折を得て彼等と共闘しながら、幾つかの依頼を遂行していたのである。

 

その際、同期戦士は彼の目指す冒険者像を銀等級戦士に重ね、技術と知識を伝授して貰っていた。

 

冒険者としての心構えから、基礎的な知識の復習、剣術、道具の知識と効果的な使い方、集団の統率方法など、その知識と技術は多岐に渡った。

 

全てを一度に吸収する事は不可能であったが、彼は出来得る限り貪欲に学び、自分なりの方法で解釈し自身のモノとしていった。

 

その甲斐あったのか、今の彼は鋼鉄等級の中でも上位に食い込む程の総合力を備える迄に成長していた。

 

更に銀等級一党との共闘のお陰で高難度の依頼も経験し、資金面でもそれなりの余裕が出来ていた。

 

実に順風満帆とも言える彼等であったが、灰の語った或る言葉に空気が一変した。

 

「ダークゴブリンの生存が確定した」

 

 唖然とする面々に構わず、彼は言葉を続け事実を伝えた。

(幼夢魔の事は『遭難者』と置き換えた)

 

何れ時期が来れば、剣の乙女が討伐の為に部隊を編成するだろう。

 

「アンタの言った通りになったな。やっぱりアイツ生きてやがったのか……!」

 

 同期戦士の顔が歪む。

 

極短時間であったとは言え、彼自身もダークゴブリンと剣を交えた事があった。

 

殆ど一方的に痛め付けられ、苦汁を舐めさせられた過去が存在しているのだ。

 

「あの、『ダークゴブリン』ってどんな奴ですか?」

 

 銀髪武闘家が徐に訪ねて来る。

 

そう言えば彼女等は、鉱山での戦い以降に冒険者として登録した。

 

事情を知らないのも無理はない。

 

灰は、出来る限り分かり易くダークゴブリンについて、説明した。

 

しかし、彼女等には実際ダークゴブリンとは邂逅していない。

 

余り脅威とは認識していないのか、いまいち浸透していない様だった。

 

灰は念を押しておく。

 

若しかしたら、彼女等もダークゴブリン討伐部隊に組み込まれる可能性もあるという事を――。

 

後は剣の乙女の采配に委ねる他ないだろう。

 

恐らくは、ゴブリンスレイヤーも組み込まれる筈だ。

 

馬車は、そんな彼等の思惑など素知らぬ様に、悠然と辺境へと走る。

 

彼等の取り囲む状況も、刻一刻と変化を見せていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

火の玉

 

 呪術師の象徴となる炎の業

 火の玉を投げつける

 

 燃え盛る火の玉は着弾により爆発し

 その周辺にも炎ダメージを与える

 

 呪術師は、火の玉を知りはじめて理解するという

 すなわち、呪術とは炎への憧憬であると。

 

 火を恐れぬ者に恩恵得る事叶わず

 火を敬わぬ者はやがて火に滅すであろう。

 

 故に火への情景とは、火と共に生きる事そのものであろう。

 

 

 

 

 

 




 少々長くなってしまいましたが、剣の乙女関連はこれで終了です。

剣の乙女、巧く表現出来ていれば良いのですが……。

しかし、ゴブリン――。

本当に加工しやすい、エネミーです。
それこそ、枚強に暇がない程に……。

如何だったでしょうか?

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
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