暑くジメジメした日々が続き、私には厳しい季節です。
暑いのも寒いのも苦手で、やはり春が一番過ごし易いですね、私にとっては。
そんなこんなで、投降します。
今回もソラールさんのお話です。
太陽のタリスマン
神の奇跡をなす触媒。
太陽の騎士、アストラのソラールのそれは
自画によるホーリーシンボルが描かれた
彼の真剣な信仰の証そのものである。
戦技は「断固たる祈り」
左右どちらに装備していても有効な戦技。
奇跡使用中の強靭度を一時的に増し
敵に攻撃されても祈りが中断されない。
彼の信仰は決して揺らぐ事はない。
それは今は亡き、祖国の理念が今も彼を照らし続けているからだ。
たとえ廃れようとも彼は貫き続けるだろう、最後の一人になろうとも。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
嘗て太陽信仰の盛んな国『アストラ』が在った。
其処に住まう殆どの国民は常に希望を絶やさず、どの様な苦境にも屈しない芯を秘めていた。
それは貴族であろうと平民であろうと皆同じ――。
しかし火は陰りを見せ、国は衰退し没落してゆく。
闇が広がりを見せ亡者が蔓延り、世界中が死と深みが支配する。
名も無き一人の不死人が火を継ぎ世界は再び息を吹き返すも、時とは無情なものである。
一時期復興を遂げたアストラは、時を置かずして滅び去り歴史から姿を消す事になった。
太陽信仰と貴族の国『アストラ』――。
そんなアストラ出身の騎士が二人、いざ剣を交えん――。
「――ぬんっ!」
「――っはっ!」
太陽の戦士ソラール。
元アストラのアンリ。
両者の剣が激突し、火花が飛び交う。
互いの刀身が食い込み合い、圧し合う形となった。
「――そこっ!」
突如アンリが『紋章の盾』を前面に押し出し、突進する。
「――!!」
ソラールは体勢を低く構え『太陽の盾』を下段から押し上げ、アンリの盾を突き上げた。
瞬間アンリが仰け反り、隙が生まれる。
「――隙ありっ!」
間髪入れる事無くソラールは袈裟斬りを仕掛け、アンリは辛うじて剣で防ぐ。
「――くっ…!」
「――まだまだぁっ!」
しかし、ソラールは上段から下段へと両極端な揺さぶりを仕掛け、巧みな剣捌きでアンリを翻弄した。
致命打ではなかったものの、アンリは徐々に痛痒を負い
ソラールの剣捌きは、アストラ特有の堅実さをベースに『ロードラン』で培った、臨機応変の巧みさを兼ね備えたものだった。
「――ぐっ…!ぐぁっ!っぐぅっ…!」
上段かと思えば下段、右かと思えば左下方から――。
掴み所の無い緩急に富んだ変幻自在の連撃は、アンリの鎧を削り取った。
数歩後退り体幹を大きく乱したアンリに、大きく踏み込んだソラール。
「――貰い受けるっ!」
頭上高く振り上げた剣を真下に振り下ろし更に真横に薙ぎ払った、片腕ながらも渾身の『二連十文字強撃』――。
アンリは盾で受けるも、完全に力負け盾を弾き飛ばされてしまった。
「――っ?!」
防御の要である盾を飛ばされ、戦局はソラールに傾いた。
戦いを長引かせる気など毛頭ない。
ソラールは一気に決着を付けるべく、アンリに突撃する。
「――この位でっ!」
だが、アンリも負けじと剣を両手に持ち替え、彼と同様に突撃で迎え撃った。
そして行使した戦技『振り上げ』――。
「――くらえっ!」
狙うは、ソラールの
下段から振り上げた強力な一撃は、ソラールの盾目掛けて繰り出され、刀身と盾がぶつかり合う。
「――なんの!」
アンリの振り上げは彼の盾に命中したが、ソラールは耐え自身の防御を崩すには至らなかった。
―― しかし ――
「――一撃で終わると思うかい?!」
彼女の『振り上げ』は単発で終わる事なく、連続の斬り返しで振り上げ攻撃が繰り出される。
「――そらそらそらそらぁっ!!」
繰り返す事、5連続の戦技『連続振り上げ』がソラールの盾を打ち据え、流石の彼も耐え切れずに防御を弾かれてしまう。
「――もう一撃ぃっ!」
加えて彼女の渾身の振り上げが、太陽の盾を打ち上げ、払い飛ばした。
「ぬぅっ…!」
盾を飛ばされ、ソラール自身も防御が半減してしまい条件は同じとなる。
だが両者は勢いを止める事無く、互いに剣を激突させる。
二人とも剣を両手に持ち替え、激しい連続斬撃の応酬が繰り出され、その度に刃から激しい火花が撒き散らされた。
アンリの堅実な剣捌き――。
ソラールの巧みな剣術――。
両者の連撃は激しく刃をぶつけ合い、打ち合う事十数合――。
「――はっ!」
アンリの鋭い突きがソラールに襲い掛かる。
「――ぬっ!」
ソラールは彼女の突きを剣でパリィングし、彼女の剣は宙を舞った。
有利を確信し彼は攻勢に出ようとするも、僅かにアンリが早く動いた。
「――ぐぉ?!」
ゼロ距離に肉薄しソラールの首を掴んだ後、兜越しの
その頭突きを真面に食らい、彼はヨロヨロと後退った。
「くっ…!」
頭を振り体勢を立て直そうとした矢先、相棒である少女斥候の叫ぶ声が耳を打った。
「――気を付けて、真言魔法ライトニングが来る!」
「――?!」
一瞬気を取られ斥候の方へと向いたソラール。
「――隙だらけだね!…トニトルス《雷電》、…オリエンス《発生》、…ヤクタ《投射》!」
アンリはその一瞬の隙にも目を零さず、真言魔法の詠唱を終えた。
「――ライトニング!」
詠唱を終えたと同時に彼女の指先から放たれる、眩い電撃魔法。
ソラールは透かさず剣を地面に突き刺し手放す。
剣を避雷針代わりに電撃魔法を受け止めた。
だがこれだけで完全に防ぐ事は出来ず、更に太陽のタリスマンを握り締め奇跡を行使。
「魔力防護!」
周囲に魔力による障壁を発生させ、襲い来る残留電撃を完全に遮断した。
「……流石に実戦慣れしている様だね、太陽の戦士」
「……よもや真言魔法を会得しているとは思わなかった」
電気の抜け切った剣を再び握り締め、アンリと対峙するソラール。
四方世界の真言魔法は触媒を必要としない魔法が大半を占め、印を切り呪文を唱えるだけで発動させる事が可能だ。
そういう意味では、ソウルの魔術よりも優れていると言える。
ソラールは再度彼女に突撃し、透かさず剣を拾い上げたアンリも彼に備えた。
両者の間で、連撃の応酬が繰り返される。
再び剣が激突し、削られた金属片が摩擦熱で火の粉を散らす。
「剣での勝負では分が悪い。……使わせて貰うよ!」
一度バックステップで交代し、アンリは虚空に手を翳し意識を集中させた。
――力を貸しておくれ……、『ホレイス』……。
己の体内からソウルを返還させ、虚空から出現させた武器を握り締める。
「……
アンリが手にした武器に視線を移し、ソラールは一言呟いた。
――
槍の先端部、左右には非対称の斧と鎌が取り付けられた、非常に特殊な長柄武器である。
斬る、突く、払う、引っ掛ける等、多種多様な使い方が可能で強力な武器だ。
反面、使いこなすには相当の筋力と技量が要求され、使い手を選ぶ代物でもある。
過去、薪の王の一人『神喰らいのエルドリッチ』を討つ為、ロスリックを旅したアンリ。
ハルバードは、常に彼女に寄り添う一人の騎士『沈黙のホレイス』が愛用していた。
彼女が手にしているのは、その
――あの武器を手にした途端、ソウルの流れが変化した……?!
ハルバードを構えたアンリの変化に気付き、慎重に間合いを図るソラール。
「うぅおぉぉあぁぁっ!!」
アンリは雄叫びを上げ、全力疾走でソラールへと突撃した。
槍部分を前面に突き出し、相手を突き刺す為の突進だ。
ソラールは剣を両手に持ち替え、神経を集中させ待ち構える。
柄が長い分、間合いの広さはアンリが有利だ。
彼女は突如跳躍し、前方斜め上からの鋭い突きを仕掛ける。
ソラールはその突きを剣で払い、すぐさま構えに戻り次の攻撃に備えた。
予想通りアンリは間髪入れずに、間合いを生かした斧部分の薙ぎ払いを仕掛けるが、ソラールは屈んでこれを避けた。
しかし彼女の攻勢は止まず、スタミナの続く限り刺突、斬撃、払いを組み合わせた連携で彼を責め立てる。
大振りながらも遠心力を生かした連撃は、女性が振るったとは思えない程の破壊力を生み出す。
彼は剣で打ち払い、受け流し、ローリングで凌ぎながら反撃の糸口を模索していた。
「――そこぉっ!」
ソラールの顔面目掛けて、高速の突きが放たれる。
間一髪の所で彼はその突きを回避するが彼女は突きを瞬時に引き戻し、鎌部分で彼の首を刈り取ろうとした。
「――ぐぅ…!」
だが彼の腹部に、強烈な前蹴りが見舞われた。
「――ごぉふっ!」
思わず前のめりとなり、不安定な体制で反撃の機会を見逃してしまった。
その隙にアンリは、ハルバードを短めに持ち間合いを詰めた接近戦術に切り替えた。
武器のリーチは
勝負に出たのだろう。
アンリは、柄頭の石突き部分と槍部分を利用した連続攻撃を彼に見舞った。
しかし間合いを
次第にアンリの斧槍戦術に慣れが生じ、対応しつつも反撃を織り交ぜ始めた。
ハルバードの槍部分を剣の柄頭で受け流し、遠心力を生かした回転切りを見舞った。
「――なにっ?!」
しかしソラールの剣は彼女を捉える事は無く、ハルバードの鎌部分に絡め取られてしまった。
「こういう使い方も有るのさ!」
アンリは手首を返し、ソラールの直剣を引っ掛け刎ね飛ばしながら更に手首を器用に捻りつつ回転――。
返した手首に導かれ、石突き部分が彼の腹部に直撃した。
その攻撃は比較的軽いものではあったが、それはアンリの想定内。
「――そぅるぁああっ!!」
彼女は再び柄を長めに持ち替え、身体を一回転させた渾身の全力攻撃でソラールを打ち据えた。
「――ぐふぉおあぁっ……!!」
遠心力と彼女の膂力に加え、武器の重量と質量を存分に生かした斧部分の一撃は、ソラールの胸部に深刻な衝撃を加えるに至る。
その凄まじい衝撃に耐え切れず、彼は大きく吹き飛ばされ身体は地面を強打した。
不幸中の幸いだろうか。
彼の堅牢な鎧に阻まれ、斧が肉体に到達する事は無かったが、その衝撃は彼の身体を無情にも蝕んだ。
「げほぉっ!…ぐぅおほぉっ!」
激しく咳き込み、立ち上がる事すら困難な状況に陥っていた。
「――バ、バディっ…!!」
その様子は目の当たりにし、少女斥候は完全に狼狽えている。
ソラールと一党を組んで以来今日まで戦ってきたが、彼は常に負傷する事も無く全戦全勝であった。
故に、彼が追い詰められる状況に理解が追い付かず、今起きている現実が信じられなかった。
「ぁあぁ……どうしよう……、彼が…彼が死んじゃう……」
今の自分とは完全な別次元の戦いに、彼女はどうしていいか分からず、ただ全身を振るわせるのみだ。
そんな彼女に対し、飛んで来る叱咤。
「しっかりしてよ、お姉さん!このままじゃあのバケツさんホントに酷い目に逢わされちゃよっ!」
横から斥候を睨みつつも叫ぶ、黒髪の少女。
瞬間、少女斥候の感情が瞬時に高ぶる。
―― 一体誰の所為で、大切な人が傷付いたと思ってる ――
この時だけは、アンリではなく黒髪の少女に対し憎悪を湧き起こらせた。
一瞬だが、黒髪の少女を蹴飛ばそうと本気で考えていた斥候だったが、彼女の提案で踏み止まらせた。
「お姉さん冒険者なんでしょ?!一瞬でいいからアンリさんの注意を引いてよっ!武器を投げるとか石ころ拾って投げるとか、何でも良いからさ!後はボクが何とかするっ!」
それは提案とも呼べない余り単純で稚拙な案だった。
”こんな子供の癖に”そんな感情が先走るが、悠長に構えている時間はない。
こうしている間にも、アンリはソラールに迫っているのだ。
「……今回だけだからねっ!」
渋々その案に承諾した。
「勝負あったようだね、太陽の戦士」
悠然と歩み寄るアンリであったが其処に油断も慢心も見せず、下手に攻撃した処で簡単に対処されてしまうだろう。
ハルバードを上段に振り上げ、ソラールの頭部に狙いを定めるアンリ。
「……貴公は、何故に迷っている」
「なに……?」
不意に掛けられた言葉に思わず反応し、彼女は身体を硬直させる。
「貴公のソウルが乱れている。……何かに耐え、何かを待ち望んでいる……、そんな不安と渇望が貴公の迷いを生んでいる様に、俺は思う」
「……戯言を!貴方は僕をどれだけ知っているって言うんだい?!」
ソラールの言葉に彼女は反応を示し、声音を僅かに荒げた。
「……何も知らぬさ、貴公の事などはな。……分かるのは、貴公自身がこの戦いすらも望んではいないという事だけだ」
「――!!っ貴様ぁぁ!!」
ソラールに対し返す言葉も見付からず、アンリは力任せにハルバードを振り下ろした。
――その時である!
彼女目掛けて、金属物が飛来した。
「――?!」
飛来した物は少女斥候の短剣で、アンリはそれをを手甲で弾くが、続け様に火炎壺も投げ込まれる。
「――そんな物が僕に通用するとでも?」
砕けた火炎壺から可燃物が飛び散り引火するが、アンリの鎧は強固な『上級騎士の鎧』であり、生半可な火では火傷を負わせる事は困難だ。
アンリにとっては稚拙な横槍に過ぎず、殺意の籠った視線を斥候に向け、彼女はその視線に委縮してしまう。
そしてほんの僅かだが、アンリの注意はソラールから逸れた。
「――うぅぉおぉぉっ!!」
逆後方から、本来のターゲットである黒髪の少女が剣を構えて突進して来た。
「……何のつもりだい、君?」
アンリは落ち着いて、少女に向き直りハルバードを構える。
無論少女は剣術の心得などは皆無。
型も力の流れも理解せず、感情の赴くがままに振るわれる『アンリの直剣』――。
嘗ての愛用品を受け流そうと斧部分で防ぐが、不意に全身が浮き上がる。
「――っ?!またかっ!!」
アンリの身体は宙に浮き、十数メートル吹き飛ばされた。
「――ぐふぉあぁっ……?!!」
吹き飛んだアンリは、大木の幹に激突しその衝撃は肺から酸素を無理やりに押し出した。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、や…やった?」
少女は大きく呼吸を荒げ、へたり込む。
――何という威力だ!今のは彼女自身の力なのか、それとも
眼前の結果に驚愕し、ソラールは少女と手にしている剣に視線を向けた。
普通に考えれば、何の心得も無い少女が技術だけで、あれ程の威力を発揮させるのは不可能に等しい。
ともすれば、あの剣が関係している。
そう考えるのが、ごく自然の流れだろう。
「何にせよ結果的に助かった事に相違ないがな……」
ソラールは起き上がり、アンリの方へと歩み寄る。
…
……
………
「……ふ……、まさかこんな結末になるとはね…僕とした事が……」
「武装解除し投降せよ、アンリ殿。勝負は付いた」
ソラールは跪くアンリに降伏勧告を出す。
「聞かせて貰うぞ。この少女との関係、ロンドールなる組織、そして貴公等アストラ騎士達との繋がりをな!」
「……」
――やはり素直に吐く気はないか。
不死とは言えアンリも騎士の端くれ――。
教えろと言って敵にベラベラ喋る彼女ではない。
「逃げようとしても無駄だ!『帰還の骨片』を使用する兆しはソウルで感知出来るのでな!」
もしアンリが転移で逃げようとしてもソウルの流れで即座に察知できる。
仮に少しでもその様な素振りを見せれば、瞬時に両腕を切り落とし抵抗力を削ぐだけだ。
相手が生者なら話は別だが、彼女も歴とした不死人。
たとえ女と言えども敵対する者に、余計な情けなど無用。
下手に情を掛ければ、足元を掬われかねない。
彼は一切の油断も見せず、剣をアンリへと向ける。
「駆け引きは終いだ、話して貰うぞ『アストラのアンリ』殿?」
「……僕は『ロンドールのアンリ』さ」
ソラールに軽口で返すアンリ。
その瞬間――!
「――御両人、避けろぉっ!!」
突如として自分の傍らに居た斥候と少女を突き飛ばし、自身は盾を前面に構えた。
それと同時に、盾に小気味良い金属音が”カンッカンッ”と鳴り響く。
――ちっ!伏兵かっ!
注意深く周囲を警戒するも、その隙を見計らいアンリは体勢を立て直し、ソラールから一定の距離を取った。
「何者かっ?!姿を見せよ!」
投げナイフの飛来した方角に向かって、ソラールは叫んだ。
……
『……彼女の言う通り、
虚空が歪み鈍い光と共に姿を現したのは、黒に近い藍色のドレスを纏い兜で素顔を覆った女性らしき騎士だった。
「……ぐぬぅっ……」
「――ユリア様……どうして此処に?」
予想外の人物が登場した事に、アンリは驚きを隠せない様だ。
ドレスの騎士、ユリアは語った。
「予定変更だ。今より標的をこの騎士へと切り替える」
「――!!この少女はどうするのです?!」
「捨て置け。幾ら特殊なソウルを有しているとはいえ、余りにいと小さき事に変わりはない。それよりも眼前の騎士のソウルは、遥かに巨大で太陽そのものと言うに相応しい。我等が悲願成就は、此方のソウルの方が都合が良い。しかし現状では、こ奴の情報が乏し過ぎる。一旦引き上げ、再度情報収集に徹するのだ。この村の件はヨエル殿が引き継いでくれる」
「……仰せのままに」
深々と頭を垂れ、アンリはユリアの指示に恭順の姿勢を見せた。
「――駄目だよ、アンリさん!そんな悪いオバさんの言う事を聞いちゃ駄目っ!」
黒髪の少女が反応し、アンリに詰め掛けようとする。
「御挨拶だな、小さき者よ!」
「――危ないっ!」
アンリを引き留めようと詰め掛けた少女に、ソラールが割って入る。
同時に彼の盾に強烈な衝撃が奔った。
「ほぅ…、初見でよくぞ反応したな!」
ユリアが少女に放った鋭い斬撃――。
彼女の手には、漆黒の刀『闇朧』が握られていた。
――今の太刀筋…!見えなかったっ……!
ソラールの全身から冷や汗が噴き出し、今の一撃に戦慄を覚える。
「貴公…、その様子から察するにアンリ殿の上官らしいな。どうやら事情にも詳しいと見た……話して貰おうか、貴公等『ロンドール』とやらとアストラの関係を」
「フフフ…、知りたくば我等に帰順せよ。さすれば、そのソウルと引き換えに教えてやろうぞ。尤も亡者となれば聞く理性を保っていられるかどうかも怪しいがね」
「……貴様っ!」
皮肉を込めた挑発に、ソラールは静かな怒りを滲ませる。
「バディ、行っちゃ駄目だよっ!」
「――無論だ!」
当然彼はロンドールに帰順する気など毛頭無い。
幾ら嘗ての同胞達が所属していようと、深みと闇を信奉する組織に所属しようものなら、どうなるか結果など火を見るより明らかだ。
「少々お喋りが過ぎたな、帰還するぞアンリ!」
「はい、ユリア様」
二人は背を向け、黒髪の少女がアンリに叫んだ。
「アンリさんは間違ってるよ!何でそんなに我慢して悪者に味方するの?!」
「……そんなに僕が気になる一緒に来るかい?面倒なら見てあげるよ」
「……いやだよ!アンリさんこそ、こっちに残るべきなんだ!」
「……じゃあ君とは、もう二度と会う事はあるまい。お別れだ」
「――アンリさんっ!!」
少女の言葉も、アンリには虚しく響くばかり……。
ユリアとアンリは瞬時に姿を消し、その場から居なくなった。
月明かりに照らされた村には静寂が戻り、先程の戦いが無かったかのように平穏が戻る。
――取り敢えずの脅威は去ったか。あのユリアなる女の言葉は信用ならんが、この村に襲撃する事はもう無いだろう。『ヨエル』が引き継ぐという言葉は、若干引っ掛かるがな。
先程のユリアの言葉を思い出し、標的が黒髪の少女からソラール自身に移った事を幸いと見なし、幾許か安堵するのだった。
「さぁ、戻ろうか!院長殿も心配しておられる!」
ソラールは彼女等を引率し、寺院へと戻る事にした。
…
……
………
あれは一週間ほど前だろうか?
その夜から決まって
彼女は皆が寝静まった時間帯を見計らい、夜な夜な寺院にまで足を運んで来てくれていた。
少女はそっと寺院を抜け出し、彼女と密会していたのだ。
いけない事だと分かってはいた。
しかし好奇心が勝ってしまい、彼女はこれも交易神の教えと自分に言い訳し、彼女と会っていた。
交易神は、出会いと交流を尊ぶ神。
当然少女は、敬虔な信仰心など持ち合わせてはおらず、都合の良い解釈で交易神の教えを利用した訳だ。
控えめながらも二人は談笑し合い、彼女は自身が辿って来た旅路を話してくれた。
彼女もありのままを直接語るのではなく、幾つか子供向けに脚色しながら話してくれていた。
唯一無二の友とロスリックを旅した事。
道中、志を同じくする一人の旅人と出会った事。
時に協力し合い、強大な困難に立ち向かった事。
旅先で友と生き別れ絶望するも、一人立ち向かう旅人に奮起し活力を取り戻した事。
最後には旅人と共闘し、見事使命を果たした事。
彼女の話を真剣に聞き入る少女。
それは少し切なくも、困難に打ち勝った一人の騎士と旅人のお話――。
だが、この物語りには残酷な結末が待っていた。
彼女は誘う――。
『僕と一緒に来るかい?……そうすれば、このお話の続きが分かるよ』
少女は迷った。
この人と一緒に居れば、きっと楽しいだろうな。
生まれついての孤児である少女には親兄弟は居ない。
寺院の子供達や院長先生が、実質親兄弟と呼べるだろう。
しかし眼前の彼女から来る不思議な感じは何だろう?
子供に物語りを言い聞かせる彼女に、何処と無く
少女は誘惑に駆られた。
―― この人がお姉さんなら ――
そこで少女は精一杯の提案をする。
「ボクね、冒険者になろうと思うんだ!だから、ボクが大きくなるまでアンリさんがこの村に住めば良いんだ。そして一緒に冒険しようよ!」
少女の言葉に彼女は少し戸惑った様な、困ったような仕草を見せる。
『……また来るよ』
彼女『アンリ』はそう言って、立ち去った。
それからだ、彼女の態度が徐々に変わり少女を引き込もうと執拗に迫るようになったのは――。
…
……
………
「成程、幾度か交流を重ねていた訳だな」
「……うん」
寺院への帰路に着く道中、少女はアンリとの関係について語ってくれた。
「上手く言えないんだけど……、ボクね何となく分かっちゃんだ。人の想いって言うのかな……」
視覚や聴覚と言った五感ではなく、漠然としたあやふやな感覚ではあったが、彼女は相手の感情を断片的に感じ取る事が出来ていた。
「……うわぁ、すごいねそれ!」
少女の言葉に、斥候は感嘆の声を上げる。
――驚いたな。こんな幼い時期から、断片的にとは言えソウルを感知出来るとは……。
ソラールは無言で耳を傾けていたが、少女がソウルの感知を無意識に行使出来る事に驚く。
「うんっ!ボク決めた!ボクは立派な冒険者になって、困っている人達を助けるんだ!」
少女は小走りでソラール達の前に陣取り、勢い良く振り向いた。
その眼には強い決意が込められている様に見える。
「そして何時の日か……、何時の日か……」
――アンリさんの心を救い出してみせる!
彼女は天を見上げ、アンリの直剣を翳した。
「そうか!ならば尚の事、院長殿の言う事を聞き、勉学に励まねばな!立派な冒険者になるには、学問も必要になるぞ!ウワハハハっ!」
「うっ……、頑張ります……」
まだ幼い少女では、ソラールの正論を返す事は出来なかった。
三人の笑い声が、静かな夜により一層響き渡った。
その様子を幻想の神が、盤外から微笑ましく見ているのだった。
……
翌朝。
寺院で一夜を過ごした、ソラールと赤毛の少女斥候は院長を始めとした子供達に見送られていた。
「昨晩はお騒がせして申し訳なかった」
「いえいえ、とんでもない!この子を守って頂き本当に有難う御座います」
入り口では、村人が荷馬車の世話を済ませ待機させてくれていた。
昨晩、ロンドールの騎士達が襲撃して来たが、ソラールの活躍で事無きを得る事が出来た。
更に結果として、ロンドール一派の標的がソラールへと移行した事で、村の脅威は取り敢えず去ったと言えよう。
まだ完全に、楽観視できる状況ではないが……。
「ありがとね、バケツさん!旅人さんのお話とっても面白かったよ!」
黒髪の少女も彼等に礼を言う。
夜が明けた彼等は寺院の行為で朝食を振舞われ、幾許かの時間が出来た。
暇潰しにとソラールは少女に、自身の旅物語りを聞かせる。
それは嘗て太陽を目指し、ロードランに訪れた時の物語りだった。
旅の途中、名も無き一人の
そして彼と協力し合い、遂には旅を全うしたのである。
彼は今も思い出す。
あの男はどうなったのだろう。
霊体として彼の次元へと侵入し、共闘しながら多大王グウィンを討ち果たした後、火を継ぐ迄は見届けた。
それは自分も同じ。
しかし、その後はどうなったのだろうか。
彼自身、目が覚めた時にはこの四方世界へと転移した訳だが、彼の世界線も全く同じとは限らない。
叶うなら、希望に満ちた時代へと繋がっている事を切に願うばかりだが、こればかりは確かめようもない。
最早あの男は記憶の中の存在なのだ。
「バディ、そろそろ出発するよ」
そんな感傷に浸っていた彼に、斥候が出発を促す。
「うむ、そうだな。――では諸君、我々はこれにて失礼する」
「バケツさぁん!お日様は誰にも平等なんだよ!『お日様万歳!』」
黒髪の少女は、独特の仕草で『お日様賛美』にて彼等を見送った。
「うむ。貴公のお日様はきっと希望にと光に満ち溢れた太陽なのであろうな。ならば俺も負けてられん、『太陽万歳!』」
少女に呼応し、ソラールも『太陽賛美』で応える。
「貴公等に、太陽の導きがあらん事を!!」
真にそう願い子供達に見送られながら、彼等は村を出発した。
……
ガタゴトガタゴト、碌に整備されてもない凹凸だらけの街道に揺らされながら、荷馬車が走る。
目指すは西方辺境の街だ。
其処に居ると言う、凄腕の鍛冶師――。
楔石の特性を見抜き、武器強化をも成し遂げる人物――。
何者だろうか?
手綱を握り御者を務める一人の騎士、『アストラのソラール』はその鍛冶師について思案を巡らせていた。
昨晩、遭遇したアストラ出身の同胞達。
そして、ロンドールなる組織。
彼等は間違いなく、自分側の世界の住人だ。
余りに唐突ではあったが、自分以外にも存在した
ともすれば、件の鍛冶師も此方側の住人である可能性も否定し切れない。
――まぁいい、会えば分かる事だ。
一先ず辺境の事は頭の片隅に置き、昨晩の出来事に想いを馳せる。
自分が使命を果たした後も続いた彼の時代――。
しかし、息吹を取り戻した世界にも拘らず、祖国『アストラ』は滅び去ってしまった。
滅び亡国となった故国アストラ――。
だが、生き残ったアストラの騎士達――。
昨晩遭遇した彼等は僅か数名だったが恐らくは、大勢ロンドールと協力関係にあるだろう。
「……もしやアストラが滅んだのは火が陰った所為ではなく、あの『ロンドール』の仕業ではあるまいな……!」
ソラールは思わず声に出していたが、馬車の揺れる音に掻き消され、荷台の少女斥候には聞こえてはいなかった。
――まだまだ情報と判断材料が少な過ぎる。奴等は、俺を標的としているなら再び遭う事もあろう。それに、ロスリックの件も気なる……。
目指す辺境の街よりも更に北西に位置する巨大遺跡、故郷の流れ着く地『ロスリック』――。
水の都の資料館に保管されていた資料を調べ、幾つかの情報は収集している。
故にロスリックは、火が陰った時代の残滓である事は既に把握していた。
ソラール自身『最初の火』を継ぎ世界を延命させた後、即座のこの四方世界へと転移した。
故に、彼は『ロードラン』以降の時代を知らない。
その後何度も火は陰り、その度に数多の英雄達が火を継ぎ世界を繋いできた事実に――。
――今日も太陽が天高く、輝いてやがるぜ!
まだ日が昇り間もない時間帯だが、今日も晴れやかな天候には違いないだろう。
そんな太陽を視界に納め、ふとあの村に住む少女の事を思い出す。
――そう言えば、あの子も『太陽賛美』を覚えていたな……。多少違っていたが、確か一人の剣士に教わったとか言っていたか……。既にその剣士から『太陽のメダル』も託されていた様だしな。
村に居た黒髪の少女が話していた、一人の剣士――。
聞けば、彼女の太陽賛美は彼に教わったのだと言う。
――その剣士が何者かは知らぬが、太陽賛美を知っている事実に変わりはない。
少女の話によれば、その剣士は辺境の街からやって来たらしい。
――上手く行けば例の剣士とやらに合えるかも知れんな。
彼等の立ち回り方次第だが順調に事が運べば、剣士に話を聞く事も不可能ではないだろう。
「……この世界、中々に面白いではないか。これも太陽のお導きかも知れん……!」
兜の奥で口端を吊り上げ、意気揚々と手綱を振るいながら斥候に一声掛けた。
「少しペースを上げようとするか。日が昇り切ってしまえば、日射量と気温で馬が参ってしまうかも知れん。出来れば午前中に街へと辿り着きたいのでな!」
「オッケ~イっ!」
斥候も快諾し、振り落とされないよう荷台の端に捕まった。
「よぅ~しっ!ではトばすぞっ、ハァッ!」
ソラールの合図と共に、馬がけ
村人の世話が丁寧だったのだろう。
その村人はまるで自分の馬であるか゚の様に、良質の干し草と飼糧を与え、水で丹念に馬を洗浄し、世話をしてくれていたのだった。
いつも以上に馬の状態は良好で、不整地気味な街道にも問題なく脚を速めた。
太陽の戦士ソラール一行――。
彼等の目指す先は、西方辺境の街だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
太陽の直剣
太陽の騎士、アストラのソラールの直剣。
変哲のないロングソードの1つであるが
質が良い上によく鍛えられ、手入れもされている。
使いやすく頼れる武器ではあるが
その名前は多少大げさかもしれない。
しかし偏執にも似た彼の信仰は、遂にその剣に力を宿す。
刀身は雷の力を帯び、宿した力は太陽のそれである。
戦技は「太陽の誓い」
太陽の誓いと共に剣を掲げ
周囲も含め、攻撃力とカット率を高める。
太陽の戦士は、古来協力者であったという。
太陽の盾
太陽のホーリーシンボルが大きく描かれた大きな円型の金属盾。
古い太陽の騎士が愛用したものであり
そのシンボルは彼の自画であったというが
特に聖なる力があるわけではない。
異なる世界で火を継ぎ、世界を救った彼の勇者――。
彼が描いたホーリーシンボルには、今も祖国の誇りが込められている。
戦技は「パリィ」
左右どちらに装備していても有効な戦技。
タイミングを合わせて攻撃を受け流し
追撃で、致命の一撃を叩きこむ。
アストラとは、どんな国なのでしょうね?
ダークソウルは火が陰り亡者が蔓延している世界ですが、繁栄期の世界も見てみたいものです。
ロンドールの国も密かに気になります。
国民は、どんな生活を送っているのやら。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/