ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 どーもです。

お待たせしました、投降します。
何やかんや書いていたら、お話が長くなってしまい文字数が3万越えをしてしまった。
小分けにしても良かったのですが、イヤーワン編みたいに、話数が無駄に増えてしまう事を懸念し、敢えて一話分に纏めた為に時間が掛かってしまいました。

楽しみにしていた方々、本当に申し訳ありませんでした。m(_ _;)m



第57話―ロスリックのゴブリンハザード―

 

 

 

 

 

 

改良型松明

 

 従来の松明に比べ、持続性、燃焼効率、光量範囲を拡大させた高級品。

木材の先端部には、木炭や石炭の粉末を混合させ、良質の松油を塗り込んである。

高級品であるが故、値は張るがそれに見合った効果を齎すだろう。

 

火の後始末は念入りに。

火事の元となりますよ!

 

値段は、金貨 一本につき1枚。

 

 

 

破裂(ガンビット)(真言魔法)

 

 ルーメン(光)、オッフェーロ(付与)、インフラマラエ(点火)

 

 対象物(小石など)に魔力を込め、衝撃を与える事で爆発させる効果を待つ。

 効果時間は10分で、即席の爆弾や起爆剤としての用途がある。

 

 魔術とは決して、ひけらかすものではない。

 知識を磨き、知性を使い、研鑽と実践を重ね、その本質を解き明かす事が

 彼等の本懐である。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 二つの月明かりが地上を照らす。

 

夜の帳が訪れ、闇がこの世界を支配する時間帯。

 

人は闇を恐れるが、この闇を昼間と見なす種族が混沌勢に存在する。

 

数人の人族が息を切らせながらも、大型の松明を灯し闇を照らす光とする。

 

個人が携帯する()()とは違い、設置型で光量も持続性も比べものにはならない。

 

東西南北に計12本の巨大松明が灯され、視界確保へと動き防備を固める。

 

『急げぇっ!奴等が来るぞぉっ!!』

 

『門を閉め、守備を固めろっ!』

 

『大量の矢が要るぞ!早くしろぉっ!』

 

『東門だけワザと薄目にし、奴等を誘い込め!其処に火力を集中させるのだっ!!』

 

 あちらこちら方々から怒号と叫び声が聞こえ、多くの人々が右往左往していた。

 

『非戦闘員は、神殿に避難させよっ!』

 

 一人の騎士が避難民の誘導を急がせ、部下達を叱咤していた。

 

兵士達は所忙しく動き回り、その様は(まさ)しく戦場のそれと何ら変わらない。

 

次々と配置に就く兵士の中には、冒険者も大勢混ざっていた。

 

いや、人数は冒険者の方が圧倒的割合を占めている。

 

『弓が得意な者は、高台や高所に陣取り射撃に備えよっ!』

 

 弓を生業とする冒険者や兵士は、見張り台や城壁に取り付き射撃準備に移る。

 

ワザと防備を手薄にした東門には、屈強な兵士や戦士職の冒険者を陣取らせ、大盾による壁と長槍による槍衾を形成し迎撃態勢を整える。

 

『全て配置が完了致しました!』

 

『よし、いよいよ来るぞっ!物見、奴等の動きはどうかっ?!』

 

 迎撃準備が整い、指揮官の騎士は物見兵士に状況を訊ねる。

 

『……や、()()に動き有り!来ますっ!ゴブリンが来ますっ!…数…100以上!繰り返す、100以上っ!!』

 

『……ちっ、()()もかっ!!』

 

 物見兵から通達された情報に、舌打ちをする騎士。

 

『くそっ!今日もだぜ!』

 

『毎夜、毎夜、毎夜、ゴブリンの襲撃……好い加減にして欲しいぜ!』

 

『俺達は冒険に来たんだ!ゴブリン退治しに来たんじゃねぇぞ!』

 

『これじゃ、ロスリックへ侵入どころじゃねぇな!何しに来たんだ、俺たちゃあよぉっ!』

 

 配備に就いた冒険者側から、零れる愚痴と不平不満――。

 

そう――。

 

此処は、『故郷の流れ着く地ロスリック』の近隣に位置する拠点であった。

 

現時点では、この王国最大と言われる巨大遺跡ロスリック――。

 

様々な思惑を胸に、この遺跡へと挑む冒険者の為に作られた拠点だ。

 

約一年ほど前、王都から派遣された調査隊の情報を基に、この拠点が構築された。

 

当初はベースキャンプ程度であったが、今では()と言っても差し支えない程に規模が膨れ上がっている。

 

冒険者の為の簡易ギルドを始め、宿泊施設や食堂酒場に道具屋も各種備え、神殿や一般人向けの施設まで存在している。

 

冒険者だけでなく、商人や技術者を含め歴史家や学士と云った知識層も数多く訪れている。

 

その規模は、西方辺境の街をも凌ぐほどに成長していた。

 

しかし、或る日を境にロスリックに挑んでいた冒険者が、挙って一斉に帰還して来た。

 

ただでさえ生存率の低いロスリックではあった為、拠点街の住民は彼等の生還を喜んでいたが、それは楽観視できる状況ではなかった。

 

ここ最近になってゴブリンの大群が、連日連夜この拠点に襲撃を掛けていた。

 

それもロスリックの中から、この外部へと湧いて出て来たのである。

 

彼等はロスリック内でゴブリンの襲撃を受けた。

 

故に急いで拠点へと引き返して来たのである。

 

その日を境にゴブリンの襲撃は激しさを増し、ほぼ毎夜休む事なく迎撃戦が続いていた。

 

最早ロスリックへ侵入処ではなくなり、冒険者達は毎夜迎撃戦に駆り出され次第に士気が落ち始めている。

 

襲撃初日から既に四日が経ち、兵士や住民にも苛立ちや疲弊が目立つようになっていた。

 

今の所、犯罪に繋がる様な事案は発生してはいないが、何らかの手を打つ必要がある。

 

『ゴブリン!東門に集中、間も無く射程距離に入ります!』

 

 物見兵が東門にゴブリンが押し寄せて来た事を告げる。

 

『誘いに乗ってくれたな。弓隊、射撃始めぇっ!!』

 

 配置に就いていた弓使い達が一斉に矢を放ち、ゴブリン達に殺到する。

 

『続いて、重装隊はゴブリンの侵入を阻めぇっ!』

 

 東門に陣取っていた大柄な兵と冒険者は大盾と長槍を構え、矢を掻い潜ったゴブリンの大群と激突した。

 

今宵も拠点街とゴブリンの激戦が繰り広げられる。

 

――何時までも、このまま手を(こまね)いている訳にはいかん。

 

拠点街の冒険者や兵達の士気が低下しているのは、騎士も把握している。

 

このまま行けば、何れ拠点の陥落もあり得る話だ。

 

何故ゴブリンがロスリック内で大量発生したのか?

 

しかもこのゴブリン達は、亡者化していない普段目にする生者のゴブリンだ。

 

一体ロスリックで何が起こって現在に至るのか?

 

それ等を調査する必要があるだろう。

 

しかし、現行の戦力では連日発生するゴブリンの対処だけで、精一杯だ。

 

とても、調査に割ける部隊も冒険者一党も居ない。

 

中途半端な一党を送り込んだ所で、全滅は明白だ。

 

それは過去に、自らが調査隊を率いていた経緯があり、その恐ろしさは身を以て体感している。

 

本来なら全滅を覚悟していた矢先、十数名から成る冒険者の集団に救われた。

 

特に、深緑の外套(フードマント)を纏った一人の剣士は他を圧倒する戦闘力を有し、最小限の犠牲で生還を果たす事が出来た。

 

しかもあの集団は当時、全員が白磁の新人であった。

 

「度重なるゴブリンの襲撃で、物流も停滞したままだ。実行に移すなら早い方が良いな」

 

 拠点街には今の所、まだ物資の備蓄量にも余裕はあるが、何れは底を突くのは目に見えていた。

 

王都に救援を要請するにせよ、思い受かぶ()()に助けを求めるにせよ、緩慢は此方を不利に追い詰めるだけだ。

 

――善は急げだな。

 

後は実行に移すだけだ。

 

どう結果が転ぶかは分からないが、このままでは事態が好転する事は先ず無い。

 

だが今は、目の前のゴブリンを撃退するのが先決。

 

既に半数のゴブリンが倒されていたが、どういう訳か敵の士気は些かも衰えていない。

 

ここいらで血気盛んな冒険者達を前に出し、攻勢に移るのが上策と判断した騎士は、号令を掛ける。

 

『攻撃部隊前へ!我等も打って出るぞっ!!』

 

 嘗ての調査部隊の隊長、『正規騎士』は自ら最前線へと赴き突撃を実行――。

 

それに触発されたのか残りの兵や冒険者達も後に続き、この戦いも拠点街の勝利で終わった。

 

……

 

戦場跡に佇む一人の少女――。

 

まだ幼い10歳前後の彼女は、ゴブリンの一部を拾い上げ独自に調べる。

 

小柄な体躯に不釣り合いなローブを身に纏い、手には樫の杖を携えていた。

 

護衛の大人達が彼女の身を案じ引き留めようとするが、少女は唐突に口を開く。

 

「……これは、小鬼(クリエイトゴブリン)の真言魔法……」

 

 少女は、これまでの小鬼は全て、魔法で生成された個体である事を看破した。

 

その言葉を聞いた冒険者や兵士達は驚くが、逆に”何故今まで気付かなかったのか?”と返す。

 

襲撃が夜間に限定されていた事。

 

そして相手が小鬼である事。

 

小鬼は混沌側でも、最底辺の取るに足りない存在。

 

そんな先入観が、彼等の怠慢に繋がっていたのだろう。

 

加えて、拠点街の直ぐ近くにはロスリックという得体の知れない巨大遺跡が、存在している。

 

正直、小鬼如きに意識など向けていられない事も、拍車を掛けていた。

 

この少女――。

 

王都に在る学院の生徒で、飛び級する程の聡明な頭脳を有していた。

 

ただ学院内に籠もり書物を読み漁るだけでは何の進歩も無いと判断した彼女は、学院長に直訴しこのロスリックまで赴いて来たのである。

 

彼女はそれ程までに期待され、またそれだけの特権を認められていた。

 

無論、期間限定という条件付きではあるが――。

 

 

……

 

………

 

それから翌朝――。

 

拠点街に、数台の荷馬車が立ち並んでいる。

 

「では留守は任せた、頼むぞ!」

 

「はっ!隊長もお気を付けて!」

 

 衛兵達に見送られ、正規騎士と数人の部下を乗せた荷馬車が出発した。

 

目指すは西方辺境の街――。

 

「あの日から約一年…上手く事が運ぶかは分からんが、頼れるのは()()しか居るまい!」

 

 正規騎士は、嘗ての冒険者集団に想いを馳せていた。

 

白磁でありながら、ロスリックから生還した冒険者達――。

 

拠点街では、彼等はちょっとした噂となっている。

 

そして彼等はこう呼ばれていた。

 

 

 

      ―― ロスリックの生き残り ――と。

 

 

 

数台の荷馬車は一路、西方辺境に向け走り行く。

 

 

 

走り行く馬車を、3階建ての宿の一室から見つめていた少女が一人――。

 

長い髪を後ろで括り、幼い年齢ながらも身体は丸みを帯び始めていた。

 

彼女は不満気な顔で、小さくなる馬車をジィっと見つめ溜息を吐く。

 

折角実技訓練も兼ね王都からやって来たというのに、碌に剣を振るう機会を与えられず彼女は苦々し気な表情だ。

 

剣の教導官と同門の兄弟子達と共に拠点街に辿り着き、その同日に小鬼の襲撃に見舞われる。

 

早速、実戦が経験できる――。

 

そんな期待を抱き勇ましく剣を抜いたはいいが、結局は冒険者や兵士達が門付近で全て討伐してしまう。

 

彼女は前線に出ようとするが、まだ年端も行かぬ彼女を行かせる訳にはいかず、大人達に制止された。

 

「……これじゃ、何しに此処まで来たのだ……」

 

 溜息を吐いた彼女は、寝台へと寝っ転がりそのまま眠りに就く。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「おっ…お前等っ……!」

 

 一人の若い戦士は、只々立ち尽くす。

 

西方辺境の街に位置する冒険者ギルドにて――。

 

「なんじゃ?白昼夢ってやつか?」

 

「まさか我々を見忘れた訳でもありますまい」

 

 二人の男は、呆然とする同期戦士に語り掛ける。

 

「戻って来たんだぁ、二人とも!」

 

 同期戦士の隣に居た、半森人の少女野伏は明るい笑顔で二人を迎え入れる。

 

「おう、久しぶりだな!」

 

「お元気そうで何よりです」

 

 その二人は、嘗て同期戦士達と一党を組んでいた仲間である。

 

白磁等級の頃、岩喰い虫(ロックイーター)の奇襲に遭い、一人は脚を食い千切られ、もう一人は彼を故郷へ送り届ける為にやむなく一党を解く事となった。

 

鉱人の斧戦士に、禿頭の僧侶――。

 

嘗て、同期戦士と一党を組んでいた過去がある。

 

「だ、だけどよ……、お前…脚はどうなったんだ?どっからどう見ても、元通りに見えるんだが……」

 

 鉱人斧戦士の脚はロックイーターに食い千切られ、どう考えても欠損している筈だ。

 

しかし見る限りでは、綺麗に元通りとなっている。

 

まるで欠損した過去など無かったかのように――。

 

「再生の方法でも在ったのか?容易に実現出来るとは思えんが?」

 

 たまたま近くに居た灰の剣士も会話に加わった。

 

「おう、その事も含めて話してやるぜ!あの後、儂らがどうなったのか」

 

 鉱人斧戦士が故郷での出来事を語り始めた。

 

片脚となった鉱人斧戦士は禿頭僧侶の力を借り、故郷の集落に辿り着いた。

 

鉱人の大半は地下に住処を作り、其処で営みを送る。

 

鉱人斧戦士の故郷も例に漏れず、鉱山の麓に集落が存在していた。

 

金属精錬を生業とする鉱人――。

 

彼の故郷は鉄鉱石が豊富で、採掘した鉱石であらゆる金属製品を造り加工する事で、収入を得ていた。

 

片脚を失った彼は冒険者に復帰する事は困難で、鉱夫として働くつもりでいた。

 

しかし、或る一人の騎士との出会いが彼の運命を一変させる。

 

その騎士は只人ではあったが、豪快で陽気な性格の持ち主で酒と謳歌をこよなく愛する。

 

そんな彼は、鉱人にも歓迎され難無く溶け込んでいた。

 

鉱人斧戦士の現状を見かねた彼は、懐から小瓶を取り出し斧戦士へ差し出す。

 

その騎士が語るには、女神にも例えられた然る高貴な女性が祝福を施した聖水なのだと言う。

 

どの様な負傷や疾病も忽ち完治し、欠損した四肢すら再生してしまう。

 

いきなり見ず知らず騎士から得体の知れない物を差し出され、陽気な鉱人斧戦士も流石に怪しんだ。

 

しかし、正直困窮していたのは事実であり、その騎士は見返りすら要求せず無償で提供してくれた。

 

よくよく考えてみればこれ以上失うモノも無く、眼前のお人好しな騎士は集落から歓迎されている。

 

おまけに無償で差し出したくれたのだ、これ以上疑いの目を向けては流石に無礼に値するというもの。

 

鉱人斧戦士は意を決し、その聖水を受け取り口へと含んだ。

 

するとどうだろう――。

 

一瞬の間を置き、欠損した脚に違和感が感じ取れる。

 

そして傷口が妖しく蠢き、仰天した彼は急いで包帯を取り払った。

 

次の瞬間には、食い千切られた脚が瞬時に生えてきたではないか。

 

「うおおぉォぉっ…、何じゃァっこりゃぁっ?!」

 

「なっ…なんとぉっ?!」

 

 鉱人斧戦士と隣に居た禿頭僧侶は、目を見開き素っ頓狂な声を上げ、周囲の鉱人達も大騒ぎとなった。

 

試しに脚を数度動かし、歩いてみたが違和感などは全く無く、以前の動きも完全に再現できた。

 

冒険者生活を諦めていた彼にとって、これは思わぬ朗報とも言えた。

 

その結果を見届けた騎士は、満足そうに微笑み集落を去ろうとする。

 

どうやら旅立つ直前に彼等と出会った様だ。

 

その騎士に感謝してもし切れない鉱人斧戦士は、そのまま行かせる事を良しとせず秘蔵の酒を彼に差し出した。

 

旅立つ直前の彼を引き留める事も出来ない為、今返せる礼はこれしか思い付かなかった。

 

その騎士は快くそれを受け取り、上機嫌で集落から旅立った。

 

周囲の鉱人達から聞いた話では、あの騎士は巨人について調べ廻っているとの事だった。

 

また、ボロボロとなった愛用の剣を修理する為、数々の鍛冶師を訪ねてもいたらしく、せめてアンドレイの事を紹介出来なかった事が鉱人斧戦士の心残りであった。

 

代わりにバスタードソードを予備として持ち歩いていたのを覚えている。

 

それから鉱人斧戦士と禿頭僧侶は、冒険者としての勘を取り戻す為に南方辺境街のギルドへ赴き、その近隣で冒険者として活動していた。

 

元々その集落は、ここから南東方面に位置し南方辺境街の方が距離的に近いのも理由の一つだ。

 

更に言えば、南方面は東西南北の中でも特に平穏で、肩慣らしをするには打って付けの条件が揃っていたのである。

 

二人は南方ギルドで臨時の仲間を募り即席の一党を結成し、数多くの依頼をこなしていた。

 

従って今の彼等は『鋼鉄等級』へと昇格していたのである。

 

「まぁざっと、こんなとこだの」

 

 一通り語り終えた鉱人斧戦士は、カップに注がれていた水を一気に飲み干し喉を潤した。

 

「巨人を調べる騎士…か…」

 

 灰の剣士は、その騎士について思案する。

 

「おや?何か心当たりが?」

 

「う~む…有る様な無い様な……もう少し判断基準が欲しい処だな」

 

 禿頭僧侶が訪ねるも、件の騎士に対する情報が些かに乏しく判断しかねていた。

 

――酒と謳歌を愛する騎士…か…、……まさかな。

 

灰は火継ぎの時代に出会った一人の騎士を重ねていた。

 

「あの…、お二人はウチの頭目と一党を組んでいたんですよね?」

 

「おお、そうじゃが」

「如何にも」

 

 同期戦士の傍で話を聞いていた銀髪武闘家が二人に訊ね、両者とも相槌を打つ。

 

「――と言う事はさ……、頭目とアンタはこのまま……」

 

 鉱人斥候が不安気な表情を浮かべ、同期戦士と少女野伏の今後について言及する。

 

嘗ての仲間がこうして戻って来たのである。

 

その彼等が戻って来た以上、今の一党を解き元の鞘に収まる。

 

正直に言えば、同期戦士と少女野伏の存在は非常に大きかった。

 

もし彼等を除いたメンバーで活動を続けていたら、今も白磁等級から抜け出せていなかっただろう。

 

いや、下手をすれば最初の冒険で全滅して可能性すら大いにあった。

 

今後、彼等抜きで冒険者を続けていられるのか。

 

銀髪武闘家、鉱人斥候、森人僧侶、獣人魔術師、彼ら4人に沈黙が奔り重い空気が流れる。

 

「安心せい嬢ちゃん!コイツにそんな無責任な真似はさせんでなっ!がはははッ…!」

 

 鉱人斧戦士は豪快に笑い、鉱人斥候の頭をグシャリと撫でる。

 

「今の彼は新たな一党の頭目。我々が戻って来たからと言って、元の一党を再結成する訳にはいきますまい」

 

 禿頭僧侶も同調し、彼の意見に賛同した。

 

かと言い、この二人が同期戦士の現一党に加わるのも正直抵抗がある。

 

唯でさえ、6人という人数を抱えているのだ。

 

これ以上メンバーを増やせば、統率や資金繰りにも大きな障害が生じる。

 

同期戦士が銅等級以上の実績を積んでいれば事情が変わってくるだろうが、今の彼は鋼鉄等級。

 

とても、8人も囲う事は困難であろう。

 

「心配はいりません。当分は我々だけで、ゆっくりと依頼をこなしていきます」

 

「どうしても必要な時に、協力を要請してくれりゃぁええ!」

 

 二人は何も心配はいらないと返した。

 

「それを聞いて安心しました。彼等には、何度も助けて貰っているのでね」

 

 獣人魔術師は安堵する。

 

「ま、早速その共闘依頼が舞い込んで来た訳だがの……」

 

 鉱人斧戦士が、チラッと或る方へと向く。

 

その先には、上質の鎧を身に付けた騎士が座っていた。

 

「……そろそろ、本題を切り出しても良いかね?」

 

 待ちかねたように騎士が口を開いた。

 

その騎士には見覚えがある。

 

過去にロスリックを探索した時、出会った調査隊の隊長だ。

 

その隊長職である正規騎士は、早朝に馬車を走らせこのギルドへと訪れた。

 

ここ数日間に渡り、小鬼の襲撃が相次ぎロスリックの調査どころではなくなっている為である。

 

正規騎士が、今現在起こっている事を事細やかに語り出した。

 

ロスリック内部から小鬼の大群が発生し、今の拠点街を連日連夜襲撃している事――。

 

それは亡者化した小鬼ではなく、魔法で生成された小鬼である事――。

 

その襲撃が続き、ロスリックへの調査が滞っている事――。

 

このままでは拠点街は孤立し、冒険者達の士気は低下している事――。

 

そこで彼は、白磁等級の身でありながら探索を成功させた彼等に、救援を求めて来たのである。

 

彼の周囲には、重戦士の一党、槍使いの一党、同期戦士の旧一党と現一党、男神官――。

 

そして――。

 

 

 

―― 灰の剣士 ――

 

 

 

―― ゴブリンスレイヤー ――

 

 

 

そう、正規騎士はゴブリンスレイヤーの情報も入手していたのである。

 

ゴブリン討伐の依頼のみを請け負い、あらゆる手段を駆使してゴブリンを確殺してゆく異質の冒険者――。

 

彼の噂は、拠点街にも伝わっていたのだ。

 

ゴブリンに特化した知識と戦術に長けた彼なら、必ず戦力になる――。

 

そう判断し、彼にも救援を要請したのである。

 

「いいだろう。その依頼、請けよう。ゴブリン共は皆殺しだ」

 

 いともあっさりと承諾したゴブリンスレイヤー。

 

「おお、有難い。貴殿の才覚、大いに期待させて頂く!」

 

 彼の言に頼もしさを感じ、正規騎士は期待を寄せる。

 

「それにしてもお前、最近組んでるあのお嬢さん方はどうしたんだ?まさかお前が一党を組むとはな」

 

 槍使いが彼に尋ねているのは、恐らく4人の女冒険者の事だろう。

 

ゴブリンに蹂躙された過去を持つが、冒険者として復帰し彼の指導の下、目下小鬼に対する戦術と知識を学んでいた。

 

当初は頼りない部分も多々見受けられたが、今は彼女等だけでも小鬼に対応出来る技量を有している。

 

特にリーダー格の女鎧戦士の実力は加速度的に向上し、『ゴブリンを片付ける』と言う口癖が浸透しつつあった。

 

故に、彼女等は『ゴブリンスイーパー(小鬼を片付ける者)』の渾名を獲得しつつあった。

 

()()には別のゴブリン退治を請け負って貰っている。そろそろ独立してもいい頃合いだろう」

 

 今日は一件だけ小鬼関連の依頼が舞い込んでいたのだが、正規騎士がこうして緊急依頼を持ち込んで来た為、ゴブリンスレイヤーは此処に残っているのだ。

 

「なんだ、勿体ねぇ!似た様な格好してっからよ、お似合いだと思ったんだがな!」

 

「茶化すな、話を聞いていろ!命を落とすぞ!」

 

「――へっ!相変わらず、つまんね~奴だな!」

 

 茶化す槍使いに彼は叱咤するも、槍使いは悪態を付き受け流す。

 

「いよいよ我々も、悪名高きロスリックへと至る日がやって来たか!」

 

「はっ!開幕早々で、やられんなよ!」

 

「ふ、私は慎重派でね。貴様の様なガサツな輩と一緒にしないでくれ給えよ!」

 

「なにおぅっ!」

 

「がっはっはっは、頼もしい二人じゃわい!」

 

「へっ!オッチャンの方が頼りになりそうだぜ!」

 

「おぅっ!ドンと頼ってくれやっ!」

 

「相変わらずで安心したよ!」

 

「また宜しく頼むぜ!」

 

 森人僧侶がロスリック探索に胸を躍らせ、鉱人斥候と口論になる。

 

その様子を見ていた鉱人斧戦士は豪快に笑い、少女野伏や同期戦士も彼等の復帰を歓迎した。

 

「……本来ならロスリック関連の依頼は、翠玉等級が必須条件な筈……。生憎我々の大半は、その水準を満たしてはいないのですが……」

 

 半森人の軽戦士がギルドの規定について言及した。

 

この西方辺境のギルドでは、ロスリックへ挑むには最低でも『翠玉等級』の階級が必須となる。

 

しかし、その条件を満たしているのは、重戦士と女騎士、槍使いと男神官だけであった。

 

「その辺りなら問題無いわ。今回は緊急の依頼故に、特例で探索も認めます。この事はギルド長から許可も貰っていますので」

 

 監督官から等級に関しては、何も心配する必要はないそうだ。

 

仮に規定に則ったとしても、条件を満たしている重戦士の一党に、臨時で参加させて貰えば良いだけの事である。

 

「どうやら話は纏まったようだな。では一旦解散とし、街の入り口で集合するとしよう。拠点街には、なるべく夜までには戻っておきたいのでな。あまり時間は掛けていられんぞ!」

 

 間違い無く今夜にも小鬼の大群が、拠点街を襲撃するだろう。

 

それまでに帰還し、迎撃準備を整えておきたいのが本音である。

 

正規騎士は集合場所に向かう為、一足先にギルドを出た。

 

「よぉしっ、皆聞いたな!今から準備に移れ!2時間が限度だ、それまでに集合場所に集まっておけ!遅れるなよ!!」

 

 重戦士が大声で、周囲に指示を飛ばす。

 

もし此処で準備に間に合わずとも、拠点街で足りない物資を揃えれば良いだけだ。

 

必要不可欠な物だけを用意すればいいだろう。

 

皆は解散し、各々旅支度を始めた。

 

 

 

灰の剣士も行動に移し、監督官に預けてあった道具の引き取りを要求する。

 

「えっ?今引き取るの?」

 

「ああ。過去に預けてあった、()()()をな」

 

それは過去にロスリックの高壁で入手した、火薬や油壷を待ち出す為である。

 

ギルドの倉庫には『保存の魔法』が掛けてあり、余程の期間を置かない限りそう簡単に劣化する事はない。

 

必要分だけを引き取り、料金を支払った。

 

「何に使うのかしら?あんな物……」

 

 荷物を受け取った灰の剣士は、そのままギルドを出て武器工房へと向かう。

 

監督官は、そんな彼の背中を見送っていた。

 

武器工房へと向かった灰の剣士、既に他の面々が所狭しと屯している。

 

「よう、アンタもか」

 

 重戦士が彼に気付き声を掛けて来る。

 

考えている事は皆同じ、武器に防具に道具類と次々と注文し購入していく。

 

「ええいっ!ちょっと待ちやがれ!年寄りを扱き使うんじゃねぇっ!」

 

「全く次から次へと、そんなに大変な冒険なのか!」

 

 殺到する注文に対応する為、老爺だけでなくアンドレイや丁稚の少年までもが駆り出されていた。

 

「今回はあのロスリックだからな。入念に準備しとかねぇとな!」

 

「おうっ!お前さん等あそこに挑むのか!だったら万全にしなくちゃぁなんねぇ!」

 

 槍使いがロスリックの名を口に出し、アンドレイの動きが一層活が入る。

 

「灰よ、俺は一足先にアイツの元へ行く」

 

 ゴブリンスレイヤーも工房に居た。

 

彼は早々に準備を済ませ、工房を去る。

 

彼の言う()()()――。

 

街外れの小川に住む、オーベックを指していた。

 

「分かった、私も後で向かう」

 

 喧騒の中彼を見送り、先客達が準備を終えるまで待つ事暫く――。

 

些か落ち着いた所で、彼も注文を切り出す。

 

「『打ち刀』は出来ているか?」

 

「やっと取りに来たか、うっかり忘れちまったんかと思ったぜ」

 

 口を吊り上げたアンドレイがカウンターに注文の品を置く。

 

灰は出来上がった打ち刀を手に取り、それを鞘から引き抜いた。

 

「おっ?新しい剣か?」

 

「おや、我が祖国の刀ですね」

 

「そう言やぁ、別のギルドでタマに見かけるな」

 

 同期戦士や槍使いが『打ち刀』を目にし、珍しそうに注視する。

 

自分の出身国でもある禿頭僧侶にとっては、懐かしい品と言えよう。

 

「おい皆、退がんな!危ないぜ!」

 

 アンドレイは、周囲の面々を退がらせた。

 

調整の済んだ打ち刀の、試し斬りをさせる為である。

 

灰の剣士は中央に陣取り、再び刀身を鞘に納め腰を深く落とした。

 

そしてゆっくりと、アンドレイの方へ向く。

 

「頼む、アンドレイ」

 

「そらっ!」

 

 灰の合図と共に、アンドレイは握り拳大ほどの鉄塊を放り投げる。

 

その鉄塊が彼の間合いに侵入した、その瞬間――。

 

「――っしっ!!」

 

 瞬きする間も無く刀身が引き抜かれ、宙に浮いていた鉄塊は床へと転がった。

 

彼が再び納刀すると同時に、鉄塊は六等分に分解される。

 

その切口は一切の凹凸が無く、極めて平坦な断面を形成していた。

 

 

 

「「「「……っ!!」」」」

 

 

 

それを目の当たりにした周囲の彼等は、言葉も無く息を呑むばかりだ。

 

「あの一瞬で三回も斬ったのかっ……!また一段と腕を上げたな……!」

 

 女騎士が辛うじて言葉を発するのが精一杯である。

 

「相変わらず良い腕してんな!」

 

「いや……これでも衰えた方だ、まだまだ修練が必要になる」

 

 アンドレイが感心するも、灰自身は衰えたと語る。

 

「はっ?!()()()ってどういう事だよ?!昔の方が強かったってのか?!」

 

「……」

 

 槍使いが呆れ顔で灰に食い付くが、彼は無言で頷くだけだった。

 

実際彼がこの四方世界に流れ着く以前は、ソウルレベルも身体能力も許容出来る限界(カンスト)まで強化されていた。

 

その時に比べれば、今の実力など10分の1にも満たないだろう。

 

正直、今の実力でロスリックの単独攻略は、かなりの困難を強いられる筈だ。

 

「世話になったなアンドレイに店主、この刀は大事に使わせてもらう」

 

「おぅっ!直ぐに壊すんじゃねぇぞ!」

 

「その武器はかなり手間暇かかったんでな、色男!」

 

 彼等に見送られ、灰は工房を去りオーベックの元へと向かう。

 

灰の背中を唖然として見つめる面々達。

 

彼等には、灰の素性など知る由もない。

 

唯一女騎士だけは、神殿にて彼の素性を知っていたが、それも全てではないのだ。

 

「出会った時から謎めいていたがよ、日を追う毎にアイツの事が分からなくなってきたぜ」

 

「私達……あの人に近付くのは程々にした方が良いのかも知れませんね……」

 

 動揺を覚える同期戦士に、圃人の少女巫術士が応える。

 

彼女は以前、最初のロスリック探索以来、彼に微かな思慮を寄せていたが益々得体の知れなくなる灰の剣士に対し、次第に不安と畏怖を抱き距離を置くようになっていた。

 

 

 

……

 

 

 

 街外れの小川に位置する小屋、其処には新たな住人が住み着いている。

 

彼の名は、ヴィンハイムのオーベック。

 

以前の住人である孤電の術士が四方世界を去り、代わりに彼が此処の住人となっていた。

 

「――しかしロスリックの小鬼禍(ゴブリンハザード)とはな……」

 

 ゴブリンスレイヤー、灰の剣士を小屋に迎え話を聞いた彼は、少々難しい顔をする。

 

「そのゴブリン共が、魔法で生成されたのなら必ず術者が居る筈だ!先ずはソイツを叩くなり捕らえるなりして組織ごと壊滅する必要がある」

 

「それに関しては私も同感だ。先ずその術者に痛痒を負わせれば、必ず逃走する。そいつのソウルを捕捉し泳がせ、拠点を探らせる事を考えている」

 

「だが、小鬼禍(ゴブリンハザード)である以上数だけは無駄に多い筈だ。ある程度、数を減らさんと接近するのも容易ではあるまい」

 

 三者三様に意見を挙げ、方針を決めていく。

 

「まぁ兎にも角も、ロスリックは危険極まりない場所だ。……持って行け」

 

 棚から布袋を取り出し、それを彼等へと手渡す。

 

袋の中には、何時もの破裂石弾を含めた数々の小道具が入っていた。

 

「……良いのか?今回は見返りになる物は何も……」

 

 対価に相当する物を生憎持ち合わせておらず、ゴブリンスレイヤーは受け取りに戸惑いを見せる。

 

「それは、()()()()用意して貰うんだ」

 

 オーベックが言うには、ロスリックには珍しい品々が多数落ちている。

 

一見ガラクタに見える物でも、彼にとっては非常に有用な代物が数多く存在するのだ。

 

それ等を入手してくれれば良いとの事だった。

 

「……ん?これは何だ?」

 

 ゴブリンスレイヤーは袋から小瓶と小さじを取り出し、彼に訪ねる。

 

「ああ、それはな。『炭松脂』だ」

 

「『炭松脂』……?あの()()の事か?」

 

「……どの松脂の事を言っているのか分からんが、俺が指しているのはロスリックでしか採取出来ない松脂だ」

 

 オーベックは炭松脂の効果を簡潔に説明する。

 

この炭松脂を武器に塗れば炎熱化を引き起こし、忽ち炎を宿した武器と化す。

 

つまり、道具の力でエンチャントを施すアイテムなのである。

 

しかし、炎熱化を繰り返す事で、武器の寿命を縮めてしまう欠点もある。

 

高温の熱は、金属の酸化を促し構造を脆くしてしまう。

 

金属劣化が早まればそれに比例するかの如く、武器の寿命を縮めてしまうのは必然と言えよう。

 

しかし、ゴブリンスレイヤーはこれを利点と捉えた様だ。

 

「使い捨ての付与道具に剣の寿命が早まれば、万が一ゴブリンに奪われても然程の脅威になるまい」

 

「ほぅ、そう言う発想か」

 

 彼は常に最悪の事態を想定し、道具の取捨選択を行っている。

 

万が一自分の武具がゴブリンに渡る事も想定しての発想だった。

 

使えば無くなる。

 

言わば使い捨ての道具の方が、彼にとって都合が良いのだ。

 

だが、背負っているブロードソードや鷲柄の短刀は例外で、上質の装備に身を包んだゴブリンも稀に存在する。

 

普段の数打ちの剣では刃が通らない事も多々あり、そう云った場合のみ楔石で強化されたブロードソードを用いる事がある。

 

その威力は凄まじく、鉄鎧ごとゴブリンを両断出来たほどだった。

 

それに鷲柄の短刀は家族の形見だ。

 

手放す訳にはいかない。

 

「後はこのスクロールだ。可能な限り野外で使え!味方を危険に晒す恐れがある……!」

 

「…?転移のスクロールか?」

 

「いや、直接攻撃するものではない。残念だが、転移の記し方は俺にも分からんのでな」

 

「そうか」

 

 布袋に入っていたのは一枚のスクロールだった。

 

以前転移のスクロールを魔女に書き変えて貰い海の底へと繋げたのだが、今回の品は転移ではなかった。

 

しかし、野外限定という念を押されている。

 

強力な品には違いない事は明らかだ。

 

「済まんな、世話になった」

 

 ゴブリンスレイヤーはオーベックに礼を言い、先に集合場所へと向かう。

 

小屋に残った、灰の剣士とオーベック――。

 

「ロスリックの血の営み……、残念だが俺にも詳しい事は分からん」

 

「そうか……、手間を掛けさせたな」

 

 以前水の都の地下水路から入手した、幾つかの書物をオーベックに調べて貰っていた。

 

しかし、オーベックの知識を以てしても、血の営みについては多くを知る事は叶わなかった。

 

「大書庫への道は閉ざされたままなのだろう?」

 

 オーベックはロスリック城の奥にある『大書庫』について尋ねてみる。

 

だがしかし、ロスリック城への道は依然閉ざされたままで大書庫に侵入する事は、事実上不可能に近い。

 

恐らくロスリックに纏わるありとあらゆる知識の宝庫である事は、先ず間違い無いだろう。

 

其処へ到達出来れば、求めた知識を得る事も可能ではある。

 

尤も、余りに膨大な書籍の数を分別し探し出すのも、並大抵の労力ではないだろうが……。

 

「悪い事は言わん、『ロスリックの血の営み』ついて調べるのは、止めておけ!」

 

「――っ?!」

 

 意外にも、オーベック本人からの忠告が飛んで来た。

 

「あれは、人の道を踏み外した恐るべき外法の塊だ!とても正気の沙汰とは思えん所業の数々……、幾ら火継ぎの資格者を生み出すためとは言え、狂気に駆られ初めて成せる悍ましい悪行だ!……深入りすれば流石のお前とて、狂気に堕ちる可能性は充分にある!」

 

 血の営み――。

 

完成形のロスリック王子は兎も角、その過程は正気を疑う外法の数々が、当たり前の様に行われていたらしい。

 

過剰に深入りし興味本位で踏み込めば、灰の剣士と言えども取り込まれる恐れさえある。

 

知識欲旺盛なオーベックが警告を出す程だ。

 

どうやら相当危険な代物らしい。

 

「分かった。貴方ほどの男が危険視する位だ、深入りは避けよう」

 

「そうしろ。長生きしたければな」

 

 本来は、獣化した異形の対応策を練る為に調べて貰っていたのだが、予想以上に危険な領域だという事が分かった。

 

「では、そろそろ私も行く」

 

「気を付けてな。他の冒険者から聞いたのだが、思っていたよりも危険度上がっているそうじゃないか」

 

 運良くロスリックから帰還した冒険者も、少なからず存在する。

 

時折オーベックも街へと外出し、彼等から情報を収集していた。

 

聞いた話では、彼が居たあの時代に比べ、亡者の種類も数も配置状況も何もかもが変わっていた。

 

以前の知識のみを頼りに探索すれば、幾らあの時代の関係者と言えど命を落とす危険性が極めて高い。

 

「無論、死ぬ気など毛頭ない。しかし、生者となった事が却って不利に働いてしまうな、()()()()では――」

 

「そう言うな。それ故に俺達は再び、()()()()()として生を全う出来るのだからな!」

 

「そうだ…な…、…その通りだ!使命や戦い以外の人生の歩み方を磨いてゆかねば、日頃思う様になってきた」

 

「だったら、女の二、三人作れ!その気になれば不自由する様な男ではないだろう、お前は?」

 

「貴方こそ…どうなのだ?」

 

「こう見えても俺は結構、モテるんだぜ!」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、灰の剣士も小屋を後にし集合場所へと向かう。

 

「…お前等、無事でいろよ」

 

 姿が見えなくなった後、オーベックは神妙な表情を浮かべ彼等の無事を願った。

 

 

 

……

 

 

 

「隊長!食料の積み込み、完了致しました!」

 

「衣類、その他の生活用品、買い出し完了!」

 

「全てではありませんが、必要分の補給物資は概ね手に入りました!」

 

「うむ、ご苦労!あとは彼等を待つだけか」

 

 集合場所では、数台の荷馬車が立ち並び、正規騎士の部下達が物資の搬入作業を終えた事を報告していた。

 

拠点街の度重なる小鬼禍(ゴブリンハザード)――。

 

その為、物資の流通が滞り補給の確保が困難となっていた。

 

そこで、半ば強行軍でこの辺境街へと赴き、物資の買い出しも並行していたのである。

 

大量に物資を購入する必要があり、街の商人達は儲けられるチャンスと踏んだのか、挙って品々を売りに出した。

 

中には、足元を見て値段を吹っ掛ける質の悪い商人も居たが、緊急事態であるが故、兵士達は止むを得ず商人の言い値で物資を購入する羽目なった。

 

数台の荷馬車の内、一台は人が乗る為の馬車が在った。

 

かなり大型で、十数人を楽に収容できる程に幌の広さには余裕がある。

 

その馬車に、冒険者達が続々と集まっていた。

 

「お~し!お前等、忘れモンは無いよな!」

 

「勿論ですよ大将!」

 

「私も万全です!」

 

 重戦士が念を押し、少年斥候と少女巫術士は問題が無い事を確認し、各自応える。

 

「俺達は何時も通りだ!」

 

「また、おおきな、ぼうけ、んね」

 

 槍使い一党は普段通りの調子で、安定している様子だ。

 

「いいか!ロスリックは極めて危険な遺跡だ!気を引き締めて行くぞ!」

 

「ちょっとした油断が、即命取りになる本当に恐ろしい場所なのっ!お互いが常にフォローし合って!」

 

 同期戦士一党は、今回が初となるメンバーが殆どだ。

 

ロスリックがどれだけ危険度が高いかを口頭で説明するが、正直どれ程効果が有るのかは未知数だった。

 

同期戦士と少女野伏が、自身が体験した事を大まかに語るが、こればかりは実際に体感しないと理解出来ない部分も多々あるだろう。

 

「見違えましたね、彼」

 

「全くじゃ!一端の頭目面になったじゃねぇか」

 

「僕は、お二方の一党に組み込まれるという事で、宜しいのですね?」

 

 男神官は禿頭僧侶、鉱人斧戦士の二人に加わるという形で、一党を組む事となった。

 

二人はその過程で、ロックイーターの経緯を男神官から聞いた。

 

銅等級冒険者が多数の冒険者を率い、鉱山に潜入した。

 

先行部隊がロックイーターに遭遇したが、途中で『冷たい谷のボルド』が乱入し、ロックイーターはボルドに一撃で倒される事となる。

 

ボルドの出現で現場は壊滅状態となるが、灰の剣士とゴブリンスレイヤーの介入が有った。

 

その後はボルドを激戦の末打ち破るが、更にダークゴブリンが集団を引き連れ、連戦を強いられる事になる。

 

辛くも撃退に成功したものの冒険者の消耗は激しく、ギルドは積極的な活動を当分は控える羽目となった。

 

「「……」」

 

 男神官の言葉に、二人は無言で聞き入っていた。

 

ロックイーターもボルドの恐ろしさも、二人は身を以て知っていたからだ。

 

禿頭僧侶は一人佇む冒険者、ゴブリンスレイヤーの方へと視線を向ける。

 

――珍しいですね。彼が小鬼以外の案件に介入するとは……。

 

当のゴブリンスレイヤーは腕を組み、荷馬車に(もた)れ掛かっている。

 

そこへ灰の剣士が到着した。

 

「済まん、少し遅くなった!」

 

「アンタにしては、随分時間が掛かったな」

 

 どうやら彼が最後だったらしく、同期戦士が声を掛け出迎える。

 

「よし、全員揃ったな!各員馬車に登場してくれ、出発いたす!」

 

 正規騎士が号令を掛け、各々が乗用の馬車へと乗り込む。

 

中はかなり広く、十数人全員が乗っても余裕があるほどの広さだ。

 

「それではロスリックの拠点街へと出発する!夜までには辿り着くぞ!」

 

「了解です隊長!ハァッ!」

 

 数台の馬車が始動し、一路ロスリックへと走り出した。

 

大掛かりな数台の荷馬車は、土煙を高々と巻き上げ屈強な馬は街道を蹴り上げる。

 

その光景が珍しかったのだろうか。

 

街の正門入り口付近には、多数の野次馬が集まっていた。

 

 

 

……

 

 

 

既に日が傾き時間帯は夕暮れに近付く。

 

揺れる馬車の幌で、灰は皆に告げる事があった。

 

「皆!ゴブリンを凌いだ後、ロスリックへ侵入すると思うが、エスト瓶の回復は期待しないでくれ。完全に底を尽き、補充するための手段が無い」

 

 エスト瓶は篝火を用いて中身を補充する。

 

しかし、今は篝火を熾す道具も持ち合わせて居なかった。

 

「分かった。例の拠点街に着いたら、出来るだけ回復手段を確保しておく」

 

 重戦士が返事を返す。

 

「それはそうと、どう言う作戦か決めてあるのか?」

 

 女騎士が、小鬼禍の対応策を訪ねる。

 

「ロスリック内から出て来る以上、必ずあの狭い進入路を経由しなければならない。狭い道幅なら大軍を展開出来ない筈だから、私が先陣を切り数を減らしながら敵の術者を特定する。術者はかなりの確率で高台から、戦況を観察している筈だ。そこで私が跳躍したら、貴公(男神官)の『放つフォース』で私の背中を撃って欲しい。その衝撃を利用すれば更に高い飛距離で飛ぶ事ができ、敵術者に痛痒を負わせられる。敵の胆力にもよるが、不利を悟れば大抵は撤退を試み拠点に帰還するだろう。幸い私はソウルの感知が出来る。一度ソウルを捉えれば、そう易々とは見逃さぬ!貴公等には、私の援護を頼みたい」

 

 この依頼の内容を耳にした時から、彼は既にこの作戦を思い付いていた。

 

(いたずら)に敵を迎撃しただけで原因を排除出来なければ、事態は好転する事はない。

 

物資が限られ士気が落ち始めている拠点街。

 

可能な限り、短期決戦で小鬼を排除したかった。

 

故にこの作戦ならば、負担となるのは僅か数名で結果的に物資の消耗も抑える事が出来ると、灰の剣士は補足を付け加える。

 

「……確かにな。拠点街の士気は低下の一途を辿り、血気盛んな冒険者連中がいつ暴動を起こすとも限らん。貴殿等に負担を強いるのは些か心苦しいが、頼めるか?」

 

 正規騎士は、拠点街の状況と住人の状態を考慮した上で、灰の剣士の提案に乗る事にした。

 

「首謀者を特定出来れば、小鬼禍の騒動も解決に近付くだろう。況してや人が小鬼を操るなど、見過ごしてはおけん!」

 

 終始無言であったゴブリンスレイヤーも灰の提案に賛同し、意気込みを見せる。

 

そしれから暫くして、拠点街の灯が御者を務める兵士の視界に入った。

 

「ん?あの土煙は……まさか……?!」

 

 しかし拠点街付近に、巻き起こる不自然な土煙も視界を捉え、それが小鬼の大群である事に感付いた。

 

「隊長!既に戦闘が始まっていm…うぉっ?!」

 

 兵士が最後まで報告する前に、正規騎士が幌から顔を出す。

 

「――承知している、この馬車だけでも全力で先行させろ!他の荷馬車は速度を緩め、戦闘に巻き込まれないよう努めよっ!」

 

「はっ!了解です!」

 

 兵士が土煙を確認する前に、灰の剣士がソウルを感知していた為、早期に気付く事が出来た。

 

――それにしても、予定より早い。……加えて数も昨夜の倍だ。いよいよ本腰を入れて来たか!

 

今迄は日が完全に堕ち、深夜を迎えた頃合いで小鬼の群れが襲撃して来たが、今回は何時も以上に速い襲撃速度と数を誇っていた。

 

彼等を乗せた馬車だけが速度を速め、戦闘地域へと急行する。

 

「おぅっ、お前等!戦闘準備、気合入れていけよっ!」

 

 重戦士が檄を飛ばし、皆の士気を高める。

 

各々はそれに呼応するか゚の如く、気を張り詰めた。

 

現場に近付くにつれ、見慣れた醜悪な小鬼が粗悪な武器を手に拠点街へと殺到していた。

 

『ええぃっ!昨日の倍居るではないか!』

 

『どうやってこれだけの数を揃えたのだっ?!』

 

『くそぉっ!嫌になってくるぜ!毎夜毎夜、ゴブリンなんかとよっ!』

 

『そろそろ潮時かもしれねぇなっ!』

 

 今宵も拠点街では、兵士や冒険者が抵抗を続けていたが、士気が低下した今の状況では徐々に劣勢を強いられていた。

 

中には、戦闘中に逃げ出そうとする輩まで居る始末――。

 

それ程までに、彼等の士気は低下していたのである。

 

「よし、此処で馬を停め、全員出撃するぞ!」

 

 正規騎士の号令と共に馬車が急停止し、中から冒険者達が勢いよく飛び出して来た。

 

「――頼むぜ、灰の剣士!」

 

「――承知!(ゴブリンスレイヤー)貴公(男神官)は、私に続いてくれ!」

 

「――分かった!」

「――お供します!」

 

 

―― 推奨BGM:Antti Martikainen - One Against the World ――

 

 

 重戦士が灰の剣士に期待を寄せ、彼もそれに応え小鬼の群れに疾走する。

 

そんな彼の後に、ゴブリンスレイヤーと男神官も追従した。

 

大群を成す小鬼は濃密な群れを形成するが、灰の剣士達三人はその横腹を突く形で攻撃を仕掛ける。

 

「――仕掛けるっ!!」

 

 灰は全力疾走を緩める事なく、群れ目掛けて打ち刀を鞘から引き抜き、身体を一回転させながらの一閃――。

 

頑強さと薄刀の切れ味を併せ持つ上質の刃に、忽ち数匹の小鬼が両断された。

 

突然訪れた不測の事態に、小鬼の思考は理解が追い付いていない。

 

元々魔法で生み出された即席の小鬼であり、冷静な判断など出来ようもない。

 

浮足立った小鬼の群れに、灰の剣士は続け様に疾走の勢いを加えた回転居合切りを見舞う。

 

疾走の勢いを上乗せした居合切り、言わば『疾走居合切り』とも呼べる戦技である。

 

彼の間合いに入った小鬼は、瞬きする暇も無く上半身と下半身が無き別れし、仮初の命を散らす。

 

疾走居合切りを続ける事三回――。

 

『疾走居合切り三連』を繰り出し、20匹の小鬼が絶命した。

 

だが、長蛇の列を形成する群れに割り込んだ事が彼の不利に働き、生き残りの小鬼群に対し背後を晒す事になる。

 

複数の小鬼が彼に襲い掛かろうとするが、その小鬼の背を刃が貫いた。

 

「ゴブリンは皆殺しだ!」

 

 ゴブリンスレイヤーが数打ちの剣で、背後から刺し貫く。

 

そのゴブリンスレイヤーの背を守る為、男神官が彼の背後に陣取り、専用の錫杖で小鬼を撲殺していた。

 

彼専用の錫杖は、奇跡の触媒としてだけでなく打撃用としても機能する。

 

灰の剣士が居合切りで露払いを務め、その死角をゴブリンスレイヤーが埋め、彼の背後を男神官が守る。

 

卓越した戦闘力を誇る彼等の進撃を、即席の小鬼如きでどうして止められようか。

 

彼等は狭く細い進入路に差し掛かり、小鬼側も単純な長蛇の列しか展開出来なかった。

 

快進撃を続ける彼等を見ていた重戦士も声を荒げ、皆を奮い立たせた。

 

「お前らっ!俺達も負けてられねぇぞ!」

 

 重戦士は奮起し、東門付近に殺到する小鬼の群れ目掛けて、大剣を横薙ぎに振るった。

 

重く肉厚の刀身は、切れ味を犠牲に重量と質量に優れる。

 

彼が大剣を一太刀繰り出す度に、複数の小鬼が粉砕され、吹き飛ばされ、跳ね飛ばされていく。

 

小鬼は大軍を形成しているものの、全てが通常種に準じた個体で単体の質は(たか)が知れていた。

 

そんな小鬼の身体能力では、重戦士に肉薄出来る筈も無く、全て彼の大剣に吹き飛ばされる。

 

「オラオラっ!小鬼共、ちっとは抵抗してみな!」

 

 槍使いは、巧みな位置取りで槍を連続で突き出す。

 

「gyov!」

「goro!」

「gobye!」

「gobev!」

 

 彼の高速を誇る、槍の連続突きに小鬼は成す術も無く、貫かれる。

 

「全員、円陣を組み全方位を警戒しながら、迎え撃て!今戦果を気にする必要はない!お互いの役割を果たせ!」

 

 同期戦士は一党に指示を出し、防御と迎撃の陣形で小鬼に備えた。

 

魔法で生成された小鬼は、通常の小鬼に比べて思考力が乏しく、単純に突撃を繰り返すのみ。

 

一党の面々は、自分の得意な間合いで各個に小鬼を迎撃する。

 

これも水の都で、銀等級戦士から授かった戦術の一つ。

 

――流石は先輩だ。この戦術は幅広い状況で使えるな!

 

心の中で、銀等級戦士に感謝する同期戦士であった。

 

『な…何だ?アイツ等は……』

 

『援軍…なのか…』

 

『アッと言う間にゴブリン共が死んでいきやがる』

 

『おい何ボサっとしてんだ!アイツ等だけにやらせる気か?!』

 

『我々も動くぞ!』

 

『守備部隊は陣形を整え、防備を固めろ!』

 

『遊撃部隊の我等は、このまま攻勢に出るぞっ!――つづけぇっ!!』

 

 最前線で戦う灰の剣士達に触発された、拠点街の部隊は萎え掛けた士気を取り戻し、反撃に移った。

 

こうなってしまえば、質で勝る彼等に負ける要素などほぼ皆無――。

 

東門付近の小鬼は駆逐され、残りは灰の剣士に立ち塞がる群れのみとなった。

 

 

 

「えぇいっ!何だ、あ奴らはっ?!迎撃される事は想定済みだが、こうも早く蹴散らされては計画に支障が出てしまうではないかっ!」

 

 ロスリックの高壁に在る城壁で、高みの見物をしていた一人の男は歯軋りする。

 

拠点街の冒険者は、経験を積んだ手練れが数多く在籍している。

 

とても小鬼のみの集団で、制圧出来るとは考えていない。

 

しかし、小鬼(クリエイトゴブリン)の魔法を以てすれば、幾らでも数を揃える事が可能。

 

何せ触媒は、小鬼の牙や爪と謂った一部さえ有れば事足りるのだ。

 

そこら中に転がっている。

 

連日連夜襲撃を繰り返せば、幾ら手練れの集団と言えども士気は自然と減衰しようと言うもの。

 

制圧出来れば良し――。

 

もし不可能であったとしても、士気を挫きロスリックから遠ざける事が出来れば、それも良し――。

 

寧ろ後者が、本来の主目的であるのだから。

 

しかし、徐々に迫りつつある三人の冒険者には、憎悪の念が湧き立つ。

 

取り分け、外套を纏ったあの剣士には、激しい殺意を抱かざるを得なかった。

 

乱入したかと思えばアッという間に流れが変わり、気が付けば直ぐ其処まで迫っているではないか。

 

眼下で刀を振るう剣士を睨み付け、明確な殺意を向けた。

 

――が、その瞬間…眼下の剣士が視線を此方に向けて来た!

 

「――っゥぁあっ……?!」

 

 一瞬その剣士と目が合い、男はたじろぐ――。

 

――何だっ?!あの剣士の目はッ……?!

 

外套の奥から鈍く輝く、橙色の双瞳。

 

宛ら、火を連想させるその眼に自身が焼き尽くされる感覚すら覚えた。

 

 

 

「見付けたぞ……!」

 

 接近の末、視覚に捉えた術者らしき男――。

 

ソウルから流れ出る魔力の残滓を感知し、灰の剣士は高壁の男が首謀者だと見切った。

 

「首謀者を発見した!二人共、頼むっ!!」

 

 灰の剣士は後方の二人に声を掛け、ゴブリンスレイヤーと男神官は、彼に駆け寄って来た。

 

先ず灰の剣士が、ギルドで引き出した『油壷』を前方の小鬼集団に投げ付け牽制――。

 

油壷は小鬼に命中し、割れた壺から獣油が撒き散らされる。

 

大量の油が小鬼に付着し、戸惑う小鬼達。

 

その隙を突き更に呪術の火『火の玉』を投射――。

 

獣油に引火し、前方の集団は忽ち炎に包まれた。

 

その時間を利用し、ゴブリンスレイヤーが灰の剣士よりも前に出て、屈み込む。

 

「――今の内だ、灰よ!全力で跳べっ!!」

 

 彼は両方の掌を上に向け、足場を作り待機する。

 

「――任せろっ!」

 

 灰は透かさず助走を付け、彼の掌に足を掛けた。

 

「――跳べぇっ!!」

 

 ゴブリンスレイヤーは叫びと同時に足腰を全力稼働させ、腕を上方へと振り上げた。

 

その勢いを助けに、灰の剣士は全力で跳躍し、宙高く身を躍らせる。

 

「白教よ、僕に力を――」

 

 男神官が白教の奇跡の準備を終え、何時でも奇跡を行使出来る状態に入った。

 

灰の剣士が、重力に再び囚われる寸前を見極め、奇跡を発現させる。

 

「――時は今っ!放つフォースっ!!」

 

 男神官が白教の奇跡『放つフォース』を彼の背に向け、発動させた。

 

地母神の信徒代表で白教の奇跡を学び、これが初の実戦運用となった。

 

放つフォースは、全方位に衝撃波を生む通常のフォースとは違い、指向性を持ち殺傷力を有す。

 

白教のフォースを、カタリナの信徒達が加工を施し改良した派生型とも言えた。

 

殺傷力持つ『放つフォース』だが、灰の剣士は予め小盾を背中に背負っている為、痛痒を負う事はない。

 

その衝撃だけを推進力に利用し、更に高く宙へ舞い上げられた灰の剣士。

 

術者の男と灰の剣士の視線が交差し、術者よりも高い位置まで宙に浮く。

 

そして間髪入れずに、破裂石弾を術者の肩部に命中させた。

 

「――っぐぅぉおあっ?!」

 

 術者の衣服ごと肩が爆ぜ、黒く濁った血が噴き出す。

 

「やはり不死人か。ダークリング特有の不死ではない様だ。四方世界側の住人か」

 

 勢いを失い、高壁に着地した灰の剣士は、肩を抑え負傷に喘ぐ術者と対峙する形となる。

 

「――っう…あ…あぁ…、貴様ぁ……こ…このままでは済まさんぞぉ!……」

 

 及び腰となった術者は、敗走する形で奥へと姿を消す。

 

「覚えていろぉっ、必ず復讐してやる…!!」

 

 最り際、そんな捨て台詞を残しながら……。

 

「覚えたぞ、貴公のソウル…()かとな!」

 

 術者のソウルを直に感じ取り、脳に刻み付けた。

 

これで、余程遠方へと逃亡しない限り、見失う事はない。

 

指揮官である術者の制御を失い、魔法で生成された小鬼の群れは、瞬く間に崩れ去った。

 

個人で同時制御できる数は、達人でも精々5体前後の筈だが、群れは200を超す大軍勢だった。

 

どうやって制御していたのかは、分からない。

 

「どうやら灰の野郎、上手くやったみたいだな」

 

「小鬼群があっという間に崩れ去ったか」

 

 重戦士と女騎士は、ロスリックの方角と崩れ去った小鬼の群れを見やり、戦闘が終わった事を悟った。

 

「成程な、魔法制御されただけの事はあるぜ」

 

「術者の集中力さえ乱せば、其処に勝機が生まれるという事だな」

 

「とは言え、これだけの群れを制御するとは……。かなり大掛かりな魔法陣を描くか、大人数の術式が必要となります」

 

「相手は組織だって行動しているとみて、宜しいかと」

 

 崩れ去った小鬼を見て同期戦士が呟き、森人僧侶、獣人魔術師、禿頭僧侶が各々の見解を述べる。

 

何はともあれ、今宵の小鬼禍(ゴブリンハザード)を凌ぐ事が出来た。

 

正規騎士は彼等を労い、拠点街のギルドまで案内する。

 

先程行われた集団戦が無かったかのように、ロスリック周辺は静寂に包まれた。

 

日は地平線に沈み行き、空は二つの異なる月光が辺りを照らす。

 

 

 

「こいつぁスゲェ、あの時とは何もかもが違うじゃねぇか!」

 

 槍使いが周囲をキョロキョロと見廻し、忙しなく首をアチラコチラと動かした。

 

彼だけではない、他の面々も同様だ。

 

皆が物珍しそうに拠点街の景観に見入っていた。

 

無理もない。

 

嘗て此処を訪れた当時、まだ天幕が張られていただけの簡素なベースキャンプ程度であった。

 

それが今や冒険者達の拠点と化し、その様はまさに街と呼べる程に変貌していたのだから、彼等の反応も無理からぬ話だろう。

 

敷地面積は、西方辺境街と比べると些かに劣るだろう。

 

しかし、この拠点街はあくまで冒険者用に興されたモノ。

 

一般人の割合が少ない分、必要な設備を詰め込み人口密度は寧ろ高いと言える。

 

何れはこの拠点街に一般人用の居住区も増やす予定だが、今の所この段階で一段落を迎えていた。

 

「まるで街全体が、繁華街の様だぜ」

 

 夜にも関わらず周囲は、魔法の光りやら灯やらが煌めき、昼間のような明るさを保っている。

 

「ふふふ、そうだろう。思えば貴殿等が来た時はまだ簡素な天幕が在っただけだからな。あれから約一年、此処には多くの冒険者達が訪れ、必然的に発展を遂げ街と呼べる程になった。今の私は、()()も兼ねているのだよ」

 

 調査隊隊長を務めていた正規騎士は、此処の管理も兼任する様になっていた。

 

無論、補佐する専門職の部下は何人も存在するが、今の彼は多忙の極みにあった。

 

加えて連日連夜の小鬼禍――。

 

碌に休暇など取れよう筈も無く、王都に残してきた家族に会う事もままならない状態だ。

 

小鬼禍の始まる少し以前、外套に太陽を描いた騎士が此処を訪れてくれた。

 

彼はその騎士に依頼と称し、家族に宛てた手紙を王都にまで届けさせたのである。

 

「おぉっと、私の現状などはどうでも良かったな、話を逸らして済まん」

 

 彼の与太話は周囲の賑わいに掻き消され、『太陽の騎士』の事は灰の剣士の耳に届く事はなかった。

 

正規騎士は、拠点街と現状を説明しながら更に歩を進め、彼等を冒険者ギルドへと案内する。

 

その道中で擦れ違う周囲の冒険者達――。

 

皆が皆、口々に囁いた。

 

『あいつらが、ロスリックの生き残り――』

 

『当時、白磁等級でありながら全員が生還したって言う、例の奴等か』

 

『なんか弱そう奴ばっかだな』

 

『取り分け、一人の剣士の働きが大きいって、聞いたわ』

 

『確か、灰の剣士って呼ばれてなかった?』

 

『じゃあ、大きい剣を担いだ、あの大男がそうかしら?』

 

『いいえ、きっとあっちの半森人の美男子の方よ』

 

『いや、男とは限らねぇ。あの女騎士だと思うな、俺は』

 

『あっちの古びた鎧兜の彼と、外套の細身の彼は……、まぁ無いわね。取り分け弱そうだし……』

 

 周囲の人々は道行く彼等に、憶測と好機の混じった噂を立てるも彼等の耳には届いていなかった。

 

そして程無くしてギルドへと到着する。

 

「ほわぁ…、此処がロスリックのギルドかぁ~…」

 

 銀髪武闘家が、初めて見るロスリックのギルドを見上げていた。

 

「思っていたより、割と普通…かなぁ?」

 

「なぁに、南方辺境のギルドも大して変わらんかった。大事なのは中身の問題じゃ」

 

 半森人の少女野伏に続き、鉱人の斧戦士が相槌を打つ。

 

彼の言う通り、大都市や王都のギルドでもない限り、外観はそう変わる事はないのだろう。

 

一定の機能を有し、役割を果たせればそれで良いのだから。

 

「それにしても、オッチャン(斧戦士)ソイツ(少女野伏)…鉱人と半森人なのに普通に会話してるのな」

 

 鉱人の少女斥候が、二人のやり取りを見て不思議そうに尋ねて来た。

 

「…?儂らは始めから()()だが?」

 

 斧戦士は、?マークを浮かべながら応える。

 

普段、一党の仲間である森人の男司祭とは、いざ口を開けば他愛のない口論を日常的に繰り広げているだけに、不思議でなかったのだ。

 

思えば、少女野伏が一党に加わった時から普通に話し掛けて来たものだ。

 

最初は鉱人斥候もどう接して良いか分からず、ついつっけんどんな態度を取ってしまったが、今は彼女に対しては普段通りに接している。

 

彼女が半森人なのが原因だろうか。

 

そう言えば、鉱人の斧戦士も森人僧侶に対しては分け隔てなく接していた。

 

森人僧侶は取り乱し、あからさまに動揺していた様は、見ていて笑いを堪える事が出来なかったのを覚えている。

 

まぁ何にせよ、彼女にとって鉱人斧戦士は頼れる同族以上に親近感を抱く事が出来る相手だ。

 

彼女は、それ以上追及する事は無かった。

 

ギルド内に入った一行は各々が寛ぎ(くつろぎ)、その間正規騎士がギルド職員と取り次ぎを行っていた。

 

彼等はギルドに併設されている三階建ての宿で泊まる手筈となっている。

 

「かなりの手練れ揃いのようですね」

 

 重戦士の一党に所属している半森人の軽戦士は、周囲の冒険者達に視線を移していた。

 

彼自身も青玉等級に身を置き、それに見合う実力を有してはいる。

 

しかし周りの冒険者達もそれは同様で、その大半が玉等級の認識票をぶら下げていた。

 

銀等級は居ない様だが、銅等級は何名か散見される。

 

矢張り『ロスリックの生き残り』と言う肩書が珍しいのだろうか。

 

周りの冒険者達も此方に視線を集中させていた。

 

別段、周りが勝手に付けた渾名なのだが、言い様の無い居心地の悪さを禁じ得なかった。

 

中には、人相の悪い無頼の輩も数多く居る。

 

当然、モラルに欠けた人物も居るだろう事は、想像に難くない。

 

しかし、絡まれる気配は微塵も無い。

 

「ほぅ…想定以上に、規律が保たれているな」

 

 女騎士は、ギルドの一角に視線を向けていた。

 

その一角には完全武装した衛兵達が陣取る、守衛の領域(エリア)だ。

 

こう言う遺跡近隣の街は、当然の事ながら実力者揃いの冒険者が数多く集まり、彼等全てが善人とは限らない。

 

等級の高い冒険者は、社会的にも信用を得ているが、その奥底に眠る本性を隠し通す術など路頭に転がっているのだ。

 

数年前、『死の迷宮』と呼ばれた地下に続く遺跡にも、冒険者用の城塞都市『黄金の騎士亭』が存在していた。

 

其処にも数多くの冒険者が”我こそは”と訪れ挑んだ。

 

中には無論、良からぬ欲に駆られた輩も数多く居たものである。

 

そんな城塞都市でも荒事は常に事尽きず、その治安維持には苦心したものだ。

 

それ等を教訓に生かし、ギルドや各種重要な施設には衛兵を置く事にしたのである。

 

無論、治安維持を担う兵士には徹底的な教育を施された者ばかりで、敢えて女性兵士を組み込む事で女性冒険者の相談事や精神的な安定剤にも一役買っている。

 

この拠点街には冒険者達だけでなく、数多くの一般女性も滞在している。

 

ギルドの受付嬢を始め、給士や聖職者や学士――。

 

そして、春を売り男達に一夜の夢を見せる娼婦――。

 

それに先程から肉感的肢体を持つ魔女など、荒くれ者から恰好の視線に晒されている。

 

尤も、本人はそんな状況すら楽しんでいる様に見えるのだが、至高神の信徒である女騎士には到底理解出来るものではなかった。

 

「皆お待たせした。取り次ぎは終わりました故、私に続いて頂きたい」

 

 程無くして正規騎士が戻り、彼の案内で宿へと移動した。

 

 

 

併設された宿の玄室で、正規騎士は皆にこう告げる。

 

「今宵、小鬼の襲撃を防ぐ事が出は来たが、これで終わりとは思えぬ」

 

 彼の言葉に皆一同、頷きで返す。

 

幾ら小鬼を迎撃した処で、あれ等は魔法で生成された個体であり、術者を叩かない限り幾らでも誕生させる事が出来る。

 

可能な限り早期に原因を排除しない限り、この騒動が解決する事はないだろう。

 

「灰の剣士殿、首尾や如何に?」

 

 正規騎士は、小鬼禍を生み出したであろう術者に痛痒を負わせ泳がせた、灰の剣士に成果を聞く。

 

「痛痒を負わせ撤退させる事で、奴の乱れたソウルを記憶する事が出来た。既に居場所の特定は完了している」

 

 痛痒を負わせる事でソウルを一時的に乱し、その流れを把握する事で特徴を記憶すれば追跡は可能だ。

 

水の都の一件以来、彼は更なる修練を積み重ね、ソウルの感知にも磨きをかけてきた。

 

相手が他の大陸や地底奥深くにでも潜伏しない限り、見失う事はない。

 

「肝心の場所だが、奴は『不死街』との呼ばれる奥深くに潜伏している様だ。他に異質のソウルを複数感知出来た。恐らく厳しい長丁場となるだろう」

 

 その術者は不死街に迄、撤退した様だ。

 

以前ゴブリンスレイヤーと孤電の術士とで、不死街の入り口付近にまで到達し、其処から暗黒の塔まで向かったのを覚えている。

 

しかしあの時は、巨大な巻き上げ式の城門から逆方向に向かったが、今回はその城門を潜る必要がある。

 

其処には、ロスリックの高壁とは異なった亡者が徘徊しているだろう。

 

「……となると、陣頭指揮はアンタに頼まざるを得ない訳だ」

 

「可能な限り尽力はする。しかし、私に過信するなかれ。土地勘が有るだけと認識しておいてくれ」

 

 複数の一党で徒党を組んだ今、表向きは重戦士が頭目という事にはなる。

 

しかし、彼はロスリックについて何ら知識を有しておらず、以前の様に実質的な指揮は灰の剣士に委任された。

 

だが、ロスリックの高壁でさえ亡者の配置や挙動に変化が見られ、今の彼を以てしても無事に生還できる確証は何処にも無い。

 

「今回も私は調査隊を率いて、貴殿等に同行させて頂く。足手纏いにはならんつもりだ、宜しく頼む」

 

「承知しました」

 

 正規騎士の本任務は、あくまでロスリックの事前調査である。

 

ロスリックの実情を探り、その情報を王都に伝達するという重要な役割があるのだ。

 

他の一党に同行した日もあったが遅々として調査は進まず、完全に頭打ちとなっていた。

 

しかし、ロスリックの生き残り達と行動を共にすれば、再び調査に進展が期待出来る。

 

そう判断し彼は動向を決め、灰の剣士もそれには反対しなかった。

 

「よっしゃ決まりだな。おい皆、今の内に万全の準備を整えておけ!だが、一人で決して出歩くな!治安は確保されてるみてぇだが、度重なる小鬼の襲撃で士気が乱れてやがる、何時襲われるか分からねぇ、特に女の一人歩きは厳禁だ良いな!」

 

「明日の日の出と共に出陣する。皆、体調管理も怠るでないぞ!」

 

 重戦士と正規騎士は其々指示を出し、明日への方針を打ち出し解散となった。

 

各々は思惑に則って、行動を起こす。

 

 

 

……

 

 

 

ギルドに併設された食堂は、西方辺境の食堂に比べかなり広く、大勢の冒険者が酒に食に舌鼓を打っている。

 

「水の都でも、此処までの賑わいは()()うなかったな」

 

 大都市をも凌駕する賑わいに、同期戦士は感心と呆れを織り交ぜた何とも言えない感情を抱いていた。

 

「おや?水の都に行った事がお有りで?」

 

「ええ、遠征と更なる見聞拡大の為に、あの都市へ向かったのですよ」

 

 禿頭僧侶に獣人魔術師が受け応える。

 

知識神を信仰する彼と、嘗て学院の講師であった彼とは性格も相性が良く、よく話題が噛み合い親しい間柄となっていた。

 

ただ余りに周囲の賑わいが騒がしく、彼等は敢えて隅の席に陣取り食事を楽しんでいたのである。

 

「我々は、其処で銀等級の冒険者と出会い、多くを学び、糧とする事に成功したのだよ」

 

「ほぅ、銀等級とな?」

 

 森人僧侶が語る銀等級という言葉に、鉱人の斧戦士が興味を示す。

 

「ああ、私が話してあげますよ。その街ではですね……」

 

 銀髪武闘家が水の都での出来事を話し出し、鉱人斧戦士はその話を酒の肴に聞き入る事にした。

 

 

 

幾許かの成果を上げ、同期戦士と少女野伏は鋼鉄等級へと昇格する事が出来た。

 

そして予てより計画していた水の都へと遠征する事にし、一党全員を率いて出発したのである。

 

しかし、現実とは無情なもの。

 

以来の内容も異形の質も、辺境の()()とは一線を画し彼等はその厳しさを一身に浴びる事となる。

 

マンティコア一頭を討伐する筈が、突如『オーガ』乱入され、一党は忽ち全滅の憂き目に遭う。

 

通常種とは言え、強大な力を有す巨大な鬼の眷属。

 

マンティコアとの戦いでの消耗に加え、オーガの乱入だ。

 

死人が出なかっただけでも、幸運だったと言えよう。

 

しかし、それも時間の問題――。

 

最早逃げる力も枯渇した彼等には、誰かが囮となるしか助かる手立ては残されていなかった。

 

当然同期戦士が、囮を決意した瞬間――。

 

或る一党が援軍に駆け付け、見事な連携と速さで瞬く間にオーガを打ち倒してしまった。

 

それもその筈、彼等一党は銀等級戦士を筆頭とする熟練の冒険者達であった。

 

巧みな連携と戦術を遺憾なく発揮し、陣頭指揮を執った銀等級戦士に自分の目指す冒険者像を重ねた同期戦士は、恥も外聞もかなぐり捨て彼に師事を乞う。

 

殆ど土下座に近い格好で懇願され、これには銀等級戦士も驚愕したのは無理からぬ道理だろう。

 

彼等は見返りなど求めず、単純な善意で同期戦士等を助けたに過ぎなかったのだから。

 

断るつもりでいたが、同期戦士の熱意と目指す冒険者像を自分に重ねてくれた事を汲んだ彼は、自分の技術と知識を授ける事にし、彼等と徒党を組む事にした。

 

こうして、徒党を組んだ彼は銀等級から様々な知識と技術を授けられる事になる。

 

等級の高い彼等の依頼は無論の事、難易度が桁違いに高く、追従するだけでも命懸けであった。

 

しかし、同期戦士らは諦める事無く彼等に続き、その技量の一切を見逃すまいと吸収していく。

 

それは容易ならざるもので、全てを吸収し自身の血肉へと変える事は叶わなかった。

 

しかし銀等級戦士は、工夫し自分なりに解釈して事合わせる事が肝要であり、何事も真似だけでは円滑には進まないと諭される。

 

その言葉を切っ掛けに、同期戦士の一党は実力を急激に付け始め、特に頭目である同期戦士は鋼鉄等級の中でも指折りの実力者となっていた。

 

そして最後に彼等と行動を共にした依頼は、ドラゴン退治であった。

 

まだ生まれてから年月の浅い若き火竜であったが、その戦闘力は凄まじく討伐は困難を極めた。

 

しかし、斥候等が翻弄し、術士等が援護し、戦士等が着実に痛痒を負わせ、最後の止めは聖職者等による祝福の加護を受けた野伏の()でドラゴンの頭部を見事打ち抜き、討伐したのだった。

 

その実績は銀等級戦士の貢献が多大であった為、同期戦士等の評価には大きく影響する事はなかったが、それとは比較にならない程の知識と技術を得る事ができ、多額の報酬をも受け取る事が出来た。

 

同期戦士は、授業料だと報酬の一部を彼等に返納しようとしたが、成果と実績を『水の都』まで轟かせる事が最大のお礼だと言い、終ぞ受け取る事はなかった。

 

こうして彼等の遠征は幕を閉じ、帰る途中ギルドで灰の剣士と出会(でくわ)し、供に帰還したのだった。

 

 

 

「ほぅ、そりゃ中々の大冒険じゃないか!」

 

 鉱人の斧戦士は、酒を飲むのも忘れ話に聞き入っていた。

 

「ああ、全て先輩のお陰だ!」

 

 同期戦士は、銀等級戦士を先輩と慕い今も敬っている。

 

「そんな立派な冒険者なら、僕も出会ってみたいものです」

 

 男神官も、その冒険者に些かの興味を持ったようだ。

 

流石に一人での行動は自重し、こうして彼等と席を共にしている。

 

些かに控えめにしていた彼等ではあったが、いつの間にか周りの喧騒と何ら変わらない賑やかさで盛り上がっていた。

 

『お取込みの所、申し訳ありません。灰の剣士なる人を探しているのですが、どこに居られるか御存じですか?』

 

 盛り上がっていた矢先、突如冷やかな声を投げ掛けられ、同期戦士達は一斉に声のした方へと向く。

 

其処には白いローブを深く被った、幼い少女が立っていた。

 

「お、おい灰の剣士って()()()の事だよな?」

 

「う、うむ。間違い無いと思うが何用だろうか?」

 

 鉱人斥候と森人僧侶は顔を見合わせ、ローブの少女を訝し気に見る。

 

「なんの用かは知らないけど、アイツを困らせる事をしないって言うんなら案内してやってもいい」

 

「本当に?」

 

 条件付きだが彼女に提案した、同期戦士。

 

「……条件は呑みます。だから案内して頂けませんか」

 

「年の割には物事を理解しているみたいだな。ちゃんと条件は守って貰うぞ?」

 

「約束します」

 

 少女は条件を呑む事を約束する。

 

「悪い、少し外すぜ。金は此処に置いておくから」

 

「――ちょっと、大丈夫?」

 

 少女を案内する為席を外す同期戦士に、少女野伏が心配そうに声を掛けて来た。

 

「ならアタシも一緒に――」

 

 銀髪武闘家も席を立ち、彼に同行を申し出るも――。

 

「護衛の件なら必要ありません」

 

 まだ年端も行かぬであろうローブの少女がきっぱりと断ってきた。

 

彼女からやや離れた位置に、数人の魔術士らしき人物が此方を見ている。

 

「成程、学院の方々でしたか」

 

 獣人魔術師が、ローブの少女に対しそう見解を示す。

 

少女の衣服には、王都に在る賢者の学院の紋様が刺繍されていた。

 

獣人魔術師自身も、嘗て学院の講師を務めていた過去がある。

 

確かに、このロスリックの拠点街に幼い少女が単身赴くのは、少々不自然だ。

 

しかも学院所属でこれ程幼い少女が、ある程度の自由行動を保証されているのであれば、護衛を付けるのは当然の処置と言える。

 

「二人とも、心配しなくていいぜ。俺は案内するだけだから、用が済めば直ぐ戻るさ」

 

 同期戦士は、少女野伏と銀髪武闘家を言い宥(なだ)め、ローブの少女を引き連れ食堂を出る。

 

釣られて数人の護衛魔術師も後に続いた。

 

 

 

……

 

 

 

「よし、これで一通りは揃ったな」

 

「毎度ありぃ!」

 

 灰の剣士はゴブリンスレイヤーを伴い、道具屋から退出した。

 

用が済んだ為、二人は宿へと向かう。

 

「灰よ、加工道具ばかり買い集めていたが、何か造るのか?」

 

 彼が購入した品と思惑が気になり、ゴブリンスレイヤーは訊ねる。

 

「私が、大量の油と火の秘薬(火薬)を持ち込んでいたのは知っているだろう」

 

 彼の言葉に、ゴブリンスレイヤーも”ああ”と返す。

 

以前、ロスリックの高壁に挑んだ際持ち帰った、油と火薬。

 

そしてオーベックから貰った破裂石弾。

 

彼はそれ等を使い、爆裂矢を造ろうと考えていた。

 

火継ぎの時代にも、着弾と同時に爆発させる信管の技術は存在していた。

 

しかし、その技術と知識は非常に専門性が高く、素材も構造も特殊が過ぎ、一部の技術者しか扱え得ない代物だった。

 

この時代にも、信管の類は当然存在するのだが、やはり専門性の高い技術と知識が必須だった。

 

灰の剣士自身も、それに関連した書物を購入し紐解こうとしては見たものの、上手くは行かず技術習得は困難を極めた。

 

独学での限界を感じた彼は、ひとまず断念する事にし、起爆剤にオーベックが開発した破裂石弾を利用する事を思い付いたのである。

 

破裂石弾を火薬と布で包み、それを鏃とした物を使用する。

 

破裂石弾は、破裂(ガンビット)の真言魔法が付与された特殊な石ころだ。

 

衝撃を与える事で破裂し、熱と破片で対象にダメージを負わせる。

 

その性質を『瞬発信管』として利用する事で、矢の命中と共に爆発させ、破壊力重視の爆裂矢を作り出そうと考えていた。

 

信管技術を持ち合わせていない彼等では、精々導火線を作成するのが関の山で、それでは時限式の爆裂矢となってしまう。

 

ロスリックの亡者は、総じて動きの鈍い者が大半だが以前と同じとは限らない。

 

動きの速い亡者や異形が現れた場合も想定し、着弾と同時に起爆させる代物が、どうしても必要だったのだ。

 

破裂石弾単体でも、それなりに効果は期待出来るが火薬を織り交ぜる事により、更なる破壊力向上に繋がるだろう。

 

「今回は『不死街』の奥深くまで侵入する。長期戦や多数の敵に備え、爆発系統の武器を用意しておきたかった」

 

「……確かに必要だな。大砲でもあれば話は別だが、あんな重くて嵩張る物を持ち運ぶ気にはなれん」

 

 ゴブリンスレイヤーの言う通り、爆発の代表格はやはり大砲兵器に軍配が上がるだろう。

 

しかし、あれ等の類は小回りが利かず、重量と運用に多数の資源(リソース)を割かねばならない。

 

とても汎用性に富むとは言えず使いべき局面は、どうしても限定される。

 

ならば軽量の矢に取り付け、任意に撃つ事で爆発させられる方が余程都合が良い。

 

小型軽量な為、威力は限定されるが、それも使い方と戦術次第で幾らでも融通が利く。

 

「あまり数は揃えられんと思うが、出来上がれば君にも分けよう」

 

「ああ。俺も手伝おう」

 

 そんな道行く二人に、ある集団が近付いて来た。

 

 

 

……

 

 

 

常に人の往来が激しい拠点街にも、人気の少ない場所は存在する。

 

殆ど城壁近くの路地裏で、複数人が何やら会話をしている。

 

「……残念だが、それは出来ぬ」

 

「……私が幼いからですか?」

 

 灰の剣士は、ローブの少女に対し拒否の意を示していた。

 

王都に在る学院所属のローブを羽織った少女は、灰の剣士にロスリックへの同行を申し出ていたが、彼はこれを断っていた。

 

「幼い事も含め、貴公を守り抜く保証は出来かねる。況してやロスリックは何が在るかも分からぬ、異界と言っても差支えない地だ。どうやらかなり聡明な頭脳の持ち主且つ、魔術の扱いにも長けている様だが、それだけでロスリックから生還できるほど生易しくはない。同行の目的は、更なる知識の獲得か?」

 

「はい。だからこそ、こうして貴方様に護衛を申し込んでいるのです」

 

「正式にギルドを通せ。私は、冒険者だ」

 

「――っ!」

 

 ローブの少女は尚も食い下がろうとするも、彼は同行させる気など微塵も無い。

 

――あのガキ!言った傍から灰の野郎を困惑させやがって!

 

少女と灰の会話をやや離れた位置から見守っていた同期戦士ではあった。

 

しかし、ローブの少女は灰の剣士を困らせないという、彼との約束を反故にし見事受け入れ難い提案を申し出ていたのである。

 

「嬢ちゃん、好い加減にしなっ!」

 

 憮然とした表情になり、同期戦士は二人の間に割って入ろうとしたが、その手を誰かに捕まれる。

 

「――っ?!」

 

 彼は反射的に掴んだ相手に向くが、その人物は彼のよく知るゴブリンスレイヤーであった。

 

「おい?!何で止めんだよっ?!」

 

「黙って見ておけ。この位で困窮する様なアイツではない」

 

「……」

 

 ゴブリンスレイヤーに阻止され、引き下がった彼は渋々、事の成り行きを見守る事にした。

 

思惑が通らない事にローブの少女は次第に苛立ちを募らせ、とうとう灰の剣士を挑発する。

 

「ロスリックの生き残り筆頭でもある貴方ともあろう御方が、私一人守り切る自身も無いのですか?」

 

「――そうだ」

 

「――なっ?!」

 

 いともあっさりと認め、逆に少女が面食らい困惑の色を見せる。

 

「あの時は偶然と運が重なり、結果的に皆を生還させる事が出来たが今回も同じとは限らぬ。何せ更に奥深く踏み込むのでな、正直私自身も恐怖感は拭い切れんよ」

 

「……」

 

 眼前の剣士が噂通りの実力者であれば、それなりの自負と誇りを持ち合わせている筈だ。

 

そこに付け込み揺さ振りをかける事で主導権を握ろうと試みたが、灰の剣士は微塵も動揺する事はなかった。

 

「な、何ですか、灰の剣士様のイジワルっ!アタシだって、もっと多くの事を知りたいだけなのっ!!ちょっと位、連れてってくれても良いでしょっ?!」

 

 ワナワナと小刻みに全身を振るわせ、少女は涙目になりながら感情のままに食って掛かる。

 

感情のままに叫び我儘を押し通そうとする彼女は、清々しい位に年相応の少女に見える。

 

先程の、落ち着きと歳不相応の振る舞いは綺麗に消え失せ、寧ろ今の彼女の方が灰の剣士にとっては好感が持てた。

 

「ウゥッ……」

 

自分がどれだけ食い下がろうとも主張が通らず、遂に彼女は泣き出してしまう。

 

「……それではこうしよう」

 

「……」

 

 彼は片膝を落とし彼女の目線に合わせた。

 

泣いていた彼女は無言のまま、彼に視線を送る。

 

「ロスリック内で何か資料になる物を持ち帰り、それを君に差し出そう。それで、手を打ってくれないか?」

 

「――?!」

 

 彼の言葉を聞いた瞬間、彼女の目から涙は瞬時に止まり驚きの表情に変わっていた。

 

「ホントに……?」

 

「ああ。だが、あまり期待はしないでくれ。本当に何が落ちているかも予想が付かないし、君の期待通りの品ではないかもしれん。それでもいいのなら…約束しよう」

 

 正直、彼女の期待に沿える自信も根拠も無い。

 

彼女の知識欲を満たせる物が、不死街に落ちているのかどうかも定かでないのだ。

 

「ぜ、是非ともお願い致します!剣士様!」

 

 彼女は深々と頭を下げ、深く一礼をする。

 

「……では、我々はもう行く」

 

 彼も軽く一礼で返し、同行していた彼等《同期戦士とゴブスレ》に声を掛けその場を後にした。

 

去り際、護衛の魔術師達にも軽く頭を下げ、彼等も一礼で応えた。

 

「……」

 

 去り行く彼等にローブの少女は、機体と好奇心の入り混じった目で遠ざかる背中を見送った。

 

「……これで気は済みましたか?」

 

「?!」

 

 突如護衛の魔術師から声が掛かり、驚いた彼女は彼等に向き直る。

 

「全てが、貴方の思い通りになると限りません。貴方がどんなに聡明であっても、あらゆる傲慢が押し通る訳ではないのです」

 

「――そ、その声……まさ…か…?」

 

 一人の魔術師がフードを取り、初老の男が素顔を現した。

 

「――お、お師匠様!何…で……!」

 

 普段冷静な少女も、これには驚愕を隠せなかった。

 

他二人の魔術師も次々とフードを取り、その素顔を晒す。

 

彼等は全て少女の師とも呼べる人物で、彼女がロスリックへと視察に行く事を知り、学院長に頼み込み護衛役に志願し同行していたのだった。

 

「貴方の我儘も今日限りです。あの剣士の帰還を確認次第、学院へと帰還いたしますよ。そして更なる勉学へと励んで貰います、良いですね?」

 

 表情や口調は穏やかではあったが、その眼光は鋭く目は決して笑ってはいなかった。

 

「――……は…はい……!」

 

 その静かにして有無を言わせぬ迫力に気圧され、ローブの少女は直立不動のまま『気を付け』の姿勢で応える。

 

その迫力は、矢張り年の功と言った処だろうか?

 

「では、宿に戻りますよ」

 

 彼等は再びローブを深く被り、少女を引き連れ宿へと戻った。

 

 

 

一方、宿へと戻っていた男三人。

 

「それにしても本当にモテるな、アンタ」

 

()()()、そうと言えるのか?」

 

 同期戦士の言葉を返したのは、灰の剣士ではなくゴブリンスレイヤーだった。

 

「結構可愛らしい子だったじゃねぇか?……性格は…まぁ…アレだったが……」

 

 幼いながらの彼女の容姿を褒める同期戦士であったが、その性格は彼の苦手な部類に入っていた。

 

「望むなら、代わろうか?」

 

 灰の剣士が反応し、自分の立場と代わろうかと提案する。

 

「なに言ってんだ?アンタの代わりなんか務まる訳ねぇだろ?!」

 

「……冗談だ」

 

 同期戦士が慌てて言葉を返し、灰の剣士は”冗談だ”と答えた。

 

「…お前が言うと冗談か本気か推し量れんな」

 

「はは、違いねぇ!」

 

「ふっ……」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に、同期戦士と灰は僅かに笑みで返し、ギルド併設の宿へと帰路に着く。

 

そんな彼等の後を、こっそりと付ける人物が一人……。

 

――あれが、例の剣士……。

 

長い髪を後ろに束ね腰には細身の剣を差した、幼い少女である。

 

ゴブリン襲撃の際、拠点街の城壁の上から観測用の拡大望遠鏡で、彼等の戦いを眺めていた。

 

その中でも特に目を引いたのは、灰の剣士である。

 

自ら先陣を切り、濃密な小鬼の雪崩に切り込み、東国式の曲刀で切り裂いて行く。

 

灰の剣士は、直ぐに奥の進入路へと姿を消してしまい、その戦いぶりを途中までしか見る事は叶わなかったが、彼の勇姿は今も強烈に脳内に焼き付いていた。

 

元々彼女は実戦形式で剣を学ぶ為に、道場の教導官と兄弟子と共にこの拠点街にやって来た。

 

しかし現実はどうだ。

 

小鬼襲撃の時も後方へと追いやられ、稀に侵入した小鬼も兄弟子や教導官が斬り伏せてしまい、結局自身は一度も剣を抜く事はなかった。

 

もう直ぐ滞在期間が過ぎ、王都の道場に帰還する日も近付きつつある。

 

このままでは、何の収穫も得られないまま拠点街を後にする事になるだろう。

 

これでは何の為に此処まで赴いたのか、意義が見出せないではないか。

 

一応予定ではメンバー全員がロスリックに侵入し、それを総仕上げとして引き上げる事にはなっている。

 

だが、今迄の流れから彼女の予想が正しければ、自分は間違い無く最後尾に追いやられるだろう。

 

いや、下手をすれば最悪自分だけ、このまま留守役を命じられる可能性もある。

 

それだけは、何としても避けねばならない。

 

予定では出発は明日だった筈だ。

 

幸い灰の剣士達も、明日ロスリックへと出撃する情報を得ている。

 

見習い少女剣士は、宿に戻り行く彼等の背中を見据え、決意を固めた。

 

――面倒な事が起きなければいいがな……。

 

灰の剣士だけは尾行されている事に感付き、静かに軽く溜息を吐く。

 

 

 

こうして夜は更け、翌日となった。

 

 

 

……

 

 

 

空はまだ薄暗く、夜のほとぼりも覚め切らぬ時間帯。

 

未だ水平線からは太陽の姿は見えず、僅かな淡い光が夜空を染め上げるだけだ。

 

「おぅしっ!寝坊した奴は居ねぇなっ?!」

 

 重戦士がメンバー達を見廻し、全員揃っている事を確認する。

 

「全員、準備万端にして気合充分だぜっ!存分に頼りなっ!」

 

 槍使いが不敵な笑みで、応える。

 

少々軽い面が目立つ男だが、実力と実績を備え陰鬱となりがちなロスリックでの探索に於いては、彼の人格は寧ろ有難いと言えよう。

 

「今回は二度目のロスリック探索となる。第一の主目的は、小鬼禍(ゴブリンハザード)の原因と首謀者を突き止め、それ等を排除する事にある」

 

 続いて灰の剣士が、ロスリック探索についての目的を説明した。

 

「目星は付いているのだな?」

 

「無論だ」

 

 女騎士の質問に、彼は短く返事を返す。

 

首謀者は『ロスリックの高壁』を抜け、『不死街』の奥深くで陣取っている。

 

恐らく其処で、奴は拠点を構えているのだろう。

 

「今回は不死街まで侵入する。今迄とは勝手の違う状況に遭遇する事を、念頭に入れておいてくれ!私も最善を尽くすが、同時に皆の力もアテにさせて貰うぞ!」

 

 再び『不死街』の危険性を唱え、全員に奮起を促す。

 

「おっしゃ、久々の大冒険。腕が鳴るわい!」

 

 その言葉に気合充分の、鉱人斧戦士。

 

「へへっ、オッチャンとアタシが組めば怖いもんなしさっ!」

 

「やれやれ、少しは緊張して貰いたいものだな。新たに奇跡と技術を得た私の力が役に立とう」

 

 鉱人の少女斥候の言葉に、森人僧侶が皮肉で返す。

 

「こ、こんだけ大人数で行けば、大丈夫だよね?」

 

「それでも安心し切れないのが、ロスリックの遺跡なの」

 

「それだけに、新たに学ぶ領域も御座いましょう」

 

 やや不安気な銀髪武闘家に、半森人の少女斥候と獣人魔術師が応えた。

 

「よ、よぉし…訓練の成果を見せてやる!」

 

「焦っては駄目ですよ。慎重に行きましょう」

 

 ロスリックの怖さを知っている少年斥候と圃人の少女巫術士は、不安ながらも何とか自身を振るい立たせる。

 

「嘗ての仲間達の弔いも兼ね、再び挑ませて頂きます」

 

「今度は、私達も付いているのです。必要な時は存分に頼って下さい」

 

 青玉等級だった当時の仲間をロスリックで失った男神官に、禿頭僧侶が励ましの言葉を掛けた。

 

「あな、た、だいじょ、うぶ、なの?」

 

「生者だろうが亡者だろうが関係無い。ゴブリン共は…皆殺しだ!」

 

「……貴方はブレませんね」

 

 魔女の呼び掛けにゴブリンスレイヤーは何なく応え、普段通りの様子に半森人の軽戦士は、安心するやら呆れるやらである。

 

「全員、頭防具は所持しているな!物陰からの奇襲には気を付けろよ!」

 

 同期戦士はメンバー達に、頭防具の有無を再確認させた。

 

今回全員が各々の頭防具を装着し、あの槍使いまでもが鉢金を装備していた。

 

「我々も準備は良いな?彼等の助力を機に、我々の任務を進展させるぞ!」

 

 彼等に同行する、正規騎士率いる調査隊。

 

「物資の準備、問題ありません!」

「全員の体調管理も万全であります!」

「陣形、戦術、方針の再確認、完了致しました!」

 

 彼の呼び掛けに、兵士達は各々が万全の態勢である事を伝える。

 

この兵士達は、日夜訓練を受けた部下の中でも厳選された精鋭揃いである。

 

「宜しいっ!冒険者達に後れを取るでないぞ!」

 

 部下の報告を聞いた正規騎士は、再度部下達に奮起を促す。

 

これで全ての準備は整った。

 

「それでは出撃する。全員、私に続けぇっ!!」

 

『『『『『――応っ!!――』』』』』

 

 灰の剣士が先頭に立ち、皆が勢い良くそれに呼応し後に追従した。

 

その後、彼等は拠点街の正門を潜り、真っ直ぐロスリックへと向かった。

 

 

 

「おい、行ったぜ。アイツ等……」

 

「ロスリックの生き残り組の実力とやら、とくと拝見させて貰おうじゃないの!」

 

 まだ日も上り切っていないと言うのに、拠点街には多くの冒険者達が屯していた。

 

「丁度良い。アイツ等に露払いをして貰い、上手く行けばお宝にあり付けるかも知れねぇな!」

 

「彼等を利用するって言うのは些かに気が引けるけど、私達も生活が懸かっているのよ。悪く思わないで」

 

 彼等もまた、ロスリックに挑む為、この拠点街へと訪れた冒険者達であった。

 

強大な亡者達に阻まれ、一向に探索が進行しない事に痺れを切らせた彼等――。

 

灰の剣士を筆頭とする『ロスリックの生き残り組』の便乗を画策し、そのお零れに(あや)ろうとしていた。

 

本来実力者揃いの彼等であったが、探索が難航し形振り構っていられなくなっていたのだ。

 

複数の一党が、灰の剣士一行の後にこっそりと続く。

 

その中には、見習い少女剣士の一党も参加していた。

 

 

 

「この前と同じ進入路を辿るぞ。皆覚悟はいいな!」

 

 先頭を務める灰の剣士は、以前ロスリックへ挑んだ同じ進入路を辿る。

 

――この四方世界で、此処へ挑むのは三度目だな。

 

過去に一度、孤電の術士とゴブリンスレイヤーと共に、此処へ侵入した過去があった。

 

あの時は暗黒の塔へと向かい、見事彼女の悲願を果たせた訳だが、今回は何が待ち構えているのやら。

 

恐らく今回も、一筋縄ではいかないだろう事は、身を以て嫌という程経験している。

 

そう言えば、昨晩の小鬼もこの進入路を使って襲撃して来た。

 

彼は初戦から敵陣へと切り込み、並み居る小鬼を斬り伏せたが、その死体は綺麗に消え去り牙や爪だけが地面に転がっている。

 

高壁入り口に到達し、再び閉ざされていた鉄扉に手を掛ける灰の剣士。

 

「いよいよだ、皆!開けるぞっ!」

 

 彼は力を込め、重く圧し掛かる扉をゆっくりと開ける。

 

鉄の軋む音が皆の耳を不快に打ち、その音が否が応にも緊張と不安を助長させた。

 

メンバーの一部はゴクリと唾を飲み、喉を鳴らす。

 

ロスリックへと挑む日が再び到来したのだ。

 

今度は冒険者組18名、調査隊5名の総勢、23名。

 

この人数で、挑む事になる。

 

 

 

故郷の流れ着く地ロスリック――。

 

 

 

その生き残り達の挑戦が、再び幕を開けた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

放つフォース

 

 白教の知らぬ、辺境の奇跡の1つ

 フォースが別の形で伝わったものと考えられ

 カタリナの流儀として知られる奇跡。

 衝撃波を前方に投げつける。

 

 酒と謳歌の国の人々は率直である。

 たとえそれが怒りの類であっても

 待つのではなく、ぶつけるのだ。

 

 多少の殺傷力を有すが、攻撃を嫌う地母神も

 この奇跡は許容に値する様だ。

 

 白教の奇跡は、僅かにだが認知されている。

 この国の何処かには小さな祠がひっそりと佇み

 信仰する人々が確かに存在するのだ。

 

 

 

 

 

 




 再びロスリックへと挑む、冒険者集団です。
今度は不死街へと向かい、人数も前より増えています。
そして、ロックイーター戦で離脱した、斧戦士と禿頭僧侶が帰還致しました。
密かにオリキャラである、男神官も加わっています。

地味に、幼きあの二人も登場させました。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
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