ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 かなり寒くなってきました。
布団から出たくなくなる季節が再びやって来た。

今年はかなり冷えそうですね。:( ;˙꒳˙;):

では投稿致します。



第63話―ロスリックのゴブリンハザード7(不死街 亡者の穴倉 決着)

 

 

 

 

 

 

熱波(ヒートウェイブ)(精霊術)

 

 赤い死の風、毒の風、風精(シルフ)の怒りを御覧じろ

 

 術者を中心とした範囲、または指定した範囲を高温で焼き尽くす魔法。

 放たれた魔力は熱波へと変換される。

 触媒は、砂、虫や鳥の羽。

 

 精霊魔法は、環境にも大きく左右される。

 一般には、自然に近しい環境が力を発揮できると認知されていたが

 近年、都会にも力を見出す者が増えつつある。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 呪腹の大樹より生え出た一対の白い腕。

 

巨大で異様なその呪いの産物は一人の男、灰の剣士を容赦なく締め上げる。

 

想像を絶する握力が彼の身体、特に上半身に圧し掛かり攻め立てた。

 

「――~~~~……!!?」

 

 その余りの苦痛に、彼は声にならない声を張り上げる。

 

その苦しみは筆舌にし尽くし難く、彼の思考すら奪い去った。

 

「あ…ああぁ……な…なんとか…しない…と……」

「……ど…どうすりゃいいんだ…よ…」

「この…ままじゃぁ…アイツ……」

 

 他の戦士職の面々も眼前に繰り広げられた絶望に冷静さを欠き、真面に動ける者は一人も居なかった。

 

「い…いやぁ…お…お願い…頭目…さ…ン……、剣士さ…んを…、助けてあげ…て……あ…アタ…しの所為…で…」

 

 最早懇願に近い形で、同期戦士に救助を願い出る銀髪武闘家。

 

灰の剣士が自分を庇った所為で、今死に行こうとしている。

 

叶うなら自分の力で、彼を助け出したい。

 

しかし、異様に巨大な白い腕に、彼女には成す術も無く絶望的な状況に涙すら浮かばなかった。

 

こうしている間にも彼の身体は締め上げられ、状況は悪化するばかり。

 

――その時である。

 

『――アルマ(武器)…、フギオ(逃亡)…、アーミッティウス(喪失)!!』

 

 狼狽える戦士職の面々の後方から、詠唱する声が響き渡る。

 

それも複数人の声だ。

 

 

 

『『『『―― 無手(クラムジー) ――』』』』

 

 

 

詠唱を終えると同時に、真言魔法『無手』が発動した。

 

すると呪腹の大樹の白い腕から、灰の剣士が滑り落ち彼は地面へと落下する。

 

「――今の内です!彼を退避させて下さい!」

 

 獣人魔術師が皆に向かって叫び、その声で戦士職のメンバー達は我に返った。

 

「俺に任せろ!」

 

 重戦士が、彼を担ぎ上げ獣人魔術師の元へと駆け、同時に新たな魔法が発動する。

 

『『『『―― 粘糸!!(スパイダーウェブ) ――』』』』

 

 またもや複数の魔術師からの呪文が発動し、拘束の魔法が白い腕を絡め取った。

 

「ふぅ…、どうやら間一髪で間に合ったようですね!」

 

 獣人魔術師が、汗を拭い軽く息を吐く。

 

「よっしゃっ!救出は成功だ!アタシらの方も、剣士の方もな!」

 

 鉱人斥候は得意気に胸を張る。

 

呪腹の大樹との戦闘中、彼女等の活躍で大勢の人質は助け出され、その中には冒険者も多数捕まっていた。

 

その冒険者から魔法使いが複数人居た為、彼等と協力し、こうして呪文を行使しているのである。

 

現在は、複数人が行使した『粘糸』の拘束魔法で白い腕を縛り上げ、呪腹の大樹の動きは停止していた。

 

「――動きが止まっている今の内に、皆も退避して下さい!」

「――我々で、可能な限り彼を回復させましょう!」

 

 獣人魔術師が皆にも退避を呼び掛け、禿頭僧侶たち聖職者が総動員で灰の剣士の治療に当たった。

 

彼自身の骨は大半が損傷し、牢獄から救出された複数人の聖職者の力も借りて、幾らか動ける程度には回復する。

 

「…う…うぅ…す…すまぬ…。とんだ失態を――」

「――そ、そんな事ないよぉっ…!あたしの…あたしの所為でっ……!」

 

 意識を取り戻した彼の言葉を遮り、銀髪武闘家は涙声で抱き着いた。

 

「……」

 

 そんな彼は返す言葉が思い付かず、彼女の頭を穏やかに撫でる事しか出来なかった。。

 

「…で、先生。何か策は?」

「ええ、聴いて貰えますか!」

 

 打開策を訪ねる同期戦士に、獣人魔術師は説明を始めた。

 

 

 

鉱人斥候が主導となり、多くの人質が解放され中には多数の冒険者達も含まれていた。

 

その何割かは、火薬や黒火炎壺と言った可燃物を所持しており、手持ちを揃えると結構な量に至った。

 

そして運動力に優れたメンバーが、胞子部分にそれぞれ仕掛け同時に起爆させる。

 

その際、全ての胞子部分を同時に破壊出来るかがカギとなるが、限定的に密閉空間を拵える事で爆発力を増す事が可能となる。

 

開けた場所では爆発の熱量と圧力が霧散してしまうが、密閉空間なら力は拡散せず圧力は比較にならない程に増す。

 

密閉空間は、聖職者の奇跡『聖壁(プロテクション)』で作り出す事が可能だ。

 

しかし呪腹の大樹の様な、巨大な異形を閉じ込めるには相当数の聖壁が必要となり、とてもではないが現時点では不可能だ。

 

そこで聖壁の形を変え、三角形へと変形させ三角錐を構築する。

 

その形なら引き延ばす事で最低三枚あれば、密閉空間を生み出す事が可能だ。

 

ただ、聖壁本来の形を引き延ばし薄くさせる事は同時に強度の低下を招き、維持できる時間が極端に低下してしまう。

 

その為この作戦は時間が限られ、スピードが要求される。

 

先ず胞子部分に爆薬を仕掛け速やかに離脱。

 

その後、二枚の聖壁で敵の両脇を挟み込み動きを拘束。

 

そして火の精霊魔法『熱波(ヒートウェイブ)』で爆薬を同時に発火させ起爆させる。

 

この精霊術は、広範囲を高温で焼く事が出来る術だ。

 

起爆と同時に三枚目の聖壁で三角錐の密閉空間を生成させ、呪腹の大樹を爆散させると言う作戦だ。

 

 

 

「いい作戦だと思うが失敗したらどうすんだ?正直もう余裕がねぇぞ」

 

 槍使いが作戦失敗した場合の、行動方針について言及する。

 

「……その場合は最悪撤退ですね、不本意ですが」

 

 獣人魔術師は苦々し気な表情だ。

 

「失敗よりも成功に注力すべきだ。爆薬を仕掛ける役はどうする?」

 

 ゴブリンスレイヤーが役割分担について尋ねる。

 

当然と言えば当然だが、仕掛ける役割は戦士職が担う事になり、脚力も要求されるだろう。

 

しかし十数か所の胞子部分に仕掛けるには少々人数が不足していた。

 

――ともなれば、後は救助された冒険者達に期待するしかないが、彼等と真面に連携できるかは正直疑問符が残る。

 

「……私も…やろう。仕掛ける位なら何とかなる……」

 

 ゆっくりとだが灰の剣士も立ち上がり、仕掛け組に志願した。

 

それを聞いた銀髪武闘家や同期戦士達が難色を示すが、獣人魔術師は彼の主張を受け入れる。

 

今は少々無理をしてでも、灰の剣士には動いて貰いたかった。

 

「さて…せめて後一人……」

 

 後一人勇猛果敢な戦士が居てくれれば事は足りるのだが、調査隊の面々は邪教徒との戦闘中で期待は出来ない。

 

となれば、動揺している戦意に乏しい冒険者達から選出するしかない訳だが……。

 

「……『粘糸(スパイダーウェブ)』の拘束も、そろそろ限界が近い筈です、どうする…!?」

 

 獣人魔術師は、呪腹の大樹を拘束している魔術師達に目をやりながらも頭を悩ませる。

 

実際、粘糸で拘束している魔術師達の表情には余裕が無く苦し気だ。

 

迫り来る時間の中、彼等の後方からガチャリガチャリと、甲冑を纏った足音が聞こえて来た。

 

 

 

『その役割、是非ともこの私も加えては貰えんか!』

 

 

 

声のした方角に灰の剣士達は振り返り、その瞬間彼の表情は驚愕に彩られた。

 

 

 

 

波打つ丸みを帯びた鎧兜――。

 

その手には、刃付きの丸盾とバスタードソード――。

 

その出で立ちは、まるで玉葱を彷彿とさせ――。

 

玉葱に似た騎士の声は、忘れようもない陽気さと勇猛さに満ち溢れた()()()の声だった。

 

 

 

『カタリナのジークバルド!遅参の段…御免なれ!』

 

 

 

「まさか……ジークバルド……、あの()()()()()()なのかっ?!」

 

 懐かしい嘗ての姿に灰の剣士は動揺しながらも彼の元へ駆け寄ろうとするが、彼はそれを手で制す。

 

「……再開を懐かしむのは後だ。今は眼前の脅威を討ち払わねばならぬ!」

「……そうだったな。私とした事が、取り乱してしまった」

 

 思いもよらぬ旧友の登場に少々混乱してしまったが、彼は当初の目的を果たす為、呪腹の大樹に向き直った。

 

「何者かは存じませんが、これで役者は何とか揃いましたね。では作戦開始と行きましょうか!」

 

 獣人魔術師の言葉に仕掛け組は表情を強張らせ、突撃体制へと移った。

 

彼等の手には、それぞれ爆薬が握られている。

 

「皆さん、仕掛けたら速やかに退避!良いですね!」

 

「よし、覚悟を決めたな!全員、私に続けぇっ!!」

 

 獣人魔術師の後に灰の剣士が号令と共に、呪腹の大樹へと疾走し他の面々も彼に続いた。

 

「は…早く…して…くれ…!」

「く…限界…だっ…!」

「お…ねが、い…、も、もう…」

 

 粘糸で呪腹の大樹の動きを封じていた魔術師達にも限界が迫っている。

 

仕掛け組は、全力で胞子部分へと殺到した。

 

「よし、此処だな!」

「さっさと仕掛けるぜ!」

 

 斥候組は自慢の身軽さを生かし、速やかに胞子部分へ爆薬を仕掛ける。

 

布袋に詰められた爆薬を楔で突き刺す事で胞子部分へと縫い付け、それを確認し次第、彼等は手際よく颯爽と離脱した。

 

それに続くように、他のメンバー達も次々と爆薬を縫い付けては其処から退避し、呪腹の大樹から離脱する。

 

「よし、事は順調だな。残りは…彼女だけか…」

 

 灰の剣士は既に仕掛けを終えていたが、皆の成功を見届けてから離脱する為、敢えて現場に残っていた。

 

「う…結構高い所に在りますね…この気持ち悪いの……」

 

 身軽で敏捷性にも長けた銀髪武闘家は、比較的仕掛け難い高所を担当しており少々手間取っていたが、悪戦苦闘しつつも何とか胞子部分へと縫い付けに成功する。

 

「や、やった!」

「よし!早く離脱せよ!」

 

 彼女の成功を確認し、灰の剣士は退避を促す。

 

言われる迄も無く彼女も呪腹の大樹から退避を試みる――。

 

――が。

 

 

 

――神さま、神さま。

 

サイコロ振って遊びましょ。

 

六が出たならバンザイ喜び踊り――。

 

一が出たなら――。

 

 

 

―― イチガデタナラ ――

 

 

 

盤外の場、その領域では神様達が今日も今日とて骰子遊びに興じています。

 

数多の冒険者側を担当していた幻想を始めとした神様達が、次々と骰子を振り冒険者達を成功に導いていました。

 

呪腹の大樹に残っているのは、灰の剣士と銀髪武闘家のみ。

 

灰の剣士は既に『賽振らせぬ者』と化している為、骰子の出目に左右されるのは実質銀髪武闘家の彼女だけとなります。

 

幻想の神も、たまには趣向を変え、普段サイコロを振らない誰かにやらせてみようと考えていました。

 

彼女は周囲をグルリと見回します。

 

彼女の目に付いたのは二柱の神――。

 

太陽の光の神(大王グウィン)

 

黒い鳥の神(レイヴン)

 

彼女は暫し思案に耽った結果、黒い鳥の神に骰子を振らせてみる事にしました。

 

『ん…僕かい?ま、たまには良いかもね』

 

 彼もその案を受け入れ、嘴で骰子を加えて2個(2Ⅾ6)転がしました。

 

カロン、コロン、と床を転がる二つの骰子。

 

その出目に神様達は視線が釘付けとなっています。

 

『あ…』

『あ…』

『『『『『あ…』』』』』

 

 

 

二つの骰子の出目に、幻想真実を始めとする他の神様達は、ひどく場違いな声を上げてしまいした。

 

その結果とは――。

 

 

 

1、1。

 

 

 

つまり。

 

 

 

ファンブル(大失敗)

 

 

 

……

 

 

 

「あ…」

 

「あ…」

 

『『『『『あ…』』』』』

 

 再び舞台は四方世界にて――。

 

灰の剣士を始めとする面々は、銀髪武闘家の置かれた現状にひどく場違いな声を漏らしていた。

 

爆薬を仕掛け終え離脱しようとした矢先、彼女の脚が入り組んだ枝部分に絡まってしまったのだ。

 

「…え…え…?」

 

 思いもよらぬ結果に、周囲の人々は一瞬だが思考が停止してしまった。

 

しかし最も困惑していたのは、誰でもない銀髪武闘家本人だろう事は想像に難くない。

 

「――!いかんっ!」

 

 近くに居た灰の剣士は即座に彼女の元へと駆け寄り、絡まった足を引き抜こうと試みる。

 

「――うっ…くぅっ…痛っ!」

 

 複雑に絡み合った大小様々な枝は、彼女の脚を締め上げ一向に抜ける気配が無い。

 

まるで枝自身が”逃がすまい”と自らの意思で締め上げているかのようだ。

 

否、実際に()()なのだろう。

 

「くそっ…早くしないと…!」

 

 無理やりにでも彼女の脚を引き抜こうと躍起になる灰の剣士。

 

「――あぁっ!!い…痛いぃっ…!」

 

 しかし足掻けばば足掻く程、彼女脚はますます枝に絡み付き状況が悪化する一方だ。

 

「――こうなったら俺もっ!」

 

 既に退避し、遠間から見守っていた同期戦士も加勢しようと再び彼等の元へと駆け寄ろうとしていた。

 

『――来ちゃ駄目です!頭目さんっ!!』

 

 しかし銀髪武闘家自身が、加勢を拒否。

 

「…もう行って下さい、剣士さんもっ……」

 

 彼女は、今も引き抜こうと悪戦苦闘する灰の剣士にも、そう告げる。

 

「――最後まで諦めるな!」

 

 彼は尚も、ナイフで枝を切り落とそうと何度も試みているが、刃が徹る気配はなく欠けていくばかりだ。

 

「ごめ…なさい…足引っ張ってばか…りで……」

 

 彼女は涙を溢れさせ声を震わせながら、痛む脚を抑えながら彼に謝罪する。

 

「……」

 

 彼女の言葉に彼は暫し無言でいたが、やがて欠けたナイフを手放した。

 

「もう…行って…剣士さん…、今迄ホントに……あり…がと…う……」

 

 涙ながらの作り笑顔で彼女は礼を述べる。

 

 

 

”一旗揚げて来るね”

 

 

 

そう言って両親に別れを告げ、村を飛び出した。

 

父は武闘家で、昔は冒険者をやっていたという話を聞いた。

 

いつかは自分も冒険者に憧れる様になった。

 

時折訪れる吟遊詩人の英雄譚を聞き、それは目標へと変わり両親へ本心を打ち明けた。

 

当然(特に母)からは、猛反対されたが日増しに願望は強まり、諦める事が出来なかった。

 

”ならばせめて”と父から格闘術の手解きを受け、鍛錬に明け暮れた。

 

それから15歳となり、彼女は村を発ち冒険者と成る。

 

様々な人々と冒険と出会い、失敗や成功を積み重ね仲間と苦楽を共にしてきた。

 

その過程で冒険に失敗し、道を断念した人達も見てきた。

 

若しかしたら、何時かは自分にも訪れるのかも知れない。

 

それが今日、()()()()で迎えようとは――。

 

怖い……。

 

本当に怖い……。

 

死ぬのが怖い――。

 

 

 

今日の今日まで、彼女は真面な苦痛を体験した事は無かった。

 

気が狂わんばかりの苦しみを味わったのは、このロスリックが()であった。

 

死ぬ時はあんな苦しみを味わいながら死んでゆくのだろうか。

 

そう考えた途端、恐怖の感情が内から吹き出でんばかりに溢れ返る。

 

彼女は歯をガチガチと鳴らし、これから訪れんとする余りの恐怖感に涙すら止まる。

 

自分は死ぬんだ。

 

独りで……。

 

最早何も考えられなくなり、彼女の瞳は宙を泳ぐ。

 

――その時である。

 

 

 

「―― 作戦続行っ!!()()()()爆破しろぉっ!!!!

 

 

 

灰の剣士から解き放たれた言の葉――。

 

その言葉に、誰もが彼の正気を疑う。

 

「――何を言い出しやがるっ……!」

「――アイツまで心中する気かっ?!」

 

 彼の言葉に同期戦士や槍使いが、彼を睨み付け駆け寄ろうとした。

 

「――よしっ!俺も行くぜ、三人で力を合わせりゃ何とかなんだろ!」

 

 灰の剣士の馬鹿げたな言葉に重戦士も見かね、参加しようとする。

 

「その必要はない!…お前も術の集中を乱すなよ!」

 

 横から女騎士が意気込む彼等を制止させ、『熱波(ヒートウェイブ)』の集中を切らさぬよう、少女巫術士にも念を押した。

 

「おいっ、お前まで何言いだしやがる?!」

「アイツ等を見殺しにする気かっ?!」

 

 重戦士や同期戦士は当然の如く彼女に猛抗議した。

 

「……冷静になれ!今アレを逃し、万が一ロスリックの外へと解き放たれてみろっ…、ボルドの脅威を忘れた訳ではなかろうっ!!」

 

 彼等の抗議に彼女も言葉を返し、重戦士を始めとした三人は押し黙ってしまう。

 

あの時金鉱山で、多大な犠牲を払いながらも『冷たい谷のボルド』を辛くも討伐できた。

 

もし呪腹の大樹がロスリックの外で暴れ回ろうものなら、一体どれ程の被害が齎されるのか。

 

下手をすればボルド以上の脅威となる可能性も孕んでいるのだ。

 

「くっ…だ…だけどよぉ…、アイツに助けられた事もあったじゃねぇか……」

 

 弱い口調になりながらも、同期戦士は何とか女騎士に食い下がろうとする。

 

確かに彼の弁にも一理はあった。

 

此処に居る誰もが過去に灰の剣士の助力を得て、依頼を成功させた事があったからだ。

 

「彼を信じろ…!私は信じる!!」

 

 しかし、彼女の意志は固く灰の剣士に向けられた視線には、確かな信頼感を滲ませていた。

 

「し…しかし…!」

 

 未だ心が揺らいでいるのか、重戦士の表情は困惑気味だ。

 

「私もそこな女人の意見に賛成だ」

 

 落ち着いた口調ながらも確かな意思の籠もった賛同の言葉――。

 

カタリナのジークバルドだ。

 

「私は彼を良く知っている。故に、この程度の苦難で果てる御仁に非ず!」

 

 更に言葉を付け加え、灰の剣士を信じるように説得を続ける。

 

「俺も同意見だ。アイツの手をよく見てみろ!何か()()積りだ!」

 

 ジークバルドに続いたのは、ゴブリンスレイヤーだった。

 

彼の言う通り皆が呪腹の大樹に向くと、灰の剣士の手には剣ではなく杖が握られていた。

 

「剣士のアイツが()を……?」

「策が有るのか、アイツ…?」

 

「私も作戦続行を支持します。撤退はあくまで最終手段!此処でアレ(呪腹の大樹)を仕留め損ね、ロスリックの外に放逐でもされようなら、我々の冒険者生活はその時点で終わるかも知れないのです!」

 

 困惑気味の重戦士や槍使いに対し、獣人魔術師は作戦続行を望んでいる。

 

彼の言う通り、全てを投げ捨て撤退するのは、真に万策尽きた場合の最後の策だ。

 

少しでも討伐の可能性が有るのなら、彼はそれに賭けていた。

 

「……しょうがねぇっ!先生までそう言うのなら、アイツを信じてみようじゃねぇか!……俺等の仲間を頼んだぜ灰の野郎!」

「二人とも生きててくれよっ!!」

 

 同期戦士と槍使いも決意を固め、灰の剣士を信じる事にした。

 

 

 

彼の手には魔法の杖『孤電の杖』が握られていた。

 

「……あ…あの…剣士…さん?」

 

 そんな様子に銀髪武闘家には、彼の行動が不可解に映っていた。

 

「貴公を独りにも死なせもせぬ。私を信じろ、生き残るぞっ!」

「……灰の…剣…士……」

 

 呆然と見つめる彼女を余所に、彼は先ず呪術の火を発動させた。

 

『鉄の体』

 

 術の発動と共に、彼女の身体は一瞬にして鋼鉄へと変貌する。

 

「…えっ…、今の…何…?」

 

 術を掛けられた彼女の身体は異様な程に硬質化し、思うように動く事が出来ずにいる。

 

灰の剣士が行使したのは呪術の火の一つである『鉄の体』と呼ばれる術だ。

 

これは文字通り対象者の身体を鉄へと変え、あらゆる耐性を大きく引き上げ代償に動きが鈍重化する。

 

一先ず彼女に関しては、これで良いだろう。

 

少なくとも密閉爆発で爆死する事は無くなった筈だ。

 

残るは自分自身。

 

既に集中力(FP)の大半を使い果たし、術の行使も後1~2回が限度だ。

 

彼は意識を集中させ、孤電の杖に手を翳す。

 

「――蓄電(チャージ)!」

 

――私の乏しい理力で何処まで耐え切れるか!頼むぞ、孤電の杖よ!

 

嘗て孤電の術士より賜った、特殊な効力を持つ魔法の杖。

 

後に盤外の世界の一つでもある『魔術師の世界』にて、彼女と再会し杖の使用方法を学んだ。

 

その真価が()発揮されようとしていた。

 

杖に魔力を溜める事で、条件を満たさずとも限定的にだが大魔法を行使する事が出来る。

 

孤電の杖に備わった特殊効果の一つだ。

 

「お、おい、まだか!?」

「早くしてくれ、聖壁の集中が……」

 

 二人の聖職者は、熱波の発動を急かす。

 

ただでさえ集中力を要す聖壁の奇跡。

 

それを無理やり形を変え引き延ばしているのだ。

 

維持するだけでも多大な負担を強いる。

 

呪腹の大樹の左右両脇には巨大な三角形の聖壁が挟み込み、大樹の動きを封じていた。

 

しかし、聖壁が消失するのも時間の問題となっている。

 

「もう少しだけ持ち堪えて下さい!」

 

『『『『『……赤い死の風…、毒の風…、シルフ(風精)の怒りを御覧じろ……!』』』』』

 

 少女巫術士を始めとした複数人の精霊術師達が、精霊に呼び掛け『熱波(ヒートウェイブ)』の発動準備を終えようとしていた。

 

救出された冒険者の中には、精霊魔法の使い手も複数人居た為、彼等にも助力を要請していたのである。

 

彼等の士気は低かったが、”生きて帰る為なら”と力を貸してくれる事となった。

 

「最後の聖壁(プロテクション)…、タイミングは任せましたよ!」

 

「ええ!お任せをっ!」

 

 熱波による起爆と同時に、三枚目の聖壁で完全な密閉空間を作り出す。

 

最後の聖壁を発動させる役割は、男神官に委ねられていた。

 

獣人魔術師の呼び掛けに、男神官は集中しながらも力強く応える。

 

そして精霊術師達の詠唱が終わり、いよいよ術が発動されようとしていた。

 

 

 

熱波(ヒートウェイブ)!!』

 

 

 

術者達から、高熱の波が放たれた。

 

その熱波は呪腹の大樹を包み込み、忽ち周囲を高温で覆い尽くしながら胞子部分を焼き、縫い付けられた爆薬にも引火する。

 

熱に反応した全ての爆薬は一斉に起爆――。

 

聖壁(プロテクション)!!』

 

 爆発のタイミングを見極め、男神官が三枚目の聖壁を発動した。

 

そして三枚の聖壁が組み合わさり形成される、三角錐の空間。

 

その空間の中には、呪腹の大樹と一組の男女が閉じ込められていた。

 

密閉空間の中では凄まじいまでの大爆発が起こり、逃げ場の無い爆圧と高温が荒れ狂い内部を駆け巡る。

 

その振動は『亡者の穴倉』全体を揺らし、爆発の威力を物語っていた。

 

聖壁の内側では、呪腹の大樹は疎か彼等の姿も確認できる状態ではなく、中では何が起こっているのかも分からない状態だ。

 

 

 

 

 

―― HEIR OF FIRE DESTROYED ――

 

 

 

 

 

………

 

……

 

 

一瞬?永遠?

 

どれ程の時が経過したのだろう。

 

辺りはシンと静まり返り、呪腹の大樹が居た地点には何も残ってはいなかった。

 

爆発の衝撃で聖壁は霧散し、呪腹の大樹と彼等の姿は確認できない。

 

彼等の居た場所には、呪腹の大樹の燻ぶった破片や塵が幾つも積み重なっているのみだ。

 

『……』

 

 皆は言葉も無く振り積もった塵を見つめているが、カタリナのジークバルドは”何も心配はいらない”と返す。

 

「あの二人は無事だ、安心し給え!」

 

 そう言うや否や降り積もった塵が盛り上がり、中から銀髪武闘家が咳き込みながら這い上がる。

 

「ゲッホ、ゲホ、ゴォホ……」

 

 銀色の美しい彼女の髪は煤に汚れ黒ずみ全身も埃塗れだったが、命に別状は無い様だ。

 

「ふぃ~~……一時はどうなる事かと……、ほら剣士さん、しっかりして下さい…うんしょっとっ!」

 

 そんな言葉を吐きながら彼女は、塵の中に埋もれている灰の剣士を引っ張り上げ、彼もかなり咳き込んでいた。

 

「ぶはぁ…ふぅ…はぁ…、何とか…成功…したか……」

 

 彼の方は随分消耗が激しく動きも非常に鈍いが、間違い無く生存していた。

 

「お、お前等!無事だったかっ!!」

 

 二人の生存を確認した同期戦士を始めとした他の面々は、一斉に二人の元へと駆け寄り無事を喜んだ。

 

こうして呪腹の大樹は見事倒された。

 

密閉空間で爆発する間際、灰の剣士は魔術『歪んだ光壁』を行使した。

 

この魔術は周囲に不可視の力場を張り巡らし、あらゆる力を逸らせる効果がある。

 

しかし現在の彼では発動条件を満たせてはいなかった。

 

だからこそ彼は『孤電の杖』の特性を利用し、魔力を蓄電させる事で発動を可能とした。

 

しかし、爆圧に有効かどうかは彼自身にも確証が無く、万が一失敗すれば自分のみならず銀髪武闘家をも死に晒す危険性があった。

 

故に、保険として彼女には『鉄の体』を掛け、彼女の防御力向上を図ったのであった。

 

上質の防具を纏った自分とは違い、彼女の防具は手甲具足と薄い胸当てのみで、防御力には不安があったのも理由の一つではある。

 

 

 

……

 

 

 

「またこうして貴公と再開出来るとはな……カタリナのジークバルド!」

 

「はっはっは、それはお互い様だ。灰の英雄……おっと、今は『灰の剣士』だったかな?貴公の噂は度々ギルドで耳にしていた」

 

 灰の剣士とカタリナのジークバルド。

 

火が陰ったあのロスリックの地で、二人は互いに協力し合い使命を果たす事が出来た。

 

過酷な旅ではあったが、両者は時代と次元を越えこうして再開できた訳だ。

 

「儂の事も覚えとるかね?騎士さん!」

 

「おぉっ!貴公はいつぞやの――。脚は…大丈夫なようだな!」

 

 鉱人の斧戦士もジークバルドに声を掛け、彼も反応を返す。

 

どうやら斧戦士を救った旅の騎士とは、ジークバルドの事を指していたようだ。

 

「ゆっくり語り合いたいのは山々だが……」

 

 ジークバルドは祭壇の方を向き、灰の剣士達も全員同じ方角を向く。

 

祭壇には未だ、数人の不死人が待機していた。

 

因みに三人の邪教徒達は、調査隊によって討伐…ではなく、確保されていた。

 

思えば邪教徒も不死と化している、通常の方法で死ぬ事は無いのだから当然と言えば当然か。

 

フォドリックを始めとした不死人陣営と、灰の剣士を始めとした冒険者陣営が、暫くの間無言で睨み合いが続いた。

 

しかしそれは呆気ない程、唐突に終わりを告げる。

 

「此度の戦いぶり見事であった。また会おう、冒険者諸君!」

 

 フォドリックを含む不死人達は、祭壇から瞬時に姿を消した。。

 

「き…消えた…!どうやったんだっ?一体……」

 

 その様を目にし、女騎士は驚きの声を上げる。

 

あの時代の不死人にとっては、篝火を通じて転送する事など実に造作もない事だ。

 

大方、何処かに篝火を設置しているのだろう。

 

「……意外だったな。よもや、こうもあっさりとこの祭壇を手放すとは」

 

「恐らく新たな祭壇でも設けたのだろう。奴等とは再び雌雄を決する日がやって来る」

 

 灰の剣士とジークバルドは、再び相対する日を予感していた。

 

「そうだな…残るは……」

 

 灰の剣士は取り残された3人の邪教徒に歩み寄る。

 

彼等は調査隊に拘束され、抵抗力を失っていた。

 

「一人借りるが構わぬか?」

「…?別に構わんが、どうする気だ?」

 

 彼は正規騎士から今回の首謀者らしき男を借り受ける。

 

この男は、今回の小鬼禍《ゴブリンハザード》を引き起こした主犯格だ。

 

こうやってフォドリック達にあっさり見放された所を鑑みるに、この邪教徒達はかなり末端に位置する立場なのだろう。

 

それ程重要な情報を引き出せるとは思ってはいないが、一応試してみる事にする。

 

彼は首謀者を羽交い絞めし、大腿部にナイフを突き付けた。

 

「さて、貴公には幾つか質問が残っている。…答えて頂けない場合は……お分かりだな?」

 

「……ぅ……、わ…分かった……!」

 

 底無しの深海から這い出るかの様な声に、不死である首謀者は完全に気圧され、恐怖に慄きながらゆっくりと頷いた。

 

「では問おう。貴公らとロンドール黒教会との繋がりは?」

 

 早速彼から最初の質問が飛ぶ。

 

「……し…しらn――ぎゃあぁぁっぅ……!」

「――悲鳴を上げろと許可した覚えはない!」

 

 ”知らん”と答えようとしたのだろう。

 

最後まで言葉を口にする事なく、首謀者の大腿部はナイフで切り裂かれ紅い血が噴き出し、悲鳴を上げる。

 

しかし、その激痛による悲鳴も灰の剣士がナイフの柄で顎を押さえ付け、首謀者の悲鳴を無理矢理封じた。

 

無慈悲極まる光景ではあったが、首謀者に同情する者は皆無であった。

 

「ほ…本当だ!本当に知らんのだっ!あの組織は我等の主教様と繋がっていて、我々には直接干渉してこない!」

 

 首謀者は、苦痛で顔を歪ませながら必死に弁明した。

 

予想通り彼等は末端の組織だった。

 

「……次の質問だ。法王サリヴァーンは『イルシール』に居るのか?」

 

 もう一つの大腿部にナイフを添え、彼は次の質問に移った。

 

「――ぁ…ああ!それなら知っているぞ!魔神皇様は一時『イルシール』に帰郷され、その後『カーサス』とやらに部隊を率いて再出撃されたのだ。我等の役割は、可能な限り冒険者をロスリックに近付けない事。そして『ソウル』を集め、それを力へと変換させる技術を確立させる事だ!」

 

「……ほぅ…サリヴァーン側だったか。では貴公ら魔神軍の主敵は王国軍か?」

 

「……何れはそうなるだろう。しかし、あの御方が()()()になれば、王国軍など数日で壊滅できる。魔神皇様の主敵は、ファランの不死隊だ!」

 

「そうか。では、貴公等は不死街から奥へと進んだ地の『深みの聖堂』について知っている筈だ。貴公直轄の上司は深みの主教か?そして聖堂の現状について答えて貰おう」

 

 無慈悲な拷問が効いたのだろうか?

 

灰の剣士の質疑は続き、首謀者は知り得る限りの情報を提供した。

 

首謀者率いる邪教徒集団は、深みの聖堂を拠点としていた。

 

彼等は深みの主教に仕える、いわば末端とも言える組織でそれ程の権限を与えられている訳ではない。

 

彼等は不死ではあったが、ダークリングによる不死とは別系統の秘術で不死者となっている。

 

しかし、不死の秘術は禁忌とされる外法――。

 

深みの聖堂に住まう主教達とロンドールの黒教会、何らかの繋がりは有るだろう。

 

一応フォドリック達との関係性も問い質した。

 

彼等『積む者』達は、サリヴァーンに協力する事で見返りとして環境や活動に便宜を図って貰っていた様だ。

 

したがって『積む者』達と彼等は唯の協力関係で、上下関係は存在していないらしい。

 

この首謀者達は実績と成果を上げ、自らの立場を引き上げ地位を確立する事に腐心していた。

 

 

 

「た…頼む!助けてくれ…!我等は我等なりのやり方で、この腐った世界を浄化したいだけなのだ……!」

 

 灰の剣士からの尋問は終わり、首謀者は命乞いと解放を懇願した。

 

既に自らが不死であるにも拘らずにだ。

 

「黙れぇ、何が腐った世界を浄化するだ!お前達の所為で、教導官と兄弟子達はっ……!」

「腐っているのは、君達の歪んだ性根ではないのかね?」

 

 首謀者の身勝手な主張に、見習い剣士の少女と森人僧侶が猛反発した。

 

経緯はどうであれ、この不死街で彼女の仲間は皆死んだ。

 

森人僧侶に至っては、同じ聖職者でありながらこうまで人格が破綻するものかと、半ば信じられない現実であったのだ。

 

「……いいだろう、解放してやる。()()()

 

 灰の剣士はナイフを納めながら首謀者の背中を軽く押し、放す事にした。

 

「へ…へへへェ…アンタ、良い人だぁっ…!」

 

 歪み下卑た哂いを浮かべながら、首謀者は意気揚々と亡者の穴倉から去ろうと歩き出すが……。

 

彼の目の前には、大勢の人々が憤怒の形相で立ち塞がっていた。

 

「な…何だ、其処を退かぬか、下郎共!」

 

 道を開けよと要求するが、立ちはだかった彼等は一向に動く気配を見せず、寧ろ首謀者ににじり寄って来た。

 

『さっきは、よくもやってくれたなぁ』

『まさかこのまま、”ハイさよなら”って言うんじゃないだろうな!』

『このままじゃ、腹の虫が治まらないわ!』

 

 救助された冒険者達は憤怒の形相を浮かべ、或る者は武器を構えまた或る者は呪文の詠唱に入っていた。

 

だが、怒りを顕わにしているのは彼等だけではなかった。

 

『オラ達の村を良くもぉっ……!』

『私の…私の息子達を返せぇっ……!』

『儂らは、これからどうやって生きていけばええんじゃあぁっ!!』

 

 囚われていた人々には、大勢の一般人も含まれていた。

 

どういう経緯があったのかは、定かではない。

 

しかし、この首謀者達の集団は彼等にも牙を向き、集落を襲撃したのだろう。

 

その上で彼等を捕らえ虜囚としたのは、容易に想像が付く。

 

その様な仕打ちを受ければ、戦う術を持たない彼等とて怒りが湧くのは当たり前だ。

 

彼等は武器と呼べる様な物は所持してはいなかったが、落ちていた石ころや棒切れなどを拾い上げ怒りで身を震わせながら首謀者にゆっくりと歩み寄っていた。

 

「お…おいっ剣士よ!話が違うではないか!解放してくれたのではなかったのか!?」

 

 大勢に詰め寄られた首謀者は狼狽えながら、灰の剣士に助けを求める。

 

「貴公は何を言っている…放してやったろう?……()()()

 

 慈悲深い神の如き笑みを浮かべ、灰の剣士は穏やかに首謀者を諭した。

 

「貴公は幸せ者だ。憤怒に満ちた彼等の温もりを、心ゆく迄味わい尽くし給えよ!」

 

 ついでにジークバルドも彼に続く。

 

気が付けば、首謀者は大勢の人々に包囲され、最早逃げ場など何処にも無い。

 

「――や、やめろ!下郎共、この我を誰と心得るか!我こそは、この世界を浄化する救世主なるぞ!い…嫌だ…や…やめ…やめろぉぁぁああっ……!!!」

 

 首謀者の姿は大勢の人々に塗り潰され、姿と共に断末魔の悲鳴も武器や魔法を叩き付ける音で掻き消され、幾許かの時が流れた。

 

 

 

……。

 

 

 

「成程、本当に不死だな。これでも死なないとは」

 

 ボロボロとなり地面に横たわる首謀者の姿を見下ろすゴブリンスレイヤー。

 

「あぁ~あ、こりゃ挽肉(ミンチ)よりヒデェってやつか?」

「不死が逆に災いしたな」

「これなら死んだ方がマシってやつだよな!」

 

 重戦士、槍使い、同期戦士もズタボロとなった首謀者に憐憫の眼差しを向けている。

 

気が済んだのだろうか?

 

解放された大勢の人々の表情も、幾らかは落ち着いている様だった。

 

どんな形であれ、復讐は果たせたのだ。

 

これで、彼等が救われる訳ではないが……。

 

一応の一区切りは付くだろう。

 

 

 

その頃、呪腹の大樹付近では灰の剣士を含めた数人が、或る物を発見していた。

 

「苗木…ですか?これ」

 

 灰の剣士が小さな苗木を拾い上げ、男神官はそれを注視している。

 

「聖なるソウルを秘めているな」

 

 苗木を見ていたジークバルドは、その苗木に聖なるソウルを感じ取っていた。

 

灰の剣士は過去に『火の祭祀場』で薪の王の一人でもある『クールラントのルドレス』から、呪腹の大樹について聞かされていた事を思い出す。

 

 元々呪腹の大樹は、聖なる神樹として不死街で信仰の対象となっていた。

 

また秘めたる強大な聖性により、人々の手に余る呪いを取り込み封じ込める性質を有していた。

 

しかし、神樹と言えども何れは限界が訪れようというもの。

 

次第に呪いは蓄積し、その度に神樹は徐々に変質を繰り返した結果、呪腹の大樹へと変貌した。

 

不死街の住人が呪腹の大樹に跪き祈祷を捧げていたのは、神樹時代の名残だったのだろう。

 

呪腹の大樹は爆散し跡形もなく吹き飛んだが、代わりに新たな生命が芽吹いていた。

 

「その苗木、どうするのですか?」

 

 男神官は、苗木を見つめる灰の剣士に今後の処遇を訪ねる。

 

「無論、持ち帰るさ。このまま捨て置けぬ」

 

「それが良い。このまま放置し、第二第三の呪腹の大樹になられては困るのでな」

 

 灰の剣は持ち帰る事を提示し、ジークバルドもそれに同意した。

 

苗木でありながら強大な聖性を秘めた、この苗木。

 

このロスリックに植え付け放置しても呪いを取り込む事が出来るだろう。

 

しかし、それでは再び心無き輩に利用され、何時の日か呪いが蓄積し新たな呪腹の大樹が誕生する事は目に見えていた。

 

それなら、いっその事持ち帰り、地母神の神殿に任せた方が得策というもの。

 

地母神は大地と生命を育む事を教義とする宗派だ。

 

ロスリックに放置するより遥かに安全だ。

 

「それを聞いて安心しました。実は僕も同じ事を考えていたもので」

 

「その苗木は兎も角、()()()()()はどうする?」

 

 呪腹の大樹が倒され、苗木と共に残された一振りの大剣。

 

ジークバルドはその大剣の処遇を問う。

 

「此処に放置しても何ら利点はないか。少々嵩張るが、これも持ち帰ろう」

 

 灰の剣士は、地面に突き刺さっていた大剣『亡者狩りの大剣』を手に取り、背中へと括り付けた。

 

重量が有るのだろう、彼の動きは更に鈍くなる。

 

――流石に『錬成炉』までは、落ちてなかったか。

 

嘗ての時代、呪腹の大樹を倒す事で手に入った錬成炉――。

 

異形のソウルを触媒とする事で様々な武具を生み出す事が出来たが、手に入らないのでは仕方がない。

 

些か残念ではあったが、錬成炉の事は頭の隅へと追いやった。 

 

「さっ、もう気は済んだでしょう皆様方。何時までこうしていても時間を浪費するばかり。長居は無用、帰還致しましょう!」

 

 流石に痺れを切らせたのか、正規騎士が皆に帰還準備を呼び掛ける。

 

「その前に皆聞いてくれ!」

 

 突如灰の剣士が周囲に向かって叫び、皆は何事かと彼の方へと向く。

 

 

 

「私はこのまま探索を続行する!無論、無理について来いとは言わぬ!」

 

 その言葉を聞き、皆は一斉に騒めく。

 

『し、正気かよ!?』

『もうボロボロじゃないかっ!』

『あんな目に遭って、何を得る積りよ!』

『もうお宝なんかどうだっていい!』

『早く生きて帰りたいぜ!』

 

彼等だけではなく救出された冒険者や一般人も同様だ。

 

「ア、アンタ気は確かっ!?あれだけ消耗しておきながら、まだ探索する気かっ!?」

 

 その言葉に同期戦士は、抗議するやら呆れ顔やらであった。

 

「流石にあたしも頭目さんと同じ意見です!どういうお積りですかっ、剣士さん!!」

 

 同期戦士に同調した銀髪武闘家も、これには抗議の声を上げる。

 

「…此処より奥の『生贄の道』に続く扉を開けておきたい。残念だが、これは譲らぬっ!」

 

 灰の剣士は探索続行の目的と理由を述べ、既に決めていた事だと主張した。

 

彼の主張に、皆は返す言葉も見当たらず無言のままだ。

 

「生贄の道なら既に私が扉を開き、ついでにイルシールの外征騎士も屠った。しかし、貴公には見せたいものがあってな。出来れば貴公には同行して貰いたいのだ」

 

 カタリナのジークバルドが生贄の道への扉を開いたが、灰の剣士に見せたい場所があると言う。

 

それを聞いた灰の剣士は、彼と共に再出発の意を伝えた。

 

「……だったら、あたしも行きます!」

 

 彼の意思は変わらずと悟った銀髪武闘家は、共に同行する旨を主張する。

 

「この人絶対無茶するのが目に見えてますから……!ま、まぁ半分はあたしの所為ですけど……」

 

「はぁ…しょうがねぇ…、こうなったら最後まで付き合うぜ、俺も!」

 

 銀髪武闘家に続き同期戦士も同行を決める。

 

「騎士さんにはまだ真面な礼もできとらんでな、儂も行くぞ!」

「オッチャンが行くなら、アタシもだ!」

 

 鉱人の斧戦士と斥候も参加の意思を伝え、帰還組と同行組に分けられた。

 

「わ、私も連れて行って欲しい!自分の身は自分で守るからっ…!」

 

 あろう事かまだ幼い見習い剣士の少女まで、同行組に加わる事を望んだ。

 

当然彼等からは良い反応は得られる筈も無かったが、彼女の意志は固く仕方なく許可する事にした。

 

重戦士、女騎士、槍使い、魔女、同期戦士、斧戦士、少女野伏、鉱人斥候、銀髪武闘家、見習い剣士の少女が同行組へと加わる。

 

それ以外のメンバーは、帰還組となった。

 

「では冒険者諸君には、一般民の護衛を引き受けて頂こう。もちろん報酬は出すぞ!」

 

 帰還組のメンバーに加え、救出された多数の冒険者には一般人の護衛について貰う事にした。

 

ロスリックの環境に加え過酷な目に遭っていた彼等。

 

あまり乗り気ではなかったが、正規騎士から報酬が出る旨を聞き、拠点街に帰還するまで一般民の護衛を引き受ける事となった。

 

()()の方、宜しく頼む」

 

「ええ、お気を付けて」

 

 灰の剣士は、神樹の苗木を男神官に託す。

 

「なるべく日没までに切り上げる事をお勧めする、剣士殿」

 

 出発しようとする彼等に、正規騎士から忠告が飛んだ。

 

日が暮れ夜間となった時間帯は、昼間とは比較にならない位に亡者が活性化すると言う。

 

思えば火が陰ったあの時代は、昼や夜と云った時間の概念すら曖昧となっていた。

 

更に、周回を繰り返すごとにロスリック全域の闇が濃くなり、それに比例するかのように亡者が強化されていたような気がする。

 

因みに今の時間帯は昼過ぎで、あと数時間で夕暮れになる頃合いだった。

 

「忠告、感謝する!」

 

 そして彼等は互いに別れ、別々の道を行く事となった。

 

 

 

灰の剣士とジークバルドが再開し、彼等の探索は続く。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

亡者狩りの大剣

 

 仮面の騎士が振るい続けたという大剣。

 亡者たちの脳裏に刻まれた恐怖の記憶。

 

 亡者に対して特に効果が高い。

 

 かつてミラの正統な騎士に与えられたものであり

 両手持ちで独特な剣技を見せるという。

 

 戦技は「構え」

 構えからの通常攻撃で、盾受けを下から崩し

 強攻撃で踏み込みからのかち上げ突きと

 状況に応じ使い分けられる。

 

 その剣には、ある約束の言葉が彫られていた。

 それは兄妹を繋ぐ約束の言葉。

 しかし、終ぞ明かされる事は無かった。

 

 

 

 

 

 





如何だったでしょうか。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。 ( ゚∀゚)/
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