ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 明けましてオメデトウ御座います。

長らくお待たせして申し訳ありません。

余り内容が進んでいませんが、更新致します。


第64話―ロスリックのゴブリンハザード(不死街の変化)

 

 

 

 

 

鷹の指輪

 

 最古の王グウィンに仕えた四騎士のひとり

「鷹の目」ゴーの名で伝わる指輪。

 

 弓の射程距離を延ばす。

 

 巨人ゴーは、晩年その目を塞がれてなお

 その大弓で災厄の竜を射落としたという。

 

 その巨人は独り孤独に、侵入者を排除し続けた。

 たとえ、己が身が朽ち果てようとも。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 亡者の穴倉での戦いを終え、灰の剣士達は探索を再開する。

 

火の陰ったあの時代。

 

不死の蔓延するこのロスリックにて思わぬ形で、カタリナの騎士『ジークバルド』と再会を果たした灰の剣士。

 

聞きたい事は山ほどあったが、互いに詮索する事はなかった。

 

「ん?扉が開いている様だが、貴公は廃教会から引き返して来たのか?」

 

 亡者の穴ぐらへ乗り込む前は、しまっていた鉄扉。

 

今開いているという事は、ジークバルドは廃教会側から此処へ訪れて来たのだろう。

 

「うむ。生贄の道までは何とか切り開いたのだが、長きに渡る探索は負担が大きくてな。物資も底を尽き、致し方なく帰還を考えていたのだよ」

 

 ジークバルドは腕の立つ騎士だ。

 

しかし今の彼も、灰の剣士と同じく真っ当な生者として生まれ変わっている。

 

当然、生き抜く為の道具や消耗品が必須となり、時間を追う毎に消耗していくのは致し方が無い。

 

探索の限界を悟った彼は引き返す途中、不穏なソウルを察知し、亡者の穴倉へと馳せ参じたのであった。

 

そこで彼が目にしたのは、復活した『呪腹の大樹』と『ゴブリン』を操る邪教徒達だった。

 

無論、義侠心の強い彼。

 

冒険者側に与し、加勢する事にしたのであった。

 

「亡者共の襲撃を予想してたんだが……」

「思った以上に、もぬけの殻ですね」

 

 同期戦士と銀髪武闘家は、亡者の姿が見えない事に意外そうな反応をしていた。

 

「若しかして、アンタが全部!?」

 

 重戦士がジークバルドに訊ねる。

 

「いや、私が此処を訪れた際、亡者共は数名を残すのみで殆ど姿を消していたな。まぁ私としては、余計な労力を費やす事無く先へと進めるので、楽ではあったがね。ウワハハハ!」

 

「貴公、私に見せたいモノがあると言っていたな。それと関連が有るのか?」

 

 ジークバルドが不死街下層を訪れた時には亡者の群れは存在せず、大壺を抱えた下男亡者や深みの教導師が徘徊する程度であった。

 

”見せたいモノがある”そう言っていたジークバルド。

 

どうやらそれに関係しているらしい。

 

一行は暫く無人と化した不死街を進む。

 

「ちっ!また悪趣味な吊り死体に、鴉の群れかよ!ホント生きた心地がしねぇな、此処は!」

 

 廃教会に近付くにつれ、目に付く様になる死体と死肉を啄む鴉の群れ。

 

上空から喚き散らす耳障りな鴉の鳴き声。

 

その光景に舌打ちし顔を顰める槍使いだったが、不快感を抱いているのは彼だけではないだろう。

 

「みち、いっぱい、あるわ、ね」

 

 その途中、幾重にも枝分かれした街道らしき道が広がっていた。

 

「……ジークバルド…これが……?」

 

 一行は立ち止まり、灰の剣士は顔を左右に振り辺りを見回した。

 

「そうだ。これを見て貰いたかった」

 

 廃教会手前の住宅街には、存在していなかった筈の街道が幾つも広がっていた。

 

「む?この街道、あの時と同じだな」

 

 女騎士は思い出していた。

 

以前にも、一本道だったが似た様な街道が眼前に広がり、ゴブリンスレイヤーが脇目も振らず走り出していた。

 

「確か、ロスリックは『故郷の流れる地』だったかのう?」

「余り考えたくはないんだけど、この街道って若しかして――」

 

 鉱人の斧戦士と半森人の少女野伏も、以前の街道を思い出していた。

 

ゴブリンスレイヤーが走り出した街道の先には、滅び去った彼の故郷が拡がっていたのであった。

 

そして此処にも、同じ街道が様々な方角に広がっていた。

 

立ち止まっていた一行は、余り考えたくはない不吉な結末を抱いている。

 

全部で道は6本。

 

在るかも知れない。

 

 

 

―― 滅んだ自分達の故郷が ――

 

 

 

「ま、待て!落ち着くんだ!よく見たら看板だってあるじゃねぇか!自分らの村の名前位は覚えてる筈だろ?もし村の名前が無くても、街道の特徴で大体判別は付く筈だ」

「――そ、そうだよ!まだアタシらの故郷って決まった訳じゃねぇしさ!」

 

 同期戦士が村の判別方法を提示し、何とか動揺を抑え込もうとしつつ、鉱人の少女斥候も汗を滲ませながら同意した。

 

彼の言う通り、先ずは看板に記されている文字を読む事にした。

 

――大分掠れているが、読めない事もないか。

 

皆が手分けして、それぞれの看板を読み上げる事にする。

 

メンバー達が次々と看板の文字を読み上げ村の名前を挙げるが、皆の故郷に当て嵌まる名前は一つも存在しなかった。

 

「ふぃ~…、どうやら俺達の村じゃなかったな」

「こっちもだ」

「儂らの方も大丈夫じゃて」

 

「え~っと…、これ何て読むんだっけ?」

 

 自分達の故郷ではない事を知り、取り敢えずは安堵するメンバー達。

 

そんな中、戸惑う人物が一人。

 

「おいおい、この前教わっただろ?」

「え?う~ん……覚えた…と思うんですけどぉ……」

 

 銀髪武闘家である。

 

彼女も学問や一般常識には疎く、少女野伏から一般的な読み書きを習ってはいた。

 

しかし。

 

「習ったらそれっきりで、全然使ってないんでしょ!?」

「――うっ……」

 

 完全なる図星である。

 

彼女に痛い所を突かれ、銀髪武闘家はぐうの音も出ない。

 

「呆れた!何度も何度もあれ程言ったでしょう!繰り返し使わないと直ぐに忘れちゃうって――」

「ぅうぅ……だってぇ……」

 

 少女野伏に怒られ、銀髪武闘家は項垂れ涙目になった。

 

彼女に責められ、すっかり弱気となった銀髪武闘家は助けを求めるかのように、周囲に視線を泳がせる。

 

――何故私の方を見る?

 

灰の剣士と目が合った。

 

「まぁ何にせよ、貴公等の故郷でない事は確定したのだろ?」

 

 銀髪武闘家の知性は後回しでいい。

 

灰の剣士は話を元に戻す。

 

「おぉっと、そうだった。不謹慎かもしれねぇけど、俺達の故郷が入ってない事は確定したんだ。取り敢えずは一安心だな!」

 

 同期戦士が改めて皆に確認を取ったが、パーティーメンバーの故郷は含まれていなかったようだ。

 

この王国は大陸国家で、人の住まう地域は西方辺境だけではない。

 

北、東、南と、多方面に人里が存在するのだ。

 

――加えて、只人以外の種族も生活を営んでいる。

 

「成程な。ここいらの亡者達は、新たな住処を求めて移動した訳だ。そういう理由なら納得がいく」

「うむ、私も同意見だ。この道の先に亡者共のソウルを微かに感知出来るのでな」

 

 灰の剣士とジークバルドはソウルの感知を行い、亡者の行方を割り当てる。

 

どうやら滅んだ故郷へと移動した事で、付近はもぬけの殻となっていた様だ。

 

灰の剣士は、ゴブリンスレイヤーの故郷を思い出す。

 

この不死街に比べ、流れ着いた故郷は比較的荒廃も緩く、亡者達にとって都合が良かったのだろう。

 

侵入者が続々と押し寄せる不死街に見切りを付け、流れ着いた故郷へと移動を開始したのだとすれば納得のいく話だ。

 

「故郷の流れ着く地…と言うだけはあるな。余計な戦闘や消耗を強いられないだけ、我々とっては吉報だ。……私に見せたいモノとは、此処だけではないのだろう」

 

「うむ。寧ろ本命は此処より先だ。……行こうか諸君」

 

 ジークバルドは先頭を担当し、皆を案内する。

 

更に歩を進め、馴染み深い場所へと辿り着いた。

 

「奥の方に鉄格子がありますね。……誰も居ないようですが……」

 

 見習い剣士の少女が、岩場の奥に設置されている牢屋に気付く。

 

無論、中には誰一人存在せず、ただ其処に在るだけだ。

 

――カリムの聖女『イリーナ』と守護騎士『イーゴン』の居た場所か。

 

灰の剣士は、聖職者の国『カリム』の聖女と騎士を思い出していた。

 

何度か周回を繰り返し彼女らと交流を交わしたが、行き着いた結末は後味の悪いモノばかりだった。

 

火防女を目指していたイリーナは廃人となる、若しくは念願叶い火防女となっても感情を喪失してしまった。

 

あれでは只の亡者と何ら変わりがない。

 

そして彼女に仕えていた騎士、『カリムのイーゴン』は結末を見届けた後、人知れず死んでいたか敵対する羽目となった。

 

今更ながらに思う。

 

あのまま関わりを持たず放置しておくのが、二人にとって最も平穏な選択肢だったのかも知れない。

 

――……感傷だな、もう過ぎた事だ。

 

「どうしました、剣士様…?」

「……剣士さん?」

 

 見習い剣士と銀髪武闘家が、心配そうな目で尋ねて来る。

 

「少し気になっただけだ、何も無い様だし行くとしよう」

 

 気を取り直し、彼等は歩を進める。

 

――貴公…やはり今も……。

 

僅かに乱れるソウルの波長。

 

ジークバルドは彼の微細なソウルの乱れを感知し、彼が気に病んでいる事を察した。

 

……

 

「ここが廃教会か。まだまだ使えそうだぜ」

 

 一行は廃教会へと到着し、槍使いは周囲を見回している。

 

「先ずは下へ降りてくれないか。『生贄の道』を確認しておきたい」

 

「承知した。では皆の衆、昇降機に乗ってくれ給え」

 

 上の階も気になるが、彼個人としては『生贄の道』が気になり、下へ降りる旨をジークバルドに頼んだ。

 

当然彼は拒む事なく皆を昇降機に乗せ、床のスイッチを踏む。

 

そして昇降機が作動し、暗い一室へと到着した。

 

「こっちだ、ついて来てくれ給え」

 

 ジークバルドの案内で先へ進むと、巨大な金属扉は既に開かれており、彼の言う通り『生贄の道』へのルートは解放されていた。

 

本来なら玄室には『イルシールの外征騎士』が徘徊していたのだが、姿が見えないという事はジークバルドに討たれたのだろう。

 

あの敵もかなりの強敵だが、ジークバルドも相当の実力者だ。

 

その位の苦難は軽く乗り越える。

 

一旦扉を潜り、皆は『生贄の道』に出た。

 

 

 

……

 

 

 

皆は言葉を失っている。

 

獣道が続いているだけ。

 

只それだけなのだ。

 

しかし、醸し出す異様な光景。

 

纏わり付く死の腐臭。

 

禍々しい空気感。

 

花は咲けど、何処か悍ましさを感じさせる。

 

嫌でも再認識させられる。

 

 

 

―― ここはロスリック ――

 

 

 

「まだま、だ、つづ、くのね」

 

「なぁアンタ。此処から先には何が在るんだ?」

 

 魔女と重戦士が此処から先の様子を、灰の剣士に聞いた。

 

彼は曰く――。

 

『生贄の道』を下り、『磔の森』へと出る。

 

其処からは分岐となり、『深みの聖堂』と『ファランの城塞』へと続く。

 

そして『ファランの城塞』から『カーサスの地下墓』へと続き、更なる地下にはデーモンの住処である『燻ぶりの湖』が存在している。

 

地下ではなく先を目指した場合は、法王サリヴァーンが治める『冷たい谷のイルシール』に辿り着く。

 

「――そしてイルシールを出た後…「――タンマタンマタンマッ!もういいッ!」……」

 

 更に説明を続けようとした矢先、重戦士が”待った”をかけた。

 

「勘弁してくれよ!多過ぎだろっ……!目眩がするぜ……」

 

「ここ迄来て、まだ序盤だと言うのか!?」

 

 重戦士は深い溜息を吐き、女騎士も辟易する。

 

「アタシ、頭痛がしてきたぜ…」

「私も…です…」

 

 鉱人斥候は手を額に当て、少女野伏は深く肩を落とした。

 

「……一旦戻るか」

 

 灰の剣士は皆に呼び掛け、廃教会の玄室へ戻る事にした。

 

その道中、彼は薄々感付いていた。

 

ソウルを感じるのだ。

 

上の階には、デーモンが集団で徘徊している事に――。

 

嘗てジークバルドと共闘し、火のデーモンを撃破した場所だ。

 

恐らくジークバルドが”見せたいモノがある”と言ったのは、その事だろう。

 

――かなりの数が居る。今の消耗した戦力で、デーモンの群れと戦うのは得策ではないな。

 

どうしたものか?

 

対策法を練りながら、再び玄室へと着く。

 

「さて、これから上の階へと向かうのだが。この昇降機、ちょっとした()()()があってな。最初は私も苦労したものだ、ウワッハッハッハ……!」

 

 ジークバルドが、この昇降機について少しばかり特徴を説明する。

 

「実際に見た方が早い。私がやろう」

 

 灰の剣士が再び昇降機に乗り、床のスイッチを踏む。

 

そして昇降機は下へと移動するのだが、彼は直ぐに皆の元へと戻って来た。

 

するとどうだろう。

 

下の階へと降りた昇降機の上から、別の昇降機が下りて来るではないか。

 

「ほぅ、たまげたワイ!下に降りるしかなかったから、どうやって上に行くのかと思っとったんだが、こんな仕掛けがのぅ!」

 

 鉱人斧戦士は、驚いた様子で天井を見上げていた。

 

「皆乗ってくれ、先ず最上階まで行くぞ」

 

 彼は皆を先導し床のスイッチを踏み、昇降機を上へと移動させる。

 

――そう言えば、彼と出会ったのもこの廃教会だったな。

 

そんな事を考えながら、最上階へと到着する。

 

階段を伝い最上部まで到達し、眼下には不死街が拡がっていた。

 

其処は嘗て、巨人が規格外の弓矢で狙撃していた場所でもあった。

 

その事を皆に話す。

 

「言われてみれば確かに、その形跡が残ってるな」

「巨大な弓だ。此処に巨人が居たというのも頷ける」

 

 重戦士と女騎士は、巨大な弓矢を検分していた。

 

「あれ?指輪が有った」

 

 床に、光る何かを見付け、少女野伏が拾い上げた()()()、一つの指輪だった。

 

「――それは『鷹の指輪』といってな」

 

 灰の剣士が指輪について話す。

 

嘗て大王グウィンに仕えた四騎士の一人、『鷹の目ゴー』が残したと言われる指輪で、弓矢の飛距離を引き上げる効果があるのだと言う。

 

「ええ!?そんなに凄い指輪なの、これっ!?」

 

「弓が得意な貴公が使うといい。実際試せば分かるだろう」

 

 灰の剣士自身も弓は使えるが、主力武器ではない。

 

野伏である彼女が使った方が、有用に機能するだろう。

 

少女野伏は、試しに矢を射た。

 

「……特に変わった様に見えませんけど?」

「そんな事ないよ!同じ力で射ったけど、飛距離が全然違うよ!」

 

 素人である銀髪武闘家には違いが分からなかったが、少女野伏には指輪の効果に興奮気味だ。

 

やや軽めに矢を射ったが、全力で引き絞る程の飛距離を弾き出していた。

 

「こんな凄い指輪、ホントに私で良いの!?」

 

「うむ。弓矢を専門とする貴公なら本望だ。存分に活用して欲しい」

 

「わぁ!有難う!」

 

 彼女にとって有用な指輪が手に入り、かなりご満悦な様だ。

 

「さて、本題に入ろうか。此処からでも見える。諸君、見給えよアレを――」

 

 いよいよ本来の目的を果たす事になり、ジークバルドはある方向を指し示し、皆はそれに倣って視線を傾けた。

 

眼下に広がる異様な光景。

 

其処には夥しい程のデーモンがひしめき合っていた。

 

「…………」

 

 最早、開いた口も塞がらない。

 

大小多種多様なデーモンが一堂に会しているのだ。

 

下級(レッサー)種から上級(アーク)種まで、実に様々だ。

 

無論、火継ぎの時代に存在したデーモンも含まれている。

 

「……勘弁してくれよ……、まさかアイツ等とこれからやり合おうってんじゃないだろうな?」

 

「あれだけの群れだ。戦う気も起きんが、もう少し近くで様子を窺うか?」

 

 血気盛んな槍使いも、流石に戦意を喪失している。

 

灰の剣士は皆を引き連れ、デーモン付近へ向かう事にした。

 

この廃教会には、昇降途中に飛び降りる箇所が存在し、其処から屋根伝いに外へ出る事が可能だ。

 

少々コツが居るので、先ずジークバルドが手本を見せ、昇降機を何度も往復させながら、他のメンバーも後に続いた。

 

但し飛び移るタイミングを間違えれば、一環の終わりだ。

 

灰の剣士が最後まで残り、皆が飛び移るのを確認した後、自分も移動する。

 

外に出れば、デーモンの群れを直に感じ取る事が出来る程の、至近距離である。

 

嘗てジークバルドと共闘し、炎のデーモン相手に死闘を繰り広げた場所でもあった。

 

炎のデーモンが暴れでもしたのだろうか?

 

あの巨大な民家は、既に崩れ去り瓦礫の山と化していた。

 

所々に火の手が上がり、未だ燻ぶっている。

 

「あんまり言いたくないけどよ。アイツら気付いてるよな?俺達の事……」

 

 この時点で、幾つかのデーモンが此方に視線を傾けていた。

 

同期戦士は、戦々恐々と言及する。

 

お互い様子を窺う形となったが、襲い掛かって来る気配はなかった。

 

「ね見、て!」

 

 魔女が叫ぶ。

 

集結しているデーモンの中には、巨大な翼を生やした個体種が多数存在している。

 

翼を生やした種は他のデーモンを引き連れ、その場所から飛び去ってしまった。

 

「おいおい、何だよ!?デーモンの連中、行っちまったぜ!?」

 

 飛び去るデーモンの群れを見つめ、重戦士は叫んだ。

 

あれだけ所狭しと集結していたデーモンの群れは忽然と居なくなり、後に残ったのは彼方此方に火の手が上がった瓦礫の山だけであった。

 

「これは意外だった、覚悟を決めていたのだがな」

「な…何じゃあ、ひょ、拍子抜けしたのぉ……」

 

 余りに想定外の結果に、ジークバルドは意外そうな様子だ。

 

鉱人斧戦士は虚勢を張っているが、膝が完全に笑っていた。

 

「良かったぁ……戦わなくて……」

 

 質はどうであれ、数だけでも二桁は確実に居たデーモンの群れ。

 

加えて中級や上級が大半を占めていたのだ。

 

真面に戦える状態ではない。

 

結果的に戦闘を避けられた事に、少女野伏は一安心する。

 

しかし。

 

「――!!」

「――剣士さんッ!?」

「――剣士様ぁッ!」

 

 突如として灰の剣は飛び去った方角へと追い駆けた。

 

「むっ!?どうしたのだ貴公っ!」

 

 ジークバルドも、彼の後に続く。

 

廃教会の屋根を飛び降り、足場の無い行き止まり迄、彼はデーモンの群れを追い駆ける。

 

「――お、おい、どうしたんだ一体!?」

 

 他の面々も、彼に追い付いた。

 

「……不味い…、この方角――」

 

 デーモンの飛び去った方角を見上げ、灰の剣士は危機感を露にする。

 

群れが飛び去った方角は、巨大クレーターの外――。

 

即ち、ロスリックの外に飛び去ったのである。

 

「あの方角って、確か……」

 

「王都方面だ!」

 

 鉱人斥候に、女騎士は応える。

 

「――ヤバいぜ、これっ!」

 

 同期戦士の叫びに、皆は嫌でも或る記憶を呼び起こされた。

 

 

 

―― 冷たい谷のボルド ――

 

 

 

過去に『ロスリックの高壁』を探索した時、ボルドと激戦を繰り広げた事があった。

 

その戦闘の最中、どう言う訳かボルドは崖をよじ登り、ロスリック外へと逃走したのである。

 

そして金鉱山で、多数の犠牲者を出しながらも討伐に成功した。

 

しかし今度は、デーモン集団がロスリック外へと飛び去ってしまった。

 

ボルド一体でも、無視できないほどの被害を出したのだ。

 

それが集団での逃走――。

 

デーモンの群れの中には、ボルドを凌ぐ個体種も含まれていた。

 

数年前、魔神王が存在したという『死の迷宮』なる迷宮が在った。

 

中から怪物が外界に解き放たれぬよう、王都直轄の近衛騎士達が進入路に陣取り、監視と討伐任務に就いていた。

 

しかし、あの迷宮は出入り口が一つしか存在していなかった故に、監視が成り立った。

 

このロスリックは全方位に複数の進入路が存在し、空を飛ばれては対処のしようがない。

 

況してやデーモンの集団――。

 

仮にロスリックを全包囲しようものなら、どれだけの人員と資源を割かねばならないのか見当も付かない。

 

とてもではないが、王国一つで賄えるものではない。

 

若しかしたら、灰の剣士達が目撃したのは今回が初とは限らないとも言える。

 

彼等の与り知らぬ間に、他のデーモンや異形がロスリック外に逃走している可能性も否定できないのだ。

 

「全方位に開けている上に、飛ばれては流石にな……残念だがっ……」

「…………」

 

 灰の剣士は歯を噛み締め頭を振り、皆も俯き返す言葉も見付からなかった。

 

火の粉を撒き散らす瓦礫の山で、暫くの時間が経過する。

 

「……こういう事だったんだな、ジークバルド」

「うむ。貴公と私なら、何とか対処できるのでないかと踏み赴いたのだが、些かに荷が重いか」

 

 呪腹の大樹で消耗している上に、上級デーモンの群れだ。

 

とてもではないが、戦うには念入りの準備と状況を練る必要がある。

 

無策では自殺行為に等しいだろう。

 

「……戻ろう皆。もう日が傾いている」

 

 デーモンの居なくなったこの地に用はない。

 

既に夕暮れ近くとなり、空は朱に染まり掛かっていた。

 

正規騎士の忠告が正しければ、夜間のロスリックは危険度が更に跳ね上がるらしい。

 

長居するのも憚られよう。

 

灰の剣士達は、探索を切り上げる事にした。

 

「さて、こっからどうやって戻るかだな」

 

「あの昇降機は下に降りちまったし、流石に飛び降りるのは無理だぜ?」

 

 重戦士と槍使いは、戻る方法を模索する。

 

誰もこんな所で一夜を明かす気などは無い。

 

「こっちだ、私に続いてくれ」

 

 灰の剣士が先頭を歩き、皆はそれに続く。

 

瓦礫と化していた民家だったが、積み重なっているお陰で、隣の塔までは苦労せずに移動できた。

 

塔から足場を伝って飛び降りる事で、亡者の穴倉付近まで戻る事が出来るのだが――。

 

「……み、見ろよ……」

「……こい…つぁ…」

「ご…ご褒美ってやつか…」

「うっひょ~……」

「こんな事もあるのだな……」

 

 飛び降りた先には、膨大な()()()()が散らばっていた。

 

其処は『緑化の指輪』や『ミラの防具一式』が置かれていた場所でもある。

 

「な…何だよこれ、探索に付き合って正解だったな……」

 

 同期戦士は震える声で、眼前の財宝に見入っている。

 

灰の剣士とジークバルド以外、皆は財宝の山に釘付けとなっていた。

 

その量は荷馬車数台分にも値し、全て持ち帰る事は不可能だ。

 

様々な国が製造したであろう、金貨、銀貨、宝石の山々で、煌びやかな装飾品も多数含まれていた。

 

総額に換算すれば、大都市を買えるほどの価値になるだろう。

 

何を持ち帰ろうか?

 

財宝の山を物色するメンバーらに、重戦士が一つの案を提示した。

 

「皆、待ってくれ。お宝を持って帰るのは、一人小袋一つ分にしようぜ!」

 

「……なんでだよ?ケチくせぇ」

 

 一人につき小袋一つ分――。

 

彼の案に、鉱人斥候は納得がいっていない様だ。

 

膨大な量の財宝――。

 

大量に持ち帰った処で、拠点街には多数に冒険者が(たむろ)している。

 

一応、治安には細心の注意を施しているが、中には荒くれや破落戸の輩も多数在籍している。

 

下手に持ち帰れば、忽ち彼等の標的にされ嫉妬や邪欲に晒されるのは明白だ。

 

それに、運よく何事も無く西方辺境に戻ったとしても、其処でも妬みや嫉みの的にされるだろう。

 

道中には山賊や野党も潜んでいるのだ。

 

心無い連中が彼等と徒党を組み、襲撃を企てたとしても何ら不思議ではない。

 

安全性を考慮すれば、持ち帰るのは必要最小限に留める事を、彼等に説明した。

 

「私も同感だ――後もう一つ」

 

 重戦士の案に、灰の剣士やジークバルドも賛同する。

 

灰の剣士はもう一つ案を加えた。

 

此処の財宝を情報として流布し、他の冒険者を呼び込むという策だった。

 

大半の冒険者は、一攫千金や名声を求めて冒険に出る。

 

この財宝の情報を流す事で彼等は一層奮起し、この不死街へと目指すだろう。

 

そうする事で少なくとも不死街までのルートが確保でき、有象無象の亡者を駆逐してくれる事が期待出来る。

 

再びロスリックへ赴く機会があれば、ここ迄は最小限の消耗で辿り着く事が出来るだろう。

 

後の事も考慮すれば、財宝を残しておく事は充分な理由となった。

 

「それもそうだな。こんな所で億万長者となった処で、引退する気など毛頭ないしな」

 

 女騎士も納得し、彼の提案を支持した。

 

「そうと決まりゃあ、一番価値の有る物を持ち帰ろうぜ!」

 

 釣られる様に皆は賛同し、各々が財宝を物色し始める。

 

「……」

 

 灰の剣士も目的が有るのか、財宝の山を探索し一つの小箱を見付けた。

 

――ここから覚えのあるソウルを感じる。

 

その小箱を開け、中には幾つかの道具が入っていた。

 

―― 緑化の指輪 ――

 

―― 毒咬みの指輪 ――

 

―― 女神の祝福×3 ――

 

――良かった……、上手く手に入れる事が出来たか。

 

呪腹の大樹を倒した後も、探索を続行した甲斐があった。

 

実は『緑化の指輪』の入手が目的でもあったのだ。

 

些かに不誠実ではあるが、彼にとってこの指輪は非常に有用な品で、出来れば確保しておきたかった。

 

他にも毒咬みの指輪や女神の祝福なども、入手する事が出来た。

 

「ジークバルド、良かったら使うと良い」

 

 女神の祝福をジークバルドに一つ分けた。

 

かなり貴重な品だ。

 

以前、鉱人の斧戦士に与え、彼の脚を再生させた事があった。

 

なけなしの品だった筈だ。

 

「……すまんな。私としても有用な品でな、有り難い」

 

 彼も快く受け取った。

 

――あと一つは地母神神殿にでも納め、毒咬みの指輪は(ゴブリンスレイヤー)にでも渡すか。

 

小鬼は、毒入り武器を多用する狡猾さを秘めている。

 

毒咬みの指輪は毒耐性を高める効果が有り、彼なら有効に活用してくれるだろう。

 

――さて後は……。

 

皆が財宝に夢中になっている間、『ミラの防具一式』と『騎士の防具一式』を入手する。

 

かなりボロボロで、そのままでは機能する事はない。

 

だが、武器工房で修理し改良すれば、更なる良質の防具に変貌するだろう。

 

だが持ち帰るには重量が嵩み、少々身重となった。

 

「……剣士さんって、ガラクタ集めが趣味なんですか?」

「……お持ちしましょうか?」

 

 銀髪武闘家はそんな灰の剣士に呆れ、見習い剣士には要らぬ心配をされてしまった。

 

「よぅし、大体選別は終わったな。皆、首尾はどうだ!?」

 

 一通りの物色が終わったのだろう。

 

重戦士の号令に皆も勢いよく応える。

 

財宝の中には魔法の品も幾つか見付かったらしく、彼等は上機嫌であった。

 

全域ではないが、これで不死街の探索は一通り終えた事になり、皆は拠点街に帰還する。

 

既に日は暮れ、かなり薄暗くなっていた。

 

帰還する道中『ロスリック高壁』内で、数体の亡者に襲撃されたが、夜の影響なのか戦闘力が格段に跳ね上がっており、ジークバルドが率先して撃破してくれた。

 

彼はロスリック探索の為に数日間留まっており、夜間は極力戦闘を避け身を隠していたのだと言う。

 

一行は身を以て、夜間での危険度を思い知った。

 

 

 

……

 

 

 

      ―― ロスリック拠点街 ――

 

 

 

「……遅いな」

 

「……ええ」

 

 ロスリック拠点街、東門付近にて彼等は屯していた。

 

灰の剣士達の帰還を待つ、ゴブリンスレイヤーと男神官。

 

いや、二人だけではない。

 

既に日は落ち、夜の帳が訪れている。

 

亡者の穴ぐらにて、先に帰還した冒険者達もだ。

 

人質となっていた一般人も無事、保護する事が出来た。

 

だが、ギルドでのうのうと待つ事も出来ず、此処で探索続行組の帰還を今か今かと待ち詫びているのである。

 

「うぅ~む…、日が暮れてしまいましか」

 

「アイツらの事だ、無事だとは思うが」

 

 禿頭僧侶と森人僧侶も、日が暮れた事に焦燥感を否めない。

 

彼等の帰還を待ち望んでいるのは冒険者だけではなく、正規騎士率いる調査隊も含まれている。

 

『伝令!彼等の帰還を確認しました!全員無事ですっ!!』

 

 突如、物見の兵士から通達があり、灰の剣士一行の帰還を宣言する。

 

「全く冷や冷やさせますね…」

「良かったです」

「大将らも無事か」

「流石に気が気ではありませんでしたよ」

 

 残りの面々も、皆一斉に彼等の無事を喜ぶ。

 

『よし、開門だっ!』

 

 見張りの兵士が東門の解放を命じ、灰の剣士達は漸く拠点街へと帰還できた。

 

「待たせたな」

 

「戻ったか灰よ」

 

 灰の剣士とゴブリンスレイヤー。

 

交わす言葉は最小限だったが、二人は互いの無事を喜んでいた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

緑化の指輪

 

 大輪の緑花を象った古い指輪

 だが美しい緑は、とうに失われている。

 

 その意匠は独特で、由来は分かっていない

 

 スタミナの回復速度を上げる。

 

 使う者によっては、その価値を劇的に引き上げる。

 

 嘗ての主神は、使命を託した一人の剣士の為に

 敢えて財宝の山で他者を欺かせたのだろう。

 

 

 

 

 

 




 長らくお待たせして申し訳ありません。

活動報告にもあった通り、別の作品を集中して執筆しておりました。

余り話は進んでいませんが、如何だったでしょうか?

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
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