ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 どーもです。
今回は、前回とは真逆にシリアス展開で、混沌側のシナリオとなります。

では投稿致します。


第68話―暗雲の晩餐(魔神軍VSファランの不死隊)―

 

 

 

 

 

 

不死隊の儀礼

 

 ファラン不死隊に伝わる、彼ら専用の儀礼。

 

手にした特大剣を前に掲げ、逆手に持った短剣を添え一礼で応える。

 

その独特の儀礼には、実に多くの意味が込められている。

 

敬意、敵意、決意、弔い、覚悟――。

 

高潔な彼等は、深淵を敵視しながらも敬意で弔う事を忘れなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM――Thomas Bergersen ― Fearless)

 

 

 

 

 

 黒を多分に含む灰色の雲――。

 

雨雲に似たそれは、稲妻を迸らせ荒れ狂う。

 

昼間にも拘らず陽光は遮られ、辺りは宛ら宵闇の如き暗雲が垂れ込んでいた。

 

遠くで落雷が発生したのだろう。

 

鼓膜を破らんばかりの雷鳴が此処にまで到達した。

 

雨は降らずとも、雷は何時降り注ぐか知れたものではない。

 

狂わんばかりの天候と荒野――。

 

吹き荒れる強風――。

 

巻き上げられる土埃――。

 

その空間は正しく闇を孕み、真面な神経の持ち主なら長居など到底御免被る筈だ。

 

しかし、そんな異様極まりない荒野に夥しい程の人影が存在していた。

 

いや、それが人と断定出来るだろうか?

 

荒れ狂う大地を覆い尽くさんばかりの人影は、二つの集団に分かれ互いに揉み合いながら乱戦を繰り広げていた。

 

片や人型に似た四肢を持ちながらも、巨大な翼や角を生やした異形の大群――。

 

片や亡者や異様な異形を連れ添いながらも、大剣と短剣を携えた甲冑騎士の集団――。

 

そう――。

 

彼等は戦争をしているのだ。

 

巨大な翼や角を生やした陣営は、所謂デーモンや魔神と呼ばれる混沌の勢力――。

 

他にも、混沌に組した人族や多種多様な魔物が入り混じっている。

 

その中には、混沌の最低位と呼ばれる異形――小鬼(ゴブリン)の姿も。

 

一方、大剣と短剣の甲冑騎士の集団も人に似た異形や亡者を従え、混沌の勢力に応戦していた。

 

彼等の剣技は狼の如き神速の攻めで、先陣を切る。

 

      

 

      ―― ファランの不死隊 ――

 

 

 

彼等はそう呼ばれている。

 

深淵に呑まれた者を密かに狩るのが、彼等の使命だ。

 

それがたとえ一国であろうとも、彼等は相手取るだろう。

 

ファランの不死隊は今、混沌の勢力に抵抗していたのだ。

 

四方世界の誰にも知られる事なく――。

 

 

 

デーモンの群れが翼を翻し、此方に突撃を仕掛けて来る。

 

ファランの不死隊である深淵の監視者たちは独特の構えで、デーモン達を迎え撃った。

 

デーモンの猛撃を躱し掻い潜り、生じた隙目掛けて特大剣を叩き込む。

 

その狼の如き剣技は、次々とデーモンの群れを打ち倒し、屍の山を築いた。

 

先陣を切ったデーモンの群れは雑兵扱いではあった。

 

されど雑兵扱いとは言え、そのデーモン達も紋章の魔神(ブレイゾン)と呼ばれる個体種で、下級のデーモンとは比較にならない実力を秘めていた。

 

唯の一体だけでも恐るべき戦闘力を発揮し、銀等級の冒険者で漸く渡り合える水準だ。

 

そんなデーモンが150体の群れで先陣を切っていたのである。

 

だが、深淵の監視者たちは瞬く間に怒涛の剣技で薙ぎ倒し、紋章の魔神(ブレイゾン)の群れを殲滅してしまった。

 

「出鼻は挫いた!グルー部隊、我等に続けッ!!」

 

 隊長職の監視者の一人が号令をかけ、部下であるグルーの集団を率い、混沌の勢力に攻め入る。

 

醜悪な見た目ではあったが理性と使命を併せ持つグルーの部隊は、監視者の集団に続き進撃を開始した。

 

当然混沌の勢力も黙って見ている筈は無く、今度は下級の魔神(レッサーデーモン)で構成された大群で抗する。

 

此処の質は劣るが、下級である故に数を容易に揃える事が出来る。

 

レッサーデーモンの数、実に800体――。

 

ファランの不死隊は、総数600人――。

 

下級の魔神(レッサーデーモン)部隊だけでも、数の上ではファランの不死隊全軍を上回っていた。

 

濃密な群れを形成し、数に任せた質量戦術で押し潰しにかかる下級の魔神(レッサーデーモン)の大群。

 

古びた中盾を前面に構え槍を突き出し、防御態勢で槍衾を形成するグルー部隊。

 

両陣営が激突し、土埃が巻き起こる。

 

槍衾の餌食となった、数多のデーモン達――。

 

勢いに呑まれ引き裂かれるグルーの部隊――。

 

一進一退の攻防が繰り広げられる。

 

生じた隙を狙い澄まし、深淵の監視者たちがデーモンの群れを切り裂き討ち屠る。

 

数分と立たない内に、レッサーデーモンの数は4分の1を切っていた。

 

「ぬぅうぅっ…、何と凄まじき軍勢か!ファランの不死隊…恐るべしっ!」

 

 小高い岩場に陣取っていた、混沌勢力の只人――。

 

手には杖を携え、上質のローブを身に纏っている。

 

彼は召喚と使役魔法に長けた、召喚士であった。

 

デーモンの集団をも使役できる程の能力を有した彼であったが、予想以上の強さを誇るファランに恐れを抱いた。

 

「ぐぅ…このままではもたんぞ!もっと時間を稼がねば!」

 

 焦りを見せる召喚士――。

 

そうしている間にも深淵の監視者が数人、デーモンの群れを突破し魔神軍本陣を目指していた。

 

「――いかん!このままでは我が本陣が――」

 

 幾重にも防衛ラインを築いてはいたが、構成員は下級の異形やデーモンが大半を占める。

 

あの監視者を止めるには、正直心許なかった。

 

一応、本陣には魔神王の一柱『獣の魔神王』が控えているが、不安感は拭えない。

 

本来なら紋章の魔神(ブレイゾン)部隊を主軸とし、戦況の主導権を握る作戦だった。

 

しかし、想定以上の戦闘力を誇る深淵の監視者たちに、目論見は完全に覆された。

 

この戦は、混沌の勢力の首領――『魔神皇』自らが参戦している。

 

召喚士はこの戦で、自身の株を上げる積りではあったが、このままでは失態だけを残しかねない。

 

「――ええいっ!誰でもよい、誰か居ぬか!我こそはと言う、勇ある者は――」

 

 彼は辺りを見回す。

 

眼下に広がるのは、数名の深淵の監視者に成す術も無く崩されてゆく、防衛線。

 

「我等に任せて貰おう!」

「――ぬっ!?何奴!?」

 

 この岩場には自分一人しか居なかった筈だ。

 

突如として真後ろから声を掛けられ、召喚士は驚愕の表情で振り向く。

 

「――むっ、貴様…いつの間にっ…!」

 

 振り向き視界に映ったのは、黒い体躯と豊かな金髪を携え闇人にも似た黒い小鬼――。

 

混沌の勢力――魔神軍とは()()ではなく()()()()を結んだ異端の小鬼。

 

 

 

      ―― ダークゴブリン ――

 

 

 

「時間さえ稼げば良いのだろう?」

 

「…そうだ。魔神皇様の策が完成するまで、防衛戦線を維持できればそれで良い!」

 

 腕を組み余裕あり気に語るダークゴブリン。

 

そんな彼に対抗意識を燃やしているのか、仁王立ちで虚勢を張る召喚士。

 

「――任せておけっ!」

 

 そう言うや否や、ダークゴブリンは桁外れの跳躍力でその場から消え去った。

 

「……小鬼とは思えん、規格外の膂力よの!……まぁ良い、お手並み拝見といこうか?異端の小鬼…ダークゴブリンよっ!」

 

 既に消え去った黒い小鬼の方角を見据え、召喚士は薄っすらとほくそ笑んだ。

 

大地を疾駆する狼に似た速さで駆け抜ける、深淵の監視者たち。

 

「このまま本陣へと肉薄する、続け!」

 

 リーダー格の一人に追従する他の監視者たち。

 

10人の内5人がデーモンの群れを突破し、敵本陣へと疾走する。

 

突如として彼等の視界に、不快な物が映った。

 

―― 矢だ ――

 

視界を覆い尽くさんばかりの矢が、彼等に降り注いだ。

 

監視者たちは動きを止める事も無く、短剣で矢を討ち払おうとする。

 

だが短剣が矢に接触した瞬間、()()は起こった。

 

突如、鏃が爆発を起こし、流石の監視者たちも動きを一瞬止めてしまう。

 

―― 爆裂矢 ――

 

矢先に爆薬を仕掛け、接触と同時に爆発を引き起こす。

 

そして畳み掛ける様に、次々と大量の爆裂矢が降り注いだ。

 

命中に関係無く、矢先が何かに接触すれば例外なく爆発を起こし、彼等に痛痒を負わせる。

 

一発一発は小規模だが絶え間なく襲い来る爆発の渦に、彼等は足止めを余儀なくされた。

 

「――GORB!!」

(今ぞ!ネット弾を射出せよ!)

 

何処からともなく木霊する、小鬼の号令。

 

監視者には、小鬼の言葉など分かろう筈も無い。

 

しかし何かしらの命令を飛ばした事くらいは理解出来た。

 

小鬼の合図と共に、飛来する荒縄造りの投網。

 

その投網は空中で広がり、監視者に降り掛かる。

 

だがそこは深淵の監視者――。

 

直ぐに態勢を立て直し、特大剣で投網を討ち払った。

 

が、投網は切り裂かれる事なく刃に絡み付いた。

 

縄造りの投網なら難なく切り裂ける筈だが、よく見れば網に接触した刃は濡れそぼっていた。

 

――これは、獣油か!

 

投射された網には、油が丹念にしみ込まされていた。

 

その滑った油が刃の切れ味を著しく低下させ、更に液体の重みで動きも鈍りつつある。

 

「GUGOOV!」

(畳み掛けろっ!)

 

更なる命が飛び、追加の投網が降り注ぐ。

 

鈍った剣技では幾多の投網を凌ぎ切れず、二人の監視者は真面に網に掛かってしまった。

 

五人居た監視者は、残り三人となり何とか投網による拘束を免れる。

 

そして間髪入れずに、再び魔神軍本陣を目指した。

 

「GORB!GUOV!」

(切り込み隊、前へっ!残りの部隊も追従せよっ!)

 

黒い小鬼の号令が掛かり、控えていた小鬼の集団が三人の監視者に殺到する。

 

先陣を切るのは、10体のホブゴブリンで構成された部隊だ。

 

手には長柄の刺叉(さすまた)棒を持ち、監視者に対して突進を掛ける。

 

ホブ部隊の後方には完全武装した多数の小鬼が追従し、高い統率力が取れている事を証明していた。

 

一人の監視者は、擦れ違いざまにホブを切り伏せようと剣を振るう。

 

だが意外にも、全てのホブは剣を振るった監視者を無視し、投網を振り解こうと藻掻いている二人の監視者を只管目指していた。

 

「――っ!?」

 

 完全に意表を突かれ、一人の監視者は後方へと振り向く。

 

しかし、その隙を狙ったかのように残りの小鬼軍団が迫って来た。

 

――愚かなっ!狼の剣技を受けよっ!

 

監視者は地面に短剣を突き刺し、それを軸とし全身を回転させる。

 

その回転エネルギーから生み出された特大剣の一撃を、小鬼軍団に浴びせた。

 

だが、その一撃は完全に受け止められる。

 

大盾のみを装備した複数の小鬼が、防御特化の構えと陣形を組み、特大剣の一撃を完全に食い止めたのだ。

 

上級デーモンさえ切り伏せた狼の剣技が、陣形を組んだ小鬼によって防がれる。

 

何かの冗談だろうか。

 

勢いを削がれた監視者は、夥しい数の小鬼に飛び掛かられ完全に覆い尽くされた。

 

残り二人の監視者は、そのまま進撃を続行する。

 

そんな彼等の視界に、四体の大型小鬼と一体の黒い小鬼が映った。

 

「先程の指揮はあの黒い小鬼の仕業か、見事なものだ!」

 

 数ある監視者の中で一人だけ蒼いマントを羽織った者が、黒い小鬼を凝視する。

 

どうやら黒い小鬼とその側近達は、蒼マントの監視者に狙いを定めている様だ。

 

「――先に行け!此処は任せろっ!」

「――了承した!」

 

 他の監視者に本陣強襲を託し、蒼マントの監視者は黒い小鬼に対応する。

 

蒼マントの監視者――。

 

嘗て、ロスリック内に位置する『暗黒の塔』にて、灰の剣士やゴブリンスレイヤーと敵対し、また共闘した事があった。

 

監視者の中でも屈指の実力を誇る、言わばエースともいうべき存在だ。

 

「――GUV!」

(貰ったぁッ!)

 

「――させんっ!」

 

 蒼マントの監視者と、黒い小鬼『ダークゴブリン』が激突した。

 

――一人撃ち漏らしたが、まぁ良い。本陣には『獣の魔神王』が控えているのでな。

 

一人の監視者がダークゴブリン軍を突破し、本陣へと迫った。

 

だが本陣には四柱居る魔神王の一柱、獣の魔神王が控え然程焦る必要はない。

 

今は、この蒼マント監視者にのみ集中しておけば良いのだ。

 

蒼マントの監視者とダークゴブリンの剣が、互いに唸りを上げる。

 

 

 

小鬼軍団を突破し、後続の異形の群れが監視者を食い止めんと飛び掛かる。

 

だが、狼の如き重厚且つ神速の剣技の前に、薙ぎ倒され足止めにすらならなかった。

 

デーモンを切り裂き、魔獣を突き刺し、アンデットを叩き砕く――。

 

たった一人防衛線を突破した彼ではあった。

 

しかし一人とは言え、魔神皇が主敵と見なすだけの事はある。

 

幾重にも張られた防衛戦線は瓦解し、中には逃走を図る異形すら現れ始めた。

 

そして監視者の目は、敵本陣を捉える。

 

本陣の中心には、あの魔神皇が何かしら儀式に集中している。

 

その周りを数々のデーモンや不死人達が、直衛に就いていた。

 

更に彼等を囲う様に、獣で構成された大群が此方を警戒している。

 

そんな獣の中に、一際巨大な個体が存在していた。

 

――あれが、獣の魔神王か。

 

犬の様な頭部に鹿に似た角を生やし、目は眼帯の様な物で覆われている。

 

全身は白い体毛に覆われ、聖職者の様な法衣を纏っていた。

 

祈りを捧げているのだろうか。

 

鋭い爪を生やした両手を胸に組み、何かに祈っている様にも見えた。

 

こちらに背を向け蹲る体制で、呻くような鳴き声を発している。

 

何処となく人語に近い発音にも聞こえた。

 

若しかしたら、魔神皇の儀式に加担している可能性もある。

 

獣の魔神王の前には、多くの獣が待ち構えていた。

 

先ずは、この群れを切り伏せ突破する必要がる。

 

その数3桁は下らないだろう。

 

――どう攻めたものか?

 

戦術を練る監視者に、援軍が追い付いた。

 

「追い付いたか」

 

 デーモンの群れを突破した5人の監視者と、数百のグルーたちだ。

 

彼を合わせた計6人の監視者が先頭に立ち、例の構え(ジェスチャー)『不死隊の儀礼』にて一斉攻撃の合図を取った。

 

あるグルーの集団は奇跡の祈りに移り、彼等の援護に徹する。

 

盾と槍で武装したグルーたちは、陣形を組み突撃形態をとる。

 

「――総員、続けッ!!」

 

 監視者の一人が命を飛ばし、弾かれたように突撃を敢行した。

 

獣軍団も呼応するかの様に、不死隊相手に飛び掛かる。

 

 

 

(推奨BGM Bloodborne――聖職者の獣)

 

 

 

激突する両陣営――。

 

監視者の集団が、特大剣に炎を纏わせ全力で振るう。

 

グルーの部隊も監視者に合わせ、獣たちに肉薄した。

 

対する獣の群れも持ち前の獰猛さを発揮し、桁外れの膂力で潰しにかかった。

 

下級は兎も角、上位の獣は規格外の膂力を有し、並の防具では有ろうが無かろうが殆ど無意味だ。

 

そんな規格外から繰り出される強力無比な攻撃は、グルーの盾を難なく粉砕し防御ごと叩き潰した。

 

また並外れた跳躍力で意表を突き、全体重を乗せた踏み付けで不死隊を蹂躙する。

 

踏み付けた獣に、僅かな硬直が生まれた。

 

その隙を逃さず、グルーの群れは武器をによる一斉攻撃で、上位の獣たちをも仕留めてゆく。

 

両陣営とも、激しい乱戦が繰り広げられる。

 

グルーと獣の激戦に加え、いよいよ獣の魔神王も動きを見せ監視者たちに襲い掛かった。

 

巨岩の如き巨躯を駆使し、あり得ない速度で突進する獣の魔神王。

 

監視者たちは散開し、突進を躱した。

 

そして全方位に散らばり、魔神王を取り囲む。

 

一見理性無き獣に見えるが、仮にも魔神王に連なる存在。

 

一旦動きを控え、周囲を警戒しながら様子を窺った。

 

包囲した監視者たちもそれに気付き、すぐさま攻撃する事なく徐々に間合いを詰めてゆく。

 

もし考えも無しに一斉攻撃を仕掛ければ、この魔神王は全方位を迎撃していただろう。

 

相手の手の内が図れぬ以上、むやみな突撃は慎まれた。

 

然程の間を置く事なく、一人の監視者が攻撃を仕掛ける。

 

魔神王の背後に陣取った監視者が接近を試み、炎を纏った特大剣を叩き付けた。

 

魔神王は片方の腕で剣を防ぎ、もう一方の腕で監視者を薙ぎ払おうとする。

 

だがそれが、監視者の狙いだった。

 

監視者は剣を食い込ませる事なく直ぐに引き抜き、ローリングで攻撃を回避しながらその場を離れた。

 

それと同時に、魔神王の足元から焼けたかのような激痛が奔る。

 

気が付けばもう一人の監視者が、足元を斬り付けていたのだ。

 

魔神王は金切り声を上げ足元を蹴り上げようとするが、その瞬間、別の部位にも激痛が襲い掛かる。

 

他の監視者が、斬り付けて来たのだ。

 

しかし、それ以上追撃する事もなく、軽い一撃を加えただけで直ぐにその場を離れた。

 

魔神王が何処かへ向いた瞬間、死角から攻撃を仕掛けられるのである。

 

監視者の集団は、全方位を囲みながら一撃離脱を徹底し、一撃を加えては離脱し、隙を生ませては別の監視者が一撃を浴びせる。

 

即効性は低いが魔神王の焦りと苛立ちを生ませ、徐々に冷静さと判断力を奪う戦法を取っていたのである。

 

決して一斉攻撃を仕掛ける事なく、時には緩急を付け攻撃と離脱が単調にならぬ様、次々と奇襲を仕掛ける。

 

そうする事で痛痒と焦燥を蓄積させ、魔神王を徐々に追い詰めてゆく。

 

      ―― ファランの不死隊 ――

 

魔神軍が主敵と見なす、深淵狩りの武装集団。

 

彼等の総合力は、並の魔神王さえ屠るだろう。

 

追い詰められた魔神王は、雄叫びを上げ天高く吠える。

 

魔神王の思惑は完全に理解出来なかったが、監視者にはある程度は推察できる。

 

援軍を要請しているのだろう。

 

だが、魔神王以外の獣はグルー部隊が抑えている。

 

援軍など誰一人駆け付ける者は皆無だ。

 

尤も、それ等を想定した上の戦術ではあったのだが。

 

しかし魔神王は此処で不可解な行動に出た。

 

何を血迷ったか、魔神王は突如跪き両手を胸に組んだ。

 

そして魔神王の周りに、聖なる光が満ち溢れる。

 

それは祈りだった。

 

獣の魔神王は、祈りを捧げ奇跡を発現しているのだ。

 

そう言えば、この魔神王は法衣を身に纏い、手には首飾りらしき装飾品を所持している。

 

若しかしたらこの魔神王は、元は聖職者なのかも知れない。

 

または、獣にも宗教の概念が存在していたか。

 

程無くして魔神王の傷は、見る見る間に塞がり回復してゆく。

 

「――っ!!」

 

 回復されては折角の戦術が水泡に帰す。

 

監視者たちは一斉に飛び掛かり、一気に仕留めに掛った。

 

それが魔神王の()()であるとも知らずに――。

 

信じられない事に、魔神王は一瞬で祈りを中断しながら宙高く一気に跳躍した。

 

「――ッ!?」

 

 今度は監視者たちが意表を突かれた。

 

完全に連携が乱れた監視者たちの前に着地し、その時生じた地響きで彼等の足元が揺れる。

 

魔神王は桁外れの膂力で、爪の連続攻撃で監視者たちを薙ぎ払った。

 

「――ぐぉッ!」

「――ぬぁッ!」

 

 大砲の如き神速の一撃は、強力無比の一言で監視者と言えども軽々と吹き飛ばす。

 

残った監視者たちは回避に専念するが、獣の魔神王はまたもや身を屈める。

 

奇跡を行使するに違いない。

 

監視者はそれを察知し、阻止しようと距離を詰める。

 

だがそれも、魔神王の想定内だ。

 

雄叫びと共に、両腕を広げ聖光が弾け飛ぶ。

 

その眩い光と共に、奇跡『フォース』が発現した。

 

たかが『フォース』と侮るなかれ。

 

たった一柱降臨しただけでも、世界に災厄を振り撒くの力を有しているのが魔神王だ。

 

そんな強大な魔神王が、圧倒的な魔力と神霊力で奇跡を行使すればどうなるか。

 

魔神王を中心に、災害級の衝撃波が全方位に拡がり、大地は抉れクレーターが形成される。

 

フォースの拡がる速度も規格外で、爆風の如き衝撃波が監視者たちを襲った。

 

災害級な衝撃波の前に、監視者たちは無意味な防御態勢で踏ん張るものの、呆気なく吹き飛ばされる。

 

宙高く巻き上げられた監視者たちは全員、受け身もとれぬまま重力に囚われ大地へと叩き付けられた。

 

倒れ伏す監視者たち。

 

好機とばかりに、獣の魔神王は唸り声をあげ止めを刺そうと迫った。

 

しかし、頭の中に言葉が奔る。

 

奴等は不死、止めには及ばぬ。時間稼ぎに専念せよ

 

 魔神皇からだ。

 

彼が念話で、獣の魔神王に語り掛けているのだ。

 

魔神軍の主敵とは言え、ファランの不死隊も名の通り不死者の集まりだ。

 

下手に絶命させれば、彼等の本拠地であるファラン城塞の霊廟にて復活してしまう。

 

当然その霊廟にも『篝火』は存在するのだ。

 

絶命させればその分、亡者に追い込む事は出来るが仮にも薪の王としての資格を有す存在だ。

 

そう易々と亡者には陥らない。

 

獣の魔神王は、追撃を断念し再び奇跡を行使。

 

受けた傷を完全回復させる。

 

その間に監視者たちも起き上がり、陣形を組み直し慎重に間合いを測った。

 

再び両者の間に睨み合いとなり、膠着状態へと移った。

 

魔神皇の儀式は完成間近だ。

 

 

 

(推奨BGM――Dark Souls3―Abyss Watchers)

 

 

 

重厚な剣同士が激突し、火花を撒き散らす。

 

「――GRUOB!」

「――ぬんッ!!」

 

 ダークゴブリンと蒼マントの監視者が、激しい攻防を繰り広げていた。

 

「――GOV!」

 

 黒い剣を構え、途轍もない疾さで肉薄するダークゴブリン。

 

だが間合いは、特大剣を所持する監視者に分がある。

 

渾身の踏み込み突きで、カウンターを狙う。

 

「――GUU!」

 

 だが、驚異的な反射速度で上体を捻り動きを止める事無く突きを避け、反撃とばかりに下段からの切り上げを見舞った。

 

「――ッ!」

 

 監視者は短剣で、流れに逆らう事なく受け流す。

 

透かさず攻めの態勢に移り、ダークゴブリンに特大剣を繰り出した。

 

身体を捻った回転切りから、手首を返し横薙ぎ、更に刃を返す。

 

ダークゴブリンは弾かれた体勢の勢いを借り、上体を逸らし回転切りを回避――。

 

そして横薙ぎと切り返し攻撃を、ダークソードで防ぐ。

 

だが監視者の攻めは、これだけでは留まらない。

 

更に間合いを詰め振り上げ切り、そして剣を振り下ろす叩き切り、二連の横薙ぎから一回転切り、更に勢いを殺す事なく袈裟掛けに切り付け、最後に跳躍しての叩き付けで攻め立てた。

 

特大剣から繰り出される、重量溢れる連続攻撃。

 

一撃一撃が必殺の威力を持ち、強靭なオーガでさえ一撃で両断する程の威力を誇る。

 

それが計七連撃――。

 

その凄まじい暴力の如し連撃を、ダークゴブリンは剣を両手持ちに切り替え、刃を合わせ、呼吸を合わせ、力の流れを合わせ、次々と防ぎ凌いでゆく。

 

そして最後の跳躍攻撃を、踏み込み切り上げ攻撃で刃を激突させた。

 

監視者の凄まじい威力の前に、受けたダークゴブリンの脚は大地にめり込む。

 

「――GRU…!」

(何という威力だ!)

 

流石のダークゴブリンも汗を滲ませ、表情には余裕が無かった。

 

跳躍攻撃を防がれた監視者は、刃から伝わる衝撃の反作用を利用し後方へと飛び退く。

 

其処へシメたとばかりに、ダークゴブリンが突撃した。

 

彼の得意技、突撃しながらの連撃『疾走連撃』で、監視者に肉薄する。

 

ダークゴブリン自身も驚異的な脚力を誇り、その圧倒的な俊足と腕力で、重厚な剣『ダークソード』を巧みに操る。

 

上段下段左右、あらゆる方向から迫る連撃の嵐――。

 

今度は監視者が受ける側となり、後退しながら特大剣と短剣で連撃を次々と防いでゆく。

 

しかし、威力と疾さを兼ね備えた重連撃は、()()()()()は叶わず()()()()()の精一杯であった。

 

意を決した監視者は特大剣でダークソードを受け止め、踏み込みからの短剣で刺突攻撃を繰り出す。

 

ダークゴブリンは瞬時に反応し、後方宙返り(バク宙)でそれを躱し距離を離した。

 

だが攻防はまだ終わらない。

 

監視者は、それを見計らい更なる疾走を敢行。

 

特大剣の切っ先を地に擦らせ、疾走しながらの振り上げ攻撃(地擦り残月)で迫った。

 

地面と剣先の摩擦熱で、火花を走らせ特大剣がダークゴブリンを襲う。

 

ダークゴブリンの着地とほぼ同時に、合わせた斬撃だ。

 

「――GOU!?」

 

 反撃は無論、回避も間に合わず辛うじての防御がやっとである。

 

何とか防いだものの重厚な衝撃を逃し切れず、ダークゴブリンは後方へと吹き飛ばされる。

 

そして間髪入れる事なく、監視者の容赦の無い追撃が降り掛かった。

 

突進から跳躍し、頭上からの唐竹割り。

 

ダークゴブリンは、弧を描くように軸をズラしそれを回避――。

 

更なる短剣の突き刺しが、彼の頭上に迫る。

 

しかしこれも、ローリングで躱す事に成功――。

 

余裕のない回避だが、一時的に凌いだ。

 

――かと思えば、それこそが監視者の作戦だった。

 

短剣の勢いを殺す事無くそのまま地面に突き刺し、短剣を軸線とし体を回転させる。

 

戦技 ―― 狼の剣技 ――

 

回転の遠心力と体重に加え、特大剣の質量を合わせた必殺の一撃だ。

 

これを真面に喰らえば、ダークゴブリンと言えども無事では済まない。

 

だが監視者はダークゴブリンの事を良く知らなかった。

 

彼もまた、ソウルの流れを察知する事が出来るのだ。

 

予め()()が来ると踏んでいた彼は、警戒を解く事なく次の攻撃に備えていた。

 

彼の予想通り、更なる一撃が繰り出され、ダークゴブリンは回転攻撃を側宙(サイドフリップ)で回避する。

 

「――ッ!?」

 

 予想外の空振りに終わり、監視者は僅かに動揺する。

 

此処で攻撃の流れを止める事を良しとせず、監視者は無理にでも攻撃を続行した。

 

彼は尚も突撃し、二連の振り上げ攻撃からの回し蹴りを見舞った。

 

「――GO!」

(執拗な奴め!)

 

舌打ちしながらも、ダークゴブリンは剣で二連切り上げを受け流す。

 

そして回し蹴りに合わせ、自らも体を回転させ回避した。

 

だがこれで終わる監視者ではない。

 

度重なる連撃の洗礼に、ダークゴブリン自身も監視者の癖を学習しつつあった。

 

――次が有る筈だっ!

 

ダークゴブリンの読み通り、案の定、監視者が次の攻撃動作に移っていた。

 

上体だけを後ろに捩じり、手首と上体を反動で捻りながら踏み込む。

 

全力で繰り出される、突進捩じり突き(ブラッディスクライド)が、ダークゴブリンに襲い掛かった。

 

――魅力的な技だが、食らってはやれんッ!

 

回転突きと刃に纏った衝撃波が螺旋を描きながら、眼前に迫る。

 

ダークゴブリンは剣の刀身でそれを受けながら、自ら踏み込んだ。

 

監視者の放った必殺の一撃は、衝撃波を伴いダークゴブリンの肉体を削り取る。

 

血肉が飛び散りながらも、ダークゴブリンは剣を手放し監視者のゼロ距離にまで迫った。

 

「――甘いッ!」

 

 監視者は臆する事なく、短剣での無慈悲な迎撃で返礼する。

 

「――貴様もなッ!」

 

 ダークゴブリンも、小鬼の言葉ではなく人語で返す。

 

そして短剣の迎撃を()()()()()()で防ぎ切った。

 

「――なにっ!?ダークハンドっ!?」

 

 監視者もこれには意表を突かれた。

 

本来、深淵に身を置いた者が使う技で、(まさ)しく深淵に堕ちた者の証と言える。

 

それが眼前の小鬼が使用しているのだ。

 

――こ奴のソウルは、深淵には魅入られてはない。しかし、ダークレイスのソウルを感じる。どういう事だっ!?

 

一瞬の動揺――。

 

その精神の乱れが、攻守の流れを完全に変えた。

 

「――阿呆がッ!」

 

 ダークゴブリンの猛攻が始まる。

 

剣を手放し素手となったダークゴブリン。

 

しかしその格闘能力は、魔神将すら上回った。

 

「――ぐぅぉふっ!」

 

 監視者の腹部に、重いボディブローが叩き込まれた。

 

監視者の鎧越しに衝撃が走る。

 

しかしこれで攻撃が止むほど小鬼は優しくはないのだ。

 

次々と叩き込まれる、連撃の抱擁。

 

項に手刀が叩き込まれ、蹲る暇も与えず、喉元を狙った膝蹴りが撃ち込まれる。

 

首を前後からサンドイッチされ、左右のフックで側頭部を叩く。

 

更に下方からの肘打ち上げで、監視者の顎を打ち上げた。

 

顔が持ち上がり胴体部ががら空きとなる。

 

そこ目掛けて、パンチの高速連打が炸裂した。

 

胸部を、腹部を、脇腹を、横腹を、正中線を、胴体部のあらゆる箇所に拳が撃ち込まれ、監視者は打たれ放題となる。

 

だが連続攻撃は止む事なく、やや間合いが離れ、今度は蹴り技で監視者の両脚を集中的に狙った。

 

上段下段を織り交ぜ、攻撃のリズムに緩急を付けながら、何度も両脚を蹴り付ける。

 

左右の脚技を生かし集中的に監視者の脚を打ち、蓄積したダメージに耐え切れず監視者は膝を突く。

 

その刹那ダークゴブリンは瞬時に後ろへと回り込み、監視者の腹部に手を回し持ち上げた。

 

百戦錬磨の監視者と言えども、後ろから組み付かれ更なる隙が生じる。

 

短剣でダークゴブリンの腕を突き刺そうとしたが、それは彼自身も読んでいた。

 

監視者が動く前に、ダークゴブリンは上体を限界まで反らし、そのまま監視者を地面に反り投げた。

 

所謂、ジャーマンスープレックス(原爆固め)と呼ばれる投げ技だ。

 

頸椎を大地に叩き付けられ、その衝撃が監視者を襲う。

 

その一撃だけでも意識が朦朧とするが、ダークゴブリンはそのまま追撃を仕掛けた。

 

ダークゴブリンは組み付いた手を放す事なく、自ら身体を後方へと回転。

 

そしてその態勢のまま、宙高く跳躍――。

 

空中で後方へと回転させ、ジャンピングスープレックスで地面に叩き付ける。

 

「――ッ!!!」

 

 先程に比べて層倍するかのような重い衝撃が、監視者を責め立てた。

 

だがまだ終わらない。

 

ダークゴブリンは手を離さぬまま、今度は前方へと跳躍。

 

そして監視者を掴んだまま、再度地面へと叩き付けた。

 

これはジャンピンパワーボム(脳天逆落とし)と呼ばれる類の業だ。

 

そしてダメ押しの追撃――。

 

ダークゴブリンは監視者を高く持ち上げ、そのまま地面へと叩き付けた。

 

最後はボディスラム(抱え投げ)で、一連の連携技を終える。

 

大地に横たわる蒼マントの監視者。

 

――動けぬようだが、油断は出来ん!

 

更なる追撃を必要と判断した、ダークゴブリン――。

 

大きく息を吸い込み、口から結晶ブレスを吹きかけた。

 

過去に『大喰らいの結晶トカゲ』から、得た能力だ。

 

魔力の籠もった吐息が、監視者を襲う。

 

「――ッ!!」

 

 が、監視者は瞬時に反応し、一気にその場から退避した。

 

「GOVUR…!」

(矢張り、一筋縄ではいかんか!)

 

詰めの結晶ブレス攻撃が空振りに終わり、大きく距離が開いた。

 

監視者は透かさず落とした武器を拾いに走り、ダークゴブリンも申し合わせたかのように武器を拾いに走る。

 

ほぼ同時に両者とも武器を拾い上げ、そのまま互いに剣を激突させた。

 

刃から火花を散らせながらも、鍔迫り合いに持ち込む。

 

そしてほんの僅かな時間、睨み合いが続いたが、剣による激戦が再開される。

 

互いに一歩も引かぬ、連撃の応酬――。

 

両者ともダメージを負いながらもそれを感じさせない程に、機敏に動き更なる攻防が繰り広げられる。

 

 

 

      ―― 機は熟した…退避せよ ――

 

 

 

この戦場に存在している魔神軍全ての脳裏に、言葉が奔った。

 

魔神皇だ。

 

魔神軍の長である彼が、儀式の完成を通達したのだ。

 

前線に居た魔神軍は、次々と退避を開始する。

 

監視者数名を抑えていたホブゴブリン切り込み隊も、警戒しながら本陣へと後退を始めた。

 

幸いな事に、拘束から解かれた監視者は警戒感を露にしているのか、ホブ集団を追撃する事はなかった。

 

獣の魔神王とその配下も、本陣へと後退し始める。

 

最後に残ったのは、蒼マントの監視者とダークゴブリンのみ――。

 

当然ダークゴブリンにも、退避の旨は伝わっていた。

 

しかし今、戦闘態勢を解けば確実に監視者からの追撃を許してしまうだろう。

 

何とか隙を作ろうと試みるも、狼の如き監視者の攻めは留まる事を知らない。

 

「――Grob!」

(ボスっ!)

 

「――Goov!」

(何とか援護せねば、しかし――!)

 

ダークゴブリンの側近、長弓ゴブリンと書記ゴブリンは援護を試みようとするが、あまりに激しい戦いに割り込む余地すらなかった。

 

このまま魔神皇の儀式が発動されれば、問答無用で巻き込まれ全滅の憂き目に遭う。

 

歯軋りする側近達――。

 

「情けない側近だ事!いいわ、私達が加勢してあげる!」

 

 突如、頭上から若い女の声が投げ掛けられた。

 

「――お前達かっ!」

 

 頭上を見上げ人語で語り掛ける、長弓ゴブリン。

 

「――おんや、ボスの奥方達ですかい!?」

 

 側近の一人、バンダナゴブリンも上を向く。

 

側近達の視界には、翼を生やし下着同然の扇情的な格好をした女達が浮遊していた。

 

『夢魔』に類する女性系の魔神達だ。

 

 嘗てダークゴブリンの住処に乗り込み、配下へと納めるべく画策していたが逆に虜囚となり、現在はダークゴブリンの女として部下として共存していた。

 

バンダナゴブリンが、魔神達を”奥方”と呼んだ理由――。

 

それはダークゴブリン本人が、彼女等を()()()してではなく()()として扱った事に起因していた。

 

虜囚となった彼女等は当初、側近達にも宛がわれていたが、バンダナ、大シャーマン、書記とは反りが合わず、加えて彼等は人族の女が好みであった為、全てダークゴブリンと長弓ゴブリンに廻される事となった。

 

しかし奇妙な事に、この二人の小鬼は彼女等を伴侶として厚遇した。

 

魔神とは言え、女でもある彼女等だ。

 

己が置かれた状況に疑念を抱きながらも、伴侶として役割を果たす事にしたのである。

 

ダークゴブリンから奪われたソウルは、既に返還されている。

 

このまま逃走し、女系の魔神軍に帰還する事も十分可能であった。

 

しかし彼女等は、このダークゴブリン軍団に身を置く事に決めたのだった。

 

彼女等の真意は本人のみぞ知る。

 

何か裏がるのか、それとも真に此処を居場所と決めたのかは、定かではない。

 

しかし今は、彼女等の助力が頼みとなっているのも事実だ。

 

「――準備は良い!?行くわよっ!」

「「「「「――はいッ!お姉さまッ!!」」」」」

 

 虜囚とは言え、仮にも魔神将である上夢魔と配下の中夢魔たち。

 

もう女系の魔神軍ではなかったが、嘗ての連携で行動に移す夢魔たち。

 

全員が呪文の詠唱を終え、監視者に向けて一斉に解き放った。

 

夢魔全員が真言魔法『ライトニング』を放ち、監視者の動きを阻害した。

 

空中を自在に飛び回り、魔力に優れた夢魔達の呪文だ。

 

人族のそれとは桁違いの威力を誇り、如何に監視者と言えども全方位から放たれれば、防御に徹せざるを得ない。

 

「――ほうッ…気が利くな」

 

「バカ言ってないで、早く退避なさい!」

 

「巻き込まれますよ!我が夫!」

「貴方を喪えば、行き場が無くなるのよ!」

「夫としての役割を果たしなっ!」

 

 ダークゴブリンに対し、夢魔達が口々に反論しながらも退路を切り開いていた。

 

「――いいだろう、戦の後でたっぷりと可愛がってしんぜよう!――ついでだ…サジタ…、インフラマラエ……」

 

 後方へと大きく跳躍しながら、ダークゴブリン自身も呪文の詠唱に入った。

 

撤退を盤石にするためだ。

 

「――ラディウスッ!!」

 

 ダークゴブリンが行使したのは真言魔法、『火矢(ファイアーボルト)

 

威力重視の火矢を小出しにしながら、監視者を連射で牽制した。

 

宛らそれは、機関銃(マシンガン)の如く大量にバラ撒かれ、監視者は完全に足止め状態となる。

 

ダークゴブリンは後方へ退避しつつも、火矢をマシンガン状に乱射し、軍団は撤退を完了する。

 

「――チッ…取り逃がしたか…!」

 

 蒼マントの監視者は、本陣へと集結した魔神軍を睨み付けた。

 

其処へ彼の元へと、残存したファランの不死隊が次々と集結する。

 

両陣営とも再び、睨み合いの状態が続いた。

 

濃い灰色の雲はいよいよ黒み掛かり、帯びた雷は激しく火花を散らす。

 

稲光は周囲を冷たく照らし、雷の轟音は聞く者に畏怖と戦きを齎すだろう。

 

まだ昼間だというのに陽光は遮断され、黒と灰色の雲が空を支配する。

 

その光景は|()()()()()()()()()()》を彷彿とさせた。

 

(推奨BGM――Pontiff Sullivan)

 

そんな中、集結した混沌勢の列が左右に割れる。

 

中心から姿を見せたのは、魔神軍の長――。

 

そんな長に、跪き頭を垂れる混沌勢――。

 

雷光に照らされる、圧倒的存在――。

 

 

 

―― 魔 神 皇 ――

 

 

 

嘗ては、こう名乗っていた――。

 

 

 

―― 法王 サリヴァーン ――

 

 

 

「遂に姿を見せたか魔神皇…いや、サリヴァーンっ…!」

 

 監視者の一人が呻くように呟く。

 

他の監視者やグルーたちも、声こそ発しなかったがそれぞれが構えを取り、闘争心を露にした。

 

 

 

大勢は決す。平伏すが良い

 

 魔神皇から放たれる言の葉――。

 

彼の者は、主敵に対し悠然と歩む。

 

対するは、ファランの不死隊――。

 

警戒態勢を維持しつつも、いつでも動ける状態を維持する。

 

目の前に居るのは、魔神軍の中心的存在であり支柱でもある魔神皇――。

 

彼の者さえ討てば、混沌勢は瓦解し統制を失う。

 

混沌の勢力が消失する訳ではないものの、その力を大きく削ぐ事が出来るのだ。

 

今を於いて、この機を逃す理由はない。

 

深淵の監視者を中心に、ファランの不死隊は攻撃陣形を組んだ。

 

監視者たちは最前衛に陣取り、不死隊の儀礼で決意を示す。

 

彼等は雄叫びを上げる事も無く、静寂ながらも闘志に満ち溢れ、武器を握る手に力が籠った。

 

 

 

「全軍……続けぇッ!!!」

 

 

 

 隊長職を務める監視者の一人が目一杯叫び、全軍を鼓舞しながら魔神皇に対し特攻をかけた。

 

標的は魔神皇ただ一人――。

 

他には一切目も暮れない。

 

だが不可解な事に、魔神軍の誰一人として援護に入る者は皆無であった。

 

当然、何かが有る。

 

それはファランに不死隊も感付いていた。

 

しかし、それが何だと言うのだ。

 

多少の犠牲を払おうとも、眼前の魔神皇さえ討てば、一先ずの戦は終わるのだ。

 

たとえそれが、四方世界の誰にも称賛される事もなく、記憶すらされない定めであったとしても。

 

人知れず、深淵と邪悪に魅入られし者を狩り取る――。

 

それがファランの不死隊としての使命なのだ。

 

火の時代が終わり、四方世界に時代が移り変わろうとも。

 

 

 

憐れなり

 

 

 

魔神皇の短くも確かな言。

 

ファランの不死隊に対し何ら臆する事なく、手からソウルの業を用いて()()()を出現させた。

 

――まさか、()()はッ!!

 

「――全軍!攻撃中止!攻撃中止!反転せよっ!繰り返す、反転せよっ!」

 

 魔神皇の手に存在する物体に気付いた隊長職の監視者は、咄嗟に攻撃中止の命を飛ばす。

 

他の監視者も魔神皇の手にする物体に気付き、即座に突撃を止めた。

 

しかし、勢い付いた全軍の進攻を直ぐに停止させる事は至難の業だ。

 

「残念だがここ迄だ。ファランの不死隊!」

 

 魔神軍本陣の遥か後方に陣取る、一人の騎士らしき男は静かに言葉を発す。

 

全身を漆黒の甲冑で身に纏い、黒い特大剣で武装した、大柄な体躯の巨漢だ。

 

数名の配下騎士を伴い遥か後方で、この戦を静観していた。

 

「この戦……サリヴァーンの勝利ぞ」

 

 漆黒の騎士が口を開くと同時に、魔神皇の手にする物体が蠢いた。

 

手にしたそれは、鈍い黄金色の杯で骸骨の様な意匠が、凝らされていた。

 

もう一方の手で蓋を取り、杯の中から黒い霧の様な気体が辺りに立ち込めた。

 

その霧は、見る見る間にファランの不死隊の方へと広がり、その速度は加速度的に増大する。

 

「――総員退却っ!――退却っ!!」

 

 監視者は霧に呑まれながらも退却を叫び、戦場から離れようと藻掻く。

 

呑まれよ…深みに…そして誘え…深淵に…

 

 だが黒い霧の覆い尽くす速度は、瞬く間にファランの不死隊を包み込み、グルーは勿論の事、監視者すらもその気体に飲み込まれてゆく。

 

そして悉く、ファランの不死隊は姿を消してゆくのだ。

 

――あれは、『カーサスの地下墓』に在った遺物(アーティファクト)

 

蒼マントの監視者は、霧に追い付かれながらも必死に逃げ惑う。

 

そして魔神皇の手にしていた物の正体に、気付いていた。

 

その遺物、骸骨意匠の黄金色の杯――。

 

それは、カーサスの地下墓に安置されていた、呪いの遺物であった。

 

嘗て『砂の国カーサス』という国が存在していた。

 

その当時の統治者である『覇王ウォルニール』の魂を封印した代物である。

 

彼は何らかの原因で深淵に呑まれ、杯の中には深淵に繋がる世界が込められているという。

 

本来なら一度蓋を開ければ問答無用で、周囲を深淵へと飲み込んでしまう。

 

しかし、魔神皇は特殊な儀式を用い、標的にのみ深淵が向かう様に細工したのである。

 

自然現象が味方したのだろうか?

 

僅かな時間、吹き込んだ突風が黒い霧をほんの少し遠ざけた。

 

それは盤外の神々の思惑なのだろうか?

 

蒼マントの監視者は逃走に成功し、結果、難を逃れる事が出来た。

 

 

 

……

 

 

 

黒い霧が晴れる。

 

雷雲が去る。

 

風が止む。

 

徐々に広がる青い空と、眩いばかりの陽光。

 

つい先程まで、此処が戦場であったなど誰が信じるだろうか。

 

一人…撃ち漏らしたがまぁ良い。主敵の排除には成功…次の作戦へと移行する

 

 平和そのものと言えるほどの空間に、不釣り合いに存在する魔神皇とその軍勢。

 

魔神皇は勝利を宣言し、周囲に魔法陣を展開させる。

 

そして自身を含めた魔神軍全てを巻き込み、その場から消え去った。

 

恐らく転移の術を行使したのだろう。

 

軍団規模で作用する程の広範囲に渡る転移の術だ。

 

予め指定しておいた場所へと転移したに違いない。

 

晴れやかな天気に、広がる青い空。

 

日の光が降り注ぐ荒野に取り残された者が独り――。

 

「……こんな…こんな…事が……」

 

 手にした特大剣を落とし、膝を突き項垂れる蒼マントの騎士。

 

「……精強を誇る我が不死隊が……」

 

 火の陰りし時代、彼等は深淵を狩る使命を帯びていた。

 

「……独り……私独りだけか……」

 

 深淵に魅入られし者あらば、たとえ一国が相手であろうと滅ぼす。

 

「……皆が……深淵に……」

 

 深淵を狩る彼等が、今、深淵によって滅びた。

 

「我等が偉大なる始祖……アルトリウスよッ……!」

 

 太古の昔ロードランに存在した、神々に仕えた高潔な騎士…アルトリウス。

 

彼は深淵を狩る為に、自らも深淵に呑まれた。

 

これは何の因果だろうか。

 

歴史は繰り返すのか。

 

深淵を狩る後継者である、ファランの不死隊も深淵に呑まれた。

 

残るのは、ファラン城塞に存在する僅かな手勢のみ。

 

最早組織だった行動は不可能だ。

 

生き残った蒼マントの監視者は、呆然自失となり天を仰ぐ。

 

皮肉にも空は晴れ渡り、何とも活力に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

紋章の魔神(ブレイゾン)

 

 長い年月と経験を重ね、その身に魔力の紋章を宿した魔神達の総称。

 驚異的な身体能力と魔力を兼ね備え、単体でも人類側には脅威として認識されている。

 数ある魔神将も、この中から誕生したと言われている。

 

 強大な存在だが強者には一定の敬意を払うなど、知性と思慮深さを併せ持つ個体も存在する。

 

 ブレイゾンとも呼称されている。

 

 

 

 

 

《b》《/b》




 敵側、しかも軍団戦と来たもんだ。
集団同士のぶつかり合い、もっと激しさを表現したかったです。

自分の未熟さを痛感させられます。
更なる精進を心掛けねば。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。 ( ゚∀゚)/
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