ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

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 長らくお待たせして申し訳ないです。
幾らかのストックが出来ましたので投稿致します。


第70話―暗雲の晩餐(混迷深き胎動2)―

 

 

 

 

 

 

炎のデーモン

 

 遥か太古の時代、ロードランより存在していたデーモン。

 炎のデーモンも、その一体である。

 火の陰りを憂い、イザリスの魔女たちが生み出した”火”。

 しかしそれは混沌の苗床と化し、デーモン誕生の切っ掛けとなった。

 ありとあらゆる存在がデーモンへと変容し、現在はロスリックにて生息している。

 

 火の陰りしあの時代。

 彼等の源となる火も消えゆき、彼等もまた滅び去る運命にあった。

 しかし今はどうだろう?

 

 二度目の火が宿りし四方世界。

 新たな世界を闊歩する時、彼等は何を想い、何を成さんとするのか?

 

 四方世界に存在するデーモンとは一線を画す、太古のデーモン達。

 

 この個体は、岩の様な硬質の身体と強靭な生命力を備え、炎を自在に操る力を持つ。

 また手にした巨大な鎚は、全てを粉砕せんばかりの破壊力を有す。

 デーモン自身の総合力も高く、四方世界のデーモンと比較しても総じて高位の存在として認識されている。

 このデーモンに打ち勝つには、金等級水準の冒険者が望ましいとされている。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 魔神軍との戦いで、ファランの不死隊が壊滅し、数日の時が過ぎた。

 

そこは自由だった。

 

何者にも犯せぬ、無限とも呼べる領域。

 

何者にも縛られず、遮る物は何も無い。

 

そんな広大な領域を突き進み、縦横無尽に駆ける翼――。

 

 

 

      ―― 翼竜(ワイバーン) ――

 

 

 

低い知性と獰猛な攻撃性、そして高い飛行能力を有す、下級の竜族。

 

5頭の翼竜の背には、混沌勢最弱の種族…ゴブリンが搭乗し、彼等を操っていた。

 

その内の一頭には、黒い異端の小鬼『ダークゴブリン』の姿が確認できる。

 

「GOOBU!」

(爽快、実に爽快!空の領域とはこうまで、自由を満喫できるものか!)

 

彼は喜びに打ち震えていた。

 

突き進む過程に、遮る物は何も無い。

 

進むべき道を自身で決め、其処へ向かうだけだ。

 

「GROOV!」

(ボスッ、コイツぁ驚きでっせ!病みつきになりまさぁッ!)

 

側近の一人、バンダナゴブリンが翼竜を此方に寄せ、上機嫌に語り掛けた。

 

「GOOV!」

(圧倒的な視界の確保に加え、驚異的な速度での移動。危険を冒してまで、彼の戦に参加する意義が有りましたな!)

 

もう一人の側近、長弓ゴブリンも会話に加わった。

 

他2頭の翼竜には、側近ではないが中型種の小鬼が搭乗している。

 

どちらも実力派で、大型種寸前にまで進化しようとしていた。

 

空中に上がり、地上を見下ろす形で視界の確保が可能となった。

 

地形に左右され、今まで見通せなかった地上が具に把握できる。

 

――山賊どもの拠点か、随分物資を溜め込んでいる様だな。

 

ダークゴブリンの眼下には、取引相手である山賊集団の拠点が映っていた。

 

高度の関係で人が点粒ほどにしか見えなかったが、荷車や馬車が頻繁に出入りしている様子が確認できる。

 

加えて蔵のような建物も複数、目に映った。

 

――出し渋り、散々金をふんだくっていた様だが、そろそろ見切りを付ける頃合いか?

 

振り返れば取り引きを重ねるにつれ、山賊側から何かと理由を付け物資が用意できないという事態が、日増しに増加していた。

 

そして十分な物資を揃えるには追加で資金が必要になると称し、更なる金銭を要求していたのである。

 

金塊(インゴット)そのものは充分に確保できていた為、仕方なく山賊の要求に応じていたが、彼等に不穏な動きを見せている事は、此方(ダークゴブリン)側も十分認識している。

 

彼等との取引関係にも、一段落を付ける時期が来た。

 

ダークゴブリンは秘かに思考を張り巡らせていた。

 

彼は、棒に巻き付けた五枚の布を頭上に掲げた。

 

布切れ一枚一枚は異なる色に染められている。

 

「GROOOBU!」

(各位、散開!これより自由偵察へと移行する。日が沈むまでには住処へと帰還しておけ、散開っ!)

 

「「「「Goov!」」」」

(――御意っ!)

 

棒に巻き付けた布切れは、散開の合図だった。

 

空中では風切り音に掻き消され、口伝のみでの意思疎通も難しくなり、一目で認識出来る統率手段が必要とされる。

 

そこで、棒に色付きの布を巻き付け単純な動作にて、行動指針を伝達する必要があったのだ。

 

ダークゴブリンの命で、各自はそれぞれ任意に翼竜を操り、別々の方向へと飛び立った。

 

――さて…俺も動くか。

 

ダークゴブリンも、任意の方角へと飛竜を差し向けた。

 

 

 

……

 

 

 

約数時間、飛び続けただろうか。

 

陸の切れ目が映り、眼下には広大な『海』が拡がっていた。

 

「GRU!」

(海か……、悪くない。たまには、こうやって飛び回るも一興よ!)

 

普段目にする事のない世界の一部――。

 

たとえ混沌の住人とは言え、雄大な自然には感動を覚えるものだ。

 

彼は更に突き進む。

 

元々追い風で、翼竜は翼を広げるだけで風に乗る、いわゆる滑空状態だ。

 

翼竜自身のスタミナには何の問題も生じていない。

 

海流が入り混じり荒れ狂う海域を発見した。

 

――ん?島…か?

 

荒れ狂う海の先に、ひっそりと佇む離島が彼の視界に映る。

 

ダークゴブリンは翼竜を操り、その離島へと向かった。

 

「……」

 

 まだ何が在るのかも未知数だ。

 

直ぐに着陸する事は控え、暫くは上空から島の様子を窺った。

 

――人族は無論、同胞すら居ない…完全な無人島の様だな。

 

離島に対しソウルを探り、翼竜を用いた空中からの観察。

 

動物や野生の獣の存在は確認できるものの、この島は完全な無人島である事が確定した。

 

此処で漸く翼竜を降下させ、島へと着地させる。

 

「……」

 

 付近の木には、木の実が成っていた。

 

梨に似た種類の果実らしく、それを複数捥ぎ取り、翼竜に分け与えてみる。

 

すると翼竜は貪るように、その実を平らげてしまった。

 

その様子を確認し、ダークゴブリン自身も実を(かじ)る。

 

「GOV」

(美味い)

 

その味に舌鼓を打ち、彼自身も実を堪能した。

 

――もう少し探索してみるか。

 

翼竜にはこの付近限定で自由行動を執らせ、自身は徒歩で島の探索を開始する事にした。

 

――とはいっても、彼自身は驚異的な脚力で疾走しながら、島の隅々まで駆け巡るという荒唐無稽な方法で調べ尽くす訳だが。

 

平原を疾走し、次々移り変わる地形情報を瞬時に脳へと叩き込み記憶してゆく。

 

森林の比率、水源の位置、洞窟の有無、動物の生息数、平原の割合、そう云った情報を驚異的な早さで分析し元の場所へと戻った。

 

――完全に手付かずの島に加え、周囲は荒れ狂う海原。……これは重畳(ちょうじょう)の極み。

 

ダークゴブリンの口端が吊り上がる。

 

「GYEEV……GUU…GUOOOO!」

(これは我が神からの贈り物と捉えさせて頂こう……クククク…フハハハハ!)

 

天高く照り付ける太陽。

 

小鬼にとっては真夜中だが、ダークゴブリンは空に向かい高らかに笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

―― 水の都・法の神殿 ――

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 冒険者の夢の跡)

 

 

 

王国西方面の要、水の都。

 

この大都市に存在する、法と秩序を司る至高神が祀られている、法の神殿。

 

「あれから一週間、一党からの音信は途絶えたまま……失敗と見なして宜しいかと――」

 

 優雅にして厳かな礼拝堂にて頭を垂れる一人の男――神官戦士長。

 

「そうですか……彼等までも」

 

 跪く神官戦士長の前には、神殿の最高責任者にして大司教を務める、通称『剣の乙女』が静かに男の報告を受け取った。

 

「これで4党の冒険者を送り込みましたが、未だ帰還した者はおりませぬ」

 

 神官戦士長は報告を続ける。

 

今より遡る事、一か月前である。

 

過去に灰の剣士と幼き夢魔がダークゴブリン生存の報を携え、この神殿へと訪れた。

 

幼き夢魔はダークゴブリンの虜囚となっていたが、山中にて灰の剣士に保護されダークゴブリンの拠点の位置を提供したのだった。

 

しかし情報が不足している。

 

情報が確かなら、ダークゴブリン率いる小鬼群は従来の常識を覆す程の存在で、数十人の冒険者ですら敗北を喫したというのだ。

 

先ずは調査が必要と判断し、こうして冒険者に依頼していたのだが一向に報告が入って来なかった。

 

常識を覆す程の存在であるダークゴブリン。

 

無論、新人の一党を調査に送り込む程、彼女は小鬼を侮ってはいない。

 

いや寧ろ、小鬼の恐ろしさは彼女自身が身を以て知っている。

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

送り出した冒険者達は、全てが鋼鉄等級以上の等級であった。

 

――にも拘らず、生還を果たした者は未だに皆無であった。

 

「太陽の騎士殿は何処(いずこ)に?」

 

「現在王都にて――。今から帰還させたとしても、数日は掛かるかと」

 

「…………」

 

 等級こそ中堅(青玉等級)ではあるが、極めて高い依頼達成率を誇る冒険者『太陽の騎士』について尋ねる、剣の乙女。

 

数か月前から彼は水の都を離れ、以来姿を見せていない。

 

彼ならば或いはと踏んだのだが、此処に居ないのでは依頼のしようがない。

 

――かくなる上は、もう一度あの御方に……。

 

彼女は、一人の冒険者を思い返していた。

 

ダークゴブリン生存の報を携えてやって来た、あの灰の剣士の事である。

 

彼の素性は、西方辺境の地母神神殿から伝達され、『火継ぎの時代』の住人である事も認知している。

 

あの時、彼自身が調査に並々ならぬ意欲を見せていたが、乱れたソウルと優れぬ顔色から彼には帰還する事を促した。

 

この様な結果を迎えるのなら、最初から彼の提案を受けておくべきだった。

 

彼女は些かの悔いを見せる。

 

「大司教様、提案が御座います。この件、()()なら、如何で御座いましょうか?」

 

「彼等……?」

 

 戦士長の提案に、彼女は首を傾げる。

 

戦士長の示した案は、銀等級戦士が率いる一党を差し向けるものであった。

 

銀等級戦士を筆頭とした、斧戦士、女司祭、男魔法斥候の4人で構成された一党。

 

彼等も高い依頼達成率を誇り、それに相応しい実力をも兼ね備えていた。

 

そして何より、偽物のダークゴブリンを討伐した一党でもある。

 

「……確かに、彼等なら……」

 

 剣の乙女は、その一党を思い浮かべていた。

 

近年『太陽の騎士』や『灰の剣士』に意識が向き過ぎ、彼等の事を完全に失念していたのである。

 

よくよく考えてみれば重要な案件は、太陽の騎士や灰の剣士と出会うまでは、専ら彼等に依頼していた。

 

「良いでしょう。直ぐに依頼の手続きを――」

 

「――畏まりました」

 

 戦士長は深く一礼し、直ぐに動き出す。

 

――彼等ならきっと。偉大なる至高神様、我等にどうか祝福を。

 

剣の乙女は、至高神を象った彫像に祈りを捧げた。

 

そして翌日――。

 

彼等が訪れる。

 

銀等級戦士を筆頭に、全てが熟練の域に達した冒険者の一党だ。

 

「招致に応じ馳せ参じました、大司教様」

 

 頭目である銀等級戦士が、跪き頭を垂れる。

 

「……?。一人居られないようですが?」

 

 礼拝堂に訪れているのは、頭目である戦士、男魔法斥候、女司祭の三名だけだ。

 

彼等の一党は4人構成――。

 

確か、銅等級の斧戦士が居た筈だ。

 

大柄で思慮深い壮年の男性だった事を記憶している。

 

「……彼は、神殿の入り口で待機しております。……最近になり、この結界に作用してしまう事態に陥ってしまい、誠に申し訳ありません!」

 

 銀等級戦士は深々と頭を下げ、事情を説明した。

 

今迄は、何の問題もなくこの神殿に出入り出来ていたのだが、或る日を境に彼のみが結界へと反応してしまう様になった。

 

それも、かなり強く作用するらしく、所々肉体が焼け爛れる程であった。

 

「……まぁ、そういう事でしたの」

 

 剣の乙女は暫し無言で神殿の入口へと視線を向け、彼等の事情を飲む。

 

「…なれど、我等の活動に支障はありません。お気遣いなく――」

 

「そうでしたか。では楽になさって下さい。此処からは冒険者としてお話いたしますわ」

 

 剣の乙女は彼等を労い、依頼内容を話す。

 

ダークゴブリンの調査――。

 

かれこれ述べ4党にも渡る冒険者集団を送り込んだが、帰還した者は未だ皆無で、何の情報も得られていない。

 

判明しているのは、幼夢魔が記憶している事とダークゴブリンの住処の情報だけだ。

 

実際小鬼の戦力や規模を把握できなければ、討伐隊の編成もままならない。

 

既に一ヶ月近く、予定に遅れが生じていた。

 

可能なら直ぐにでも情報が欲しい処。

 

「調査の件、我等にお任せ下さい。――それはそうと大司教様――」

 

「?…何でしょう?」

 

「――別に、()()()()()()()()構わんのでしょう?」

 

 頭を垂れていた銀等級戦士は顔を上げ、何処となく自信あり気に提案した。

 

剣の乙女は基本、目が不自由で彼の表情まで窺い知る事はできない。

 

しかし彼から流れ出るソウルを感知し、目の前の男がどの様な感情を抱いている事は察知出来た。

 

「……。彼女を同行させましょう。必ずや、あなた方の助けとなる筈です」

 

 暫しの沈黙の後、剣の乙女は一人の少女を紹介した。

 

その人物とはダークゴブリンの住処から脱出し、この神殿で保護された幼夢魔であった。

 

幼いとは言え、彼女は混沌側の住人だ。

 

一党は戸惑いの表情を浮かべたが、既に彼女の精神は秩序側に傾いている。

 

外部から余程の誘惑を受けない限り、堕落した精神に陥る事はないだろう。

 

更に夢魔である彼女は飛行能力に加え、多大な貢献が見込める。

 

「大司教様の推薦とあらば、そのご厚意、有り難くお受け致します。……それでは吉報をお待ち下さいませ!」

 

「頼みましたよ」

 

「貴女も気を付けて、危険と判断したら直ぐに撤退するのですよ?」

 

「はい。お心遣い、感謝致します。大司教様!」

 

 幼夢魔を一党に託し彼等は一礼の後、礼拝堂から立ち去った。

 

「ダークゴブリン……一筋縄ではいきませんね」

 

 剣の乙女は彼等の背中を見送り、誰にも聞こえない声で一人呟いた。

 

――しかし、一人だけ結界に反応する事になるとは、彼の身に何が起きたのでしょう?不穏なソウルが此処にまで伝わってきます。

 

銀等級戦士が話していた、銅等級の斧戦士。

 

もう一度神殿の外に意識を集中させれば、不快なソウルが此処に迄ヒシヒシと伝わって来た。

 

何とも不快な事この上ない、悍ましいソウルだった。

 

「……深い…とても深く、底無しの深海の如き感覚に囚われます。まるで『生』そのものを拒絶するかのような、深くと冷たく暗いソウル……」

 

 数年前に討ち果たした魔神王。

 

その当時から彼女は、ソウルを感知できる才能を開花させていた。

 

その魔神王も混沌に満ち溢れたソウルを感じ取っていたが、今感じ取れるソウルは混沌とは全く異質の様に思える。

 

それは、底無しの深淵に例えられるだろうか。

 

正直、余りお近付きにはなりたくない感覚に見舞われる。

 

今ではあのもすっかり見なくなり、時々ではあるが『あの悪夢』に苛まれる日が再び訪れ始めていた。

 

冷厳な礼拝堂は再び彼女一人となり、彼女は神像に向かい祈りを捧げ始めた。

 

 

 

「話は着きましたかな、頭目?」

 

 神殿の外では、彼等の仲間でもある男斧戦士が待機していた。

 

「……。ああ、工房で準備を整え次第、直ぐに出立するぞ」

 

 彼等は、その脚で冒険者用の工房へと向かう。

 

「見慣れないお嬢さんが居られますが?」

 

 彼等の他に一人の幼い少女が混じっているのを見付け、男斧戦士は頭目に訊ねた。

 

「――その子はですね――」

 

 女司祭が、大まかに説明する。

 

彼女は元々混沌側の住人ではあったが、現在は剣の乙女の下に身を寄せている身だ。

 

彼女の素性はある程度周知されているが、民衆は然程気にも留めていない。

 

混沌側の住人が、人間社会に適応する事は往々に有り、それほど珍しい事象ではない。

 

「私個人の見解ですが単純に、混沌イコール『邪悪』、秩序イコール『善』、とは一概に決め付けられるものではありません」

 

 女司祭は、善悪の概念について持論を展開する。

 

所詮善悪の概念など、人が選定した一方的な価値観でしかないのかも知れない。

 

広義的に鑑みれば、混沌側にもは存在し、逆もまた真(秩序側の邪悪)が成立するのである。

 

「――故に、神々の視点で観た際……」

「――そこまでにしとけって、困惑してんじゃねぇか」

 

 女司祭のウンチクは長々と続き、見るに見かねた男魔法斥候が制止に入った。

 

「はっはっは、まぁ何にせよ宜しく頼みますぞ。幼き子よ」

 

 大柄な男斧戦士。

 

見下ろす形で、幼夢魔に語り掛ける。

 

「――ㇶ…ッ!」

 

 しかし、彼女は一瞬身を強張らせ、女司祭の背へと身を隠した。

 

「…?拙者、何か怯えさせる事でも?」

 

 幼夢魔の態度に、男斧戦士は戸惑った様子だ。

 

「安心しろ。成りはデカいが、怖がらなくていい」

 

 頭目は彼女に安心する様に伝えるが、幼夢魔の態度は変わらず、女司祭の背に隠れたままだった。

 

「ははは、これは嫌われてしまいましたな。……それはさておき、目的地は把握しておるのでしょうな?」

 

「ああ、問題ない。その子が完全に把握している」

 

「……それは結構。……そして世に平穏のあらん事を……」

 

「…………」

 

 尚も怯え続ける幼夢魔。

 

そんな彼女に男斧戦士は些かに残念そうな表情を見せるも、目的地への再確認を求めた。

 

ダークゴブリンの拠点の位置は判明済みだ。

 

それを確かめた男斧戦士は、腑に落ちた顔で工房へと歩を進める。

 

頭目は無言で、そんな彼を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

(推奨BGM ダークソウル――不死院のデーモン戦)

 

 

燃え上がる炎――。

 

巨人の如き体躯――。

 

全てを粉砕せんとする鎚――。

 

唸る雄叫び――。

 

巨人の様でいて、それとは全くかけ離れた容貌を持つ異形――。

 

全身から火が燃え盛り、巨大な戦鎚を振り上げ、暴れ狂うそれはデーモンであった。

 

「――何て威力だ!」

「――これじゃ近付けねぇっ!」

「――しかも硬ぇし!」

「――私たちだけでは厳しいわ!」

 

 そのデーモンに立ち向かう、複数の冒険者。

 

銅等級を筆頭とした、4人一組の一党だった。

 

燃え盛るデーモン――。

 

それは、炎のデーモン――。

 

本来は四方世界の住民ではなく、ロスリックに生息していたデーモンの一種である。

 

炎のデーモンは上体を大きく仰け反らせ、激しい炎を吹きかけた。

 

暴風と熱波が荒れ狂い、冒険者に襲い来る。

 

「全員、散れ、散れっ!!」

 

 彼等も熟練且つ、対デーモン戦に心得を持つ一党だ。

 

こう云った攻撃方法にも瞬時に対応し、散開する事で被害を最小限に抑える。

 

しかし、事態が好転する気配はなかった。

 

石材の様な硬皮、巨大な体躯、全身を纏う炎、巨大な鎚。

 

デーモンの動作から鑑みて、動き自体が鈍重そうに見えたが、実はそれ自体が罠であった。

 

攻撃の予備動作こそ鈍かったが、一旦攻撃動作に入った刹那、瞬速で鎚を振り回して来るのである。

 

また巨体故に攻撃範囲も広く、生半可な位置取りは命取りだ。

 

更に破壊力も驚異的で、個人の防御で防ぎ切れるものでなく、受けた盾ごと腕の骨に亀裂が入る。

 

その上非常に打たれ強く、魔法や飛び道具での遠距離戦に切り替えたが、一向に生命力が衰える様子を見せなかった。

 

ジワジワと追い詰められ、心身共に消耗していく冒険者一党。

 

「くそぉ…、何か有効策はないのか!?」

 

 炎のデーモンは鎚に炎を纏わせ、大きく大上段に振り被った。

 

その攻撃は食らおうが避けようが、地面に激突した瞬間に爆発が起こり衝撃波で対象物を吹き飛ばす。

 

一党はその攻撃を既に喰らっている為、どの様な特性を持っているかは把握している。

 

しかし対処法が存在しないのだ。

 

その時である――。

 

振り被ったデーモンの腕に、雷状の槍が炸裂した。

 

腕には電流が荒れ狂い、その衝撃でデーモンは呻き声を上げ攻撃が中断される。

 

「――な…何だ!?」

 

 冒険者達は、雷が飛来したと思わしき方角に視線を傾けた。

 

その視線の先には、バケツに酷似した兜に、太陽が彩られた鎧を纏った騎士と赤毛の少女斥候が佇んでいた。

 

「何とか間に合ったか!――アストラのソラール、これよりデーモンを駆逐する!」

 

 その騎士は、アストラのソラールと名乗った。

 

「まさか、水の都の……あの太陽の騎士……」

「こ、これはひょっとしたら……」

 

 水の都に籍を置く太陽の騎士。

 

彼の姿を目にした途端、冒険者一党に喜びの表情が混じる。

 

「――貴公、手筈通りにッ!」

「――任せて、バディっ!」

 

 太陽の騎士と赤毛の斥候は、それぞれ別々の方角へと走り出す。

 

俊足である赤毛の斥候は、デーモンの脚部目掛けてライトクロスボウを発射。

 

鉄製のボルトが、デーモンの脚部に突き刺さった。

 

元々耐久力に優れたデーモンだ。

 

たった一発喰らった処で大した痛痒にもならず、彼女に注意を向けただけであった。

 

「――今だよ、バディっ!」

 

 しかし、それは想定内。

 

彼女の呼び掛けに、ソラールは更に加速。

 

「――ぬぅぉおあぁッ!」

 

その勢いを借り、全力で跳躍しながらデーモンに切り掛かった。

 

彼の斬撃は、確実にデーモンの顔面を捉え、手痛い一撃を食らわせた。

 

――まるで、石を斬り付けた様な感覚だな!

 

デーモンを斬った瞬間、剣から手に伝わる独特の感触。

 

それは生物を斬ったというより、無機物を斬ったかのような感覚に見舞われた。

 

今の一撃が効いたのだろうか。

 

炎のデーモンは、怒り狂ったかのように雄叫びを上げ暴れ回った。

 

「「「「――うわあぁぁっ!!」」」」

「――きゃあぁぁっ!」

「――かなりタフだな…!」

 

 なりふり構わず鎚を振り回し、火炎を撒き散らす炎のデーモン。

 

次第に被害は拡大し、地面には大小の火災が発生していた。

 

幸いなのは、此処が人里離れた荒野である事だろうか。

 

攻めあぐねデーモンの隙を伺う、ソラール。

 

だが彼は、驚異的な疾さで此方に接近するソウルを感知していた。

 

――何だ、この疾風の如きソウル…!?

 

得体の知れないソウルを認識したとほぼ同時――。

 

「――なっ!?」

「で、デーモンの身体が…」

「火が消えていくわ…」

 

 突如としてデーモンの全身に燃え盛っていた火が消え去り、真っ二つへと両断される。

 

「……」

 

 余りに唐突な出来事に、ソラールを含めた周囲の冒険者達も呆気に取られていた。

 

「…なに?あの人」

 

 赤毛の斥候は、両断されたデーモンの後ろに佇む人影を発見した。

 

「…誰だありゃぁ?」

「新手の冒険者か?」

 

 冒険者達もその人物に気付き、疑いを込めた目で警戒し始める。

 

人には違いないだろう、しかし味方とは限らない。

 

その人物の手には、特大剣と短剣が握られていた。

 

頭部は帽子に似た頭防具を身に付け、古びた軽鎧に蒼いマントを羽織った奇妙な風貌をしている。

 

冒険者達も素人ではない。

 

得体の知れないこの人物が、炎のデーモンを斬り伏せた事は先ず間違いない。

 

だが、たとえデーモンを屠ったとて、その人物が混沌勢の可能性も存在する。

 

素性が分からぬ以上、気を許す理由は何処にも無い。

 

「…デーモンを討ってくれた事、先ずは礼を述べたい。俺はアストラのソラール、水の都に籍を置く冒険者だ。貴公は……?」

 

 皆が訝り警戒する中、唯一ソラールだけが彼に歩み寄り、礼を言いながら自身を名乗った。

 

「……私は、ファランの不死隊に属する深淵の監視者」

 

 本名を明かす気が無いのか名を忘却したのか定かではないが、彼は敢えて自身を『深淵の監視者』と名乗る。

 

「深淵の監視者?……深淵……」

 

”深淵”という単語を耳にし、ソラールは顎に手をやり思案に耽った。

 

「――私の素性など今はどうでもいい!急を要する、貴公等は王都の関係者なのか?――もしそうなら、国王にお目通り願いたい。伝えねばならぬ報がある!」

 

 かなり早口で捲し立てる様に急かす、深淵の監視者。

 

彼の目的は、この国を修める国家元首『国王陛下』に用があるのだという。

 

「お、おい、どうするよ?」

「国王陛下に会わせろだって?」

「いきなり抜き打ちでか?」

「わたし達、そんなに高い等級じゃないわよ?」

 

 眼前の怪しい男が、敵ではない事は分かった。

 

しかし、いきなり国王に会わせろなどと要求し、彼等は困惑の色を見せる。

 

しかも態度からして、かなり急いでいるようだ。

 

「議論している暇は無いぞ?応じないのであれば、強硬策も辞さん!」

 

 煮え切らない彼等の態度に業を煮やしたのか、深淵の監視者は彼等を無視し先へと急ごうと歩を進める。

 

「――早まるな、監視者とやら!」

 

 そこへ、ソラールの制止が入る。

 

「貴公が王都へ強行した処で、敵意を煽り武力衝突を誘発するだけだ。事を急ぐのであれば、俺が同行しよう」

 

「……」

 

 ソラールは水の都に属する冒険者で、等級も青玉とあまり高い等級ではない。

 

しかし、等級以上の信頼と名声を勝ち取り、故あって王都にて幾つか依頼を遂行していた。

 

実際彼の名声は国王にも届いており、今回のデーモン退治も王直々の命でもあった。

 

ロスリックより飛来したデーモンの調査及び討伐――。

 

結果として、この深淵の監視者が止めを刺した訳だが、国王と繋がりのあるソラールに同行して貰えば、お目通りも叶い易くなる。

 

「そう言えば貴公、()()()()を名乗っていたな」

 

「如何にも」

 

 監視者はアストラという単語に言及し、ソラールも短く確かに応じる。

 

「……成程、()()()()()か」

 

「その通り。俺も貴公と同じ()()()()()なのだよ」

 

「……」

「……」

 

 監視者とソラール、彼等は互いに視線を交差させ、暫し無言でいる。

 

「……ふっ、良かろう。確かに貴公の言う通り、強行した処で事が上手く運ぶ可能性は極めて低い。貴公の案に従おう」

 

 一応の腑に落ちたのだろう。

 

監視者は、ソラールの案に従う事にした。

 

「聞き入れてくれた事に感謝する。では俺の馬車に乗ってくれ、余り乗り心地は良くないが、徒歩よりは遥かに移動が捗るぞ。さぁ、そこの皆も乗ってくれ!」

 

 ソラールは自身の荷馬車で、この現場まで急行していた。

 

馬に簡素な荷台だけを連結させた質素な荷馬車だったが、徒歩で移動するよりは遥かに時間を短縮できる。

 

資金が溜まれば、何れは更にグレードアップさせる予定も立てていた。

 

唐突に現れた、深淵の監視者――。

 

他の冒険者達は、戸惑いつつもソラールの馬車に乗り込み、王都へ向けて出発した。

 

「急いでいるのだったな!少し飛ばすから、しっかり捕まっていてくれ給えよ!」

 

 ソラールは手綱を振るい、馬を急かす。

 

此処は荒野である為、荷馬車は激しく揺れながら王都へと(ひた)走った。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 鼓動)

 

 

日は傾きを見せ、空には朱に染まりつつあった。

 

その空を滑空する一頭の翼竜と、それに乗る黒い異端の小鬼、ダークゴブリン。

 

彼は眼下より伝わる、複数のソウルを感知していた。

 

――このソウル…迷える同胞が複数に、圃人の女が一つ。様子を見てみるか。

 

彼は翼竜を操り、ソウルが居ると思わしき場所に降下を開始した。

 

眼下より感知出来るのは、違う部族のゴブリンが複数…そして、圃人の女のソウルが確認出来た。

 

ソウルの動きからして、圃人を追跡している様だ。

 

既に一匹の同胞が、圃人に肉薄しているのが分かる。

 

――恐らく小鬼が確保に移り、それに対し女が激しく抵抗していると言った処か。

 

眼下は森林に阻まれ、肉眼では様子を確認できない。

 

翼竜を降りたたせ、自信は単身、現場へと急行した。

 

生い茂る草を掻き分け木々を抜け、そう時間を置く事なく件の現場へと辿り着く。

 

ダークゴブリンの視界に映ったのは――。

 

……

 

彼女は一心不乱に走り続ける。

 

其処に道は無くとも、尖った枝が肌を傷つけようとも、御構い無しに彼女は走り続けた。

 

鬱蒼と生い茂る草木に薄っすらと立ち込める霧。

 

それは追っ手の小鬼から姿を隠すのに適しているだろう。

 

しかし、同時に自身の視界をも悪化させる。

 

更に鼻の利く小鬼には余り悪条件とはならず、彼女の発す若く雌の臭いが小鬼共の加虐心をより湧き立たせていたのである。

 

既に彼女の傍には一匹の小鬼が取り付いていた。

 

いや、取り付いていたというには些かの語弊が生じるだろうか。

 

正確には、寄り添い追従していると言った方が正しい。

 

実際、その小鬼は彼女の直ぐ後に位置取り、後方に警戒を向けながら圃人の後ろに続いていたのだ。

 

その小鬼も傷を負い、大腿部や背中には切り傷や刺し傷があった。

 

逃げ惑う圃人と小鬼の直ぐ後ろには、複数の小鬼がニタ付きながら彼等を追い回していた。

 

追っ手の小鬼が粗末な弓を引き絞り、枝と骨で拵えた矢を放つ。

 

碌に狙いも付けずに放たれた矢だ。

 

そんな矢など、普通なら狙った箇所に当たる筈も無い。

 

しかし、運はどちらに味方したのだろうか。

 

出鱈目に飛んだ矢は、圃人に追従していた小鬼の脹脛(ふくらはぎ)に突き刺さる。

 

「――GOV!」

 

 脚から伝わる、熱くも激しい痛覚――。

 

堪らず小鬼は転倒する。

 

「――だ、大丈夫ッ!?」

 

 圃人の女は、脚を止めその小鬼を助け起こそうとした。

 

「GYO、GYO、GYO!」

 

 小鬼の言葉は分からない。

 

しかし何を伝えんとしているのは、状況が物語っている。

 

その小鬼は、彼女に”逃げろ”と促しているのだ。

 

”自分に構わず逃げろ”と。

 

何とも面妖な光景だ。

 

圃人を庇う小鬼。

 

そんな小鬼を気遣う圃人の女。

 

しかし、時間とは無情に流れ行くもの。

 

とうとう追っ手に追い付かれてしまう。

 

「GOV、GOV、GOV!」

(漸く追い付いたぜぇっ!)

「GRUOOV!」

(手こずらせやがって!)

「GEYOBA!」

(独占は良くねぇわなっ!)

 

追い付いた小鬼は、涎を垂れ流しながら傷付いた小鬼へと圃人の女へとにじり寄る。

 

「Goob」

(裏切りの罪は重い、貴様は不様に引き裂き、その女の餌という役目を以て贖罪としよう。光栄に思え)

 

似たつく追っ手の中から一際大柄の小鬼が姿を現した。

 

その小鬼は脚部が異常に発達し、体格も周りの小鬼とは二回りほど大柄だ。

 

強いて言うなら中型種と大型種の中間と言った処だろう。

 

黒いマントを羽織り、短剣で拵えた王冠を被り、手には鉄斧を所持していた。

 

それは追っ手たちの頭目で、統率に長けた小鬼だった。

 

圃人を庇う傷付いた小鬼。

 

手には粗末な石斧を所持しているに過ぎない。

 

恐怖と怒りが同時に湧きおこる。

 

戦力差は歴然だ。

 

装備の質、体格差、経験、数。

 

どれを取っても勝ち目など無い。

 

しかし、傷付いた小鬼は飛び掛かった。

 

恐らく稼げる時間は、ほんの僅かだろう。

 

だがそれでいい。

 

その間に少しでも圃人の女が逃げてくれるのなら。

 

だが現実とは、そう甘くはなかった。

 

斧同士が激突した瞬間、傷付いた小鬼は吹き飛ばされ地面に横たわる。

 

辛うじて立ち上がるものの、既に戦える力は残っていない。

 

その様を嘲る、追っ手の小鬼と黒マントの小鬼。

 

傷付いた小鬼は尚も圃人に逃げる旨を伝えるが、最早手遅れだ。

 

黒マントの小鬼は、怯える圃人の女へと近付き手を伸ばそうとする。

 

「「「GYOOB、GYOOB!!」」」

 

 突如として追っ手の小鬼達が騒ぎ立てた。

 

「Goov!」

(騒々しい、静かにせい!)

 

気分を害しながらも、騒ぎ立てる部下達の方へと向き直り、黒マントの小鬼の表情は驚愕に彩られた。

 

「GRUOOV」

(随分と面白い光景ではないか、迷える同胞諸君)

 

其処に居たのは、自分達とは何もかも一線を画す、黒い小鬼――。

 

ダークゴブリンだった。

 

彼は一度、グルリと周囲を再確認する。

 

――傷付きき倒れ伏す見知らぬ同胞一人に、それを庇う圃人の少女一匹、そして見覚えのある追っ手の同胞達。

 

傷付き倒れ伏す小鬼以外は全て見覚えがあり、彼等は嘗て懲罰区から逃走した囚人達であった。

 

取り分け黒マントの小鬼は、過去に最初の巣穴を捨てる際、身代わりを用立てた囚人の生き残りであった。

(イヤーワン編、第33.5話―エピソード オブ ソラール― 参照)

 

「GOOV――GUU?」

(成程、貴公等の巣穴から裏切りが発生し女を伴い逃げた。――そんな処だろう?)

 

ダークゴブリンの指摘に、追っ手の小鬼達は無言で首を縦に振るだけだった。

 

黒マントの小鬼は怒りに形相で鉄斧を握り締め、ワナワナと体を震わせている。

 

「GREUUV」

(我が巣穴より逃げ伏せ、健気に営みを続けるとは真に結構)

 

追っ手たちを見据え、ダークゴブリンは語り掛ける。

 

「GRUOOA」

(こ奴等の処遇、俺に任せては貰えんか?無論タダでとは言わぬ)

 

ダークゴブリンは追っ手たちに提案した。

 

尤も、威圧感を滲ませ、有無を言わさず承諾させる腹積もりではあるが。

 

彼等の返事も聞かず、ダークゴブリンは近くの大木に拳を打ち付けた。

 

幹に拳が減り込み、その箇所から折れ曲がり大木は倒壊する。

 

倒れた衝撃で地面から伝わる、轟音と振動に小鬼達はたじろいた。

 

凄まじいダークゴブリンの膂力に、周囲は唖然とするばかり。

 

「GOOVU」

(その実をくれてやる。それなりの食糧にはなるだろう)

 

倒れた大木に指を指すダークゴブリン。

 

小鬼達は指先を見つめ、その視線の先には多くの実がぶら下がっていた。

 

追っ手の小鬼達は、我先と群がり木の実にむしゃぶりつき喰らい付く。

 

どうやら性欲よりも食欲が勝っていた様だ。

 

彼等はあまり良い待遇ではない事が窺える。

 

「Gruoovo!!」

(ふざけるなァっ、貴様ぁっ!!)

 

しかし黒マントの小鬼だけは、いきり立ち、手にした鉄斧でダークゴブリンに襲い掛かる。

 

異常に発達した脚力からの突進は、大型種に勝るとも劣らない。

 

しかし斧を振り被った瞬間、眉間にはダークゴブリンの指が添えられる。

 

そして一言――。

 

「GOU」

(死ぬぞ)

 

「G…Ga…Goo……」

 

 動く事が出来なかった。

 

黒マントの小鬼は、それ以上攻撃する事も逃げる事も叶わず、唯々小刻みに震えるのみ。

 

背に黒い剣を帯びているものの、ダークゴブリンは素手で黒マントの小鬼を制した。

 

襲い来る圧倒的な存在感と威圧感に、黒マントの小鬼は全身の体温が急激に上昇するのを感じ取っていた。

 

そして一気に脂汗が噴き出る。

 

「GOROOV。……GUE」

(洗礼の儀も無しで、良くぞそこまで成長したものだ。引き続き、精進に邁進するが良い。……囚人37番)

 

ダークゴブリンが指を解き、囚人37番と呼ばれた黒マントの小鬼は、力が抜けその場に崩れ落ちた。

 

その後、傷付いた小鬼と圃人の女に近付く。

 

一連のやり取りは、彼等も見ていた。

 

余りに規格外なダークゴブリンに、一人(傷付いた小鬼)一匹(圃人の女)も恐怖に慄く。

 

「GRUOV?」

(貴公、その女を護る為にも『力』が欲しいだろう?)

 

「――!」

 

 力という言葉に対し、敏感に反応する小鬼。

 

そして無言で何度も頷く。

 

「GOOV」

(いい返事だ。先ずはこれで傷を治せ)

 

小鬼の反応に満足したダークゴブリンは腰の雑嚢から包帯を取り出し、二人に投げて寄越した。

 

アロエを主原料とした薬品を染み込ませた包帯で、ただ止血するよりも高い治癒効果を得る事が出来る。

 

女と小鬼は傷だらけではあったが、幸い軽傷だ。

 

今ので充分手当は事足りるだろう。

 

「GRUO」

(ではついて来い)

 

傷の手当てが終わったのを見計らい、ダークゴブリンは翼竜を呼び寄せ彼等を背に乗せた。

 

その後、自分の背に飛び乗り飛び立とうとする間際、歯軋りし此方に睨み付ける黒マントの小鬼へと振り返る。

 

「GRUOOB。……GUE!」

(一つ言い忘れていた。女が欲しいのであれば、此処より一キロほど離れた箇所に小さな村を見かけた。興味があれば襲撃なりなんなりすると良い。……ではな、()()()()番!)

 

呆然とする黒マントの小鬼に言い放ち、ダークゴブリンは二人を乗せ翼竜を飛び立たせる。

 

翼竜の背に乗せられた二人は、驚きのあまり声にならない声を上げた。

 

「振り落とされるなよ圃人の女!死にたくなくば、しっかりと捕まっていろ!」

 

「――えぇっ!?し、喋ったっ!?」

 

 いきなり人語で話し掛けられ、圃人の女は更に素っ頓狂な声を上げる。

 

そんな彼等を余所に翼竜はグングンと高度上げ、再び飛翔した。

 

向かう目標は、先程見付けた()()()()だ。

 

――棚から牡丹餅とはこの事よ、此度の俺は()()()いるな!

 

ダークゴブリンは心の奥でほくそ笑み、あの離島へと翼竜を向かわせた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

雷の槍

 

 誓約「太陽の戦士」を交わした者に伝えられる奇跡

 雷の槍を投げる。

 かつて太陽の神と崇められた者の一族が、この奇跡を残したという。

 

 

 雷の槍は珍しい雷属性の攻撃力を持つため、魔法や炎に強い対象にも有効となる。

 特に竜族には、大きな威力を発揮するだろう。

 

 かつての神の一族の名は、時の流れの中に埋もれてしまった。

 だがそれでも、太陽は決して絶えることなく輝き続けている。

 

 今こそ称えるのだ。

 

 太陽万歳!

 

 

 

 

 

 




 もう暫くは、混沌側や他勢力視点で話が進行すると思います。

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。 ( ゚∀゚)/
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