近頃急に雨が降ったり天候が崩れる事が、よくあります。
こういう時期って体調崩しやすいんだよなぁ。
私も体調に気を使い、なるべく万全の状態で執筆を続けたいと思っています。
では投稿致します。
察知《センスリスク》
『フギオー《死》……モルス《逃亡》……アンテ《以前》』
真言魔法の一つ。
術が機能している間、罠や敵など危険が迫っている事を察知する事が出来る。
術者の力量が高い程、効果時間が増す。
いつ如何なる時も、危機は唐突に到来する。
事前に察知出来れば、それに越した事はないのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―― 西方辺境街・冒険者ギルド ――
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― ギルド)
喧騒とは、この様な状況を指すのだろうか?
所狭しと走り回る、職員達。
騒めきと叫び声が飛び交い、時々怒鳴り声も入り混じるギルドの
ギルド内はごった返し、多くの冒険者と職員で
『みなさぁ~~ん!参加希望者は、此方の受付カウンターにて対応しまぁ~すっ!』
『押さないで、押さないで、ちゃんと並んでくださぁいっ!』
『あ、はいっ!今行きますっ!!』
何時以来だろう?
これ程の賑わいは――。
三つ編みを束ね必要最小限の薄化粧で整え、冒険者達に応対するのはギルドの受付嬢。
彼女は比較的、小鬼関連の依頼を処理する事が多い。
そして今日も、担当するのは小鬼関連の依頼である。
しかし、小鬼関連の依頼は押し並べて人気が無い。
安い報酬に加え、小鬼は実に厄介な異形なのだ。
正直、割に合わないというのが冒険者共通の認識であった。
だが、今日だけはいつもと違う――。
「参加します!ゴブリン退治!」
「俺達一党も参加させて貰うぜ!」
「すんません、参加手続きを!」
「アタシらも参加するよ!」
「等級を上げるチャンスだわ!」
彼女のカウンターには、嘗て前例がない程に長蛇の列が形成されていた。
そう――。
列を並ぶ冒険者達は、皆が例外なくゴブリン退治を希望していたのだ。
「――はい!ではここに名前とメンバー状況を記載して下さい!えっと読み書き可能の一党でしたよね!?」
三つ編みの受付嬢は、手慣れた様子ながらも忙しなく動き、次々と参加手続きを処理してゆく。
尤もそれは彼女だけに限った話ではなく、他の受付嬢たちも同様の対応に迫られていたのだが。
参加手続きを済ませた冒険者の間から話声が漏れる。
「まさか剣の乙女直々の依頼とはな!」
「へへっ、乙女様にアピールするチャンスだぜ!」
「聞いたか?参加するだけで成功報酬、金貨小袋だとよ!」
「しかも活躍次第で、更に追加報酬有りと来たもんだ」
「それだけじゃないわ!」
「確か成功した暁には、参加者全員が昇級対象に入るそうよ!?」
たかだか小鬼退治に、高額の報酬と昇級候補への引き上げ――。
更に依頼人は、金等級冒険者にして六英雄の一人、剣の乙女――。
参加制限も特に設けられていない――。
通常なら先ずありえない案件だ。
余りに話が美味すぎるのではないだろうか。
若しかしたら、”騙して悪いが”をされている可能性もある。
そう疑念を抱き警戒するのが、冒険者の常というものであろう。
もう一度述べよう。
たかだか小鬼退治に、これだけの見返り――。
冒険者界隈にはこういう言葉がある。
―― 割の良過ぎる依頼と怪しい依頼は受けるな ――
余りに怪し過ぎる案件だ。
美味い話には必ず裏があり、それ相応の理由が存在するものだ。
――にも拘らず、大半の冒険者達は参加を希望していた。
『――もう一度念を押しておきますが、相手は只の小鬼ではありません!』
ギルド職員が、何度目かの警告を発す。
『小鬼の規模は、最低でも”600”以上!
職員は、小鬼の特徴を次々と述べてゆく。
生息規模、装備状況、所有兵器、小鬼以外の異形――。
600を超え、完全装備に身を包み、野戦兵器を携え、翼竜や狼までも従えている。
前代未聞だった。
未だ嘗て、これ程の規模を誇る小鬼集団がいただろうか?
いや、存在していた過去は幾つもあった。
しかし、それは数だけに限られ、全て魔神王や上位存在に率いられていたという条件だ。
今回は違う。
此度の小鬼集団は、質も常識を逸脱し、小鬼が小鬼を率いている言わば独立集団なのである。
『決して油断しないで下さい!今回の小鬼を率いているのは――』
―― ダークゴブリン ――
受付嬢の言葉に、一瞬だがギルド全体が静まり返った。
―― ダークゴブリン ――
普段聞き馴れない名である。
黒い体表の異端の小鬼――。
約一年ほど前までは被害報告が続出していたが、近年ではそういう報告は鳴りを潜めていた。
多くの冒険者界隈では、眉唾物として見られていたが、生存確定の報がギルド内を駆け巡っていたのである。
当然これは剣の乙女の動きが起因していたが、他にも関わった冒険者が数多く存在していた事も大きい。
「幾ら黒い小鬼…つったってよ」
「黒いだけの雑魚だろ?」
「他よりちょっと強いだけだって?」
「こんだけ居りゃ楽勝じゃね!?」
「寧ろ美味しい報酬だ、乗っかるっきゃねぇべ!?」
再び、ギルド内は喧騒を取り戻す。
世の中こんなものである。
これが小鬼に対する認識なのだ。
そして彼等の認識はある意味で正しい。
混沌最底辺の存在、それが
誰も彼等を哂う事は出来ない。
彼等は知らないのだ。
ダークゴブリンと言う底力を――。
異端の小鬼が率いる組織力を――。
成功報酬――。
大半の冒険者達は、見返り目当てに参加を希望していたのである。
「よぅし!早速準備に取り掛かろうぜ!」
「知ってるか?ある程度、装備を支給してくれるそうだぜ!?」
「ラッキーじゃない?経費を削減できるわ」
「お金って有る所には有るのねぇ」
参加手続きを済ませ冒険者達は次々とギルドを後にし、ギルド内は嘘の様に静まり返った。
ロビーに残っていたのは一部の冒険者と、ギルド職員だけである。
『…………』
「…………」
静まった冒険者ギルド。
『『『『『――!!!!』』』』』
対照的に、隣の酒場が俄かに慌ただしくなった。
恐らく先程の冒険者達が景気づけにと、酒に食事にと楽しんでいるのだろう。
「やっと静かになったか……」
「うるせぇ連中だ、清々するぜ」
重戦士と槍使いは、これ見よがしに悪態を突く。
「ダークゴブリンの恐ろしさを知らないんだろうな」
「そう、攻めるなよ」
「私たちも一歩間違えれば……」
他の冒険者達も続けるように口を開いた。
現在ギルドに残っているのは、嘗て金鉱山に参加していた冒険者達であった。
(イヤーワン編、第28話~第33話)
消耗していたとはいえ、当時は数十人からなる冒険者で構成されていた。
対するダークゴブリンの集団は、50前後。
普通なら先ず押し負ける事は無かった。
しかし予想に反してダークゴブリンの集団は強力で、冒険者達は辛酸を舐めさせられた。
実質、灰の剣士とゴブリンスレイヤー二人の尽力で、撃退へと追い込む事は出来たが、実際は敗北に近い状況だった。
「え~と皆さん、集まっていますね?」
三つ編みの受付嬢が、冒険者に点呼を取る。
重戦士の一党。
槍使いの一党。
同期戦士の現・旧一党。
男神官。
――からなるロスリックの生き残り組。
そして近年、有名になりつつある
南方辺境街に籍を置く騎士、カタリナのジークバルド。
金鉱山に参加していた、
そして――。
「――後は、
受付嬢は、二階の談話室へと視線を向けた。
「アイツらまだか?」
「もうそろそろだと思いますけど」
女騎士と軽戦士も、二階へと顔を向ける。
……
―― ギルド二階・談話室 ――
ソファーに腰掛ける二人の冒険者と、対面する数名のギルド職員――。
一人は、安っぽい鎧兜に中途半端な剣と上質のブロードソードを背負った冒険者――。
一人は、深緑の
灰の剣士。
「――以上を以て、貴方達二人を青玉等級への昇進を認めます。おめでとう御座います!」
等級審査を担当する監督官から、青玉等級の認識票が手渡された。
「翠玉まで後一歩か……」
「……」
二人は認識票を付け替えるが、ゴブリンスレイヤーは少々躊躇いがちだ。
「どうしました、ゴブリンスレイヤーさん?」
今回の立会人を担当する、男装の麗人職員が尋ねてきた。
「コイツが昇級するのは分かるが、俺はゴブリンを殺しただけだ」
灰の剣士が昇級するのは納得がいく。
彼は数々の強敵にも挑み、勝利を収めていた。
大半は自分と同じく小鬼退治に占められていたが、小鬼と
しかし、自分はどうだろう。
周囲から小鬼殺しと渾名されている通り、小鬼を殺す事のみに腐心してきた。
今迄も、これからも、それは変わる事はないだろう。
「フッ……、気付いていますか?ゴブリンスレイヤーさん」
「――?」
麗人の職員が、はにかむ。
「お忘れですか?貴方はロスリック調査にも参加し、見事生還しているのですよ」
彼女は過去に起きた、ロスリックの
「あれは、小鬼退治――。たまたま、現場がロスリックだったというだけだ」
ゴブリンスレイヤーも自身の見解を述べた。
確かに彼の主張は正しい。
どういう経緯であれ、依頼内容は”ロスリックの小鬼禍の排除”である。
「私は現場を直接見てはいませんが、水晶から記録映像を確認させて頂きました」
「――何だと!?」
「――その様な代物が?」
彼女言葉に、ゴブリンスレイヤーのみならず灰の剣士も反応を示す。
実はロスリックから帰還した折、調査隊の二人が記録係を担当していた。
その調査兵は知識神の信徒でもあり、見聞きした内容を記録できる水晶を所持していたのである。
彼等冒険者がこのギルドに帰還した数日後、その記録を内包した水晶を携えた調査兵の一人が来訪し、伝達されたという経緯であった。
尤も、水晶を放置すれば魔力が尽き記録内容が消失してしまう為、定期的に魔力を補充する必要があるのは余談である。
水晶の記録映像をギルド職員が目にした時、誰もが目を見開き言葉を失い釘付けとなった。
灰の剣士は無論、ゴブリンスレイヤーも激しい戦いを繰り広げ、その様は英雄譚そのものと言えた。
彼女はこう言いたかった。
「貴方は、小鬼以外にも”亡者”や”呪腹の大樹”といった強敵を相手にしているのですよ」
彼女の言う通り、彼は小鬼以外にも異形を相手にし見事勝利を収めていた。
「ついでだ」
彼は、にべもなく返答する。
「”ついで”…か。君らしいな」
これには流石に、灰の剣士も苦笑を浮かべる。
ゴブリンスレイヤーにとって敵とは、小鬼と
「昇進理由ならまだあります。貴方は、以前よりも遥かに一党を組む頻度が増えていますね?これは、協調性があると見なしているのですよ、我々ギルドでは――」
「……」
彼は無言で耳を傾ける。
冒険者と成って以来、彼は
だが灰の剣士と出会って以来、彼は実に多くの人間と関わり時に共闘してきた。
なし崩しに、成り行きで、状況が
幾らでも言い訳は出来る。
だが現実、彼は実に多くの人間と関わり歩調を合わせ、時に自分に同調させる事もあった。
「――そして極めつけは……」
止めとばかりに、麗人職員が言葉を畳み掛けた。
―― 感謝 ――
村人や依頼人からの感謝の声が、ギルドに数多く寄せられていた。
魔神、ドラゴン、邪教徒、吸血鬼――。
この四方世界には、脅威に濡れ、塗れ、溢れ返っている。
それ等に比べれば、小鬼など実にいと小さき取るに足らない存在――。
しかし、それ故に村人にとっては最も身近な脅威とも言えた。
夜陰に乗じ、集団で襲い掛かり、凶器を所持し、作物や家畜を略奪し、挙句の果てには村娘を攫い、最後は村を壊滅させてしまう。
そんな脅威に彼は立ち向かい、小鬼を排除してきた。
そんな小さな功績が積りに積り、感謝の声が多く寄せられていたのであった。
それは結果的にギルドの信用拡大へと繋がっていたのも事実だ。
「……。そうか」
彼はじっくりと認識票を見つめ、鋼鉄等級の認識票と入れ替えた。
「等級などに興味はないが、受け入れておこう」
彼は青玉等級の昇進を受け入れる。
こうして二人は、青玉等級の中堅冒険者へと足を踏み入れた。
もう安易な言い訳は通用しない。
これよりは言動一つ一つに責任が伴い、良くも悪くも人の目が変わってゆくのだ。
「行くか」
「ああ」
灰の剣士とゴブリンスレイヤーの両者は、一階へと降りた。
「――あっ!二人とも降りて来た!」
階段を降りて来た二人を目にし、銀髪武闘家が声を上げる。
「よぅ、どうだった?」
槍使いが結果を尋ね、二人と無言で頷き無事昇進が叶った旨を伝えた。
「さて、後は依頼承認の手続きだな」
灰の剣士は受付カウンターへと向かい、ゴブリンスレイヤーも後に続く。
「灰の剣士さん、ゴブリンスレイヤーさん、青玉等級の昇進、真におめでとう御座います!」
三つ編みの受付嬢が、昇進を祝い言葉を掛けた。
言葉自体は営業形式であったが、彼女の穏やかな笑みは芯に心が篭っていた。
「では
「――はい此方になります!」
受付嬢から、依頼用紙が手渡された。
依頼内容―― ダークゴブリンの討伐 ――
「「……」」
二人は用紙に目を通し、内容を吟味する。
――いよいよ来たか!
灰の剣士は思い返す。
灰の墓所で出会った黒い小鬼を――。
(イヤ―ワン編、第4話)
牧場で遭遇した夜を――。
(イヤ―ワン編、第22話)
金鉱山で繰り広げた死闘を――。
(イヤ―ワン編、第32話)
そして山中で保護した、幼き夢魔から齎された報を――。
(本編前夜編、第51話)
水の都以来そこそこの期間が経過したが、こうして討伐依頼が舞い込んだという事は、調査が概ね功を成したのだろう。
聞けばかなりの犠牲者が出たという情報が入っていたが、敵の情報を得られた事は大きい。
内容全てを鵜呑みにする事は慎まれるが、判断基準があるのは此方側にも有利に事が運ぶ。
だがそこで、ゴブリンスレイヤーが唐突に口を開いた。
「――確か他にも、ゴブリンに関する依頼が有った筈だ。それを見せてくれ」
「――!?」
「――ゴ、ゴブリンスレイヤーさんっ?」
「「「「「――ッ!?」」」」」
当然皆は、彼の行動に戸惑いを見せ、受付嬢も困惑しながらも他の小鬼関連の依頼を提示した。
「えぇっと、2件ほどありますけど……ゴブリンスレイヤーさん?」
ギルドには2件の小鬼退治の依頼が舞い込んでいた。
二つとも農村からの依頼で、小鬼が出たから退治してくれという極ありふれたものではあった。
「……済まんが、俺は此方を優先させて貰う」
剣の乙女からの依頼――ダークゴブリン討伐を差し置き、彼は農村の依頼を優先すると言う。
「――ええっ!?ゴ、ゴブリンスレイヤーさんっ!?」
これには受け付け嬢も面食らう。
そして周りの面々も騒ぎ立てた。
「――テメェっ!どういう積りだよっ!?」
槍使いが彼に食って掛かった。
「貴方も指名されているのですよ!」
男神官の指摘通り、ダークゴブリン討伐にはゴブリンスレイヤーも指名対象に入っていた。
「至高神の大司教様の指名を断るとは、お前さんらしいと言うか何と言うか……」
鉱人の斧戦士は呆れ顔で溜息を吐く。
それぞれ個人差はあるものの皆が皆、彼に対し些かの懐疑の念を抱いていた。
彼の本心を察しているのは精々、灰の剣士とジークバルド位だろうか。
灰の剣士は彼とは長い付き合いで、頻繁に組む事も多く彼の心情を理解している。
ジークバルドは、彼から流れ出るソウルを感知し深く責める事は無かった。
「お前達の言いたい事は分かる。ダークゴブリンは脅威だが、他の小鬼を放置する理由にはならん」
「ダークゴブリンの恐ろしさは、灰の奴と並んでお前も良く知っている筈だぜ?」
ゴブリンスレイヤーに、同期戦士が意見する。
「水の都に向かっている間に、他のゴブリン共が村を滅ぼす。見過ごしてはおけん」
徐々に周囲は険悪な空気が垂れ込み始めた。
このダークゴブリン討伐の依頼は殆どの冒険者が参加を表明しており、一度旅立ってしまえば、このギルドに残留している冒険者は、精々十名居るかどうかの人数に絞られる。
唯でさえ割に合わず、人気が低い小鬼関連の依頼。
正直そんな人数では、受けてくれる一党は先ず居ないだろう。
それは、普段小鬼退治を引き受けているゴブリンスレイヤーは無論、灰の剣士やゴブリンスイーパー達にも良く分かっていた。
「テメェ…好い加減に――」
尚も納得がいっていないのか、槍使いが業を煮やす。
怒りを顕わにする彼に、突如として声を挙げる者が一人――。
「一人で背負わずとも、我々が協力すればごく短時間で済む話では――?」
そう声を挙げたのは、一人の女性冒険者。
全身を金属版で補強した革鎧を纏う、女の鎧戦士。
―― ゴブリンスイーパー ――
彼女は言葉を続ける。
2件のゴブリン退治――。
なにもゴブリンスレイヤー個人に背負わせる必要はなく、複数人で手分けし対応すれば、今日中に片が付くという理屈だった。
更に言えば水の都に着き次第、直ぐに作戦を決行する訳ではない。
作戦の説明、準備、体調の調整、コンセンサスの確認、その他諸々――。
それらの調整だけでも、実に丸一日は要する訳である。
機動力に優れた一党で2件の小鬼退治に対応すれば、上手くいけば数時間で済ませる事ができる筈だ。
水の都への出発は、それからでも大した遅れにはならないだろう。
それが彼女の提案だった。
「――
彼女の提示に皆は暫し考え込んだ。
「――いいだろう、私は賛成だ。今一度自分を戒める為にも、一件は私が担当しよう」
真っ先に名乗りを挙げたのは、やはり灰の剣士だ。
彼はソウルの感知が出来る。
その能力を生かせば、小鬼の生息地も正確に割り当てる事ができ、殲滅速度も群を抜いて早い。
「なら私も参加させて頂こう。試し斬りには、お
灰の剣士に続き、カタリナのジークバルドも名乗りを挙げる。
つい先程、武器工房から”ストームルーラー”の改良型が出来上がり、それを受け取ったばかりだった。
しかし嵐の力を纏ったその武器は、当然屋内で試す訳にはいかず、特性を把握する為にも試し斬りの場を求めていた次第であった。
個としては然程脅威ではない小鬼――。
武器を試すには、これ程の相手は居ないだろう。
「私たちも参加するわ。小鬼は小鬼――。片付けなくては」
当然、提案者であるゴブリンスイーパー一党も参加を表明する。
既に周りから”小鬼を片付ける者”という渾名が付けられる位だ。
余程の悪条件が重ならない限り、小鬼の一党に負ける事は先ずありえない。
「これだけ居れば十分だ。直ぐにでも出発したい」
「移動時間を短縮する為にも、馬車で向かう事を推奨するわ」
ゴブリンスレイヤーを筆頭に、ゴブリンスイーパー、ジークバルド、灰の剣士が揃い、”直ぐにでも向かいたい”と伝えるゴブリンスレイヤーに馬車での移動を推奨するゴブリンスイーパー。
後はチーム分けだ。
「私とジークバルドで、此方の依頼を担当しよう」
灰の剣士とジークバルドで組み、やや遠方の生息数が多い小鬼退治を担う事にした。
「分かった。後は俺とコイツ等で、もう一つを処理する」
近隣の小鬼退治は、ゴブリンスレイヤーとスイーパーが対応する事になった。
「ごめんなさい皆さん。勝手な提案をして……」
行動指針が決まり、ゴブリンスイパーの頭目は、周囲に頭を下げ謝罪の意を示す。
「お、おいおい、止せよ…。何もお嬢さん等が謝る事はねぇって…」
低姿勢な彼女の態度に、槍使いは牙を抜かれる形となった。
「君達が居てくれて良かった。寧ろ感謝している!」
女騎士は、彼女等に感謝し柔らかな態度を取る。
もしも此処に彼女等が居なければ、槍使いが彼に飛び掛かっていた可能性もゼロではなかっただろう。
結果的にゴブリンスイーパーが、調整役を買って出た形となった。
「それでは済まぬが先に行って、我々の現状を伝えてくれぬか?」
「――おぅ!任せてくれ騎士さん!」
ジークバルドの言伝に、重戦士がニカッと白い歯を見せ快諾する。
「頼むから、こんな前哨戦でくたばんなよ?」
「君達は中核を成す戦力だ。其処だけは忘れないでくれ!」
「無論だ。こんな所で果てる気など無い」
鉱人斥候と森人僧侶に、灰の剣士が応える。
「――工房で出来上がった私の品は後回し、先に小鬼退治を優先する!」
「――油断は出来ん!俺達は準備を整え次第、発つぞ!」
「みなさぁ~ん、御無事のお帰りを~~!!」
対照的な灰の剣士とゴブリンスレイヤーはギルドを発ち、受付嬢は去り行く彼等に声を投げ掛けた。
他の冒険者達は工房や道具屋に立ち寄り、出発準備を整える。
そしてギルドは未だ嘗てない程に、
その様は、宛ら開店休業状態にも似ていた。
△▼△▼△▼△▼
デエェェ ―― 近隣の森林・小鬼の洞穴 ―― ェェェエン
全身を鎧兜で武装した冒険者の集団――。
羽目には男か女の性別すら、判断し辛いだろう。
「臭いは消したな?」
「ええ、問題ないわ」
男の冒険者、ゴブリンスレイヤーの確認に、女の冒険者、ゴブリンスイーパーは応える。
総勢五名で構成された一党。
彼以外の4名は皆女性で、消臭袋で女性特有の体臭を消していた。
小鬼は女性の臭いに過敏に反応する特性がある。
その為、奇襲を掛けようにも体臭で看破される危険性が生じる為、臭いを欺瞞或いは消し去る必要性が生じた。
消臭袋にも複数種が存在し、自然の動植物や土の臭いに似せた臭い袋もあれば、完全な無臭状態にする代物まで実に多彩だ。
今回彼女等は、環境物に合わせた臭い袋で体臭を誤魔化す策を取った。
冒険者に復帰した折、小鬼退治のノウハウを学ぶ為に彼に師事したは良いものの、臭い消しという理由で小鬼の血や臓物塗れにされた過去があった。
小鬼退治の最中は良かったものの、そのままの格好でギルドに戻った時、三つ編みの受付嬢にひどく叱られたものだ。
”ゴブリンスレイヤーの何もかもを真似る必要はない”
そう諭されてしまい、彼女等は消臭袋の使用に至った訳である。
消臭袋自体、少々値が張り、小鬼退治の度に毎回4袋ずつ――。
正直、収入より支出の方が上回っているのだが、所有資産総額は王国金貨に換算にして実に2000枚、――彼女等にとっては何ら問題は無かった。
以前
現在彼女等は鋼鉄等級だが、同級の冒険者の比べ遥かに豊富な資金力と装備品を有していた。
現在ゴブリンスイーパーと渾名を付けられているが、もっぱら頭目の女鎧戦士の事を指している。
「準備は良いな、突入するぞ」
「「「「はい」」」」
彼の合図に彼女等は呼応し、洞穴の中へ侵入する。
無論、最前衛はゴブリンスレイヤーが担当し、松明を片手に洞穴の奥へと進軍。
彼等は慎重に、横穴や罠が無いかを確認しながら奥へ歩を進めた。
彼女等も小鬼退治に手慣れてきたとはいえ、油断や慢心を突かれれば無残な終わりを迎えるのだ。
散々に凌辱され心身共に傷を負わされた。
最早その過去は一生消える事はないだろう。
故に、彼女等は自分達の様な犠牲者を少しでも減らそうと、こうして小鬼退治中心の道を選んだのであった。
尤も、その志が強かったのは頭目である女鎧戦士だけで、彼女以外は別の道を模索し始めていた。
実際、彼女等の一人、女の魔術使いは既にその目処が立っており、ダークゴブリン討伐を最後にする予定だ。
彼女達は様々な方法で、小鬼に対する過去を乗り切ろうと模索していた。
「……頃合いだな、術を頼む」
「はい」
ゴブリンスレイヤーの指示に従い、女の魔術使いが呪文の詠唱に移る。
多少広い空間に差し掛かったが、小鬼の存在が認められず、念の為に彼は呪文の必要性を判断した為である。
「フギオー《死》……モルス《逃亡》……アンテ《以前》」
彼女が発言させた真言呪文は、
術者が呪文を維持している間、罠や敵の存在など危機を事前に察知する効果がある。
「――反応有り。前方から小鬼の群れが接近して来ます!数は約、16!」
術者が小鬼の存在を察知し、数と方角を彼に伝える。
「よし。この場で陣取り迎撃する!」
彼が武器と小盾を構え、彼女等もそれに続いた。
女鎧戦士は、距離を開けつつも彼の隣へと位置取り、小剣《ショ-トソード》を鞘から抜く。
だが彼女の剣は、柄がやや長く小さな突起物らしき物が付いていた。
「――来たわ!」
女鎧戦士が短く叫ぶと同時に、多数の小鬼が此方に押し寄せて来た。
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 戦闘開始)
見慣れたいつもの小鬼で、総数16体が確認できる。
手には、ささくれた棍棒や折れた短剣を所持している。
「先ずは、間合い外で確実に数を減らす!」
ゴブリンスレイヤーの号令で、後衛三人が飛び道具の投射を実行する。
女の魔術使いは、
「gov!」
「gev!」
「gav!」
忽ち3体の小鬼が犠牲となり、残り13体。
「行くぞ!」
「はい!」
いきなり出鼻を挫かれ、一瞬だが小鬼達は怯む。
その隙を逃さず、ゴブリンスレイヤーとスイーパーは小鬼達へと攻撃を仕掛けた。
ゴブリンスレイヤーの剣が一体の小鬼を貫き、もう片手に持つ松明で別の小鬼に押し当て2体を絶命させる。
その間スイーパーも小鬼に肉薄し、小鬼の頭部を小剣で突き刺し一体を仕留める。
その彼女の脇腹めがけ一体の小鬼が突撃するが、彼女は小盾を振るい小鬼の首を引き裂いた。
彼女の盾も彼と同サイズの小盾に分類されるが、中央部分は複数のスパイクが取り付けられている。
首から血を流し倒れ伏す小鬼――。
しかし、その小鬼の死体を陰にした別の小鬼が、彼女に飛び掛かろうとした。
「――甘いわねッ!」
先程仕留めた小鬼から剣を引き抜き、彼女は剣先を、迫る小鬼に向け柄の突起物を握り込む。
すると柄が幾重にも伸び、小剣の刃が小鬼の胴体部を貫いた。
そして彼女は柄が伸びた小剣を振るいながら、残った小鬼の群れへと何度も連突きを放つ。
彼女の小剣は手槍の長さへと変貌し、そのリーチの優位性を生かし、そのまま半数の小鬼を仕留めた。
彼女の所持する武器――。
柄に突起物があり、それを押し込む事でバネの反発力で柄部分が伸びる機能が備わっていた。
普段は小剣――。
伸びれば手槍として機能する――。
世間では”仕掛け武器”と呼ばれていた。
ある時は接近戦、ある時はリーチを生かした中距離戦――。
当然使いこなすには相応の技量を要するが、彼女とは相性が良く愛用の武器となっていた。
「――このまま余勢を駆り攻め抜くぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
鬼気迫る彼等に怖じ気付いた小鬼達の隙を逃さず、ゴブリンスレイヤーは勢いに乗ったまま殲滅戦へと移行した。
彼等の覇気に呑まれた小鬼など最早”烏合の衆”となり、彼等を止める術など何処にも無かった。
左右の切り返しで2体の小鬼を切り裂き、その剣を投射でもう一体を仕留めるゴブリンスレイヤー。
手槍と化した小剣で小鬼と頭部を裂き、その後ローリングで意表を突きながら小鬼に接近し、手首を返し刺突攻撃で胸部を突き刺し絶命させたゴブリンスイーパー。
他の三名も、飛び道具と呪文で残りを仕留め、巣穴の殲滅を完了した。
「粗方片付けたわね!」
「念には念を入れて、隈なく捜索するぞ!」
「「「――はいっ!」」」
万が一生き残りが岩陰に潜んでいないかを、徹底的に洗い出す必要がある。
そう判断し、ゴブリンスレイヤーは彼女等に指示を出す。
一体でも見逃せば、その小鬼が経験を積み恐るべき存在へと進化する可能性もあるのだ。
そして小鬼は執拗で、決して恨みを忘れる事がない。
そういう種族なのだ。
そしてそれは、盤外の神々が定めし不文律の宿命なのである。
少なくともこの宇宙では――。
思いの外洞穴は浅く直ぐに行き止まりへと差し掛かったが、これといって生き残った小鬼は確認できなかった。
「生き残りは居ない…か」
ゴブリンスイーパーは周囲をグルリと見回し、見逃しが無い事を再確認する。
「仕上げだ。小鬼の死体を一ヶ所に積み上げ焼却するぞ!」
ゴブリンスレイヤーは彼女等に命じ、仕留めた小鬼の死体を一ヶ所へと集めた。
積み上げた死体に油を掛け、女の魔術使いが”インフラマラエ”と油に点火させた。
死体の山は忽ち燃え広がり、煙が洞穴内に充満する前に彼等は全員脱出を図る。
仕留めた小鬼は、ときに亡者へと変貌する恐れがある。
仕留めた小鬼が亡者となり、再び近隣の村へと襲い掛かる事例が幾つも発生していた。
それを未然に防ぐ為にも、死体を焼却する意義が有るのだ。
「念の為、巣穴の入り口を塞ぐ。全員手を貸せ」
彼等は手分けして近くの岩や枝を集め、入口へと積み上げ完全に穴を塞ぐ。
万が一別の小鬼が洞穴を見付けても再利用を阻止し、近隣に住み着く事を防ぐ利点があるからだ。
そういう意味でも、村を護る結果にも繋がる。
「掛った時間は?」
「約一時間ってとこかしら?」
巣穴を発見し、小鬼を殲滅するまで約一時間が経過していた。
「思ったより早く片付いたな。俺一人なら数倍の時間を要していた。お前達のお陰だ、礼を言う」
小鬼の規模、質ともに低い水準であった事と、彼女等の連携が功を成し予想以上に短時間で済ませる事ができた。
彼は彼女等に礼を述べた。
「どう致しまして。何か、お礼でもして頂けるのかしら?」
「何がいい?」
「――
彼に対し、軽口でゴブリンスイーパーは応える。
「……」
一体どういう積りだろうか?
―― 言葉の裏にある本質を見極めろ ――
師からの教えだ。
しかし彼女の真意は測りかねた。
「――ちょっと貴女何を言い出すの?」
「――そうよ!突然どうしたのよ!?」
仲間の彼女等も、”何事か?”と口を揃えた。
「冗句の類に付き合ってはいられん。報告義務がある、先に村へと行っているぞ」
ゴブリンスレイヤーはそれ以上相手にせず、村の依頼人へと報告の為に行ってしまった。
「……」
暫し無言でいたゴブリンスイーパーも、程無くして彼の後を追い仲間もそれに続く。
――
そんな事を思いながら――。
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スパイクシールド(小盾)
金属補強性の小盾に棘を付け加えた防具。
受け流しや防御だけでなく、殺傷武器としても機能する。
何も盾による防御だけが戦術ではない。
使い方次第で、あらゆる道具はあらゆる可能性を生み出してくれる。
先人たちは幾多の犠牲を払いながら、それを積み重ねてきた。
そんな努力の結晶を、歴史の波に埋もれさせたくはないものだ。
仕掛け武器・小剣手槍
ゴブリンスイーパーが所持する変形武器。
通常時は唯の小剣だが、柄がやや長いのが特徴。
柄部分にスイッチがあり、これを押し込む事でストッパーが外れバネの力で
柄が幾重にも伸びる仕組みとなっている。
仕掛けを知らない者や初見の相手には、その特性を生かし意表を突く戦いも出来る。
また臨機応変にリーチを伸ばし、変幻自在な戦闘術を執る事も可能だろう。
しかし、複雑な機構は頑強さを犠牲とする。
もし大物が繰り出す強力な一撃には、正直心許ないだろう。
いつの時代でも、万能など存在しない。
故に、理想を追い求め到達した時――君は美しい。
今回ゴブリンスイーパー達を少し戦わせてみました。
それにしても、一度小鬼に蹂躙された者達はどうやって生きていくんでしょう?
余程強靭なメンタルが無いと、簡単には立ち直れない気もします。
願わくば彼女達に幸あらん事を。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/