ダクソ側ではなく、錬金側の人物です。
錬金シリーズを碌にプレイした事も無いと言うのに、ヤッテしまった感が否めません。
まぁ、完全なオリキャラだといまいちイメージが湧かなかったのと、別シリーズのキャラと交流させてみたかったという願望が重なった結果です。
当然プレイではなく動画視聴で得た知識なので、かなりグダグダ且つキャラ崩壊を引き起こしている可能性が大です。
もし気分を害される方は、読まない事をお勧めします。
それでは投稿致します。
神官服
聖職者が着用する衣服。
一般的には清らかな白が基本だが、労働の汚れが目立たない黒や灰色も多い。
中には戦女神や竜司祭の様に、下着鎧や羽根や毛皮を戦装束とする。
値段は質にもよるが 金貨 2~5枚。
信仰とは多くの多様性と多面性を有す。
善悪などは所詮、一つの側面でしかないのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 神々のダイス)
無音の聖域と称するのが相応しいだろうか。
大いなる神の
法と正義を司る至高神が祀られ、敬虔な信徒が祈りを捧げる聖域――礼拝堂。
不純なものを一切合切省いた静謐なる空間だったが、今日に限っては真逆とも言える程に騒音で満たされていた。
―― 冒険者 ――
この礼拝堂には、数百を超える冒険者が集っていたのである。
祈りを捧げる為に?
若しくは懺悔に?
中には、至高神を崇める敬虔な信徒も居るだろう。
厳に至高神の神官服を纏った、冒険者も多く存在していた。
だが、彼等が此処に訪れた理由――。
冒険者が、成す事など一つしかない。
―― 冒険だ ――
そう――。
彼等は冒険する為に馳せ参じたのである。
依頼人は、この神殿の最高指導者にしてる六英雄に数えられる金等級の冒険者――。
―― 剣の乙女 ――
「うわわわ……、す…すごいスギルますデス……」
「言葉使いが変だぜ?」
銀髪を後ろで束ねた女の冒険者――銀髪武闘家は、礼拝堂の様相に圧倒され口をポカンと半開きにしている。
そして、明らかに可笑しくなっている言葉を嗜める、鉱人少女の斥候――。
だが彼等だけではない。
参列している大半の冒険者が、神々しい法の神殿に呆けているのである。
『あ…あたし初めて見た…法の神殿…』
『参加してよかったぁ…これぞ冒険だ…』
『此処から成り上がって、俺も英雄の仲間入りだ!』
『おぉ…偉大なる神よ、この運命に感謝いたします』
犇めき合う多数の冒険者達の声が、此処にまで聞こえて来る。
金鉱山に参加していた、西方辺境の冒険者達は最後尾にて陣取っていた。
「う~ん…、ちょっと場違いだったかな?アタシにとっては…」
入り口付近に居た茶髪の錬金術師のライザも、皆と同様に奇妙な居心地の悪さを感じている。
「それを言ったら鉱人のワシなど、どうなるんじゃ?流石に酒場の方が性に合っとるワイ!」
鉱人の斧戦士は彼女以上に、神殿から出たがっている。
気質が合っていないのだろう。
「君、見ない顔だけど、何処かで会ったっけ?」
同期戦士は初めて見にするライザに声を掛けた。
「あ、え~と何て言ったら良いかな?実はね――」
「あれ?今朝ギルドで、受付さんとモメてませんでした?」
言い淀んでいた彼女に、銀髪武闘家が会話に加わる。
ライザは、この依頼に参加するにあたり、受付嬢と少々口論になっていたのである。
登録したてに加え特定の一党に所属しておらず危険だからという理由で、職員達から難色を示されていたのだ。
更に彼女が戦士職ではないというのも、難色に拍車を掛けていた。
後方支援に従事させるという妥協案で、辛うじて参加処理にこじつけたのは良かったが、関係のない小鬼の住処で危うく人生を終える処だった。
「近隣の小鬼関連の依頼で偶然救出する事が出来た、運が良かったとみるべきだろう」
灰の剣士が彼女についての経緯を語る。
結局一人では行かせられないとの理由で受付嬢に頼まれ、灰の剣士は彼女と暫定的に一党を組む事になったのである。
また、彼女は他国の出身である事も付け加えておいた。
「おやおや、そんな国から遠路はるばる…ご苦労様です」
禿頭僧侶は、彼女の長旅を想像し労った。
尤も東国からやって来た彼の方が、遥かに長旅を乗り越えてきたのだが、それに言及する者は居なかった。
「錬金術士か、前列の方で何人か見たな」
女騎士は此処に訪れる際、他の錬金術師を幾度と見掛けていた。
「え、ホント?」
「自由な時間も幾らか存在する筈ですから、交流できる機会があるかも知れませんね」
同業者が多数参加している事を聞き、彼女は気を良くする。
そんな彼女に、圃人の少女巫術士が交流を進言してみた。
「皆さん、そろそろ静かにした方が良いですよ。大司教様がお見えになられました」
会話が弾んでいたが、男神官が話を切り上げるように伝える。
巨大な至高神の彫像の前に、大司教である剣の乙女が神官戦士を伴い姿を現した。
『おぉ…、大司教様だ…!』
『正に、神の如く神々しい…』
『否、女神に例えるべきだろう…』
『相変わらずお美しい…』
『おぉ、偉大なる至高神様の御導きに違いない』
剣の乙女が姿を見せたと同時に、礼拝堂の空気が一変する。
それまで騒々しく、まるでギルドにでも居たかような雰囲気さえ滲ませていた礼拝堂。
彼女を目にした途端に皆が皆、息を呑み感激の声すら挙げる者まで居た。
豊満な肉体を覆い隠す、純白の法衣。
煌めき輝く、豊かな金髪。
剣の鍔を持つ長剣を逆さにした杖は、神の正義と公正を司る秩序の象徴。
目元を黒い帯で覆い隠した、麗しき若い美女。
彼女こそが剣の乙女、その人である。
護衛と補佐を兼ね付き従う神官戦士長が静粛を促すまでもなく、礼拝堂全体がシンと静まり返った。
――流石は大司教様…。
信徒である女騎士は、目を閉じ軽く頭を垂れた。
彼女だけではない。
此処に集う至高神の信徒や、彼女を知る聖職者達は挙って同様に頭を下げていたのである。
『――これより、偉大なる大司教様より訓示が授けられる。諸君、心を厳にして拝領するのだ!』
神官戦士長が高らかに宣言し、大半の冒険者達は慌てて姿勢を正した。
『勇敢なる冒険者の皆様、私めの声に応えて頂き感謝の念に堪えません』
透き通るかの如し美しき声音――。
彼女の結ぶ言の葉に、皆は静かに目を閉じ聞き入っていた。
訓示は続き、やがては終わりを迎える。
『長旅で、さぞお疲れでしょう。今宵は我が施設を使い、ゆるりと疲れを癒して下さいませ。ささやかながら、祝宴の用意をさせて頂きました、どうかご堪能下さいませ』
その言葉で一旦区切り、彼女は礼拝堂から去る。
神殿の聖職者達の案内で、冒険者は大広間の食堂へと移動した。
途中、廊下にて事件は発生する。
『――おにいさまぁ~~ッ!』
突如として投げ掛けられる声。
『なんだなんだ?』
『誰の声です?』
――ん、この声。
途端に周囲は反応し、灰の剣士はこの声に覚えがあった。
声の方角に振り向けば、廊下の奥から一人の少女が走って来るではないか、灰の剣士に向かって。
至高神の法衣を身を纏った幼い少女――。
「貴公……」
「逢いたかった、おにいさまぁッ!」
以前、山奥で遭難していた処を保護し、ダークゴブリン生存の報を携えていた、幼き夢魔――幼夢魔だった。
俄かに廊下が騒がしくなるが、そんな事は何処吹く風。
幼夢魔は、陸上選手も顔負けの全力疾走で灰の剣士の胸元へと跳び込んだ。
「――貴公よせ、今はッ――!」
―― ゴンッ! ――
「あ…」
「あ…」
『『『『『『あ…』』』』』』
―― 手遅れだった ――
……
結論から言おう。
幼夢魔は仰向けで昏倒していた。
可愛らしい目は半開きで、鼻血を流している。
灰の剣士に飛び込んだは良かったが、彼は金属製の
そのお陰で彼女は跳び込んだ勢いそのままに、顔面を見事に強打――。
脳震盪を起こし、今現在こうして倒れていた。
『『『『『『…………』』』』』』
周囲に居た冒険者達の視線は、故意ではないにせよ当事者である灰の剣士に向けられるのは、必然と言えよう。
「……え~、あ~……、え、衛生兵!衛生兵は居るかぁッ!」
周囲の視線もあり、些か焦った灰の剣士は廊下で叫ぶ。
彼の声は瞬時に行き渡ったのだろう。
直ぐに至高神の神官が駆け付け、幼夢魔を連れ立ち去った。
奇跡で治療できただろう?
槍使いからそう突っ込まれたが、灰の剣士自身も若干焦っていた為、その考えには至らなかったようだ。
『おい見たか?あの子から羽根と尻尾がはみ出していたぞ!』
『聞いた事あるぜ!なんでも最近、混沌勢が神殿入りしたんだとよ』
『――だとしたら、この野党みたいな剣士、混沌勢の回し者じゃねぇだろうな!?』
なにやら雲行きが怪しく流れ始め、周囲の目は灰の剣士に向けられた。
無論それは好意的なものではなく、敵意や忌諱を含くみ疑念に満ちたものだ。
中には武器を抜こうする者まで現れ始める始末。
「――チッ!有象無象の輩がッ…!」
そこへ槍使いが前に出て、一触即発の空気が支配する。
「何にも知らねぇ白磁の雑魚共が、御託並べてんじゃねぇよ!」
『あんだと!?』
『やる気かぁッ!?』
『言わせておけばっ!』
『出しゃばってんじゃねぇよっ!』
『チャラ男如きがっ!』
実はこの依頼の参加者は、殆どが白磁や黒曜の駆け出し冒険者が主を占めていた。
全参加者は実に300名を超えていたが、約半数が白磁等級の新人たちだった。
その半数150名の内、更なる半数75名以上が、今回の依頼が初となる新人中の新人達で実質素人に等しい。
「安心して良い諸君!この者は、紛う事なき秩序の徒、我が太陽に誓って嘘偽りは申さん!」
槍使いに加え、ソラールも前に躍り出た。
「左様。ささ、将来有望な勇者候補たちよ、気を静め給え。ここは我等の顔を立て、剣を納めてくれぬか?」
更にジークバルドもソラールの傍らに立つ。
『――うッ……』
『――や、ヤバいぜ…』
『――き、騎士かよ…』
ソラールにジークバルド――。
出で立ちからして、騎士然とした彼等だ。
騎士とは貴族に連なる、名誉ある職業にして社会的地位の
数多の冒険者達にとって憧れの的でもある。
「それによく考えてみろ――」
言葉の占めとばかりに女騎士までもが、白磁の新人達に立ちはだかる。
「大司教様、延いては至高神様の御威光の前では、混沌勢でさえ膝を折るという事だ!」
『『『『『……』』』』』
彼女の理論に、気圧され反論する者は現れなかった。
『別に混沌側が神殿に居たって、珍しくも何ともないわよね?』
『よく考えたら、さっき闇人が出店を開いていたわよ』
『繁華街のお店でも、夢魔が経営してる事もある位だしな』
『俺、凄く可愛くて優しい闇人のお姉さんと知り合いになったんだぜ!』
『全く参るぜ、無知な田舎者ほど余計な騒ぎを起こしたがるからよ!』
別の集団だろうか。
灰の剣士を威嚇していた、新人集団に皮肉を浴びせている。
これ以上、虚勢を張った処で何の利点も無いのは、彼等とて理解していた。
血気盛んな新人達は完全に気を抜かれ、武器から手を離す。
『気は済んだかな、諸侯?この剣士に咎はない。それは不詳、この小生が確約しよう。早く席に着かんと味が落ちてしまう。急がれよ』
騒ぎを聞き付けたのだろう。
遂には神官戦士長も現れ、腑に落ちない様子ではあったが新人達は、渋々と歩みを再開した。
「申し訳ありません、戦士長殿。他意は無いとは言え、私の不手際が招いた騒ぎに、貴方の手まで煩わせてしまった。…それと、貴方達にも要らぬ手間を――」
灰の剣士は頭を下げ謝罪の念を示す。
「気にしてはおらん。彼等もまた、無知である故に勇んだのだろう。さ、貴君等も急ぎ食事処に向かわれよ!」
「――かたじけない!」
戦士長の計らいに、灰の剣士は再度頭を下げ礼を述べ、庇ってくれた彼等にも同様に陳謝する。
彼等は再び歩を進め、銅等級冒険者が口を開いた。
「太陽の騎士殿に、カタリナの騎士殿だったな。ご両人の様な猛者が参加してくれて安心しているよ」
廊下を歩くソラールとジークバルドに語り掛けた。
正直に言えば、彼は少々心許なかったのだ。
参加した大半が、新人或いは未経験の未成熟者ばかり――。
そして敵は小鬼という理由で、殆どの参加者が侮っているのが明白だった。
銅等級という立場上、彼は今回も陣頭指揮を委ねられていた。
しかし、新人ばかりが群れた処で、どれ程の采配が振るえるというのか。
先ず間違い無く、作戦も理解出来ぬまま身勝手な行動を執り、現場が混乱するのが目に見えていたのである。
集団戦に限らず戦場である意味危険視しているのは、強大な敵よりも寧ろ混乱を齎す味方にこそあった。
「貴殿等が居てくれて、これ程心強い事はない!無論、彼の戦場を共にした諸君も含めて――な!」
「――任せて下せぇダンナ!今回もひと暴れしてやりますぜ!」
銅等級冒険者に向かい、重戦士がニカッと白い歯を見せ笑う。
「過度な期待は困惑するだけなのですが…確かに若き勇者候補たちよりも、熟練者の方が安心感が桁違いですな」
彼等に賛同するのは、獣人魔術士。
普段の小鬼退治は小規模な群れで、数人で編成された一党で事足りるのが定石だ。
しかし、今回の小鬼退治は格が違う。
最低でも600~700といわれ、野戦兵器や小鬼以外の怪物まで所有しているのだ。
また粗悪な装備品ではなく真っ当な完全装備で武装し、武具の質は白磁の新人よりも勝っていた。
最早ここ迄の規模となれば、冒険というよりも実質戦争に近いと言えるだろう。
間違いなく、集団戦を想定した戦いになる筈だ。
そうなった場合、新人達で真面な統率が取れるのかどうかも妖しいレベルだ。
そう云う戦では、若き新人よりも歳と経験を重ねた歴戦の猛者が、遥かに頼りとなる。
「――出撃は何時になる?」
唐突に声を掛けて来たのは、ゴブリンスレイヤー。
これだけの大規模作戦だ。
直ぐに出撃する事はなく、ある程度の期間を設け戦術の構築や意思の疎通を行う筈だ。
軍団戦など彼自身も未経験ではあったが、その位は想像が付く。
「今日は英気を養い、明日に簡単な訓練と作戦会議を行う予定だ」
「そうか」
「…ゴブリンスレイヤー君…だったな?貴殿の武働きにも、期待させて貰おう」
金鉱山の戦いにて彼の活躍も目の当たりにしていた銅等級冒険者は、彼にも期待の声を掛ける。
そうこうしている内に、食事用の広間へと辿り着いた。
……
(推奨BGM スカイリム ―― Around The Fire)
来客用だろうか。
その大広間は豪華な家具で装飾され、幾つもある円卓に様々な料理が並べ立てられていた。
広間の様相に、多くの冒険者は感嘆の声を上げる。
高級な牛、豚、鳥を素材とし、じっくりと焼き上げ香辛料がたっぷりと沁み込んだ肉料理。
新鮮な野菜と大麦を丹念に煮込み、魚醤油と呼ばれる
生野菜とカットフルーツで盛り付けられた、サラダ。
多種多様なパン類。
他にも様々な文化を取り入れた料理と菓子類が、所狭しと並べたてられていた。
『す、すんげぇ…』
『な、なにから手を付けりゃいいんだ』
『冒険者になって良かった…』
『この盛り付け、まるで芸術だ』
『う、美味そう…』
高名な画家が描く絵画世界を目にしたかのように、冒険者達は料理を物色している。
目を輝かせる多くの冒険者達――。
「こうまでした大判振る舞い、それだけ過酷な戦場が想定されているという事か」
「果たして何人が生き残れるのか」
「新人共を生かすのも、俺達熟練者の役割だぜ」
ソラール、ジークバルド、銀等級戦士は、気難しい表情をしていた。
戦を目前にして振舞われた、豪勢な料理と酒――。
生者時代、戦場を経験した騎士でもあるソラールとジークバルド――。
騎士ではないが、長年熟練冒険者として知識と経験を培った銀等級戦士――。
これ等の振る舞いは、明らかに参加者を奮い立たせる意図がある事を見抜いていた。
多少過酷な戦況でも兵の士気を高める事で、脱走や裏切り行為を防ぎ軍としての質を向上させる事に繋がる。
「ならば、この施しを大いに活用し、我等の役割を果たそうではないか。そうだろう、各々方?」
銅等級冒険者の言葉に、皆は深く頷いた。
程無くして始まる、宴会にも似た食事会――。
『う、うんめぇッ~!!』
『ほっぺが骨ごと削げ落ちそうだァ…!』
『さぁ、われら食餌の時だ!』
『あんなに、がっついちゃって…』
『カルビの骨ごと食ったッ!?』
『おいおいおい…、死ぬわアイツ…』
広間中が活気に満たされ、皆が皆、豪勢な料理に舌鼓を打つ。
無論料理だけでなく、高級な酒やワイン、果汁水なども揃えられていた。
『あんまぁ~いッ♪』
『幸せ……★』
『こんなの初めて…❤』
甘味も用意され、専ら女性陣に人気があるようだ。
『ほら、急がないとみんな無くっちゃうわよ』
「――あ、アタシも食べるぅ~!」
意識を取り戻した幼夢魔も広間に辿り着き、慌てて食事や菓子類にありついた。
幾ら神殿入りしたとはいえ、まだまだ楽しみたいお年頃である。
普段口にできない晩餐に、彼女は満たされた表情で綻んでいた。
『お、おい!今の内にタッパに詰めようぜ!』
『何言ってんだバカ!保存用の料理じゃねぇんだぞ!』
『直ぐ痛んじゃうわよ!?』
滅多に口にする事の叶わない品ばかりだ。
寒村や庶民出身の冒険者の中には、持ち帰る事を画策する者が居ても一概に攻める事は出来ないだろう。
「
「…ああ…」
「
ある円卓では灰の剣士が、ゴブリンスレイヤーとライザに声を掛ける。
三人は同じ卓を囲み、食事を楽しんでいた。
尤も三人共、無言で只管に咀嚼していただけで、今迄会話らしい会話は無かったのだが。
「…それにしてもさ、君達って食べてる時でさえ兜脱がないんだね」
まだ口の中に物が残っているのにも構わず、モゴモゴと彼女は話す。
「問題が生じるのでな」
「油断は出来ん」
「――油断って何?誰かに狙われてんの?」
灰の剣士は兎も角、ゴブリンスレイヤーの返しに彼女は租借を止め聞き返す。
「ゴブリンが潜んでいるかも知れん」
「いやいやいやいや、流石に無いでしょ?ここ街中の神殿だよ?」
西方でも最大の都市にして、至高神を祀る法の神殿だ。
英雄と称される大司教の
この国に来て小鬼の凶悪さを再認識した彼女だが、混沌最底辺であるという事実には何ら変わりない。
そんな小鬼が結界を易々と抜ける状況など、彼女には想像すら出来なかった。
「ん?レモネードか?」
一通り腹を満たしたのだろう。
ゴブリンスレイヤーは皿を置き、キョロキョロと周囲を見回していた。
その動作が、彼の好物であるレモネードを探している事に気付いた灰の剣士が、ある卓を示す。
「殆どの人が注いでいたから、余り残ってないかも知れんぞ」
灰の剣士に教えられた彼はコブレットに注ぐが、半分に満たない所で無くなってしまった。
「…チッ!仕方ない……」
兜の奥で舌打ちするゴブリンスレイヤー。
普段食事の時でさえ作業的な彼だが、好物が絡むとその限りではないらしい。
仕方なく、他の大瓶から別の果汁水を注ぎ水増しを図った。
「ね、ねぇ…あれって…」
「却って不味くならんかね?あれ…」
彼の突拍子もない、果汁水とレモネードの無理矢理な
「…むぅ…」
無理矢理な混ぜ行為は案の定彼の口には合わず、兜の奥で密かに唸りその場から去ってしまった。
(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― なんとかなるなる!)
「――ねぇ貴女、錬金術士だよね?」
二人の傍に、一人の少女が話し掛けて来る。
「え、うん、そうだけど。あなたは――?」
話し掛けられたライザは皿を置き、その少女に向き直った。
長い澄んだ銀髪は腰元まで伸び、桜色を基調とした上品な衣服と白いミニスカートを身に付け、ハート形の装飾品を散りばめている。
その佇まいは快活だが、何処か品の良さを感じさせた。
「実はワタシもそうなんだ!」
話し掛けて来た少女も錬金術士であり、自身をエルメルリア=フリクセル(通称ルルア)と名乗った。
「あ、え、え~と、あたしは――」
彼女に釣られライザも自身を名乗り返す。
ルルアの上品な身なりを観るに、品性で知的な雰囲気を匂わせ、細身ながら女性の象徴を現す身体つき。
先程から周囲の男冒険者達が、下心を隠そうともせず彼女に下卑た視線を注いでいた。
「ねぇ、良かったら私達の卓に来ない?どのみち明日は、錬金術士総出の共同作業があるんだし、ね?」
積極的な彼女に、ライザは少々躊躇いがちだ。
時折、灰の剣士に視線を傾けて来る。
恐らく彼女なりに彼に対し、気を使っているのだろう。
「私に構わず行ってくると良い。同業者の方が、話も弾むであろう?」
正直な処、彼女とは今日出会ったばかりで、お互いの
ギルド職員の希望で、止む無く一党を組んだ間柄で正直に言えば友人ですらないのだ。
彼女自身、彼の事をどう思っているかは定かではないが。
灰の剣士は、
彼女と似た雰囲気の女性複数と、細身ながら屈強で上質の衣服を纏った男性たちが卓を囲い、会話に華を咲かせている。
「もしや彼等も錬金術士なのか?」
女性陣は兎も角、男性陣は剣などを携えている。
彼等は寧ろ、剣士や騎士を彷彿とさせた。
灰の剣士は、ルルアに質問する。
「あ~違う違う!あの人達は、ワタシ達の護衛を兼ねて同行してくれてるんだよ。皆実力のある戦士職ばかり――!」
――だろうな。
推察通り、彼等は剣士や戦士といった類の人種だった。
確かに彼等の佇まいは、実力を匂わせたオーラを醸し出している。
「彼等の様な手練れが居るのなら、貴公等も安心して任を果たせるな。先程から、要らぬ連中が貴公を狙っている様だしな」
装備や振る舞いからして、白磁や黒曜等級の駆け出し冒険者だろう。
ルルアや彼女の仲間達に対し、情欲の目を注いでいる。
だが体格や年齢から察するに、実力と人柄が噛み合っていない破落戸や荒くれに近い人種だと推測する事が出来た。
よく見れば先程廊下で灰の剣士に対し、悪意や忌諱の目を向けて来た集団も混じっていた。
ルルアが此方に話し掛けている事に対し、気に食わないのだろう。
またもや灰の剣士に悪意の籠もった視線を向けて来た。
「…はぁ…アレね…正直ちょっと嫌かな。ね、もし良かったら貴方も御一緒にどう?一人だとホラ…やっかみとかあるかも…、廊下の件とかさ…見てたよ。それに、あの
廊下にて起こった幼夢魔との件を言っているのだろう。
ちょっとした騒動だったが、ルルア達も静観していたらしく、灰の剣士をも気遣い此方側に誘った。
「そうか、大事には至っていなかったか」
卓に目を向けると、幼夢魔が彼女達に混じって菓子や会話を楽しんでいる。
至高神の神官戦士や司祭が見守っているとはいえ、心無い冒険者も確かに存在しているのは間違いない。
その様な輩が、彼女に精神的にせよ肉体的にせよ危害を加えるという可能性も、少なからず存在するのだ。
「私に関しては何一つ憂慮する必要はない。あの程度の連中なら軽くあしらえる」
「ん~、そう?じゃあ、貴女だけでもこっちへいらっしゃいな」
「ありがとう。んじゃ後でね、灰君!」
「私の様な者まで誘ってくれた貴公の心遣い、誠に痛み入る!」
「――お、大袈裟だって!もし興味が湧いたら、何時でもどうぞ…灰の剣士さん!」
彼女の気持ちだけ受け取り、灰の剣士は
ライザだけを引き連れ、ルルアは自分の卓へと戻った。
その様子を見送った灰の剣士も、薬草茶の入ったカップだけを携え奥の長椅子へと移動する。
此処ならあまり周囲の視界にも入る事はなく、落ち着く事が出来た。
長椅子に腰掛け、ゆっくりと食後の茶を愉しみ、錬金術士の集団へと視線をやった。
直ぐに打ち解けたのだろう。
ライザは、カラカラと笑いながら会話を弾ませていた。
――私なぞと居るより寧ろ、あの集団の方が性に合っているのではないか?
どうにもそう思えて仕方なかった。
どちらかと言えば彼女の人柄は、向こう側に近しい気もする。
灰の剣士自身は饒舌でもなく話題にも事欠き、暗い殺伐とした内容の方が多い位だ。
彼女の生き生きと輝く表情を見ていると、身を置くべきは
正直、自分は相応しくない。
ライザの傍には、似た性格のルルアや他の錬金仲間の方が、遥かに分相応ではないのか。
もし、この戦が無事片付き彼女が望むのなら、あの錬金術士集団に委ねる事も
太陽のような笑顔を持つライザ――。
――あの娘からも、特別で輝くソウルを感じる。
灰の剣士は、彼女から流れ出る不思議なソウルを感知していた。
海と空に駆け抜く輝ける海風の如きソウル――。
ソウルの感覚に身を委ねてみれば、夏に訪れる砂浜と漣の音が聞こえてくる程に、何とも心地を高揚とさせた。
――しかしまぁ何だ……。( ゚ ω ゚ )
茶を口に運びながら、彼は眉を
――連中は何ゆえ、私に視線を向けて来るのだ?(  ̄△ ̄ )
先程から例の集団は、頻りに自分に向け視線を向けて来るのであった。
――おかしい、俺の表情は兜と外套で隠れている筈だ。( ;˙꒳˙; )
素顔を晒している向こうの表情は良く分かるが、此方の目元はフードで覆い隠されており、向こうからは認識できない。
…にも拘らず、ライザや幼夢魔を含めた面々は、口端をニンマリと吊り上げ彼を凝視しているではないか。(男性陣を含めて)
――ええぃッ、何だというのだっ!居た堪れんではないか!( ゚Д゚ )
視線の動きからして十中八九、自分の話をしている事は分かる。
大方、男女間や人間関係について話し込んでいるのだろう。
――年若く魅力的な女性が、あれだけ居るのだ。色恋方面に、話題が向くのは当然か。(  ̄ー ̄ )
動揺している事を悟られない様、向けられる視線に気付かない振りをしながら、彼は茶を啜った。
錬金集団の視線に晒されて続けていた彼の下に、ソラールとジークバルドがやって来る。
(推奨BGM スカイリム ―― Tha Bannered Mare)
「ウワハハハ、人気者ではないか、貴公!」
「妬けるぞ貴公、ウワハハハ!」
上機嫌で樽ジョッキ片手に、彼の両脇にドカッと腰を降ろす。
「どう対応して良いのか分からん…」
軽く首を左右に振る灰の剣士。
火継ぎの時代を繰り返した彼にとって、太陽の如き彼女等の輪に加わって良いものかどうか――。
あの集団は、皆が特別で輝くソウルの持ち主だ。
自分よりも寧ろ、両脇に座る二人の方が似つかわしいのではないかとさえ思う。
「見た目麗しい少女の誘いを無下に断るものではないぞ、貴公?」
「そうとも。我等が
――なら貴公等が行けばよかろうに。
そう返したい処だが、思慮深い二人の事だ。
何か別の意図があるのだろう。
「……。…先程話していた、黒い鳥の神についてだが――」
ジークバルドが黒い鳥の神について尋ねる。
「……そう…だな、私が知り得る限りを話そう」
灰の剣士は語る。
過去に出会った『孤電の術師』との邂逅を――。
(イヤーワン編、第35話)
そして暗黒の塔での探索を――。
(イヤ―ワン編、第41話)
彼女が
(イヤ―ワン編、第44話)
その後、彼女に召喚され『魔術師の世界』なる異界に招かれた事を――。
(イヤ―ワン編、第45話)
それは神々の画策であり『大王グウィン』を始めとする数多の神々と出会った事を――。
(イヤ―ワン編、第46話)
グウィンと戦い、真の使命を告げられた事を――。
(イヤ―ワン編、第48話)
自分達が歩んだ物語りは、神々の遊戯に過ぎない事を――。
あの時代で、自分は『最初の火』を完全に消した。
だが後の時代には『最初の火』模した『二度目の火』が宿った事実を語る。
その火を熾した張本人が、黒い鳥の神と呼ばれる存在であった事を――。
自分は最後まで使命を果たし、自分という物語りに終止符を付けなければならない運命にあるという事を――。
拝命した使命を果たせず終わるようであれば、件の神が四方世界を文字通り終わらせる意思があるという事を――。
魔術師の世界で起こった神との邂逅――。
一通りを語り終え、深く息を吐く。
思っていた以上に長くなり、喉の渇きを残りの茶で潤した。
周囲は食事会の賑わいに包まれていたが、彼等の耳には届いていない。
灰の剣士が語る、黒い鳥の神。
それを聞いたソラールとジークバルドは、神妙な顔つきとなる。
ジョッキの酒すら口に付ける事なく、押し黙り目を閉じていた。
「貴公…それは誓約を結んだと解釈して良いのか?」
ジークバルドの言葉に、灰の剣士は視線を外してしまった。
「…誓約…か。ある意味、言い得て妙かも知れぬ…」
どう返していいかも分からず、歯切れの悪い言葉を吐き出すのがやっとであった。
グウィンとの使命を果たし、物語りに終止符或いは区切りを付ける。
それが叶わぬ時、黒い鳥の神が動き、この四方世界を文字通り終わらせる危険性も孕んでいるのだ。
あの神にとって終焉とは生誕の序曲に過ぎず、他の神々も承認済みなのである。
黒い鳥の神とはある意味、誓約を交わした状態に限りなく近いのだろう。
「その話が事実だとすれば、何とも身勝手な神々に弄ばれているではないか。貴公を含め
ソラールの口調は静かなものであったが、ジョッキを掴む手には力が籠り小刻みに震えていた。
「――そうだ。あの時代から、我々は弄ばれ翻弄されているのさ」
――胸糞悪いほどにな!
既に神々に対し敵意は消えている。
しかし過去に行った、数々の所業が消える事はない。
灰の剣士自身は、グウィンの胸中を知り本心を知った。
故に、彼等の事情を汲み一定の理解も示している。
だがしかし、彼の時代を思い起こす度に憤りの感情が湧き起こってしまうのだ。
使命を果たしたとはいえ、ソラールもジークバルドも静かな怒りを滲ませている。
両名とも兜を脱いでいる為、怒りが滲み出た表情を見たのは初めてだった。
「今迄の信仰をかなぐり捨て、斬り刻んでやりたい気分だぜ!」
ソラールの口調が俄かに荒々しくなる。
今日に至る迄、太陽を信仰し憧れ、また自身もそうなろうと歩んできたソラール。
大王グウィンも太陽に連なる神として崇め敬ってきたが、たった今その信仰心が憎悪と憤怒へ置き換わろうとしていた。
「一発ぶん殴っといてやった、あのいけ好かない顔面に…思いっ切りな!」
「「――!?」」
もう少し詳細に――。
灰の剣士は、大王グウィンとの戦いを語った。
黒い鳥の神に、本来の実力を100分の1に封じられた状態で戦いを仕掛けて来た大王グウィン。
しかし上位の神だ。
灰の剣士は全力で対抗したが、一方的に嬲られ戦いとは呼べなかった。
だが最後の力を振り絞り、四肢を欠損しながらも残った拳をグウィンの顔面に叩き付けたのだ。
これまで無念の最期を遂げた者達の想いも背負いながら――。
「そ、それは真か?」
「――ああ」
「しかし一発で吹っ飛んだのか。存外、不甲斐無い神よの」
「――いや…、俺の
「――!?…ク……クゥァハハハハ……!やるではないか、貴公!」
その事実を聞き、ソラールとジークバルドは豪快に笑いあげた。
「だが……、実はグウィン自身が、最も苦しみを背負っていたのかも知れん」
灰の剣士は、大王グウィンの背負った苦痛について話す。
豪快に笑っていた二人は再び押し黙り耳を傾けた。
実は灰の剣士を誕生させる際、グウィンは自らの血肉とソウルを彼に練り込んだのである。
(イヤ―ワン編、第48話)
それにより、灰の剣士とグウィンの感覚は共有される事となった。
彼が傷を負えば、グウィンにもその苦痛が伝達する。
苦痛は肉体のみならず、精神的苦痛も共有する事になるのだ。
戦いが終わった時、グウィンの肉体は夥しい傷に覆われていた。
それ等は全て、灰の剣士が背負った苦痛をグウィン自身も共有していたのである。
今現在は治療を施している状態だが、灰の剣士が負傷する度に新たな傷が刻まれるであろう。
恐らくは今も――。
「「…………」」
「本当に身勝手な神だ……」
その事実を聞き、暫く無言だった二人。
ジークバルドが短く言葉を吐く。
「俺達の憤りすら自由にさせてくれんか……」
ジョッキを片手に、ソラールは天井を仰いだ。
だが彼の瞳は天井の向こう――空に向けられていた。
「別に良いじゃないか――身勝手な神で」
「「――!?」」
灰の剣士の言葉に、二人はハッと此方に向く。
神々は遊戯の為、何より楽しむ為に、この四方世界と生命に関心を寄せている。
「神々が我々を使って楽しみたいのであれば、存分に楽しませてやろう。俺は、そう割り切る事にした」
神々に抵抗する術はないのかも知れない。
あの時見せ付けられた別次元の神の力――。
今更足掻いた処で、その力関係が覆る事はないだろう。
それは一種の諦観に似た境地だが、どうせ足掻くなら神々を思い切り楽しませた上で、自分の使命をも果たしてやろう。
彼は、そんな答えに行き着いていた。
「……いいのか、貴公はそれで?」
ソラールが疑念を呈す。
それではただ利用されるだけ終わるのではないのか。
神々の奴隷と何ら変わらんではないか。
そういう旨を含んでいるのだろう、彼の言葉は――。
「思い違いをしないで頂こう。神々の思惑通りに、動く気など無い!」
神々の遊戯道具――
あくまで自分の意思と行動で、使命に向かい事を成す決意を固めている。
如何に神々が骰子振ろうとも介入を試みようとも、自らの意思と選択で運命を切り開く覚悟だ。
「これが神々に対する――俺の抵抗だ!」
「…そうか」
「それが貴公の…」
どの様な結末を迎えるかは分からない。
それでも、あのような
気が付けば広間の賑わいも少々収まりつつあった。
「――だが先ずは目の前の使命の一つ、ダークゴブリンを討たんとな!」
灰の剣士が急に長椅子から立ち上がる。
「――そうだ!」
「――我等はその為に馳せ参じてきたのだからな!」
二人も釣られ立ち上がる。
「――では改めて、区切りと決意を込め、
ジークバルドが満面の笑みで樽ジョッキを掲げた。
「そうしよう!」
「うむ、それが良い!」
残りの二人も動揺にジョッキを掲げ備えた。
先ずジークバルドが言葉を選び発す。
「貴公の勇気と、決意に――」
続いてソラールが――。
「そして我等が使命の成就に――」
最後に灰の剣士が締め括った。
「太陽あれ!」
ガチンッ!
三人は互いの樽ジョッキをぶつけ合い、カタリナ式の酒杯を上げ中身を一気に飲み干した。
「ふぅ…何処かに
薬草茶ではあったが、飲み干した後ゆっくりと息を吐いた灰の剣士。
素顔は隠れていたが、幾分安堵の表情を浮かべていた。
「こうして俺達は再開できたのだ!これからも協力できる事はあろう!」
「その時は宜しく頼むぞ、貴公!」
「ああ。此方こそ宜しく頼む!」
三人の表情に険しさは消え去っていた。
普段仏頂面の灰の剣士までもが、口元を綻ばせていた。
――なんか好いね…、ああいうの。
祝杯を挙げる三人を先程のルルアが微笑ましい表情で見つめていたのだが、彼等は気付く事はなかった。
『――良い飲みっぷりじゃないさね、アタシが見込んだだけはあるよ!特に丸こい騎士のアンタ!』
そんな三人に、一人の女性冒険者が声を掛けて来た。
まだ若い様だが、かなり大柄な体躯をした女だ。
ふくよかな身体つきをしつつも四肢や腹部は逞しい筋肉に覆われ、
素人目に見ても、
「――おっと申し遅れたね!アタシも西方辺境所属で、見ての通り戦士をやってるもんさね!――いやぁ、アンタの飲みっぷり前々から気に入ってたんだ。アタシとどうだい?」
彼女は西方辺境に所属しているらしく、鋼鉄等級の認識票をぶら下げていた。
佇まいといい、体格や足運びといい、鋼鉄等級の中でも相当の手練れである事を匂わせた。
恐らく単純な戦闘力だけなら、紅玉等級とも渡り合えるだろう。
彼女自身も称号を自負しているらしく、男三人――とりわけジークバルドと共に飲む事を希望している様だ。
「ウワッハッハッハ…!光栄だ!貴公のような魅力溢れる御婦人に、お誘い頂けるとは――」
今は夜の時間帯――。
夜に女の誘い――つまりは、
「嬉しい申し出だが、あの娘らを差し置くのもいかんのでな。誠に残念だ!」
ソラールは名残惜しそうに断る。
「とてもではないが、ついて行けそうにない。私は此処で、ゆっくりと過ごす事にする」
直ぐに酔いが回ってしまう為、灰の剣士も遠慮する。
そもそも灰の剣士もソラールも、今は一党に年頃の娘を引き連れている。
無暗やたらに女の誘いを受ける訳にもいかないのだ。
「ふむ…では私だけかな?宜しいかな、御婦人?」
誘いに応じたのはジークバルドだけだったが、本命が応じてくれた事に女部族は上機嫌だった。
「いいさいいさ!じゃあ、向こうで飲もうかね!」
そう言い、ジークバルドと女部族は別の卓へと行ってしまった。
「あれが『夜のお誘い』というものだ。英雄色を好む、貴公も英雄の端くれなら尚の事”色”を知るべきだぞ?見聞を広める意味でもな」
ジークバルドが去り、ソラールが灰の剣士に話し掛ける。
「いや別に…私は
手慣れてはいない事が見て取れる。
灰の剣士は言い淀み、言葉を詰まらせた。
「先程の銀髪の可憐な少女。今からでも遅くはない、応じてみるのも、また冒険というもの」
ライザを誘った、あのルルアの事を言及しているのだろう。
確かに好意的ではあった。
「彼女が可憐である事は認める。だが、関係を結びたいが為に誘ったようには見えなかった。それに彼女程の魅力があれば、相手の一人や二人既に居るのではないか?」
錬金集団に再び視線を傾けてみる。
ルルアの周りには、数名の若い男も同伴していた。
皆、彼女とは親しい関係にある様に見える。
単純な友人関係か、はたまた近密な関係なのかは推し量りかねた。
「何も
一見関係性のない人との交流を重ねる事で、新たな発見と気付きが進化と成長を施す事も多々あるものだ。
一合一会、出会いを大切にせよ。
ソラールは倫理を説く――。
「貴方も何度か、
「うむ、俺も見習いの頃は
元々ソラールもアストラ貴族の上流階級だ。
ロードランに赴く以前は、貴族らしい生活を送ってきた。
その中で、若い女性から夜の同衾を受け応じた経験も、幾度かはあったものだ。
「…心には留めておこう、その言葉。だが、今日は遠慮しておく」
「決めるのは、あくまで貴公の意思だ」
ジョッキの中身を空にしたソラールは、徐に席を立ち上がった。
「さて俺も戻るとするか、ではな」
ソラールは本来の一党が待つ卓へと戻った。
赤毛の細身な少女と豊満な胸部を持つ女性が、ソラールを好意的に迎える。
「縁があれば、
灰の剣士は再び、錬金集団へと視線を移す。
相も変わらず彼女等は、会話を満喫していた。
……
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 変な奴)
「ふ~、お腹いっぱい……」
「細身の只人にしちゃ随分食っとったのう」
同期戦士達の集う卓では、銀髪武闘家が腹部を手で摩っていた。
心なしか幾分、腹が出っ張っている様にも見える。
鉱人の斧戦士も腹が膨れ満足したのか、火酒で締めていた。
そんな時である。
『――ちょっとアナタたち、暫くここに置いてくれない?』
同期戦士達の下に、一人の少女がやってきた。
「――ほぅ、これはこれは…」
「――うそ!?耳が長い…!」
森人僧侶と少女野伏は、訪れてきた人物の特徴に驚きを隠せない。
「よかったよかった、同胞が居るのね、この一党」
森人と半森人を見た、その人物は安堵の声を上げる。
「同胞って事は君…森人か?」
耳が長い時点で只人でない事だけは、同期戦士にも分かった。
「見ての通り!」
耳の長いその少女は、薄い平坦な胸を張り得意気な表情だ。
「驚きましたね、
「上森人――神のエルフ…」
禿頭僧侶と獣人魔術師は、耳の長い少女に視線を送り、森人の上位種族――
「なんだ?上森人って、そんなにエライ種族なのか?」
「――口を慎め、鉱人!我ら森人の中でも、称えるに値する存在ぞ!」
鉱人斥候の無知な言動に、森人僧侶が叱咤する。
「ふふん…、分かってるじゃない!物分かりのいい同胞が居てくれてよかったわ!」
上森人の少女は、胴を革鎧で包み腰に弓を携えた出で立ちだ。
間違い無く野伏や斥候を得意とするのだろう。
「――森人の嗜みね、弓の腕前はちょっとしたものよ!」
彼女の首には、白磁等級の認識票がぶら下がっている。
新人だが、弓の腕前には自信があるようだ。
言い表すなら、彼女は”妖精弓手”といった処だろうか。
「君、
見た処、彼女に連れはいない様だ。
それを鑑みるに、彼女は
此処に来たのは、此方の一党に組み込んで貰いたいという意図もあると観ていい。
同期戦士は、そう憶測を立てる。
彼の一党は、かなりの人数を抱えていたが、この依頼限定であれば何ら問題にはならないだろう。
一応彼女に理由を尋ねる、同期戦士。
「……あの連中がさ…!しつこいのなんのってっ――」
妖精弓手は眉を歪ませ、後方に視線を送った。
彼女の後方では、下品な笑みを浮かべる複数の男達が睨んでいた。
妖精弓手の話によれば何度断っても、”やれ一緒に飲もう、一党を組もう”だの、酷いのになると”俺の女になれ”だの、下心丸出しで迫って来るのである。
相手の男が絶世の美男子なら応じる女も居ただろうが、余程の男好きか飢えている女でもない限り、下心満載で迫る集団には嫌悪感を抱くものだ。
更に誘ってきた男共は、お世辞にも容姿には優れておらず、品性の欠片も無かった。
冒険者用の認識票がなければ、ならず者か破落戸の類にしか見えない。
見掛けない顔ばかりだ、西方辺境の所属ではないのだろう。
この妖精弓手、かなりの美貌を誇っている。
只人の同期戦士から見ても、彼女の美しさがヒシヒシと伝わってきた。
かなり機敏で身体能力も高そうだが、放置しガラの悪い群れに晒すのは、心が痛む。
「どうするの?」
少女野伏が同期戦士に問う。
「放置するのも後味が悪いしな、臨時で良ければ俺達の所で居てくれればいい」
妖精弓手の態度は若干尊大で勝気な部分が見受けられたが、同期戦士は彼女の頼みを受け入れる事にする。
「ホント!?ありがとう!ま、短い期間だけど宜しく頼むわね!魔法は、てんで駄目だけど弓に関しては誰にも負けない積りよ!」
妖精弓手は金床に等しい平坦な胸をまたもや張り、上機嫌で鼻息を荒くする。
「大丈夫かねぇオッチャン、この森人――」
「――ま、賑やかしには困らんわい」
突如加入してきた上森人の妖精弓手に、鉱人二人は苦笑いを浮かべた。
食事会の盛り上がりも峠を越え下り気味となり、そろそろお開きという段階に差し掛かる。
腹を満たした冒険者達――。
就寝の前に身を清めて欲しいと通達があり、神殿の大浴場を解放してくれる事となった。
当然男性と女性の時間単位で分けられる事となり、先ずは女性、次に男性という段取りだ。
特に資金繰りに厳しい白磁の新人にとっては、大浴場は一種の娯楽と冒険といってもいいだろう。
過去に、灰の剣士も法の神殿に訪れた事があった。
しかし、その当時は清拭で身を清めていた為、大浴場を使用するのは今日が初めてである。
入浴時間が来た男性一同は洗面具と着替え一式を抱え、大浴場へと一斉に移動した。
因みに武具類は、指定の場へと預けてある。
各自の所持品は、認識票のナンバーと照らし合わせる事で管理し、置き場には担当の聖職者と教育が徹底された神官戦士が見張っている。
盗難の心配は極めて低く、安心して預ける事が出来た。
当然ゴブリンスレイヤーも兜を外し素顔の状態なのだが、幸か不幸か周りに居るのは彼の顔を知る人物にソラール、ジークバルド、銀等級戦士といった面々ばかりだった。
法の神殿の大浴場。
戸を開けた向こうの空間は、熱を帯びた水の霧――湯の烟が立ち昇る湯気に満たされていた。
――霧の壁に見えてしまう。
不死人時代、何度も目にした霧の壁――。
灰の剣士を含め、ソラールやジークバルドも同様の想いを抱いていた。
華美でない程度に流麗な彫刻が施された、白亜石の大広間。
白き大理石で拵えられた巨大な浴槽には、沸かされた湯に満たされている。
獣の口部を模した石造りの彫刻から、止めどなく流れ出る湯。
仄かに甘く香るのは、野草を燻した香によるものだろうか。
「辺境の街でも、これ程の施設は他にない」
灰の剣士は、大浴場の広さに圧倒されていた。
それは他の冒険者達も同様で、身を清める処ではなく唯々見惚れている。
『俺、湯に浸かるのは初めてなんだ』
『流石大都市の施設だ』
『村では体を拭くか、水を掛けるのが普通だからな』
『ど、どう使えばいいんだよ?』
湯に浸かれる施設を利用する為には、最低でも街レベルに赴かねばならない。
極一部の村では、露店の共同浴場が存在している所もあるが、それは例外だ。
大多数の貧困層は、清拭が未だに主流なのである。
「諸君、いつまでも惚けてないで早々に活用させて頂こう。一応時間が定められているのでな」
呆ける面々に銅等級冒険者からの声が掛かり、各自思い思いに施設を利用する。
湯が張られた浴槽も温度別に、複数に仕切られている。
「俺は少々熱めの方にする」
ゴブリンスレイヤーは、温度の高い浴槽へと浸る。
男性冒険者だけでも優に100名は越えており、大浴場は前代未聞の賑わいとなっていた。
これだけの大人数に加え、世間や
当然、幾人かの男が浴槽に飛び込むなどの蛮行が散見された。
成人したばかりの新人冒険者ならいざ知らず、歳を重ねた荒くれが品性に欠けた行為を働くのは、些かに見苦しい。
そういう無頼の輩には、銀等級や銅等級といった複数の熟練冒険者が戒めに掛かる。
幾ら腕っぷしに優れた荒くれと言えども、熟練冒険者に適う訳もなく呆気無く鎮圧された。
「ふぅ…参るぜ、タダで施設を使わせて貰ってる身で、何様の積りだよアイツら……」
銀等級戦士は呟きながら、浴槽へと浸かった。
隣にはゴブリンスレイヤーが居る。
「見事な体術だ、力も使わず――」
ゴブリンスレイヤーが彼に声を掛ける。
「はは…、見苦しい処を見せちまったかな?」
銀等級戦士は、苦笑いを浮かべながら半身浴で身を委ねていた。
無作法な荒くれを注意すれど傲慢な性格の彼等だ。
当然素直に応じる筈も無く、熟練冒険者にも殴りかかろうとした。
しかし銀等級戦士は、荒くれの手首を掴み位置関係を入れ替えるだけで、簡単に投げ飛ばしてしまった。
結局、荒くれの蛮勇は瞬く間に鎮圧され、大浴場は平穏で秩序な時を取り戻す。
「俺も小鬼相手に散々苦労したからな、貪欲に色んな事を学んだのさ」
「ゴブリンか」
「ゴブリンだ」
「……」
「……」
どうやらこの銀等級戦士、小鬼退治をかなりの頻度で熟していたらしく、当然ゴブリンスレイヤーは関心を寄せる。
「俺も鋼鉄等級までは、小鬼のみに依頼を絞っていた」
「……」
今のゴブリンスレイヤー程ではないにせよ、銀等級戦士も鋼鉄等級に上がる迄は小鬼退治のみで生計を立てていたのだと言う。
「ゴブリンが憎いのか?」
「――ぶっ殺してやりたい!」
ゴブリンスレイヤーの問いかけに、さも当然と言わんばかりに即答する銀等級戦士。
彼は無表情だ。
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを)
「俺の村は、ゴブリンに滅ぼされちまった……」
不意に銀等級戦士は過去を語った。
今は在野最上位という立場ではあるが、彼も元は農家の息子だった。
だが、農家の子供にありがちな”冒険者の憧れ”というものは殆ど稀薄で、人一倍農作業に勤しむ姿勢は”村一番の働き者”として大層もてはやされた位だ。
彼は長男で、家の畑を継ぐ立場にあったのも大きな要因だろう。
貧しくとも平穏な日常が、彼には約束されていたのだ。
だが平穏は続かなかった。
ある晩、小鬼の集団に襲撃されるという惨劇が起きた。
逃げ惑う者、踏み止まり抵抗する者――。
しかし相手は多勢に無勢、戦う術を知らない農民などに抗う術はない。
彼の父は勇敢で屈強だった。
家族を逃がす時間稼ぎの為、一人残り殿を務めたのだった。
家の貴重品を持ち出し、母親と幼い妹を連れ出す当時の彼――。
何を呪うべきだったのだろう。
己の無力?
到来した不運?
それとも――?
……
2体居た――。
殿を務めた父親は、手斧で必死に抵抗した。
しかし筋力と耐久力に優れたホブゴブリンだ。
ホブの攻撃に、父親や必死に抵抗した。
そして残された彼等の前にも、もう一体のホブが立ち塞がったのである。
先ず力無き妹が狙われ、それ目掛けて棍棒を振るうホブ。
母親は妹を庇い、結局二人とも吹き飛ばされ、衣服を剥ぎ取られ凌辱された。
そして奮戦空しく父親も、ホブに殺される。
最後に残された当時の彼――。
恐怖で碌な思考も働かず次の標的とされるが、別の村人がホブにランタンを投げ付け火傷に喘いでいる隙に、彼は村から脱出した。
村は一晩で滅ぼされ、彼を含む数人の村人は命からがら近隣の街へと逃げ延びた。
無論、彼は復讐心に支配される。
眼前で家族が殺されれば、どの様な温厚な人物でも憤怒の念が湧くものだ。
彼はなけなしの金で冒険者へと登録し、ギルド職員の忠告も聞かぬまま単身で報復へと勤しんだ。
最初の標的は当然、故郷を滅ぼした小鬼の群れだ。
何の考えも無く作戦も無く、我武者羅に小鬼集団へと飛び掛かり、小鬼を次々と殺して回った。
人一倍農作業に従事していた事が、功を成したのだろうか。
同世代の新人よりも筋力や脚力に優れていた彼は、傷を負いながらも力技で殆どの小鬼を討ち取った。
「だが流石に、二体のホブ相手は、そうもいかなかった」
大柄な体躯と粗雑ながら重量の凶器を持つホブだ。
無策で突撃した処で叶う訳もなく、手痛い一撃を食らい吹き飛ばされる。
血と胃液の入り混じった吐しゃ物を撒き散らしながら、彼は初めて己の無謀さ加減を後悔した。
「普通なら、あの時点で俺も家族の下に召されていたのかも知れねぇな」
「……」
ゴブリンスレイヤーは無言で彼の独白に耳を傾ける。
神の啓示、天啓とでもいうのだろうか。
不様に逃げ惑う彼の脳裏に、乾いた何かを転がす音が響いていた。
カラン、コロン……。
「頭でも打ったんだろうな。変な音が聞こえていたよ…あの時」
それと同時に、彼の脳裏に過去の記憶が過った。
ほんの些細な悪ふざけ。
村の子供達との、追いかけっこの記憶だった。
唯の鬼ごっこじゃつまらない。
そこで逃げ役だった彼を含めた数人の仲間達と結託し、ロープを張る事にしたのだった。
ワザと草むらに逃げ、足下に植物の弦で拵えたロープを張るという至極単純な罠だ。
草むらで弦は隠れ、鬼役の子供達は見事に引っ掛かり転倒――。
目論見は成功した。
後で親にこっ酷く叱られるという代償を支払って。
それを思い出した彼は逃げ惑いながら、草むらにロープを設置する。
意外にも脚の速いホブ達だった。
丁寧に設置する時間など無く、彼は地形の起伏を利用しての単純な仕掛けを施す。
そしてワザとしゃがみ待機――。
観念したと思ったのだろう。
ホブ達は勝ち誇りながら彼に追い縋るが歩調を合わせていた事が、彼にとって決定打となった。
天命が彼に味方したのだ。
タイミングを見計らい、彼はロープの端を引っ張る。
片方を岩の突起に括られ、片方を彼が引っ張る事で、ピンと張られる転倒目的の単純な罠。
鬼役の子供達と同様、2体のホブは同時に転倒し無防備な姿を晒した。
しかしホブの体格に対し、一撃で急所を射抜く武器も技術も所持していなかった。
彼は、冒険者基本セットに備わっていた油や可燃物を全て用いて、藻掻くホブへと振り撒き火を点ける。
2体のホブは全身火に包まれ、更に火傷にのた打ち回った。
最早彼の事など、微塵も意識が向いていない。
碌に抵抗も出来ない一体のホブ目掛けて、彼は武器と作業用ナイフでホブの首元を何度も突き刺した。
一心不乱に武器を突き刺し、一体のホブを仕留める。
そして残る一体のホブは、転げ回る事で漸く火が消え、荒い呼吸を繰り返しながら苦痛に喘いでいた。
しかし、早く動いたのは彼だった。
筋力に優れていた彼は、手頃な10キログラム前後の岩を持ち上げホブの頭部に叩き落す。
半ば潰れた頭部にも拘らずホブは痙攣を繰り返すが、彼は躊躇なく首元目掛けて何度も武器を突き立てた。
仇は討った。
彼は単身、復讐を果たしたのだ。
「本来はこの時点で、満足するか気が済むんだろうな。だが俺は……」
彼の復讐心は消える事がなかった。
”坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”とでも言うのだろうか。
彼は小鬼を殺す事にのみ、拘り続ける様になった。
一党も組まず、食う間も寝る間も惜しみ、得た報酬を新たな装備と道具に割り当て、只管に、我武者羅に、殺し続けた。
返り血を浴び、口元を歪ませ、奇声を発し、発狂しよと己が傷付こうと、形振り構わず殺し続けた。
彼は血に酔っていたのだ。
当然そんな彼と一党を組もうという同業者など現れる筈も無く、彼はギルドからも忌み嫌われる。
だが彼は、さして気にも留めていなかった。
彼は目指していたのだ。
「お前さん、
不意に銀等級戦士は、ゴブリンスレイヤーに振った。
「…ああ」
彼は淡々と首を縦に振る。
「――小鬼の
銀等級戦士は更に質問を投げ掛けた。
―― 小鬼の絶滅 ――
ゴブリンスレイヤー自身も目指していた到達すべき目標。
しかし――。
「不可能だ」
静かで短くもはっきりとした、
「…………」
彼の明確な返しに、今度は銀等級戦士が無言だ。
彼は思い返す――雪山での訓練時代を――。
そして老いた醜い圃人との過酷な時を――。
『小鬼は何処からやって来る?』
そう問われた時があった。
何時も通りの問答だ。
幼少期、姉から教わった知識を動員し、彼は答えた。
それは正解で――同時に間違いでもあった。
―― 小鬼は
圃人から告げられる事実――。
全ての生命体に小鬼は宿り、その歪んだ精神から、小鬼は生まれ出るというのだ。
即ち殺せども殺せども、小鬼は無から生じ無限に湧くという。
神々や自分を含め宇宙全てを滅ぼせば、小鬼は自ずと消え失せる。
当然、只の人である彼に、その様な事を成せる筈もない。
故に現在の彼は、小鬼を殺しながら脅威を排除する術を模索し続けているのである。
戦えぬ人々に小鬼の脅威を伝える事も良し――。
力無き村に小鬼の対策を授けるも良し――。
効果の成否は定かではない。
しかし僅かながらでも、成果は芽吹きつつあった。
「俺も同感だ。小鬼の絶滅なんか無理だ」
無言で耳を傾けていた銀等級戦士も、彼に賛同した。
「鋼鉄等級に昇級し、いつも通り俺は小鬼を殺しまくっていた。――そんな時だ、変な老人に諭されたのさ」
たとえ小鬼退治の身に従事していたとはいえ、鋼鉄等級までは案外昇進できるものであった。
ギルドには警戒されていたものの、村からは感謝の声が溢れていたのである。
それ故の昇級だったのだろう。
普段通り小鬼を絶滅を夢見て、彼は小鬼集団に挑んでいた。
しかし狡猾なシャーマンが、トロルを引き連れていたのだ。
並外れた筋力や再生能力を備えたトロルに、彼は苦戦し力尽きた。
最後を待つばかりとなった時、疾風の如き現れた圃人が敵集団を殲滅したのだ。
その余りの疾さに彼の目は追い付かず、気が付けばその圃人は彼の前に佇んでいた。
いや、蔑んでいたというべきか。
一見すると混沌勢ではないかとさえ思えるほどの、年老いた醜悪な圃人――。
結果的に彼は救われた形となったが、圃人は彼を嘲り哂い挙句には鉄拳を加えられたのである。
そして告げられた決定的な事実――。
―― 小鬼の絶滅は不可能 ――
絶望に呆ける当時の彼――。
このまま冒険者を辞めるか、それとも新たな目標に突き進むか。
決めるのは自分自身だ。
そう言い残し、醜悪な圃人は消え去った。
「その時に俺は、小鬼退治を止め唯の冒険者に戻った」
その後、彼は真っ当な冒険者として小鬼以外の依頼をも熟し始めた。
甲斐あって次々と仲間達にも恵まれ、気が付けば彼は銀等級戦士として熟練冒険者へと名を連ねる事となったのだ。
「あの時、圃人の言葉が無ければ、俺は今頃どうしていたんだろうな……」
その言葉は誰に向けられたものなのか。
そこで銀等級戦士の語りは終わりを告げる。
「…………」
ゴブリンスレイヤーに言葉は無く反応はないように見える。
しかし、彼は徐に浴槽へと身を鎮め全身浴で熱めの湯に浸かった。
「いや俺はな、単純な
「――為になった、感謝する」
ゴブリンスレイヤーの反応に何やら慌てて弁解する銀等級戦士であったが、彼は短く感謝の意を述べただけだった。
「そうか、んじゃ俺は、蒸気風呂を堪能するとしますかね。またな!」
そう言い、銀等級戦士は蒸気風呂の区間へと去る。
『あっ、先輩も蒸気風呂っすか?』
『――おぅ、一緒に行くか?』
『――いいっすね、行きましょう!』
途中、同期戦士が彼に同伴した様だ。
「……」
ゴブリンスレイヤーは無言で湯に浸かっていたが、全身が小刻みに震えていた。
それは動揺の表れか。
その動揺を悟らせない為、彼は湯船に浸かったのである。
――まさか…先生がっ…!?
銀等級戦士が出会ったという圃人の老爺――。
訓練期間中、圃人の師は留守にする事が度々あった。
自分の師と彼の過去を照らし、その人物像を重ねていた。
ある者は身を清め、またある者は湯に身を委ね、それぞれが風呂を満喫した。
そして就寝時刻となる。
当然すべての冒険者達に個室など用意できよう筈も無く、数人~十数人規模で一つの部屋で夜を明かす事となる。
仮にも神聖なる至高神の神殿だ。
女の寝込みを狙う不埒な輩など出るとは思えないが、先程の行動で荒くれ者やゴロツキ紛いの冒険者も幾許かは存在している事が確定した。
剣の乙女の意向で、男女別で分けられる事となる。
更に、神官戦士を含めた神殿の聖職者達が、交代で哨戒に当たる事となる。
灰の剣士、ゴブリンスレイヤー、ソラール、ジークバルド、同期戦士、銀等級戦士が同室で就寝する事になり、皆は特に口を開く事も無く寝台に身を寄せる。
この日の為に用意してくれていたのだろうか。
簡易な造りではあるが、全員分の寝台が設けられていた。
簡素な造りとは言え、庶民が使う寝台と何ら遜色なく充分な睡眠を取る事が出来るだろう。
ランプの灯かりは消され、そのまま夜が更けてゆく。
………
……
…
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― Encounters with the Goblin Slayer)
――まただ。
また、あの
全く以て忌々しい。
周りを取り囲む悪辣な異形、
そのゴブリンが覆い被さっている。
この私に――。
――否。
この
小柄な体躯に長い金髪を揺らす、か弱き少女。
その少女は、悲鳴を上げ何時来るかも分からぬ助けを懇願しながら、小鬼に躰を許していた。
自分の下半身と小鬼の下半身が、繋がり、打ち付けられる。
そして小鬼から濁った体液が注ぎ込まれるのだ。
どういう訳か私はこの少女と一体化し、感覚を共有している。
延々と繰り返される、小鬼の饗宴。
それでも何時しか終わりは来るものだ。
一体の小鬼が、松明片手に少女へと近付く。
怯える少女――。
この後の展開が分かる私――。
少女の絶叫が、狭く暗い洞窟に響き渡る。
目を焼かれたのだ。
小鬼の松明に――。
眼を焼かれる苦痛に悶える少女と私――。
…
……
………
『オイっ、大丈夫か!?』
『意識はあるかっ!』
『貴公、しっかりし給え!』
『灰よ……!』
……
視界に飛び込んだのは、焦る顔付きで覗き込む数人の男達。
同期戦士、ソラール、ジークバルド、ゴブリンスレイヤーが順に声を投げ掛ける。
「ハァ、ハァ…ハァ……」
何度も荒い呼吸を繰り返すのは、灰の剣士。
全身汗まみれで周囲を見回した。
「…………」
心臓の鼓動音が、はっきりと鼓膜を伝う。
それに伴い、耳鳴りと自分の呼吸音が同時に聴覚で知覚した。
「うなされてたな、大丈夫か?」
「……」
同期戦士が気に掛けたが、彼は無言で首を縦に振るだけだった。
――またか…何故?
彼は寝台を降り、近くのソファーに深く腰掛け、呼吸を整える。
「貴公、眠れそうか?」
「……」
ジークバルドも問い掛けたが、彼は首を振り否定の意を示す。
夢とはいえ痛覚まで知覚できるのだ。
完全に意識が覚醒し仮に再び眠りに就けたとしても、あの悪夢に苛まれるだろう。
とてもではないが、寝ようという気にはなれなかった。
「参ったな…、明日は訓練があるというのに……」
灰の剣士は、ソファーに
就寝してから、どれほど眠れたか定かではない。
しかし、心身共に回復し切っていないのは容易に想像が付く。
「楽な体制で、目を閉じればいい。それだけでも随分楽になる」
そこへ銀等級戦士が、一つの案を提示した。
目を閉じ外部からの視覚情報を遮断する事で、少なくとも脳の負担を軽減する事は可能だ。
完全な回復は見込めないが、普通に起きるよりも疲労は軽くなる。
「有難う。それと、騒がせて申し訳ない…」
いつに無く弱々しい口調で礼を述べ、灰の剣士は力を抜き目を閉じた。
夜が明けるまでには、まだ数時間は掛かる。
――この都市に来て、碌に眠れた試しがないな。
先の思いやられる形で、灰の剣士は再び静かに溜息を吐く。
「訓練が厳しい様なら、明日俺が伝えておく」
ゴブリンスレイヤーの言葉を最後に、面々は再び寝台へと潜り込んだ。
せめてもの気遣いなのだろう。
ランプの灯かりは灯されたままだった。
寝覚めが悪いとは、この事なのだろうか。
法の神殿での一日は、こうして終わりを迎えた。
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司教服
より高位の聖職者が纏う装束。
地位高き者は、護身や安全を祈願され魔力を帯びた代物も珍しい事ではない。
値段は金貨 最低でも8枚~。
司教服は総じて業火になる事が多い。
華やかな格好をする事も聖職たる者の務めなのだ。
ライトファンタジーの人物を、ダークファンタジーにブチ込むと言う所業。
これでも平常心で執筆している積りなのですが、いざ成すと何処か気後れしている自分が居ます(えぇいっ!何を今更!)。( ;˙꒳˙;)
一応今後の展開も考えてはいます。
どこまで組み込み、どの辺りで折り合いを付けるか――。
正直試行錯誤の連続です。
まぁ書いてて楽しいのが、本音ではありますがね。( ̄ω ̄;)
おっと忘れるとこだった。
妖精弓手ちゃんも登場させました。
まだゴブスレさんと出会う前の時期なので、ギリギリ微妙な範囲で関わらせようかどうしようかと思案中です。(同期戦士の一党に組み込む事にさせました)
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/