未だ前準備の段階ですが、区切りの良い所で投稿いたします。
錬金側の人物が複数登場致します。
また重大なキャラ崩壊や性格、設定改変が多数見受けられる可能性も御座います。
もし気分を害されるようであれば、ブラウザバックする事をお勧めいたします。
それでも問題ないと言う方は、このままお進み下さい。
ではドゾ。
グライダー
滑空機全体の総称。
木造性の骨組みに、羽布張の翼膜を設け上昇気流や風に乗る事で揚力を得る。
機体を自在に操作するには高い練度と時間を要すが、空中という大きな優位性を確保できる。
ただし空中という環境は、裏を返せば甚大な事故を引き起こす危険性も増し、扱いには細心の注意を払わなければならない。
空の上から何が見えるのだろう。
自由を夢に、鳥に憧れる者は数多い。
自由とは自由の奴隷に囚われるという矛盾を抱えながら――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを)
二つの月に成り代わり、天空に浮かぶは眩いばかりの太陽――。
蒼空に浮かぶ純白の雲海――。
夜は過ぎ去り、暁を迎える何時もの日々。
水の都に座する法の神殿も例に漏れず、新たな一日が始まる。
「……――ッ!?」
覚醒する意識、刹那ソファーから身を起こす一人の男。
「おはようさん。少しは眠れたみたいだな」
目の前には数人の男が立ち並んでいた。
――寝ていた…?…いや、
頭を振り、ゆっくりと立ち上がる灰の剣士。
「全快ではなさそうだが、多少の回復は見込めた様だな」
続いてソラールも声を掛けながら、窓に掛かるカーテンを全開にする。
絹壁に遮られ窓を貫き一斉に降り注ぐ、柔らかな陽の光。
穏やかながらも目が眩むほどの光量に、瞼を打たれる灰の剣士は目を細めた。
「うむ、今日も絶好の太陽日和だ!」
彼は一人窓に向かい天を仰ぐ。
太陽賛美で称える彼を、皆は微笑ましく見つめていた。
「そうやって眠れた処を見るに、変な夢は見なかった様だが?」
「ああ、何時の間にか寝入っていたらしい」
ジークバルドの問いに、洗面の準備を進めながら灰の剣士は応えた。
睡眠状態に突入したのは、恐らく明け方あたりだろう。
時間にしてほんの数時間だが、お陰で目蓋も身体も軽い。
これなら活動に支障は出ない筈だ。
――どうやら日の出や昼間なら、あの悪夢は見ずに済むみたいだな。
陽光は邪を討ち払う力でも宿っているのだろうか。
それとも、光と熱という安心感が人の心を支えているのかも知れない。
何はともあれ、一寸でも悪夢を回避する術は見付かったのだ。
彼は洗面を済ませ、各自は身支度を整える。
『――お~いっ!朝ご飯できましたよぉ~!!』
コンコンとドアをノックする音が聞こえたかと思えば、無遠慮に銀髪武闘家とライザが部屋を訪れた。
「お~直ぐ行くから、先行っててくれ!」
「「は~い!」」
同期戦士が応え、女二人はそのまま朝食部屋へと向かった。
「灰君、居なかったね」
「ゴブリン何とかって人も見ませんでしたね」
部屋を出た二人は、灰の剣士とゴブリンスレイヤーを見掛けなかった事について話していた。
正確には彼ら二人は部屋に居たのだが、普段と違い素顔を晒していた状態だった。
女二人はまだ彼等の素顔を拝見した事がなく、見知らぬ冒険者と思い違いをしていたのである。
「この部屋って聞いてたんですけど、何処に居るんでしょうか?」
「ま、どうせ合流するんだから先行っとこ」
女二人は特に気にする事なく朝食へと向かう。
昨夜の晩餐が豪華すぎたのだろう。
用意された朝食は質素なものだった。
――とは言うものの、庶民が摂取する物に比べれば遥かに上等な献立と言えた。
塩と調味料で味付けされた野菜ス-プ。
ベーコンと卵のサンドイッチ。
カットフルーツ等など……。
簡素でありながら味や量は無論、栄養面にも配慮がなされていた。
「あれぇ?君たち何処に居たの?」
「全然見ませんでしたよ?」
銀髪武闘家とライザが件の男二人を見付けるも、朝食を摂る喧騒に掻き消され答えが返って来る事はなかった。
朝食後の小休止を跨ぎ、冒険者達は各々の活動に従事する事となる。
……
指定された部屋に向かう途中の出来事だった。
廊下の窓から見えたのは、様々な物資の数々――。
『大砲だ……』
『こっちも用意してたんだな』
『見ろよ、武器や防具も並んでるぜ』
『小鬼相手に大袈裟な気もするが…』
『こりゃ激戦待ったなしだな』
『報酬に目が眩んだ新人は、きっと涙目ね』
野外には多種多様な物資が運び出されていた。
車輪付きの大砲に弩砲。
大盾や簡素だが胴鎧といった防具。
鉄製の槍や剣などの武器類。
また戦線を支える為の小道具類。
それ等の物資は木箱に詰められ、力自慢の冒険者達が荷車に乗せている。
「あれ等は、正規軍から払い下げられた物でな。申し訳ないのだが、旧式が殆どだ」
先頭を歩く銅等級冒険者からの説明。
剣の乙女は六英雄の一人だ。
王侯貴族にも顔が利き、軍に働きかける事で物資を入手した。
だが相手は、異端とはいえ小鬼――。
混沌最底辺という認識を覆す事は叶わず、回って来たのは耐用年数を超えた廃品間近の旧式ばかりであった。
加えて
また最新式では、それ等を自由に運用できるだけの専門知識や技術が必須となり、正規の訓練を受けていない冒険者に扱い切れるものでもない。
軍関係者は、それ等も考慮に入れた上で、敢えて扱いの単純な旧式ばかりを流したのである。
程無くして一行は、指定の部屋へと辿り着く。
彼等は作戦説明の為に、厳選された冒険者達だ。
熟練冒険者としてみなされた者達が選び抜かれている。
その中には、金鉱山に参加していた冒険者の頭目や副頭目や、剣の乙女に指名されている者達も含まれていた。
広い部屋には大きな机に、兵棋演習にも使われる地形図や駒などが用意されていた。
既に剣の乙女を始めとする、神官戦士達が待機している。
最早本物の軍隊と変わらぬ張り詰めた空気感に、冒険者達は身を強張らせながら入室した。
普段ギルドにて行われる、作業確認とは遥かに格が違う。
此処に居る殆どの冒険者には、未知の異界にも等しい空間だろう。
『皆様、楽になさって下さい』
今作戦の最高指揮官である剣の乙女が、慈悲に満ちた声音で皆に呼び掛ける。
些かに緊張が解れたのか、部屋中から息を吐く音が聞こえて来た。
(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 討伐作戦)
『それでは先ず、偵察部隊からの報告を基に、小鬼軍の布陣についてだが――』
軽い咳払いで神官戦士長が作戦会議を始める。
最高指揮官という立場ではあるが剣の乙女は言わば、士気向上の為の象徴として据えているのだろう。
実質の現場指揮は、神官戦士長が担う手筈となっていた。
戦士長が机上の駒を並び替え、小鬼軍の布陣を説明する。
「――私はてっきり小鬼共は霧の中に布陣し、待ち構えていると踏んでいましたが――」
銅等級冒険者が、自由に空いた駒を使い机に置く。
「同感だ。俺もゴブリンならそうする」
この意見にゴブリンスレイヤーも同調した。
残念だが、地の利は小鬼側にある。
視界の制限される霧の中で布陣すれば、容易に奇襲が捗る筈だ。
しかし小鬼側はそれをせず、敢えて第二拠点――。
即ち嘗ての山賊が使っていた砦を背に、部隊を展開していた。
「俺達を警戒している証拠だ。却って厄介だぞ」
銀等級戦士は、過去に調査に赴いた経緯があった。
ダークゴブリンの本拠地と思われる廃村に向かう途中、深い霧が立ち込める地域が存在していた。
霧の中に布陣しない処を鑑みるに、
視界が制限される霧の中は、小鬼側の視界をも遮断する。
暗視は利くが、決して視力に優れた種族ではないのだ。
霧の中に布陣されたとしても、霧外から攻撃を仕掛ける手段など幾らでもある。
恐らくダークゴブリンは、それ等を考慮し敢えて正面決戦を望んだのだろう。
「それに、真正面から我々を打ち破れば、人族側に多大な精神的圧力を加える効果も狙っていると思われる」
夜陰に乗じての奇襲や小細工を弄した作戦なら兎も角、正面決戦で負けようものなら最早言い訳などは通用せず、敗戦という影響は瞬く間に拡散する。
ダークゴブリンというものを、ジークバルドはまだ見た事がない。
しかし、彼も使命に殉じるまでは母国で多くの戦場を経験してきたのだ、軍人として騎士として。
ダークゴブリンが人族の戦術を起用しているのかは定かではない。
だが肝要なのは、敗北要素を可能な限り削り、勝利への可能性を僅かでも拡大させる事にあった。
「さて、厄介となる奴等の野戦兵器だが――」
戦士長は別種の駒を置き、野戦兵器の配置を提示する。
「クソ!完全に向こうが有利かよ!」
地形図を見た槍使いは、舌打ちし歯軋りした。
小鬼の第二拠点は、小高い丘の上に門戸を構えていた。
高い視点は広い視野の確保を可能とし、良好な視認性は戦場広域を見渡し把握するには非常に有用な要素となる。
戦闘部隊は、絶えず動き回り刻々と戦況は変化を見せるのだ。
戦場とは言わば生き物同然に例えられ、広大な視認を以て戦況を把握する事は、それだけ勝利に直結する。
「兵糧攻めにしたい処だが此方の補給線が伸び切っている、長期戦は此方が不利か」
女騎士が地形図を指でなぞり、水の都から戦場までの線を引く。
縮図で計算しても、かなりの距離があった。
小鬼側の物資備蓄量は情報が入っておらず、経戦能力は定かではない。
だが下手に持久戦に持ち込めば、冒険者側が不利に追いやられるだろう。
限りある物資を切り詰めたとしても、指揮を保てるのは精々二日間が限界だろう。
物資枯渇による身内争いなどで敗北しようものなら、再起は絶望的となるのは目に見えている。
それは小鬼側にも当てはまるが、此方は若く未熟な新人を数多く抱えていた。
加えてモラルや士気の低い、荒くれやならず者上がり等も参加している。
下手な長期戦は彼等の反乱を招き内部崩壊の危険性も存在していた。
「決めるなら短期決戦か」
「ですが、この配置では」
「無策な突撃は無論、小出しにし過ぎても各個撃破されるのは自明の理――」
重戦士を筆頭に、初戦から全軍投入による制圧戦を提案するが、獣人魔術師を始めとした知識層が懸念を示す。
地形の関係上、冒険者側は下方から攻め込まねばならず、開戦する前から不利な状況だ。
「高地での布陣…
地形図の高地部分へと指差すゴブリンスイーパー。
下り坂なら、そのまま勢いに乗った加速で突破力の上昇も見込めるだろう。
「時間に余裕があれば落とし穴を掘り戦車の脚止めに使うのだが、開けた平野と低地では直ぐに勘付き対応される」
高地は既に小鬼側が占拠し、冒険者側は必然的に低地へ布陣せざるを得ない
戦車の脚止めに落とし穴を掘ろうにも、高地から観測されては直ぐに看破され対応されるのは目に見えている。
更に偵察部隊の報告では、戦車の車輪側面からブレードが張り出しているとの事だった。
下り坂で加速された戦車のブレードで切り裂かれようものなら、先ず生存は絶望的だろう。
更には小石や小枝といった不純物は、小鬼によって既に除去されていた。
戦車の進撃には好都合だ。
「完全に向こう側の有利、だが一番障害なのは――」
同期戦士は地形図に置かれている、特殊な形の駒に視線を送っていた。
――
翼を有し飛行を得意とする、下級で小型ながら竜の眷属。
『報告では、5頭が確定しています』
剣の乙女の話によれば、偵察部隊から五頭が常に空を徘徊しているのだという。
「――それ以上と観るべきかと」
灰の剣士は、更に多くを所有しているとの見解を示した。
「…資料のみの知識だけだが――」
彼自身、実際に翼竜と戦った経験はない。
だが如何に竜の眷属と言えども常に活動できる筈もなく、交代制で哨戒網を構築しているのではないかと見解を示す。
「2交代制…少なく見積もっても倍…10~15体は生息しているというのかね?」
「恐れながら……」
銅等級冒険者に彼は返した。
「しかし翼竜――空中兵力の存在は厄介ですな。高々度を飛翔され、直上急降下による強襲戦術……」
「私なら、攻撃だけでなく戦況の把握と伝達手段として活用いたすがね」
「おいおい笑えん冗談だぜ…」
「あの黒い小鬼野郎なら、それ位やりかねん」
ソラールやジークバルドの言葉に、槍使いと重戦士が苦笑する。
『幸い翼竜には対応策と相応しい指揮官を用意してある。だが、部隊の展開と魔術士との連携が不可欠だ』
神官戦士長は、銅等級冒険者の方を見る。
恐らく事前に打ち合わせでもしていたのだろう。
「翼竜対策の部隊にしても、奴等の野戦兵器と布陣を崩さん事には、満足に機能させる事は困難だ。何とか敵陣に揺さぶりを掛け、足並みを乱れさせれば隙が生まれるんだが……」
『問題は其処か…』
『何かいい案は無いか』
『でっかい魔法でもあればな』
銀等級戦士の言葉に他の冒険者達も頭を捻らせるも、聞こえて来るのは低い唸り声ばかりだ。
そこへ一人の冒険者が手を挙げる。
「一つ提案が――」
安っぽい装備に身を包んだ鎧戦士――ゴブリンスレイヤーに皆の視線が集中する。
「ゴブリンスレイヤー君…だったな、何か起死回生の策が?」
銅等級冒険者の言葉に反応したのは、剣の乙女。
――この御方が、小鬼のみを専門とするゴブリンスレイヤー様。
彼女の眼は小鬼により不自由を強いられており、彼の姿を明確に視認する事は叶わない。
しかし彼女には、闘志溢れる豪傑な戦士として映っていた。
「俺は魔術を封じたスクロールを所持しています。それを使えば――」
万が一小鬼に渡り、スクロールの情報が漏洩する懸念もあったが、この面子ならその危険性は極めて低い。
彼は案を提示する。
……
「奇策とも言えるけど、成功すれば敵の攪乱と動揺を誘う事が出来るわね」
ゴブリンスレイヤーの提示する策に、ゴブリンスイーパーは相槌を打つ。
――そして、この方が女の身でありながら小鬼の討伐を生業とする、ゴブリンスイーパー様。
ゴブリンスレイヤーだけではない。
剣の乙女は、ゴブリンスイーパーにも密かに視線を寄せていた。
「しかし貴君の策は、敵陣奥深くに潜り込む必要がある」
そこへ神官戦士長が意見を挟む。
ゴブリンスレイヤーの策は敵陣深くへと侵入し、スクロールを発動させるという案だ。
地の利も数も小鬼側にあり、ダークゴブリン率いる集団が彼の侵入を易々と見逃がす筈はない。
真面に数百を超える小鬼軍に肉薄するなど、自殺行為に等しい愚策といえる。
「ダークゴブリンは、ソウルの感知が出来る。下手な隠密行動など意味を成さない」
灰の剣士は幾度とダークゴブリンとの交戦経験が有る。
その過程で、ダークゴブリンはソウルの入手に固執していた。
「危険な作戦だが見返りは大きい。相手に空中兵力がある以上、陣形など大して意味を成さんしな」
「火力と長射程を兼ねた野戦兵器だけでも叩き潰せば、部隊を展開し易くなる」
ソラールとジークバルドも敵戦力を吟味しながら、ゴブリンスレイヤーの策の有用性を模索していた。
「敵の目を欺く必要がありますね。魔術による支援と幾つかの部隊が必須となるでしょう」
「――となると、後は侵入経路の確保と手段が課題か」
「あんま時間は掛けられねぇな。モタモタすっとバレちまう!」
獣人魔術師、重戦士、槍使いがそれぞれの意見を述べた。
「機動力が要る」
「空からなら、地形も無視できるんだが……」
ゴブリンスレイヤーと灰の剣士は侵入手段に頭を悩ませる。
敵中枢は小高い丘に陣を敷き、此方は下方から攻めざるを得ない。
高所から見降ろす事で視界の確保も容易となり、どうしても小鬼側に主導権を握られてしまう。
時間を掛け隠密に徹しながらの侵入に加え、他部隊による陽動と誘引を実施すれば侵入は叶うだろう。
しかし時間を掛ければ掛けるほど、作戦を気取られる恐れと味方部隊の被害が増すのは明白だ。
冒険者側の半数以上は、経験の浅い駆け出し冒険者で素人同然の一党も多い。
「……グライダーという、滑空の為の道具が有るには有る」
神官戦士長がグライダーについて言及した。
木の
高所から加速を付け空気と風の流れに乗り、主翼の揚力で空中を滑空できる。
方向転換や高度調整には技術が必要とされるが、真っ直ぐ滑空するだけなら比較的容易に操作できるだろう。
「グライダーを使うにしても、高台と魔法による支援が必要不可欠ですね」
「空中とはいえ、向こうは翼竜が徘徊してやがる。無策な飛行は格好の的だしな」
獣人魔術師と銀等級戦士が、支援方法を考察し始めた。
「
「――私が囮役として同行しよう。あと、回収部隊が要るな」
普段ゴブリンスレイヤーに
だがスクロールの効果時間には限りがあり、恐らく敵陣真っ只中で孤立する事は必死といえた。
余り人員を割く事は出来ないが、彼等を回収する部隊の必要性を灰の剣士は説く。
「二人を回収となると馬車…それも機動力に優れた物が不可欠となる」
「それなら私の馬車で――」
機動力に長けた馬車の必要性を説く女騎士に、ゴブリンスイーパーがその役を買って出た。
「それは避けた方が良い。貴公の馬車は乗用に優れているが、少々的にされ易い。小型且つ小回りと加速度に長けた荷馬車が最適だ」
ゴブリンスイーパーの馬車は複数人の輸送と乗り心地に加え、長距離移動に適した馬である為、敵の集中砲火を掻い潜る役には向いていない。
高確率で標的とされ、馬も車体も犠牲となるのは目に見えていた。
「――となると、俺の馬車が適任かな?」
名乗りを挙げたのは、太陽の騎士アストラのソラール。
馬に小型の荷台を括り付けただけの簡素な荷馬車だが、馬自体は最高速に優れ小回りも効く。
馬に防具ないし
しかし彼自身は、騎馬兵として出撃して貰いたいとの要請が通達されていた。
ソラールにジークバルド――彼等は騎兵としての経験もあり、主戦力としてみなされていたのである。
「御者は俺に任せてくれ。必ず役割は果たす」
「頼みます頭目――」
ソラール不在となる馬車の操作は、銀等級戦士が担当する事になった。
「打開策が見えてきたな。では次の段階へと進めるぞ。――貴君等の役割と担当地域についてだが……」
作戦に一先ずの進展が見られ、神官戦士長は次の段階へと移行し会議は更に続けられた。
△▼△▼△▼△▼
(推奨BGM ロロナのアトリエ ―― 出会いは錬金術)
それは一種の研究棟といっても差し支えないだろう。
大小複数の台座に陳列された道具類――。
大瓶小瓶といったガラス造りのフラスコ類――。
色取り取りの薬品や魔法液――。
植物、鉱物などの素材類――。
そして小型~巨大なサイズの錬金釜――。
その様相に唯々圧倒される少女――茶髪の錬金術士、ライザリン=シュタウト。
「~~……!」
言葉などでは表現も出来ず、惚けながら其処彼処に首を動かす。
「――こ、こんなの初めて見た……」
故郷の島、その対岸に自分専用の
「緊張し過ぎだって。ほら入って入って!」
長い銀髪を揺らす少女、エルメルリア=フリクセルが、入り口で立ち尽くす彼女の手を引き部屋の中まで招き寄せた。
この銀髪の少女も、彼女と同じ錬金術士で仲間と共に世界中を旅しながら、活動に冒険にと明け暮れていた。
「ようこそ、我が
銀髪の錬金術士ルルアの母親を名乗る一人の女性が、未だ戸惑うライザを歓迎する。
昨夜の晩餐会でも交流したが、実年齢の割に
背まで届く茶色の頭髪に、赤紫と黒を基調とした落ち着いた色彩の衣服を纏っている。
彼女の名は、ロロライナ=フリクセル――通称ロロナ。
錬金術士集団を纏める立場で『錬金術師長』と言った処だろうか。
此処は法の神殿。
至高神を祀る神聖な場でもある。
所属する信徒も聖職者も厳格に振舞っていたが、彼女の纏う雰囲気は何処となく安らぎと居心地の良さを感じさせた。
「それでは早速お努めに取り掛かるけど、皆さん準備は良い?」
錬金術師長の直弟子に当たる、一人の女性錬金術士が作業開始の合図を告げた。
灰色がかった茶系の長髪に、この国とは趣を異にする青色を基調とした服装をしている。
剣を帯びた男性も複数存在していた。
彼女等とは、幼馴染や長年の付き合いといった親しい間柄だという。
護衛や補佐を兼ね、同行しているとの事だ。
彼女等も元は他国の出身で、国交再開の一環として国王の要請で馳せ参じた次第である。
嘗ては国交が存在していたのだが、現国王が就任するまでは不安定な国内情勢で魔神王率いる混沌勢を始め、近隣諸国との小競り合いが絶えない戦乱に明け暮れていた。
その影響で一時期は国交断絶まで陥っていたのだが、六英雄による魔神王討伐に加え今の若き現国王の統治で、再び国交が回復の兆しを見せていたのである。
ロロナの国でも紆余曲折あり、現在は君主制ではなく大統領制という政治体系へと変化していた。
また錬金術師長であるロロナは、本国でも最高峰の錬金術師で天才的な実力を有している事で有名だった。
その卓越した錬金術師として腕を買われ、錬金術発展を図る大使としての役割も兼任していた。
「んじゃ、わたしと一緒にやろっか」
ロロナの娘であるルルアが、声を掛けて来た。
「ん、宜しくね!何から作ればいいんだっけ?」
ライザも快く応える。
互いに齢も近く性格も似通った部分を持っている。
昨夜の食事会で二人は直ぐに打ち解け意気投合し、良き友人関係を構築していたのである。
「えっと、このレシピを基にこの素材を――」
「――あ、待って!その素材は、加工してから釜に入れてね、粗悪品が出来ちゃうから!」
レシピを確認し、必要な素材を錬金釜に投入しようとした時、別の女性から注意が掛かる。
黄色を帯びた桃色の長髪と、胸部を覆った部分鎧と王冠を模した髪飾りを付けた女性の錬金術士だ。
彼女は何と、元王族で一国の姫という肩書を持っていた。
彼女の国は小国だったが共和国に合併され、現在は王族という重責からも解放されている。
名は、メルルリンス=レーデ=アールズ――通称メルル。
さしづめ彼女は、錬金姫と称するのが妥当か。
「ねぇ、まだぁ?」
メルルは男性陣を急かす。
「もう直ぐだ、待ってくれ!」
悪戦苦闘しながらも男性陣は、素材を細かく斬り刻んだり磨り潰すなどの作業に追われていた。
彼等は本来、直接戦闘を生業とする戦士職に身を置いている。
今は彼女等の補佐という形をとっているが、慣れない作業に手こずっている様だ。
「――ホラよ、出来たぜ!」
彼女の幼馴染である男性が、ぶっきらぼうながらも丁寧に切り分けられた素材の束を寄越した。
特徴的な手甲をはめた青年だ。
彼も例に漏れず戦士職なのだろう。
そして次々と加工された素材が出来上がり、彼女達が本格的に調合作業へと移る。
「山の青い花に小麦…ね、それと蝶の羽…プリスターワード…って、これキノコ類か…こっちのレシピは、ちょっと変わってるね」
レシピが記されたメモに目を通しながら、ライザは各種素材を錬金釜に放り込む。
「そうだね、私も最初は意外に思ったんだ。小麦や花を使うのは分かるけど、蝶の羽なんて全然知らなかったしさ」
相方を務めるルルアも相槌を打ちながら、調合作業へと勤しんでいた。
因みにルルア直接の師でもある『ピアニャ』という女性錬金術士も所属しているのだが、現在彼女は別の第2錬金棟にて他の錬金術士達を指導している為、姿を見せていない。
治癒の水薬は世界中どこでも流通しているが、その作成方法や調合材料などは地域や錬金術士によって違いがある。
無論、効果の度合いや保存期間にも差が生じるのは自明の理とも言えよう。
この国では各組合同士で規定を設け、個人での
粗悪品や偽物の流通を避ける為でもある。
組合に登録した上で、審査と一定水準の品質を乗り越える事で初めて売買が認められるのである。
「品質の方はどうなのかな?このレシピとアタシたちが使っているレシピで、効果に違いがあると思うんだけど?」
親しみ慣れた故郷でのレシピに傾倒してしまうのは、自然の道理なのかも知れない。
ライザは、これまで故郷で使用してきたレシピを思い返していた。
「一概にレシピだけで優劣は付けられないわね。結局決め手となるのは、わたし達術士の実力に依存する処が大きいの」
直ぐ近くで調合しているメルルが受け応えた。
国にもよるが、大半は一定水準に達した代物ばかりだ。
調合素材が国の気候や地政学的に大きく隔たりがあるにも拘らず、冒険者や旅人の間では重用されている。
それは偏に、素材の優劣ではなく錬金術士や調合士の経験と実力に起因していると言えた。
「あ、もう少しゆっくりとかき混ぜて。爆発はしないと思うけど、このままじゃ粗悪品になっちゃうから」
錬金術師長でもあるロロナから声が掛けられた。
「――うわわっ、ご、御免なさい…!」
後方から急に声を掛けられた事でライザは慌てて振り返り、かき混ぜ棒を取りこぼしそうになる処をロロナが支える。
「大丈夫、大丈夫、慌てないでゆっくりと…ね」
「……」
慌て失敗しそうになったライザを咎める事もなく落ち着いた仕草で、かき混ぜ作業を継続するロロナ。
その動作に派手さなど微塵にも感じられるものはない。
しかし経験と彼女自身の実力に裏打ちされた確かな技術が、その基本的で地味な作業に凝縮されロロナの全身を通し滲み出ていたのである。
否――。
分かってしまったと言うべきか。
―― 釜をかき混ぜる ――
たったそれだけの動作に、彼女の歩んできた道のりが全てを物語っていた。
「…………」
ロロナの姿にライザは絶句している。
いや、感動を覚えていると言えば良いのだろうか?
とにかく彼女には、言葉が思い付かなかった。
「す、凄いな…この人――」
「そりゃ、わたしのお母さんで、国一番の錬金術士だもん!」
呆けるライザとは裏腹に誇らし気に胸を張るのは、娘でもあるルルアだった。
「さ、ライザちゃん…もう一度、あなた自身で完成させてあげてね」
柔らかな物腰で、再びライザに作業を継続するようにロロナは伝える。
「――は、はい…!頑張ります!」
何故か直立不動の
――うう、緊張するなぁ……。
大して時間が経ったわけでもないのに、棒を握る手から汗が滲み出ていた。
故郷で指導を受けたと言っても、彼女は実質独学と経験で錬金術士として練り上げてきた。
幼馴染や仲間が傍に居たとは言え、実際は一人で調合作業に尽力してきたのである。
今の様に複数…しかも知識も経験も技量も格上の同業者達との共同作業など、生まれて初めての体験だ。
「色が変化したね。じゃ、その液を掬いとって」
「は、はい!」
釜の液体が変色し、ロロナからの指示で液体を掬い上げるライザ。
掬い上げた液体を全てフラスコへと移し替え、そこから専用の小瓶へと詰める事で治癒の水薬は
これはまだ原形の段階で、此処から蒸留装置にかけ精錬した後、更に聖職者や魔法使いたちが呪文や祈りを付与する事で、初めて市場に出せる高品質な状態へと至る。
「ふぅぅあぁぁ……やっと一個目の完成かぁ……」
天井を見上げ大きく息を吐くライザ。
「ふむふむ、
ライザが一個目を造り上げる頃には、既に3個以上完成させていたトトリが品質具合を確かめていた。
「思っていた以上…ですか…。つまり本来なら……」
トトリの言葉に反応するライザ。
「ち、ちょっと、トトリちゃん!?出ちゃってるよ、昔の癖…!」
「――あ…ご、御免なさい!わたし、そんなつもりじゃ…!」
ロロナに過去の癖を指摘され、慌てて謝罪するトトリ。
嘗て駆け出しだった頃、彼女は無自覚で思った事を口に出すという癖が身に付いていた。
周りが優しかったのだろう。
多少の窘めはあったものの、彼女を深く責める者は居なかった。
だが年月を重ねるに従い、彼女自身も自覚が芽生え、現在は意図して自重しているが稀に噴出してしまう事があるようだ。
「いえ…いいです、あたしが未熟なのは自覚してますんで…アハハ…」
どう受け止めていいか分からず、取り敢えず苦笑いを浮かべながらライザも反応を返す。
「それにしても、要請があったのは殆どが治癒薬や鎮痛剤の類ばっかだけどよ、爆弾は造らなくていいのかよ?」
メルルの幼馴染で、特殊な手甲を嵌めていた青年――ライアス=フォールケンは要請内容に疑念を呈した。
法の神殿から注文されていたのは、主に治療に関する薬品類が大半で、攻撃用の道具は殆ど要求されていなかった。
「攻撃に関しては『火炎壺』や『黒火炎壺』といった物が用意されているからな。それ等は調合だけで事足りる」
長身で強面の美丈夫――ステルケンブルク=クラナッハが応えた。
錬金術師長でもあるロロナとは古い付き合いで、彼女の護衛と補佐を担う手練れの武人でもある。
ダークゴブリン討伐に関し、此方も複数の野戦兵器が用意されていた。
旧式ではあるが大砲は勿論、
予め新人が多く集う事も視野に入っていたのだろう。
火炎壺を始めとした補助道具は、技量の拙い新人でも一定の効果を及ぼす事が可能だ。
また容易に作成が叶い、素材と知識さえあれば比較的数を揃える事が出来る。
故に、爆弾といった攻撃道具よりも治癒薬が優先されていたのである。
それ等の補助道具は、ピアニャが指導する第2錬金棟が担当していた。
其処で作業に従事する者達は錬金術士としての技量が未熟で、寧ろ調合士といった者が多く所属している。
火炎壺や煙玉といった補助具は、彼等が担ってくれている。
『――錬金術師長様、居られましたか!』
急にドアがノックされ、神官戦士の一人が入室してきた。
『――緊急の依頼です!急遽、この秘薬の作成に取り掛かって頂けますか?』
そう言うと共に、懐から一枚のメモを取り出しロロナへと手渡す。
メモには、透明化の秘薬と護符についてのレシピが記載されていた。
若干乱雑に殴り書き染みていたのが、緊急を要する状況である事を示唆している。
「…何ゆえに、この様な緊急要請を?説明を要求しても構わないか?」
ステルケンブルク=クラナッハ――通称ステルクが説明を求め、神官戦士も応じた。
先程別室にて作戦説明が行われ、奇襲案が浮上した。
その案は、グライダーによる空中からの急襲で敵布陣に攪乱と打撃を齎し、主導権を握るという意図があった。
しかし複数の翼竜が四六時中徘徊しており哨戒網を構築、安易な行軍では成す術も無く餌食となるのが目に見ている。
だが真面に進軍した処で、地の利は敵側にあり野戦兵器の存在で長期戦も不利という有様だ。
そこで一人のグライダーを囮にする事で時間を稼ぎ、その隙に透明化した一人をグライダーで敵陣へ深く潜り込ませるという方法が立案された。
「成程な、それ故の透明化の秘薬と護符か」
腕組みをし、ステルクは深く考え込む。
「秘薬は人に、護符はグライダーそのものに使用するという訳ですね?」
『――はっ!』
グライダーを扱う本人のみが透明化した処で意味は無く、グライダーそのものも姿を欺く必要がる。
ロロナの言葉に、神官戦士は頭を下げる。
「分かりました。その依頼お請けしましょう」
元より此処の国王から全面的な協力を要請されていたのだ。
余程の外法でない限り、彼女等が拒む理由はない。
『我々人類と国の命運に関わる重要な作戦故、くれぐれも宜しくお頼み致します。それと、もう一つ――』
まだ何かあるのだろう、神官戦士は更なる要請をロロナへ通達する。
『錬金術師長様のメンバーの中に、グライダーの扱いに長けた方がいらっしゃいましたね。実は、その方に教導役をお願いできないでしょうか?』
「グ、グライダーの教導!?そ、そんな人居たかなぁ?」
公的な佇まいなど綺麗に消え失せ、普段通りの口調に戻るロロナ。
てっきり錬金に関しての依頼だと構えていたが、全く無関係な要請に面食らってしまった。
自分の弟子については粗方把握していた積りではあったが、予想外の展開に彼女は困惑する。
「あれって空飛ぶ奴だろ?そんなの扱った事ある奴、見掛けなかったけどな?」
彼女等に同行している冒険者の一人で、強敵を求めている青年――ジーノ=クナープは周囲を見回す。
その時、別の青年が名乗りを挙げた。
「僕だ。一応人に教えられる程度の技術は持ってる」
腰に東国性の曲刀を差した、黒髪の青年だ。
「――え~~っ!?オーレルってそんな特技あったのっ!?」
これに驚きの声を上げたのはルルアだった。
ライザと共に共同作業に勤しんでいたにも拘らず、条件反射で作業を中断してしまった。
「別に、特技って程でもない。ほんの嗜み程度だよ」
彼の名は、クリストフ=オーレル=アーランド。
嘗ては王族縁の身分で、最強の剣士を目指している冒険者でもある。
「――で?教導を授けたい奴ってのは、どいつなんだ?」
少々歯の浮く言い回しで、オーレルは教導対象を訊ねた。
『ハッ!例のゴブリンスレイヤーと灰の剣士に御座います!』
「――えっ!?あの二人が…なんでッ!?」
神官戦士の言葉に今度はライザが、かき混ぜ棒を手から放してしまう。
当然二人が担当していた錬金釜からは失敗作が完成し、トトリから叱責を受けてしまった。
「ロロナさん、構わないか?」
仮にも錬金術師長という立場で、この集団の中では立場も地位も最上位の彼女だ。
元王族という身分ではあるが、念の為確認を取るオーレル。
「はい、くれぐれも宜しくお願い致しますね」
当然快く返答するロロナであった。
「そういう事だ。早速向かう事にする」
そう言うや否や、オーレルは早足気に部屋を出ていってしまった。
「初耳だよ…オーレルって、そんな事出来たんだ」
「わたしたち、お互いを知っている様でまだまだ知らない事だらけね」
「ゴブリン何タラと、灰の何タラって言うけど、まだ中堅に差し掛かった連中だろ?俺等を差し置いて、なんでそんな奴らに着目したんだ、剣の乙女様は?」
オーレルが部屋を出た途端に、俄かに工房は騒がしくなる。
グライダーの扱いに長けた事を知り、唖然となるルルア――。
付き合いが長いと思っていたが、まだまだ知らない事だらけを再認識するトトリの幼馴染で女性冒険者でもある、ミミ=ウリエ=フォン=シュヴァルツラング…通称ミミ。
そして、二人の冒険者に些か不満気のジーノ。
「…………」
そんな彼等を余所に、ロロナは一人思案に耽る。
――灰の剣士……、いい機会です。
美麗とはいかないまでも小奇麗に装飾された香炉の様な器が、其処に座している。
彼女の視線は、その器に注がれていた。
……
(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― 剣を見つめて)
水の都外れの、ありふれた平原だ。
盛り上がった台地が所々に点在し、障害物らしい障害物も無く見晴らしも良い、昼間を過ごすには打って付けの場所といえるだろう。
微風が流れ、三人の男を擦り抜ける。
草木を揺らす風の音が心地良く耳を打った。
「よし、ここ等で良いだろう」
上質の衣服と軽鎧を纏った一人の青年が荷馬車を降り、荷台から必要な荷物を降ろす。
彼の名は、クリストフ=オーレル=アーランド。
此処ではない他国の出身で、高い地位の身分でありながら最強を目指す冒険者でもある。
「オーレル卿、しがない我々の為に時間を割いて頂き恐縮の至り、感謝申し上げます」
彼に倣う様に荷降ろしを行い、感謝の意を述べる一人の剣士――。
つい先日、青玉等級へと昇級し中堅冒険者の仲間入りを果たした、灰の剣士だ。
「俺達はグライダーという物を良く知らん。今日中に収める必要があり、アンタの指導が必要だ」
そしてもう一人、安っぽい鎧兜の冒険者、ゴブリンスレイヤーも必要分の荷を降ろす。
「止せよ、こそばゆい!――ただし僕が教えるからには、しっかり学んでもらうぞ二人共!」
「――承知!」
「――その積りだ」
オーレルの発破に、灰の剣士とゴブリンスレイヤーも返答する。
「――とは言うものの、いきなり現物なんて扱える訳ないからな。先ずはコイツで感覚を掴んでくれ!」
最初からグライダーを渡す事はせず、オーレルは簡易的な滑空機を二人へと手渡す。
細い枝に円形で骨組み、厚い布を張り合わせただけの、直径65cmほどの簡素な道具だ。
「――よく見とけよ、そら!」
早速オーレルが二人に手本を見せる。
助走を付け小高い台地からジャンプしたかと思えば、円形の簡易グライダーで滑空を始めた。
程よく空中を進んだ後、向こう側の丘で着地する。
「ああやって飛ぶのか」
「ほぅ、興味深いな」
オーレルの様を見た二人は、感嘆の声を上げる。
『お~い、次はアンタらの番だぁ!』
向こう側から彼の叫ぶ声が聞こえ、此方に向かって手を振っていた。
「よし、先ずは私から!」
オーレルに釣られ、灰の剣士が助走を付け一気に丘から跳び上がった。
――ぬっ!?これは…中々…!
予想以上に体軸は揺さぶられ、空中で身体が左右に揺れる。
何度も空中で足をジタバタさせながら何とか向こう側の丘にまで辿り着き、ぎこちないながらも着地に成功する。
その様子を確認したゴブリンスレイヤーが続けて、簡易グライダーを掲げ滑空を開始した。
彼も案の定、悪戦苦闘しながら
「多少危なっかしかったが、飛ぶ位なら直ぐ行けそうだな。もう少し、感覚を掴んでおくか」
オーレル達三人は、もう一度向かいの台地に向かい、滑空訓練を再開した。
何往復も訓練を重ね、いよいよ現物を使った訓練へと移行する。
「よく見ててくれ、こうやって展開するんだ」
先ずオーレルが、折り畳まれたグライダーの解き方を披露した。
松科に属する常緑針葉樹の木材の骨組みを、慣れた手付きで展開してゆく。
そして羽布張りの主翼が二人の眼前に広がった。
「…デカいな」
グライダーの威容に、ゴブリンスレイヤーは声を漏らす。
「よし、ゆっくりでいい。二人ともやってみてくれ」
オーレルの促しに、二人は不慣れな手つきで折り畳まれたグライダーを解きにかかった。
幾許かの時間を経てどうにか展開し終えたものの、初見という事もあり二人の息は荒い。
「此処からは僕の説明をよく聞いてくれ。滑空すると言っても、空中で居る事に変わりはない。油断したら重傷では済まんからな」
やや厳しめの口調でオーレルは説明し、二人は真剣にそれを聞き入った。
それだけ危険の伴う行為だと示唆しているのだ。
先ず機体に人間をハーネスベルトで括り付ける作業から始まり、滑空方法までを説明する。
だが今日中という限られた時間の中で、全てを習得する事は先ず不可能だ。
しかし肝要なのは、敵陣深くへ到達するというのが目的で、グライダーの使用はあくまで手段に過ぎない。
「このコントロールバーで身体を傾けた重心移動で、基本的な操縦全般を行う」
オーレルの講義は続き、漸く実践段階へと至った。
そして数時間後――。
結果的に、二人は一定の練度で扱い方法を会得する事が出来た。
オーレルの域へ到達するには、時間も道具も何もかもが足りないのは否めない。
彼ほど巧みな操作は叶わなかったが、どうにか離陸と着陸を含め拙いながらの方向転換までは漕ぎ付ける事が出来た。
「何だ、思ってたより筋が良いじゃないか、見直した!」
オーレルは快活に笑い、二人を称賛した。
「ハァ…ハァ…ハァ…貴方の御指導の賜物だ……」
「フゥ…フッ…まだ初歩の段階だがな……」
息を切らしながら何とか返事を返すのがやっとだ。
「さて…訓練を一旦切り上げて、メシにするか」
気が付けば太陽は中央高くまで登り、正午に差し掛かっていた。
そこへ一人の少女が駆け付けて来る。
『お~、居た居た!結構離れた所まで来てたんだねぇ…』
茶髪の錬金術士、ライザリン=シュタウトだった。
都の外れとはいえそれなりに離れた場所だ。
しかしライザは息を切らす事も無く、この場所まで辿り着いている。
こう見えても彼女は活動的で、故郷の島中を駆け巡っていた身だ。
健脚の持ち主で、身体能力も密かに高かった。
「えっとね、ロロナさん…錬金術師長様がね、灰君に大事お話があるんだって。直ぐに来てもらえる?お昼は、コッチで済ませる形でさ」
「……私にか?どうしてもか?」( ゚ ω ゚ )
「――どーしても!」( ̄△ ̄)
「あの人も何考えてるか分からん部分があるからなぁ……」
灰の剣士自身、本音で言えばグライダーの練度を引き上げたい処ではあった。
それはオーレルやゴブリンスレイヤーも同じ気持ちだ。
「とにかく来てよ。あたしが困るでしょ!?」
「…………承知」
難色を示したものの、灰の剣士は渋々承諾する。
「しょうがない、僕も戻るか。アンタはどうする?」
「君も、錬金術…見学してく?」
仕方なくオーレルも戻る事にし、ライザはゴブリンスレイヤーにも誘いの声を掛けた。
「俺は他の連中と合流し、別の訓練に参加する」
しかし彼はその誘いを断り、訓練中の冒険者集団へ合流する旨を伝えた。
「作戦、成功させろよ!また生きて会おうな!」
「ああ」
こうして彼等は戻る事にし、グライダーを荷台へと戻す折の事である。
「――折角だ。実地も兼ね、
「――ハハハ、ソイツは良い!僕等は普通に戻りながら、アンタの飛びっぷりを見ててやるよ!」
突如、灰の剣士はそんな事を思い付き、オーレルも釣られて笑った。
そう言った彼はグライダーを構え、助走を付け勢い良く跳躍した。
風はやや弱かったが、彼のグライダーは見事気流に乗り、都方面へと飛翔する。
「おー凄い!ホントに飛ぶんだ…!」
そんな様をライザは目を見開き釘付けとなっている。
「――って言うか灰君だけズルいっ!あたしにもアレ使わせてよっ!」
好奇心旺盛なのか堪え性がないのか、ライザもグライダーの使用をオーレルにせがむ。
「……。初心者のアンタはコッチ…」
最早結末など想像するまでもない。
だが彼女の性格上引き下がるとは思えず、オーレルは妥協案として円形の簡易グライダーを寄越した。
彼女は一度決めると、早々曲げない頑固な一面もあるのだ。
「――いよぉし!あたしも華麗に飛ぶぞぉッ!!」
意気込む彼女も、台地に陣取り助走を付ける。
「無理じゃね?」
「俺もそう思う」
オーレルにゴブリンスレイヤー、二人して結果を予想しながら彼女を見届ける事にした。
「――ブギャッ…!」
ライザは負傷した。
案の定、彼女は着地に失敗し全身を見事に強打。
「ほら、言わんこっちゃない。ま、骨は拾ってやるか」
「まだ死んでない」
「そうか」
追い付いたオーレルは彼女の様に溜息を吐き、灰の剣士とゴブリンスレイヤーも様子を窺う。
先に都へと着地していた灰の剣士が奇跡を施し事無きを得る事は出来たが、衣服は土埃塗れだった。
その後、ライザ、オーレル、灰の剣士は法の神殿の錬金棟へと移動し、ゴブリンスレイヤーは冒険者側へと戻る。
……
(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― ロロナのアトリエ~forロロナ)
場所を移し錬金棟。
訪れた灰の剣士に、錬金術師長でもあるロロライナ=フリクセルが応対し迎え入れた。
「忙しい中、
「
膝を折り頭を垂れながら、灰の剣士は要請の内容を問う。
だが眼前の女性は、急に態度も口調すらも豹変させた。
「――あ、あわわわ……ロ、ロ、ロロナで良いですっ!
彼女は焦燥した様子で口をパクパクとさせながら取り乱し、灰の剣士にも普段通り振舞うように要求する。
「――しかし、貴女様は社会的地位も名誉も備えた御仁。私めは、只の平民に御座います。おいそれと、普段通りの対応で振舞う訳にも――」
「――わ、私が良いと言ったら良いんですぅっ!!」
礼節としてどうか?っと、彼は頑なな態度をとるが、ロロナ自身も引き下がる気はなかった。
本来ロロナ自身も穏やかな人柄で、尊大な態度を取られる事には比較的慣れてはいた。
しかしその逆には全くといっていい程に免疫がなく、灰の剣士の低姿勢な態度に困惑してしまい、素が出てしまったのも致し方がないと言えるだろう。
「灰の剣士殿…だったな。ロロナ君も立場ある人物だが、此処は彼女に免じて了承して貰えないだろうか?」
そこへ彼女の隣へ居た、大柄な男性が声を掛ける。
品のある佇まいと王侯貴族が服するであろう軍服を身に纏った、壮年の男性だ。
部屋へ訪れた時から気にはなっていた。
彼の内包するソウルは、他の男性陣と比べても群を抜き強大だった。
ロスリックで入手したソウルで換算すれば、『英雄のソウル』級は確実に備えているだろう。
――これ程のソウルの持ち主、そうは居ないぞ!
「ハハハ、申し遅れたな。私は、ステルケンブルク=クラナッハ…ステルクと呼んでくれて構わない」
「私は、火のない灰…周囲は私を『灰の剣士』と呼んでおります、ステルク公」
止む無く立ち上がり”貴人の一礼”を維持しながら、ステルクへと向かい合う灰の剣士。
そんな様子見ていた周りの面々は、小声で何やら話し始める。
「ライザちゃん、思ってたよりも固い人だよね、彼――」
「なんかステルクさんが、もう一人居るみたい」
ルルアと彼女の幼馴染である、エーファ=アルムスターは灰の剣士に対し、ステルクに似た一面を垣間見たらしく、それをライザに振る。
「うん、あたしもそう思う。あたしの事を
まだ出会ってから二日目ではあるが、灰の剣士の対応ぶりに些か不満を抱いていたライザ。
「さっき平民って言ってたから、騎士って訳でもなさそうだな」
「――でなきゃ、灰の
ライアス=フォールケンにジーノ=クナープ――。
他国出身の彼等はこの国の冒険者に興味があり、何度か野試合を申し込んだ事があった。
実際彼等の実力は高く、銅~銀等級の冒険者を打ち負かす事も度々あったほどだ。
当然、眼前の灰の剣士の実力を推し量りたいという欲が秘かに芽生えていたのは、彼等の性分だろうか。
だがしかし、大事な作戦の前だ。
下手な試合で負傷などさせる訳にもいかず、彼等もその位の分別は弁えていた。
(推奨BGM ダークソウル3 ―― 火継ぎの祭祀場)
「あ~ゲホンオホン…、話を元に戻しましょうか。灰の剣士さん、この様な物を存じておいでではないでしょうか?」
咳ばらいを挟み一呼吸置いた後、ロロナは形式ばった口調で或る物を彼の前へと置く。
それは、香炉にも似た椀のような形をした容れ物であった。
美麗とはいかぬまでも光沢のある金属で装飾された品格のある代物で、高い芸術的価値も備えていた。
「ん?この感触…何となく…何処かで……」
ロロナが展示した容れ物に触れ、感触を確かめる灰の剣士。
だが彼には、この感触に覚えがあった。
――結晶トカゲにも似たソウル…いや、間違いない!これは結晶トカゲの素材が使用されている。
手より伝わるソウルを感知し、得体の知れない容れ物から結晶トカゲの素材が使われている事を看破した。
「フリクセル様…もといロロナさん、これを一体何処で?」
当然、出所が気になり、ロロナに問うのは致し方がないと言えるだろう。
見知らぬ素材ならいざ知らず、覚えのある素材が使用されているのは先ず間違いない。
更に言えばこの容れ物の役割をも、灰の剣士は薄々と察していた。
――結晶トカゲの素材が使われた、香炉らしき代物…。
彼の問いにロロナは答える。
「それは『錬成炉』と呼ばれる物で、助言者より賜った物です」
「……。そうでしたか」
「あまり驚かれないのですね」
「目の前にお出ししたという事は、私の事もある程度は存じておいででは?」
「――お察しの通りです、灰の剣士さん…いえ、
「……」
――矢張りな。
さして驚嘆する事も無く、灰の剣士は口を閉ざした。
しかし相反するかの様に取り乱したのはロロナの娘、ルルアだ。
「――ち、ちょっと、お母さん――どういう事!?私そんな話全然聞いてないよ!?」
養子とはいえ、歴とした親子の関係だ。
更に家族仲は良好で、娘である自分の知らない領域で話が進んでいるのだ。
”置いていかれた”という
ロロナに詰め寄るルルアだったが、驚いた事に普段あり得ない張り詰めた表情で彼女の接近を手で制す。
彼女だけではない。
周囲の幾人かは、飛躍した内容について行けず騒がしくなる。
唯一ステルクだけは態度を崩す事なく平静を保っていたのは、彼もロロナの付き添い同行していた為だろう。
「しかし、助言者とは一体――」
取り乱すルルアの他所に、灰の剣士は”助言者”なる存在について言及した。
ロロナは助言者について説明する。
この国の王都外れに、小さく寂れた祠が存在していた。
その小さき堂に、数人の聖職者達と一人の賢者が居を構えているのだと言う。
その賢者こそが、彼女の語る助言者だと言うのだ。
助言者は広い知識と品性を兼ね備え、国王陛下ですら助言を賜りに来訪する位だ。
聖職者は皆、『白教』と呼ばれる宗派の信徒であると言う。
この国へ訪れた際、彼女は国王陛下の先導の下、助言者と邂逅した。
そこで、『火の時代』に纏わる知識を得るに至り、錬成炉を拝領したのだと言う。
しかし彼女を含め、誰一人として錬成炉を使える者は居なかった。
それもその筈。
如何に天才的な錬金術士の一団といえども、ソウルから物を生み出す秘術とは根元からして隔たりがある。
先ずソウルの感知すらままならない人物ばかりなのだ。
唯一ステルクのみが、辛うじてソウルの断片を感知出来る程度だが、皮肉な事に彼は錬金術や錬成といった分野は素人そのものであった。
助言者は、薪の王についても言及していた様だ。
加えて言えば、薪の王が現存し今も生きている、という報も含めて――。
「……そうでしたか。道理で私《わたくし》の事を――」
「貴方の事です、助言者についても大方の見当がついているのでは?」
「――それは実際、会ってみない事には何とも」
――もし私の想定が正しければ、助言者とは多分……。
ロロナの詮索を軽く受け流しはぐらかす、灰の剣士。
しかし眼前に差し出された、新品同様の錬成炉――。
ここまで来れば、何を言わんや――。
彼女が要求している事など、手に取るように察する事が出来た。
「本題に移りましょう。――灰の剣士さん、見せて頂けませんか?」
ロロナが彼を呼んだ真の目的――。
――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
錬金釜
用途別に様々な大きさに分けられ、一概に定めれられるものではない。
中は調合用の魔法液に満たされ、素材を混ぜ込み融合させる役割がある。
中には釜そのものが魔力を帯び、特殊な錬金術に寄与する事もある。
錬金術士にとって、錬金釜とは言わば半身同然な程に縁の深い道具なのである。
錬金術の起源は定かではない。
神代に誕生したのか、もっと深い歴史を刻んできたのか、それを知るは神々だけであろう。
グライダーの起源は比較的に最近らしいです。
19世紀あたり?
アーランドの錬金術士シリーズのキャラクター、クリストフ=オーレル=アーランド。彼がグライダーに長けているというのは、勿論オリジナル設定で原作に準拠したものでありません。
オリキャラでも良かったのですが折角登場させたので、活躍の場を与えてみたいとの願望から、この様な経緯に至りました。
アトリエシリーズの人物達が、このダークゴブリン討伐編限定なのか、今後も登場させるのかは今の処まだ考えておらず、今後の展開次第といった感じでしょうか。
何とか時間を見付けてアトリエシリーズをプレイせねば……。( ̄ω ̄;)
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
評価、お気に入り登録、感想、本当に有難う御座います。
チラ裏で細々と活動している作品ですが、これからも宜しくお願い致します。
デハマタ。( ゚∀゚)/
先程、手違いで同じ話を投稿してしまい、削除しておきました。
混乱させて申し訳ありません。<m(__)m>