ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

97 / 197
 どーもです。
言葉を飾る事に意味は無い。
後は投降するのみだ。
――という訳でドゾ。


第77話―錬金術とソウル錬成―

 

 

 

 

 

錬成炉(新)

 

ソウル錬成が可能となる。

 

古き賢者が造った、真新しい錬成炉。

主原料は結晶トカゲの抜け殻だが、粘土や装飾用の金属物も多数含まれている。

外観もよく芸術品としての価値も高い。

 

この炉で異形のソウルを錬成する事で、その特質を凝固させた特別なアイテムが作られる。

 

使い方を誤った者が、それを禁忌と呼ぶのだろう。

 

王都外れの祠に座す古き賢者――。

国王でさえ、その賢者の言は尊重し蔑ろにする事はなかった。

 

助言者、彼はそう呼ばれている。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM ダークソウル3 ―― 火継ぎの祭祀場)

 

 通常の生物には宿す事の叶わぬ、特異を孕むソウル――。

 

其れは、俗に『異形のソウル』と呼称されている。

 

デーモンを始めとする神々に近しい存在が、超常にして神秘的な力を宿したソウル――。

 

異形のソウルを原材料とし物体へと練り上げる御業――。

 

 

 

   ―― ソウル錬成 ――

 

 

 

嘗て使命に殉じたあの時代、火継ぎの祭祀場にて『クールラントのルドレス』より伝授された錬成術。

 

眼前の錬金術師長『ロロライナ=フリクセル』は、ソウル錬成の実施を()に求めていた。

 

「ソウル錬成、祠の『助言者』より告げられし太古の術法――聞けば、侵してはならぬ人類種の禁忌と称されているようですが――」

 

 ロロナは傍らの香炉に似た器、錬成炉に視線を寄せる。

 

目を閉じ彼女の言に耳を傾けていた一人の冒険者、灰の剣士は徐に口を開く。

 

「違え誤りし道を歩んだ幾多の者達…、そんな心無き輩がそれ(ソウル錬成)を禁忌と蔑んだのでしょう。そうとも告げた筈です、助言者は――」

 

「……。仰る通りです、灰の剣士さん」

 

 灰の剣士が訪れるまで、この錬金棟は忙しくも和やかに事が運んでいた。

 

しかし今は空気感が張り詰めた糸の如く一変している。

 

普段饒舌な筈の錬金術士達も、額に汗を滲ませ無言で固唾を飲むしか出来なかった。

 

「……。良いでしょう、ご要望とあらばソウル錬成…御披露致します!」

 

 特に拒絶する理由などは無い。

 

灰の剣士は、ソウル錬成を行う事にした。

 

助言者の素性については、大方察しが付いている。

 

実際会うまで何者であるかは確信は持てないが、その人物が錬成炉を彼女に託したという事は、恐らく禁忌として捉えてはいないのだろう。

 

「ソウル錬成、必須となる素材そのものも錬金術とは、根元から一線を画すと窺っておりますが――」

 

 ソウル錬成の素材は、異形のソウルと呼ばれる特別なソウルが必要不可欠だ。

 

その起源は錬金術よりも遥かに古く、その礎となった部分も数多い。

 

「――心配には及びませぬ。幸い私めは、呪腹の大樹のソウルを所持しております故に」

 

 以前、ロスリック不死街の奥深く”亡者の穴倉”で討伐した呪腹の大樹――。

 

そのソウルが今も彼に流れているのである。

 

「故郷の流れ着く地ロスリック――その怪物である『ボルド』と『呪腹の大樹』を討ち果たしたという噂、誠であったか」

 

 彼の言葉にステルクが反応する。

 

ステルク自身もロスリックについての情報は、ある程度は聞き及んでいた。

 

「ロスリックかぁ、行ってみてぇなぁ…」

「アンタじゃ、直ぐ亡者にされちゃうわよ」

「――何だとっ!?」

「――静かに!始まるわよ」

 

 強者と戦う事を至福とする冒険者、ジーノ=クナープ。

 

密かにロスリックへ挑む事を希望していた彼に、ミミから皮肉が浴びせられ口論となり、それをエーファが仲裁した。

 

皆の視線に晒されるも彼は表情一つ変える事無く、掌を上に翳しソウルを発現させた。

 

 

 

『『『『『――!!??』』』』』

 

 

 

当然、周囲はどよめき各々が息を呑む。

 

「――な、何だよこれっ!?」

「魔力の塊…かっ!?」

 

 ジーノ、ライアスの二人は初めて目にする光景に、つい身構え警戒してしまう。

 

「魔力じゃないねぇ、もっと深いナニカを感じる……」

 

 ルルアの師を務めトトリの弟子でもある錬金術士の女性、ピアニャは眼前のソウルに得体の知れない気配を感じ取っている。

 

「――こ、こんなの初めて見た…!」

「一体何者なの貴方は――」

 

 トトリとメルルも周囲と同じく動揺を隠せない。

 

異形のソウルなる未知との邂逅に慄き、目が離せないのだ。

 

彼女等も錬金術を通じ、様々な冒険と苦難を潜り抜けてきたが、今此処で初めてソウルという概念を目にしたのだ。

 

この国の王都で、ロロナとステルクが国王を含めた要人に連れられ、外出していたのは知っていた。

 

しかし、助言者を始めとするソウルや火の時代という存在などは、今日に至るまで耳にした事すらもなかった。

 

極めつけは目の前に佇むこの剣士こそが、最も得体の知れない存在と言っても過言ではないだろう。

 

多くを知り見聞を納めてきたと自負していた彼女達――。

 

しかし眼前で見た事も聞いた事もないソウルなる存在と、それを発現させた一人の剣士。

 

彼女達の自負を根底から覆された気がしてしまう程に強烈な現象だった。

 

「僕は一体…何を見てるんだっ!?」

「お母さん、私には一言も……何だか置いていかれたみたい……」

 

 オーレルも例に漏れず冷や汗を滲ませ、ルルアは少し表情に陰りを見せていた。

 

養子とはいえ、本物の家族以上に慕い敬愛していた母ロロナが、自分の知らない領域で事を進めていた。

 

そんな置いていかれ取り残されたという、言いようのない喪失感が彼女を苛んでいたのである。

 

――やだ…思い出しちゃった……。

 

彼女の脳裏に過る、苦々しくも哀しい過去――。

 

掛け替えのない大切な存在である一人の少女を救う事が出来なかった、あの過去を思い出してしまったのである。

 

「――大丈夫、ルルア?」

 

 曇る彼女に、隣に居たライザが声を掛ける。

 

「――!?だ、大丈夫だよ、心配しないで…!」

 

 ルルアは悟られない様、慌てて取り繕った。

 

――それにしても何だか似ている、動力装置のコアに流れていたエネルギー源に……。

 

禍々しくも輝き存在を誇示するかのような、異形のソウル――。

 

ライザの目には、今も故郷を存属させているコアの動力源に似た物を彷彿とさせていた。

 

 

 

『――この錬金棟です、大司教様!』

 

 

 

唐突に錬金棟の扉が開かれ、数人の神官戦士を伴った大司教――剣の乙女が血相を変え乱入した。

 

「――神殿の結界が、突如として歪を生じております。一体何事ですか?」

 

 口調は静かながらも、彼女の呼吸は若干乱れを生じていた。

 

僅かな結界の乱れなら彼女も別段取り乱す出す事も無いのだが、今の歪みは尋常ならざる現象で消失をも危惧しなければならない程の事態だった。

 

神殿を預かる立場である以上、放置など出来よう筈も無い。

 

彼女は直ぐに原因を突き止め、此処に駆け付けた次第である。

 

「――申し訳ありません、大司教様!全ては(わたくし)の独断によるもの、どうか御容赦をッ!」

 

 錬金棟を任されている立場上、ロロナが最高責任者でもあり、全ての責は自分にあると弁解し事の顛末を語る。

 

……

 

「そうでしたの、助言者――ソウル錬成の件ですわね」

「はい」

 

 どうやら大方の事情は把握しているらしく、ロロナの言葉をいとも容易く受け入れた。

 

「剣の乙女だ……」

「急に現れるからビックリしたぜ…」

 

「お騒がせして申し訳ありません、許してくださいましね」

 

 剣の乙女による予期せぬ来訪――。

 

オーレルやジーノは呆気に――否、彼女の美しい容姿と声音に呆けていた。

 

剣の乙女の醸し出す美しさと神聖さは、正に女神に例えられる程で目を覆う眼帯がそれに拍車を掛けているのだろうか。

 

魅力的な女性陣が周囲に居るのだが、ステルクや灰の剣士以外の男性陣は、剣の乙女に見惚れていた。

 

ライアスなどは言葉すらもなく、彼女に釘付けとなっている。

 

「私も此処で、見学させて頂いても良くて?」

 

「――ハッ、はい、どうぞ!何なりと御命令を――」

 

 突如声を掛けられ、紅潮したライアスは直立不動で応えた後、神速の機敏さで椅子を用意し彼女に差し出した。

 

「ふふ…、ではお言葉に甘えますね」

 

 ライアスに微笑みかけ、差し出された椅子に剣の乙女は腰掛ける。

 

肉付きの良い豊かな臀部は自重により椅子からはみ出し、それを目の当たりにしていたライアスはゴクリと唾を飲み込む。

 

彼の視線は、剣の乙女の肢体と美貌に目が離せないでいた。

 

――見過ぎ!なに鼻の下伸ばしてんだか……。

 

そんなやり取りを見ていた、メルルは少々呆れ顔だ。

 

「――ソウル錬成を開始します」

 

 灰の剣士の声で皆は再び彼に注目した。

 

「禍々しいソウルを感じますね」

「あらゆる呪いを取り込み変異した神樹が、呪腹の大樹です。これは当時のソウルであります故に」

 

 剣の乙女自身もソウルの感知が可能で、彼の手に浮かべるソウルに禍々しいものを感じ取っていた。

 

既に呪腹の大樹は討伐され、神樹の苗木と化した新たな生命は、西方辺境の地母神神殿にて植林されている。

 

その報は当然、法の神殿にも通達され、剣の乙女は近い内に視察を予定していた。

 

「――では、いざ」

 

 その言葉を皮切りに、灰の剣士は錬成炉に手に宿したソウルを入れ込んだ。

 

その瞬間、錬成炉の周囲が鈍い輝きを見せる。

 

『『『『『…………』』』』』

 

 皆は言葉もなく、彼の行いを見守っていた。

 

「――!?」

 

 その時、灰の剣士は眉を顰め軽く首を傾げる。

 

――どういう事だ、まるで知らないイメージが流れ込んで来る。

 

呪腹の大樹のソウルから生成される物といえば、”亡者狩りの大剣”と”アルスターの槍”だ。

 

少なくとも以前の世界ではその二つで、周回を繰り返そうとも事実が変わる事はなかった。

 

亡者狩りの大剣は、討伐した際に既に入手が叶った。

 

あと残っている可能性といえば、アルスターの槍しか思い浮かぶ筈が無いのだが……。

 

しかし彼の脳裏に流れ込むイメージは、全く異質で未知の領域だった。

 

「どうしたんだろ?ジィっとしたままで……」

 

 今の彼を端から見れば微動だにせず固まった様にしか見えない。

 

しかしこのままでは、貴重な時間を浪費するばかりだ。

 

炉の中のソウルは、既に象られ物質と化している。

 

もう錬成は成り、完成してしまっているのだ。

 

何時までもこうしている訳にもいかず、意を決した彼はゆっくりと静かに炉から手を抜いた。

 

「――あ、何か出来上がってる」

 

 先程まで彼の手には、ソウルと呼ばれるエネルギーの塊の様な気体を纏っていた。

 

しかし今は、その手に見た事も無い物体が存在している。

 

ライザの目には、丸みを帯びた黒い塊のような物体が映っていた。

 

「……何だこれ…?」

 

 灰の剣士自らが疑念の声と目を向ける。

 

知りたいのは見ていた側(錬金集団側)なのだが、彼自身も困惑の度合いが見える。

 

どうやら彼自身にも予期せぬ物が出来上がってしまったらしい。

 

黒い物体は丸みを帯びているが決して滑らかな物ではなく、表面はザラザラと起伏に富んでいた。

 

更に注視すれば物体の表面は、人の顔を象った様にも見え、その表情は苦痛に喘いでいる様にも思えた。

 

とにかく不気味な事この上なく、それは何処となく記憶に有る物体に酷似していた。

 

――解呪石に似ているな、この物体。

 

錬成炉より取り出された物体は、幾多の頭骨が折り重なったかの様な不気味な塊だった。

 

「うぇえぇぇ…、気持ち悪いそれ……」

 

 錬金術士の一人、ピアニャは顔を顰め不快感を露わにし、周囲の面々も似た様な反応を示した。

 

何度も火継ぎの旅を繰り返した灰の剣士にとっては、精々薄気味悪い程度でしかないのだが、生命溢れる活きた世界の住人にとっては呪物に等しい存在なのだろう。

 

「その奇妙な物体…使い方は存じていますか?」

 

 錬金術師長であるロロナは彼に尋ねる。

 

「……見た目だけでは何とも。ある程度察しは付きますが……」

 

 外観からして解呪石に酷似した物体だ。

 

恐らく呪いの類を解除する効果があると推察できる。

 

手にした時から、ナニカを吸い寄せる様な感覚に見舞われている。

 

「――宜しければ、私が鑑定して差し上げましょうか?」

 

 声を上げ案を示したのは、剣の乙女だった。

 

六英雄と称される以前の彼女は、鑑定士として黄金の騎士亭で活動していた時期があった。

 

至高神の信徒でもあり専用の奇跡『鑑定(ジャッジ)』の行使が可能で、それを活かし聖職者として貢献していた。

 

また彼女は金等級の冒険者でもあり、奇跡の強度も他を圧倒している。

 

今この状況で、彼女程打って付けの人材は他に居ないであろう。

 

「剣の乙女様自らが――」

「――そんな、恐れ多い…」

 

 謹厳実直(きんげんじっちょく)で知られるステルクや、高い社会的地位に属するロロナも、これには驚嘆せざるを得なかった。

 

「いえ、久方振りに冒険者として振舞わせて下さい。偶には私も一人の人として働たく存じます」

 

 俄かに騒がしくなる面々を余所に、彼女は灰の剣士から黒い物体を手渡された。

 

「……確かに、神聖な物とはかけ離れていますね」

 

 手にした瞬間から流れ出るソウルを感知し、それが呪いに近い物体である事を察した。

 

彼女は意識を集中させ、崇める至高神へと祈りを捧げる。

 

「裁きの(つかさ)なる我が神よ、未熟な我が身に、確たる証をお示しください――」

 

 祈りの言葉を捧げ、至高神専用の奇跡を発現させる。

 

彼女の手より聖なる光が溢れ、黒い物体へと流れ込んだかと思えば、脳幹へと急速に逆流した。

 

「――っ!……なるほど……理解致しました」

 

 逆流の勢いが思いの外凄まじく彼女は一瞬意識を揺らすも、黒い物体の情報を具に読み取った。

 

「覚えておいでですか灰の方、以前地下水脈で持ち帰ったあの水棲生物の事を――」

「あの生物…まさか――」

 

 剣の乙女の言葉を聞き、彼は思い出す。

 

以前、彼が法の神殿に訪れた際、地下水脈に潜った事があった。

 

それは地下に潜伏する小鬼の討伐を主目的としていたのだが、それ以外の異形にも遭遇したのである。

 

小鬼以外の異形は、全てロスリックにて生息する種ばかりだった。

 

小鬼とは異質の危険度を有し、中でも脅威となるのはバジリクスと呼ばれる異形だ。

 

蛙と蜥蜴を融合したかのような体躯に剥き出しの眼球という、非常に不気味な外観をしている。

(余談だがロスリック時代に至る迄、巨大な眼球は実はダミーで、本当の目は口元付近に備わっていた。当時の(ダクソ3)火継ぎの祭祀場で、ルドレスに教わり初めて知るに至ったのだった。)

 

しかしバジリクスで最も警戒すべきは、吐き出すブレスにこそあった。

 

そのブレスは触れたものに呪いを蓄積させ、一定以上に達したものを死に至らしめる恐るべき効果を持つのだ。

 

ブレスの呪いが蓄積した対象物は、至る所が水晶に似た結晶物を露出させ石化(呪死)してしまう。

 

一度石化したものを解除する方法は基本的には存在せず、蓄積する前に退避ないしバジリクスを討伐するしか手立てはない。

 

若しくは、耐性のある装備で凌ぐ予防位しか、対処法が存在しないのである。

 

あの時地下水脈で、どう言う訳かバジリクスと遭遇してしまい戦闘となった。

 

幸い灰の剣士は、過去にバジリクスとの交戦経験を生かし、殲滅に成功した。

 

何故バジリクスが地下水脈にて生息していたのか、原因は判明していない。

 

都合上余り時間を掛ける事もできず、彼はバジリクスの遺体を持ち帰り、その危険性を法の神殿へと報告したのであった。

 

剣の乙女が勘定した黒い物体――。

 

「例のバジリクスによる呪い――取り分け()()を吸収する力を備えているようですね。他の呪いも吸収してしまう力を秘めているようです」

 

 彼女の高い信仰を介した奇跡の行使だ。

 

先ず間違いはないだろう。

 

「成程、呪いを吸収する効力を秘めているのなら、此方としても有り難いのですが――吸収した呪いは、その物体に蓄積されたままのでしょう?」

「……恐らくは……」

 

 結晶の呪いを吸収出来れば、蓄積した者を()()()()()救う事は出来る。

 

だが吸収した呪いは、黒い物体に溜まったままの状態だ。

 

灰の剣士は、呪腹の大樹の誕生について少しばかり語った。

 

呪腹の大樹も、元は巨大な神樹でロスリック住民の信仰対象となっていた。

 

そしてその樹木は、あらゆる呪いを取り込み封じてきたのだ。

 

しかしその呪いは徐々に累積され、遂には御し切れなくなり神樹は悍ましい怪物へと変貌してしまい、それが呪腹の大樹と成った。

 

つまり、吸収した呪力を処理できなければ、この物体も何れは呪いで変質する可能性が極めて高い。

 

実際どのように変異するかは定かではない。

 

だが確実に言えるのは、このままでは不完全で使い物にはならないという事だ。

 

悪戯に呪いを滞積させれば、第二第三の呪腹の大樹が誕生する危険性も存在する。

 

「――じゃあ今のままだと使えないって事?」

 

 ライザは黒い物体を見つめている。

 

「解呪…若しくは中和さえ出来れば、何とか――」

 

 蓄積した呪いさえ処理できれば使い道がある事を、灰の剣士は告げる。

 

「――呪いの種類にもよりますが、解呪方法は幾つか確立されております。この神殿を含め、街や都市部の神殿なら或いは――」

「――後は錬金術で、より完全な代物へと創り上げてしまうかです。…確証はありませんが…」

 

 街規模の神殿や寺院なら解呪に長けた聖職者が所属していると剣の乙女が告げ、処理に相応しい素材を錬金術で融合させる方法をロロナが提示した。

 

「…………」

 

 暫く無言で思案する灰の剣士。

 

「そう急ぐ必要もないでしょう。今の我々は、ダークゴブリン討伐を目的としております。この物体の処遇は、それが終わってからでも宜しいかと――」

 

 ロロナの要請で、ソウル錬成を披露した灰の剣士。

 

呪腹の大樹のソウルから、得体の知れない奇妙な物体が出来上がってしまったが、彼等の目的はあくまでダークゴブリンの討伐だ。

 

今は事を急いで、この奇妙な物体をどうこうする必要はない。

 

「貴方様の仰る通りです。――これは、此方で預からせて頂きますが宜しいですか?」

「――お手数をお掛けします大司教様」

 

 今は持ち歩く必要はない。

 

剣の乙女の言う通り、奇妙な物体は法の神殿にて厳重に管理する事となった。

 

尤も結界に強く作用する程の呪物だ。

 

慎重に扱う必要があるだろう。

 

「――では私はこれにて失礼致します」

 

 複数の神官戦士達を引き連れ、剣の乙女は奇妙な物体を携え退出した。

 

錬金棟は静寂に包まれたまま、幾許かの時が流れる。

 

「う~ん、錬金術で完璧な物を仕上げるんだったら、何を調合すればいいのかなぁ…」

 

 見た目からして悍ましい奇妙な物体。

 

余程印象に残ったのか、ライザは早速調合すべき素材について思案を張り巡らせる。

 

「それは後にしましょ。今は、他にやるべき事を優先しないと」

 

 トトリの一声で他の面々も我に返り、割り当てられた作業を再開した。

 

「灰の剣士さん、この錬成炉の処遇なんですが――」

 

 ロロナが錬成炉の扱いについて尋ねてきた。

 

ソウル錬成を行える者は、今の処、灰の剣士のみだ。

 

同じ火のない灰である、ジークバルドやロードランを駆け巡ったソラールも可能性はあるが、今彼等を呼び出す訳にもいかないだろう。

 

「今はこれまで通り、貴方達の手に委ねます」

 

 意外にも彼は錬成炉を預かる事を拒む。

 

現在彼は拠点となる物件を所有しておらず、貴重品を預かった処で管理に困窮している状態だ。

 

万が一、魔神軍率いる混沌勢や祈らぬ者達の手に渡れば、忽ち悪用される事は容易に察しが付く。

 

灰の剣士以外にも、火継ぎの時代の住人は数多く存在するのだ。

 

それは即ち、彼等もソウル錬成を行えるという可能性にも繋がる。

 

一度錬成炉を手に入れれば、ソウルを求め罪無き民が犠牲になる事は自明の理だ。

 

またロロナ率いる錬金集団は、暫くの間この国へと滞在するらしい。

 

更には助言者の存在も知る事が出来た。

 

つまり王都へと赴く理由も生じた訳で、再び彼女等と関わる可能性も浮上してきた訳だ。

 

ならば錬成炉は今まで通り彼女等の手元に委ねる方が、より安全を確保できる。

 

「分かりました。錬成炉は私たちが預からせて頂きます」

「御頼み申し上げます」

 

 灰の剣士は深く頭を垂れ、錬成炉をロロナたちへと委ねた。

 

これで、ソウル錬成の件は一段落が付いた。

 

「さて、私もそろそろ戻るとするか」

 

 冒険者側へと合流するべく、灰の剣士も錬金棟を退出しようとしたが――。

 

「――何を言ってるんです、灰の剣士さん?貴方は此処で、錬金術を学ぶ必要が生じたのですよ」

 

 彼の背から声を掛けたのは、トトゥーリア=ヘルモルト――トトリだ。

 

「――錬金術を学ぶッ!?この私がッ!?」

 

 これには彼も面食らい動揺を隠せない。

 

「アンタ意外と鈍いわね!さっきの気味悪い塊…ソウル錬成だっけ?アンタが造ったんだから、アンタが何とかしなきゃダメでしょうがっ!?それとも、他人任せにして放置するのが、アンタのやり方?」

「――ちょっとミミさんッ!?もうちょっと言い方が…」

 

 厳しくも辛辣な口調で彼に責めかかったのは、トトリの幼馴染で冒険者でもあるミミ。

 

槍を携えている事から彼女も槍使いなのだろう。

 

そんな辛口の言葉遣いに、ルルアの幼馴染であるエーファが窘めに掛かる。

 

辛辣な物言いだが、確かにミミの言う事にも一考の余地はあった。

 

先程錬成した奇妙な物体は、呪腹の大樹の特性を引き継いでいる。

 

呪いを取り込む効果を有しているが、そのままでは蓄積させるばかりで解決の先送りでしかなく、下手をすれば呪いが溢れ出し何が起こるか想像も付かないのだ。

 

「情けない話ですが、私達ではソウルという概念は理解出来ず、あの物体は正直手に余る存在です」

「悔しいけど私らじゃ無理、アンタが最後まで責務を果たさなきゃならないって事!…男でしょ、シッカリしなよっ!」

 

「……言いたい事は分かる。しかし私は剣士だ、歴とした学問である錬金術を私ごときで、修まるものなのか?」

 

 トトリやミミが追い打ちをかけるものの、灰の剣士自身は踏ん切りを付けられないでいた。

 

彼自身決して優柔不断なわけではない。

 

ただ彼にとって錬金術とは未知の存在であり、踏み込むには躊躇《ためら》うに値する領域でもあるのだ。

 

「灰の剣士殿、無知は無明と同義でもある。光届かぬ無明では、何一つ見出す事は難儀。しかし、知識を得る事は同時に光が灯る事でもあるのだ」

 

 戸惑う彼に、ステルクから言葉が投げ掛けられた。

 

何も知らずの無知では、全てに於いて進むべき道すらも見出せず目的も見えず、惑い足も竦むばかり。

 

逆に知識を得る事は、暗闇に灯りが照らされ見る事が叶う。

 

見る事さえ叶えば進むべき道標となり、歩みが始まるものだ。

 

何事も学んでみない事には、始まらない。

 

もし此処に彼――ゴブリンスレイヤーが居れば、躊躇なく学んだだろう。

(ゴブリンに関連していれば、という条件付きではあるが)

 

「――私だって教えて貰って錬金術士になったんだからさ。大丈夫、きっと何とかなるなるッ!」

「――あたしも最初は、なんて事の無い唯の農家の子。正直頭より体で覚えるタイプだしさ、アハハ…」

 

 ステルクに続きルルアやライザも励ましの言葉を贈り、背中を押そうとする。

 

「ステルク公、ルルア嬢、ライザ……」

 

 声援を受けた彼は、周囲に視線を漂わせた。

 

正直に言えば、全ての面々が彼を歓迎している訳ではない。

 

しかし、今の彼には錬金術の習得が必要である事を、誰もが理解していた。

 

「勿論私達が支えるから、先ずは基礎から学んでみましょ。その後で、貴方独自のやり方を模索すればきっと――」

 

 最後にロロナが、占めとばかりに彼を諭す。

 

「う~ん残念、あたしも教えてあげたいんだけど、他の子たちの指導を優先させないとだね…!」

 

 ピアニャも教えようとする意気込みを見せていたが、彼女には第二錬金棟の教導という役割がある。

 

――そうだ、何事も勉強…以前の私自身がそう発言していたではないか。全く何を尻込んでいたのだ…俺は!

      (イヤーワン編、第24話参照)

嘗て冒険者に成りたての頃は、貪欲にあらゆる知識を吸収しようとする姿勢を見せていた。

 

どうやら何時の間にか、何処かに腑抜け甘えた精神が宿っていたらしい。

 

「承知した!そう言う事であれば、御指導宜しくお頼み申し上げる、皆様方!」

 

 意を決した灰の剣士。

 

皆に向き合い、改めて貴人の一礼で応える。

 

(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― ロロナのアトリエ ~for ルルア)

 

「ふふ…此方こそ宜しくお願い致しますね、灰の剣士さん」

「男性の錬金術士…ですか、楽しみですね」

 

「…フン!直ぐに根を上げんじゃないわよッ!」

「さぁて、お手並み拝見といこうじゃないの!」

 

「おぉ!?灰君も錬金術デビュー!?」

「うんうん、面白そうっ!」

 

「期待しているぞ、灰の剣士殿」

「グライダーの習得に錬金術の学習、忙しいねアンタも」

 

 周囲の反応は実に十人十色――。

 

本人の思惑を余所に、彼は錬金術の指導を受ける事となる。

 

「先ずは材料の調合からぁ、こう、ビキビキィっと選んでぇ、鍋にドバドバぁ~っと入れるとこをだね~……」( ゚∀゚)

「……」( ̄ω ̄;)

「要約するとね、必要な素材を適度な量と比率を考慮しつつ――」( ゚ ω ゚ )

 

ロロナの講義が真剣に聞くも、トトリの補足説明を経由して漸く理解するに至る、灰の剣士。

 

「そしてグ~ルグ~ルと回して、時には火力でボ~っとだね~――」(* >ω<)

「……」( ;˙꒳˙;)

「詳細を述べると、かき混ぜる速度を配慮しながら、熱を加える際は適切な火加減が必要となって――」( ゚ ω ゚ )

 

――ん?此処に居る錬金術士全員、フリクセル様の御指導を受けたのだろうか?

 

講義を聞く最中(さなか)、ふとそんな疑問が浮かんだ。

 

「ねぇ、あれって実質トトリさんが教えてる様なもんだよね」

「――シッ、聞こえちゃうよ。お母さんあれでも一生懸命教えてるんだけど、こうちょっと…ね…」

 

 灰の剣士に対するロロナたちの指導をライザたちは端から見ていた。

 

――う~ん大雑把だったけど、あの人(アンベルさん)でさえ、もうちょっと分かり易く教えてくれてたからなぁ。

 

ライザも故郷で錬金術を目の当たりにし、半ば押しかけ半分に錬金術の指導を懇願したものだ。

 

彼女の師に当たる人物も、大まかではあったが理論や仕組みを説きつつ目の前で実践してくれたものだ。

 

しかし、ロロナの教えは非常に独創的で時折(かなり?)擬音交じりでの講釈も多く、それに対し灰の剣士はイルシールの冷気で凍り付いたかの如く固まっていた。

 

そんな彼にトトリが万人向けに噛み砕き伝える事で、初めて理解が追い付いていたのである。

 

実はロロナ本人も独特の教えは自覚しているらしいのだが、彼女の教えを理解出来た者は多くの弟子の中でもトトリただ一人だけだった。

 

余談だが、書物や文字で指導すれば真面に伝わるらしい。

 

こうしてロロナやトトリによる講義は続くが、知識のみを見聞きした処で実践に生かさねば意味を成さない。

 

「ではそろそろ実践にて、感覚を掴んで貰いましょうか?」

「――あ~、待ってトトリちゃん。ちょっと提案があるの」

 

 実践で錬金術を体感してもらおうとトトリが勧める中、急にロロナが彼女を制止し何やら案を提示する。

 

何か考えがあるのだろう。

 

「灰の剣士君は、ソウルの感知が出来るんだよね?」

「――恐れながら」

 

 ソウル錬成時の形式ばった物腰とは異なり、親しみを込めた口調でロロナは話し掛ける。

 

「それじゃあ、これを造って貰うから、ソウルを探ってみてくれるかなぁ?」

「え、ええ…」

 

 まるで身内をあやすかの様な振る舞いに、彼は戸惑いを見せながらも対応した。

 

「堅物の貴方も、お母さんの前では翻弄されっぱなしだね」

「こ、こらルルアちゃん!あんまり、からかっちゃ駄目だよっ」

 

 そんなやり取りを見ていたルルアがクスクスと笑いながら語り掛け、それをロロナが窘めた。

 

彼女等を余所に灰の剣士は、差し出された物体に手を翳し内包されたソウルを探り当る。

 

――見た目で、投擲用の爆弾なのは理解出来た。このソウルの流れからして、かなり強力な代物らしいな。

 

「――充分です」

 

 流れ出るソウルの波長を把握し、充分である事を伝える。

 

差し出された物体は、『フラム』と呼ばれる爆弾の一種だ。

 

投擲し、地面や対象物への着弾による衝撃で爆発する。

 

「――では、そろそろ実践に移りますけど心の準備は良いですか?」

 

 いよいよ錬金術を行使する事となり、トトリの呼び掛けに彼は無言で頷いた。

 

「本当は素材の採取と中和剤の作成から始めてほしかったんだけど、時間が限られてるからコッチで用意した物を使ってねぇ」

 

 予め用意された素材をロロナは差し出す。

 

爆弾を作成するのに必要な素材一式が揃っていた。

 

粉末状の火薬(火の秘薬)、錬金術の基礎となる中和剤、土台となる鉱石《セキネツ鉱》。

 

それら素材一式が小皿の上に並べられていた。

 

既に必要な配分も完了し、後は投入するだけの状態だ。

 

一般人向けの錬金教室でもない限り、通常では此処まで配慮してくれる錬金術士は先ず居ない。

 

本来なら素材の採取から始まり、調合工程まで自分で熟すのが通例だ。

 

実に、至れり尽くせりの恵まれた待遇を提供してくれているのだ。

 

嫉妬深い輩が居れば、恨みを買っても文句の言えない程の待遇を――。

 

「それじゃあ、釜に投入してみて」

 

 トトリの指示通り渡された素材を釜へと投入し、かき混ぜ棒で回し始める灰の剣士。

 

その様相に、剣士としての面影は無かった。

 

「えぇっと、なるべく両手でかき混ぜた方が良いかな」

「――待ってトトリちゃん、彼は()()()良いの」

 

 灰の剣士は片手で棒を手にし、釜を混ぜていた。

 

その様子にトトリが注意しようとするも、ロロナが彼女を引き留める。

 

それもその筈――。

 

彼の空いた手は、錬金釜へと手を翳し流れ出るソウルを探り当てていたからだ。

 

かき混ぜる事暫し――。

 

「ソウルが変質した――」

 

 灰の剣士が静かに告げ、釜の魔法液が変色し淡い光を帯びる。

 

「お、完成したね」

 

 幾度となく見慣れた光景に、端から見ていたライザが完成した事を宣言する。

 

しかし彼は押し黙ったまま、尚も混ぜる作業を続行していた。

 

「――ね、ねぇ、早く取り出さないと失敗しちゃうよ、分かってる?」

 

 かき混ぜ作業を止める事のない彼に、ライザは痺れを切らす。

 

「――まだだ、ソウルの波長が合致していない」

「――そう、その通り…もう少し続けてみて」

「――ロロナ先生、これって若しかして――」

 

 灰の剣士の作業を阻害しない様、ロロナは周囲に釘を刺す。

 

そして次の瞬間――。

 

「「――今ッ!」」

 

 灰の剣士とロロナが同時に叫び、釜から物体を掬い上げた。

 

ロロナは長年培った経験から――。

 

灰の剣士はソウルの波長を察し、二人同時に叫ぶ。

 

釜から取り出されたのは、紛れもない『フラム』と呼ばれる爆弾だった。

 

「おぉ、ちゃんと出来上がってる」

「ロロナ先生も彼も様子が変だったけど、失敗しなくて何よりだわ」

 

 調合失敗を懸念していたが真面な完成品が出来上がり、ライザもピアニャもホッと胸を撫で下ろす。

 

「お母さん、なんか変な調合だったけど、どうなってるの?」

 

 灰の剣士といい、歩調を合わせたロロナといい、従来の調合方法とは違う様子にルルアは彼女に問う。

 

「う~ん、トトリちゃん、説明してあげられる?」

「え?私ですか?」

 

 先程出来上がった代物(フラム)をトトリに手渡し、ロロナは説明を求めた。

 

困惑しながらもトトリは渡されたフラムに視線を送り、やがて驚きの表情へと変貌する。

 

「――あ、これ最高品質に近い…!」

 

 錬金術で完成した代物には品質という概念が存在し、同じ種類の道具でも高品質に近付く程、効果が高くなる。

 

灰の剣士が造り上げたフラムは、正に最高品質に限りなく近かった。

 

「――ね、ねぇ、一体どうやったの?初っ端からそんな高品質なんて普通出来ないよ!?」

 

 錬金術を学び、今日まで歩んできたライザ。

 

故郷の仲間に支えられてきたものの、決して道楽で錬金術士として活動して来た訳ではない。

 

これまで多くの失敗を重ね、それを糧にしながら彼女なりに成長してきたのだ。

 

況してや今、錬金術を学んだ眼前の男は初見で最高品質の道具を造り出してしまい、僅かながらも嫉妬の感情が湧き起こっていた。

 

彼女にとって灰の剣士は命を救ってくれた恩人だ。

 

そして無自覚ながらも、意識する存在でもあった。

 

しかし自分の土俵でもある錬金術で、後れを取ったという劣等感が彼女苛んでいた。

 

「先程ソウルの流れを感知し、それを基準に作成したまでなのだが――」

 

 錬金術で造り出す前に、予め完成品であるフラムのソウルを探り当てていた。

 

実はそのフラムこそが、最高品質を誇る代物だったのだ。

 

必要素材を釜に投入し掻き混ぜる――。

 

ここまでは従来の錬金術士と同じ手順だ。

 

その後、釜の魔法液が変色し、それが完成の合図だったのだが彼は敢えて無視し、更に作業を続行。

 

作業を続行する事で、最高品質のソウルと同じ波長に達した頃合いを見計らい、その段階で窯から完成品を取り出したのである。

 

そうする事で、彼が造り出したフラムは限りなく最高品質に近い代物へと変質した。

 

「私の目論見は成功だね~。ソウルの感知が出来るなら錬金術に有利だと思ったんだぁ」

 

 実際はロロナの発案なのだが彼女はソウルの感知が出来ず、それが可能な彼に任せてみようと画策していた。

 

結果、ロロナの案は功を成し彼を通じて実証された形となった。

 

「ロロナ君…その…何と言うか、中々に策士だね…」( ̄ω ̄;)

「――でしょ、ステルクさん。えっへん!」( *`ω´) ドヤァ

 

 ロロナとステルクは古い付き合いだ。

 

彼女の策謀振り(ドヤ顔)に、たじろぐステルク。

 

少々のんびりと間延びした性格の彼女だが、こう見えて知性は高く計算した上で動く事もあるのだ。

 

伊達に長年、錬金術士として活躍して来た訳ではない。

 

「でもさ、ソウルの感知が出来る人が錬金術やるとさ、私たちの存在って一体…事にならない……?」

 

 幾許かの沈んだ表情で、メルルは不安を口にする。

 

自分達とて苦難の道を突き進んできたのだ。

 

いや、彼女だけではない。

 

此処に居る全員が、それに当て嵌まる。

 

自分達は最早、不要の存在ではないのか。

 

言いようのない懸念が頭を(もた)げていたのであった。

 

しかしそれに異を唱えたのはトトリである。

 

「そう言うのは、違うと思うわよ。少し厳しい言い方をする様だけど、彼は錬金術士としては、まだ半人前ですらないの」

 

――確かにそうであろうな。今やったのは、調合作業に従事したというだけだ。

 

彼女の発言に、灰の剣士自身も内心同意している。

 

予め配分も整えられた素材が用意され、彼はそれを使って調合だけを熟したに過ぎないのだ。

 

自身で必要素材を調べ上げ採取し、配分を調整して釜へと投入し、初めて調合作業に移行するのが本来の筋というもの。

 

「それに彼は、ソウルの感知と錬金術を組み合わせるという独特の手法を編み出した訳だから、貴方達とは土俵が違うんだよね~。だから、比較する事に意味がないから、みんなはみんなの得意分野があると思うんだぁ、私は――」

 

 そこへロロナも会話に加わる。

 

確かに灰の剣士は、ソウルの感知と調合を組み合わせるといった独特の手法で道具を造り出した。

 

これは、言わば彼独自の錬金術といえるだろう。

 

つまりは()()なのだ。

 

「彼女達の意見には私も賛同いたします。言うなれば剣術と同じ――、オーレル卿にステルク公を含め、戦士職の貴方達なら理解出来ましょう」

 

 ロロナやトトリの言に灰の剣士も賛同の意を伝え、錬金術を剣術に準え戦士職の面々に向けた。

 

単純に剣術といっても、細分化すればそれこそ数多くの流派が存在し、幾多の剣が存在するものだ。

 

片手剣に始まり両手剣、大剣、特大剣に突剣、細剣、双剣、両剣と枚挙に事欠かない。

 

それは錬金術も然りである。

 

偏に錬金術といっても、術士によって調合法や素材の分別に発想の転換、人の数だけ錬金術が存在する。

 

当然個人の才覚の違いや向き不向きも有るのが、寧ろ自然の摂理と言えるだろう。

 

「――言われてみりゃあ、その通りだな」

「成程、剣術に例えれば我々でも理解出来る」

 

 これには戦士職の面々も腑に落ちたのか、頷き理解してくれた様だ。

 

「う~ん成る程ねぇ、あたし達にはあたし達独自の錬金術がある訳かぁ、ふむふむ――これは目から鱗だわ」

 

 ロロナたちの意見にピアニャも深く頷き、感心した様を見せる。

 

「――つかぬ事を窺いますが、ヘルモルト指導員」

「――へ、ヘルモルト指導員ッ!?そ、そこまで畏まらなくて良いですよ、普通にトトリって呼んで頂ければ…」( ̄□ ̄;)!!

 

 余りに格式ばった敬称を付けられ、トトリは慌てて普通に呼ぶ事を要求する。

 

「……分かりましたトトリさん、このフラムという爆弾、衝撃で爆発する代物なのですか?」

 

「…ええ。地面に着弾すれば爆発する仕組みですから、乱暴に扱わなければ誰でも使用できますよ」

 

「では、お願いが御座います。暫くの間、このフラムを集中的に作成させて頂けませんか?」

 

「え?どうしてですか?」

 

 爆弾の起爆方法を聞き、灰の剣士はフラムを集中的に作成したいとトトリに願い出た。

 

様々な調合を体験させる事で、広い視野を以て錬金術を体験してもらおうとトトリは考えていた。

 

しかし彼自身は一つの物を集中的に調合する事で、感覚を掴もうという思惑があった。

 

だが真の理由は他にある。

 

「…実はこのフラムという爆弾を素材とし、新たに爆裂矢の弾頭としたいのです」

 

 フラムの増産を画策していた灰の剣士。

 

本当の狙いは、爆裂矢の作成にあった。

 

鏃に火薬を詰めただけでは命中時に爆発させる事が不可能で、特殊な信管が必須となる。

 

しかし専門知識と技術を要す瞬発信管の作成は、彼には作成できなかった。

 

以前ロスリックの小鬼禍で作成した爆裂矢は、ヴィンハイムのオーベックが開発した破裂石弾を利用する事で作成が叶った。

 

ところが今回は、破裂石弾の入手は叶わず爆裂矢の作成を断念していたのだが、今こうして思わぬ形で代用品が見付かった次第だ。

 

灰の剣士はフラムに着目し、これを爆裂矢の弾頭に見立てていたのである。

 

「矢に爆弾を仕込むって、偶に聞くけど意外と物騒な発想をするね、灰君」

 

 ライザ自身も、時折島に訪れる来客から冒険者の話を聞いた事があった。

 

そんな話の中で、矢に爆弾を仕込んだ冒険者の物語りを耳にした経緯があり印象に残っていた。

 

「今回の戦は間違い無く集団戦になるが、火力に優れた大砲とはいえ連射が利かない上に汎用性は低い筈だ」

 

 此度の戦に備え、軍から旧式とはいえ大砲などの野戦兵器を此方で用意する事が出来た。

 

しかし大砲を運用するには、専門知識を備えた数人が最低でも必要となる。

 

砲身の煤を除去し、砲弾を詰め装薬を装填させ、着弾点を計算し狙いを定め、それ等の手順をクリアして初めて射撃が可能となる。

 

だが、その初弾が命中するとは限らない。

 

小鬼とは言え相手も生物――。

 

絶えず動き回り、その動きを予測した上で着弾点を計算しなけらばならないのだ。

 

更に一発撃てば、再び砲身の掃除から装弾までの手順を繰り返す羽目になり、再度の射撃にも多くの労力と時間を割かねばならない。

 

大砲の台座には車輪が設けられているが、本体重量は非常に嵩み移動させるだけでも一苦労だ。

 

「ふむ、爆裂矢なら個人での携行も可能となるか」

「大砲に比べ威力は劣るものの、小型で嵩張る事も無い」

「移動と、ある程度の火力を備える方が、この場合大砲よりも有効だな」

「足りない火力を複数人で運用すれば、お互いの穴を埋める事もできる。…アンタ、相当実戦慣れしてるな」

 

「――勝つ為に、生きる為に、利用できる者は何でも利用させて貰う。それも冒険者としての在り方だと私は思う」

 

(推奨BGM ルルアのアトリエ ―― わたしたちの未来 ~Good End)

 

 爆裂矢の発想に男性陣は賛同の意を示し、逆に女性人達は些かに浮かない表情を浮かべている。

 

人々の役に立てる為にと、これまで錬金術を行使してきたのが今の彼女達だ。

 

そんな錬金術にある種の誇りを抱いていたのだが、それが小鬼相手とはいえ戦争に、延いては殺戮に使われようとしているのだ。

 

現実を察する事は出来ても、感情までを納得させるのは少々厳しいものがあった。

 

「止めても貴方は勝手に造っちゃそうですしね、仕方がありません。ロロナ先生、宜しいでしょうか?」

 

 何処となく残念そうな、加えて哀しげな表情を浮かべ、ロロナは無言で許可を出す。

 

「――感謝します、錬金術師長様。それでは早速増産に取り掛かります」

 

 そう言うや否や、灰の剣士は先程教わった通りに、素材の擦り潰しや切り分けの加工作業を始め、独自のやり方でフラムの増産へと着手した。

 

全ては爆裂矢の作成――ゴブリンを殺す為に。

 

――貴方の錬金術、願わくば困窮する人々の為に使われん事を。

 

そんな彼の様子を、哀しげな眼でロロナは見つめていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

(推奨BGM ゴブリンスレイヤー ―― 心の渇きを)

 

 水の都外れで、人を乗せた軍馬が闊歩している。

 

「――列を乱さず我に続けぇ!」

 

 先頭を陣取る騎士が檄を飛ばし、後続が拙い馬術で追従していた。

 

先頭の馬には、甲冑に太陽を彩った騎士『アストラのソラール』が搭乗している。

 

太陽を信奉する奇人変人と謳われてきたが、彼も歴としたアストラ貴族で騎士階級の軍人なのだ。

 

今は冒険者という身分ではあるが、騎士である以上、乗馬の訓練も当然の如く修めており、見事なまでの馬術で後続を指導していた。

 

此度の作戦で彼は騎兵を担当し、騎馬隊を指揮する立場にある。

 

たった一日という限られた時間ではあるが、冒険者達に少しでも馬術を慣れさせ質を向上させる必要がある。

 

集合したのは未熟な駆け出し冒険者が半数を占めていたが、幸いにも乗馬への適性を示す者達が予想以上に多かった。

 

中には適性の低い冒険者も居たが、乗馬だけを覚えさせ戦闘の際は下馬して戦う『乗馬歩兵』として扱えばよい。

 

馬を使った移動は、徒歩に比べ遥かに行動範囲の拡大が期待できるのだ。

 

「そこの貴公、もう少し右へ寄り給え。乱れが全体に響くぞ」

 

 列の最後尾はカタリナのジークバルドが担い、統率の乱れを修正していた。

 

馬による機動力と突破力を生かし、戦場を縦横無尽に駆け巡る。

 

重火器が誕生し砲を備えた戦車が登場するまで、騎馬兵は戦場の花形ともいえた。

 

騎兵として成り立つのは、ほんの数十騎が関の山だが、機動力に富んだ騎兵は戦闘のみならず伝令や偵察といった役割を担う事が出来る。

 

相手が小鬼軍とは言え、騎兵の力は有用に働くだろう。

 

「――全騎に通達!もう一周した後、暫しの小休止を挟む!総員増速ッ!!」

 

『『『『『――了解ッ!』』』』』

 

 ソラールの号令に、後続の集団は勢い良く応える。

 

騎馬部隊は速度を上げ、蹄から土煙が舞い上がった。

 

 

 

馬車の荷台から、弓矢の射撃を試みる冒険者達も居た。

 

充分に引き絞られ、弦より解き放たれる鋭き矢――。

 

飛翔する矢は、軌跡を描き寸分違わず的を貫いた。

 

「――よぅし、命中命中!」

 

 通常の森人に比べ長い耳を生やした女は、一般に上森人(ハイエルフ)と称される種族だ。

 

白磁等級という駆け出しの認識起票ではあったが、弓の腕前は集団の中でも最上位と言って差し支えないだろう。

 

「――す、凄い…!この状況で、正確に射貫くなんて……!」

 

 傍らに居た半森人の少女野伏は、上森人――妖精弓手の腕前に舌を巻いている。

 

「ふふん、どう?」

 

 金床の如き胸元を張り、長い耳をピクピクと揺らす。

 

聞けば彼女――2000年を生きているというのだが、幼子の如く誇らし気な姿からは貫禄は感じられない。

 

しかしながら、揺れる荷馬車の上からの射撃は余程の練度を必要とし、この妖精弓手は易々とそれをやってのけるのだ。

 

既に彼女の射撃技術は、少女野伏を大きく上回っている。

 

当然弓使いは彼女たち以外にも多数が参戦しているが、良くて命中させるのがやっとという有様だ。

 

同期戦士から”弓騎兵として参戦してはどうか?”と勧められたが、彼女はそれを拒否。

 

森人とは乗馬を敬遠する種族なのか、若しくは彼女だけがそうなのかは定かではない。

 

実際、少女野伏も乗馬を敬遠し、弓歩兵として参戦する積りでいた。

 

辛うじて移動手段として荷馬車の上で陣取るという選択肢を取って、現在の訓練に参加しているという状況だ。

 

妖精弓手ほどの腕を持つ冒険者は、そう居るものでもない。

 

少女野伏は以前ロスリック不死街で入手した『鷹の指輪』を妖精弓手に託そうとした事がある。

 

だが妖精弓手は、己の技術に絶対の自信と誇りを持っているらしく、指輪の譲渡を拒否していた。

 

「何なら私に、弟子入りする?鍛えてあげるわよ?」

「だ、大丈夫…、私なりのやり方で修練するから…アハハ…」

(この人ちょっと強引…)

 

 作り笑いを浮かべ、少女野伏は遠回しに遠慮願った。

 

この妖精弓手に師事すれば、確かに弓の腕前は向上するだろう。

 

しかし少女野伏は、若干引っ込み思案な処があり気弱な部分を有している。

 

勝気な妖精弓手に、どうしても気後れしてしまうのである。

 

「――ま、暇があれば私と組んでみなさいな、()()って奴を教えてあげるわよ」

 

 少女野伏の態度を特に気にする風でもなく、妖精弓手は次の射撃準備に移った。

 

「お~い的が見えてきたぞ、準備は良いかぁ!?」

 

「――オッケ~オッケ~、幾らでも来なさい!」

「――私も大丈夫、次は当ててやるんだから!」

 

 同期戦士が次の的の地点に近付いた事を伝え、妖精弓手と少女野伏は意気込み、射撃訓練は続けられた。

 

同期戦士の荷馬車の周囲には、他の荷馬車が同様の射撃訓練に明け暮れていた。

 

 

 

「総員、構えぇいッ!」

 

 冒険者戦士の号令に倣う、多数の冒険者――。

 

全員が、支給品の大盾と槍を装備していた。

 

その中には、重戦士や槍使い、ゴブリンスレイヤーまでもが参加している。

 

隊長職でもある冒険者戦士に従い、大盾と槍を構え隊列を組むという訓練だ。

 

左手に大盾、右手に槍を構えるという陣形――。

 

自分の左半身と左に位置する仲間の右半身を、大盾で守る――。

 

その横列を何重にも構成し、密集陣形で小鬼集団を迎え撃つという訓練内容だ。

 

所謂、『ファランクス陣形』と呼ばれる戦術を意識した訓練を、彼等は受けていたのである。

 

「しっかしよぉ俺、盾なんて使った事ねぇんだよなぁ」

「無駄口叩くなよ、また隊長にどやされたいのか?」

 

 愚痴を零す槍使いを窘める重戦士――。

 

「だけどな、俺達ゃ自由が売りの冒険者だぜ?」

「気持ちは分かるがよ…」

 

 冒険者とは基本的に少人数で一党を組み、依頼を解決していくのが主流だ。

 

今行っている訓練は、実質軍隊を意識した内容で、その気風は冒険者である彼等に合うものではないのも致し方がないだろう。

 

だが各々が身勝手な行動を執っていたのでは、そこを付け込まれ各個撃破されるのは目に見えている。

 

以前の金鉱山で少数とはいえ、ダークゴブリン軍の統率力を垣間見た彼等だ。

 

「どうせ集団組むならよ、俺等(ロスリック生き残り組)で組んだ方がよっぽど良くねぇか?」

「まぁ否定はしねぇさ、灰の奴も含めてな」

 

 ロスリック生き残り組で部隊を結成する旨を槍使いは提案し、その事に関しては重戦士も一定の理解を示す。

 

「万が一戦線が崩壊し乱戦となった時、()()()叶うだろう」

 

 傍らに居たゴブリンスレイヤーが、珍しく意見を挟む。

 

「――お?何だ居たのかよ。お前の奇襲作戦、しくじって負担掛けさせんなよ!」

 

 直ぐ傍に居たにも拘らず、槍使いは皮肉交じりに彼へと言葉を返す。

 

本来彼はグライダーにて敵陣深くに肉薄し、スクロールを使用するという奇襲を託されている。

 

しかし作戦が成功した後、彼はこの部隊へ合流する事を画策し、今の訓練に参加していた。

 

「お前こそ忍耐切らして、隊列を乱すなよ」

「――けっ、口が減らねぇ野郎だ」

 

 ゴブリンスレイヤーも負けじと皮肉で返し、槍使いも悪態を付く。

 

「――おい、もう直ぐ号令が掛かるぞ!」

 

 そんな二人に重戦士の叱咤が飛び、間髪入れずに隊長からの号令が掛かる。

 

『――第3列、前へと展開っ!』

 

 その号令と同時に前列が散開し、彼等が所属している第3列が前へと躍り出た。

 

幾度となく繰り返した訓練内容を反復し、彼等は最前列へと展開した。

 

『――よし、第3列散開!第4列前へ――』

 

 隊長から次なる号令が掛かり、またもや列が入れ替わる。

 

こうして彼等の訓練は続いた。

 

 

 

彼女は兜の奥で息を乱し、手槍の構えを解く。

 

『これより休息とする。各自は息を整えよ!』

 

 指導役の冒険者から声が掛かり、周囲の冒険者達は”やっとか”と言わんばかりに姿勢を崩した。

 

訓練も大詰めを迎え、この休息が終われば後は微調整で最後となるだろう。

 

「フゥ…ハァ…ハァ…流石に暑いわね……」

 

 全身鎧兜に手槍を携えた冒険者、ゴブリンスイーパーは防具内に籠もった熱の中で独り()ちる。

 

日は若干傾きつつあるが、今日に限ってかなり暑い。

 

近い内に夏が到来するのだろう。

 

息を乱しながら彼女は、休憩場である小川へと重い足取りで向かった。

 

周囲の冒険者達も同様に、疲労困憊(こんぱい)といった様子で同じ場所を目指している。

 

「喉乾いたぁ…」

「ミ、ミズ…」

「顔洗いたいわ…」

「ヤダ、汗ベトベトぉ…」

 

――ホント、同感だわ…。――にしても、あの娘たち何処行ったのかしら?

 

訓練に参加していた冒険者達もよろけながら水を求めており、そんな彼等を余所にスイーパーは自分の仲間達を探す。

 

「柄の悪いゴロツキ連中は、遠くに居る筈だから絡まれてはいないと思うんだけど……」

 

 スイーパーの仲間達は全員が女で容姿にも優れている。

 

防具で素顔は殆ど隠れた状態だが、今日は特に暑く頭防具を外しても可笑しくはない状態だ。

 

スイーパーの一党全員は、過去に小鬼に敗北し凌辱を受けた経験がある。

 

しかし彼女等を知らない連中や歯牙にも掛けないチンピラ紛いの冒険者も、多数所属しているのだ。

 

そう言った連中は別の場所で屈強な指導役の冒険者が仕切っていたが、そんな連中が真面目に訓練に従事しているとは考え難い。

 

現に訓練途中で、場違いな連中が此方を凝視していたのを何度か見掛けたのだ。

 

恐らく訓練を抜け出し、サボった輩なのだろう。

 

彼女等が口説かれるだけならまだ良いが、最悪連れ去られ輪姦されるという事態も否定できない。

 

――大丈夫かしら…?

 

仲間の身を案じている間に休憩場へと到着してしまった。

 

「貴公、かなり参っているではないか」

 

 そんな彼女に声が掛かる。

 

何処となく覚えのある声だ。

 

思案中声を掛けられた事により、彼女は慌てて声の方へと振り向いた。

 

「……貴方は以前――」

 

 声の方へと振り向いた先には、見覚えのある一人の騎士が映っていた。

 

騎士の鎧とバケツの様な兜、サーコートには太陽が描かれていた騎士で青玉等級の認識票を身に付けている。

 

「アストラのソラール。その節は世話になったな、お陰で良い宿を確保出来たぞ。ウワッハッハッハ」

 

 眼前に居たのは、太陽の騎士と呼ばれているソラールだった。

 

過去に西方辺境へと立ち寄り、僅かではあるが面識があった。

 

――といっても、記憶している方が不思議な位に短い接触ではあったのだが。

 

「ささ、兜を外し冷水で息を整えよ。そのままでは倒れてしまうぞ!」

「…お気遣い有り難いのだけれど、仲間が見当たらないの」

 

 ソラールの気遣いは嬉しかったが、どうしても仲間の安否が気になり、それ処ではなくなっていた。

 

「それなら心配は要らぬ。あの娘たちなら――ホレ」

 

 そこへカタリナのジークバルドも姿を現し、後方を指差す。

 

傍らには、大柄な女戦士を伴っていた。

 

ジークバルドの指す方角には、スイーパーの仲間達が他の女性冒険者達と談笑に耽っている。

 

赤毛の少女斥候と戦女神に仕える女司祭も、会話に加わっていた。

 

――なんだ良かった。

 

彼女等の無事な姿を確認し、スイーパーは安堵の溜息を吐く。

 

「てっきり心無い連中に絡まれたんじゃないかと心配していました……」

「いや。絡まれてたさね!真面に訓練に参加しない口先だけの連中が、あの娘らにね」

 

 大柄な女の冒険者、女部族が語るには彼女等は案の定、ガラの悪い複数人に絡まれ連れ去られそうになっていたと言うのだ。

 

その現場に女部族とジークバルドが駆け付け、事無きを得たのだと彼女は語る。

 

「そうだったんですか。有難う、何とお礼を言ったら良いか」

「アッハッハハ、硬い事は言いっこ無しさね!アタシらは冒険者、困った時はお互い様って奴さ!」

 

 礼を述べるスイーパーに、女部族は豪快に笑う。

 

豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格なのが彼女の持ち味だ。

 

口先だけのチンピラ紛いの冒険者の所業は、彼女にとって許し難い行為だったのだろう。

 

実際ゴロツキの一人に豪快な右ストレートを叩き込み一発で気絶させ、連中は恐れをなして退散したのだと言う。

 

「女人よ、貴公も適度に休養を取ると良い。あそこに、果実も冷やしてある。水分のみならず、糖分塩分も摂取するが良かろう」

 

 ジークバルドの示す方角には、小川の水で冷やされた果実が有った。

 

「そう言う事なら遠慮なく――」

 

 ここで漸くスイーパーも汗の臭いが充満した兜を外し、可憐な素顔を晒す。

 

大量の汗が頬にベッタリと張り付き、蒸れた頭髪は乱れに乱れていたものの、彼女は見た目麗しい容姿を誇っていた。

 

「…アンタ、ゴブリンスイーパーなんて呼ばれているけど、()()()()みたいに切り詰める事までは、真似しなさんな」

 

 冷水で顔を洗う彼女に、女部族からの声が掛かる。

 

屈強な見た目とは裏腹に、繊細な心遣いが垣間見える。

 

「そこまで酷くはない積りなんだけどね……」

 

 そう応えながら、手で冷水を掬い一口喉を潤す。

 

彼女の視線には、自主訓練に明け暮れる鎧戦士の冒険者――ゴブリンスレイヤーが映っていた。

 

――世話の焼ける人。

 

冷えた果実を手に、彼女はゴブリンスレイヤーの方へと歩み寄った。

 

未だ大盾と槍を携え訓練を続ける彼に、その果実を差し出す。

 

「……」

 

 眼前へと差し出された果実を前に彼も動きを止め、スイーパーの方へと向いた。

 

「多くを語る気はないわ。ちゃんと休んで、本場に備えて。皆の命が掛かっているの」

 

 半ば強引に、彼に果実を持たせスイーパーは立ち去った。

 

彼自身が発案した奇襲作戦――。

 

訓練も重要だが、明日に消耗を引き摺り祟るようでは困るのだ。

 

作戦の成否が戦況に直接響く程に、彼は重要な役割を担っている。

 

下手な消耗で作戦失敗を招けば、多くの犠牲者が出てしまう。

 

ゴロツキの様な冒険者も多いが、それ以上に正義感や人助けの慈愛精神に溢れた好感の持てる新人達も参加しているのである。

 

出来る事なら、そんな彼等の死に顔など見たくはないのが彼女の本心だった。

 

果実を受け取った彼も訓練を中断し、その場へと座り込む。

 

そして徐に兜を外し、冷えた果実を無造作に嚙り付いた。

 

前歯が果肉に食い込み、ジュワッと果汁が口内に広がった。

 

その果汁は甘味と酸味を両方備え、栄養価も高い果実だ。

 

果皮は赤色で、主に熱帯地方で栽培されている。

 

果肉は乳白色で弾力もあり水分も多く含んでいる為、ある程度の腹も満たしてくれる。

 

「ライチーか、悪くない」

 

 彼は果実の名を口にし、租借を続けた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

呪腹の大樹のソウル。

 

力を帯びた、異形のソウルのひとつ。

使用することで大量のソウルを得るほか、錬成によりその力を取り出すこともできる。

 

古くより不死街には、あらゆる呪いが流れ着きもっとも酷いものは神樹に封じられた。

そして徐々に、その樹は変わっていったという。

 

 

 

 

 

呪腹の塊。

 

新たな錬成炉により作られた、奇妙な石に似た物体。

解呪石に近い効力を有し、様々な呪いを取り込む力を秘める。

しかし、元は神樹であったものが呪いを取り込んだ結果、呪腹の大樹へと変貌した。

 

   ―― どうせこれもそうなる ――

 

 

 

 

 

 




 う~ん長いです。
自分で書いておきながら……。( ̄ω ̄;)
私も色々検証しながら試行錯誤しつつ書いておりますので、予定外の事が次々と発生します。
こんだけ冒険者が集まれば、交流だけで長くのは当然ですね。
自重、自重……。
次回辺りで漸く、ダークゴブリン戦に移行できると思います。

如何だったでしょうか。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

デハマタ。( ゚∀゚)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。