ゴブリンスレイヤー ―灰の剣士―   作:カズヨシ0509

99 / 197
 どーもです。
投稿ペース、かなり遅くなっておりますが何とか出来上がりました。
それにしても軍団戦を書くのは難しい…。( ̄ω ̄;)
大勢入り乱れる戦闘を書いてみたいのですが、中々思うようにいかないです。
かなりグダグダな内容とは思いますが、軽い気持ちでお付き合い下さいませ。
では投稿致します。


第79話―ダークゴブリン軍VS剣の乙女軍2・進撃の小鬼殺し―

 

 

 

 

 

 

カタパルト(投石機)

 

木材や獣毛や腱・植物製の綱などの弾力と、てこの原理を利用して、石などを飛ばすものである。

また中には大きな弓を取り付けて威力をあげる改良を施した物や金属製のばね式の物もあった。

主に工兵や軍属によって運用されるが、外から戦場に持ち込まれることは稀で、その場で作られる事が多かった。

広義な意味では弩やバリスタの中でも石を投射できる程の構造の物も投石機ないしカタパルトに含む事がある。

 

ダークゴブリン軍による数々の略奪行為。

奪った物資には、資材や加工道具、書物といった一風変わった物が多かった。

全ては、未来に向けられていたのである。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM 進撃の巨人 ―― Attack on Titan )

 

 戦く程の巨躯だった。

 

彼等は戦意を忘れ、半開きの口部から唾液を垂らし()()を見上げるばかり。

一歩、また一歩。踏みしめる度に、僅かに揺れる大地が彼等の四肢を揺るがせた。

 

土と雑草を抉る脚に絡み付く、大地の残滓。

呆ける彼等に迫り来る、人型の巨人。

()()には、見覚えがあった。

 

非常に狡猾で策を張り巡らし、築きに築き上げてきた故郷を無残に踏みにじる、憎々しい存在。

悪意と憎悪を持ちて、同胞を無残に惨殺し殺し尽くす忌々しい只人。

その殺戮は積もりに重なり、恨みと辛みの周回(ループ)を繰り返す。何時しか同族の間で、()()は広く伝達された宿敵にして冒険者。

 

   ―― 小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー) ――

 

魔術を封じたマジックアイテム――スクロールの力で、巨人と化したゴブリンスレイヤー。

全長17メートルを超える巨体は見る者を圧倒し、標的である小鬼すらも粒の如し。

言葉も思考も放棄する彼等の(さま)は、余りに滑稽で憐憫そのものと言えた。

 

――隙だらけだな、容赦はせん!

 

当然、()()を見逃す程ヤワな彼ではない。

 

軸足に力を込め体重が地面へと深く抉り込む。腰を低く溜め一気に加速へと転じ、慄く小鬼の集団へと突撃を敢行した。

 

先ずは小鬼が操る野戦兵器群――。

だが野戦兵器の護衛を務める小鬼の集団が待ち構えていた。

とは言え、護衛部隊は巨人化した(ゴブリンスレイヤー)に恐れをなし、唯々見上げるのみ。

そんな集団など、最早()()()も同然。何の役割が果たせようか。呆ける護衛集団が我に返ったのは、()が目前に迫った時であった。

 

巨人化した彼は、背中のブロードソードを抜き足元の草刈り(護衛集団を狩る)を始めた。

巨大化したのは何も彼だけではなく、彼の身に付けている装備類も魔術の対象に含まれている。それは彼の振るう武器も無論の如く巨大な剣と化し、一度薙ぎ払われた刃は宛ら巨大な鉄塊だ。

巨大化した剣の質量と重量に対するは、人間の子供ほどの体躯しかない唯の小鬼。しかも肩当を与えられていない囚人小鬼の部隊だ。

多少装備が優遇されている事以外、通常の小鬼と何ら大差なく、その程度の集団に巨人化した彼に成す術など何処に存在しようか。

殆ど無抵抗のまま、彼の振るう巨大な剣に吹き飛ばされた。

彼は剣の腹で足元の小鬼を薙ぎ払っていた。刃で態々斬る必要もなく、ぶつけるだけで小鬼は見事に宙を舞い吹き飛んでくれる。一太刀薙ぎ払う度に、十数匹の小鬼が纏めて空高く舞い上がり地面へと落下して行くのだ。巨大な質量を伴った剣と落下の衝撃に耐えられる小鬼など無きに等しく、巻き上げられた小鬼は皆例外なく絶命してゆく。

 

「groov!」

「gov!」

「geev!」

 

 絶叫と断末魔を上げ、小鬼集団は敢え無く彼に蹂躙された。

巨大な剣の腹で死に、地面への落下で死に、運よく逃れた小鬼は巻き上げられた土砂や岩石の破片で潰された。

彼が剣を何度も振るいながら地面を抉り、逃げ惑う小鬼を踏み潰し、それでも撃ち漏らした小鬼を逃す事なく蹴り上げた土砂で粉砕した。

そう時間を置く事なく前衛の小鬼集団を殲滅し、彼は間髪入れずに次の標的へと睨み付ける。

 

――野戦兵器群、攻撃目標だったな。

 

野戦兵器とダークゴブリン軍の繚乱が彼の役割だ。

本心で言えば、この巨人化した状態で全ての小鬼を殲滅したい処ではある。

しかし今回は軍団戦で、何も彼一人で戦っているのではない。後方には何百人と味方が控えており、彼等の道を切り開く為にも作戦の本質を見失う訳にはいかないのだ。

 

――潰すッ!

 

兜の奥で赤い眼を宿らせ、野戦兵器群へと疾走する。

巨人化した彼と装部品の重量は凄まじく、彼が踏み出す度に地響きが戦場を支配した。

 

「gueav!」

(巨人…いや、宿敵だっ!)

「goov!」

(ゴブリンスレイヤーだッ!)

「grubo!」

(殺せッ、殺せッ!)

「geev!」

(バリスタ)砲部隊は、太矢(ボルト)を装填せよッ!)

 

(推奨BGM 進撃の巨人 ―― Ashes on The Fire )

 

たとえ巨大化したとはいえ、眼前の冒険者は憎き宿敵――ゴブリンスレイヤー。訓練と教育の行き届いた部隊なだけあり、野戦兵器群の小鬼は、恐れる事なく彼へと狙いを定める。

しかし、巨人化した彼の歩幅は桁違いで、瞬く間に野戦兵器群へと肉薄した。その速度は実に時速150キロにも達し、全長17メートル級巨人が高速で迫って来る様は、正に恐怖そのものであろう。

野戦兵器群が攻勢に出る前に、次々と破壊されてゆく。剣で薙ぎ払われ、盾をぶつけられ、足で踏み潰され、小鬼達の努力の結晶が見るも無残に崩壊していくのだ。

粉砕された野戦兵器ごと小鬼達は巻き添えとなり、その生涯を終える。

実にあっさりと。

巨人と化した彼の猛攻に阿鼻叫喚となる小鬼達ではあったが、そこへ翼竜部隊が追い付き彼へと纏わり付いた。

 

――チッ!邪魔な奴らめッ…!

 

彼の視界に張り付いては離脱し、頃合いを見計らい再び視界へと纏わり付く。そんな行動を繰り返し、意識を自分達へと向けさせる。

こうも邪魔が入っては攻撃の意識を挫かれ、集中力が散漫となるのは致し方がないと言えよう。視界に映る翼竜を振り払おうと、彼は剣や盾を無造作に振るう。

だが翼竜を駆る小鬼達は取り分け実力に秀でた個体種で、縦横無尽に宙を舞い彼の牽制などいとも容易く潜り抜けた。

 

「――GYEVO!」

(今だ!全方位から火炎を浴びせよッ!)

 

そしてダークゴブリンの翼竜までもが参加し、全方位からの火炎ブレス攻撃を命じた。

彼の周囲を旋回しつつも三次元的な動きで翻弄し、隙を突いた火炎ブレスが浴びせられる。

 

――ッ!?

 

幾ら巨人化したとはいえ、計15体からなる翼竜の火炎ブレス攻撃の前には、流石の彼も堪らず退避行動を取らざるを得なかった。

ローリングを連続で繰り返しながら一旦その場から退避を試みる。当然巨体から繰り出されるローリングは、周囲の逃げ惑う小鬼達を巻き込み知らず知らずの内に絶命させていた。

多少の身を焦がしながらも、現状把握に努めるゴブリンスレイヤー。

 

「野戦兵器…残り半分か」

 

 先程の強襲で半数の野戦兵器を粉砕したが、充分な戦果とは言い難い。更なる打撃を与え、それ等を沈黙させる必要がある。投石機や弩砲の攻撃力は人間個人の力を遥かに凌駕し、真面に直撃すれば陣形など容易く崩壊させてしまう程の脅威度を誇るのだ。最優先で沈黙させ機能停止に追い込まねば、後々味方に対し多大な被害を与えるであろう。

 

――巨人化に伴い、俺の装備品も恩恵を受けている。…使()()なら今か。

 

再び野戦兵器群へと狙いを定めた彼は再度起き上がり、腰に吊るしてある黒火炎壺へと手を伸ばす。

そんな彼へと翼竜部隊が更なる追撃を掛んと迫り来るが、脇目も振らずに黒火炎壺を投擲した。

術の恩恵を受け巨大な爆弾へと変貌した黒火炎壺は、緩やかな曲射を描きながら野戦兵器の陣地へと吸い込まれる。

地面へと着弾した黒火炎壺は、可燃材へと引火し破片を撒き散らせながら巨大な爆発を引き起こし四散した。

大砲部隊の砲弾とは比較にならない程の大爆発が野戦兵器群へと襲い掛かり、彼等は見事に巻き込まれ命を終えてゆく。

爆心地は無論、その周囲は爆風と熱波そして飛散した破片により、野戦兵器は原形を留めないほどに粉砕され破壊された。

巨大化した黒火炎壺――。最早その破壊力は、投擲武器というより戦術兵器に分類される程だ。それだけの威力と彼の投擲技術を駆使すれば、個人で戦域を支配する事も過言ではないというのは筆者の極論だろうか。だが非常に残念な事に、彼が所持していたのは先程の一発のみだという点だ。

巨大な黒火炎壺で野戦兵器群へと大打撃を与えたものの、完全制圧した訳ではなく未だ野戦兵器は多く機能していた。

彼は追撃を掛けるべく、進撃を再開する。

対する翼竜部隊が彼へと追い縋り、再び火炎ブレスの洗礼が覆い被さった。

その間、残り少ない弩砲部隊の装填が完了し、火炎ブレスに晒される彼へと狙いを定め射撃準備を終えていた。

 

「――greavo!」

(――てぇッ!)

 

小鬼の号令を合図に、複数の弩砲から太矢が発射――。槍の如き大型の太矢がゴブリンスレイヤーへと襲い掛かる。

どうにか反応した彼は太矢を回避するが、一本だけは躱し切れず肩部に突き刺さる。

 

――流石は野戦兵器、俺の防具など簡単に貫くか。

 

小鬼が作成した物とは言え、大型で機械式の兵器だ。その威力は簡素な石壁など容易に貫通する。幾ら巨大化し魔力による強化の恩恵を受けたとて、防具の質そのものが変質する訳ではない。況してや元が革製の防具では、弩砲からの射撃を押しとどめるには少々役不足と言えよう。

肩部の肉を抉る太矢を無理矢理引き抜くも、更に弩砲からの射撃が彼を容赦なく襲った。

急所ではない肩部に運よく命中したとて、たった一本の太矢でこの威力だ。

無論、追撃を食らうなど以ての外。彼は瞬時に反応し、サイドステップで追撃を躱しながら残りの弩砲へと肉薄――。地響きを立て高速で接近しながら、残りの弩砲部隊を纏めて蹴り上げた。弩砲はバラバラに砕け散り、土砂を交えながら宙高く打ち上げられ、十数匹の小鬼達はその衝撃で即死した。

巨人化した彼の猛攻の前に、弩砲部隊は殆どを喪失する事になる。

だが、その様子を黙って見過ごすダークゴブリンではない。彼は部下達に指示し、翼竜で包囲しながら火炎ブレスを一斉に浴びせ掛けた。

 

……

 

巨人化した彼は戦場全域で視認できる程に雄大で、両軍とも彼に釘付けとなっていた。

そんな中、一台の荷馬車が彼へ向け移動を開始する。

御者を務める冒険者は、20代前半の青年戦士で首には銀の認識票をぶら下げていた。

 

「巨人化の効果時間は最長でも約十分、予定通り行けばいいんだが…!」

 

 銀等級戦士は、巨人化したゴブリンスレイヤーの回収という役目を担い、他に数名の冒険者を引き連れ馬車を駆っていた。

凹凸が在るものの殆どが平野で、可能な限り小鬼の遭遇を避け高低差を利用しながら進軍する。

ゴブリンスレイヤーが使用したスクロールには、最上級の巨大化の魔法が封じられていたが、その効果時間は約十分と制限されていた。

最悪、小鬼の群れの中心で術が解けるという状況もあり得る。なるべく隠密に接近し、回収後は早急に現場を離脱するという、厳しい環境に置かれていた。

 

「問題は、あの防壁陣ですね……!」

 

「あんなの()くなんて絶対無理ですよ!」

 

 彼に同行している、戦女神の女司祭、赤毛の少女斥候は、前方に見える小鬼の群れを注視していた。

大型の戦車を主軸に、巨大盾(タワーシールド)を構えたホブゴブリンが防御態勢で陣を引いている絶対防衛線だ。

しかし巨人化した彼は、防壁陣の向こう側で戦っており辿り着くには防壁陣を抜けねばならない。当然、今のメンバーで貫く事など不可能だ。

時間は掛かるが迂回するしか方法は無く、防壁陣の外側は入り組んだ岩場や林が立ち並ぶ。正直、荷馬車での移動は困難を極めた。

 

巨人の振るう幅広の剣は、複数の小鬼を土諸共粉砕する。巨人の脚は、呆然と見上げる小鬼を小隊ごと踏み潰す。土を掴み取り、それを小鬼の陣地へと投げ付ければ、土砂物は散弾(ショットガン)の如く陣地に打撃を強いた。

翼竜の火炎に晒されながらも彼は構う事なく、小鬼へと猛攻を続け暴れ回る。個としては非力な小鬼ど、逃げ惑うしか手段は残されていない。しかし、巨人と化した彼へと空中から矢が射掛けられた。

長弓ゴブリン率いる翼竜部隊が空中を自在に飛び回り、四方八方から矢を射かけていたのである。

 

――空中からの矢か、案外厄介なものだな。

 

翼竜の火炎ブレスと空中からの矢――。

大した痛痒を負う事は無かったが、意識を散らされた彼は攻勢の手を緩めてしまう。

 

―― その時、()()は起こった ――

 

「――ぐッ…!?」

 

 唐突だった。

膝部に、焼け付く様な激痛と衝撃が襲い掛かり、同時に彼は体勢を崩してしまう。

 

――何だッ!?…何を食らったッ!?

 

焼け付く激痛と衝撃、彼は膝を崩しながらも首を動かし周囲に視線を泳がせる。

彼が視界に()()を捕らえたのは、同部位に2発の追撃を受けた後だった。

視線の先――。

そこに長弓を構えた、一匹の小鬼の姿――。

いや、既に小鬼と称するには少々大柄な体格だ。

ホブゴブリンに比肩する身長でありながら、一切の無駄を取り払ったかのような筋肉を有した小鬼。

所謂『大型種』と呼ばれている、進化した小鬼の中でも希少種である。

頭に帽子を被り、軽鎧を纏った大型種の小鬼――。

ダークゴブリンの側近で、群れの中でも総合的に優れ屈指の実力を備えた個体だ。

彼も翼竜を有していたが、自らは丘の上に陣取り弓による狙撃を仕掛けていた。

ゴブリンスレイヤーが小鬼の蹂躙と纏わり付く翼竜たちに気を取られている隙に、秘かに狙撃を試みていたのである。

 

()に…”爆裂矢”だとッ…!?」

 

 ゴブリンスレイヤーの片膝は、爆裂矢による狙撃で完全に砕け散っていた。

膝部に刺さった瞬間、矢は爆発を起こし内部を粉々に粉砕しながら、飛散した破片が内部に残留していたのである。

それが三発同じ部位に叩き込まれたのだから、受けた本人は堪ったものではないだろう。

 

非力な小鬼と侮るなかれ。

長弓ゴブリンは大型種で、”洗礼の儀”によるソウルの恩恵で膂力や知性も強化されている。

加えて彼の扱う弓は、合成素材で拵えられた五人張りの『強弓』に分類される特注品だ。

更に矢は全て金属製で比重も重く適正距離で射た場合、生半可なプレートアーマーですら貫く程の威力を誇る。

 

――ダークゴブリン以外にも、あれ程の強敵がっ…!

 

長弓ゴブリンの姿を捕らえ、すぐさま反撃とばかりに投げナイフで応射。だが膝を突き不安定な体勢からの投擲では、真面な命中など到底期待出来る筈もなく、長弓ゴブリンは翼竜に跨りそ飛び去ってしまった。

()()、だろうか。

彼にとっては凶報とも言うべきか。

 

――くッ…、この感覚は…不味いッ……!

 

心の臓が一際高い鼓動を上げる。

術が解けかかっていた。

僅かづつではあるが、彼の身体が収縮を始め巨人から元の状態へと戻ろうとしていた。詰まる所、時間切れが迫っていたのだ。

そして彼の直ぐ傍には、生き残りの弩砲が狙いを定めていた。

 

――ちぃッ…!

 

彼に運が向かなかったのだろうか。

 

   ―― 賽を振らせない ――

 

それが彼――ゴブリンスレイヤーだ。どの様な状況下でも、己が力量と技量を信じ幾度となく危機を切り開いてきた。しかし骰子を振るのは何も、彼の()()だけとは限らない。

そう――。

小鬼側もまた然り――つまり小鬼側の陣営も当然神々が骰子を転がしているのだ。

即ち骰子は、小鬼側に有利な目を出したのだろう。

生き残った弩砲は既に射撃準備を完了し、彼の頭部に狙いを定めていた。

 

「――grob!」

(――ッてぇ…ぶぉッ!!)

 

射撃の合図を下した小鬼だったが、その瞬間に弩砲が突如爆発を起こし傍の小鬼と共に四散した。

余りに一瞬の出来事だったが、彼《ゴブリンスレイヤー》は爆発する前に矢を視界に捕らえていた。

透かさず矢の飛来した方角に向き直る。

 

――…灰よ……!

 

爆発四散した弩砲。そのやや離れた位置に、弓矢を構えた灰の剣士が佇んでいた。爆裂矢を放ったのだろう、錬金棟で彼が作成していたのをゴブリンスレイヤーは思い出す。

自分より先に墜とされた灰の剣士は、こうして無事であった。しかし安堵している暇は無い。止めどなく小鬼の群れが二人に迫りつつあり、このままでは数の暴力に飲み込まれてしまう。

 

「――膝を負傷したのか…!」

 

 片膝を突くゴブリンスレイヤーを目にし、負傷している事に気付く。だが、巨人化の効力は間も無く途切れようとしており、彼の身体は徐々に縮み始めていた。

このままでは戦う事は疎か真面に動く事すら困難だ。ソウルの感知で、銀等級戦士率いる回収班が接近しているのは察知出来たが、全方位から迫り来る小鬼の大群を凌がなければならない。ゴブリンスレイヤーを庇いながら――。

 

――間に合ってくれよ…!

 

灰の剣士は、長弓(ロングボウ)を構え爆裂矢を番える。狙いは最も近くの集団だ。とにかく爆発による範囲攻撃で敵の足並みを乱れさせ、少しでも時間を稼ぐ必要があった。上空の翼竜部隊が懸念材料ではあるが、躊躇している場合ではない。

彼は今迫ろうとする小鬼集団の足元に向け、爆裂矢を放つ。

ロロナやトトリから教わった錬金術で拵えた爆弾(フラム)を加工した矢だ。本来手投げ用の品を無理やり改造した様な物で、重量と安定性の悪さから正確な命中は期待出来るものではなかった。

しかし、着弾し一度爆発すれば広範囲に渡って被害を及ばす事が出来る。仮に爆心地から離れた小鬼相手にも、爆風の衝撃と破片で牽制し出鼻を挫く事は出来る筈だ。

彼の放った爆裂矢は、小鬼集団の足元に着弾。爆発を引き起こし、爆心地の小鬼と近隣の小鬼複数を纏めて吹き飛ばした。

その衝撃で当然小鬼達の脚は止まり、一時的にだが彼等の進軍を留める事に成功する。だが安堵している暇は無く、別の集団が彼等に迫りつつあった。

戦場に携帯できた爆裂矢は全部で5本――。既に2発放ち、残り3発の状態だ。――とは言え、出し惜しみしてはいられない。彼は殺到する小鬼集団に次々と爆裂矢を放ち、集団を吹き飛ばしつつも牽制していた。

これで爆裂矢は全て使い切り、残りや通常の矢となる。

しかし地上からの襲撃は、限定的だが抑え込む事が出来た。これで少しは時間が稼げるだろうか。

だが現実とは無情である。

複数の翼竜と地上から別の増援が、二人に押し寄せて来たのだ。

 

「――クソッ!そう思い通りにはならんかッ!」

 

 焦る暇もなく、複数の翼竜が灰の剣士目掛け急降下を仕掛けて来た。

翼を持つ翼竜の急降下攻撃――。その速度は小鬼の比ではなく、彼は”カーサスの高速体術”を以て回避に専念せざるを得なかった。

空中からは翼竜の急襲、地上から小鬼集団の進撃。一方此方は動けないゴブリンスレイヤーに、反撃のままならない灰の剣士――。

状況は不利と言わざるを得ないだろう。こうなっては味方部隊をアテにしたい処だが、小鬼の防壁陣に阻まれ下手な攻勢を掛ける事は出来ない筈だ。

 

「――地上のゴブリンは任せろ…灰よ!」

 

 既に全長10メートル足らずに収縮したゴブリンスレイヤー。腰に吊り下げていた、もう一つの壺に手を伸ばす。

 

――術が切れる前に…使うなら()しかない!

 

――…そうか、彼は雷壺をッ…!

 

完全に術が切れてしまえば、装備品も元の大きさに戻ってしまう。――なら少しでも恩恵が残っている内に、道具を使い切ってしまおうというのが彼の考えだ。未だ巨大サイズの雷壺を小鬼集団へと放り投げる。

岩程もある雷壺は彼の手から離れ、小鬼集団の傍へと落ちた。地面に接触した衝撃で陶器が割れると同時に、電撃が瞬時に拡がり周囲を焼く。

 

「geev!」

「gyeaav!」

「guoob!」

 

暴れる電撃は、集団の全身を隈なく染み渡り細胞の一つ一つを丁寧に撫で挙げた。

電撃の抱擁を受け絶叫を上げる小鬼達は、まるで小躍りするかのように痙攣を繰り返し、やがて全身から黒煙を上げならその場に倒れ伏す。

 

「――これで打ち止めだ、後はどうなる…」

 

 有用な道具を使い切り、そう時間を置く事なく彼の身体は元の大きさへと戻る。巨人化の効力は今完全に消失したのであった。

だが地上部隊の小鬼に対しては、ある程度対応出来ただろう。幸いにも彼が巨人化した事により、数門を残し野戦兵器部隊も概ね壊滅できた。残るは自在に飛び回る翼竜と、頑強な戦車部隊と言った処だろうか。

相変わらず翼竜は灰の剣士のみに狙いを絞り、火炎ブレスや急降下で連携攻撃を仕掛けている。

彼も高速体術を駆使し、何とか凌いでいたが何時までも続く訳ではない。

 

――チッ、新手か!

 

迫り来る複数のソウルを察知したダークゴブリン。突如攻撃を止め、その方角に視線をやる。

 

――よし、来てくれた!

 

翼竜の連携が乱れた事に気付き、回収班の接近を感知した灰の剣士。透かさずゴブリンスレイヤーの方へと駆け寄る。

 

「……かなりやられたな。治癒の涙!」

 

 負傷したゴブリンスレイヤーの膝――。

骨は粉々に砕け散り、赤黒い血液と肉片が金属片と入り混じりシェイク状態へと変貌していた。

先ずは奇跡、治癒の涙を発現させ出血状態を解除させる。

 

「膝に爆裂矢を食らってしまってな、治療できそうか…?」

 

「…治療だけなら今直ぐにでも…だがっ――」

 

 言い淀みながらも灰の剣士は、敢えて回復の奇跡を行使する事は無かった。

 

『――おぉ~~い!無事かぁッ!!』

 

 そんな二人に銀等級戦士率いる荷馬車が到着するが、複数の翼竜が彼等を標的としていた。

荷台に陣取る赤毛の少女斥候と戦女神の女司祭は、纏わり付く翼竜にクロスボウや奇跡で辛うじて接近を阻んでいる状態だ。

 

「――急いで頭目!私の聖壁(プロテクション)は、長くもちません!」

「――やぁん!寄って来ないでったらっ!」

 

 女司祭が聖壁を張り、赤毛斥候が内側からライトクロスボウで射撃を加えていたが、焦りを滲ませる女司祭は銀等級戦士を急かす。

 

「――分かってるッ!おぉい二人共ッ、俺の手に捕まれぇっ!」

 

 馬車を止めれば、瞬時に翼竜や小鬼の餌食となるのは明白だ。銀等級戦士は彼等に叫び、馬を走らせながら手を伸ばす。無論その状況は彼等も十分認識しており、ゴブリンスレイヤーを担いだ灰の剣士はタイミングを見計らい、差し伸ばされた彼の手を掴んだ。

 

「――おっしゃ、回収成功!捕まってな、とばすぞッ!」

 

 二人の回収は叶い、銀等級戦士は馬を更に加速させた。

 

――こっからどうやって脱出するかだな。

 

回収したは良いものの、未だ危機的状況に変わりはない。

戻ろうにも退路は小鬼の防壁陣で埋め尽くされ、相変わらず翼竜に殺到され、今度は引っ切り無しに矢まで飛来してくる始末だ。

馬には矢避けの魔法が掛けられている為、矢による被害を憂う必要はない。しかし、全方位を取り囲まれ退路を断たれたに近い進退窮まる状況だった。

 

「――灰の剣士とやら、この状況どうやって切り抜ける!?」

 

 よもやここ迄追い詰められるとは想定外だった。銀等級戦士は灰の剣士へと助言を求めてしまう。このまま岩場或いは林へ入り込むしか手は残されていないのだが、入り組んだ地形では速度を落とさざるを得ない。そうなれば翼竜の良い的になるだけだ。彼もまた精神的に追い詰められていたのだ。

 

「――手は有る!…10秒、10秒だけでいいッ!何とか凌いでほしいッ!」

 

「――それは本当なのですか!?」

「――お願いぃ…、何とか…何とかしてぇッ…!」

 

 10秒凌ぐ。

 

彼の言葉に、女司祭と赤毛斥候は縋るような弱音を吐く。彼女らも同様、肉体的にも精神的に消耗していたのである。

 

「たった10秒なら…、託したぜ、俺等の命…!」

 

 彼の言葉に奮起した銀等級戦士は、可能な限り速度を上げ少しでも小鬼から逃れようと必死だ。

正直馬にも疲労の色が濃くなりつつあり、限界が近いのが分かる。命運は灰の剣士に託された。

 

「やれるのか、灰よ?」

「――君の協力が要る。少し無理をさせるぞ」

「何をすればいい?」

 

 負傷してはいるも、意識は未だ健在だ。協力を求められたゴブリンスレイヤーは、内容を訊き返す。

灰の剣士からの要求。それは、味方本陣をイメージする事だった。可能な限り強く――。

空中からは小鬼の駆る翼竜、地上からは殺気立った小鬼の群れ。完全に包囲され、殺到されるのは時間の問題だ。最早通常の方法で脱出は叶わないだろう。

そこで彼は、転移を使う事にした。奇跡の”家路”、”帰還の骨片”或いは”螺旋剣の破片”、どれでもいい。とにかくこの危機を脱する事が出来れば手段は二の次だ。

本来これ等の転移は、自らの故郷へと帰還する為のものである。しかし火の陰りしあの時代、不死人達の帰還先は、篝火の下へと歪められてしまった。そして今現在、篝火は熾されておらず、その状態で帰還の術を使用すれば何処(いずこ)へと転送されてしまうのか。

正直、灰の剣士本人にも予想が付かず試した事がなかった。若しかしたら、見知らぬ他国へと飛ばされる可能性も存在し、下手をすれば時空を跨ぎ彼の時代(ダークソウル)へと転移するかも知れない。これは一種の賭けにも似た危険な行為だった。

しかし、躊躇う訳にはいかない。敵は直ぐ其処にまで迫っているのだ。このままでは全員餌食になるのは自明の理。今をおいて脱出するチャンスはないのだ。

故に、強くイメージして貰うのだ。帰還先を味方本陣という、安全地帯に――。

其処を故郷と仮定し、灰の剣士一人よりもゴブリンスレイヤーを加えた二人でイメージした方が、成功率は増すと彼は考えていた。

分けても二人は味方本陣から出撃している為、他者と比べて記憶が色濃く残っているからだ。

 

「10数える。私の手を掴み、味方本陣を()()イメージしてくれ!」

「――分かった」

 

 今この場を切り抜ける事が出来るのは、灰の剣士以外誰も居ない。

ゴブリンスレイヤーも自らの命運を託し、上半身を起こしながら彼の手首を掴む。

 

「10…9…8…」

 

 灰の剣士はカウントダウンを始める。

 

「――きゃっ…!」

 

 小鬼の放った矢が、赤毛斥候の肩を掠める。

 

「7…6…5…」

 

 ゴブリンスレイヤーも本陣を思い浮かべながら数を数えた。

 

「――聖壁(プロテクション)、消失!」

 

 翼竜の火炎が、女司祭の聖壁を完全に破壊した。

 

「4…3…2…1…」

 

 10秒は間近――。

 

「――アイツ!爆裂矢をッ…!」

 

 翼竜を駆る長弓ゴブリンは、爆裂矢を番え狙いを定めていた。

銀等級戦士が警告するものの、荷馬車で回避するなど不可能だ。

 

「GYEVO!」

(終わりだッ!)

 

空中から爆裂矢を放ち、馬目掛けて飛来する。

その刹那、灰の剣士を中心に力場が拡がり、矢は地面へと突き刺さると同時に爆発を引き起こした。

 

――失敗か…!

 

目視で結果を確認するまでもなく、ソウルが一瞬で消え去ったの感知したダークゴブリン。

 

「GROOV!」

(隊列を組み直せっ!)

 

これ以上の追撃は、此方が無駄に消耗するのみだ。

命を下し、翼竜部隊と地上部隊に攻撃中止の合図を出す。

そして鐙から短筒を取り出し、長弓、バンダナに続くよう命じた。

 

「GUUV!!」

(例の作戦を決行する!――信号弾放てっ!!)

 

『『――GYEVO!』』

(――ぎ、御意っ!)

 

慌てて二人も短筒を取り出し、ダークゴブリンと同時に信号弾を真上に向け発射した。

三発の赤い信号弾が空高く舞い上がり、全てのゴブリンはそれに注視する。

 

……

 

(推奨BGM 進撃の巨人 ―― My War )

 

場所を移し、格闘ホブが指揮する防壁陣。

彼等は陣を構えたまま動く事なく、ソラール率いる騎馬隊と睨み合いを続けていた。

両軍とも不動のまま、お互いを牽制し合っている。

 

「groobu?」

(アニキィ…そろそろ攻撃しやせんかぁ…?)

 

戦車内のホブが、間の抜けた声で訴え掛けた。

まるで疲れたと言わんばかりの表情で、格闘ホブを見上げている。

 

「……」

 

 対して格闘ホブは無表情でその部下に視線を送る。

 

「――geav!」

(――うっ、す、すいやせんッ!)

 

彼自身は唯視線を送っただけなのだが、部下のホブはその迫力に委縮し即座に言葉を撤回した。

 

「GUUB」

(お前等だけじゃねぇ、俺様だって同じ気持ちなんだよ。…だが見てみろよ、連中の、あの間抜け面をよ)

 

特に怒鳴り散らすでもなく、格闘ホブは顎で前方をしゃくった。

釣られた部下達は挙って、戦車の窓から前方を注視する。其処には、睨み合いを続けている騎馬隊が攻撃のチャンスを窺っていた。

何も機を見出そうとしていたのは、小鬼軍だけでなく冒険者側も同様なのだ。

 

「GUUBVEA!」

(奴等は動かねぇ…いや、動けねぇ。俺達の防壁陣が機能している証拠だ。下手に動けば、奴等は確実に其処を突くだろうよ!)

 

堅牢な大型戦車、小回りの利く小型戦車、巨大盾を構えたホブゴブリンと中型種の小鬼達からなる、第1陣――。

長槍(パイク)で槍衾を形成し、騎馬の突撃に備えた第2陣――。

重弩(ヘビークロスボウ)で、牽制と要撃を担う第3陣――。

補助には、重装の歩兵部隊――。

そこから形成された防壁陣は、生半可な突撃で容易に崩される事は無く、騎馬隊が攻めあぐねているのが何よりの証明と言えた。

つまり此方が下手の動きを見せない限り、相手側には攻める手段がないという事だ。

だが中途半端に陣を動かせば、どこかしらに綻びを生む事になりかねない。機動力に富む騎馬隊だ。十中八九その綻びを突き、縦横無尽に戦場を掻き乱すに違いない。

此方が戦場を支配するのは良いが、人族側に動かれるのは我慢がならず発狂にも等しい屈辱と言える。それなら多少鬱屈した想いを抱く事になろうとも、不動の姿勢を維持する事を格闘ホブは選択したのだ。

勝つ為に。

 

――黒野郎の入れ知恵ってのは気に入らねぇなぁ。

 

これら全ての用兵術も、ダークゴブリンを中心とした書記ゴブリンや長弓ゴブリンが考案した賜物であり、格闘ホブ自身も不満が無いといえば嘘になる。

 

「――greaava!」

(――ほ、報告っ!3連の信号弾を確認しましたぜ、アニキィっ!)

 

突如、部下からの報告が飛ぶ。

ダークゴブリンを始めとする2体の側近も信号弾を撃ち、空中には3個の信号弾が漂っていた。

 

――なんだ、思ったより早かったじゃねぇか!

 

それを聞いた格闘ホブは、ニヤけながら号令を掛けた。

 

「GUUBOA!!」

(――聞いたか、野郎ども!俺達の出番が回って来た、気張れよお前らぁッ!!)

 

『『『『『――guoov!!』』』』』

 

 格闘ホブの叫びを皮切りに、戦車内は無論、部隊全域に大喝采が湧き起こる。

防壁陣は急激に慌ただしい動きを見せ始めた。

砦の扉は開かれ、次々と控えていた本命の主力部隊が出撃を始めていた。その小鬼達は全員が完全装備に身を包み、黒い鳥を彩った肩当てを与えられている。いわばダークゴブリン軍の主力を担う正規兵達であった。

つまりゴブリンスレイヤーが相手をしていたのは、一部の指揮官級を覗き大半が囚人小鬼なのである。

囚人の小鬼は従来の小鬼と大差はなく、若干装備を優遇されただけの個体だ。

防壁陣の後方には、止めどなく主力部隊が集結を始めていた。

その中には姿を見せなかった大シャーマン率いる呪文使い部隊や、参謀役を務める書記ゴブリンの姿も確認され、当然ダークゴブリン率いる翼竜部隊も合流を果たす。

遂に主力部隊が、一堂に会したという事だ。

 

「GOUBU!」

(へへ、良いねぇ好いねぇ、続々と集まって来やがる。野戦兵器なんて頼らず最初からこうしときゃ良かったんだよ、黒野郎!)

 

所狭しと全軍が集結し、格闘ホブは意気高揚としながら戦車のハッチを開け、その様子を一望した。

地面を埋め尽くさんと大群が列を成し、進軍の準備を始めている。

間も無くダークゴブリンの号令と共に、全軍をあげた総攻撃が開始されるだろう。

矢張り戦争とは()()()なくては――。

軍の士気は最高潮を迎えようとしていた。

 

……

 

騎馬隊を率いる部隊長、アストラのソラールは険しい表情だ。

遥か前方、小鬼軍の終結に危機感を抱いていたからだ。

 

「負傷者の搬送は完了した」

 

 第2部隊長を務める、カタリナのジークバルドによる報告。被害を受けた砲撃部隊の負傷者たちは、荷馬車や馬で後方へと搬送。今この地で残留しているのは、彼ら騎馬隊のみとなっていた。

また小鬼の野戦兵器により被害を被っていたのは人だけではない。殆どの大砲が誘爆を引き起こし、使い物にならない状態だった。

だが被害を免れた大砲も数門だが存在し、生き残った冒険者達が共同作業で後方へと退避させていた。

このまま放置すれば小鬼が回収し、使用されていた恐れもある。どの様な経緯で、野戦兵器運用のノウハウを得たかは定かではない。しかし確実に言える事は、小鬼側にも、それだけの知性と技術を有している事は確かだ。

欠点は多々あれど、大砲という代物を最大限活用すれば戦況を左右する可能性も秘めている。知性に優れたダークゴブリンの指揮下なら、瞬く間に大砲技術を理解してしまうの違いない。

それを危惧した騎馬隊は、残存した大砲の回収作業も並行していたのである。

 

「続々と集結しているなソラール殿」

「うむ、これは総攻撃の前触れと観て間違いない。ジークバルド殿」

 

 ソラールの隣で小鬼軍の動きを注視し、ソラールも小鬼軍に視線を固めたまま応えた。

防壁陣による鉄壁の陣形に、攻める事が出来ないでいた騎馬隊。

睨み合いが続く中、小鬼軍は動きを見せ、防壁陣の後方で小鬼達が次々と集結していた。

だが、然したる対抗策も執れぬまま、騎馬隊は黙ってそれを見届けるしかなかった。

 

「残念だが、ここまで膨れ上がっては、私の戦技を以てしても覆す事は叶わん」

 

 ジークバルドの所有する『真・ストームルーラー』による、『嵐の螺旋撃』と呼ばれる新たな戦技。

荒れ狂う暴風と衝撃波による奔流で目標を巻き込み吹き飛ばす威力を有していたが、一度使用すれば多大な消耗を持ち主にも強いてしまう諸刃の剣でもあった。

そう気兼ねなく使用できるものでもなく、一日一回が関の山だ。

仮に今使用に踏み切ったとしても、幾許かの被害を小鬼側に与える事は可能だ。

しかし、それで戦局を有利に運べる可能性は極めて低く、此方が無駄な消耗で反撃を食らうのが目に見えていた。

 

「巨人化した彼のお陰で、野戦兵器群を壊滅させる事は出来た。…だが――」

 

 此処からでも巨人と化したゴブリンスレイヤーが孤軍奮闘し、小鬼側の野戦兵器に甚大な被害を齎すのを目撃する事は出来た。

だが、小鬼軍全体としては大した被害を与える事は叶わなかった様で、実際小鬼軍は混乱するどころか寧ろ更なる結束力を発揮しているようにすら見える。

現に小鬼軍は次々と合流を果たし、陣形を展開している。恐らく彼等の統率力は、即席で編成された冒険者軍を上回っているとさえ言えた。

 

『ソラールさぁ~ん!ジークバルドさぁ~んッ!』

 

 佇む二人へ駆け寄って来たのは、馬術と槍技に優れた新人の冒険者――男槍の徒だった。

 

「――おお貴公、無事であったか」

 

 先程、伝令役として下げた彼が漸く戻って来たのを確認し、ソラールは彼の働きと無事を労う。

 

『ハァ、ハァ…で、伝令!――騎馬隊全騎、後方の味方部隊と合流し、総合戦に備えよ…との事ですッ!』

 

 碌に小休止をも挟む事なく駆け巡っていたのだろう。馬も彼も明らかな疲労が見え隠れしている。

 

「――ソラール殿!」

「――うむ、了解した!これより我等はこの地を放棄、後退し味方部隊と合流する!全騎、速やかに転進せよ!」

『『『『『――了解ッ!!』』』』』

 

 伝令を受けたソラールは号令を下し、騎馬隊は素早い動作で後方へと退避する。

 

「貴公も良くやってくれた。速やかに後退し、可能な限り馬と自身を自愛するのだ」

「――これを飲み給え!」

 

 ソラールが男槍の徒の働きを称え、ジークバルドは二つの水筒を取り出し、一つは疲労している彼へと――。もう一つは彼の馬へと飲料水を分け与えた。

 

「――!あ、有難う御座いますッ!」

 

 彼は礼を述べ、水筒の水を一気に飲み干した。余程、喉が渇いていたのだろう。

また目尻には僅か涙を浮かべている。今の今迄これ程働きが認められた事は故郷の村でも無く、労ってくれた相手が憧れの騎士二人ともなれば、尚の事だろう。

 

「さ、我らも後退しよう!」

「はいッ!」

「行くぞ、ハァッ!」

 

 残された三人も馬を駆り、その場を後にした。

 

……

 

比較的に平坦としたこの地は、陣を敷くのに向いていた。

所属している冒険者は殆どが此処へと集結し、戦の流れを見守っている。

この地でも巨人化したゴブリンスレイヤーを目にする事ができ、その後一瞬にして姿を消した事も周知していた。

 

「結局どうなったんだよ。奇襲作戦は成功したのか!?」

「――みたいだぜ。アイツらが無事かどうかは分かんねぇがよ」

 

 歩兵部隊に所属していた槍使いに重戦士が応える。

伝令の行き来が先程から増加している。僅かに漏れてきた会話から、野戦兵器を壊滅させた事を告げる旨を聞く事が出来た。

そう言えば、頻発していた砲撃音や爆発音が鳴りを顰め、今では全く耳を打つ事がない。どうやらゴブリンスレイヤーの考案した作戦は成功したとみて良いだろう。

だが、奇襲作戦に参加した彼と灰の剣士を無事回収出来たかどうかは、正直疑問が残る。

歩兵部隊を尻目に、荷馬車や騎馬部隊の一部が負傷者を抱え、引っ切り無しに後方へと退避しているのだ。

考察せずとも、砲撃部隊の冒険者である事は容易に判別が付いた。

更に追加の報告では、小鬼軍が次々集結し総攻撃の準備を整えているというのだ。

それを指し示すかのように、この地を主軸に味方が集結していた。

それは即ち此方も総攻撃に備えると意味合いでもあり、これから総力を結集した決戦が開かれるという事だ。

 

「絶対に生き残ってやる!」

「来るなら来い、小鬼共!」

「アタシの魔法、通用するかしら」

「薬草、足りるかな」

 

 周囲の冒険者達も緊張の度合いを強める。先日まで小鬼を軽視していた新人とは思えない程に、覚束ない足取りで武器を構えていた。幾ら小鬼とが相手と言えども、命の奪い合いには何ら違いない。況してや今日が初の実戦を経験する者も多く、身を強張らせるのも頷ける話だ。

 

――アイツ、大丈夫だろうな?

 

槍使いは相棒の魔女に想いを馳せる。

彼女は別の部隊へ配属となり、銅等級冒険者率いる対空部隊の所属だった筈だ。

小鬼軍の脅威は野戦兵器だけではない。空中を自在に飛翔する翼竜も厄介極まる存在で、これ等の対処も重要な作戦となっていた。

尤も、銅等級冒険者の実力は以前の金鉱山にて実証済みで、見知らぬ冒険者よりも一定の信頼を寄せる事が出来る。

戦線が落ち着いたら迎えに行ってやろう。

そんな考えが彼の胸中を駆け巡る。

 

……

 

あれからどうなったのだろう。

ライザは、ジィっと一点を見据えたままだったが、その表情は不安に満ちていた。

豊満な胸に手を当て、逸る気持ちを落ち着かせようと必死で呼吸も何処となく荒い。

巨大化を果たし敵陣の中、孤軍奮闘していたゴブリンスレイヤー。

彼の勇姿は、此処からでも充分視認できた。

しかし術が切れ、彼の姿が見えなくなったのも確認している。

だが、彼女の心は寧ろ彼と行動を共にしたもう一人の冒険者、灰の剣士へと向けられていた。

彼の動向は、依然として分からないままだ。

そもそも彼は囮として出撃したのだ。その危険度は計り知れず、その位の予測はライザでも十分認識が可能だ。

先程、伝令が本陣に到着し、砲撃部隊が壊滅したとの報が通達された。間も無く多数の負傷者が荷馬車や馬が、この本陣へと運ばれて来るだろう。治療に備え、聖職者や後衛職の冒険者が道具を抱え走り回っていた。

 

「大丈夫、ライザ?今の内に休んどかないと、私達も間違い無く駆り出されちゃって、もたないよ?」

 

 銀髪少女の錬金術士、エルメルリア=フリクセル(ルルア)

ライザとも年齢が近い事もあり、直ぐに打ち解ける事が出来た間柄だ。

そんな彼女もライザを気遣い、少しでも休む事を勧める。

しかし普段は無縁の沈んだ表情を浮かべ、ライザは敵陣を向いたままだ。

 

「…分かっては…いるんだけどね…。何だろう…なんか調子…でないや…」

 

 頭部から爪先まで小刻みに震えながら、弱々しい口調で応えるライザ。

 

『――シュタウト君。こういう時は動いた方が良い。余計な事を考えないで済む分、幾分楽になる』

 

 気の沈むライザに声を掛けたのは壮年の男性、ステルケンブルク=クラナッハ(ステルク)であった。

彼は見抜いていた。ライザは戦場の空気に呑まれつつあることを――。

…いまや戦場は殺意に満ち、塗れ、溢れかえっている。

双方、存分に狩り、殺し尽くすだろう。

血に酔い、腐臭に()せ、殺戮に委ねる。

より残虐に――。

愉悦に抱かれ――。

犠牲無き戦場など何処に存在しようか。

一度戦端が開かれれば、何処かで誰かが凶刃に斃れ伏す。

戦いとは本来そういうもの、それが戦場、戦争なのだ。

 

―― きっと無事 大丈夫 心配いらない 信じて待とう ――

 

そんな生温い甘言を吐き、ライザの精神を慰める気など毛頭ない。

心無き戯言で、気休めの能書きなど悪意渦巻く戦場では()()の役にも立たないのだ。

しかし――!

 

――最悪の事態も覚悟しておけッ!!

 

などと、厳然たる言の葉を投げ掛ける気にも、ステルクはなれなかった。

故に、彼は厳選しながら最良の言葉を発したのである。

下手な思考を何時までも引きずれば、何れは自らの身体を蝕み侵すだろう。

彼女は直接戦闘に参加していないとはいえ、自らの身は自身で守って貰いたいものだ。

 

「君の力も必ず必要となる。今は可能な限り出来る事に従事して頂きたい」

「…ステルク…さん…」

「――そうだよ、ライザ!わたし達も動きましょ!」

 

 ステルクの激励に続き、ルルアも彼女を支えようとする。

 

『――衛生兵!治療を頼む!』

『――負傷者多数!繰り返す負傷者多数!』

『――早く手当てを!まだまだ増えるぞ!』

 

 こうしている間にも、負傷兵を乗せた荷馬車が次々と本陣へと辿り着いた。

砲撃部隊の冒険者だろう。中には、騎馬部隊の冒険者も混ざっていた。

だが彼等は所詮、前哨戦での犠牲者達だ。今後、比較にならない程の犠牲者が運ばれて来るのは想像に難くない。

何故なら、これから始まるのが本場――。

両軍の総力をぶつけ合う、本格的な戦いへと移り行くのだから。

 

「…そう…、そうだよね!あたし一人…ウジウジしてる場合じゃないよね!」

 

 本陣の隣には、別の大型天幕が貼られている。其処は負傷者たちを収容する為の、いわば野戦病院の役割を果たしていた。

医療班が次々と負傷者たちを搬送し、本陣は次第に喧騒を増しつつある。

 

『その人は、私たちに任せて。貴方達は、そっちをお願いっ!』

 

 ライザの直ぐ近く、ゴブリンスイーパー達も収容作業へと勤しんでいる。

気が付けば、大半の人々が今出来る事に従事していた。

 

「…そう…だね…。――うん。灰君たちを信じる!今は自分の役割を果たさないと、錬金術士とか冒険者とか、そんなこと拘ってる時じゃないしさ!」

 

 苦痛に喘ぐ怪我人達に視線を送り、ライザも意を決し動く事に決めた。

自分の今の役目は後方支援だ。医療に関して専門知識を有している訳ではない。だが簡単な応急処置や薬の与え方なら、今の自分にも可能だ。

彼女は動く。

自身に出来る事を精一杯に熟す。

 

仲間の無事を信じて。

ステルクやルルア達の言葉に背中を押され決意を固めた時――()()は起こった。

 

『――な、何だッ!?』

『――何が起こったのっ!?』

『――この輝きはッ!?』

 

 何もない地点に、突如として光が湧き、走り回っていた冒険者達は視線を奪われた。

 

「――えっ…えっ!?」

「これは…何とっ!?」

「――は…灰…君っ!?」

 

 当然ライザ達も光に目を奪われ、光の中心から姿を現したのは、灰の剣士達を乗せた荷馬車だった。

 

「――ここは…、味方本陣か!?」

 

 御者台の銀等級戦士は辺りを見回した。周囲の呆けている冒険者達を余所に、味方本陣の天幕を確認する。

 

「…上手くいったのですね!」

「やった…やったよぉッ!」

 

 彼に続き、赤毛斥候や女司祭も安堵の表情を浮かべる。

 

「灰よ…成功…したのか?」

「ああ。脱出成功だ」

 

 荷台に横たわり、身を起こす事も出来ないゴブリンスレイヤー。灰の剣士に是非を訪ね、彼の返事で危機を脱した事を知る。

 

「――は…灰君っ…!それにゴブスレ君も無事だったんだぁッ!」

 

「ええっ!?何にもない所に馬車が突然…どうやってっ!?」

「転移の類だな。何はともあれ、生還してくれて良かった!」

 

 彼らの身を案じていたライザは荷馬車へと駆け寄り、その様子に驚くルルアと静かに安堵するステルクであった。

灰の剣士は本陣に転移する手段として、奇跡『家路』を選択した。帰還という意味でなら、螺旋剣の破片や帰還の骨片でも良かったのだが、それ等は不死との結び付きが強く確実性に不安要素があった。

 

――半ば賭けだったが、成功したか。

 

不死の呪いで歪まなければ、本来はこういう使い方も出来るのだろう。何はともあれ、前例を作る事が出来た。灰の剣士はホッと胸を撫で下ろす。

 

……

 

その後大至急で、ゴブリンスレイヤーは野戦病院へと運ばれる事になる。

彼は膝に(爆裂矢)を受け片脚を捥がれたも同然だ。上質の水薬(ハイポーション)ないし治癒の奇跡を施せば充分に癒える傷ではあった。

だが、膝の内部には爆裂矢の破片が残留し、それ等を除去せねば治療を施した処で、彼の脚が使い物になる事はない。

ただ傷を塞いだけでは、彼の冒険者生命は絶たれたままで日常生活にも支障を来たしてしまうのだ。

灰の剣士は、事の経緯を周囲に説明する。

無論、それ等の事態は想定済みで、医療技術に長けた専門家も数多く参加していた。

 

「――ならば破片の除去は、この私が担おう!」

 

 同期戦士一党に属する地母神の男司祭――森人僧侶が名乗りを挙げる。

地域の違いは多々はあれど、地母神の信徒には医療に携わる者が多い。彼もまた、医療技術を習得した者の一人であった。伊達や酔狂で、司祭の地位を授かった訳ではないのだ。

 

「…頼む急いでくれ……総攻撃が…近い…」

 

 まだ意識はあるのだろう。途切れ途切れの口調だが、早くしろと言わんばかりに森人僧侶を急かす。

 

「…全く。先ずは消毒、次に局部麻酔を施す!各々の準備をッ!」

 

 彼は溜息を吐きながらも瞬時に顔の筋繊維を引き締め、準備に取り掛かった。

普段皮肉や軽口を叩く、鉱人の誰かさんは此処には居ない。それは幸か不幸か――。

 

「少し染みるぞ、いいな!」

「……」

 

 爆発と火傷に加え裂傷に裂傷を重ねたゴブリンスレイヤーの傷。純度の高い医療用アルコールでの消毒。間違い無く染みる事による激痛が、彼を襲うだろう。

森人僧侶は予め彼に声を掛け、心の準備を促す。何の前触れもない予期せぬ激痛は、彼を暴れさせる危険性が有り、却って治療が難航する恐れもあるからだ。

 

「――ぐぅおッ!!」

 

 前もって声を掛けられたとは言え、その激痛は耐え難いものである。

彼は全身を仰け反らせ、寝台の枕元にある支え棒を掴む事で身体を支えていた。

 

「…我慢して貰うのはこれからだ!これより麻酔に移る!覚悟はいいなッ!?」

「……」

 

 初期消毒は完了した。次は局部麻酔に移行する訳だが、それに伴う痛みは消毒の比ではない。森人僧侶の言に、彼は無言で頷き覚悟を決める。

 

「これを嚙みたまえ、少しは楽になる」

 

 森人僧侶は、小さな木片を彼へと手渡す。

その木片は、鎮痛作用を増進させる薬液を染み込ませてあった。施術中それを噛めば、これから襲い来る苦痛を少しでも和らげる事に繋がるだろうという、彼の小さな配慮でもあった。

 

「兜を外そう」

 

 灰の剣士は、彼の兜を外そうと手を添えたが遮られてしまう。

 

「いや、いい…。このままでいさせてくれ…」

 

 彼は兜を脱ぐことを拒否。

それは小鬼殺しで居続ける為の自負故か――。それとも幼い過去の決別故か――。

 

「……」

 

 兜を外す事を諦め、灰の剣士は彼の手を力強く握り締め、深く頷いた。

それに応える様に彼も頷き返す。

 

(推奨BGM 進撃の巨人 ―― The Successor )

 

「では始める。彼を抑えててくれ!」

 

 森人僧侶の声で、彼は手渡された木片を口へと咥え、灰の剣士を始めとした面々は肩や腕を強く押さえ付ける。

程無くして麻酔薬が打ち込まれた。

ロロナを筆頭とした錬金集団が拵えた麻酔薬で非常に強力だ。

 

 

 

『――ッ~~~~~~~~~ッ!!!!!』

 

 

 

獣に似た、雄叫びとも断末魔ともつかぬ絶叫――。

 

「――お願いッ…!我慢してッ、我慢してぇッ!」

「――う…うぅっ!」

「――もう直ぐ…もう直ぐだから耐えて…!」

 

 彼を押さえ付ける女性陣は、悲痛な表情を浮かべ顔を背けていた。

 

『~~~~~ッ!~~~~~ッ!!~~~~~~ッ!!!』

 

 想像を絶する苦痛の激流――。

慣れた筈だった。

幾らでも耐える事が出来る――そう思っていた。

あの時に比べれば……。

あの夜の惨劇――。

唯一の肉親を喪った過去――。

辛く苦しい訓練の日々――。

 

   ―― そして憎悪すべきゴブリン共 ――

 

()()に比べれば、この程度の痛みなど如何ほどのものか。

全くの想定外だった。

よもや、これ程の痛みが襲い来ようとは――。

彼は力の限り泣き叫ぶ。

恥や体裁――そんな事はどうでも良かった。

唯々、この苦痛から抜け出したかった。

全身を痙攣させ、動こうと動くまいとお構い無しに藻掻き苦しむ。

複数人から拘束されようと、どうでもいい。

彼は今ここで、生まれて初めて懇願した。

 

――姉さ゛ん…助け゛て゛ぇッ!

 

声にならない声で――。

その悲痛な願いを聞いた者が、この天幕に居たかどうかは疑わしい。

 

………

……

 

「――麻酔処置終わり!これより除去作業に移行する!」

 

 あれからどの位経ったのだろう。

森人僧侶による、麻酔作業の完了。

暴れ回わっていたゴブリンスレイヤーは、嘘の様に静まり返っていた。

意識を手放したのだろう。呼吸は荒いものの、彼は寝息を立てている。

彼を押さえ付けていた者――とりわけ女性陣が呼吸を乱していた。

灰の剣士は無言で、彼の手を握り締めている――今も尚。

 

都合が良かった。

無意味に悲鳴を上げ暴れ回るより、意識を失い安静にしてくれた方が遥かにやり易い。

下手に暴れ回り、手元が狂ってしまっては元も子もない。

そういう考えを抱くのは、些かに不謹慎であろうか。

そんな事を思いながら、森人僧侶は除去作業に集中する。

メスで必要最小限に切り開き、ピンセットを慎重に扱い破片を取り除いてゆく。

一つ…また一つと。

 

「汗、拭きますね」

 

 彼の額には夥しい程の汗が噴き出ている。それをエーファは静かに拭き取り、彼は眉一つ動かす事無く集中していた。

 

――これからどんどん増えていくんだ。こんな人たちが……。

 

見守っていたライザ。その凄惨な光景に、彼女の脚はガクガクと震えている。こうしている間にも、次々と負傷者が運ばれ続けていた。

 

「ゴブリンスレイヤー様……」

 

 そして、苦痛に耐える彼を憂う女性が、もう一人――。

剣の乙女も胸に手を添え、眼帯に覆われた視線を寄せる。

 

……

 

天高く…否。世界の外…盤外と言うべきだろう。四方世界の外より、彼等の営みを観測する者達が居る。

彼等は一様に、『神』と呼ばれる存在だ。

その複数の神々の中、一人の女神が恍惚とした表情を浮かべていた。

 

―― 汝が痛み、まこと偉大にして甘露なり ――

 

苦痛、加虐、被虐、を司り、故に繋がる生命をも担う混沌なる神。

彼女は、こう呼ばれていた。

 

 

 

   ―― 嗜虐(しぎゃく)神 ――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

バリスタ(弩砲)

 

てこを用いて弦を引き絞り、石や金属の弾、極太の矢(あるいは矢羽のついた槍)、複数の小型の矢、火炎瓶などを打ち出した。

矢弾を弾き出す動力は弓が主だったが、複数の弓を並べたり、捻った動物性繊維の太縄や金属製のばねを用いるなどの改良を加えられた物もあった。

白兵戦の支援、攻城戦における攻城兵器、それらからの防衛に使われ、軍船に搭載することもあった。

 

ダークゴブリン軍が使用したのは、金鉱山の戦いにて銅等級冒険者が用いた物を奪った物だ。それを参考に、造り上げた物である。

数を揃える為に、一つ一つの造り事態を簡素にする事で、性能を代償に生産性を引き上げた。

 

 

 

 

 

 




 膝に矢。
俺も昔は冒険者だったが、膝に爆裂矢を受けてしまってな。
膝に矢は不味い…!

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。