スマイルプリキュア!~魔弾剣士と5人の戦士~   作:tubaki7

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プロローグ

乾いた音が夏の体育館内に響く。それを撃ったのは自分か、相手か。それも認識できない程自分の意識は朦朧としていたのを覚えている。

 

今から数年前、何度か経験した大会の空気だ。慣れているはずの雰囲気であるはずなのに今はそれがとても息苦しかった。暑さのむさくるしさと息詰まる空気の流れが呼吸を荒くし熱気とストレスが体力と精神力をガリガリと削っていく。

 

視界が翳む。相手が歪み、世界の全てがグニャリと変化し、それを首を振って元に戻すことで集中力を高めようと睨みを利かせる。まだ戦える、まだやれる、自分の“剣”はこんなものではないと言いきかせ一歩を踏み出す。

 

誰かの頑張れの声が聞こえた。踏み出す一歩が力強いものへと変わる。応援する声が選手に不思議な力を与えると言うことをよく聞くがそれもあながちバカにできないと思う。制限された視界の隅に少女の姿が見えた。手に汗握り手すりに力強くしがみ付き何故か涙と鼻水を垂らしながら絶叫するがごとく、自分が女の子だということもお構いなしにただ叫ぶ。周囲の大人たちや彼女の親が静かにするような宥めるも、少女はそれを振り払い叫んだ。声がかれるぐらいに。

 

力が沸いてくる。負けるもんかと相手の得物を真っ向から受け止め押し流す。スタイルもなにもあったもんじゃない。ただ勝ちたいという信念と執着心のみで相手に一太刀浴びせる。

 

 

より速く

 

 

 

より強く

 

 

より正確に。

 

 

 

そうして――――試合は意外な結末で終わりを迎えた。今から約6年前、小学3年の夏の出来事であり忘れもしない自分が好きなものから、そして全てから逃げた忌々しい日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやな汗と不快極まりない夢で目を覚ます。もちろん寝起きは最悪、ただでさえ朝は弱いのにこの仕打ちは一体なんだと心中でぼやきながらベッドから降りる。目を覚ます為の第一手段としてカーテンにより暗くなった部屋へと日光を入れる。日差しは良好、今日も小春日和で温かい。が・・・・

 

 

「眩しい・・・・」

 

 

ハッキリ言って太陽の光でも目が覚めないものは覚めない、これは最終手段を使うしかないとシャワーへと駆け込んで服を脱ぎ棄てて蛇口をひねる。生暖かいお湯が汗を流してスッキリ爽快な気分へと誘っていく。こういうのを爽やかな朝って言うんだろうなと詩的な気分に浸りつつ朝食の支度を整える。この際だから少しこったモノにしたいところだがそれもこの家に暮らすもう一人の住人が決めることであって自分がどうすることもできないのを思い出しすこしアンニュイな気分になる。

 

「さくら~、俺のパンツどこ~」

 

「少しは気を使うってことしなよ!」

 

 

そう言いつつもちゃっかり自分の下着を持ってくる辺り出来た妹だなと少し鼻高々になる。自分と同じ黒く長い髪を二つに纏めた少女が脱衣所ドアの隙間からパンツを投げてきたことに対してなにも思うことはないのかと言われるだろうがそんなことは兄妹なので知ったこっちゃない。

 

 一通り身支度が終わればころあいのようで朝食が二人分用意されていることにさらに上機嫌になる。今朝は和食、納豆に味噌汁、漬物にダシ巻き卵で備えに大根おろしとこれまた手の込んだものを用意したなと思う。相変わらずこの子の家事スキル・・・・というよりはオカンスキルは一体どこまで上がっていくのかと少し不安になる。・・・・まあ、エプロンをつけた姿はかわいいが、それでも持前のスキルのおかげでそれも他人にしか通用しないだろう。

 

ともあれ、朝食を食べることとする。朝食は一日の活力となる為毎日欠かさない。こういうのは小さい頃からの習慣がすっかり身に沁み込んだものからだからそうそう変えられたものではない。

 

だから、遅刻寸前でもその時間は欠かさないのだ。

 

 

「なに呑気なこと言ってんの!お兄そろそろ行かないとマジで遅刻するってば!」

 

「なんと」

 

 

急いで胃の中へと流し込み、鞄を担いで家を出ようとすると、玄関前にある荷物に目が行く。黒い大きな包みに長いケース、それは長年自分が“逃げ続けている”ものの象徴でもあった。

 

 

「・・・・今日は遅いのか?」

 

「うん。部活でね~」

 

「部活って、まだお前仮入部もしてないだろ」

 

「昨日出してきたよ。もちろん、道場の方も行くけどね」

 

 

鞄を持ち、荷物を担いで靴をつま先で数回たたいて履くとドアを開けて外へと出て行く。楽しいそうに、軽やかに踏み出す妹の背中を心底羨ましいと思いつつ自分も家を出て鍵をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってきまーす」

 

 

母親の応答を背中に受け、ドアを開けてマンションの階段を降りていく。やがて登校する生徒たちの群れに合流し自身もその流れに従って歩を進める。足取りは軽やか、気分がいい。今日はなにかいいことありそうだと勝手に今日はいい日になると確信し若干スキップしながら一歩踏み出す。

 

が、それが余計だった。

 

 

「あうっ!?」

 

 

足がもつれて顔面から綺麗にすっころぶ。まるでギャグ漫画のワンシーンのような見事なころびように笑いを通り越して拍手さえ巻き起こるほどだ。自分のドジが心底嫌になるのと同時に周囲のよくわからない状況にとりあえず「どうも、どうも」と頭を下げつつ逃げるようにしてその場を去る。

 

 

(どうしていつもこうなのさ~)

 

 

ドジで泣き虫。何一つ昔から成長がない自分の中身に再び嘆く。こんな自分でも何かできることをと探してみても結局なにも見つからずに変わりない毎日を送る日々。自分を変えるなんてこと、早々できるものではないとは思っていたがやっぱり簡単なものではない。

 

 ふと、目の前を歩く見覚えのある後姿に早めていた足の速度を落として呼びかけるようにしてポーズをする。しかし、その声が声帯を通して出る前に別の声がその背中に呼びかけた。

 

 

「おっはよーつばき。今日もしけた顔してるねぇ」

 

「朝っぱらから爽やかな挨拶をどうも緑川。ところでその顔面一発殴ってもいいか?」

 

「お~コワいコワい。なんてね。おはよう」

 

「ったく…どうしてお前はちょいちょいそういう挨拶はさまないと接することができないんだ」

 

「まあまあ、近所のよしみってことで」

 

「保育園が一緒ってだけで随分となれなれしいな」

 

「あ、ひっどーい!それ結構傷つくんだよ?」

 

「そうか、よかったな。俺は全く傷つかない」

 

「つばきあんたねぇ・・・・」

 

 

ワナワナと拳を震わせる緑川なお。その怒りの矛先を唸りとともに定め、追い回す。その姿を後方から見ているだけの自分にまたため息をつく。この光景も、昔変わらない。といっても、この光景は割と最近だが。それでも嫌気はさすというもので――――

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

声に振り返るとそこには穏やかで優しい笑顔を浮かべる上品な雰囲気を持つこの少女もまた、自と同じクラスの友人だ。

 

 

「れいかちゃん・・・・ううん、なんでもない」

 

「そうですか?…それにしても、相変わらず仲がいいですね。あの二人」

 

「そうだね。なんていうか、兄妹みたい」

 

「それは、鳴神君が上ということですか?」

 

「え、違うの?」

 

「私的にはなおの方が上に見えますが…」

 

 

もう一度じゃれあう二人を見る。・・・・うん、たしかに逆な気がしてきたと苦笑い。

 

 

「朝っぱらから元気やな~あの二人。よ、おはようさん」

 

「おはようございます。あかねさん」

 

 

続いて日野あかね。これで大体いつものメンバーだ。

 

 

「それにしてもよう飽きへんな、なんやつばきだけ態度がやたら違う気がすんねんけど」

 

「それほど気を許せる相手ということではないでしょうか?」

 

「そう・・・・かな・・・・?」

 

 

それは少し違う気もすると黄瀬やよいはじゃれ合う二人にまた視線を戻す。他の男の子と態度が違うって言うのは多分つばき君の性格がなおちゃんの世話焼きを刺激したりしてるからじゃないのかな?と推測してみる。が、それもどうでもいいかと思考を切り二人の後を追うように歩く。

 

いつもの風景にいつもの時間。これが3年間ずっと続くと思っていた・・・・。

 

 

これは、一人の少年と。五人の少女達がおりなす波乱と笑顔に満ちた物語である・・・・

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