スマイルプリキュア!~魔弾剣士と5人の戦士~ 作:tubaki7
「転校生を紹介します」
担任の佐々木なみえが開口一番にそう告げた。季節は春。夏に差し掛かったかのような陽気のこのよき日、寝るには絶好のポジションと時間帯だ。朝学校に登校し、窓側の一番後ろの席に陣取り佐々木の目の届かないよう前の生徒を盾にして伏せる。机のいい按排のヒンヤリ感と心地いい日差しの中少年、鳴神つばきは惰眠をむさぼる。入ってきた転校生とクラスメイトのやんや騒ぐのもどこ吹く風のように右から左へと流しひたすら寝ることに徹する。今日は珍しく午前中で本日の授業は全て消化されるため昼に何を食べようかと考えながら徐々に眠りの中へと落ちていく。
最中、誰かが話しかけてきたがそれももはやつばきの耳には届いていなかった。
◇
「起きんかい!」
拳が後頭部を直撃し、その衝撃でさらに机に額がクリーンヒット。これは見事だと被疑者である日野あかねは「ほぉ~」と感心の声をもらす。
「中々ええモンもってるな。やっぱウチとコンビ組まへんか?」
「誰が組むかこの暴力女!もっとやさしく起こせんのかおまえは!?」
「だって鳴神やしな」
「俺の存在意義っていったい・・・・」
泣きたくなってきたとため息をつく。時計を見ればすでに時刻は昼の12時を指している。綺麗に一ミリのずれもなく重なった2本の針を見て今日もお勤めご苦労さんと言わんばかりにチャイムが自らの役目を果たす為に鳴り響く。チャイムが鳴る前にSHRを終えるとはさすが時間に正確だと評判の我らが担任だと感心しつつ鞄を担ぐ。
「うし、帰ろう」
「ごめん、ウチ部活なんよ」とあかね「私も同じく」となお「私は生徒会の仕事が」とはれいかだ。
「しゃーないか。黄瀬、帰るか」
「う、うん」
誘われないだろうと思っていたからこそ驚愕も大きい。内心では飛び跳ねているが外面ではギリギリそうなるのを抑えることに成功する。まともに会話も最近はしていない為か少しぎこちないのはしかたないと鞄を持って教室を出て行くつばきの後を追いかける。
「そーいや黄瀬はなんか部活入ってないのか?」
「うん。どれもピンと来なくって」
この学校が珍しく強制入部式でなくてよかったと思う。下駄箱で土足に履き替えて玄関から校門へ、そして帰路へとつく。道中、話した会話はつばきの振った話題だけでやよいはそれ以降につづく沈黙に慌てふためく。
どうしよう、何を話そう。昨日のテレビ?好きなマンガの話?話したいこと、知りたいことがたくあんあるのに、それが纏らないから言葉にできない。だからこそ、黄瀬やよいはよく引っ込み思案と勘違いされることが多い。本当は喋ったらそれなりには賑やかな方に入るのだが、交友関係に日野あかねがいるせいでそれがかなり翳んでいるのである。
そう、ただ纏らないだけなのだ。決して男子が苦手というわけではない。断じて。
「黄瀬ってさ」
いきなり名前を呼ばれてドキッとする。
「そんなに静かだったっけ?」
ついに言われたその言葉。これが漫画とかアニメの世界だったら“ガーン!”というエフェクトが付くに違いない。そうしてくれれば目の前の彼にも自分の気持ちのわだかまりが少しは伝わるのだろうが、あいにくと現実はそう甘くはない。
「そ、そうかな?」
「なんか最近よそよそしいって言うかさ。俺、なんかしたっけ?」
純粋にただ何喋っていいかわからないだけなんです!と心の中で叫んでみる。それじゃダメじゃんとまた内側で一人ツッコミを入れる。こんなこと繰り返してるからいつになっても対人恐怖症とか恥ずかしがり屋だとか、引っ込み思案とか言われるんだ。
・・・・まあ、二つ目以外はだいたい当たってるんだけど。
でも、と自分を律する。このままでは何一つ進展しない。ここは思い切って一歩踏み出すべきと噴気して口を開いた。
「ちゅ、ちゅばききゅん!」
噛んだァァァァァァァァァァ!!!!。心の中でまたしても絶叫。派手に原型を粉々にして噛み倒したことにいい加減泣きたくなってきたと内心でも外見でも羞恥で泣きそうになるも、ポカンとした表情から相手の顔が一変。次の瞬間には腹を抱えて笑い出した。
「ちゅ、ちゅばききゅんだって、あははははは!い、イテぇ、腹イテぇ、あはははははっ!」
なにもそこまで大笑いしなくてもいいと思う。泣きたくなる衝動が今度はちょっとした怒りにベクトルチェンジすると一緒にどこか安堵した感覚を覚える。
(つばき君のこんな顔、久しぶりに見たかも・・・・)
いつもほぼ仏頂面というか、不機嫌そうというか、あまり人当りのよくない顔をしている印象があったからいつしか自分もそういう印象をいだくようになっていた。本来の彼はこんな風に無邪気に笑う年相応の男の子だ。すこし大人びて見えるけど、本当はこんな表情もするんだと小さい頃の記憶を思い出しながらふと笑ってみる。
「なに笑ってんの。ちょ、やめてくれるかな?」
「上げて落とされた!?」
「人聞きの悪いことを言うな」
「うぅ~、やっぱりイジワルだよぉ・・・・」
前言撤回。やっぱり小悪魔みたいだと思う。
「・・・・ジョーダンだよ」
「え?」
「だから、ジョーダン。マイケルだよ」
「ごめん、さっぱりわからないんだけど・・・・」
「ああ、そういやこういうノリできなかったなおまえ・・・・」
「ごめんなさい」
一応謝っておく。「気にスンナ」と不意に頭を撫でられたことにあわわとなりながらも久しぶりのその感触に少し浸る。
「黄瀬って妹みたいだよな。なんかウチの妹よりも妹らしい」
「そういえば、さくらちゃん元気?」
「ああ。この前もさ――――」
ここで、少しの違和感に気づく。・・・・・いつからだろうか。彼女のことを“黄瀬”と苗字で呼ぶようになったのは――――・・・・
◇
やよいと別れ商店街をふらつく。食事当番であるさくらが戻るまでは料理のできないつばきは一切ないも口にできないため仕方なく足を伸ばしなにかないかと食糧を調達の為にやってきたのだ。
が、そこで意外すぎる光景を目撃する。なんと屋根の上を二足歩行で狼が走っているのだ。
「・・・・俺もいよいよ厨二病をこじらせたか」
俺の右腕が疼く!とかやってみようかと思いいたるもあいにくと今はツッコミ役不在の為それもしない。では何をするか。そんなことは決まっている。
「好奇心は止められないさ!」
もちろん追いかける。あんなもんが街にいる、そんな奇想天外な光景を是非この目でしっかりと焼きつけておきたいとダッシュする。
さて、どれぐらいたっただろうか。気が付けば狼を見失い、どこか辺りの雰囲気も暗い。というか空が変だと辺りを見回す。まだ2時にもなっていないのにこの人気のなさと雰囲気は不気味すぎると怪訝に思いつつ仕方がないので歩き回ることに。
突き当りを右へ、今度は左へ・・・・。そうしている内に、今度は目の前が轟音をたててたてものごと吹っ飛んだ。なんだ、爆発事故かと野次馬根性を発揮し行ってみる。すると、そこにはなにやらコスプレみたいな恰好をしたピンクの少女がボロボロで倒れていた。
ただ事ではない。瞬間的にそう判断したつばきのとった行動は彼女の元にかけより呼びかけること。
「おい、大丈夫か!?」
反応がある。息をしている。身を起こす辺りまだ躰は動くようだと安堵すると、此方をみた少女が「あ~!」と声をあげた。
「あなた、たしか隣で寝てた・・・・」
はて、なんのことかと首を傾げると同時につばきの思考は数時間前まで遡る。隣の席で寝ていたというキーワードから推測し、その時自分の右隣が誰だったのかを思い出して声をあげた。
「誰?」
すっ転ぶ少女。覚えてないのと苦笑されたことに当たり前だと返す。
「寝てたんだからな」
「それ胸張って言うことじゃなと思う・・・・」
「それもそうか。で、なんなんだこれは」
「それは――――」と言いかけて彼女が動いた。此方を庇うかのように抱いて飛ぶと、そこを大きな何かが通過してさらに後方の建物を壊したことに驚愕する。
「なんじゃこりゃああああああああああ!?」
「なんだテメー。このバッドエンド空間で普通に動けるなんて・・・・」
立ち込める煙から一つのシルエットが出てきた。先ほど見たあの狼だと後姿から推測する。
「狼が喋ってる!?」
「気を付けるクル!あいつは悪い奴クル!」
「今度は子豚のぬいぐるみが喋った!?」
「キャンディは子豚じゃないクル!」
少女の陰からひょっこり顔をだしたこれまたお目に掛かれないぬいぐるみのような愛くるしい生き物が話しかけてきたことに軽くパニックになる。
「なんだか知らねーが、まとめて消えろ!」
狼の声がまるでなにかに命令するかのように響く。「アカンベー」という声とともに現れたのはあの巨大な腕の正体であろう生き物――――いや、はたして生き物なのだろうか。
「危ない!」
立ちふさがり、巨大なパンチを受け止める少女。その華奢な躰からは想像もつかないようなワイルドさに一瞬見惚れてしまうも、ハッとなって叫ぶ。
「何してんだ、逃げろよ!」
「ダメ!それじゃキャンディも鳴神君もあの狼さん達に怪我させられちゃう!」
「んなことどーだっていいだろ!つか、なんで俺の名前・・・・」
「わ、私星空みゆき。今はキュアハッピーっていうれしいんだけど、よろしく・・・・っ!」
笑顔でいう星空みゆきことキュアハッピー。そんなことしてる場合じゃないとツッコミを入れるも彼女は一向に逃げる素振りを見せない。
「プリキュアってのも大したことねーな。やっちまえアカンベー!」
再び化け物が振りかぶり、拳を向けてきてそれをまた受け止める。
「だから逃げろって!」
「ヤダ!」
「~、なんでそんな頑張ってんだよ!怪我すんのは俺らじゃなくておまえだろ!?しかも俺なんかまだ逢ってまともに会話なんて――――」
「自己紹介した!だったら、他人なんかじゃないよ!」
言おうとした言葉を先に言われ、しかも否定されたことに驚くつばき。無茶苦茶な理由に「は?」となるもなにも言い返せなくてただ彼女の言葉を聞く。
「これから一緒に勉強したり、学校生活を送るクラスメイトだもん。こんなことに巻き込まれて怪我させるなんて、私は絶対に嫌だ!」
「だからって、こんな・・・・」
「それに、まだ鳴神君とお話してない!せっかく出逢えたのに、なにも話せないでお別れなんて、したくない!」
無茶苦茶だ。馬鹿げている。でも、なぜか心に響く言葉。それがつばきの中に眠る何かを呼び覚ます。
「~、だあああもう!」
傍に落ちていた鉄パイプを握り、受け止めていた腕向けて振り下ろす。鋭い太刀筋はアカンベーの腕を叩き、強烈な打撃となって痛覚を刺激した。
「わけわかんないけど・・・・正直逃げ出したいけど!でも!必死に、それも命がけで頑張ってる女の子目にして自分だけ逃げるなんてそんなカッコ悪いマネできるわけないでしょ!」
足が震える。声が裏返る。それでも鳴神つばきは逃げない。背に守るべきものが――――“あの時と同じように、か弱い者がいる限り”。
「ハッ、めんどくせぇ・・・・さくっとやっちまえ!アカンベー!」
ふたたび振り下ろされる腕。絶体絶命かと思われたその時、光が瞬いた。
◇
「・・・・は?」
そこは一面何もない空間。先ほどまで相対していた化け物たちどころかみゆきもキャンディもいない。どこともない、逸脱した空間に鳴神つばきは立っていた。
[力が欲しいか]
突如響いた声に振り向く。そこにはブローチのような大きさの龍の顔があった。
[力が欲しいかと聞いている]
どうやら声の主は此奴らしい。そう判断して問いかけてみる。
「おまえ、いったいなんなんだ?」
[俺の名前はゲキリュウケン。鳴神つばき、力が欲しいか?]
どうして名前を、と言いかけたところでその言葉を呑みこむ。どうせ此奴も訊いたところで後回しとか言われるんだろうと諦めでそれを言わず逆に問いかけられている質問に対し答える。
「・・・・ヒーローなんて、絶対になれないと思ってたけどさ。この際その元がどちでもいいや。いいぜ。よこせよ。その力って奴をさ」
[・・・・契約成立だ]
◇
光が晴れていく。それがやがて目の前で腕を受け止めている陰に収束していき、その場に居合わせている全ての視線がそこに注がれる。腕を弾き、やがて光が納まったそこにいたのは白い鎧を身に纏い、龍の装飾をあしらった独特の形をした剣を持つ剣士の姿があった。
「あれは、プリキュアと並ぶ伝説の戦士クル!メルヘンランドを守護する伝説の剣に選ばれた戦士、その名も――――」
『リュウケンドー、来迅!』
今、ここに運命が動き始めた。