スマイルプリキュア!~魔弾剣士と5人の戦士~ 作:tubaki7
「どうしてこうなった・・・・」
溜息をつきながら鋏を縦横ななめに動かすつばき。チョキチョキと規則正しいリズムで動いている音を聴けば手先の器用さがうかがえるものだが、とうの本人はやる気ほぼゼロ。悪態をつきながらも仕方がないと言い聞かせて手を動かす。
もちろん、口もだ。
「だいたいみゆきも人が良すぎる!これ生徒会の仕事だろ?なんで俺まで・・・・」
「とかなんとか言いながら手伝ってるじゃん。つばき君も案外ノリノリでしょ?」
「んなわけあるか。俺変身してまで頼んだのにノーだったんだぞ?恩を売ったところではいわかりましたってなるわけが・・・・」
「そんなんじゃないよ。私はただ、来てくれた人とやってるみんなが笑顔になれたらいいって思っただけ」
「・・・・それだけか?」
「それだけだよ」
そう、こういうところだ。こういう有無を言わせず自分のペースに巻き込んでいくところがあるから此奴は始末におけないとつばきは思う。結局のところ、帰ろうとしたところを強引に引き留められてここにいるわけだが、今では自分からせっせと作業を手伝うようにまでなっている。以前、ゲキリュウケンが言っていた〔星空みゆき、彼女には魔力とは違う不思議なパワーを感じる〕と言っていたがこういうところなのだろう。
強引に、でもイヤイヤにさせない、そんな不思議と居心地のいい感覚。なんとも理解不能な奴だ。
ふと、昔のことを思い出す。
「そういや、小さい頃に行った図書館でヘンな奴に逢ったっけ」
「ヘンな奴?」
「ああ。一人で本読んでたら急に話しかけられてさ。返事したら逃げてくからついてってどうして逃げるのかって訊いたら、また黙りこくってどっか行っちまってな?でもその後道場に見学来ててさ。結局一回も話すことなくてそれから一度も逢ってなかったんだけど・・・・ソイツもよく読んでたなぁ、たしか白雪姫とシンデレラ・・・・だっけ」
独り言のように呟いて作業に戻るつばき。それにやよいとれいかが記憶の奥底を漁る。幼馴染である二人ならきっとどこかで自分達も逢っているかもしれない思い思考の海を探索するも、結局答えはでないままで作業に戻ることとする。
(図書館・・・・まさか、ね)
一瞬何かを思い出しかけたが、今はそれどころではないと思考を瞬時に切り替える。れいかと題材に使う白雪姫の絵本を元に案を練るみゆきはとても楽しそうに笑っていた。
ほどなくして、生徒会+みゆき達による白雪姫は完成した。どのパートを誰が担当したのか一目瞭然で、それぞれ渾身の出来だと互いを労う。やよいはキャラクターと背景の絵を、あかねが紙ふぶき全般で、なおとつばきが画用紙や段ボール等で作った小道具類、そして段取りやセリフなどは生徒会メンバーとみゆきによるものだ。
「俺の鋏捌きもなかなかのモンだろ?」
一人外れて完成した備品に魅入っているれいかの横にしゃがんでどうだといわんばかりに一つ手に取る。
「・・・・そうですね。本当に素晴らしい出来です」
白雪姫のキャラクターパネルをそっと撫でて呟くれいか。
「…たまには悪くないもんだな。こういうの」
「皆さんと居る時は、いつもこんな感じではないのですか?」
「まぁ大体あってる。みゆきがいっつも何かに首突っ込んでは巻き込まれてるって感じでな。おかげで白髪ができたような気がするよ」
「フフフ・・・・でも、とっても楽しそうですよ?近頃は」
「・・・・おまえも居てくれたら、もっと楽しいんだろうな。また、昔みたいに」
ふっとでてきた言葉にれいかは驚いて、そして少し気恥ずかしくてつばきを見る。その横顔は、どこか懐かしむように大人びて見えていた。
「…なんてな。ま、気が向いたらおまえも来いよ。いつも俺ら、中庭のあの場所で飯食ってるからさ。騒がしいけど、まぁ案外楽しいぜ」
そう言って立ち上がり鞄を担ぐつばき。「もう帰るの?」というなおの言葉につばきは振り向きもせずに時計を指さす。見ると、とうに完全下校時刻は過ぎていた。その為揃って慌てて出ていく。れいかも遅れないようにと鞄を手に生徒会室を出ていこうとする。
「…また、昔みたいに・・・・か」
振り返って一言そう呟いてから、ドアを閉め、鍵をかけた。
◇
そして、公演当日。近所の小学校の体育館を借りての読み聞かせ。会場であるステージ前にはそこそこ大人数の小学校低学年の子供たちが集まって座っている。袖口でその様子を見ていたみゆきはガッチガチに緊張し、今にも「帰りたい」とか言い出しそうなかんじだが、ここでそうしないのは彼女なりの責任感と「やり遂げたい」という気持ちなのだろう。そして、それ以上に自分も今日と言う日を楽しみにしていたからというのもあるのかもしれない。
「さ、そろそろ始まるよ!」
なおの号令とともにれいか達がステージに出てくる。それに合わせて背景と小道具類をセッティングし、その間れいかが時間を繋ぐ。
「本日は読み聞かせ会にお越しいただき、ありがとうございます。最後までお楽しみください」
大きな拍手とともに3人が席に着き、それと同時にみゆき、やよい、つばきの配置も完了しいよいよスタートとなる。
進行は至って順調だ。なんのトラブルもなく、読む側も、演出側も、そして観客側も、誰もが白雪姫の世界観を楽しんでいる。が、問題はいつ何時起こるかわからない。例えば―――――そう、〝そこにいるはずのないキャストが登場する〟とか。
袖口から、誰かが歩いてくる。よく見ると緑色の怪しげな服装をした老婆だ。引き笑いを浮かべ、いかにも悪役の魔女といった雰囲気を醸し出している。演出としてはかなりいいが、生憎とこの人物が出てくることなどこの場にいる全員が知らない。ましてやこれは自分たちだけで作った作品で、第三者が介入してくるなどありえない。
「誰?あの人」
「ってか自分で毒りんごって言ってもうとるし」
「どこからどう見てもあれ普通のりんごだよね」
「・・・・いや、違う」
「違うって、まさかホンマに毒りんごとか言うんとちゃうか?」
「そうじゃない。アレは――――」
「――――保護者の方ですか?席に案内します」
席を立ち歩み寄って手を差し出すれいか。が、それは払われ、そのことがつばきの違和感を確信にかえる。
「白雪姫が幸せになるなんてウソだワサ。ホントはみんなバッドエンドだワサ!」
「マズい、みんな、逃げ――――」
「世界よ、最悪の結末バッドエンドに染まるだワサ。白紙の未来を黒く塗りつぶすだワサ!」
つばきが避難を告げるよりもはやく世界はバッドエンド空間へと染まる。希望も、夢も、何もかもが崩れて失意と絶望に支配される。
「こんなことしても、なんの意味もありません・・・・」
「れいか!」
「この展開・・・・まさかお前、あの狼たちと同類か!」
「フヒヒヒヒ、私の名前はマジョリーナ。バッドエンド王国の魔女だワサ」
「バッドエンド王国!?」
〔メルヘンランドに攻め入った奴らの総称で、奴らの国だ。今、メルヘンランドもこの空間と同じ状況に変えられる寸前なんだ〕
「そんなの・・・・絶対にゆるさない!行くよ、みんな!」
――――ready!? len't go!
「ゲキリュウ変身!」
まばゆい光が5人を包み、戦士と剣士へと変える。
『リュウケンドー、来迅!以下省略!』
「っちょ、名乗りやらせてよぉ!」
「そうだよ!ヒーローに名乗りは必要不可欠だよ!」
『やかましい!ンな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ』
そうだった、とマジョリーナに向き直る。が、なんだか言いくるめられたきがしてならないハッピーとピースは半ば納得のいかないまま構える。
「愉快だワサ。だが今までのようにはいかないだワサ!出でよアカンべー!」
確固たる自信がるのか、そう言い放ちアカンべーを召喚する。媒体は鏡の絵が描かれたパネルで、アカンべーも鏡でできている。頭にリボンが付いているあたり少々拍子抜け感じもするが、それでも相手はアカンべーで先ほどのマジョリーナの言葉もある。油断は禁物とリュウケンドーは愛刀を構えた。
「鏡の力を見せるだワサ!」
マジョリーナの指示でアカンべーが・・・・増殖した。5人を取り囲むようにして立っている。
「その中に本物のアカンべーは一体だけ。お前たちにわかるかな!?」
『ハッ、こんな子供だましに誰が引っかかるかっての。テメーの狙いは俺たちをバテさせてから叩く気だろうが、そうはいか―――――』
「プリキュア・ハッピーシャワー!」
『――――って、学習能力ゼロかお前らはァ!?』
浄化技=エネルギー切れを意味するということを完全に忘れアカンべーに連発するプリキュア。案の定、本体に当ることなく分身ばかりを捉えてしまい、疲れ果てて床にヘタレこんでしまう。
『お前らな~!』
「ハッハッハッ!こいつは傑作だワサ!さぁリュウケンドー、残るはお前だけだワサ。やれアカンべー!」
『そうはいくか!』
ゲキリュウケンを振りかぶり、回転するようにして振りぬく。鋭い太刀筋は一斉に襲い掛かってきたアカンべー達をその斬撃により消滅させていく。
『一体一体じゃ無理でも、纏めてやれば・・・・!』
「そいつはどうかな?」
にやりとマジョリーナが笑う。消えたアカンべーは・・・・5体。つまり、全て偽物。本物など、さいしょから混ざっていなかったのだ。だが、いつからだ?いつからすり替わった?
〔リュウケンドー、上だ!〕
ゲキリュウケンの警告。しかしながらそれも間に合うはずもなく、アカンべーの拳はプリキュアとリュウケンドーを捉えた。
「他愛もない・・・・ん?」
落ちてきた白雪姫のパネルを見下ろすマジョリーナ。こんなもので人間は笑顔になる。全く持って理解できない。忌々しい。
だから。
「こんなもの、なんの意味があるだワサ」
踏み潰す。ぐしゃりと歪んでせっかくの備品が使い物にならなくなってしまった。
『――――ッ!』
「これは、いったい・・・・?」
見れば、れいかが正気を取り戻して困惑している。いったいなにがきっかけでそうなったかは知らないが、このままでは危険だ。
「アンタかい?絵本の読み聞かせ会なんてしてるのは…?」
そしてマジョリーナの注意がれいかへと向く。
「よくもまぁそんなそんな無駄なことができるだワサ。おまけにこんなくだらない人形まで作って、チャンチャラおかしいだワサ!」
足元に落ちていた白雪姫のイラストを蹴りあげる。床に転がり、虚しく落ちた。
――――たまには悪くないもんだな。こういうのも。
――――青木さん、明日来るみんなをウルトラハッピーにしようよ!
――――おまえも居てくれたら、もっと楽しいんだろうな。また、昔みたいに・・・・
拾い上げ、見つめるれいか。怒りと、悲しみとが混ざり合い、キッと睨み据える。立ち上がろうと足に力を入れた瞬間、声が響いた。
『くだならい…そうだな、俺も最初はそうだったよ。でもな、此奴ら、本当に楽しそうに笑いながら作業するんだよ。無駄だと思うけどさ…でも、此奴らやここにいる子供たちにとっては、一番楽しみにしていたことなんだ。それを・・・・こんなことの為にぶち壊してさァ・・・・久しぶりに頭に来たぜ、クソババァ!』
怒りに震えながら立ち上がるリュウケンドー。その背中を見て、れいかはステージから跳び、彼の前へと出る。
『バッ、おまえ何やってんだ!?逃げろ!』
「・・・・あなた方がどこの誰かは存じ上げませんが、今すぐお引き取り願います・・・・!」
「いきなりしゃしゃり出てきて、なんなんだお前は!?」
「私は、この七色が丘中学校生徒会副会長、青木れいか。あなた方の校内での乱暴なふるまい、背板会副会長として見過ごせません・・・・いいえ、私青木れいかが、許しません!」
「何を小癪な・・・・!」
『・・・・ハハ。ったく、ホント律儀なやつだよなお前』
「鳴神君…?」
『昔っからそういうとこ変わんねーな。おせっかいでしつこくってさ』
「・・・そうですね。でも、これは私も頭にきました」
『逃げろって言っても逃げないんだろ?だったら―――――覚悟決めろ』
「覚悟なら、もうできています。私の友人を傷つけたこと・・・・絶対に、許しません!」
瞬間、光が弾けた。