スマイルプリキュア!~魔弾剣士と5人の戦士~ 作:tubaki7
その日はよく晴れた休日だった。いつものごとくつばきが惰眠をむさぼっていると、一本の電話が入った。携帯電話のディスプレイを見て見れば、〝星空みゆき〟と書かれている。
面倒くさい。思考するまでもなく脳内がその答えを弾きだして居留守の為に布団の中へともぐりこむ。今までの疲れもとり切れていないのか、温い布団の温度は徐々に失いかけていた睡魔を復活させていきつばきの意識を飲み込んでいく。
――――あぁ、この瞬間が一番幸せだ。
ウトウトと寝息を次第に立て始める。やがて全ての感覚が感じられなくなり不思議な浮遊感に包まれて夢の中へ・・・・
「あ~、やっぱり寝てる!」
「やよいの言った通りやな」
「つばき君が面倒事避ける時は大体こんな感じなの」
旅立てなかった。
◇
「「「「「祝、全員集合~!」」」」」
「クル~!」
綺麗にハモった声で久寿玉の紐を轢けば、中からキャンディがつるされて落ちてくる。垂れ幕には〝祝・せいぞろい〟と書いてあり、どうやらこの為にここに来たらしい。
「つか何でウチなんだよ。それからキャンディ、おまえまさかここに来るまでずっとそこにいたのか。軽く感心するわ」
「だって電話しても来る保証なんてないじゃん。つばきってばこういうの一切顔出さないし」
「それで、ここにしようというやよいさんの提案で来ました。あ、ちなみによしのさんやさくらさんにも了承は得ております」
みんなグルかよと項垂れながらこぼす。パジャマから仕方なく私服に着替え、今いるのはベッドの上だ。テーブルにはさすがに窮屈なので座れない。自分の部屋に妹と母親以外の女の子がいる、という時点では普通に喜べるのだろうがつばきにとっては休日の二度寝を邪魔された忌々しい存在でしかない。追い出そうにも家族にヘンな目で見られることを考慮すればそう易々と取れる手段でもないためなにもできずにいた。
「では質問です。プリキュアとは、なんですか?」
「伝説の戦士クル」
「はいは~い。どうして皆さんは僕の休日ライフをこぞって邪魔しにくるのかなぁ?」
「アンタは黙っとき!」
「解せない・・・・」
この部屋の主はあっという間に占拠され、今ではベッドの上でうな垂れるしかない。
れいかをかわきりに始まったキャンディへの質問。これからのこと、敵の目的、いったいどういう存在なのか等、ごくごく自然なことだったが、当のキャンディはマズい、という顔をして久寿玉の中へと戻り引きこもってしまった。その直後に発せられた「キャンディ、ちょっとわからないクル」という言葉にその場にいた全員が絶句する。
「おまえなぁ、少しは自分の使命とやらを・・・・ん?」
「どうしたの?―――――って、本?」
「こっちに来る・・・・って、滅茶苦茶速いやん!」
開いていた窓の外から見えるのは、此方に向かって飛来する本。それはまっすぐに進路を変えることなくつばきの部屋へと向かっていた。そしてその進路の先には――――みゆきがいる。
「危ない!」
「ふぇ?――――キャァ!?」
咄嗟の判断でみゆきを押し倒して本を回避するつばき。しかし、それがいけなかった。
「あらあら・・・・」
「つばき、意外と大胆・・・・?」
「やよいは刺激がつよいな」
「え、なになに!?どうなってるのォ~!?」
床に押し倒されたいみゆき。その上には当然、彼女を助けようとしてこうなったつばきがいる。二人の顔は距離にしてわずか数センチ。互いの顔がすぐ近くにあることに顔を真っ赤にし、みゆきは口を数回パクパクさせた後その華奢な躰からは想像もつかない程の腕力でつばきを押しどけた。平手は顔面にクリーンヒットし、成す術もなくそのまま後方に倒れた。
「ああ、すまない・・・・っと、これはいったいどういう?」
◇
「え~っと、つまりだ。ポップはキャンディの兄貴で、その妹がこっちでしっかりやれているかどうかを見に来た・・・・こういうことでいいな?」
「ざっくばらんに言って間違いないでござるよつばき殿」
顔を赤くはらしたつばきがいかにも不機嫌そうに胡坐をかいて言う。まるでどこぞの殿様のようだと言いたいあかねだが、あえてそれを飲み込む。
「んで?俺のことも教えてくれるんだろうな?」
「もちろんでござる。キャンディ、伝説の戦士達の本をここに」
「・・・・クル?」
「おい、ちょっと待て。まさかおまえ・・・・」
落とした、らしい。みゆきと初めて逢ったときまではあったらしいが、それ以降は見てないとのこと。そんな重要な本をどうして今の今まで放置していたとつばきが問いただすと、キャンディが泣きそうな顔で「だって、だって」とポップの後ろに引っ込みながら言う。まあまあと宥めるやよいとなおだが、つばきの怒りは収まることはない。
と、そこへ。
「思い出した!あの絵本、〝不思議図書館〟に置いたままだ!」
「犯人はおまえか脳内花畑がァ!」
「ヒィィ!?」
「お、落ち着いてください!」
それからつばきを宥めるのに30分の時間を費やし、なんとか冷静さを取り戻した後ポップの案内で不思議図書館へと赴くことに。なんでも、その空間へは本棚さえあればどこからでも行けるとのことらしい。特定の法則に従って本をズラスと、突然本棚が光り出した。どうやら通じたらしい。そしてそこへ吸い込まれるようにして入って行くつばき達。虹色の光の通路を抜けた先にみえたのは、たくさんの本を陳列させた、まるでおとぎ話の世界に出てくるような開けた場所だった。周囲は木の根のようなもので囲まれ、遥か天井から優しい光が降り注いでいる。
「お、おまえらな・・・・いい加減俺もキレてもいいんだぜ?」
つばきを下敷きに5人が空間から抜け出てくる。今日はずっとこんな扱いかと軽くへこむもそれでも一度怒っておかなければ気がすまない。
だが、そんなことはお構いなしに事態は進む。無事に絵本もみつかり、ポップによる読み聞かせのようなものが始まった。
内容はゲキリュウケンと聞かされていたものとほぼ同じ。メルヘンランドという絵本の精達が暮らす平和な国にある日突然バッドエンド王国の王、悪の皇帝ピエーロが侵攻を開始する。しかしのれはメルヘンランドの女王であるロイヤルクイーンにより阻止され、力を失ったクイーンはキャンディに伝説の戦士プリキュアと魔弾剣士リュウケンドーを探してくるよう命じられる。そして無事その目的は達成されたわけだが―――――
「・・・・続きはないのか?」
その次のページは全くの白紙だった。
「この物語の主人公は君たちでござる。だからこの先の続きは、君たちで作っていくでござるよ」
ひとしきりの説明を終えて、今回得た情報を脳内で整理するとこうなる。
1.敵の作るアカンべーは元々キュアデコルというもので、それを浄化し、奪われたデコルを取り返す。
2.敵もまた同じく親玉の復活を目的とし、バッドエナジーを集めるためにこの世界にやってきている。
3.デコルを集めてロイヤルクイーンを復活させ、バッドエンド王国を打倒する。
おおまかにいえばこの3つがプリキュアとリュウケンドーに与えられた使命であり、すべきこと。
(本当に見返りがないな・・・・命がけで戦って、こっちには何もない。都合がよすぎる話だ)
心中で呟きながらつばきは思考する。別に見返りが欲しいというわけではないが、こうも何もないと本当に命を懸けてまでやることなのかどうかが怪しくなってくる。捻くれた思考だとわかってはいるものの、そう考えずにはいられなかった。
「――――それで、つばき君はどんなのがいいと思う?」
そうみゆきに言われて顔を上げる。なんの話だというつばきの反応を見る限りやっぱり聞いてなかったんだなと溜息をつかれた。
「折角5人そろったんだから、決めセリフを決めようよってことになったの」
「つばきはなんかあらへんの?」
「いや、俺プリキュアじゃないから心底どうでもいいんだけど・・・・」
「そこをなんとか!」
「お願いします」
そうは言われても、そうホイホイでてくるものではないので少し考える。いったいどうしてプリキュアでもないのにこんなことを考えなければならないのか疑問だが、この問答をいつまでも繰り返すときりがない為仕方なく考えることに。
「・・・・ダメだ、思い浮かばない」
とはいえ、自分に関係ないと考えてしまうとどうしても脳が仕事をしてくれない。結局のところ、この議題は30分以上続き――――
〔っ、バッドエンド空間の気配だ!〕
ゲキリュウケンのこの一言があるまで、続けられた。