スマイルプリキュア!~魔弾剣士と5人の戦士~   作:tubaki7

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Episode6

・・・・中々やるもんだな。得点盤に書かれた数字とこれまでの試合経過を見てそう思う。点を取っては取られの繰り返しでかなり接戦している。相手は結構な強豪校だというのにそれに喰らいついていってるのだからかなりチームワークと個々の実力ともに申し分ないと評価しても過剰評価にはなるまい。

 

 だが、此方が目当ての選手はまだ出てすらいない。いや、レギュラーですらない。

 

頬杖をついてコートから外れたベンチを見る。幸い目線の高くなっているこの位置からはコート内に限らず全体の様子が見渡せるので身を動かすことなく視線のみの移動で彼女をとらえることができた。日野あかね――――試合開始からすでに数十分。まだ彼女はコートに一度も立っていない。

 

 

「日野さん、あんなに特訓したのに・・・・」

 

 

みゆきの言うこともわかるが、たくさん練習したからと言って試合に必ずしも出られるとは限らない。一流のスポーツ選手でもベンチ入りだけでその選手生涯を終える人もいるのだから、学生の部活でもそれは例外ではない。

 

 

「スポーツの世界ってのはそういうもんだ。努力したからといって必ずしもそれが報われるなんてそれほど都合のいい世界でもないんだよ」

 

「でもそれじゃ日野さんがかわいそう・・・・」

 

 

気持ちはわからないでもないがな、と心中で呟きここから見える限りの彼女の表情を見る。拳を膝の上で握り歯を食いしばっているのがわかる。チームが点をとればそれは緩み、逆に取られればそれは力のこもったものへと変わる。状況とその時のビジョンによってコロコロ変わるその様から目線を動かせば、その先には得点盤が。差はわずかに2点。23-21とこちらが僅かに負けている。セットカウントは2対2で同点。この試合の結果がすべてを握っていた。

 

 その時、顧問の教師が動いた。

 

 

「選手交代。三田に代わって、日野!」

 

 

ようやく呼ばれた名前。みなぎる闘志と鋭いまなざしを携え、あかねはコートに入れ替わる。

 

 

「日野さん、がんば――――」

 

「静かにしろ。声援は邪魔だ」

 

「え~なんで?」

 

 

不満全開のみゆき。言いたい気持ちはわからないでもないが時として外野からの声はプレーミスに繋がることがある、今がちょうどその空気だとみゆきに話すと渋々納得し両手を組み合合わせて祈るようなポーズてコートという戦場に立ったオレンジ髪の少女を見つめる。ここからは一球一球が大事になってくる、そんな場面で呼ばれたということは、それほど彼女に期待がかかっているということの表れである。それは邪推などではなく、ここ最近の彼女の練習ぶりを見てきたつばきだからこそ思えることであり、確信だった。

 

自陣からサーブが撃たれる。ネットを越え相手がレシーブしたのを確認し、あかねはその白球を目で追う。ネット際にいる選手がトスを上げた。そしてその先には、アタッカーの選手。撃たれるボール。乾いた音が鳴り、次に聞こえたのはボールが肌に当った時に聞こえる鋭い音。それを聞いて、あかねの躰は思考するよりも早く動く。どこに行けばいいのか、どうすればいいのかが考えるよりも躰に刷り込まれた動きが情景反射、無意識でもそれに倣って動いて次のアクションに備える。

 

ボールが天高くあがる。それがちょうど真上の太陽と重なり影を落とす。

 

 

――――今や!

 

足を曲げてバネのようにして跳躍。躰を僅かに後ろへとそり、利き腕である右手を振りかぶって構える。無駄な力はいらない。必要なのは、正確なコントロールと、パワー。それを・・・・叩き付けるようにして撃つ!

 

 

「おりゃあああああああああ!」

 

 

雄叫びと共にボールが撃たれる。小気味いい音と共に次に響いたのは、床を打ち付ける音と、横目でちらりと見えた審判の手。それが意味するのは――――得点。つまり、アタックの成功。着地すると同時に、咆哮を上げる。

 

 

「や、やった!やったよつばき君!」

 

「フン、当然だ。なんせ、この俺が特訓に付き合って――――って、抱き着くな暑苦しい!」

 

 

だがまだ点差はある。これを埋めるまでは油断ならないと思っていたが、そんなつばきの予想をはるか上回る活躍を日野あかねという少女は見せた。彼女がコートに立ってからわずか数分の間に逆転しマッチポイントで点差を見事にひっくり返したのだ。それに自分の事のように喜ぶみゆきと、隠れてキャンディも同様にはしゃぐ。

 

努力は裏切らない――――今はくだらないと吐き捨てたその言葉の本当の意味と結果を目の当たりにしてつばきは少しだけ羨ましくおもった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらねぇ・・・・」

 

 

空に浮かびながらそう憎しみを籠めて言う。眼下に見えるは笑顔を浮かべるあのにっくき二人の姿。自分のプライドをズタズタにしたあの戦士達の笑う姿だ。それがあの時の光景をウルフルンの怒りを加速させる。

 

 

「あの時は油断したが今日は違げェ。あのガキ共に目にもの見せてやるぜ・・・・!」

 

 

持ってきた本を広げる。さあ、これで準備は整った。空いている手の中には使い古されたような黒い絵の具のチューブを持ちそれを力いっぱい握る。チューブが弾け、手中にぬめりとした感触を感じたウルフルンはまるでの呪うかのように口上を高らかに詠唱する。

 

 

「世界よ、最悪の結末。バッドエンドに染まれ!白紙の未来を、黒く塗りつぶすのだ!」

 

 

こんな世界、ブチ壊してやる。あいつ等も、この空も、音も何もかも、全部を真っ黒にそめてその空間は通常とは逸脱した空間へと包んでいく。バッドエンド空間――――やっぱりこっちは居心地がいい。彼方此方からあがるバッドエナジーを見ながら本を掲げる。それは自らの主君である存在の糧となるものだ。ああ、早くあの方が作り出す世界に帰りたい。こんなイヤなものばかりがあふれる世界など、一秒でもいたくはない。

 

だからとっとと邪魔者を片付けて帰ろう。後のことは、それからでもいい。ウルフルンは此方を睨み付ける者たちを見下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〔つばき、バッドエンド空間だ!〕

 

「彼奴が近くにいるクル・・・・」

 

 

ゲキリュウケンが警告を、キャンディはおびえるようにしてみゆきの手におさまる。聞こえてきた笑い声と気配に視線を動かせば、ゆっくりと降下してくるウルフルンの姿が。

 

 

「彼奴、生きてたのか…!」

 

「忘れもしねェぜリュウケンドー・・・・テメーに受けた屈辱、今日はそれを倍返しだ!出でよアカンべー!」

 

 

取り出した赤鼻を掲げれば、現れたのはバレーボールを媒体としたアカンべーだ。試合をめちゃくちゃにした挙句、あかねの大事な試合を邪魔した相手に、さすがのみゆきの怒りも頂点に達する。鋭く睨む視線をウルフルンへと向け、鞄に下げていたパクトを握る。

 

 

「行くよ、つばき君」

 

「言われなくても。ゲキリュウケン!」

 

 

つばきがゲキリュウケンを戦闘形態へと変化させる。みゆきデコルを、つばきは魔弾キーを手にそれぞれ叫ぶ。

 

 

「リュウケンキー、発動!」

 

〔チェンジ、リュウケンドー〕

 

「ゲキリュウ変身!」

 

〔ready?〕

 

「プリキュア、スマイルチャージ!」

 

〔GO!let’s GO ハッピー!」

 

 

二色の光に包まれて姿を現す二人の戦士。

 

 

「キラキラ輝く未来の光、キュアハッピー!」

 

『リュウケンドー、来迅!』

 

 

憎い。奴らが憎い。そのムカつく面を恐怖と絶望で塗りつぶしたい。ウルフルンの念がアカンべーの戦闘力へと変換され、激突する。跳躍してのキックと剣をバックスステップで躱し、巨大な拳を振り下ろしてくる。それを左右に跳んで躱した直後、着地して時間差をつけてのアタックでアカンべーに迫る。が、アカンべーは自身の能力でボールを作り出してそれを投げつけることによりハッピーを、そしてリュウケンドーを弾く。叫びと共に地面に叩き付けられるハッピー、なんとかゲキリュウケンでボールを切り裂いたリュウケンドーはそんなハッピーを気にかけて駆け寄る。

 

 

『大丈夫か!?』

 

「な、なんとか・・・・!」

 

 

起き上がるハッピーを背に庇いながら剣を構える。

 

 

「あの時はちと油断しが今回はそうはいかねェぜ」

 

『チッ・・・・なら!』

 

 

魔弾切りで、とホルダーに手を置くリュウケンドーだがその背後でなにやら吠えるハッピーに振り向く。スマイルパクトにエネルギーが収束されていくのを見て危険を感じて慌ててしゃがむ。

 

 

「プリキュア・ハッピーシャワー!」

 

 

リュウケンドーが身を屈めた直後に放たれるピンクの光。頭上を翳めて飛んでいくそのエネルギーの奔流はまさかアカンべーをとらえることなく虚空を通過して虚しく消える。

 

 

「そうおんなじ手を何度も喰らうかバーカ!」

 

「しまった・・・・!」

 

『アホか!?俺まで巻き込む気かおまえは!?』

 

「今は喧嘩してる場合じゃないクル!」

 

『やかましい!大体おまえは毎回毎回――――!』

 

 

気配に気が付いてリュウケンドーはハッピーを突き飛ばす。直後、巨大な手が通過してリュウケンドーを攫った。その時ゲキリュウケンは手を離れてしまい地面に落ちる。ギチギチと締め上げるアカンべー。巨大で強固な手はビクともしない。

 

 

「こいつは傑作だぜ!足を引っ張った挙句仲間割れたァ実に愉快だ!」

 

『クソッタレが・・・・!』

 

〔リュウケンドー!〕

 

 

さらに手に力を込めるアカンべー。いたぶることを楽しむウルフルンにハッピーは後悔の念にさいなまれながらも地面に落ちたゲキリュウケンを握る。

 

 

〔無茶だキュアハッピー。今のきみではやられるだけだ!〕

 

「リュウケンドーは、私のせいで苦しんでるの。だったら、私が助けなくっちゃ・・・・!」

 

 

そうは言っても度重なるダメージとハッピーシャワーの疲労で肩で息をしているような状態だ。このまま向かっていってもたどり着くことなどできはしない。それどころか自分を満足に振るうことすらできないだろう。だが、それでも彼女は闘志を失ってなどいなかった。失敗を取り返す。助けたい。その一心で走り出す。

 

 

「はああああああああああああああッ!」

 

 

力強く大地を蹴って跳躍。重力に従って落ちていく速度を利用しながらハッピーはゲキリュウケンを振り下ろした。いや、叩き付けた、という方が正しいか。強烈な打撃を受けたアカンべーはリュウケンドーを手放してしまい衝撃でよろよろと苦痛に顔を歪めながら2、3歩ほど下がる。せっかくのチャンスになんてことをとウルフルンが怒鳴り散らす。

 

 

「ごめんなさい、大丈夫?」

 

『ああ、それよりも無茶すんな。今度は二人でやるぞ』

 

「うん!」

 

「チ、もう仲直りしやがった。・・・・でもまあ、いいか。バッドエナジーも採取したし、そんな状態じゃ俺たちに勝てるはずもないしな」

 

 

余裕を見せ高笑いを上げるウルフルン。それにハッピーは改めて周囲の参上を見回す。戦闘の影響で荒らされ破壊されたコートとえぐれた地面。そして何より、今まで必死に頑張ってきた彼女の大事な日を妨害したこと。それが許せなくて、相手を睨む。

 

 

「今日は、日野さんにとって・・・・ううん、ここにいる人達にとって大事な日なの。この日の為に、みんながどれほど努力してきたか。なのに、それなのに・・・・!」

 

「ハ、努力?そんなことしても無駄無駄。所詮選ばれた奴しかできねーならやったって意味ねーだろ。バカかおまえ?」

 

 

真っ向から否定するウルフルンにそれもそうだなと納得するリュウケンドー。自分も同意見だ。努力したからといって、それがすべて報われるわけではない。だからこそ勝負の世界、スポーツの世界というのは成り立っているんだとも。それが現実であり、綺麗ごとはただ傷口に塩をぬるようなものだということも理解している。

 

ただ、同時にでも、と思う自分もいるわけで。だからこそ、ウルフルンの言っていることに100%納得できなかった。故に言い返す。

 

 

『そうだな。此奴はバカだ。だからそんなこと信じて努力する。そしてそれをするやつを応援する。そんなことしても、ただ虚しいだけなのにな』

 

「なんだ、意外と話が分かるじゃねーか」

 

「リュウケンドー、何を言ってるクル・・・・?」

 

『何って、俺も彼奴と同意見だからだよ』

 

「そんな・・・・!?」

 

「ウルッフッフッフ!こりゃァいい!正義の味方がトンだ思考の持ち主だったぜ!」

 

『――――でも、❝無駄だとは思はない❞』

 

「・・・・あ?」

 

『努力したところで報われる奴なんてほんの一握りだ。それこそ才能を持った奴になんかは敵わない。けどな。日野はそれをわかっててやってるんだ。努力しても、それでも越えられない壁があるのをわかってる。だからこそ此奴は努力してきたんだ』

 

「テメェ、さっきからなに言ってやがる!?無意味だってわかってんなら、じゃあなんで努力なんてすんだよ!」

 

 

ウルフルンの言葉にチッチッチと舌をならしながら指を左右にふる。

 

 

『だからだよ。結果がたとえ悪くても、努力することを決して諦めない。それに結果なんてモンは後からついてくるもんだ。重要なのは、努力したかどうか、だ。無意味だったかどうかは自分の意思一つで決まる。此奴はそれをずっと持ち続けてきた。そしてそれが今日、ようやく花開こうとしてる。それを邪魔する権利は、どこの誰にも…ありはしない!』

 

 

「この野郎・・・・ッ、やっちまえアカンべー!」

 

 

バレーボールを掲げるアカンべー。動けないハッピーに代わりその間に立つリュウケンドー。これを喰らえばひとたまりもない、そんな攻撃が――――放たれることはなかった。それはアカンべーに当った、その体長からしてみれば小さな球によるものだった。集中の削がれたアカンべーはそれをやった者を見下ろす。

 

 

「・・・・ウチの友達に、なにしてくれてんねん!」

 

 

日野あかね、14歳。努力することを諦めない熱血少女が恐怖に耐えながら放った一球によるものだった。




次回いよいよキュアサニー、新魔弾キー登場!
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