魔法少女まどか☆マギカ[新説]~ヴァルプルギスナハト~   作:マンボウ次郎

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第十話 仮初めの協力戦(かりそめのきょうりょくせん)

 ふたりの前に現れたのは、紛れもない魔女の姿。大きな黒い羽根を広げ、コウモリと風車塔を合わせたような魔女が高くそびえる。

 

「コイツが魔女喰い? 普通の魔女と変わらないじゃない」

 

「見た目は魔女と同じですわ。けれど、先程の使い魔のように『コウモリの魔女』が違う魔女を喰って出来上がった『魔女喰い』に間違いありませんわね」

 

 那月の後ろから、魔女喰いを冷静に分析するミコの声。身体の形や色はコウモリを模しているから、コウモリの魔女が原形なのは当たっているかもしれない。あの黒い羽根、真っ黒なシルエット、今にも飛び立ちそうなフォルム。

 

 那月はその姿から、根元が地面にくっついているのが弱点と見ていた。塔の付け根を起点として攻撃をしてくるなら、その先端までの長さが間合いと考えればいい。

 

 もともとこの風車塔は小型のもので、高さは二十メートルほど。魔女に姿を変えても背丈は変わっていないので、攻撃の範囲もその程度だろう。そして、今はまだ間合いの外。あと一歩踏み込めばコイツの間合いに飛び込むことになるが、さてどうやって仕掛けようか……

 

 と思っているところへ

 

「――――っ!」

 

 魔女喰いの身体から何かが伸びた。いや、伸びたというよりも、何かが飛び出てきた。黒い身体の一部が射出され、それは一直線に那月の横をかすめる。その黒い『何か』が後ろにいるミコを狙ったものだと気付いた那月は

 

「避け……!」

 

 と叫びながら振り向いた。矢のように発射された『何か』は、一瞬でミコの肩を貫いていた。

 

「あ……ぐっ! 油断してましたわ……」

 

 那月の身体よりも長い『何か』が、ミコの肩を貫通したまま地面に突き刺さっている。それは槍投げの槍のように細くて長い、黒い物体。

 

「ちょっとアンタ! 大丈夫!?」

 

 真っ赤な血をにじませ、肩を貫かれたミコは苦痛に顔を歪めていた。

 

「これくらい平気ですわ。ワタクシは防御に特化していますから」

 

 とは言いながらも、あと数センチ身体の内側に刺さっていたら致命傷になりかねない傷。いくら防御に特化しているといっても……

 

 そんな心配をよそに、ミコは平然とした表情に戻ると

 

「ワタクシのことはいいから、魔女喰いの動きに注意しなさいな。『これ』が何だか分かりませんが、あなたなら避けられるはずでしょう?」

 

 レモンイエローの光に身を包み、肩に刺さった黒い『何か』を癒しの魔法の反作用で打ち消した。肩口の傷もみるみる癒えていく。

 

 ミコの言う『防御特化』はダテじゃない。あんな重傷がほんの数秒で完全に癒えていた。ひとまず安心した那月は魔女喰いに向き直ると

 

「アンタも口だけじゃないみたいね。なら、役割分担するわよ。私がオフェンス、アンタがディフェンス、いいわね?」

 

 フランベルジュを強く握り、背中でミコに叫んだ。

 

「誰があなたに協力すると言いましたの? あの魔女喰いはあなたが退治する、そういうお約束じゃなくて?」

 

「こんな時に何言ってんのよ!? この場にいたらアンタだって狙われるんだから協力しなさいよ!」

 

 強敵を前にして一致団結していない魔法少女コンビ。が、那月はもう振り向くことはできなかった。あの黒い『何か』は速いうえに威力が高い。脇見をしていたら、次は自分もやられてしまう。

 

「まったく……仕方ありませんわね。あなたもどちらかといえば『攻撃特化』のようですから、ここは仮初めの協力戦ということにしてあげますわ」

 

「仮初めでもなんでもいいわよ。アンタの魔法であの攻撃を防いでくれれば、あとは私が……」

 

 那月はフランベルジュに炎を噴かせ

 

「叩く!」

 

 魔女喰いの正面から突っ込んだ。

 

「そんな不用意に!」

 

 ミコは慌てて魔力を開放し、防護障壁の魔法陣を生み出した。それを指先で薙ぐように弾くと、黄色い魔法の膜が那月を覆う。と同時に、魔女喰いからまたも黒いモノが射出された。しかも、今度は一本ではない。那月の斜め上から降り注ぐように、何本もの射出物が迫る。

 

 那月はカッと目を見開き、フランベルジュで薙ぎ払った。噴き出す炎が弧を描き、数本の黒い槍が燃え尽きる。が、そのすべてを焼き尽くすことはできなかった。立ち消えた炎の中から二本の黒い槍が、那月の右腕と左足に向かって飛来する。

 

 那月は左足を蹴って高く飛び上がった。黒い槍が一本、那月の足下をすり抜けていくが、残りの一本が右足のふくらはぎをかすった。

 

 バチン! という音がして那月の足に衝撃が走る。

 

 が、そこに黄色い魔法陣が浮かび黒い槍を弾いた。那月の足には傷ひとつ付いていない。

 

「これは……?」

 

「ワタクシの魔法ですわ。防護障壁をあなたの身体に同調させて、魔力の膜を張っていますの」

 

 那月の右足にかすった魔女喰いの攻撃は、ミコがあらかじめ張っていた防護障壁によって打ち消されていた。

 

「やっぱアンタ凄いじゃない! これで攻撃を受けても大丈夫ってことね」

 

 那月は魔女喰いの目の前に着地すると、後ろを振り向くことなく感嘆の声をあげた。

 

 魔女喰いまでの距離は、およそ十メートル。この至近距離でまた黒い槍を射出されたら避けきれないが、防護魔法が張られているのなら安心できる。

 

「と言いたいところですけど、そう何度も……とはいきませんの。その魔法の効力はせいぜいあと一回ですわ」

 

「何よ、ケチな魔法ね」

 

 と言って那月は魔女喰いを見上げた。また次の攻撃が来る前に、何か突破口を考えなくては……

 

「なら、あとひとつ……その魔法を私に貸すことはできる?」

 

「貸す?」

 

「そ。さっきの使い魔で見せたように、盾みたいに使わせてくれない?」

 

「それは……構いませんけれど」

 

 ミコは防護障壁をまたひとつ作り出し、那月に向けた。黄色い魔法陣が盾のように左腕に装着される。

 

「言っておきますけど、その盾も二度が限界ですわよ」

 

「はいはい、覚えておくわ」

 

 右手にフランベルジュ。左腕に魔法盾。攻防一体の那月がオフェンス。後ろから後方支援でミコがディフェンス。攻撃特化の那月と、防御特化のミコ。ふたりのコンビはバランスがいい。

 

「回数制限がなきゃ、完璧なんだけどなぁ」

 

「人に頼ってばかりいないで、魔女喰いを倒すことを考えなさいな」

 

 バランスはいいが、仲は決して良くない。仮初めの協力戦。

 

「それじゃ、第二ラウンド……行くわよ!」

 

 那月はまたしても正面から行く。ダッと駆けると、フランベルジュに炎をたぎらせ切っ先を横向きに構えた。

 

「また正面から!」

 

 ミコは呆れたように声を漏らすと、いくつもの防護障壁を目前に広げた。自分を防ぐ分と、那月に向ける分。ディフェンスの役目をまっとうしようにも、毎回こうも正面突破をされては魔力がいくらあっても足りない。

 

 魔女喰いもまた同じように黒い槍を連射してくる。この至近距離では、避けることは出来ない。

 

 那月は魔力を込め、観念動力(テレキネシス)を込めた左手を振るった。

 

 避ける必要はない、テレキネシスで軌道をズラす!

 

 那月の魔力で数本の槍が横に逸れた。

 

「次!」

 

 右手でフランベルジュを薙ぎ、炎を噴かせて槍を払う。紅蓮の炎に焼かれ、数本の槍が燃え尽きた。

 

「次!」

 

 左腕に張られた魔法盾で、残りの槍を受け止める。パーン! と弾かれた槍はたちまち消え、魔法盾もすぐに効力が切れた。

 

 そして目の前には魔女喰いの黒い身体。

 

「ラスト!」

 

 那月は裂ぱくの気合でフランベルジュを振り上げ、魔女喰いの身体に切っ先を突き当てて飛び上がった。塔の根元からてっぺんに向かって、炎の柱が立ち上がっていく。これが斬撃と炎の細剣『フランベルジュ』の真骨頂。

 

 縦一直線に切り上げられた魔女喰いは炎に巻かれ、金切り声をあげた。

 

「やった……!」

 

 空に浮いた那月は、空中から炎の柱を見下ろした。魔女喰いは真っ二つに裂かれたうえ、超高熱で焼かれていく……

 

「まだですわ!」

 

 とミコが叫んだ、次の瞬間

 

 魔女喰いを巻いていた炎の中から、四方八方に黒い槍が飛び出した。

 

 まるでハリネズミが体中の針毛を放射させたように、無数の黒い槍が那月たちを襲う。

 

「なっ!」

 

 那月は慌てて左手に魔力を込め、観念動力(テレキネシス)を向ける。嵐のように向かってくる攻撃の軌道を逸らし、さらにフランベルジュを振るって炎を薙ぐが……

 

「足りない!」

 

 テレキネシスとフランベルジュの炎だけでは防ぎきれない。無数の黒い槍が那月に迫る……これは避けられない。

 

「防護障壁!」

 

 後ろからミコが魔力を放ち、那月の前に防護障壁を張った。魔法陣が幾重にも重なり、那月の身を守る。まるで水面に猛烈な雨が打ち付けられ、しぶきをあげるようにして黒い槍が消えていく。防護障壁が切れると同時に、嵐のような攻撃が止んだ。

 

 ミコも防護障壁で身を守ったが、身体の前に残っているのは淡く光る最後の一枚だけだった。

 

 そして魔女喰いは

 

「コイツ、傷口が治っていく……!」

 

 那月の斬撃で裂かれた身体が、みるみる再生していく。その身には燃えカスがチラチラ揺れているだけで、身体の傷はすっかりふさがってしまった。

 

「魔女喰いは、強い再生能力を持っていますから」

 

 その姿を見て、後ろからミコが呟く。

 

「再生能力?」

 

「ええ。普通の魔女にもありますけれど、あそこまで自己修復できるのは高ランクの魔女喰いの特徴ですわ」

 

 自己修復といっても、あれは早すぎる。斬られた直後に修復されて、傷口すら残っていない。

 

「ちょっと、それじゃアイツを倒すことはできないじゃない」

 

「ユリさまならば、あの再生能力を使われずに倒すことができるのですが……」

 

 並の攻撃では魔女喰いの再生能力を凌駕するのは難しい。魔女喰いは(魔女も同じだが)グリーフシードという魂の宝珠を身体に宿し、そこから魔力を得て肉体を形成している。物理的なダメージによってグリーフシードと肉体の結合が途切れると魔女喰いは『死ぬ』ことになるが、あの再生能力を超える力で粉砕しなければ……

 

「御上那月! あなた、ご自分の魔力の限界は把握しています?」

 

「何よ、いきなり」

 

 魔女喰いは悠々と羽根を広げると、その大きな身体に魔力を纏った。

 

「いいから! 時間がありませんの」

 

「ま、まあ……なんとなくだけど」

 

 那月の返事を聞く前に、ミコは再び防護障壁を作り出していた。黄色い魔法陣を何枚も何枚も、そのすべてを重ね合わせて分厚い魔法壁にし

 

「生半可な攻撃では、魔女喰いの再生能力に追いつきませんの。出し惜しみはナシにしませんこと?」

 

 と言って片手で魔法壁を弾き、那月の身体に向かって飛ばした。ミコの魔法が那月の身体に吸い込まれ、黄色と青紫色が混じり合ったカラーに包まれる。

 

「これは……?」

 

「防護魔法を、あなたの魔力に転化させました。これであなたの魔力は絶対値が上がりますわ」

 

 本来、ミコの魔力は防御特化。癒しの魔法や防護障壁は攻撃能力にならないが

 

「ワタクシの魔力を託します。やってみてくださいな」

 

「すごい、力がみなぎるよう……!」

 

 魔力の譲渡なんて初めて見る。これはたぶん、癒し魔法の応用なのだろう。魔力を当てて傷を癒すには『癒しの力』を相手の身体に送り込むわけだから、その原理を応用して『魔力』を身体に送り込んでいるのだ。

 

「ただし、もう一度はできませんわ。それで仕留められなかったら、次はありませんわよ」

 

「わかってる!」

 

「それと……」

 

 ミコは全身の力が抜けたようにガクっと膝を落とした。それでも何とか態勢を保ち

 

「魔力の限界を超えないように注意なさい。いくらワタクシでも、穢れたソウルジェムを癒すことはできませんから」

 

 と、真面目な顔で言った。魔法少女の魔力は減算ではなく、穢れを加算するシステム。魔力を使えば使うほどソウルジェムは濁り、穢れを蓄積する。それが限界を超えてしまうと『魂の宝珠』は『嘆きの種』となり、魔女へと堕ちる。

 

「大丈夫。全力を出しても『堕ちる』ことはないから」

 

 無意識にユリの言葉を使っていることを、那月は気付いていなかった。

 

 

 黒い魔塔。

 

 魔女喰いは強い再生能力を持っているので、生半可な攻撃では仕留めることができない。那月のフランベルジュが振るった炎の斬撃は、大きなダメージを与えたように見えた。が、真っ二つに裂けた身体はすぐに元どおりになっている。

 

 あの再生能力を打ち破るには、同じ攻撃じゃダメだ。あれを二度三度と繰り返したところで『再生能力を凌駕』しなければ、倒すことはできないだろう。

 

「ということは……」

 

 那月は魔力を極限まで高め、炎の力を剣に込めていく。

 

「再生できないくらいのダメージを与えればいいわけね」

 

 魔女喰いは黒い羽根を広げると、それを大きく伸ばして空を覆った。

 

「それも、一撃で」

 

 刀身が波打つ細剣、フランベルジュが輝く。炎の魔力が集約され、刃が白熱の光を帯びる。一撃で仕留めるなら、最高の魔力で、渾身の攻撃を繰り出すほかにない。自らの魔力を最大限に高め、再生できない、再生させない、文字どおり「一瞬で消滅させる」

 

「アイツの力を借りて魔力を高めるなんて、まるで私も魔女喰いみたいね」

 

 那月の皮肉めいた言葉と共に、両者に気迫がみなぎる。

 

 魔女喰いから発せられる魔力の波動で、大気が揺れ始めた。強い魔力が空気に気流を生み出し、小石や落ち葉が螺旋に巻かれて上空へとのぼっていく。

 

「す、すさまじい魔力……」

 

 魔女喰いの魔力は、ミコの想像を超えていた。その強い魔力が空間に作用し、魔女喰いの背中に光の輪が浮かんでいる。

 

「あれは……魔力輪(まりょくりん)?」

 

 それはオーロラのように淡く発光し、細い円を描いている。後光輪とでも言うのか、神々しく、禍々しく光る魔力の輪。

 

 ミコはあの魔女喰いを『ランク2程度』と踏んでいた。ソウルジェムで探知したのは、せいぜい魔女二体分くらいの魔力だったからだ。しかし今、目の前にいる魔女喰いは『ランク2』ではない。

 

「あの魔女喰いの力……見誤っていましたわ」

 

 あれは『ランク3』だ。二匹以上、複数の魔女を喰った魔女喰い。背中を照らす魔力輪がその証拠だ。

 

 

 ――もし、私のいないところでランク3以上の魔女喰いに出会ってしまったら、とにかく逃げなさい。

 

 単身でランク3以上に挑むのは危険だ、とユリは言っていた。

 

 ――どうやって見分ければよろしいのです?

 

 魔女喰いに出会ったことがないミコには、その区別がつかない。

 

 ――背中に魔力の輪を持っていたら、そいつはランク3以上よ。

 

 二匹以上、複数の魔女を喰った魔女喰いは、魔力の桁が違う。それを表すのが『魔力輪』だと言っていた。

 

 

「つまり、あの魔女喰いはランク3……いえ、ランク3以上」

 

 もし出会ってしまったら、とにかく逃げなさい。その言葉がミコの頭をよぎるが

 

「今ここでワタクシが逃げても、御上那月は退かないでしょう」

 

 那月の身体にみなぎる魔力。ランクもレベルも関係ない、すべての魔女は私が狩る。そんな気迫というか、闘争心というか、すさまじい殺気を放っている。

 

「すみませんユリさま、どうやらワタクシは逃げることができなそうですわ。御上那月を連れてきたのはワタクシ。それを置いてひとりで逃げるなんて……ユリさまでも、そのようなことはなさいませんわよね」

 

 限界ギリギリまで魔力を使っているミコは、もう戦いを助けることはできない。あとは那月の力を信じ、託すしかない。相手はランク3以上の魔女喰い、ふたり分の魔力で足りるか……。

 

「どうなろうと、最後まで見届けてまいります」

 

 まさかランク3以上の魔女喰いに出会ってしまうとは考えていなかった。魔女喰いに出会うこと自体が稀なのに、ユリですら「手強い」と言うほどの相手に遭遇してしまうとは。

 

 後戻りはできない。

 

 逃げるわけにもいかない。

 

 魔女と戦う時は、いつも覚悟をしているはずなのに。いくら癒しの魔法に長けていても、命はひとつ。リセットもコンティニューもできない。

 

 この時ミコは、初めて死の恐怖を感じていた。

 

「な~に心配してるのよ」

 

「え?」

 

 ミコの心を読むように、那月の声が聞こえた。

 

「アンタまさか、私が負けると思ってるんじゃないでしょうね」

 

 那月の手には、炎の魔力を集約させたフランベルジュ。あふれる熱量が細い刀身に凝縮され、真っ白な輝きを放っている。いや、輝きを放つという言葉では足りない。まるで太陽の光をその手に握っているような、その激しい輝きで辺りは昼間のように明るい。

 

「な、なんて魔力ですの……!」

 

「ここまで魔力を開放するのは初めてなの。巻き添えを喰らわないようにさがってて」

 

 あふれる熱波で空気が焼け、酸素が薄い。すさまじい熱気がミコの肌をチリチリと焦がす。

 

「ちょっと……そんな魔力、出鱈目(でたらめ)ですわ! この辺り一帯が燃えてしま……」

 

「いくわよ!」

 

 ミコの言葉が終わらぬうちに、那月はもう駆けだしていた。真正面から魔女喰いに向かって走り、地を蹴って飛び上がる。

 

 そこに魔女喰いが放つ黒い槍の連射が、宙に浮いた那月に迫る。が、那月の目には映っていない。その碧眼が捉えているのは、魔女喰い本体。

 

 疾風のように放たれた黒い槍は、那月の身体に届かない。フランベルジュが発する熱量が魔女喰いの魔力を凌駕し、その手前ですべての槍が焼け溶け、一瞬で消滅する。

 

「あまりの高熱で、魔女喰いの魔力すら溶かしているんですの?」

 

 と、今度は魔女喰いの羽根がねじれる。黒い羽根が渦を巻き、屈強な太い腕となった。那月の身体の数倍はある大きな拳が突き出される。真横から、殴りつけるように繰り出された拳を

 

「左手ひとつで!?」

 

 那月の左手が素早く振り払うと、それだけで黒い腕がはじけ飛んだ。

 

「なぜですの? 何もしていないのに……」

 

 片腕を飛ばされた魔女喰いは奇声を上げ、しかし尚も、もう片方の腕を振るってくる。が、これも那月の左手に払われてあっさりと吹き飛んだ。

 

「まさか、あれは観念動力(テレキネシス)?」

 

 強すぎる観念動力で、肉体構成をも消し飛ばしている。

 

 魔女喰いは両腕をもがれ、その巨体が丸出しになった。腕の再生が始まっているが、那月のフランベルジュが先。真っ白な刀身が美しい弧を描いて振り下ろされる。

 

 ミコは咄嗟に最後の力を振り絞り、小さな魔法障壁をひとつ作り出した。そこに身を屈めるようにしてふんばり、『巻き添え』に備える。

 

 輝く一閃が振り下ろされた。刃渡り八十センチほどの刃が、魔女喰いを両断する。

 

 カッ!

 

 っと音が消え、白い閃光が魔女喰いと一緒にミコをも飲み込んだ。

 

 それからようやく爆音と衝撃波が広がり、視界は白く掻き消える。

 

 直径二百メートルほど。この魔女の結界内だけに広がった閃光と爆風は、外(現実世界)には漏れていない。まるで北夜見市を照らす灯篭のように、街の中でポっと光り、そして消えていった。

 

 

 

続く

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