魔法少女まどか☆マギカ[新説]~ヴァルプルギスナハト~   作:マンボウ次郎

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第九話 魔女喰い(まじょぐい)

「魔女喰い?」

 

 そんな言葉、聞いたことがない。普通の魔女とは違うの?

 

「まったく……あなたは何も知りませんのね。魔女は呪いから産まれた化け物。そして『魔女喰い』は、魔女が魔女を喰って出来上がった、複数の魔女の集合体とでもいうべき存在」

 

「何それ? 魔女の上位互換みたいな感じ?」

 

「当たらずとも遠からず、といったところですわ」

 

 ソウルジェムの光を西の方角にかざしたミコは、横目でチラっと那月を見た。

 

「ただし、上位互換という言葉では足りませんわね。魔女を喰った魔女は、魔力エネルギーを乗算させますの。つまり魔女喰いの魔力は足し算ではなく、掛け算」

 

 魔女を一匹喰らった魔女の魔力は、普通の魔女の倍以上。二匹喰らえば四倍以上。倍倍で乗算される魔力には限界がなく、魔女喰いは無限に魔力を増す。ただしそんな魔女喰いは本当に稀で、遭遇することはほとんどないという。

 

「魔力の波動から察するに、この魔女喰いはおそらく『ランク2』程度……あなたでもギリギリ勝てるかもしれないレベルですわ」

 

 ミコは、那月の反応を見るように顔を伺う。

 

「いかがです? 相手にとって不足はございませんわよ?」

 

「ふん、ランクがどうとかレベルが何だとか知らないけど、この街の魔女は私が狩るのよ」

 

 自信たっぷりにそう答える那月を見て

 

「さすが、あなたは魔法少女の鑑ですわね。それでは、この魔女喰いはあなたが退治していただけると」

 

 それまでソウルジェムの反応に険しい顔を浮かべていたミコは、ニコリと笑みを浮かべる。

 

「あったり前じゃない!」

 

 西の空に目を向けた那月は、今にも駆け出しそうだった。

 

 実は、ミコは今まで『魔女喰い』と戦ったことはない。魔女が魔女を喰うとか、魔力エネルギーを乗算させるとか、それらはすべて蒼ユリの受け売り。魔法少女としての戦歴が長いユリですら、今までほんの数回しか『魔女喰い』に出会ったことはないらしい。

 

 聞いた話では、ユリが出会った魔女喰いはほとんどがランク2だったという。この『ランク』というのはユリが自分で決めた指標らしいが、つまり『ランク2』は魔女を一匹喰った魔女のこと。ユリほどの手練れになれば、ランク2程度の魔女ならば簡単に退治してしまうようだが、さすがに『ランク3』の魔女喰いは相当に強かった、と聞いている。

 

 『ランク3』とは二匹以上、複数の魔女を喰った魔女。

 

 そして『ランク4』になると、それはユリですら出会ったことがないと言っていたが、単独の魔法少女では太刀打ちできないほどの魔力を持つ。

 

 さらに『ランク5』と呼ぶ最上位の魔女喰いも存在する、とユリは言っていた。

 

「まあ、今回の魔女喰いはおそらく『ランク2』程度。御上那月がワタクシよりも強い魔力をお持ちなら、なんとか勝つことはできるかもしれませんわね」

 

 と、ミコは心の中で呟いた。さらに

 

「最悪、ワタクシの『防護魔法』があれば、ふたりで討ち死にするなんてことにはならないでしょう」

 

 ソウルジェムで魔力の波動を辿り、魔女喰いのいる方へと進みながら、そんなことを考えていた。

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆彡

 

 

「ねえちょっと、本当にこんな雑木林の中に魔女がいるんでしょうね!?」

 

 陽も落ちて、暗闇に染まる林の中を那月とミコは進んでいた。

 

「このまま、真っすぐですわ。あと二百メートルほど」

 

 ミコの手にあるソウルジェムの光だけが、辺りを薄暗く照らしている。

 

 ここは北夜見市の外れにある市営の雑木林で「クヌギの森」と呼ばれ、昼間は市民の散歩コースになっている。しかし遊歩道から林の中に入ってしまうと、その先は草木をかき分けて進む獣道のようだった。

 

 膝丈ほどの草の中を、黄色い光を放つジェムの明かりで進んでいく。ミコが進み、そのすぐ後ろを那月が歩く。

 

「ちゃっちゃと終わらせないと、私これから買い物して帰らないといけないんだからね」

 

「……余裕ですわね。ここまで近づいても魔力の波動を感じませんの?」

 

 ミコのソウルジェムは、魔女が放つ魔力の波動に反応して強い光を放っている。

 

「さすがにここまで来れば、私だって分かるわよ。たしかに普通の魔女に比べたら強そうな感じだけど、負ける気はしないわね」

 

「あら、強がりで言ってますの? あなた、複数の魔女をいっぺんに相手したことがおありになって?」

 

「あるわけないじゃない、魔女はいつも一匹でしか現れないんだから。でも、魔力を乗算させるとか言ってる割には大したことなさそうね」

 

「ふふ、吠え面かいても知りませんわよ」

 

 魔女喰いを見たことがないミコにとって、これだけ強い魔力の波動を感じるのは初めてだった。まるで魔女が二匹も三匹も固まっているような、魔力の塊が膨張しているような、そんな感覚を覚えていた。

 

「あった! あそこですわ」

 

 ミコが指差した先。雑木林の端っこがフェンスで遮られた向こうにあるのは、風力発電の風車だった。街中の至るところにある、なんの変哲もない普通の風力塔。

 

「おやおや~? 私たちを待ちきれずに使い魔がウヨついてるじゃない」

 

 那月の視線の先……高くそびえる風車の根元に、とんがり帽子をかぶって荷車を押すような黒いシルエットが数体。太った身体で空っぽの荷車をヘイコラと押しながら、風車塔の根元をグルグルと回っている。目と口だけが白くまたたいて、影のような身体の存在を浮き上がらせていた。

 

 そのすぐ上の方を、これまた黒いコウモリのシルエットが浮遊している。

 

 薄暗い中に黒い生き物。目を凝らさないとよく見えないが、あれはどう見ても人や動物ではない。そして風車の根元にある扉には、魔女の結界への入り口を示す黒いシンボルがくっついていた。

 

 那月はフェンスの網目に手をかけて

 

「ここまでは普通の魔女と変わりはないわね。使い魔がいて、魔女の結界を守ってる感じ」

 

 上から覗きこむように見て言った。

 

 背の低いミコは

 

「魔女喰いといっても、元々は魔女ですわ。ただ魔力が格段に強いだけで、グリーフシードを宿して使い魔を操る。そして呪いを振り撒き、人間を死へといざなう」

 

 フェンスの網目の隙間からそれを見て言った。

 

「そして、魔女になる前は魔法少女だった……」

 

 那月はフェンスを強く握った。指に絡まる網目がひしゃげ、ギチギチっと音を立てる。

 

「シッ! 静かに! 音を立てては見つかってしまいますわ」

 

 魔女喰いとの戦いに向けて魔力を温存したいと思っているミコは、不用意に音を立てた那月を責めた。できることなら余計な戦いは避け、使い魔をやり過ごし、魔女本体を直に叩きたい。それは、防御型の魔法少女であるミコの戦いの本能でもあった。

 

 が

 

「ふん、ナマっちょろいこと言ってんじゃないわよ。使い魔だって成長すれば魔女になる。アイツらは一匹たりとも生かしておかないわ」

 

 那月の考えは安直だった。安直で実直だった。

 

 魔女と使い魔はすべて私が倒す。魔女を止めることができるのは魔法少女だけだから。魔女を止めてあげられるのは、私だから。

 

 バカが付くほどにクソ真面目なことを言う那月に、ミコは半分呆れながら

 

「主様の仰るとおり、あなたは長生きできない人ですわね。それに……」

 

 チラっと上を見上げて

 

「もう、見つかってしまいましたわ」

 

 フェンスの網目に手を掛けたまま「はぁっ」と溜息を吐いた。

 

 那月とミコの頭上に、薄っぺらいシルエットのようなコウモリの使い魔が一匹。目だけが白く、飛び回るというよりも羽ばたいているだけで、しかし明らかにこちらを敵として認識している。キーキーと鳴く声で合図を送っているのか、風車塔の根元にいる他の使い魔たちもこちらに目を向けた。

 

「ちょうどいいじゃない。まとめて狩ってやるわ」

 

 那月はニヤッと笑みを浮かべるとフェンスの網目に足を掛け、そのまま飛び上がってソウルジェムを掲げた。身体をラベンダーカラーの光が包み、一瞬で魔法少女へと姿を変える。つま先からフェンスの上に着地し、右手にフランベルジュを構えた。

 

「ま、勇ましいのは良いことですけれど。蛮勇と呼ばれないよう、お気をつけあそばせ」

 

 それを見上げていたミコも、右手にソウルジェムを掲げた。眩い光が身体を包み、レモンイエローの輝きをまとって魔法少女の姿を見せる。飛び上がって那月と同じように、フェンスの上に着地した……はずが

 

「うわわわわっ!」

 

 っとバランスを崩して、フェンスの向こう側に落ちてしまった。それも、頭から真っ逆さまに。

 

 ベチョっという音で地面に落ちたミコを見て

 

「ちょっとアンタ、何やってんのよ!?」

 

 あまりの不器用な動きに、那月は使い魔よりもミコに目を奪われてしまった。

 

「あたたたた……こ、これはお見苦しいところを……」

 

「大丈夫なんでしょうね? 私の足手まといにならないでよ?」

 

「バ、バカなことを言わないでくださいませ! ワタクシはちょ~~~~っとだけ運動が苦手なだけで、魔力はあなたと同じくらいなんですのよ!」

 

 魔法少女がふたりも揃って、使い魔と戦う前にそんな茶番を演じていた。これがお芝居や演劇なら、相手は茶番が終わるまで待ってくれるのだろう。しかし、コウモリの使い魔と荷車の使い魔はそうではなかった。

 

 ドジを踏んでいる魔法少女に向かって、使い魔たちが一斉に襲いかかる。

 

 コウモリの使い魔が空から飛来する。

 

 荷車の使い魔はそのまま突っ込んでくる。

 

「危ない!」

 

 フェンスの上から那月が叫んだ時には、ミコが使い魔に囲まれていた。

 

「まったく……」

 

 ミコはまだ座った状態。武器も手にしていなければ、受け身も取れない無防備な姿。

 

「こちらに向かってくるということは……」

 

 使い魔たちの突進には目も向けず、ただ身体の周りには魔力の光をまたたかせ

 

「ワタクシの方が弱いと判断した、ということですの?」

 

 全身が黄色い光に包まれた瞬間

 

「でも、お生憎様ですわ」

 

 使い魔たちは何かに弾かれたように、パーンとすっ飛ばされた。使い魔の身体がミコに接するか、接しないかのはざま。ほんの一瞬だけ、黄色い魔力の魔法陣が見えたような……その魔法壁に跳ね飛ばされた使い魔たちは放射状に散り消えた。

 

「ワタクシの魔法、甘く見てもらっては困りますわよ」

 

 ミコはゆっくりと起き上がると「ふんっ」と息を吐くようにして髪を払った。

 

「い、今のは……?」

 

 見たこともない魔法を目の当たりにした那月は、口を開けて驚いた。

 

 魔法で障壁を作って、使い魔の突進を弾き返した?

 

「ワタクシの魔法は『絶対防護魔法』。どんな攻撃も防ぐ、完璧な魔法障壁ですわ」

 

「すごい……」

 

「あら、あなたもやっとワタクシの実力にお気付きになったようですわね」

 

「でも今の、アンタがコケなきゃ私が一発で吹き飛ばしてたのに」

 

 褒められたと思ったら即落とされる。助走をつけて恥をかいてしまったミコは

 

「う、うるさいですわ! 運動は少しだけ苦手だと言ったでしょう?」

 

 顔を赤らめてから風車塔の方を指差し

 

「ほら、使い魔はまだ残ってますわ。次はあなたの番ですわよ」

 

 と言って、那月の視線を誘った。

 

 風車塔の根元に残っているのは、コウモリの使い魔と荷車の使い魔が一匹ずつ。他はすべてミコの魔法障壁で片付いているが……

 

「待って! アイツら、何かおかしい……」

 

 ふたりが見つめる先で、使い魔たちがおかしな行動に出ていた。

 

 片方の使い魔が

 

「使い魔を……喰ってる!」

 

 コウモリの使い魔が、荷車の使い魔を喰っていた。

 

 バリバリと、まるでガラスを噛み砕くように。

 

 ムシャムシャと、咀嚼しながら喰っていた。

 

「あっちが魔女喰いの使い魔ですわね」

 

 喰われている荷車の使い魔は、抵抗せずにただ喰われているだけ。やがて黒いシルエットの身体はペロリと喰われ、丸々と膨れ上がったコウモリの姿だけが残った。

 

「本当に、魔女が魔女を喰うんだね」

 

「ですから、あれは使い魔。でも、こんなおぞましい光景はワタクシも初めて見ますの」

 

 共喰いとでも言うのか、使い魔同士で喰って喰われている姿に、那月もミコも驚きを隠せない。使い魔同士に敵味方があるかはわからないが、魔法少女と相対した時に一方が一方を喰う意味があるとすれば

 

「あれでコウモリの使い魔は魔力を乗算させた、と見て間違いないですわね」

 

 ミコの読みは間違っていなかった。コウモリの使い魔に魔力がみなぎる。肥大した身体からは手足が生え、四肢を地面に付けて獣のような姿になった。

 

 尖った耳と、鋭い牙。頭はコウモリそのものだが、胴体は荷車の使い魔を模したような姿。お腹がポッコリ出ていて、しかし手足は爬虫類のようにゴツゴツしている。何かと何かを交配させて出来上がった、というよりも『出来損なった』ようにいびつで異形でバランスの悪い生き物。

 

「グ、グロテスク……」

 

 フェンスの上から見下ろす那月に向けて、使い魔の赤い眼が光る。

 

「来ますわよ!」

 

 ジリッ……とミコが身構える。

 

 コウモリ(のような)使い魔は手足を屈めて力を込めると、物凄い勢いで那月に飛び掛かった。

 

「速い!」

 

 が、目で追えない速さじゃない。

 

 那月は左手に魔力を込め、使い魔が振りかぶった爪に焦点を合わせた。鋭い爪が赤く発光し、真紅の軌跡を描いて振り下ろされる!

 

 瞬間、那月は左手を正面にかざした。右手は炎をまとった細剣フランベルジュを、ダラリと下げている。

 

「素手で受け止める気ですの!?」

 

 それを見てミコが叫ぶ。ミコのように防護魔法で防ぐのではなく、剣で受けるのではなく、素手で?

 

「そんなワケないでしょ」

 

 使い魔の爪が那月の左手に合わさる瞬間、魔力がうねり大気が揺れる。

 

 那月は左手を素早く払うと、その動きに合わせて使い魔の爪も真横に流れた。赤い爪は空を切り、那月には毛筋ほどの傷もない。腕の動きを無理やり捻じ曲げられた使い魔はバランスを崩し、フェンスに激突した。

 

「まさか、今のが観念動力(テレキネシス)?」

 

 なぎ倒されたフェンスから高く飛び上がった那月は、なおも左手に魔力を込める。態勢を崩した使い魔を空中から見下ろすと

 

「そ。意思の力でアイツの攻撃を逸らしたの」

 

 と言って、今度は左の掌をクルリと反転させ

 

「こんな使い方も出来るんだよ」

 

 五本の指を合わせるようにくっつけた。

 

 ひしゃげて倒れたフェンスがビキビキと音を立てると、まるで海苔巻きで使い魔を包むように巻き込む。金網でグルグル巻きになった使い魔は、一瞬で身動きが取れなくなった。

 

「な、なんて魔力の使い方! 物体そのものに魔力を伝えているんですの?」

 

 がんじがらめにされた使い魔は腕力でフェンスを引き剥がそうとするが、那月の魔力が込められた金網はビクともしない。

 

 そこへ、那月が空中からフランベルジュを構えて落下する。揺らめく刀身に炎をまとわせ振り下ろすと、使い魔をフェンスごと一刀両断にした。

 

 黒い身体が赤く燃え、熱の波紋が広がるようにして使い魔は消滅した。

 

「な、なんて魔力……戦い方は雑ですけれど、ユリさまの仰っるとおり……強い!」

 

 一部始終を見届けていたミコは、言葉を発せずに驚嘆とした。あのコウモリ使い魔は荷車の使い魔を喰っていたから、並の使い魔よりも格段に強かったはず。それを、いとも簡単に一刀の元に切り伏せた。

 

 しかもミコが見たのは、観念動力(テレキネシス)と炎の魔力(フランベルジュ)を同時に操る異才な力。ベクトルの違う能力を同時に繰り出す、那月の才能。ユリから話は聞いていたが、実際に目の当たりにしたその力は想像を超えていた。

 

「でもあんな能力、普通の魔法少女にあり得るんですの? ユリさまは『魔法少女よりも魔女に近い』と仰っていましたけれど、あれはもう『魔女そのもの』と言ったほうが……」

 

「ほら、片付いたんだから早く次に行くよ」

 

 那月はフランベルジュを肩に担いで、ミコを急かしていた。自分の力をひけらかす素振りも見せず、誇ることもなく「今日は早く帰りたい」という『戦いとはまったく関係のない』気持ちだけを逸(はや)らせて。

 

「え、ええ」

 

 ミコは黒焦げのフェンスを見た。鋼鉄のフェンスがぐるぐるに巻かれ、それが見事に真っ二つになっている。断面は焦げているが、切り口は綺麗な直線を留めている。まさに非の打ち所がない一撃だった。

 

 と、その時。

 

 轟、という地響きと共に地面が揺れた。大地を震動させる直下型の地震のように轟、と。

 

 さらに轟! と縦に揺れ、那月たちは身体が一瞬浮き上がるような感覚になった。

 

「地震?」

 

 ミコはよろめきながら足元を辿り、腕を回してバランスを保った。激しい地響きで、木々の鳥たちが一斉に飛び立つ。木の葉が舞い、森がざわめいた。

 

「違うみたいよ」

 

 風車塔を見上げた那月は、ミコよりも先に『そいつ』を見つけていた。

 

 風の力でタービンを回して発電する、白い風力発電。その根元が大きく盛り上がり、風車塔が傾く。ローターのブレード部分は黒い羽根となり、塔を覆うように広がっていく。

 

「出た!」

 

 那月たちの目の前にあったのは、風力発電の風車塔ではなかった。それは、うねりながらそびえる黒い巨塔。大きく広がる黒い羽根は、コウモリのそれ。

 

「これが、魔女喰い……ですの?」

 

 目はない。口もない。顔と呼べる部分はどこだかわからない。黒い塔のところどころに窓のような隙間があって、そこだけが白く抜けている。

 

「たしかに、普通の魔女とは違った魔力の波動を感じる。魔力の色が混ざってるような……」

 

 那月はコウモリの魔女から感じる魔力を、そんなふうに感じていた。魔女の身体から発せられる魔力の源が、ひとつではない。ある色に違う色を加えて、それが混ざり合ってまだらになっているような、そんなイメージだった。

 

「思ってたよりも魔力の波動が強いですわ……これでランク2の魔女喰いなんですの?」

 

「ふん、強いか弱いかはどうでもいいわ。要は魔女なんでしょ? 今日は時間がないんだから、さっさと始めるわよ!」

 

 那月は右手のフランベルジュをギリっと握ると、余裕の笑みを浮かべた。

 

「相変わらずのイノシシですわね。まあいいですわ、お手並み拝見といきます」

 

 そう言ってミコは両手に魔力を込める。レモンイエローの光を掌に広げながら一歩後ろにさがると、那月の向こうに黒い巨塔を見ていた。

 

 

 

続く

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