拳突き上げた先に 作:それを言うなら
ちょっと危うい所もありますが、これからも宜しくお願いします。
■<幼児化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■
とにかく攻撃に当たらないことが重要だった。
AGIの値が超えられ、こちらの目では捉えきれない【悪辣訓戒 ブギーマン】に俺は、何とかして対応している。
天地へ遠征に行っていた時のPK経験や、レジェンダリアでカレンさんを筆頭し、マスター達に鍛えてもらった経験が生きていた。
そうして戦いながら感じたことは【ブギーマン】が戦いに慣れていないという確かな感触。
「(自分の速さについていけていない時が所々見える)」
攻撃は鞭による中距離攻撃が主なため余り見せていないが、移動が時々おぼつかない様な仕草を見せている。
先程の急激な成長に、意志と体が追いついていない。そういった所を感じる動作があった。
こちらの対応としては、この空間にあるできるだけ大きな物を投げ、鞭の攻撃に置いておくこと、魔法での牽制の二つだ。
相手の攻撃は幼稚で、真っ直ぐした攻撃のみなため、それで対応することが出来た。
だからといって、全てに対応できるわけではない。
鞭の衝撃波や鞭に当たった物の破片でHPを徐々に削られている。
特に鞭の衝撃はについては理不尽極まりない。目で見えないものでダメージを受け、ノックバックに抗うことが出来ない。
「(まだ、3段階目)」
<
1つ目にダメージを与えられないこと。
2つ目に次攻撃をまともに食らったら死ぬかねないため、余りダメージを受けられないこと。
この2つが問題だった。
特に1つ目の『俺がブギーマンへダメージを与えられない』という障害が今、立ちはだかっていた。
先程の強化の後に、中距離から魔法を牽制して撃っているのだが、ブギーマンは躱しもしない。いや、受けてさえいない。
攻撃が全て、ブギーマンの直前で何らかのバリアにより防がれてしまうのだ。
「(多分、【悪い子】に対する攻撃耐性。巫山戯てる。徹底的に"俺"じゃ勝てない)」
それさえなければ今まで削ったHPが生きてくる。大きな一撃を残している俺が、捨て身でブギーマンに一撃を決めさえ出来れば、まだ、可能性があった。
今では、攻撃を当てることの意味さえない。牽制は、相手を動かすため物を壊したり、地形を削ったりすることのみ。
「どうしたんだい? 隠れちゃダメだよ。クラウン・スプリングス……君は【悪い子】だぁ……」
名前を呼ばれる度に、<恐怖>が襲ってくる。この声に対しては怖気が走ってしまう。
しかし木陰に隠れることが出来た。移動がおぼつかない【ブギーマン】なら暫くやり過ごせる。今のうちに俺は<ヒールポーション>でHPを回復させた。
だが、ここは奴の空間。他の能力のリソースを見るに、余り大きな空間ではないと考えられた。少し、少しなら時間は稼げる。この間に何とか出来る方法を考えなくてはならない。
「(……デコたちによる援軍が期待できない)」
この空間は、恐らく【悪辣訓戒 ブギーマン】のスキルによる特殊空間。奴と【悪い子】しか入ることは出来ない。
望めぬ援軍、与えられないダメージ、絶望的なステータス差。
どれをとっても状況が無理だと言っている。
――諦めるのか?
心の何処かで、自分の中からそんな囁きがあった。
「(そんな事は出来ない)」
それを囁いた"心”を俺は否定した。まだ何も終わっていない。自分の手持ちのアイテムを考えればまだ何かあるはずだ。
アイテムによる攻撃ならば、通る可能性もある。攻撃耐性は何処までか限界があるはずだ。
防御力が上がったのならば、それを超える攻撃力を。ある程度のダメージまで無効化するならばそれ以上のダメージを。
まだ、"一撃"がある。
「みーつーけーたー」
戦闘から意識を離した一瞬だけだった。しかし、【ブギーマン】にとってはそれで十分だったのだ。
「(一瞬で現れた!? こんな能力までっ!!)」
また、<恐怖>が体を鈍らせる。俺はその抵抗をしながら、体を捻った。次の攻撃に対する対応を出来るだけしようと動きを――。
いきなり来た浮遊感。
足に締め付けられたと思ったら体が地面から離れ、乱暴に引き離される。
ニュースでよく見た遊園地にあるアトラクション。空中でブランコに乗り一定の速度でグルグル回る回転ブランコが、コレなのだろうか。
意識が遠のくのと同時に、『終わった』という感覚がじわりと滲む。
足に掛かった圧力が消え、ふんわりとしたまるで無重力を体験しているような一瞬。
その後に、全てが壊れる衝撃が背中から襲いかかってくる。石切のように飛び跳ね回る体に、俺の力は何の役にも立たない。
壁にぶつかり、血とともに息を吐いた時、朦朧とした意識が何もかもを悟らせた。
状態異常のアラームが頭の中で響いている。もう禄に体も動かない。
……嫌だ。
【何も出来ない】。ずっとずっとずっとずっと――
目を開け、夢を見る。姉の死体がそこら中に転がっている。
人の腕、人の足、人の頭、人の胴体。全てが俺にとって【春ねぇ】に見えた。
「【悪い子】は殺しちゃおうねぇ」
吐き気がする。【ブギーマン】の声は"あの二人"だ。
コイツは、"僕"にも死を告げに来たのだ。巫山戯てる。
体に力を入れる。まだ辛うじて動く。<エンブリオ>の<
終わらせたくない。終わりたくない。
そのために、強くなってきたのに。
逆転の手を探す。意識が拡大していくのを感じる。走馬灯のような、時間を圧縮した感覚の中で"一人"……見つけて、しまった。
女の子だ。5日前に誘拐された子?生きている?春ねぇと違う。ちゃんとした肌の色をしている。だけど動いていない。衰弱している?――少し今動いた。
――助かる?
その時、今まで回転していた脳の中の全てが、女の子を見た。
あれは、【
助けたかった命。助けられなかった命。助けられたはずの命。
可能性が、そこにはあった。
"
俺に出来る。全てを、持って。可能性を叩きつける。
もう奪うことは、【
「寄越せ【オメテオトル】。
俺が、俺が勝てる『可能性を』『全部を』寄越せぇぇぇぇぇぇえ!!!」
【マスター生命危機感知】
【マスター生存意思感知】
【<エンブリオ>TYPE:メイデン・アポストル【矛盾創造 オメテオトル】の蓄積経験値――グリーン】
【■■■実行可能】
【■■■起動準備中】
【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】
【停止しますか?】
赤く警告画面のようなウィンドウが目の前に現れる。ブギーマンが動き出したのが端で見えた。こちらに不審な気配を感じ動き始めている。時間はない。
しかし、答えなど決まっている。
即座に"それ"を実行した。俺の、全てを掛けて。
【悪辣訓戒 ブギーマン】を倒す。
俺は立ち上がる。そうして"恐怖"と向かい合った。
三行まとめ
1.悪い子を懲らしめるブギーマン
2.空中ブランコ
3.行き過ぎたシスコン
壊れた少年の反撃が始まる