拳突き上げた先に   作:それを言うなら

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現実編 出来てしまったので前半投稿


1章幕間
"彼"と"彼" 前半


飾宮 空(かざみや そら)

 

大空を母さんと見上げるのが好きだった。母さんはボーッとする時がよくあり、僕は横に付いているのが好きだった。

「空って、大きいね」

母さんが言う空が、目の前に広がる青色だと言うことに気づき、僕は同意した。

「だから、『空』もこうなるんだよ? 私が大好きな『空』に」

恥ずかしげなことを笑顔で言う母さんのことが僕は大好きだ。子供のような夢を語り、父さんも、そんな母さんのことを愛していた。

「可愛い顔して、私にそっくり。優しい所はお父さんそっくり」

そう言って撫でてくれる手は不器用だったが、愛を感じられた。

だからか、両親と僕はよく旅行に出かけていた。色々な所を周り、その度に僕があたふたさせられる。

父さんも母さんも笑い、僕も笑い。いつもこんな日常が続くのだろうと。

そんな、はずだった。

 

『通り魔事件。ナイフを持った男が、両親を殺害。男の子一人が残される』

『「返して」との男の子の訴え。非道な殺人事件』

『社会問題再発。変質する人間たち。国際情勢の煽りを受けて?』

『新たなVRゲームのリアル過ぎる現状。影響が?』

 

新聞など読む気にならなかった。見るだけで彼らに迫られた時の自分を思い出す。

おばあちゃん達が、実家からこちらに来てくれた。

「怖いね空。大丈夫だよ。これからは私達が守るからね」

そうおじいちゃんもおばあちゃんも言ってくれた。

まともな生活が送れたように、思えたのだ。

 

空に、暗い雲が掛かっている。

 

「すげぇ。先輩に勝っちまったよ。小学校からやってるやつは違うな」

「大丈夫か? 最近ちょっと顔が強張ってたけどよ」

中学生になり、陸上部に入った僕は前から陸上クラブをやっていた。走ると何もかも忘れられたのと、夢中になれることが成長に繋がったため、自己紹介の時にも欠かさずに言うほどには好きになっていた。

「うん。最近は大丈夫だよ」

母さんや父さんのことも、おばあちゃん達のことがあり吹っ切れる要因となっている。

これからは陸上を続け、何か大きな所で、結果でも出たら……なんて変なことも考えてしまう程に。

「なぁ、飛び降りだって、死にかけたんだと」

中学校に入ったばかりの同じクラスに入ってた子たちがよく噂していた事件。

屋上手前の階からの飛び降り自殺未遂、しかも同じクラスの子が。

その子は助かったということで、今は病院に入院中らしい。何でも、近くにあった川に飛び込んだから助かったとか。

「やべぇよな。最近変なゲームも発売されたしその煽りとかもニュースで言ってたぜ」

<Infinite Dendrogram>だったかの話だ。とてもリアルなゲームで、あの<月世の会>も入れ込んでいると噂が立ち、様々な所で注目の的だ。

「ゲームは関係ないでしょ。やってることは変だけど」

「だよな。ゲームとリアルを同一視してるって、やべぇやつの考えだよ」

そう言っているのは今だけ、彼らは今年のそれぞれの誕生日に、<Infinite Dendrogram>を買ってもらいプレイすることになる。

「(そんなの所詮噂だけな気もするけどね)」

その時の僕もそう笑いながら友達と話していた。

「やめてやれよ。飛び降りのこと変に言うの」

そこに僕の席の隣の館武 泊等(かんぶ はくら)が、口を出して来る。珍しい。孤立しており、積極的な話などしない部類なはずなのに。

「冗談だって。変に言うのは先生にだって禁止されてるだろ?」

「……だったら、話するなよ」

「はいはい」

友達は適当に流したが、どうも様子が変に思えた。泊等にああいうイメージがなかった。彼はもっと、人のことをどうでもいいって思っている部類だと思っていたのだ。

それは、隣で見ていた感想もあったし、実感もあった。

彼にプリントを渡したりする際、よく彼は暗い目を、まるで何も見てないような目を向けてくる。

それが今日は、何かしらの考えを持ち、動いている気がしたのだ。

「(なんか心境の変化があった?)」

変なのと思いつつ、その話はここまでだと、チャイムが鳴った。

次の授業の時間だ。

 

それから暫く経った放課後。先輩が部室ではない所に僕を呼びつけた。タイミングを見計らっての犯行だ。僕は一人で、取り囲まれるようにして、連行された。

「なんですか?」

「生意気なんだよ」

「なんで――」

殴られた。お腹を思いっきり、必死に息をしようとまた後ろから殴ってきた。

そうして、僕は何度も先輩に殴られ、その日を去った。

 

次の日も、また次の日も。呼び出しは続いた。

僕はどうすればいいかわからなかった。幸い、顔は殴ってこなかったため、長袖を着て誤魔化した。お風呂のお湯が身にしみて痛かったが、それも何日か続き慣れていった。

どれだけ傷があっても、ドンドンと痛みは鈍化し、慣れてしまう。こうした"日常"もいつの間にか慣れて行くのだろうか。

だから、僕は走った。陸上部では流石に先輩も手を出せず、成績を伸ばしていく。そうしたら、次の大会でレギュラーとして出てみないかと先生にも言われた。

 

「大丈夫かい? 何かあったんじゃないか?」

そうしている内に僕の顔に陰りが出来たらか、おばあちゃん達を心配させてしまった。

「大丈夫。何かあったら言うから」

何が大丈夫なのだろうか。だけど、皆"大丈夫"っていうんだ。だったら、大丈夫なのだろう。




三行まとめ
1.酷い世界
2.噂のゲーム
3."大丈夫"
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