拳突き上げた先に   作:それを言うなら

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二人の出会いの話


"彼"と"彼" 後半

飾宮 空(かざみや そら)

 

時々夢を見る。

 

「ねぇ空。空は空の名前好き?」

大好きだよ。母さん。お父さんが付けてくれた名前だもん。

「そうか。だったら、自分も大切にするんだよ」

……うん。

空から雨が降る。家族皆で濡れる。母さんは僕を見ていた。僕は空を見上げ、父さんはそんな僕達を見守ってくれていた。

 

寂しいよ。寂しいんだよ僕は。何で、何で居なくなったの?

 

雨に濡れていた。濡れた雨粒は下に落ちていく。地面に、土に、染み込んでいった。

 

レギュラーが発表された日。先輩に呼び出された。

怒りの感情を露わにしている。貶すようないつもの表情ではない。彼らは本気で怒っていた。

「何で、レギュラーになった?」

「何ででしょうね」

僕に聞かないで欲しい。僕はただ、頑張っただけで。いつも僕に嫉妬していた先輩たちは単純に練習が足りてなかっただけなのだろう。

「1年の癖に何でそんな生意気な口を叩くんだよ!! 立場分かってるのか!!」

「レギュラーを堕ちた先輩と、レギュラーに成った後輩です」

半ばどうでもいいと思いながらそう答える。いつものように殴ったら終わるんだろう? だったら早くして欲しい。

「お前……」

眉間をピクピクさせわかりやすい表情を浮かべる。何でこんなにわかりやすいのだろうこの人は。

そうして考えると、別々の先輩たちに手と足を抑えられた。

「は?」

 

"いつも"と違う。

 

「お前、ちょっと調子乗りすぎだろ」

「な、なぁほんとやるのか? これ」

「うるせぇ!! やるっつただろうが! てめぇらも同意したろ!!」

彼が持ち出したのは石だった。カッターやナイフではないが先っぽが鋭利になっていた。

 

何処からそんなのを見つけたの? もしかして、それで足を?

 

「『空』なんてな。軟弱な名前して、女子にもモテるんだってな。女の子のような顔して」

ふつふつと恨み言を言う先輩に、僕が、僕が大好きなことを貶した先輩に。

 

僕は初めて、怒りを覚えた。

必死に体を動かそうとする。だが、先輩たちが取り押さえられてうまく動かせない。

「動くんじゃねぇ!!」

そうして抵抗していた所に、頭を石で殴られた。

体から意識が一瞬消え、目覚めた時には地面に倒れ伏せている。

「お、おい! やめろよ。そこまでやったらやばいだろ」

「じゃあ、コイツどうするんだよ! 俺達の立場がなくなるぞ! コイツばっかりやって、コイツが、コイツが居たから――」

女の子の名前を喋った気がする。そっか。それが先輩の本音だったのか。

僕は僕が全く関係ない所で、狙われていたのか。

「足を叩き折ってやる」

命を取らないだけ、マシというものなのだろうか。何故か僕の思考は静かだった。

 

だけど、足を折られたら。……走れないや。僕がやりたいこと。あったんだけどな。

名前も、大事だったのに。顔もお母さんが褒めてくれたのに。

僕は……何も出来なく、なっちゃうのかな。

 

「てめぇが居たからっ!!」

先輩も泣いていた。先輩も悲しいのか。だから、こんなことをしてしまうのか。

「(……嫌だなぁ)」

こんな現実に付き合うのが嫌になる。全てが"現実"だというのが嫌になる。

 

その時、先輩の顔にバッグがぶつけられた。

「煩い」

バッグが来た方に目線を向けると、僕ぐらいの男の子が一人立っていた。見たことがある。彼は――冠無 春衣(かんむ はるい)だ。今まで入院していたはずなのに。

「な、何だよお前! 何でこんなのーー」

そう言っている内に春衣は、先輩に殴りかかった。殴りつけられた先輩はわからない表情をしていた。

「こ、こんなことをしてただじゃ――!」

そういう前に、また春衣は先輩を殴りつけた。彼は話なんて聞く気がない。

「て、てめぇ!」

石を落としてしまった先輩は春衣に殴りかかった。そうして喧嘩が始まる。

「な、な、何やってるんだよっ!!」

僕と僕を押さえつけていた先輩たちも二人の喧嘩に加わり、殴り合った。

 

結局、僕と春衣はボロボロに負けてしまった。勢いは最初だけで体格が出来ていた先輩たちに押され、最後にはタコ殴り。

その後に事態を何処からか聞いて駆けつけてきた先生に見つかり、散り散りになって逃げていった。

だが、春衣と僕だけは、何故か寮の屋上に居た。

寮の屋上は夜まで開放されているらしい。一応カメラでの監視も付いており、柵も高いため、安全にも問題ないということらしい。

「疲れた」

コンクリートに背中を預けて、空を見上げている春衣を僕はじっと見た。

「何だ? 言いたいことあったら言え」

「何見てるの?」

「空だよ。綺麗だろ?」

日が落ちる夕焼け時の空は、焼けたような色をしている。母さんは時々美味しそうなどと変なことを言っていたが、春衣は何を思っているのだろう。

「綺麗だと思う。でも、何で?」

「何が?」

「何で、助けたの?」

「……死にそうな顔してたからかな」

変なことを言う奴だ。

「【嫌】だって顔してただろ? 分かるんだそういうの。だから助けるために体が動いた」

それだけの理由だと、彼は説いた。

「変な理由」

「泊等にも言われた」

「泊等って? え? 知り合い?」

「ああ、何か飛び降り自殺やりそうだったから、代わりに飛び降りた」

……凄く変なことを聞いた気がする。

「代わりに飛び降りた?」

信じられない。何を言っているんだ。

「泊等のヤツ。なんか死にたかったらしい。止めたんだ。だけど、どれだけ言っても、分からなかったから、代わりに飛び降りてやるって言った。そしたら流石に目が覚めるだろって」

「………」

呆れて物が言えない。春衣は何を考えてるんだろう。死んだらどうする気だったの……だろう。

「近くに川があったから、飛び降りれば死なないだろうって。俺、そういうのがわかるんだ」

「馬鹿じゃない?」

「泊等にもそう言われた」

そう彼は笑った。何が可笑しいかわからなかった。いや、もしかしたら春衣は自分がおかしいことに気づいているのかも知れない。

それでも、ほっとけないんだ。

「何でやるの?」

「死ぬのはダメだろ」

差も当然のように、春位はそういう。なんてやつだ。自分がどうなってもいいのだろうか。死ななければ良いなどと思っているのだろうか。

「お前も、良かったよ。あのままじゃ死にそうだったし」

「へ?」

「だって、何か言われたんだろ? それで言い返せなくってさ。多分諦めてたんだよ」

「何を?」

「大切なこと。俺もそうだった。でも諦められなかった。絶対掴んでやる」

 

そう言って彼は拳を突き上げた。大きな空へ届かせるように。

 

「それ叶うの?」

少し羨ましかった。そうやって、夢を掲げられる春衣が。

「叶えるさ。可能性がないなんて言わせない。意地でも掴み取ってやる」

どれだけ言っても折れない決意を、その言葉に感じた。もう、彼は決めてしまったのだ。

 

【夢を叶えることを】

 

「どんな夢なの?」

「姉さんを探す。途中色々な人がいるけど。そいつらも助ける。もう、奪うことなんて許さない」

随分と傲慢なものもくっついている。そんな夢を聞き、僕は笑った。

そんな人もいるんだなと、豪快さが、傲慢さが、羨ましくて笑った。

「それ、僕も手伝おうか?」

「手伝ってくれるなら手伝ってくれ。俺一人だと何回も死んでさ」

「へ?」

「<Infinite Dendrogram>だよ。知らないのか?」

「はぁ!?」

現実のことだと思っていた僕は面食らった。そうして詳しい事情を聞く度に、彼が歪んでいるのを感じた。

だが、見捨てることなんて出来なかった。彼は馬鹿だが、もっと言えばトビッキリの馬鹿だったから。

命の恩は返さなければ、見捨てられたものじゃない。

 

そうして僕は<Infinite Dendrogram>をおばあちゃん達にねだった。

2人にちゃんと今まで心配掛けてたこと、隠していたことを打ち明けて謝った後に。

「いいよ。いいよ空。辛かったね。私達もそれが分かって嬉しいわ」

2人共僕を抱きしめて泣いてくれた。僕も2人を抱きしめて泣いた。

泣いたのはいつ振りだろうか。

僕は2人の暖かさを、改めて感じた。それは父さんや母さんにも負けない暖かさだった。

 

ああいう馬鹿も一人はこの世の中に居ていい。そんな変なことを思わせる出会いを僕はしたのだ。

そうして、陸上部を辞めた。友達からも色々言われたが、もう決めてしまった。

また陸上部にも戻るだろう。春衣の夢を叶えた後に。恩を返した後に。

 

その時は僕の夢に戻ろう。

また、思いっきり走ろう。

 

その時を楽しみに、僕は<Infinite Dendrogram>を始めた。

なんとなく面白そうという理由でアバターを色々いじったり、『空』という名前を現実に置いていき、名字から名前を決めた。

僕はこのゲームを始めた。今でも後悔はない。

人生においての遠回りを、真っ直ぐではない歪な道だけど。

 

――僕は、幸せなんだ。産んでくれて、ありがとう。父さん。母さん。




三行まとめ
1.雨降る空
2.夕焼け
3.新しい空へ

どうやら評価の必要文字数とかの設定が0になっていなかったようです。
感想も非ログインの方からも受け付けるようにしてみました。
初投稿なのでそこらへんまだ分からなかったのです。
良ければ良い設定などを教えていただけたらと思います。
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