拳突き上げた先に   作:それを言うなら

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動き出す歯車


『トリスメギストス』の謎

■【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

ベンジャミンが去り、<快癒万能霊薬(エリクシル)>飲んだ俺はデコと顔を合わせ話し合いをしていた。

「どうしよう。ベンジャミンの話」

ベンジャミンの話を聞き、色々な情報が彼によりもたらされた。

クエストの難易度は『6』。<プラン>を採取するだけとは思えない程に難易度が高めなミッションだ。

「ベンジャミンさんからの話からは?」

「嘘を言ってる感じではなかったかな。目的も言っていたのであっていると思う」

ベンジャミンさんからの話を思い出す。

 

「<プラン>って?」

聞いたことがないきのみだったため、まず情報を欲したデコがそうベンジャミンさんに質問した。

「<プラン>は……そうですね。貴重なきのみだと思ってくれれば、口にすれば<快癒万能霊薬(エリクシル)>よりも強い効果がもたらされ、体のあらゆる所がたちまち良くなるとか。実際の効果は検証できていませんが」

「あれって取るの難しいし見つからないってことで、殆どの人が諦めていなかったかしら? 『トリスメギストス』に行くのだって、苦労するし」

『トリスメギストス』は名前だけは聞いたことがあった。全く気候が予想できない山で、何日も滞在することは辞めたほうが良いと誰もが口を揃えて言う危険地帯。

「だけど<プラン>の存在は他の人達にも認知されてるじゃない? どうして欲しいの?」

「<蘇生薬>を作りたいのです」

<蘇生薬>。 <Infinite Dendrogram>では『蘇生』はとてつもなく難しい。それこそ<超級><超級職>になり、奥義か何かを使わない限り達成し得ない『偉業』。

「今はまだ、試しても一度も上手くいったことがないですが、<プラン>などの貴重な材料があれば、それが出来るのではないかと、愚考しているのですよ」

「それを作りたい理由は?」

「むしろ、作りたくないと思えない理由がない。それが理由です」

『蘇生』が達成されれば、デスペナルティの回避も、ティアンの身近な死からの解放も、あるだけで様々なアドバンテージが果たされる。

「……報酬は? 流石にそれがないと僕達も参加できないよ」

「勿論用意してます。何人で参加してもらっても構いません。<プラン>一つにつき、"一人に100万リル”用意しております」

「……」

予想に反した金額だ。いや、<プラン>の入手難易度を考えれば妥当なのか……?

チラッとカレンさんを見ると、「二人で考えなさい」という顔をしている。こういったことも交渉の一つだと言うことなのだろう。

「ああ、申し訳ない。『トリスメギストス』に行くことを考えれば準備費用も必要ですね。"50万リル”即決でここで渡しましょう」

そう言い、ベンジャミンはアイテムボックスから大きな袋を出した。大分重いお金だ。本格的な戦闘があるとするならば、『トリスメギストス』の事前情報などを集めたりするならば、これぐらいが当然なのだろうか……。

「……」

デコも冷や汗をかいている。むしろデコのほうがこの重い状況に理解がいっているだろう。デコの【内外好転 ヤヌス】はそういう<エンブリオ>だ。

「何故、<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>のクランメンバー同士でやらないのですか?」

俺はそう口にした。外部の俺達に持っていく意図がわからない。こんなにも高いお金を払ってまでやることなのだろうか。

「<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>は私がいない時にもう<プラン>について調べ終わったらしいのですよ。そして、結局『取らない』という選択をしたと聞いています」

「(取らない?)」

「詳しくは自分で調べてみろと言われました。これについては私が見ないと納得しない質だったからでしょうか。まぁ単純に何でも人に聞くなという所もあったのでしょうが。

それで自分で調べるというと、私は生産職であるためあまりこういったことに向かない。それで託すことにしたのですよ」

「僕達に? もっと有名な所に頼まないの?」

「無名な方が良い。可能性に溢れている方が、この <Infinite Dendrogram>に相応しいと思いませんか?」

ここは茶化しているような雰囲気だったが、僅かに俺の方を見ていた気がする。いや、俺の方じゃない。俺の【矛盾創造 オメテオトル】の方、にだ。

「分かりました。今日中に返事をします。だから、一旦待ってくれませんか?」

「ええ、ええ。良いですとも、私は待っております。<プラン>収穫の期限は設けませんが、早めな方が良いとだけ。おすすめさせて頂きます」

そう言い、帽子とステッキを取り出し。ベンジャミンは離れていった。

 

それから、デコと話し合い。それと『<DIN>のカレンさん』からの『トリスメギストス』と<プラン>の情報を買い、その情報を見通している。

「うわぁ。『トリスメギストス』やばい所だね。数日滞在するならTYPE:キャッスルの<エンブリオ>かマジックアイテムが必須って感じ」

「そういう所はデコがいてくれるだろう。だけど下手にメンバー誘うと食料の問題が出てくるな」

パーティの人数は決まっているが、下手に募集するよりも二人でいったほうが得策と思える。

「あ、マスター。一つ宜しいですか?」

「どうした? シラト」

「私、魔力が乗っている食べ物しか食べられませんので」

「え?」

「"絶対"、魔力が付与されているような食べ物しか食べませんので。確保をお願いしますね」

「ハ、ハイ……」

シラトの有無を言わせない笑顔に押された。そういえばTYPE:メイデンは何かしらの偏食を持っていると聞いたことがあるが、これがそうなのか……そうだったのか……。

「ま、魔力が付与されてるってバフが付く食べ物だよね。つまり」

「はい。デコさんその通りです」

バフが付く食べ物は、付かない食べ物とは一線違う。バフが小さくてもそれなりの値段が付き、大きな物ほど、更に言うなら"有名人が作った物ほど"高い。

特に料理などはSNSなどに大量にアップされており、人によってはそれを見て来るお客も多い、【Fairy】もレジェンダリアのお菓子店TOP10には入っている名店だ。

「ちなみに味とバフの良し悪しは」

「美味しいほうが、より高いものの方が好まれますね。そこはマスターの甲斐性次第です」

一応バフが小さな物でも我慢してくれる口調だが、シラトは知っている。俺がブギーマンを倒して討伐依頼として得た"20万リル"に。

そしてシラトは食べてしまっている【Fairy】の美味しいバフの乗ったケーキを。

「が、頑張る」

「はい。期待してますマスター!」

手を取っていうシラトに、何処かの面影を感じる。

「(なんだ。何処かで見たことある気がするんだけど……シラトの顔)」

 

「で、どうするの」

デコが脱線しそうになっていたのを強い声で止めてくれた。

「<プラン>の採取が出来るかわからないのと、俺達の判断で<プラン>の採取を『やめる』可能性を伝えたら俺は良いと思う」

「うーん。一応理由聞いて良い?」

「ああ、前半は説明しない。分かるよな」

「うん。これについてはやれるまでやれなんて言われたら困るぐらいだもの」

「ああ、それは第一条件だし、クエストなんだから失敗って時もあるにはあるだろうから。後半だけど何か他のクラン達も、<プラン>採取辞めてるような気がするんだ。<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>だけじゃなくて他のクランの人達も。

それは多分、ティアン関係なんじゃないかって思うんだ」

「へ? でも、『トリスメギストス』に人がいるなんて聞いたことないよ?」

「理由があって話さなかったんじゃないか? 安易に広まると、駄目な理由があるとか」

「あー、そういうこともあるか。確かに藪蛇突きたいわけじゃないもんね」

「そのティアン達が重要で、ティアンを保護する意味で秘密にしている。そのティアン達は、何か重要な役割を果たしている」

「……カレンさんから買った情報にあった<UBM>の話?」

「かも知れないの段階だけど。他の可能性もあるからそれは見てみないと分からない」

まだ『トリスメギストス』には何か隠されているかも知れない。触れるのは『やめた』というならば、それは難易度6などよりも遥かに上回る可能性がある。

「兎も角依頼は受けてみようと思う。さっき言った二つの条件さえクリアされれば、50万リルだけでメリットが有ると思うし……」

「『トリスメギストス』のこと確かめてみたいね」

「ああ、行くぞ『トリスメギストス』」

「うん。準備しないとね」

 

そうして各種準備を取り揃え、俺達はクエストに挑むことにした。

 

攻略対象クエスト難易度:六【採取――きのみ<プラン>】

行く先は、『トリスメギストス』。

目指すは――『トリスメギストス』と<プラン>の謎の答え。

クエスト、スタート。




三行まとめ
1.怪しい男ベンジャミン
2.高級なものしか食べないシラト
3.行こう!『トリスメギストス』!

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