拳突き上げた先に 作:それを言うなら
■【名探偵】カレン・レディー■
私がこのクエストを知ったのは、5日前のティアンからの依頼だった。
「お子様がいなくなった?」
「そうなの。何か知らないカレンちゃん。娘なんだけど全く帰ってこないのよ。昨日から」
マグ・メルは治安の良い街であり、しっかりとした警備隊もいる。住むのにも良い街だし、マスターも揃っているため滅多なことは早々起こらないはずなのだが。
「……他の人達に連絡を入れてみますね。警備隊には?」
「連絡を入れたのだけど、昨日ぐらいのことじゃ動いてくれなかったの。また明日帰ってこなかったらまた来てくれって。オカシイわよね!」
「街の外には出ましたか?」
<アクシデントサークル>ならば違う国まで飛ばされた可能性がある。そうなると捜索も困難な国もちらほらある。
「いいえ。それは言い聞かせているはずなのでありえないと思うのだけど。昨日も遊びに行くって言った時に、街の外に出るなって言っておきましたから」
子供ならば、それを無視して街の外に出るという可能性もある。この家の子供は悪戯っ子なはずだ。信用は出来ないが、いつも言っている言葉を無視するという線は一旦捨てて、街の捜索を私はすることにした。
すると、
「あれ?」
クエスト難易度:7【調査――アクシデントサークル】と出てきた。
この時点でおかしいな。とは思ったが、まだ何も分かっていない段階だと、私は準備を開始した。
メインジョブを【記者】から【探偵】の上級職である【名探偵】に切り替えると同時に、私は<エンブリオ>を起動する。
私の<エンブリオ>【頭概天測 ホヴズ】は私が装備している深い青色のメガネ――TYPE:アームズ・カリキュレーター。
<エンブリオ>にはタイプが幾つかあるが、私のタイプは装備するだけの至って単純なタイプだ。既に第6形態に入っており、区分として上級エンブリオに入っている。
「起動」
【頭概天測 ホヴズ】は今回のクエストにピッタリな能力を持ってくれている。
それは【人の痕跡を見つけることが出来る】という単純な能力。弱いと思われるかも知れないが、まだこれは能力の一つ。だが、今はこれで十分。
そうして痕跡をたどれば辿る程、可笑しい所に気づいた。
「空中に痕跡がある」
【頭概天測 ホヴズ】は幾つかの条件を満たせば、相手の状態がどういう形であったかも知れる。今回は親から条件を満たすためのものを提供してもらい、完璧な形で能力を起動しているのだが、ある一定の場所から、担いで持ち去られているような痕跡が見える。
「……街でそんな事が出来る存在……」
一つの可能性としてマスター。マスターならば、<エンブリオ>の能力があれば誰にも見られずに連れ去ることも可能だろう。
犯罪行為を条件とするジョブは幾つかある。それを果たそうとしての犯行というのは十分有りえる線だろう。
もう一つの可能性。それはモンスターの出現。それも<
いつの間にかこの街に入り、何かしらのスキルを使い。誘拐行為を行っている。
その場合厄介になっていくのは【<UBM>と誰が戦うか】であった。
私はあまり戦闘系のジョブを殆ど持っていない。戦えないわけではないが、それでも1対多数の戦いになれば、分が悪いことも多い。
そして、本当に<UBM>であるなら討伐のMVPに選ばれた時に得られる特典武具を狙い、マスターたちの競争になる可能性が高い。
探しているのに、その過程でPK(プレイヤー同士が戦うこと)が発生した場合、ただの足の引っ張り合いになってしまう。
「(信用出来る人材にしか頼めない。だけど、私なら問題ないか)」
少人数だが、ここに住んでいるマスターで頼りになる人材もいる。この事件を一番最初に受けたのが私でよかったとホッとした。
競争にはなるだろうが、皆で協力体制を築けるようなパーティには出来るだろう。
「(ティアンと一定の好感度がなければ、このクエスト事態発生しなかったでしょうけど)」
ティアン達の情報は<Infinite Dendrogram>にとって大切なモノだと私は考えていた。
このゲームにある神話や、それに属する伝説上のジョブ、モンスター等の情報は今に至るまで様々な面で語り継がれている。
話を聞くだけでワクワクするものだが、それ以上にゲームのヒントになっていると私は思っている。
時々、犯罪になるからティアンとは接しないとか、面倒がってティアンと接しない人達がいるが勿体無いと思うのだ。
『彼らはこのゲームについて全く分かってない』とちょっと過剰なことを思う程に。
メリット・デメリットが見えていない。表上で見えている情報はまだ一部だけなのだ。もっと、もっと深い所にこの<Infinite Dendrogram>の真相がある。
それを少しでも探り当てるのが、私の<Infinite Dendrogram>の楽しみ方。
最後にどんなエンディングを見せてくれるか。どんなイベントで私達を楽しませてくれるのか。私は、ずっと楽しんでいる。
そして、その楽しさを共有するために、新人たちにも色々な楽しさを教えていく。きっと彼らも彼らなりに、私と違う意味での<Infinite Dendrogram>の楽しさを教えてくれるはずだ。
「っと」
そうしていると”最後”の痕跡が見えた。
【頭概天測 ホヴズ】の追跡能力は現在最大。ならばこれで犯人の追跡が……
「?」
そこにあったのは、行き止まり。そう、ここで、痕跡がプッツリ途切れていた。
三行まとめ
1.ティアンからの依頼
2.名探偵!ビューティフォーカレンさん!
3.行き止まりで途切れる人生。